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内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床についての論文のまとめ

癌性悪液質に対するポンセグロマブの効果

2024-12-28 07:56:16 | 緩和医療
癌性悪液質に対するポンセグロマブの効果
N Engl J Med 2024; 391: 2291-2303

グラフィカルアブストラクト
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2409515#ap0

背景
悪液質(cachexia)は、様々ながんの患者で認められ、体重減少、筋力低下、QOL の低下、機能障害、生存率の低下につながり得る。国際的なコンセンサス基準では、この多因子性症候群を、6 ヵ月間に 5%を超える体重減少、または体格指数(body mass index: BMI;体重(kg)を身長(m)の 2 乗で割った値)が 20 未満の患者における 2%を超える体重減少、またはサルコペニアのいずれかであると定義している。欧米では悪液質に対する治療薬が承認されていないため、薬理学的選択肢は限られている。

最近のガイドラインでは、進行がん患者の食欲と体重を改善するための低用量のオランザピン (olanzapine) が支持されているが、この推奨は主に単一施設での研究に基づいている。また、プロゲステロンアナログ (progesterone analogue) やグルココルチコイド (glucocorticoid) の短期試験では、好ましくない副作用(例えば、プロゲスチン [progestin] の使用による血栓塞栓症)のリスクはあるが、いくらか利益がある可能性がある。

グレリン受容体作動薬 (ghrelin receptor aionist) であるアナモレリン (anamorelin) は、日本では悪液質の治療薬として承認されているが、この薬剤は、体組成の軽度の改善をもたらすものの握力は改善させず、最終的に米国食品医薬品局からは承認されなかった。悪液質に対する安全で効果的な標的治療が必要とされている。

成長分化因子15(growth differentiation factor 15: GDF-15)は、菱脳 (hindbrain, 小脳と脳幹を含む脳の後部) のグリア細胞由来神経栄養因子ファミリー受容体 α 様タンパク質(glial cell-derived neutrophilic factor family receptor alpha-like protein: GFRAL)に結合するストレス誘導性サイトカイン (stress-induced cytekine) である。GDF-15-GFRAL 経路は、食欲不振と体重調節の主要な調節因子であると考えられ、悪液質の病因に関与している。動物モデルにおいて、GDF-15 は悪液質の表現型を誘導し、GDF-15 の阻害はこの表現型を緩和した。さらに、GDF-15 濃度の上昇は、体重と骨格筋量の減少と関連し、さらにはがん患者における筋力の低下と生存率の低下とも関連している。そのため、GDF-15 は悪液質の治療標的になり得ると考えられている。

ポンセグロマブ(ponsegromab, PF-06946860)は、血中の GDF-15 に結合し、GFRAL 受容体との相互作用を阻害する、強力で選択性の高いヒト化モノクローナル抗体である。血中 GDF-15 濃度が上昇した 10 名の悪液質患者を対象とした小規模の非盲検第 1b 相試験において、ポンセグロマブは血清 GDF-15 濃度の抑制とともに体重、食欲、身体活動の改善と関連し、有害事象の発生頻度は低かった。我々は、GDF-15が悪液質の主な促進因子であるという仮説を検証するために、血中 GDF-15 濃度が上昇している悪液質患者において、プラセボと比較したポンセグロマブの安全性と有効性を評価する第 2 相試験を実施した。

方法
この第 2 相無作為化二重盲検 12 週間試験では、癌性悪液質で血清 GDF-15 濃度が高値(1500 pg/mL 以上)の患者を 1:1:1:1の割合で、ポンセグロマブを 100 mg, 200 mg, 400 mg の用量で投与する群と、プラセボを 4 週間ごとに 3 回皮下投与する群に割り付けた。主要エンドポイントは 12 週時点の体重のベースラインからの変化であった。主な副次的エンドポイントは、食欲と悪液質症状、身体活動のデジタル測定値、安全性であった。

結果
合計 187 人の患者が無作為化を受けた。このうち 40%が非小細胞肺がん、32%が膵がん、29%が大腸がんであった。12 週時点で、ポンセグロマブ群の患者はプラセボ群の患者よりも有意に体重増加が認められ、群間差中央値は 100 mg 群で 1.22 kg(95%信頼区間、0.37-2.25)、200 mg 群で 1.92 kg(95%信頼区間、0.92-2.97)、400 mg 群で 2.81 kg(95%信頼区間、1.55-4.08)であった。

図 1. 12 週間後の体重の変化
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2409515?logout=true#f1

ポンセグロマブ 400 mg 群では、プラセボ群と比較して、食欲、悪液質症状、身体活動性の各測定項目で改善が認められた。

表 2. 自覚症状と身体活動度の変化
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2409515?logout=true#t2

有害事象はポンセグロマブ群の 70%、プラセボ群の 80%で報告された。

表 3. 有害事象
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2409515?logout=true#t3

考察
悪液質で GDF-15 濃度が上昇している患者を対象とした第 2 相試験において、ポンセグロマブによる GDF-15 の阻害は、プラセボと比較して、12週間後に体重の有意かつ強固な増加をもたらした。さらに、ポンセグロマブ投与群では悪液質の症状が軽減し、食欲、全体的な身体活動、骨格筋量が改善した。プラセボに対する体重の差は、ポンセグロマブを 2 回投与した 8 週後に明らかになった。さらに、ポンセグロマブどの用量でも安全であり、副作用プロファイルはプラセボと同様であった。これらの結果を総合すると、悪液質の標的治療薬としてポンセグロマブは有望であると考えられる。

本試験では、3 つのがん種を対象とし、がんの種類や治療ラインを問わず、患者の登録が可能であった。体重に関するポンセグロマブのプラセボに対する有益性は、3 つのがん種すべてにおいて観察された。これらの結果は、GDF-15 が様々な悪性固形がんに共通する悪液質の促進因子であり、それによって GDF-15 が治療標的であることを初めて証明するものである。さらに、血中 GDF-15 濃度の上昇は、心不全、慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患を含むいくつかの疾患において報告されており、一貫して不利な転帰と関連している。GDF-15 阻害に関連する明確な疾患修飾という我々の発見は、この作用機序によってさまざまな病態を治療し得ることを示しており、癌性悪液質以外の疾患にも適用できる可能性がある。ポンセグロマブは現在、血中 GDF-15 濃度の上昇を伴う心不全患者を対象とした第 2 相試験で評価されている。

悪液質患者において、臨床的な改善をもたらす体重の増加はどの程度なのかは分かっていないが、最近、癌性悪液質エンドポイント作業部会によって 5%以上の体重増加によって臨床的な改善が期待できると示唆されている。われわれの試験では、400 mg のポンセグロマブ群の患者は、プラセボと比較して 12 週までに 5%超の体重増加を認めた。体重増加だけでは、多角的な悪液質の表現型に対する十分な治療目標とは考えられない。ここで、われわれは、GDF-15 に対する単一の薬理学的介入によって、体重、体組成、QOL、および身体機能をも改善し得たことを指摘したい。Functional Assessment of Anorexia Cachexia Treatment-Anorexia Cachexia Subscale: FAACT-ACS および FAACT 5-Item Anorexia Symptom Scale: FAACT-5IASS によって評価された、ポンセグロマブによる食欲の改善および悪液質の症状の軽減は、標準化された効果量に基づくと、中程度の大きさの改善であると考えられる。がん悪液質における食欲の増進は、患者の QOL を改善し、精神的ストレスを軽減する。さらに、ポンセグロマブが介在する非運動性身体活動の増加は、患者がシャワー、着替え、軽い家事などの重要な日常活動をこなせるようにすることで、臨床的に意味のある機能的改善を示す可能性がある。メカニズム的には、GDF-15 の中和は、がん性悪液質のマウスモデルにおいて筋機能と身体能力を回復させることが示されている。ポンセグロマブを介した食欲と摂食量の改善により、エネルギーが増加し、活動意欲が高まる可能性があり、GDF-15 の抑制による骨格筋の減少の抑制も一役買っていると考えられる。

最も重篤な体重減少の患者においてもポンセグロマブは体重増加と関連していた。BMI によって調整された体重減少の評価システムでは、患者をグレード 0 から 4 に分類する。グレード 4 はより難治性の悪液質を示し、生存期間が最も短い。本試験の患者の半数(50%)は BMI によって調整された体重減少がグレード 4 であったが、それにもかかわらず、これらの患者はポンセグロマブに反応してプラセボと比較して体重増加が著明であった(図 2)。これらの結果は、難治性悪液質という概念を覆すものであり、進行した悪液質の患者でもポンセグロマブが有効であることを示唆している。癌性悪液質の連続性に沿ったポンセグロマブ投与開始の適切なタイミングを決定するためには、さらなる研究が必要である。

本試験の患者集団では、有害事象の全体的な発生率は各群で同程度であり、全身性の抗癌剤治療を受けている患者で高かった (90%)。嘔気と嘔吐は、ポンセグロマブ群でプラセボ群より少なかった(嘔気 4 % v.s. 16%、嘔吐 5% v.s. 13%)。この観察は、GDF-15 阻害の前臨床所見および試験で観察された食欲改善と一致している。さらに、肥満患者を対象としたGDF-15 作動薬の第 2 相試験では、嘔気と嘔吐が最も頻繁に報告された用量関連有害事象であり、嘔気は患者の 71%に、嘔吐は 39%にみられた。本試験において、12週以前の早期投与中止率(27%)および死亡率(12%)は、がん性悪液質患者を対象とした過去の臨床試験で報告された割合を反映している。プラセボと同様の安全性プロファイルという結果からは、悪液質に使用される他の薬剤に対するポンセグロマブの利点となる可能性がある。

本試験の長所としては、対象とした患者の幅が広いことがある。一方、限界としては人種的多様性の欠如と多重性の調整がある。ポンセグロマブを介した体重増加はベースラインの GDF-15 上昇の大きさに関連していないようであったが、ポンセグロマブの有効性が GDF-15 上昇に比例するかどうかを決定的に評価するためには、より大規模な研究が必要である。加えて、デジタル機器によって収集された活動レベルおよび歩行に関するデータは、12 週目を完了したすべての患者について利用可能ではなかった。これは、12 週間の試験期間が比較的短かったことと相まって、すべてのポンセグロマブ用量レベルにわたる治療効果の検出を制限した可能性がある要因である。それにもかかわらず、400 mg のポンセグロムマブ群で観察された身体活動の改善は、データの欠落にもかかわらず勇気づけられるものであった。加えて、ベースライン時に食欲が減退したと報告した患者の割合が不均衡であったため、一部の群では食欲に関連する症状を改善する機会が制限された可能性がある。FAACT-ACS で反応があったという結果については、別の方法による追加検証が必要であろう。

ポンセグロマブを介した GDF-15 の阻害は、血中 GDF-15 濃度が上昇している癌性悪液質患者において、プラセボと比較して、悪液質の症状を軽減し、体重、食欲、全活動量、骨格筋量を増加させた。これらの所見は、GDF-15 が悪液質の主要な促進因子であるという仮説を支持し、このサイトカインを臨床試験でさらに評価すべき潜在的な治療標的として確立した。

結論
癌性悪液質で GDF-15 濃度が上昇した患者において、ポンセグロマブによる GDF-15 の阻害は、体重増加および全体的な活動レベルを増加させ、悪液質の症状を減少させるという結果をもたらし、悪液質の促進因子としての GDF-15 のはたらきを確認した。

元論文
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2409515

ベッドサイドのフレンドから健康アドバイザーのみんなへ☆: ホスピタルラジオの野望

2024-12-25 19:52:01 | ウェルビーイング
ベッドサイドのフレンドから健康アドバイザーのみんなへ☆:ホスピタルラジオの野望
BMJ 2024; 387 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.q2788

ホスピタルラジオは、病棟での交友関係から、地域社会に健康とウェルビーイングを伝える放送へと進化している、とリチャード・ハーリーは指摘する。

general practitioner: GP のビクトリア・ウィルソンは、病棟を訪問して音楽のリクエストやお手紙を受けつけた後、ホスピタルラジオ・エクセター (エクセター: イングランド南西部の都市) で毎週生放送の番組を担当している。「患者と交流するいい方法です。患者さんの中には、おしゃべりはしたいけれど、曲のリクエストはしないという人もいます。でも、彼らが会話を楽しんでくれたなら、それは同じように価値のあることなのです」。

ウィルソンはこう説明する。「患者は雑誌や本を持っていることが多いのですが、具合が悪いときには、ベッドで目を閉じて何かを聴く方が、エネルギーが少なくて済むかもしれません」。

病院放送協会は、「患者の回復を助け、すべてのリスナーに健康とウェルビーイングを促進する 」ことを目的として、英国の 170 の放送局(ほとんどが慈善団体)とウィルソンのような数千人のボランティアを支援している。

今でも多くの患者が病院のベッドサイドでラジオを聴いている。2024 年 11 月現在、英国全土で 1 日平均 1231 人、1 人 6.2 時間となっている。しかし、壊れたベッドサイド・ユニットは交換されないことが多く、病院のラジオは FM や DAB(digital audio broadcast デジタル音声放送)、オンライン、アプリやスマートスピーカーで聴けるようになってきている。患者によっては自分のデバイスを持っていなかったり、使うのに苦労したりすることもあり、ラジオ局は資金調達をして病棟にラジオを配布することもある。

多くの放送局は NHS の敷地内で運営されているが、スペースの需要が高いため、戸棚 (cupboard) の中で運営されることが多い。しかし、最近では地域にスタジオを持つ放送局も増え、医院やケアホーム、より広い一般市民に向けて放送するところもあり、健康とウェルビーイングに関する番組やメッセージも増えている。

患者を元気づけるベッドサイドに友人がいることは、ホスピタルラジオの第一の目標であると長い間言われてきた。病院放送協会のサム・スメット評議委員長は言う。「患者とボランティアとの個人的で感情的なつながりが、患者を元気づけ、その日一日を少しでも良くしてくれることを願っています」。

病棟から直接放送している局もある。オックスフォードのラジオ・チャーウェルが生放送している子供向け番組では、ボランティアがベッドサイドでゲームをしたり景品を配ったりしている。大人向けの別の生放送クイズ番組では、さまざまな病院の現場が競い合う。「マイクを持った病棟の訪問者が患者のチーム・キャプテンになります。マイクを持った病棟の訪問者が患者のチームのキャプテンになります。 かなりの戦いになることもあります」。

病院放送協会が委託した 2016 年のレビューは、来年アップデートされる予定だが、ホスピタルラジオは、娯楽、社会的交流、帰属意識を患者に提供し、患者の話や好みを聞くことを可能にすることによって、入院中の退屈、孤独、不安、見当識障害、非人格化に対抗するのに役立つかもしれないと結論づけている。入院患者の心理社会的ニーズを満たすことは、入院期間を短縮し、コストを削減することにもつながる。

パブリックヘルスについての情報
COVID-19 のパンデミック規制が開始された 2020 年、マット・ハンコック保健相は下院で次のように述べた。ホスピタルラジオは常に重要であるが、訪問者が病院に入ることができない場合は、さらに重要である。司会者やボランティアの多くは、自宅から放送するために自分で機材を購入した。チャールズ皇太子や歌手のジェームス・ブラントは、専用の番組を主催した。

放送局はまた、パブリックヘルスの情報や最新の規制を患者に広めるための準備も整えた。例えば、ラジオ・ホートンは最近、血圧キャンペーン「Know your numbers!」や、10 月の禁煙を奨励する「Stoptober」を特集した。

病院放送協会は、元 BBC レポーターのドミニク・アークライトが専門家や有名人と健康に関する話題について話す「ヘルス・トゥデイ」などの番組を加盟局に提供している。「The Word on Health」 は 21 年間、メンタルヘルス、予防接種、検診プログラム、感染症対策などのトピックについて、ひとくちサイズの知恵を提供してきた。「10 Today」は、10 分間の運動やストレッチのクラスを通じて、高齢者に活動的でいることを奨励している。また、各局は独自の健康やウェルビーイングのコンテンツを制作しており、Age UK などのトラストや慈善団体からのお知らせを放送することもある。

バンベリーの Radio Horton で毎週番組を担当しているスメットは、"いつもそこにいる there all the time "スタッフの興味を引くような番組を、放送局はますます追求するようになっていると言う。ラジオ・ホートンは、例えば、トラストの職員表彰を取り上げたことがある。

サッカー解説
英国のホスピタルラジオは、1920 年代にヨーク病院で始まったと病院放送協会は言う。最初の動機は、試合を見に行けない患者にサッカーの解説をすることだった。病院放送局は世界中に点在しているが、「非常に英国的なものです」とピネル氏は言う。病院放送協会はフランスとオランダの放送局の立ち上げを支援し、オーストラリア、ブラジル、アメリカの病院からも問い合わせがあった。

英国の放送局は、スポンサーからの資金援助と地域社会でのイベント開催によってサービスを維持している。ラジオ病棟のボランティアを経験した患者は、「何かお返しがしたい」と、回復後にボランティアになってくれることもあると彼は言う。

ヴェロニカ・ブロムヘッドは定年退職後、ラジオ・ホートンのボランティアとして、患者のラジオやヘッドホンのセットアップを手伝ったり、リクエストを受けたりしている。15 歳のとき、彼女は盲腸破裂で入院していた。「本当に具合が悪かったんです。私のようなラジオ・ボランティアが、レコードをかけてほしいかどうか尋ねてきたんです」。ブロムヘッドは、ベイ・シティ・ローラーズの I only want to be with you を流してほしいと頼んだ。「彼らはそれをかけてくれたんです。それは私をこの上なく勇気づけてくれました。」彼女は自分がボランティアになるチャンスに飛びついた。「自分の気持ちを思い出したの。入院中は昼も夜も長い。眠れなくても、私たちの放送局は 24 時間ついています」。「ラジオは患者さんやスタッフに元気を与えてくれます。たった一人でも、その日一日が楽しくなるのなら、私は自分の仕事をしたことになるのです」。

サイモン・ティドマーシュはコベントリー・ホスピタル・ラジオの司会者である。ホスピタルラジオが人気なのは、超地域密着型だからだと彼は言う。彼は、ラジオ業界に入るきっかけとして、2011 年にボランティアを始めた。ジェレミー・ヴァイン、フィリッパ・フォレスター、ジャッキー・オートリーなどのプレゼンターがこの道を歩んできた。BBC のニュース・時事問題の司会者であるアンドリュー・ピーチは、キャリアの初期にバーミンガムの BHBN 病院ラジオでボランティアをしたことで、「ラジオについて最も重要なことを教わった 」と言う。

健康とウェルビーイングの促進
スマートフォンや音楽ストリーミングサービスが普及し、ここ数十年で放送局数が減少しているにもかかわらず、ホスピタルラジオはその価値を再認識している。患者やスタッフにとってのホスピタルラジオの価値を認識していないトラストもあり、放送局が閉鎖されることは「本当に悲しく、つらいことです」とスメットは言う。

「ラジオ放送が始まったときと同じように、今日もラジオは重要なのです」とピネルは言う。「健康とウェルビーイングを促進する、より広範なサービスへと変貌しつつあります」。スメットは、「健康とウェルビーイングのコンテンツを共有し、精神的あるいは肉体的な健康増進に役立つ地域社会の活動に対する認識を高めることで、NHS の負担を減らすことができる」と考えている。

病棟を越えて一般に放送することで、ホスピタルラジオは、地域ケアや virtual ward (NHS が提供する在宅医療) にいる患者や、最近退院した入院患者など、つながりや健康に焦点を当てたメッセージから恩恵を受けられる患者を増やすことができる、と病院放送協会のレビューは結論づけた。

virtual ward
https://www.england.nhs.uk/virtual-wards/

ウィルソン医師は、リスナーにもっと多くの臨床情報を提供したいと考えている。「ただ、それをうまく取り入れられるかどうかが問題です」。病院ラジオとボランティア活動に関連して、彼女は言う。「患者にとって本当に良いサービスです。本当にやりがいのあることです」。

特定健診は糖尿病と高血圧症の一次予防に有効か

2024-12-25 11:32:46 | 公衆衛生
特定健診は糖尿病と高血圧症の一次予防に有効か
JAMA Netw Open 2024; 7: e2451813

問い
日本の健康診査 (universal health checkup) は、糖尿病や高血圧症を含む肥満関連疾患の一次予防と関連しているだろうか?

結果
293,174 人を対象とした target trial emulation (観察研究でランダム化比較試験のような効果推定ができるようにデザインされた研究手法) の枠組みを用いたコホート研究において、糖尿病または高血圧の複合エンドポイントのリスクは、健康診査の受診者において 9.8%低かった。一連の感度分析により、所見の頑健性が支持された。

target trial emulation
https://www.krsk-phs.com/entry/target.trial.talk

意義
この研究は、健康診査が糖尿病および高血圧の発症リスクの低下と関連することを示唆しているが、この制度の費用対効果や日本国外の環境への移植可能性については、まだ解明されていない。

背景
肥満は 2 型糖尿病と高血圧の発症に関連する重要な因子である。現在、いくつかの国では、エビデンスに基づく肥満と関連疾患の予防戦略が「行動計画 (action plan)」として実施されているが、糖尿病と高血圧の一次予防を個別に行う戦略はほとんど提供されていない。

肥満に関連する非感染性疾患の医療費増加に対応するため、日本では 2008 年に国民皆保険制度である特定健診(specific health checkup)が開始された。特定健診の主な目的は、二次予防や未診断者の糖尿病や高血圧の早期発見というよりも、肥満に基づく糖尿病や高血圧の発症リスクが高い人を特定し、現在、薬物治療(糖尿病や高血圧の治療薬など)を受けていない場合は、生活習慣のカウンセリングに参加してもらうことである。日本に住む 40 歳から 74 歳のすべての国民は、サービス料なしで年 1 回の健康診断を受ける資格がある。特定健診プログラムへの参加は政府によって推奨されているが、このプログラムを利用しているのは対象者の約 50%に過ぎない。特定健診は公衆衛生政策として 15 年間実施されているが、一次予防プログラムとしての有効性は体系的に評価されていない。無作為化臨床試験(randomized control trial: RCT)は、この未解決の問題に取り組むための理想的な解決策であるが、そのような試験は、継続的な全国規模の医療プログラムでは現実的ではない。

target trial emulation は、非無作為化試験において、観察データを RCT と同様の方法で解析するための概念的枠組みである。target trial emulation の枠組みを活用することで、我々は、日本人人口の約 10%をカバーする縦断的医療データベースを用いて、特定健診プログラムと 2 型糖尿病および高血圧の発症との予防的関連を評価することを目的とした。

デザイン、設定、参加者
本研究は後ろ向きコホート研究であり、日本における健診履歴と受診記録の両方を含む縦断的医療データベースのデータを用いた。40-74 歳で、糖尿病または高血圧がなく、検診歴のない個人が対象となった。2008 年 4 月 1 日から 2020 年 3 月 31 日まで繰り返し適格性を評価し、特定健診参加者 78,620 人、非参加者 214,554 人の連続コホートを作成した。統計解析は 6 月 8 日から 2023 年 12 月 30 日まで行われた。

主要アウトカムと測定法
最大 10 年間の 2 型糖尿病または高血圧の発症複合リスクで、新たに記録された診断と関連する薬剤の使用の組み合わせとして定義した。ベースライン変数を調整するために傾向スコア加重生存解析 (propensity score-weighted survival analysis) を実施した。うつ病をベンチマークとして一連の感度分析と負の転帰対照分析 (negative outcome control analysis) を行った。

結果
連続コホートは、特定健診参加者 78,620 人(年齢中央値、46 歳[四分位数範囲 interquartile range: IQR, 41-53歳]、女性 62.7%)および非参加者214,554 人(年齢中央値、49歳[IQR, 44-55 歳]、女性 82.0%)からなり、153,084人がそれぞれ平均(標準偏差 standard deviation: SD)1.9(1.5)回研究コホートに入った。追跡期間中央値 4.2 年(IQR, 2.7-6.3年)以内に、主要エンドポイントは全個体の 11.2%(特定健診参加者の 10.6%、非参加者の 11.4%)に発生し、特定健診受療者ではハザード比(hazard ratio: HR)が低かった(HR, 0.90;95%CI, 0.89-0.92);10年後の累積発生率の差は-1.6%(95%CI, -1.8%~-1.3%)であった。

図 2. 調整前の無病生存期間確率
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2828308?utm_source=twitter&utm_medium=social_jamajno&utm_term=15562380864&utm_campaign=article_alert&linkId=693184217#zoi241442f2

感度分析でも同様の結果が示された。ネガティブコントロール解析では、交絡の残存の可能性が示唆された(HR, 1.05;95%CI, 1.02-1.07)。バイアス校正された HR は、主要アウトカムについて 0.86(95%CI, 0.84-0.89)であった。

図 3. 逆確率重み付けで調整後の無病生存期間確率

考察
我々は、大規模縦断的医療データベースを用いて、日本における特定健診プログラムの予防関連性を調査するため、後ろ向きコホート研究を実施した。このエミュレーション研究により、特定健診参加者は追跡期間中央値 4.2 年以内に糖尿病および高血圧の発症リスクを 9.8%低下させることが示された。ネガティブコントロール解析は交絡の残存を示唆したが、この潜在的バイアスは、バイアス較正された HR と E 値によって示されたように、特定健診の有益な関連を否定するものではなさそうであった。

われわれの知見は、一般的な健康診断が有益であるとは考えにくいと結論づけた、過去の RCT やそれらの RCT の 1 つのメタアナリシスの結果にやや反しているように思われる。この相違の理由のひとつは、アウトカムの定義や研究集団の相違によるものかもしれない。例えば、2 型糖尿病の発症は、先行研究では危険因子とみなされていたのに対し、我々の研究ではアウトカムとして注目されていた。全体として、我々の研究集団は、参加者の 60%が高リスクと分類された先行 RCT の知見とは対照的に、若く、ベースライン時に糖尿病や高血圧を有していなかったため、将来の 2 型糖尿病や高血圧のリスクは低かった。したがって、われわれの知見は必ずしも先行研究の知見と異なるものではなく、むしろわれわれの研究は、2 型糖尿病および高血圧の一次予防のための全国的な普遍的検診プログラムの有効性に関する新しい知見をもたらした。

本研究の結果は、世界的な 2 型糖尿病と高血圧の罹患率の増加を防ぐために有望である。肥満や関連疾患のリスクが不釣り合いに高い社会経済的格差のある人々も、この普遍的なプログラムを利用することができる。しかし、費用に関する懸念は残るかもしれない。税金と保険料を財源とする日本の特定健診プログラムの年間費用は、1 億 1,000 万ドル近くと推定されている。プログラムの有効性に関する客観的データが不足していることもあり、費用対効果分析はまだ正式に実施されていない。費用対効果は本研究の範囲外であったが、本研究は、将来の費用対効果分析の基礎となる定量的データを提供するものである。

また、本研究で得られた知見を日本国外の環境に適用できるかどうかも不明である。例えば、肥満中心の検診プログラムの有効性は、各国の肥満の有病率によって異なる可能性があり、日本では過体重および肥満の有病率は比較的低い。肥満の有病率と本研究で推定された効果の大きさとの関連性の方向性は、残念ながら予測できない。

限界
この研究にはいくつかの限界がある。

第 1 に、残留交絡に伴うバイアスの影響を受けやすい。すなわち、健康的なライフスタイルに対する嗜好、医療を求める行動、あるいは BMI は、特定健診の参加者と非参加者とで異なる可能性があり、それが特定健診プログラムの関連性の推定を混乱させる可能性がある。この問題に対処するため、特定健診群と非特定健診群におけるベースラインの不均衡を最小化するために数百の共変量を用いた。その結果、未調整の解析では早期発見バイアスの徴候が現れたが(図 2)、逆確率重み付け (inverse probablity weighting: IPW) で調整した後は観察されなくなった(図 3)。また、陰性対照分析も行い、E 値を計算した結果、バイアスだけでは特定健診プログラムの有益な関連を説明できないことが支持された。

第 2 に、ルックバック期間(最低 365 日)を超えて特定健診の記録にアクセスできなかったため、特定健診参加者が非参加者に分類された可能性がある。

第 3 に、特定健診を繰り返し受けることで、予防的関連性が高まり、予防的関連性の持続期間が延長する可能性があるが、このような用量反応関係は、試験エミュレーションの枠組みではそのような分析が定式化されていないため、検討されていない。感度分析の 1 つでは、特定健診の受診者が 1 人増えるごとに HR が 0.94 となり、複合転帰のリスクが低下することが示唆されたが、これらの知見は説明的なものとみなすべきである。

第 4 に、特定健診プログラムの有益性の背後にあるメカニズムは、検診とバンドルされたガイダンスプログラムに誰が進んだかに関するデータがないため、部分的に不明であった。ある先行研究では、ガイダンスプログラムによる介入は効率的ではなく、全体的にガイダンスプログラムへの出席率は低かったと報告されている。そのため、指導プログラムだけでは特定健診との関連性の要因にはなりにくいと考えられる。

第 5 に、標的試験エミュレーションの結果は、たとえ注意深く計画され実施されたとしても、残留バイアスやランダムエラーなどの要因により、RCT から得られた知見と必ずしも一致しないことである。

結論
RCT を模倣した我々のコホート研究では、中央値 4.2 年の追跡期間中に、特定健診参加者は糖尿病および高血圧の発症リスクを 9.8%、10 年後の累積発症率を 1.56%低下させることが示された。費用対効果や日本以外の環境への移植可能性は不明であるため、今後の研究が必要であろう。

元論文
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2828308?utm_source=twitter&utm_medium=social_jamajno&utm_term=15562380864&utm_campaign=article_alert&linkId=693184217

高齢者の大腸がん検診をいつまで続けるか

2024-12-20 08:45:38 | 消化器
高齢者の大腸がん検診はいつまで続けるべきか
JAMA Netw Open 2024; 7: e2447806

米国の診療ガイドライン作成機関は、高齢者は 75歳 まで大腸がん(colorectal cancer) 検診を継続することを一様に推奨している。しかし、プライマリ・ケアにおけるこれらのガイドラインの実施には、大腸がん検診の中止または継続に関する患者の希望を引き出すなどの課題がある。

Brotzman らは、75 歳で大腸がん検診を中止するよう勧告された場合に患者がどのような反応を示すかというこの疑問に答えるため、全国を代表する高齢者調査のデータを用いた。彼らは、米国の 50 歳以上の成人を対象とした 2 年ごとの縦断的コホート研究である Health and Retirement Study のデータを用いた。
参加者は次のような質問を受けた。「ガイドラインでは、患者は75歳になったら大腸がん検診を受けるのをやめるよう推奨されている。これは、75 歳以上の多くの健康な患者にとって、検査の害が新たな癌を発見する利益よりも大きい可能性があるためである。この推奨は個人的にどの程度受け入れられますか?」

回答者の 40%近くが、このガイドラインはやや受け入れがたい、あるいは非常に受け入れがたいと答えており、回答者は余命が長い(10 年以上)か短い(10 年未満)かにかかわらず、同様の反応であった。

この報告は、大腸がん検診の中止勧告を患者がどのように受け止めるかについての理解を深めるものである。Brotzman らは、患者の推定余命にかかわらず、かなりの患者が 75 歳で定期検診を中止するという推奨に同意しないという強力な証拠を示している。

患者が反対する理由はいくつか考えられる。多くの高齢者は大腸がんの一次検診ではなく、大腸ポリープの既往歴があることからサーベイランスの目的で大腸内視鏡検査を受けている。従って、これまで定期的なサーベイランスの大腸内視鏡検査を受けてきた患者に、検査を中止してもよいと告げることは、患者にとって予期せぬことであり、気になることであろう。

大腸ポリープの既往歴から、大腸がんの発症リスクはどの程度あるのか、大腸内視鏡検査を受ければリスクはどの程度低下するのか、患者は当然疑問に思うであろうが、臨床医はそのような疑問に答えることができないかもしれない。患者はまた、自分が高齢であるために検査を受けられないのではないかと心配するかもしれない。

腺腫から癌になるまでの期間、有益性を得るまでのタイムラグ、大腸内視鏡検査に関連する有害事象のリスクなどの概念は直感的なものではなく、患者はリスクコミュニケーションにまつわる表現に振り回される可能性がある。「75歳以降の検診で新たながんが見つかる可能性は低い 」ではなく、「75歳以降の検診は長生きするのに役立つ可能性は低い 」と書かれていれば、回答者の中には異なる回答をした人もいたのではないかと推測される。

一般的に使用されている米国予防サービス作業部会 (the US Prevetive Services Task Force: USPSTF)、大腸癌に関する米国合同学会作業部会 (US Multi-Society Task Force on Colorectal Cancer)、米国癌学会 (American Cancer Society) によるガイドラインは、著者らが引用した米国内科学会 (American Collage of Physician) のガイドラインとは若干異なる高齢者検診へのアプローチを示唆していることに注意することが重要である。これらのガイドラインでは、「臨床医は平均的なリスクの 75 歳以上の高齢者と余命が 10年に満たないものに対して大腸がんのスクリーニングを中止することを勧めるべきである。これらのものは臨床医から説明を受けたうえで 76-85 歳でも大腸がんのスクリーニングを継続するかどうかを個別に話し合うことを推奨する。85 歳以上では大腸がんのスクリーニングはしない。」と平明に書かれている。

検診について患者と医師が話し合う際には、患者の全体的な健康状態や余命、検診歴、ポリープ歴、嗜好などを考慮すべきである。Brotzman らの論文に引用されている American College of Physicians のガイドラインは、75 歳以降の平均的リスクの成人に対して検診を中止することを推奨している点でユニークであり、がん死亡リスクが低すぎて検診を正当化できない場合について異なる視点を示している。したがって、高齢者の 40%近くが検診中止の推奨に同意しないという Brotzman らの報告は、臨床医を落胆させるものでも驚くべきものでもない。むしろ、この結果は、検診の選択肢を検討する機会が与えられた場合に、患者がどのような懸念を示すかを現実的に示している。臨床医は、多くの患者が検診の中止について不安を抱くことを予想できる。両者の懸念について理解を深め、大腸がん検診をいつまで続けるかを共に考えるためには、意思決定の共有による対話を行うことが最も重要である。

興味深いことに、年齢と平均余命に基づくがん検診のカットオフについて、医師は患者と同様の見解を持っている可能性がある。プライマリ・ケア医および婦人科医を対象に、がん検診の電子カルテ(electric health record: EHR)リマインダーを停止する時期について調査した簡単な報告では、52.4%が 75 歳以下で停止することを選択し、42.0%が 75 歳から 85 歳の間の閾値を選択し、5.6%が 85 歳でもリマインダーを停止しないと回答した。また、医師はリマインダーの停止に平均余命のしきい値を参考にするかどうかについても調査された。その結果、32.0%は 10 年以上、53.1%は 5 年から9 年の間のしきい値を選択し、14.9%は平均余命が 5 年未満でも EHR リマインダーを停止しないと回答した。これらのデータの一つの解釈として、医師は、おそらく患者と同様に、年齢や余命によって決定される包括的なカットオフに依存するのではなく、がん検診について話し合う機会を維持したいと考えている。別の調査では、相当数の医師(24.7%)が、がん検診を中止する基準として余命を用いることに消極的であった。

患者の希望と臨床医の推奨を一致させるための最適な戦略は、リスクコミュニケーションと希望の引き出しに関する臨床医のトレーニングを強化することであろう。私たちの 1 人が以前に行った研究では、プライマリケア医が高齢者と大腸がん検診について会話するためのトレーニングを受けたところ、患者は診察においてより多くの意思決定が共有され、大腸がん検診のさまざまな選択肢について医師と話し合う可能性が高まったと報告している。このような種類の介入を開発する際には、提案された介入について患者の視点がどのようなものであるかを把握しておくことが重要である。Brotzman らは、余命の短い患者ほど大腸がん検診の中止を選択しやすいという考え方に異論を唱え、大腸がん検診を何歳で中止するかという決定に直面した場合、多くの患者が戦略的で個別化されたガイダンスを必要とすることを示唆することで、大腸がん検診に関する高齢者の視点に関する文献を追加した。

https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2827337

オリーブオイルの摂取量が多い人は認知症関連死が少ない。

2024-12-18 19:56:58 | 神経
オリーブオイルの摂取量と認知症関連死との関係
JAMA Netw Open 2024; 7: e2410021

背景
高齢者の 3 分の 1 がアルツハイマー病 (Alzheimer disease) やその他の認知症で死亡している。脳卒中や心臓病などの疾患による死亡は過去 20 年間で減少しているが、年齢標準化した認知症死亡率は増加傾向にある。地中海食 (mediterranean diet) は、特に心血管アウトカムに対する多面的な健康効果が認められているため、人気が高まっている。地中海食の一部として、オリーブ油は一価不飽和脂肪酸 (monounsaturated fatty acid) やビタミン E (vitamin E)、ポリフェノール (polyphenol) などの抗酸化作用を持つ化合物を多く含むため、抗炎症作用や神経保護作用を発揮する可能性がある。Prevencion con Dieta Mediterranea(PREDIMED)ランダム化試験の一環として実施されたサブスタディでは、低脂肪の対照食と比較して、地中海食と 6.5 年間にわたる高用量のオリーブ油摂取が認知機能低下を予防するというエビデンスが示された。

オリーブオイルの摂取と認知機能に関する先行研究のほとんどが地中海沿岸諸国で実施されたものであることから、オリーブオイルの摂取量が一般的に少ない米国で研究することは、ユニークな知見を提供する可能性がある。最近、我々は、米国の大規模前向きコホート研究において、オリーブオイルの摂取が総死亡リスクおよび原因別死亡リスクの低下と関連していることを示したが、オリーブオイルを 7 g/日以上摂取している参加者では、ほとんど摂取していない参加者に比べて神経変性疾患死亡リスクが 29%(95%信頼区間 [confidence interval: CI], 22%-36%)低かった。

本研究では、米国の女性および男性を対象とした 2 つの大規模前向き研究において、オリーブオイルの総摂取量とその後の認知症関連死亡リスクとの関連を検討した。さらに、食事の質(地中海食の遵守とAlternative Healthy Eating Index [AHEI] スコア)とオリーブオイル摂取の認知症関連死亡リスクとの関連を評価した。また、他の食事脂肪を同量のオリーブ油で代用した場合の認知症関連死亡リスクの差も推定した。

デザイン、設定、参加者:
この前向きコホート研究では、Nurses' Health Study(NHS;1990-2018 年)と Health Professionals Follow-Up Study(HPFS;1990-2018 年)のデータを検討した。対象は NHS の女性および HPFS の男性で、ベースライン時に心血管疾患およびがんを発症していない者であった。データは 2022 年 5 月から 2023 年 7 月まで解析された。

曝露:
オリーブ油摂取量は、食物摂取頻度調査票を用いて 4 年ごとに評価し、(1)摂取なしまたは月 1 回以下、(2)0 g/日超~4.5 g/日以下、(3)4.5 g/日超~7 g/日以下、(4)7 g/日超に分類した。食事の質は Alternative Healthy Eating Index と Mediterranean Diet のスコアに基づいて評価した。

主要アウトカムと測定:
認知症死亡は死亡記録から確認した。多変量 Cox 比例ハザード回帰を用いて、遺伝的因子、社会人口学的因子、ライフスタイル因子などの交絡因子で調整したハザード比(hazard ratio: HR)と95%CI を推定した。

結果
92,383 人の参加者のうち 60582 人(65.6%)が女性で、平均(標準偏差)年齢は 56.4(8.0)歳であった。28 年間の追跡期間中(2,183,095 人·年)、4751 人の認知症関連死が発生した。

表 1. 参加者の背景
https://jamanetwork.com/downloadimage.aspx?image=https://cdn.jamanetwork.com/ama/content_public/journal/jamanetworkopen/939364/zoi240363t1_1718974346.47492.png?Expires=1737087407&Signature=1mpvjaUpXvFbDphDAy2V-ZITA8hPXJgmB1E7qDHltyMolngCpacnk~Rx9c2VuVLpIUH-Pd58bKmD1xj7DFNzuZXkF3ojiND4O1WTk3GXg26kP5zVIT-L4rf33KdRMtLdoxr1g-60I2XZ5pvDilf8exTz1KWrQtxEGK2~OoEpIiqOmst9-2cflwVmvT2e2k0WlKTUpzUwdPu4n0V6inVxKVtOKGQ3xYZqi4X4jnS4TM4p1Er8tBXl-Ny9swOjYbZ6qh1NL3BaURTqWBl5JTuA8ld42Crgnbh66uMtRseI74umi27sFd7q6JfStG8za3GOfoLapizDPwqkgBHYsZStpw__&Key-Pair-Id=APKAIE5G5CRDK6RD3PGA&sec=249764916&ar=2818362&imagename=&siteId=214

アポリポ蛋白 ε4(apolipoprotein ε4: APOE ε4)対立遺伝子がホモ接合体である人は、認知症で死亡する可能性が 5-9 倍高かった。

補遺 1. アポリポ蛋白 ε4 対立遺伝子の保有の認知症関連死亡についてのオッズ比
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2818362#note-ZOI240363-1

オリーブ油を 1 日 7 g 以上摂取することは、全く摂取しない、あるいはほとんど摂取しない場合と比較して、認知症関連死のリスクを 28%低下させることと関連していた(調整プール HR, 0.72[95%CI, 0.64-0.81])(傾向の P <0.001)。

表 2. オリーブオイルの摂取量のカテゴリー別の認知症関連死亡のリスク
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2818362#zoi240363t2

この結果は、APOE ε4 でさらに調整しても一貫していた (補遺 1)。

食事の質スコアによる交互作用は認められなかった。

図 1. 食事の質スコア別のオリーブオイル摂取量と認知症関連死亡リスクとの関連
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2818362#zoi240363f1

モデル化された代替分析では、マーガリンおよびマヨネーズ 5 g/日を同量のオリーブ油に置き換えると、認知症死亡リスクが 8%(95%CI, 4-12%)から 14%(95%CI, 7-20%)低下した。他の植物油やバターへの置き換えは有意ではなかった。

図 2. 他の脂質をオリーブオイルに置き換えた場合の認知症関連死亡リスクの変化
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2818362#zoi240363f2

議論
本研究では、米国の女性および男性を対象とした 2 つの大規模前向き研究において、オリーブオイルの総摂取量とその後の認知症関連死亡リスクとの関連を検討した。さらに、食事の質(地中海食の遵守と Alternative Healthy Eating Index [AHEI] スコア)とオリーブオイル摂取の認知症関連死亡リスクとの関連を評価した。また、他の食事脂肪を同量のオリーブ油で代用した場合の認知症関連死亡リスクの差も推定した。

NHS と HPFS では、オリーブオイルの摂取量が多いほど、認知症死亡を含む神経変性疾患死亡のリスクが低いことが観察された(HR, 0.81 [95% CI, 0.78-0.84])。認知機能低下や認知症発症に関するエビデンスは、認知症死亡に関するものよりも蓄積されている。フランスの 3 都市研究(n = 6947)では、オリーブオイル摂取量が最も多い参加者は、視覚的記憶に関する 4 年間の認知機能低下を経験する可能性が 17%(95%CI, 1%-29%)低かったが、言語的流暢性については関連は認められなかった(オッズ比 [odds ratio: OR], 0.85 [95%CI, 0.70-1.03])。

さらに、オリーブ油の摂取量が多い人(中程度または多い人 v.s. 全く摂取しない人)は、言語流暢性と視覚記憶認知障害のリスクが低かった。性差については調査されていない。地中海風の食事にエクストラバージンオリーブオイル(1 L/週/世帯)またはナッツ(30 g/日)を補充した PREDIMED 試験では、著者らは、285 人と 522 人の (?) 認知的に健康な参加者を対象に、全体的および詳細な神経心理学的バッテリテストを用いて認知への影響と状態を調査した。この研究は、もともと認知機能のアウトカムのためにデザインされたものではなく、オリーブオイルの効果を分離することはできないが、6 年半後、オリーブオイル群は、低脂肪食(対照)と比較して、言葉の流暢さと記憶テストにおいて認知機能の改善を示し、軽度認知障害を発症しにくかった(OR, 0. 34[95%CI, 0.12-0.97];n = 285)。認知機能の全体的な能力は、試験後の対照群(n = 522)と比較して、オリーブオイル群とナッツ群の両方で高かった。これらの研究は、米国の集団と比較して一般的にオリーブオイルの摂取量が多いヨーロッパで実施された。

観察研究やいくつかの臨床試験では、地中海式、DASH、MIND、AHEI などの食事が、より健康的な脳構造、認知障害やアルツハイマー病リスクの減少、認知機能の改善につながることが一貫して認められている。我々の研究では、食事の質に関係なく、オリーブオイルの摂取量が最も多い人(7 g/日以上)は、摂取量が少ない人(全く摂取しないか、月に 1 回以下)に比べて、認知症に関連した死亡リスクが最も低かった。このことは、オリーブオイルが特異的な役割を果たす可能性があることを示している。しかし、AHEI スコアが高く、オリーブオイルの摂取量が多いグループは、認知症死亡リスクが最も低かった(HR, 0.68 [95% CI, 0.58-0.79];AHEI スコアが低く、オリーブオイルの摂取量が少ないグループとの比較)ことから、食事の質の向上とオリーブオイルの摂取量の増加を組み合わせることで、より高い効果が得られる可能性が示唆された。

オリーブオイルの摂取は、血管の健康状態を改善することで、認知症死亡率を低下させる可能性がある。いくつかの臨床試験では、内皮機能、凝固、脂質代謝、酸化ストレス、血小板凝集、炎症の減少の改善を通じて、CVD を減少させるオリーブオイルの効果が支持されている。動物実験およびヒトでの研究から、オリーブ油、特にエクストラバージンオリーブ油に含まれるフェノール化合物が、炎症、酸化ストレスを抑制し、血液脳関門機能を回復させることで、脳のアミロイド β やタウに関連した病態を減少させ、認知機能を改善する可能性があることが示されている。しかし、我々の研究では、CVD、高コレステロール血症、高血圧、糖尿病は、オリーブオイル摂取と認知症関連死との関連性の有意な媒介因子ではなかった。

この関連は男女ともに有意であったが、モデルを完全に調整した後では男性には残らなかった。いくつかの先行研究では、認知に関連した性差が報告されている。また、認知機能低下を予防するための生活習慣介入に対する性差かつ/または性差に特異的な反応が、おそらく脳の構造、ホルモン(性)および社会的要因(性)の違いによって示された。それにもかかわらず、オリーブオイルの摂取が致死的な認知症リスクに及ぼすコホート間の有意な異質性や相互作用は観察されなかった。今後、オリーブオイルの認知関連転帰に対する関連や効果を検討する研究では、性差や性差を注意深く考慮し、理解を深める必要がある。

我々は、バターや他の植物油ではなく、マーガリンやマヨネーズの代わりにオリーブ油を使用することが、認知症に関連した死亡リスクの低下と関連していることを発見した。研究当時、マーガリンとマヨネーズにはかなりのレベルの水素添加トランス脂肪酸が含まれていた。トランス脂肪酸は、全死因死亡率、CVD、2型糖尿病、認知症と強い関連がある。米国食品医薬品局は、2020 年に部分水素添加油を食品に添加することを禁止した。トランス脂肪酸を含まないマーガリンの摂取量を調べる今後の研究は有益であろう。バターをオリーブ油に置き換えることは、2 型糖尿病、CVD、総死亡のリスク低下と関連することがわかっていた。本研究では、バターと認知症死亡リスクとの関連は認められなかった。先行研究では、バター自体の関連性は検討されていないが、チーズ、ヨーグルト、牛乳などの普通脂肪乳製品の摂取は、認知機能の低下、認知機能の低下、認知症とは関連しないか、逆相関することが報告されている。

われわれのコホート解析にはいくつかの長所がある。すなわち、追跡期間が長いこと、認知症死亡症例の数が多くサンプルサイズが大きいことである。また、APOEε4 対立遺伝子のジェノタイピングを参加者の大規模なサブサンプルで行い、このよく知られたアルツハイマー病の危険因子に起因する交絡の可能性を減少させた。さらに、食事、体重、生活習慣を繰り返し測定することで、長期的なオリーブオイル摂取と交絡因子を考慮することができた。さらに、cumulative average diet (ベースラインとその後の複数の時点における食事摂取量の平均のこと。複数回食事摂取量を調査する研究で用いられることが多い) を更新することにより、摂取量の個人内変動を考慮し、ランダムな測定誤差を減少させた。

限界
この研究には限界がある。本研究は観察研究であるため、逆因果の可能性は排除できない。しかし、交差的時間差相関分析の結果は、主要解析と一致しており、オリーブオイル摂取はもともと発症していた認知症の結果ではなく、認知症死亡の予測因子であることを示唆している。オリーブオイルの摂取量が多いほど、より健康的な食事をしていることやが社会経済的背景が高いことを示すというのはもっともなことであるが、後者を考慮しても結果は一貫していた。主要な共変量で調整したにもかかわらず、未測定の因子による交絡が残っている可能性がある。また、本研究は医療従事者を対象に行われた。このことは、社会経済的要因による交絡の可能性を最小化し、高い教育水準による報告を増加させると考えられるが、一般化可能性を制限する可能性もある。われわれの集団は非ヒスパニック系白人の参加者が多く、より多様な集団への一般化可能性を制限している。さらに、ポリフェノールやその他の非脂質生物活性化合物の含有量が異なる様々な種類のオリーブオイルを区別することができなかった。

結論
本研究により、米国の成人、特に女性において、食事の質にかかわらず、オリーブ油を多く摂取することが認知症関連死亡リスクの低下と関連することが明らかになった。マーガリンやマヨネーズの代わりにオリーブ油を摂取することは、認知症死亡リスクの低下と関連しており、認知症にならずに寿命を延ばせる可能性がある。これらの知見は、オリーブ油やその他の植物油を選択することを推奨する現在の食生活を、認知症に関連する死亡率の文脈にまで拡大するものである。

元論文
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2818362