イタリアンでも食べルッカ

おいしい物と個性豊かな料理人達に囲まれた料理学校での日常記

ダンテに対抗木曜コース

2007-12-04 04:08:15 | 料理学院
下は11月29日(木曜)のルッカ人対象料理コースのメニュー。

Insalatina di finocchi ed arance con calamari ed alici all’agro フェンネルとオレンジ、ヤリイカ、ヒシコイワシの酸味をきかせたサラダ
Ravioli di pesce con salsa ai frutti di mare 魚介のラビオリ、海の幸のソース
Filetto di pesce con salsa di olive e pinoli 白身魚のフィレ、オリーブと松の実のソース
Muffin agli agrumi con salsa crema inglese 柑橘類のマフィン、アングレーズクリーム添え
Caffè エスプレッソコーヒー

これに、事前にメニューを見たソムリエの人が揃えてくれる白ワイン2種類とデザートワイン、もちろん水とパンもついて40ユーロは安いと思う。第一どこのレストランに行ったって、作りたてのラビオリなんか今どきそうそうお目にかかれないから、「80ユーロ出したって食べられない」とある参加者がのたまった味なのに、キャンセルする人が数名出たのは他でもない、国営放送RAI第一チャンネルで、国民的俳優・映画人のロベルト・ベニーニが論じ演ずるダンテ『神曲・地獄編第5歌』が放映された日だからである。2002年の暮れに同『天国篇』のラストを論じた時は1200万人が観たと言われており、文化番組の視聴率としては史上第一位の45%に輝いた。ちなみにこの日の視聴率は35.68%、1060万人が観たそうでやっぱりすごい。
私が「ビデオで録画するつもり」と口をすべらしたとたん、ジャンルーカ、マリエッラ、そして参加者のほぼ全員から「貸して!」「ダビングして!」と声がかかった。実は上記の天国篇放映のみぎり、その日日本にいた私はジャンルーカに「録画するんなら貸して」と頼んでおいたのだが、彼は忘れずに録画はしたものの私に持ってくるのをしょっちゅう忘れ(当時は学校がシエナにあったため、彼は単身赴任で毎週末ルッカに帰る日々であった)、ようやく思い出した頃にはビデオは別の人に貸し出されており、おまけにそやつは見た後録画を消去してしまったのだった!したがってジャンルーカに貸すのは敵に塩を送るようなもの(?ちょっと違うか)なのだが、まあ食事代と思うことにしよう。なんせ80ユーロだからね。
よく市内に行くバスで一緒になるアメリカ女性で、ここのレストランのオーナー・ジュリアーノのいとこだという人も大のテレビ好きの文学好き。先日からトルストイの『戦争と平和』がドラマ化されたといっては原作を買い、フェデリコ・デ=ロベルトの長編小説“I Vicerè”が映画化されたと言っては買っている。もちろん読んでいるところがエライと思うが、ダンテは注釈がないとわからないからと言いつつ、ベニーニの魅力に抗しきれなかったのかついに『神曲』3巻本まで買っていた。ちなみに私の方はというと、寝る前に目薬を2種類「5分間以上の間隔をおいてさすこと」と医者から命じられているため、その時間を利用してチマチマ読み進んだ結果、現在『煉獄篇』第18歌までたどり着いた。計算上は半ばを超えたが、まだ亡者たちがウロウロしている煉獄篇はまだしも、この先の『天国篇』というヤツはそれこそ形而上の世界、実質的に「光と音しか描かれない」作品だそうで、これを一応「なんとなく」でもなんでも読むのがとりあえず来年の課題である。
と思っていたら家庭料理コースの生徒さんが「もう読んでしまったので」と、吉本ばななと角田光代の本を置いて行ってくれた。実はここ6年ほどある大部の本の翻訳にかかっているのだが、その中間あたりで昭和ヒトケタの日本とその周辺が登場し、当時っぽい雰囲気の日本語を書く必要に迫られたため、この6年というもの「日本語の本は明治フタケタから昭和10年の間に書かれた口語体のものしか読まない」とみずからに制約を課していた。もっともその条件を満たす本は我が家にはほとんどないため、効果のほどは怪しいものだが。現在はほぼ訳了したのでこのほど禁を解いたところに、思いがけなく手に入る小説。こいつぁ暮から縁起がいいわい。考えてみたら吉本ばななの本って読んだことがなく、周囲のイタリア人に驚かれていたのだが、おかげで「ばななの本を読んだことのない人生」とも今年は決別できた。「少女マンガの世界」と評する人がいたのがとてもよくわかる感じの作風で、嫌いではないがやっぱり私はもちっと重厚な本が好きだ。しかし最大の読後感は「本を1日で読み終わるって、爽快だ!」であった。(なんせ比較の対象が6年かかって翻訳中の本と、ダンテと、オーディオブックで朗読を聞いてる『源氏物語』ですから)。

そういう息抜きがあったのもつかの間、コース開催中はほとんど手付かずだった翻訳の仕事が2つ残っている上、引越しのためただいま山のような本を整理中。おまけになんと今年は11月末から12月上旬にかけて4つもの短期コースが行われることになっており、しめて120人ほどの日本人がルッカに来る勘定なのである!在留邦人が10人いるかいないかといわれる町にしてみればこれは凄い数字なのだが、日本にいたってこんなにたくさんの日本人とは知り合わないよなあ。というわけで今後ブログが書かれるかどうかは予断を許さぬ状況でありますが、最善は尽くします。