イタリアンでも食べルッカ

おいしい物と個性豊かな料理人達に囲まれた料理学校での日常記

10月31日・けっこう波乱の月末

2007-11-01 16:46:09 | 料理学院
10月31日(水曜) 講師:ジュゼッペ・G先生(トスカーナ州ルッカ)

さて今回のコースにはアメリカはボストン出身のカルリーンが参加しているのだが、2か月間イタリアにいるもののイタリア語はほとんどできない。幸いなことに今回、小学生のころアメリカで3年過ごしイギリスの大学を卒業した帰国子女と、カナダで英語教師の資格を取った女性がいるのだが、さすがに先生の説明を逐一英語に訳している時間はないので、今日のように英語のダメな先生の場合は通訳が大変。助手としてついてきたアンドレイーナはアルゼンチン人なのでスペイン語はできるが、英語はやっぱりダメ。レシピも日本語だけじゃなく英語にも翻訳しなきゃダメか?と懸念されていたが、イタリア語版をメールで送ってもらえれば翻訳ソフトで英訳するから大丈夫、とのこと。唯一の外国人ながらすでに班の中でのリーダーシップをとった気がするし、アメリカ人はやっぱり逞しい。

5日目の昼食:
Tortino di carciofi e bietola アーティチョークとふだん草の前菜 この秋になってから初めてのアーティチョーク。生まれて初めて触れる人もいるようだ。オリーブオイルで炒め、ゆでたふだん草と一緒に刻み、昨日のブリゼ生地よりあっさり気味の生地でくるんでオーブン焼き。
Crostini di pane fritto con ragù di frattaglie ロランド先生の講習でもそうだけど、鶏の内臓といいトサカといい、何ひとつ捨てないのがイタリア人。今日は鶏のレバー・心臓・砂肝など、すべて牛の脾臓と炒め煮し、揚げたトスカーナパンの上に乗せてクロスティーニに。マリオ先生のクロスティーニと似ているけど、こういう風に揚げたパンに乗せるのもなかなか美味。
Cosciotti di pollo ripieni 鶏ももの詰め物、オーブン焼き(写真)
Sformatino di finocchi e patate フェンネルとじゃがいものスフォルマート(写真) スフォルマートというからには、ベシャ(←ベシャメルソースのことを日本のイタリアンのプロはこう言うそうだ)が入らなければ嘘である。ところが先生がバターと一緒にオリーブオイルをルウに加えて作り始めたので、フランス料理から入った生徒さんは目を白黒。「個人的にオリーブオイルの香りが好きなのでこうしてるだけで、イタリア中探したってこんなことするのは自分だけだよ」と言うが、考えてみればベシャメルソースはもともとイタリア生まれ。バターのかわりにオリーブオイル、ミルクのかわりにブロードを入れていたのが、酪農国フランスに伝わって変身しただけなのだから、ヘンなことでも何でもないのだ。
Torta di mele al latte リンゴを薄切りにし、他の材料を混ぜてドバッとかけるだけの素朴なケーキ。お医者さんの注射がめきめきと効き、ついに我々と一緒に昼食ができるまでに回復したヨシさんも、これなら大丈夫か。
Caffè エスプレッソコーヒー

昼食の来客、このブログ上で私と逢引(←20代の女性にしては使う日本語が古いね)しているというウワサがたった「隊長」、その研修先のオーナー夫妻。Val di Corniaという赤ワインの名産地にあるお店なので、おみやげにワインをいただく。6年前の卒業生で、関西でイタリア料理教室をしているミカさん。なんだかめまぐるしくてほとんど話ができなかった。さらに午後からは土曜日にここを旅立ったばかりの生徒さんが(研修先には今週末に入るので)北イタリア旅行から帰ってくるし、ジャコモ・プッチーニ協会の会長さんがやってくるしで千客万来。ルッカにプッチーニの銅像が建っている……いや坐像なので座っているのはひとえにこの方の努力と奔走の賜物らしいのだが、来年は生誕150年らしくいろいろ催し物が企画されているそうだ。
明日は万聖節、今日はその前夜祭ことハロウィーンなので、ほんらい明日が定休日のはずのこのレストランも臨時営業するし、イレーネは友人を家に招いて夕食会をするという。カルリーンはイタリアでもアメリカ並みに盛大にお祭り騒ぎがあるのかと思っていたらしいが、朝のラジオ報道によると、イタリアでは法律によって顔をすっぽり覆って歩き回ることは禁止されているらしい。もちろんカーニバルと並んで仮装がつきものの日であり警察の取り締まりも多少は寛容で、カボチャをかぶって往来を歩いただけで逮捕はされないそうだが、警察の巡回が厳重なので身分証明書を携帯していないと厄介なことになるそうである。

5日目の夕食:
Insalata di cavolo e sedano rapa キャベツと根セロリのサラダ グリーンサラダだとオリーブオイル・ビネガー・塩で味つけするものとほぼ相場が決まっているが、今日は珍しくマスタード風味のドレッシングで。「これなら日本でも作れそう」「いくらでも食べられちゃう」と大好評。
Pecorino ペコリーノチーズ
Cannelloni alla nizzarda ニース風カネロニ カネロニながら、手打ちパスタ生地ではなくクレープ生地で巻く比較的あっさりバージョン。「比較的」の文字は「まだお腹がすいてます」大合唱の本科ならば不要と思われるが、妙齢の女性が多いこのコースでは「これでも多い」「これでもしつこい」との声が出ているのであえて補った。クレープは別にニース名物ではないと思われる(パリにある、クレープでメインもデザートも出しているクレープ屋は確かノルマンディー人の店だったし)のに、なぜニース風なのかと毎回毎回しつこく問いただしているうちに、ついに真相が判明した。「この料理を考えた頃はフランス料理を取り入れるのがはやりだったので、なんとなくフランスの地名をつけようと思ったんだよ」。料理名ってそんなに簡単な理由で決まるのか。ところで読者の1人で、日本でも数少ない「タゼンダ」(注:サルデーニャ出身のイタリアのロック・グループ)ファン仲間でもあるINAさんから「イノシシのalla cacciatora(猟師風)とalla bracconiera(密猟者風)はどう違うのか」という質問があり、当校ではやったことがないのでいろいろな先生にメールで聞きまくっている。現在までに6人から回答を得ており、中には信憑性の高いものがあるので近日発表します。
Torta di mele al latte (お昼の残り)
Caffè エスプレッソコーヒー

土曜日から研修に入ったばかりの生徒さんから電話あり。店にいる別の日本人とそりが合わないらしい。何度同じことを言わせるんだとか、覚えが遅いとか、乱暴で無礼な口調で言われるので耐えられない、大体そんな内容である。残念ながら往々にしてある話なのだが、腑に落ちないのは相手の日本人も、卒業生ではないがまんざら知らない仲でもない青年であること。ジャンルーカがさっそくオーナーシェフに電話をするとシェフの方は寝耳に水、相手の日本人の言い分は「日本の厨房だったらこれでも手ぬるい方ですよ」。そうかもしれないが、そんな理屈で通す気ならさっさと日本の厨房に帰ってくださいと言いたい。まだまだ自分が一人前の料理人ではないと思うふしがあるからこそ、日本から勉強しに来ている人間が相手ではないか。自分が給料を出して雇っているわけではなし、母国語の通じる相手すら指導する能力がないのなら、さっさとシェフに言って、別の人間に指導役を代わってもらえばいい。とりあえず今回はジャンルーカが「彼(生徒さん)に適性があるかどうかを判断する権限は君にはない」と諭し、シェフがこの先輩日本人に意見してくれ、いちおう落ち着いた(のであることを願う)。