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内分泌代謝内科 備忘録

KDIGO CKD-MBD ガイドライン 2017 の改訂点

慢性腎臓病にともなう骨ミネラル代謝異常 (chronic kidney disease-mireral and bone disorder: CKD-MBD) についての総説
Kidney Int 2017; 92: 26-36

KDIGO 2017 は 慢性腎臓病にともなう骨ミネラル代謝異常 (CKD-mineral and bone disorder: CKD-MBD) の診断、評価、治療、予防について 2009年の CKD-MBD のガイドラインを更新した。この更新と 2009年のガイドラインは透析または腎移植を行っている慢性腎臓病患者の成人および小児の診療にあたっている臨床医をサポートすることを目的としている。

更新された領域としては、CKD-MBD における骨異常の診断、リン濃度の低下とカルシウム濃度の維持による CKD-MBD の治療、CKD-MBD における副甲状腺ホルモン異常の治療、骨吸収抑制薬 (antiresorptive) や他の骨粗鬆症治療薬を用いた骨異常の治療、腎移植後の骨異常 (Kidney transplant bone disease) の評価と治療がある。

背景

2009年に Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) は CKD-MBD の診断、評価、治療、予防についての臨床ガイドラインを発表した。この時点では、作業部会は推奨の基礎になるべき質の高いエビデンスは欠けていることを周知した。それから数年間で CKD-MBD の発症、進展、評価、および治療など重要な問題に関するランダム化試験および前向きコホート研究が複数発表された。2009年のガイドラインの推奨の多くは現在の診療でも有効であるが、新たな知見に基づいて 12件の推奨が追加された。それでも大きな知識のギャップは残されており、2009年のガイドラインから続いている「専門科の意見に基づく」推奨の多くは残されている。

2. CKD-MBD の診断

2-1. 骨密度の評価

KDIGO CKD-MBD ガイドライン (2009) が発表された当時は、二重 X線吸収法 (dual-energy X-ray absorptiometry: DXA) による骨密度 (bone mineral density: BMD) から CKD における骨折リスクの評価ができるかを検討した研究は CKD 患者において骨折の有無で BMD を比較した横断研究に限られていた。これらの研究は研究間で結果がばらつき、骨折部位によっても結果は一致しなかった。

DXA による骨密度は一般集団では骨折を予測し得るが、CKD 患者においては骨折を予測し得るかエビデンスが欠けていた。また、DXA は骨疾患の組織型を示唆することができない。そのため、KDIGO CKD-MBD ガイドライン (2009) では CKD G3a から G5D ではルーチンに骨密度測定を行わないことを推奨した。

KDIGO CKD-MBD ガイドライン (2017) の更新のもとになっているエビデンスのレビューでは、成人の前向きコホート研究 4件を同定した。これらの研究では DXA による BMI は CKD G3a から G5D において骨折を予測できることが示されている。

これに基づいて作業部会は BMD が低値あるいは低下している場合に転倒予防のための対策を行うあるいは骨粗鬆症治療薬を使用するのであれば、DXA による BMD 測定は妥当であると結論している。

2-2. 腎性骨異栄養症 (renal osteodystrophy: ROD)

ROD は CKD-MBD の骨異常を構成する要素の 1つである骨の組織学的な異常であると定義されている。骨生検が ROD の診断と分類のゴールドスタンダードである。

KDIGO CKD-MBD ガイドライン (2009) では、DXA による BMD 測定は ROD のタイプを区別できないと述べている。さらに生化学的マーカーは感度も特異度も低いので、診断の役には立たないと結論している。

副甲状腺ホルモン (parathyroid hormone: PTH) の測定方法が研究によって異なることも研究間で結果が一致しない原因のひとつになっている。2017年のガイドラインでは、PTH 1回の測定値ではなく、PTH 値の傾向を治療の指標とするのが良いとしている。PTH 値の傾向が一定しない場合は、それによって治療が変更となる可能性があるなら骨生検を検討することは理にかなっている。

2009年のガイドラインでは、CKD G4-G5D 患者で、CKD-MBD の生化学的異常、骨密度低値かつ/または脆弱性骨折を認める場合は骨生検を推奨していた。しかし、作業部会は骨生検の実施と評価に関しては臨床経験は限られていると認識している。

慢性腎臓病 G3a, G3b, G4 患者における骨吸収阻害薬の有効性についてのエビデンスは集積されつつあり、骨吸収阻害薬が骨吸収が過剰に抑制された無形成骨 (adynamic bone disease) を来すとする一貫したエビデンスはない。そのため、KDIGO CKD-MBD ガイドライン (2017) では、骨吸収阻害薬使用に先立って骨生検を行うことは、もはや推奨しない。

3. CKD-MBD の治療

3-1. 高リン血症の是正

KDIGO CKD-MBD ガイドライン (2009) では、慢性腎臓病における糸球体ろ過量 (glomerular filtration rate: GFR) のカテゴリー別の血清リン濃度に基づく治療指針を提示している。血清リン濃度が高いと一貫して直接的に全死亡率を増加させるという点に関しては、エビデンスが集積してきても結論は変わっていない。しかし、(慢性的な高リン血症が) GFR 低下や心イベントの発生率に影響するかどうかについてははっきりしない。

KDIGO CKD-MBD ガイドライン (2009) の発表後に CKD G3a から G5D の患者と腎移植後の患者において高いリン濃度が死亡率と関連することを示す質の高いエビデンスが追加された。しかし、血清リン濃度を下げることで患者の予後を改善できるかどうかを示す臨床試験の結果は現在も欠けたままである。

2009年のガイドラインでは、CKD G3a, G3b, G4 では血清リンを正常域に維持することが推奨された。2017年のガイドライン改訂にあたり、作業部会は以下の結論に至った。1. 血清リン濃度と臨床的なアウトカムとの関連は単調 (monotonic) ではない。2. CKD G3a から G4 において、リン吸着薬の血清リン低下効果を示すエビデンスは欠けている。3. これらの患者に対するリン吸着薬の安全性は証明されていない。4. 食事からのリン摂取の制限が臨床的なアウトカムを改善させるかについてはデータがない。

これらの結論を受けて、作業部会は血清リン濃度を正常域に維持するべきとした 2009年のガイドラインにおける推奨を廃し、代わりに高リン血症を呈する患者に集中して治療を行うべきであるとした。作業部会は治療よりも予防の方が CKD G3a から G5D の患者の利益になる可能性を認識している。しかし、現在のデータでは予防の効果や安全性を支持するには不十分であると判断した。

KDIGO CKD-MBD ガイドライン (2009) では、流通しているリン吸着剤は高リン血症の治療に有効であり、カルシウムを含まないリン吸着剤の方がカルシウムを含むリン吸着剤と比べて動脈の石灰化進行を止めるのに有効かもしれないことを示すエビデンスがあると述べている。

カルシウムバランスについての懸念があること、透析を行っていない CKD 患者においてはリンを下げる治療の効果が確かでないこと、さらにハードエンドポイントでリン低下療法の効果を評価したランダム化比較試験およびシステマティックレビューが報告されたことから、2017年度版改訂作業部会はこの推奨の再評価を行った。現在のエビデンスに基づいて、作業部会は血清リンが正常域にある場合はリン低下療法を開始することは示唆されないかもしれないと結論した。さらに、全てのリン吸着剤(の効果)は同等ではないと結論した。

特に透析を行っていない CKD 患者においては、改訂作業部会はリン低下治療は、高リン血症が進行し、持続している場合のみ適応となり得ること、高リン血症の予防のためには適応とはならないことを明らかにした。

リスクベネフィット比を考慮すると、カルシウムを含まないリン吸着剤でさえ、潜在的に有害 (胃腸障害や必要な栄養素の吸着など) である可能性がある。

作業部会はリン吸着剤の代わりにリン低下療法という用語を当てることにした。これは全てのリン低下療法 (リン吸着剤、食事療法、透析) が効果的だからである。

新しいエビデンスはカルシウムを含むリン吸着剤の使用についての 2009年の推奨の見直しを迫っている。最近発表されたいくつかのランダム化比較試験では、カルシウムを含むリン吸着剤とカルシウムを含まないリン吸着剤の間でハードエンドポイントを比較している。これらの結果をまとめ、作業部会は、他のリスク因子(高カルシウム血症、動脈石灰化、無形成骨、PTH 低値など)が存在するかどうかにかかわらず、食事、薬物、透析液によるカルシウムへの過剰曝露は、 CKD のすべての GFR カテゴリーにおいて有害である可能性があると結論づけた。そこで、作業部会は、高リスクのシナリオではまだ有効であることを認めつつも、2009 年の推奨にあったカルシウムを含むリン吸着剤の使用に関する文言を削除した。

作業部会のメンバーの中には、入手可能なエビデンスでは、カルシウムを含まない薬剤がカルシウムを含む薬剤より優れていることを決定的に示すものではないと考える者もいた。さらに、いずれの研究もカルシウム曝露に関する十分な用量閾値情報を提供しておらず、併用療法において中用量のカルシウム含有リン吸着剤を使用する場合の安全性については不明である。

最後に、KDIGO ガイドラインは世界的な聴衆を対象としており、カルシウムを含まない薬剤はすべての地域で入手可能であるわけではなく、また手頃な価格でもないため、カルシウムを含む薬剤を使用するよりも望ましい治療法がない場合はカルシウム含有リン吸着剤の使用を推奨する。数値的な目標値や限界値を設定したいという臨床上の要望は理解できるが、作業部会はカルシウム含有リン吸着剤の最大投与量について明確な推奨を行うことはできず、安全なカルシウム投与量の上限が存在する可能性を認めつつも、個々の医師の判断に委ねることとした。

小児における食事、薬剤、透析液によるカルシウムへの過剰曝露の有害作用に関するデータは不足している。作業部会は、カルシウム制限に対して特に害を被る可能性がある小児において、この推奨を変更するには十分な証拠がないと結論づけた。

2009 年 KDIGO CKD-MBD ガイドラインでは、上昇したリン酸値を低下させるための食事性リン酸塩制限を推奨しているが、これについては異論はなかった。

食事中のリン酸塩の主な供給源は以下の 3 つある。
1. 未加工の食品に含まれる天然のリン酸塩
2. 加工時に食品に添加されるリン酸塩
3. 栄養補助食品や医薬品に含まれるリン酸塩

食品からのリン摂取量は、リンを含む添加物を利用する現在の加工方法によって増加している。しかし、積極的な食事性リン酸塩の制限は、他の栄養素、特にタンパク質の十分な摂取を損なう可能性があるため困難である。

他に食事由来のリン酸塩を減らし、血清リン濃度をコントロールするために考えるべき点としては、有機リン酸塩と無機リン酸塩と吸収しやすさ (bioavailability) が異なることがある。動物性食品と植物性食品には有機リン酸塩が含まれ、食品添加物には無機リン酸塩が含まれる。動物性リン酸塩の 40-60%は吸収されるが、植物性リン酸塩(主にフィチン酸塩に関連)は吸収率が低い(一般に20~50%)。

作業部会は、リン酸塩の吸収されやすさを考慮して食品を選択する教育を行うことを提案している。さらに、添加物を避けるために、加工食品ではなく、新鮮で手作りの食品を選ぶよう患者に指導すべきである。

作業部会が検討した研究によると、血清リン酸塩のコントロールに関するさまざまな種類の栄養教育の結果はまちまちであった。食事によるリン酸塩管理のあらゆる側面を考慮し、作業部会はリン酸塩制限に関する主要な勧告を変更しないことを決定した。その代わりに、作業部会は、リン酸塩の供給源については一層の研究が必要であり、患者教育については「食品の選択」に焦点を当てるべきであることを示唆する提言を追加した。

3-2. 血清カルシウム濃度の維持

リン酸塩の場合と同様に、2009 年の KDIGO CKD-MBD ガイドラインの発表以来、カルシウム濃度の上昇と成人 CKD 患者の死亡率上昇を関連づける新たな疫学的エビデンスが蓄積されている。さらに、血清カルシウム濃度の上昇と非致死的心血管系イベントとを関連づける新たな研究も発表されている。

軽度の無症候性低カルシウム血症は、特にカルシウム受容体作動薬 ( calcimimetic ) による治療が行われている場合には無害であることが多いため、作業部会では、すべての患者に対して低カルシウム血症の是正を推奨するのではなく、低カルシウム血症の治療に対する個別化されたアプローチを重視した。しかし、有意または症候性の低カルシウム血症には依然として対処すべきである。

2009 年のガイドラインでは、透析液カルシウム濃度が 1.25 mmol/l( 2.5 mEq/l )であれば、カルシウムバランスは中性になると考えられていた。新たなエビデンスに基づき、2017 年作業部会は、この推奨は 2009 年に書かれたまま有効であると考えた。しかし、より質の高い追加研究が利用可能になったため、エビデンスグレードは 2D から 2C に変更された。

3-3. PTH の異常に対する治療

二次性副甲状腺機能亢進症(secondary hyperparathyroidism: SHPT)は、ビタミン D の欠乏、線維芽細胞増殖因子 23 (fibroblast growth factor 23: FGF23) 濃度の上昇、低カルシウム血症、高リン血症など、いくつかの要因によって引き起こされる複雑な発症機序を特徴とし、骨塩量および骨代謝の重大な異常につながる可能性がある。
2009 年 KDIGO CKD-MBD ガイドラインでは、 PTH 濃度が正常上限を超えるすべての患者に対して、修正可能な危険因子に対処することが推奨されている。

残念ながら、CKD G3a から G5 の患者に対する最適な PTH 濃度を定義したランダム化比較試験はまだない。

2017 年のガイドライン改訂作業部会は、腎機能低下にともなう PTH の緩やかな上昇は、1. リン利尿効果 (phosphaturic effect) を促進し、2. PTH に対する骨抵抗性の上昇に対応するためであり、腎機能低下に対する適切な適応反応である可能性があると考えた。そのため、作業部会は、1 回の PTH 濃度の上昇に基づいて治療を行うべきでないとし、2009 年のガイドライン勧告を改訂した。

さらに、作業部会は、リン酸塩の多量摂取という修正可能な危険因子を追加した。リン酸塩の過剰摂取が必ずしも高リン血症になるとは限らず(特に初期の CKD において)、リン酸塩の高摂取が SHPT を促進する可能性があることを示す研究が増えている。

食事性リン酸塩の摂取は修正可能であるが、作業部会は、食事性リン酸塩の摂取量とバランスを評価するためのより良い方法が必要であることも認めた。

4. カルシトリオールおよびビタミン D アナログ

4-1. 非透析患者の場合

ミネラル代謝の不均衡は CKD-MBD と関連し、PTH 濃度の上昇は CKD 患者の死亡率の上昇と関連するため、SHPT の予防と治療は重要である。

何十年もの間、カルシトリオールと他のビタミン D アナログが CKD 患者の SHPT 治療の主要な選択肢であった。2009 年の KDIGO CKD-MBD ガイドラインでは、カルシトリオールやビタミン D 製剤(パリカルシトール、ドキセルカルシフェロール、アルファカルシドールなど)の投与によりPTH 濃度が抑制されることを示した複数の研究が要約されている。しかし、患者中心の転帰の改善を証明した試験は顕著に不足していた。

2009 年ガイドライン以降、カルシトリオールまたはビタミン D アナログ療法に関する追加のランダム化試験が発表されている。そのうちの 2 つの試験 (PRIMO 試験および OPERA 試験) では、代替心疾患エンドポイントに対する有益な効果は認められないものの、パリカルシトール治療を受けた患者ではプラセボと比較して高カルシウム血症のリスクが有意に増加することが示された。

これらの結果は、中等度の PTH 上昇が適切な適応反応である可能性があるという意見と組み合わされ、2017 年ガイドライン改訂作業部会は、中等度の PTH 上昇を治療するリスクベネフィット比はもはや好ましいものではないと結論付けた。したがって、作業部会は、カルシトリオールまたはビタミン D アナログの使用は、重症で進行性の SHPT にのみ留保されるべきであると勧告した。

従って、本ガイドラインでは、CKD G3a-G5 におけるカルシトリオールまたはそのアナログのルーチン使用は推奨されなくなった。この変更は、作業部会の委員の間でも一様なコンセンサスには達しなかった。

PRIMO 試験および OPERA 試験の参加者は、PTH 濃度が中等度までしか上昇していなかったことに留意すべきである。したがって、進行性で重症の SHPT 患者では、カルシトリオールとビタミン D アナログによる治療を考慮してもよい。

カルシトリオールまたはビタミンDアナログが心イベントや死亡率などの患者の転帰に有益な効果を示したランダム化試験は確認されておらず、 CKD G3a-G5 における PTH の至適レベルは不明である。

さらに、これらの薬剤による治療によって、血清リン酸値や FGF23 値の上昇する可能性もある。したがって、作業部会は、重症で進行性の SHPT に対してカルシトリオールまたはビタミンDアナログの投与を開始する場合、初期 PTH 濃度とは無関係に低用量から開始し、その後 PTH の反応に基づいて漸増すべきであると結論づけた。なお、高カルシウム血症は避けるべきである。

4-2. 透析患者の場合

新たなデータにより、2017 年ガイドライン改訂作業部会は CKD G5D 患者における PTH 低下療法の再評価をした。いくつかの新しい試験ではシナカルセトとプラセボが、1 つの新しい試験ではカルシトリオールとビタミンDアナログが評価された。カルシトリオールまたはビタミン D アナログについて、患者レベルのアウトカムにおいて明らかな有益性を示した新しい試験はまだない。

作業部会では、EVOLVE 試験について長時間議論し、PTH 低下療法を必要とする SHPT および CKD G5D の全患者に対して、シナカルセトを第一選択薬として推奨するのに十分なデータであるかどうかについて、委員の意見は分かれた。

1 つの意見は、EVOLVE 試験の主要評価項目が否定的であったというものである。一方、二次解析では、患者レベルのエンドポイントを改善させたという意見もあった。ただし、カルシトリオールや他のビタミン D アナログを用いた試験では、死亡率や患者中心のエンドポイントに関する肯定的なデータは得られていない。

作業部会でのコンセンサスが得られていないことと、シナカルセトのコストが高いことを考慮し、2009 年の CKD G5D 患者に対する推奨は、すべての許容可能な治療選択肢を列挙するように修正された。

個々の選択は、すでに行っている治療や患者のカルシウムおよびリン酸値に基づいて考慮する。さらに、透析液カルシウム濃度の選択は血清 PTH 値に影響を与える。最後に、副甲状腺摘出術は、特に 2009 年のガイドラインで推奨されている PTH 低下療法が失敗した場合は、依然として有効な治療選択肢であることを指摘しておく。

5. 骨粗鬆症に対する薬物療法

現在の推奨 3. 2. 2. は骨吸収阻害薬などの骨粗鬆症治療薬による治療に先立つ骨生検の適応について述べている。骨生検の結果から適応であったとしても、骨吸収阻害薬の使用を検討する際には、特有の副作用も考慮しなければならない。例えば、骨吸収阻害薬は一般に骨代謝の低下を悪化させるし、デノスマブは著しい低カルシウム血症を誘発する可能性がある。骨吸収阻害薬を投与するリスクは、基礎にある骨の表現型の診断の正確さと天秤にかけなければならない。

6. 腎移植後の骨病変

2009 年の KDIGO CKD-MBD ガイドラインでは、eGFR が 30 ml/分/1.73m2 以上の患者において、副腎皮質ステロイドの投与を受けているか、骨粗鬆症の危険因子がある場合は、移植後最初の 3 ヶ月間に骨密度検査を行うことが推奨されている。しかし、CKD G4T から G5T の患者には DXA を実施しないことが推奨された。

2017 年の推奨 3.2.1 に詳述されているように、CKD G3a から G5D の患者を対象とした 4 件の前向きコホート研究を含め、DXA による骨密度測定が CKD G3-G5D で骨折を予測するという証拠が増えつつある。これらの知見が移植レシピエントにも当てはまるかどうかを示唆するデータは限られている。したがって、現行のガイドラインでは、移植を受けた患者においても、CKD G3a から G5D の患者と同様に、その結果が治療の決定に影響を与える場合には、骨密度検査を推奨している。

現在の推奨 3.2.2 では、抗骨吸収療法やその他の骨粗鬆症治療前の骨生検の適応について述べている。したがって、移植を受けた患者における骨生検に関する 2009 年の推奨 5.6 が修正された。

7. 推奨のまとめ

3.1 CKD-MBD (生化学的異常) の診断

3.1.1:
カルシウム、リン酸塩、PTH、アルカリホスファターゼ活性の血清中濃度を CKD G3a 期からモニタリングすることを推奨する (1C)。

小児では、CKD G2 からモニタリングを開始することを推奨する(2D)。

3.1.2:
CKD G3a-G5D の患者では、血清カルシウム、リン酸塩、PTH のモニタリングの頻度は、異常の有無と程度、CKD の進行速度に基づくのが妥当である(Not Graded)。

妥当なモニタリング間隔は以下の通りである。

CKD G3a-G3b の場合:血清カルシウムとリン酸塩については 6-12 ヵ月ごと、PTH についてはベースライン値と CKD の進行度に基づく。

CKD G4 の場合:血清カルシウムとリン酸塩については 3-6 ヵ月ごと、PTH については 6-12 ヵ月ごと。

G5D を含む CKD G5 の場合:血清カルシウムとリン酸値は 1-3 ヵ月ごと、PTH は 3-6 ヵ月ごと。

CKD G4-G5Dの場合:アルカリホスファターゼ活性は 12 ヵ月ごと、PTH が高値を示す場合はより頻繁に測定する。

CKD-MBD の治療を受けている CKD 患者、または生化学的異常が確認された CKD 患者では、 傾向や治療効果、副作用をモニターするために測定頻度を増やすことは妥当である(Not Graded)。

3.1.3:
CKDのG3a-G5D 患者では、25 (OH) D(カルシジオール)値を測定し、ベースライン値や治療介入によって決定される反復検査を行うことを提案する(2C)。

ビタミンD の欠乏と不全は、一般集団に推奨される治療戦略を用いて改善することを提案する(2C)。

ビタミンD欠乏症やビタミンD欠乏症は、一般人に推奨されている治療戦略(2C)を用いて改善することを推奨する。

3.1.4:
CKD G3a-G5D 患者では、利用可能なすべてのCKD-MBD 評価を考慮し、単一の検査値ではなく、傾向に基づいて治療方針を決定することを推奨する(1C)。

3.1.5:
CKD G3a-G5D 患者では、カルシウム-リン酸積(Ca×P)という計算値よりも、一緒に評価した血清カルシウムとリン酸塩の個々の値を臨床診療の指針として用いることを推奨する(2D)。

3.1.6:
CKD G3a-G5D 患者に対する臨床検査報告において、臨床検査室は生化学データの適切な解釈を容易にするために、実際に使用されている測定法を臨床医に知らせ、測定法、検体源(血漿または血清)、取り扱い仕様の変更を報告することを推奨する(1B)。


3-2. CKD-MBD (骨病変) の診断

3.2.3:
CKDのG3a-G5D 患者では、血清 PTH または骨特異的アルカリホスファターゼの測定は、骨疾患の評価に用いることができる。

3.2.4:
CKDG3a-G5D 患者では、コラーゲン合成(プロコラーゲンI型C末端プロペプチドなど)と分解(I型コラーゲン架橋テロペプチド、クロスラップ、ピリジノリン、デオキシピリジノリンなど)の骨由来のターンオーバーマーカーをルーチンで測定しないことを推奨する(2C)。

3.2.5:
作業部会は、CKD G2-G5D の乳児は少なくとも四半期ごとに体長を測定し、CKD G2-G5D の小児は少なくとも年 1 回線状成長を評価することを推奨する (1B)。


3-3. CKD-MBD (血管石灰化) の診断

3.3.1:
CKD G3a-G5D 患者では、コンピュータ断層撮影に基づく画像診断の妥当な代替法として、腹部 X 線側面写真を用いて血管石灰化の有無を検出し、心エコー図を用いて弁膜石灰化の有無を検出することを提案する(2C)。

3.3.2:
血管石灰化または弁膜石灰化が判明している CKD G3a-G5D 患者は、心血管リスクが最も高いとみなすことを提案する(2A)。

4-1. CKD-MBD の治療 (高リン血症の是正および血清カルシウムの維持)

4.1.7:
CKD G3a-G5D の患者では、アルミニウムを含むリン酸結合剤の長期使用を避け、CKD G5D の患者では、アルミニウム中毒を予防するために透析液のアルミニウム汚染を避けることを推奨する (1C)。

4.1.9:
CKD G5D の患者では、持続性高リン血症の治療において透析リン酸塩除去量を増やすことを推奨する(2C)。


4-2. CKD-MBD の治療 (PTH の異常の是正)

4.2.3:
CKD G5D 患者では、intact PTH 値を測定法の正常上限値の約 2-9 倍の範囲に維持することを推奨する(2C)。

この範囲内で PTH 値がいずれかの方向に著しく変化した場合は、この範囲外への進行を避けるために、治療の開始または変更を促すことを推奨する(2C)。

4.2.5: CKD G3a-G5D で重度の副甲状腺機能亢進症があり、内科的治療または薬物療法に反応しない患者では、副甲状腺摘出術を推奨する(2B)。


4-3. CKD-MBD の治療 (ビスホスホネートなどの骨粗鬆症治療薬および成長ホルモンによる治療)

4.3.1:
世界保健機関の基準により骨粗鬆症及び/又は骨折の高リスクを有する CKD G1-G2 の患者については、一般集団と同様に管理することを推奨する (1A)。

4.3.2:
PTH が正常範囲にあり、世界保健機関(WHO)の基準により骨粗鬆症および/または骨折の高リスクを有する CKD G3a-G3b 患者では、一般集団と同様の治療を推奨する(2B)。

4.3.4:
CKD G2-G5D および関連する身長欠損を有する小児および青年では、まず栄養不良および CKD-MBD の生化学的異常に対処した後、さらなる成長が望まれる場合には、遺伝子組換えヒト成長ホルモンによる治療を推奨する(1A)。

5. 腎移植後の骨病変の評価と治療

5.1:
腎移植直後の患者では、安定するまで血清カルシウムとリン酸塩を少なくとも毎週測定することを推奨する(1B)。

5.2:
腎移植直後の患者では、血清カルシウム、リン酸塩、PTH のモニタリング頻度は、異常の有無と程度、CKD の進行速度に基づくのが妥当である(Not Graded)。

妥当なモニタリング間隔は以下の通りである。

CKD G1T~G3bT では、血清カルシウムとリン酸塩については 6-12 ヵ月ごと、PTH については 1 回で、その後の間隔はベースライン値と CKD の進行度によって異なる。

CKD G4T の場合、血清カルシウムとリン酸塩については 3-6 ヵ月ごと、PTH については 6-12 ヵ月ごと。

CKD G5T の場合、血清カルシウムとリン酸塩については 1-3 ヵ月ごと、PTH については 3-6 ヵ月ごと。

CKD G3aT-G5T では、アルカリホスファターゼの測定を年 1 回、または PTH が高値の場合はそれ以上の頻度で行う。

CKD-MBD の治療を受けている CKD 患者、または生化学的異常が確認された CKD 患者では、有効性と副作用を監視するために測定頻度を増やすことは妥当である(Not Graded)。

妥当な監視間隔は、以下の通りである。

CKDのG1T-G3bT では、血清カルシウムとリン酸塩については 6-12 ヵ月ごと、PTH については 1 回で、その後の間隔はベースライン値と CKD の進行度によって異なる。

CKD G4T の場合、血清カルシウムとリン酸塩については 3-6 ヵ月ごと、PTH については 6-12 ヵ月ごと。

CKD G5T の場合、血清カルシウムとリン酸塩については 1-3 ヵ月ごと、PTH については 3-6 ヵ月ごと。

CKD G3aT-G5T では、アルカリホスファターゼの測定を年 1 回、または PTH が高値の場合はそれ以上の頻度で行う。

CKD-MBD の治療を受けている CKD 患者、または生化学的異常が確認された CKD 患者では、有効性と副作用を監視するために測定頻度を増やすことは妥当である(Not Graded)。

これらの異常は、CKD G3a-G5 患者と同様に管理することが妥当である(Not Graded)。

5.3:
CKD G1T-G5T 患者では、25 (OH) D (カルシジオール)値を測定し、ベースライン値と介入 (2C)
によって繰り返し検査を決定することを提案する。

5.4:
G1T-G5T の CKD 患者では、一般集団に推奨される治療戦略を用いてビタミン D 欠乏症と不全症を改善することを提案する(2C)。

https://www.kidney-international.org/article/S0085-2538(17)30249-1/fulltext
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