深部静脈血栓症
Ann Intern Med 2022. doi: 10.7326/AIT202209200
静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)は 3 番目に多い心血管系疾患であり、人口の 5%が罹患している。VTE は一般的に下肢深部静脈血栓症(deep venou thrombosis: DVT)または肺塞栓症として現れる。これらのイベントの半分は一過性の危険因子と関連しており、予防できる可能性がある。直接経口抗凝固薬 (direct oral coagulants: DOAC) は有効かつ安全で、ビタミン K 拮抗薬よりも出血リスクが低い。VTE 患者の多くは、長期の抗凝固療法を必要とする慢性疾患を有している。血栓後症候群 (postthrombotic symdrome: PTS) は DVT 患者の 25~40%が罹患し、機能および QOL に重大な影響を及ぼす。
VTE は比較的よく見られる疾患であり、生命を脅かす可能性がある。年間発生率は1,000 人に 1 人と推定されている。VTE 患者の約 3 分の 1 は肺塞栓症(pulmonary embolism: PE)を、3 分の 2 は深部静脈血栓症(deep venous thrombosis: DVT)を呈する。VTE の 50~60%は最近の手術または入院が誘因となり、20%は活動性がんに関連し、残りの 20~30%は誘因なしと考えられている。DVT の診断は、検査前確率の評価、Dダイマー検査、および圧迫超音波検査(compression ultrasonography: CUS)を組み合わせて行われる。DVT 治療の中心は抗凝固療法であり、ほとんどの患者では DOAC が優先的に選択される。
DOAC 投与または低分子量ヘパリン(low-molecular weight heparin: LMWH)による抗凝固療法に続いてビタミン K 拮抗薬(vitamin K antagonist: VKA)を投与することは、VTE の有効な治療法である。5 件のランダム化試験と急性 VTE 患者 24,507 名を対象としたシステマティックレビューでは、最初の 3 ヶ月間の治療期間中の再発性致死性 VTE のプール発生率 (pooled rate) は、ビタミン K 拮抗薬で 0.14%(95%信頼区間 [confidence interval: CI]:0.05~0.27%)、DOAC で 0.16%(95%CI:0.05~0.27%)であった。これらの治療における致死的な重篤出血の発生率は、それぞれ 0.33%(95%CI:0.21~0.48%)、0.14%(95%CI:0.07~0.24%)であった。
一部の患者では、再発性 VTE の二次予防として、長期抗凝固療法を検討すべきである。 VTE の最も一般的な合併症は、PTS と静脈潰瘍 (venous ulcer) であり、総発生率はそれぞれ 10 万人年あたり76.1 人と 18.0 人である。本レビューは DVT を呈する患者の診断と管理に焦点を当てるが、危険因子、予防、および治療の一部に関する考察は DVT および PE の患者にも当てはまる。
予防
VTE のリスクを高める要因とは?
手術と急性疾患による入院は、VTE 発症原因の半数を占めている。疫学研究では VTE に関連する多くの危険因子が特定されているが、予防的治療を決定する際には、これらの関連性の強さを考慮することが不可欠である(表 1)。
表 1. 静脈血栓症の一過性のリスク因子
強い危険因子(オッズ比 10 以上)
・股関節または大腿骨の骨折
・股関節置換術
・大手術
・重度の外傷
・脊髄損傷
中程度の危険因子(オッズ比 2~9)
・関節鏡下膝関節手術
・がん
・中心静脈ライン
・うっ血性心不全または呼吸不全
・ホルモン補充療法
・経口避妊薬療法
・麻痺性脳卒中
・産後
・静脈血栓塞栓症の既往
・血栓性素因
弱い危険因子(オッズ比 2 未満)
・3 日を超える臥床
・座位による不動状態(例:長時間の自動車または飛行機による移動)
・加齢
・腹腔鏡手術(例:胆嚢摘出術)
・肥満
・妊娠(出産前)
・静脈瘤
多くの場合、複数の危険因子が複合的に作用して「血栓閾値」を超えると VTE を発症する。がんは最も重要な危険因子の一つであり、がん診断後 1 年以内の VTE リスクは 7 倍に増加し、絶対リスクは 5~20%に達する。さらに、初めて誘発性のない VTE を呈した患者の 4~10%は、最終的に 1年以内にがんと診断されるため、VTE はがんの重要な初発症状となる。
VTE の家族歴、特に 50 歳未満で誘発性のない VTE を呈した一親等近親者がいる場合、VTE の重要な危険因子となる。一般的な遺伝的リスク因子(血栓形成能)としては、O 型以外の血液型、および第 V 因子ライデン変異やプロトロンビンのヘテロ接合性遺伝子変異などがある(付録表 1、Annals.org で入手可能)。
第 V 因子ライデン変異
https://www.nejm.jp/abstract/vol336.p399
遺伝性血栓素因検査は行えるが、VTE の家族歴を聴取することの方が検査よりも重要である。なぜなら、VTE の第一度近親者がいる人のうち、遺伝性血栓素因スクリーニングで陽性となるのはわずか 30%に過ぎないからである。このため、患者および家族に対する遺伝性血栓素因検査は推奨されない。
抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome: APS)は自己免疫疾患であり、後天性血栓素因の一種である。APS 患者は、動脈および静脈の血栓塞栓症合併症および妊娠関連合併症のリスクが著しく高い。抗リン脂質抗体には、抗カルジオリピン抗体 (anticardiolipin antibodies)、β2 グリコプロテイン抗体 (β2-glicoprotein antibodies)、およびループスアンチコアグラント (lupus anticoagulant) が含まれる。 APS の診断には、臨床的および検査的基準に加え、12 週以上の期間にわたって持続的に抗体が陽性であることの証明が必要である (なぜなら、一過性の抗体陽性には臨床的意義はない可能性があるからである)。遺伝性血栓素因とは異なり、APS の検査は推奨される。なぜなら、結果が陽性であれば、ほとんどの患者は二次予防として長期抗凝固療法を継続すべきだからである。
臨床医は特定の患者に対して DVT のスクリーニングをするべきか?
無症候の DVT をスクリーニングした上で予防を行うよりも、スクリーニングを行わずに抗凝固療法で一次予防する方が良い。スクリーニング静脈造影または CUS によって検出される無症候性 DVT は、血栓予防試験においては、アウトカムとして一般に用いられるが、症候性 VTE の予防戦略として無症候性 DVT のスクリーニングを支持するエビデンスはない。通常のスクリーニングプロトコルで検出される無症候性 DVT は、症候性 DVT の 5~21 倍多く見られるが、その臨床的意義は不明である。
予防療法の実施を決定する際に考慮すべき要素は何か?
VTE 予防は、薬理学的(抗凝固療法 [anticoagulation] など)または機械的手段(段階的圧迫ストッキング [graduated compression stockings] や間欠的空気圧迫装置 [intermittent pneumatic compression device] など)によって実施される。予防療法の対象となる患者を決定する際には、VTE のリスク、薬理学的予防療法のベネフィット、そして出血リスクを評価する必要がある。予防療法の目標は、重大な出血を増加させることなく、致死的な PE と症候性 VTE を減らすことである。
予防療法の対象となる患者は誰か?また、どのような薬剤を使用すべきか?
入院中の内科患者
入院中の内科患者においては VTE リスクは不均一性なので、VTE に対するユニバーサルな予防戦略の効果は乏しい。しかし、予防的療法の恩恵を受ける内科患者を予測することは難しい。IMPROVE スコアや Padua 予測スコア(表 2)などの臨床予測ツールは、リスクの高い内科患者を特定するために使用できるが、入院している内科患者のうちリスクが高いと特定されるのは 20%未満であり、臨床アウトカムへの影響についてはさらなる外部検証が必要である。臨床診療ガイドラインでは、出血リスクの上昇がない入院患者には薬理学的予防を考慮することを推奨しており、DOAC よりも LMWH が推奨されている。出血リスクが高いために薬理学的予防療法を受けられない患者には、機械的予防法が提案されている。入院後の VTE イベントを減らすための DOAC または LMWH によるルーチンの長期抗凝固療法(30~45 日間)についてのエビデンスは一貫しておらず、大出血のリスク増加を示唆している。長期予防(退院後)や長期ケア環境での予防は推奨されない。
手術患者
手術後の VTE リスクは、手術の種類と患者の体格によって異なる。術後の VTE 予防に未分画ヘパリン(unfractionated heparin: UFH)を使用すると、症候性 VTE が最大 70%減少する。近年では、手術手技の向上、早期離床、および薬理学的予防策の普及により、術後 VTE は大幅に減少している。Caprini Risk Assessment Model は、血栓塞栓リスクを評価するための最も広く使用されているツールである(表 2)。
表 2. VTE 予防のリスクスコア
内科入院患者
Padua Prediction Score
・3 ヶ月後の VTE リスクを予測
・4 ポイント未満で低リスク (1.1%)
・4 ポイント以上で高リスク (3.5%)
IMPROVE score
・3 ヶ月後の VTE リスクを予測
・0 ポイントで低リスク (0.4%)
・4 ポイント以上で高リスク (5.7%)
Genova score
・3 ヶ月後の VTE リスクを予測
・3 ポイント未満で低リスク (0.6%)
・3 ポイント以上で高リスク (3.2%)
外科患者
Caprini Risk Assessment model
・3 ヶ月後の VTE リスクを予測
・0 ポイントで低リスク (<0.7%)
・9 ポイント以上で高リスク (10.7%)
外来癌患者
Khorana score
・2.5 ヶ月後の VTE リスクを予測
・0 ポイントで低リスク (0.8%)
・3 ポイント以上で高リスク (7.1%) と評価
産後患者
RCOG score
・2 つ未満のリスク因子で低リスク
・2 つ以上のリスク因子で高リスク
米国胸部専門医学会(The Collage of Chest Physician: ACCP)は、Caprini スコアを使用して患者の VTE リスクを評価し、非常に低リスクの場合は予防なしまたは早期離床、低リスクの場合は機械的予防(Caprini スコア 1 ~ 2)、中等度リスクの場合は薬理学的予防薬または機械的予防(Caprini スコア 3 ~ 4)、高リスクの場合は薬理学的予防と機械的予防の併用(Caprini スコア 5 以上)という段階的アプローチを採用することを推奨している。米国血液学会 (The American Society of Hematology: ASH) の臨床診療ガイドラインでは、主要な一般外科手術 (整形外科以外の一般手術、腹部手術、骨盤手術など) を受ける患者における薬理学的予防について、より一般的な提案を行っている。内科入院患者とは異なり、外科入院患者に対しては退院後 3〜4 週間の抗凝固療法の延長が提案されている。どのようなサブタイプの外科患者が抗凝固療法延長の恩恵を最も受けるかについては、さらに詳細な検討が必要である。
整形外科手術においては、術後の VTE 予防としての LMWH はほとんど DOAC に置き換えられた。また、VTE 予防にアスピリンが新たな選択肢として注目されている。大規模ランダム化比較試験(randomized controlled trial: RCT)では、人工股関節置換術および人工膝関節置換術後に、DOAC(リバロキサバン [rivaroxaban])による長期予防と、DOAC を 5 日間投与した後にアスピリンを投与した場合とが比較され、症候性 VTE または出血に差は認められなかった。ASH ガイドラインでは、DOAC またはアスピリンによる薬理学的予防を推奨している。
外来がん患者
外来がん患者における VTE の発生率は 5~20%であり、がんの種類、血栓症の副作用がある抗がん剤を使用しているかどうか、患者固有の危険因子などによってかなりのばらつきがある。がん関連血栓症(cancer-associated thrombosis: CAT)を有する外来患者では、出血、再発性 VTE、および早期死亡のリスクが高い。Khorana スコア(表 2)は VTE リスクを推定し、一次予防が有効ながん患者を特定することができる。DOAC は経口投与が可能であり、安全性プロファイルが確立しているため、CAT の予防に望ましい抗凝固薬である。高リスクの Khorana スコア (≥2) を有する外来がん患者において、DOAC と予防薬なしの比較が 2 件の RCT で行われている。CASSINI 試験では、VTE イベントの減少傾向が認められたが、統計学的有意差には至らなかった。対照的に、AVERT 試験では VTE イベントが統計的に減少したことが示された。両試験とも、重大な出血が約 1%のわずかな増加を示した。しかし、主要な診療ガイドラインの推奨事項は一貫しており、高リスク患者(Khorana スコア 2 以上)では、出血リスク、治療費、患者の希望を考慮しつつ、薬物予防法を用いることが示唆されている。
妊娠中の患者
周産期 VTE は 1,000 件の出産につき 1 件の割合で発生し、母体死亡の原因の 15%(10 万出生児あたり 1~5 件の母体死亡)を占めるが、誰が予防法を受けるべきかについてのコンセンサスは得られていない。誘引のない VTE またはエストロゲン関連 VTE の既往歴がある人、または妊娠以外で長期抗凝固療法を受けている人には、分娩前および分娩後の抗凝固療法が推奨される。その他のリスクのある人(付録表 2、Annals.org で入手可能)については、妊娠中の VTE リスクは非妊娠時と比較して 15~35 倍高いため、分娩後最初の 6 週間までは血栓予防の対象とする。LMWH は妊娠中および授乳中でも安全であり、分娩前および分娩後に選択される抗凝固薬である。妊娠関連 VTE のリスク因子には、静脈瘤、緊急帝王切開、死産、合併症(心臓、腎臓、炎症性腸疾患)、喫煙、遺伝性血栓症、子癇前症、分娩後感染症、産褥出血などがある。これらのリスク因子をどのように用いれば血栓予防薬が有効な患者を選択できるのかは不明である。臨床試験は帝王切開後の患者を対象としているが、イベント発生率が低く、リクルートが不十分であるため、限界がある。いくつかの専門学会による分娩後予防の推奨を付表 2 にまとめた。
血栓症患者は薬物による予防を定期的に受けるべきか?
患者は、VTE の既往や家族スクリーニングにより、遺伝性血栓症 (inherited thrombophilia) の保因者と同定されることがある。VTE の既往歴のない血栓症患者に対する VTE 予防は推奨されない。一般集団における VTE の発生率は低いため、血栓症が VTE リスクの増加と関連していても、絶対的なリスクは小さいままである(付表 1)。同様に、初回 VTE 発生後の治療期間についても、血栓症の有無は影響しないはずである。しかし、入院中や分娩後などの一過性の高リスク期には、特に他の高リスク状態が存在する場合には、血栓症の存在を考慮する必要があるかもしれない。
旅行中の VTE 予防について、医師は患者にどのように助言すべきか?
飛行機での移動は VTE の弱い危険因子であり、4 時間以上のフライトでは症候性 DVT のリスクが 2~4 倍上昇し、症候性イベントの絶対リスクは 4600 フライトに 1 回の割合で上昇する。
LONFLIT3 の RCT では、DVT のリスクが高い患者(DVT の既往、凝固障害、肥満、運動制限、癌、静脈瘤)を予防薬なし、アスピリン 400 mg、LMWH 単回投与に無作為に割り付け、フライトの 2~4 時間前に投与した。この試験では、プラセボまたはアスピリンと比較して、LMWH を投与した患者で DVT の減少がみられたが、イベントの 60%は無症候性 DVT であり、臨床的意義は不明であった。
データは限られているが、専門家のガイドラインでは、リスクが高い患者には、患者の価値観や好みを考慮した上で、段階的圧迫ストッキング(膝下、15~30 mmHg)や薬理学的予防が有効であるとしている。
コラム 臨床で最低限知っておくべきこと
DVT の予防: DVT には多くの危険因子があり、リスクスコアは臨床医が予防が有効な患者を選択するのに役立つ。予防の臨床的有用性を判断するには、致命的な PE や症候性 VTE のリスクと大出血のリスクを比較評価する必要がある。整形外科患者やがん患者では DOAC が予防薬として選択され、妊娠中の患者や入院中の内科患者では LMWH が治療薬として選択される。
診断
臨床医はいつ DVT を疑うべきか?
疼痛、熱感、皮膚の発赤などの臨床的特徴は DVT の診断にはあまり役に立たない。DVT が疑われる場合の鑑別診断は広範囲にわたる(表 3)。
表 3. DVT の鑑別診断
静脈不全 (venous insufficiency) (静脈逆流 [venous reflux])
・静脈逆流や肥満による静脈圧亢進が原因
・静脈逆流を超音波で確認する
表在性血栓性静脈炎 (superficial thrombophlebitis)
・硬く圧痛をともなう静脈瘤 (varicose vein)
・表在性の血栓が DVT と関連することは稀
筋挫傷、筋断裂、外傷
・体動時に誘発される疼痛は外傷による整形外科的な問題をより疑わせる (通常は下肢の外傷の病歴が聴取できる)
・適切な整形外科的な評価を行う
麻痺肢の腫脹
・片麻痺の病歴
・麻痺した下肢では DVT がなくても腫脹し得る
ベーカー嚢胞
・膝窩に限局した疼痛
・超音波で観察できる
蜂窩織炎
・皮膚の発赤と熱感
・抗菌薬治療を考慮する
リンパ浮腫
・趾の浮腫は静脈浮腫よりもリンパ浮腫を疑わせる
・リンパ浮腫は片側の場合も両側の場合もあり得る
したがって、臨床的に DVT が疑われる場合には、有効な臨床的予測ツールを用いて DVT の検査前確率を決定する必要がある(表 4)。
表 4. DVT の臨床予測ツール
ウェルズスコア (Wells score)
・活動性のがん(治療中、6 か月以内、または緩和ケア): 1 点
・下肢の麻痺、不全麻痺、または最近のギプス固定: 1 点
・最近 3 日間以上寝たきり、または 12 週間以内に全身麻酔または局所麻酔を必要とする大手術: 1 点
・深部静脈系の分布に沿った局所的な圧痛: 1 点
・下肢全体の腫脹: 1 点
・健側よりふくらはぎ周囲径が 3 cm 以上大きい(脛骨結節から 10 cm 下で測定): 1 点
・病側の下肢に限局した圧痕性浮腫: 1 点
・側副表在静脈 (collateral superficial veins)(非静脈瘤性): 1 点
・DVT の既往: 1 点
・少なくとも DVT と同程度に疑わしい代替診断がある: -2 点
合計点数
0 点→可能性が低い
0-2 点→可能性がある
>2 点→可能性が高い
プライマリケアルール (primary care rule)
・男性: 1 点
・ホルモン避妊薬の使用: 1 点
・過去 6 ヶ月以内に活動性のがんがある: 1 点
・前の月までに手術を受けた: 1 点
・下肢に外傷がない: 1 点
・下肢側副静脈の拡張: 1 点
・ふくらはぎ周囲径の差が 3 cm 以上: 2 点
・D-ダイマー陽性: 6 点
合計点数
3 点以下→リスクは非常に低い
4 点以上→リスクは高い
Wells スコアは最も広く評価されているツールだが、妊娠中や入院中の患者では検証されておらず、高齢者では特異度が低い可能性がある。別の予測ツールである primary care rule は、DVT の症状を呈する外来患者を対象に開発され、検証されており、このような状況ではより適切かもしれない。どのツールを使用するにしても、臨床的予測ツールを唯一の診断基準とすべきではなく、むしろ D-ダイマー検査と併用して画像診断が必要かどうかを判断すべきである。
D-ダイマー検査の意義は何か?
架橋フィブリンの分解産物である D-ダイマーは、急性 VTE 患者だけでなく一部の非血栓性疾患でしばしば上昇する。D-ダイマー値は VTE の診断において感度は高いが特異度は低い。DVT の検査前確率が低いか「可能性が低い」患者(10%未満)では、D-ダイマーが陰性であれば、DVT を安全に除外でき、追加検査の必要性がなくなる。実際、臨床的予測ツールと D-ダイマー検査を併用すると、DVT が疑われる患者の 29%において、画像診断を追加することなく DVT を除外することができる。D-ダイマー検査の PE に対する感度は、臨床的確率と年齢を加味すると向上する。DVT 診断における年齢調整 D-ダイマーの臨床試験が進行中である(NCT02384135)。DVT が臨床的に疑われない場合、D-ダイマーをスクリーニング検査として使用すべきではない。
CUS の意義は何か?
安全性、簡便性、造影剤と電離放射線を使用しないことから、CUS は DVT の診断に適した画像診断法である。CUS は以下の 3 つのプロトコールに従って行われる。
1)下肢深部静脈を圧迫しながらふくらはぎの静脈の三分岐部 (culf trifurcation) まで連続的に撮影する方法
culf trifurcation
https://www.pocus101.com/dvt-ultrasound-made-easy-step-by-step-guide/
2)総大腿静脈と膝窩静脈の三分岐部 (popliteal trifurcation) に限定して圧迫する 2 点撮影法
3)総大腿静脈から腓腹部 (ふくらはぎ) の静脈まで圧迫する連続撮影法
近位下肢静脈に限定して撮影するプロトコルでは、臨床的確率が高いか「可能性が高い」患者で D-ダイマーが陽性の場合については、末梢まで連続的に CUS で観察することが必要になる(付録図、Annals.org で入手可能)。
近位部に限定した CUS と全下肢 CUS を比較したメタアナリシスでは、それぞれ 1.4%と 1.0%という同程度の失敗率(追跡調査 45 日以内に VTE と診断された)が示された。全下肢 CUS で同定された孤立性遠位 DVT の割合は 23〜62%であった。
全下肢 CUS の潜在的な利点は、繰り返し検査する必要がないことかもしれないが、腓腹部の静脈単独 DVT の患者をより多く発見できる可能性があり、臨床的意義は不明である。
DVT が疑われる妊娠中の患者はどのように評価すべきか?
妊娠中の患者における臨床的予測ツールは正式に検証されていない。さらに、D-ダイマーは妊娠後期に上昇するため、妊娠時では特異性が低くなる。したがって、DVT が疑われる場合の最初の検査として CUS を推奨し、最初の超音波検査が正常であった妊娠患者では、超音波検査の再検査を推奨する。腸骨静脈血栓症を示唆する症状(脚全体の浮腫や側腹部、背中、臀部の不快感)がある患者は、超音波検査や MRI 検査で骨盤内血管を評価する必要がある。
臨床医はいつ DVT の再発を考慮すべきか?
DVT の急性期治療後、約半数の患者は画像検査の再検査時に静脈閉塞が残存し、25~40%は PTS として知られる持続的な疼痛、皮膚の変色、腫脹を認める。DVT の再発を疑う際に、PTS が存在すると症状が PTS によるものか、再発した DVT によるものかの判断が難しくなる。DVT の再発を診断する最も確実な方法は、繰り返し撮影した画像と治療後の画像を比較することである。このため、抗凝固療法を中止した時点(ベースライン)で、すべての患者に CUS を行うことが推奨される。新たな非圧縮性静脈分節が見つかったり、ベースラインの画像から血栓の直径が 4 mm 増加した場合は、DVT の再発を示唆する。
臨床医は他にどのような基礎疾患や臨床症状を探すべきか?
誘引がない VTE と診断された患者の 4〜10%は 12 ヵ月以内にがんと診断される。がんスクリーニング戦略を評価した 10 件の研究の系統的レビューおよび患者レベルのメタアナリシスでは、VTE 診断後のがんの 12 ヶ月有病率は 5.2%(CI, 4.1%~6.5%)であった。この有病率は、スクリーニング範囲が一部であった患者よりもスクリーニングが広範であった患者で高かった(オッズ比、2.0[CI, 1.2~3.4])。50 歳以上の患者は、がんと診断される可能性が 7 倍高かった(オッズ比、7.1[CI, 3.1~16])。
具体的なルーチン・スクリーニング戦略を示すエビデンスは不十分であるが、臨床医は、誘因のない VTE 患者の 20 人に 1 人がその後 12 ヵ月以内にがんと診断される可能性があり、最もリスクが高いのは 50 歳以上の患者であることを念頭に置くべきである。既存の年齢および性別に適したがん検診ガイドラインに従うべきであり、臨床医は高齢患者のがんを調べる閾値を低くすべきである。
臨床で最低限知っておくべきこと
DVT の診断: DVT の診断において臨床的特徴はほとんど予測に値しない。臨床医は血栓症のリスクを層別化するために、D-ダイマーを組み込んだ臨床的予測ツールを用いるべきである。さまざまな臨床的予測ツールがあるが、Wells スコアが最もよく研究されている。全下肢超音波検査は反復検査の必要性を減少させるが、孤立性遠位 DVT 患者をより多く同定する。がんのスクリーニングと血栓形成傾向の検査を広く行うことについては議論があり、日常的に推奨されるものではない。DVT の再発や進展が疑われる場合は、専門医に相談することを考慮すべきである。
図に示すように、DVT 治療は 3 つの段階に分けられる。
図 抗凝固療法のフェーズ
・導入期 (0-7 日)
アピキサバン 10 mg 1 日 2 回 7 日間
リバロキサバン 15 mg 1 日 2 回 21 日間
低分子量ヘパリン/フォンダパリヌクス 5 日以上かつ PT-INR 2 以上が 2 日
・治療期 (8 日-3 ヶ月)
アピキサバン 5 mg 1 日 2 回
ダビガトラン 150 mg 1 日 2 回
エドキサバン 60 mg 1 日 1 回
リバロキサバン 20 mg 1 日 1 回
ビタミン K 拮抗薬 (ワーファリン) PT-INR 2-3
維持期 (3 ヶ月-永続)
アピキサバン 5 mg 1 日 2 回または 2.5 日 1 日 2 回
抗凝固療法が行えない場合はアスピリン 81-100 mg 1 日 1 回
ダビガトラン 150 mg 1 日 2 回
エドキサバン 60 mg 1 日 1 回
リバロキサバン 20 mg 1 日 1 回または 10 mg 1 日 1 回
ビタミン K 拮抗薬 (ワーファリン) PT-INR 2-3
ほとんどの患者には DOAC が優先的に使用される(このセクションの後の抗凝固薬の選択に関する議論を参照)。一部の DOAC(リバロキサバン、アピキサバン [apixaban])は治療初期にすぐに使用できるが、他の DOAC(ダビガトラン [dabigatran]、エドキサバン [edoxaban])は治療開始前に 5~10 日間の LMWH 投与が必要である。表 5 は DVT 治療に使用される様々な抗凝固薬について、作用機序、薬物動態、処方情報、可逆薬の有無などをまとめたものである。
表 5. 一般的な抗凝固薬の特徴
ワーファリン (ビタミン K 拮抗薬)
・治療標的: ビタミン K 依存性因子 II, VII, IX, X; プロテイン C, S
・最大効果: 5-7 日
・半減期: 20-60 時間
・腎クリアランス: なし
・タンパク結合率: 99%
・腎不全患者での使用: 安全
・検査: PT-INR
・拮抗薬: ビタミン K かつ/またはプロトロンビン複合体製剤または凍結血漿
未分画ヘパリン
・治療標的: アンチトロンビン/非直接第 II 因子、第 Xa 因子
・最大効果: 即時 (静脈投与時)
・半減期: 30-90 分
・腎クリアランス: ほとんどない
・タンパク結合率: 非常に高い
・腎不全での使用: 安全
・検査: Anti-Xa または aPTT
・拮抗薬: プロタミン
低分子量ヘパリン
・第 Xa 因子
・最大効果: 3-5 時間
・半減期: 2-7 時間
・腎クリアランス: 40%
・タンパク結合率: なし
・eGFR <30 mL/min では使用を避ける
・検査: ルーチンには行わない、必要があれば抗-Xa
・拮抗薬: プロタミンで部分的に拮抗される
アピキサバン
・治療標的: 第 Xa 因子
・最大効果: 3 時間
・半減期: 8-14 時間
・腎クリアランス: 25%
・タンパク結合率: 85%
・eGFR <25 mL/min では使用を避ける
・検査: ルーチンには行わない、必要があれば抗-Xa
ダビガトラン
・治療標的: 第 IIa 因子
・最大効果: 1.5 時間
・半減期: 14-17 時間
・腎クリアランス: >80%
・タンパク結合率: 35%
・eGFR <30 mL/min では使用を避ける
・検査: dTT, 抗-IIa
・拮抗薬: イダルシズマブ
リバロキサバン
・第 Xa 因子
・最大効果: 2-3 時間
・半減期: 7-11 時間
・腎クリアランス: 33%
・タンパク結合率: 90%
・eGFR <30 mL/min では使用を避ける
・タンパク結合率: ルーチンには行わない、必要があれば抗-Xa
エドキサバン
・第 Xa 因子
・最大効果: 4 時間
・半減期: 8-11 時間
・腎クリアランス: 33%
・タンパク結合率: 55%
・eGFR <30 mL/min では使用を避ける
・検査: ルーチンには行わない、必要があれば抗-Xa
重症の呼吸困難や失神など、予断を許さない臨床症状については、厳重な監視下で入院させる必要がある。合併症のない孤立性 DVT で、非経口抗凝固療法(腎不全の場合は未分画ヘパリンなど)や疼痛管理のために入院を必要としない患者は、外来で治療することができる。四肢虚血の危険性を示唆する臨床症状、激しい疼痛、出血の危険性が高い患者は、入院して初期管理を行うべきである。
臨床医はどのような局所対策を推奨すべきか?
PTS のリスク軽減における圧迫療法の有効性に関するデータは相反する。例えば、弾性ストッキングは RCT において PTS を予防しなかった。しかし、臨床医は症状緩和のために早期の歩行、下肢挙上、圧迫療法を考慮すべきである。
孤立性 DVT を治療すべきか?
遠位(ふくらはぎ)孤立性 DVT は PE や再発のリスクが有意に低い。DVT を調べるために全下肢 CUS を行った場合、DVT の半数はふくらはぎの静脈(腓骨、後脛骨、前脛骨)に孤立している。したがって、下肢近位静脈のみを画像診断することは、孤立性遠位 DVT の過剰診断や治療を減らす 1 つの方法である。孤立性遠位 DVT と診断された場合、治療法としては抗凝固療法を行わずに連続 CUS を密に行うか、治療的抗凝固療法を行うかのいずれかを選択することになる。
ランダム化試験と非ランダム化試験のメタアナリシスでは、遠位型 DVT に対する抗凝固療法(予防的投与と治療的投与の両方)は、出血リスクを増加させることなく VTE の再発を減少させる可能性が示唆されている。
最近のコホート研究では、症状が消失し、2 週間後に CUS を繰り返しても進展が認められない患者に対しては抗凝固療法(治療的 LMWH またはリバロキサバン)を中止しても、3 ヵ月後の VTE の再発率は 1.3% (95%CI, 0.05~4.85%)と低率であることが示された。遠位型 DVT の治療における DOAC 療法とその治療期間に関する追加データが間もなく発表される予定である。
ACCP の臨床診療ガイドラインでは、重篤な症状または進行の危険因子(D-ダイマー、広範な病変、近位静脈に血栓がある、誘因がない深部静脈血栓症、活動性がん、VTE の既往歴、入院歴)を有する患者にのみ抗凝固療法を行うことが推奨されている。治療的抗凝固療法を選択する場合、ACCP は 3 ヵ月間の抗凝固療法を推奨しているが、遠位型 DVT の抗凝固療法期間に関する公表データは 6 週間から 3 ヵ月とさまざまである。低リスクの患者においては、抗凝固療法を中止し、週 1 回の CUS を 2 週間続けるのが妥当な臨床的アプローチである。
臨床医はいつ抗凝固薬を開始すべきか?
DVT が疑われる患者において抗凝固療法を開始するタイミングを検討したランダム化試験はない。検査前確率が高く、出血のリスクが低い患者では、診断の結果を待つ間に短時間作用型抗凝固薬を開始すべきである。急性近位型 DVT と診断された患者に対しては、禁忌でない限り、直ちに非経口抗凝固薬、アピキサバン、リバロキサバンによる抗凝固療法を開始すべきである(図)。長期療法としてビタミン K 拮抗薬を選択する場合は、非経口抗凝固薬と同日に開始すべきである。
臨床医はどの抗凝固薬を使用すべきか?
確認された DVT に対する抗凝固療法は、初期 7 日間、8 日間から 3 ヵ月間、3 ヵ月以上の3 段階に分けられる(図)。がんと妊娠に関連した DVT は別に考える。表 5 は標準的な抗凝固療法の選択肢をまとめたものである。歴史的には、ビタミン K 拮抗薬(ワルファリンなど)が唯一の経口治療薬だった。進行した腎不全患者、抗リン脂質抗体症候群患者、薬剤費が重要な患者では、ワルファリンが依然として好ましい薬剤である。ビタミン K 拮抗薬の場合、少なくとも 5 日間は非経口抗凝固療法を併用する必要があり、非経口療法を中止する前に国際標準比(PT-INR)が連続 2 回 2~3 でなければならない。高度腎障害のある患者ではこの最初の期間に未分画ヘパリンが使用され、その他のほとんどの患者では LMWH が使用される。以下のセクションで述べる特別な場合を除き、急性 DVT の治療には DOAC が望ましい。DOAC は固定用量で投与され、検査室でのモニタリングが不要であり、DVT の急性期治療における第 3 相 RCT では、症候性 VTE の再発を予防についてビタミン K 拮抗薬に対して非劣性である。
CAT 患者
CAT の治療は、VTE の再発、薬物相互作用、および出血性合併症の増加のリスクが高いため、他の原因の VTE とは異なる。CAT の治療は、いくつかの点で非がん性 VTE とは異なる。例えば、臨床試験では、LMWH はビタミン K 拮抗薬よりも CAT における VTE の再発抑制に有効であることが示されている。同様に、CAT 患者を対象とした RCT では、DOAC は LMWH と比較して同等またはそれ以上の有効性を示すが、出血の増加に関連する可能性があることが示されている。CAT の DOAC 試験では、経口直接 Xa 阻害薬(リバロキサバン、アピキサバン、エドキサバン)のみが研究されており、CAT の治療に対する経口直接トロンビン阻害薬(ダビガトランなど)の試験は行われていない。消化器がんまたは泌尿生殖器がんの患者では、CAT 治療中の出血が全体的に増加する傾向が認められる。DOAC は安全で安価であり、経口投与が可能であるため、多くの CAT 患者にとって好ましい選択である。CAT に対する DOAC の選択については十分なエビデンスがないため、患者とともに個別に決定する必要がある。現在の臨床試験を分析すると、未切除の消化管病変、血小板減少症(血小板数 5 万 /μL 未満)、最近の生命を脅かす出血、高リスクの頭蓋内病変、肝障害(Child-Pugh B または C)、抗血小板薬の併用がある患者では、DOAC の使用に注意が必要である。このような患者では、LMWH が優先される治療法である
妊娠中の患者
UFH と LMWH は胎盤を通過しない。これらは妊娠中も安全であり、中でも LMWH は自己注射による皮下注射が可能であるため、治療の中心となっている。DOAC、ビタミン K 拮抗薬、フォンダパリヌクスは胎盤を通過するので妊娠中は避けるべきである。治療期間は 6 ヵ月または産後 6 週間のいずれか長い方とすべきである。妊娠中に抗凝固療法を受けている患者は、分娩前に抗凝固療法を中止し、分娩前後の出血を抑えながら脊髄幹麻酔 (neuroaxial anesthesia) ができるように、分娩誘発を予定したほうがよい。妊娠に関連した VTE イベントが分娩の 4 週間以上前に発生した場合では、分娩誘発の 24 時間前までは LMWH の投与が可能であり、分娩後出血が続いていなければ、分娩後 6 時間後に再開することができる。VTE イベントが分娩後 4 週間以内の場合は、治療量の UFH を分娩誘発時に開始し、活発な分娩が始まったら中止する。分娩後 2 週間以内に VTE が発生した場合は、下大静脈フィルターの使用を検討すべきである。下大静脈フィルターは、分娩後に抗凝固療法を再開できるようになり次第、除去すべきである。
APS 患者
APS 患者は VTE 再発のリスクが高く、APS は長期または生涯にわたる抗凝固療法の適応である。3 つの検査が陽性の APS 患者を対象に、ワルファリンとリバロキサバンを比較した RCT である TRAPS は、中間解析でビタミン K 拮抗薬投与群(3%)に比べてリバロキサバン投与群(19%)で有意に多くの血栓性事象が認められたため、早期に中止された。患者の 60%が 3 つの検査が陽性である 2 番目の RCT では、ビタミン K 拮抗薬投与群(2.1%)に比べてリバロキサバン投与群(3.9%)では年率換算の血栓再発率が高く、リバロキサバン投与群では脳卒中が多かった。これらのデータを考慮すると、APS 患者にはビタミン K 拮抗薬が望ましい抗凝固薬である。
臨床医はどのように抗凝固療法をモニタリングすべきか?
臨床医は、OFH (?) の投与量を調節するために、熱分解抗 Xa 測定法または活性化部分トロンボプラスチン時間を用いるべきである。LMWH と DOAC はルーチンの検査モニタリングは必要ないが、大出血や生命を脅かす緊急手術が必要な場合など例外的な状況では、薬物濃度を推定するための検査が必要になることがある(表 5)。これらの臨床検査値と抗凝固効果または出血リスクとの相関関係はまだ確立されていないことに注意することが重要である。これらの検査は、正確な定量ではなく、せいぜい抗凝固作用の有無の判定に用いられる程度である。ビタミン K 拮抗薬の作用機序は、新しいビタミン K 依存性凝固因子の合成のみを減少させることである。そのため、ビタミン K 拮抗薬の用量変更は INR 測定に影響を与えるのに約 3 日かかる。INR モニタリングは系統的かつ協調的に行うことが推奨され、ソフトウェアが投与量調節に使えることもある。患者の治療域内時間(time in the therapeutic range: TTR)は定期的に見直すべきで、平均 TTR が 60%から 80%を超えることを目標とする。標準的な投与プロトコルと比較して、遺伝子型に基づいた投与戦略は TTR を増加させず、ビタミン K 拮抗薬による出血や血栓塞栓の合併症を減少させない。
抗凝固療法中に再発した DVT を臨床医はどのように管理すべきか?
抗凝固薬治療中に VTE が再発することはまれで、急性期治療中では患者の約 2%、維持治療中ではさらに少ない頻度である。このような事態に直面した場合、臨床医は、薬剤のアドヒアランスと、基礎疾患、APS、ヘパリン誘発性血小板減少症(最近ヘパリンに曝露した場合)などの治療失敗の危険因子を調べる必要がある。治療失敗に対する一つの管理戦略を支持する質の高い研究はない。したがって、専門医にコンサルトすることが推奨される。ビタミン K を使用している患者では、4 週間 LMWH に切り替えてから前治療を再開するか、DOAC に切り替えることが一般的である。LMWH による治療が失敗した場合は、LMWH の体重ベースの投与量を 4 週間 120〜125%に増量し、その後前治療を再開することで管理できる。DOAC 失敗後の治療決定の指針となるエビデンスはない。ビタミン K 拮抗薬に切り替えるか、4 週間 LMWH に切り替えるか、あるいは DOAC の高用量「初期」治療を再開するのが妥当である(表 5)。
臨床医はいつ抗凝固療法を中止すべきか?
急性 DVT は原因にかかわらず、最低 3 ヵ月は治療すべきである。この期間を超えて治療を延長する場合は、再発のリスクを考慮する必要がある。国際血栓止血学会科学標準化小委員会は、1 年後の推定再発リスクが 5%未満、または 5 年後の推定再発リスクが 15%未満の患者は、3 ヵ月後に抗凝固療法を中止すべきであると提案している。それ以外の患者には、無期限で抗凝固療法を継続することを考慮すべきである。大手術のような一過性の大きな危険因子によって誘発される VTE は、1 年後の再発リスクが 1%未満であり、一過性の危険因子が消失している限り、3 ヵ月後に抗凝固療法を中止することができる。しかし、ホルモン治療などの軽微な一過性の危険因子を有する患者では、5 年後のリスクは 15%であり、延長治療が有効である可能性がある。
18 件の研究および 7,515 人の誘因のない VTE 患者を対象とした系統的レビューとメタアナリシスによると、抗凝固療法を中止した後、1 年後に 10%、5 年後に 36%の患者で VTE が再発した。
ガイドラインでは、出血リスクが高くない誘因のない VTE 患者は、抗凝固療法を無期限に継続することが推奨されている。VTE の再発リスクは、女性よりも男性の方が 2.2 倍高く、「Men continue, HERDOO-2」臨床予測ツールは、VTE の再発リスクが低く、抗凝固療法を中止できる女性のサブセットを安全に特定する戦略の 1 つである。
抗凝固薬に耐えられない患者にはどのような選択肢があるか?
制御不能な活動性出血、生命を脅かす出血の高いリスク、抗凝固療法を中断しなければならない緊急手術などの理由で、抗凝固療法を受けることができない近位静脈の急性 DVT または PE 患者には、IVCフィルターを使用することができる。安全が確認され次第、抗凝固療法を開始すべきである。抗凝固療法が再開後も大出血の再発がなければ、時間の経過とともに増加するフィルター関連合併症のリスクを軽減するために IVC フィルターを除去すべきである。
臨床医はいつ血栓溶解療法を行うべきか?
孤立性 DVT に対する血栓溶解療法は、一般に四肢の虚血が危惧される患者(Phlegmasia cerulea dolens)にのみ行われる。いくつかの研究では、血栓溶解療法を受けた患者では PTS の発生率が低下する可能性が示唆されているが、ATTRACT 試験では、局所血栓溶解療法と血栓吸引療法を併用した患者と抗凝固療法のみを行った患者の間で、24 ヵ月後の PTS の発生率は同じであった。また、ATTRACT 試験では、両治療法間で死亡率や VTE 再発率に差はないことが確認された。19 件の RCT を対象とした最新の Cochrane レビューによると、血栓溶解療法は、早期および中間フォローアップにおける画像評価による完全な血栓溶解を改善したが、後期フォローアップでは改善しなかった(2 つの試験でのみ報告)。血栓溶解療法を受けた群では、出血が有意に増加し(6.7% vs 2.2%;リスク比、2.45[CI, 1.58~3.78])、PTS がわずかに減少した(50% vs 53%;リスク比、0.78[CI, 0.66~0.93])。
臨床医は PTS をどのように治療すべきか?
症候性 DVT 患者の約 25~40%が PTS を発症する。PTS の症状としては、患肢の疼痛、脚が重たい感じ、腫脹、うっ滞性皮膚炎、潰瘍形成などがあり、QOL に影響を与え、身体障害につながることがある。PTS の診断と重症度の判定には Villalta スコアを用いる(表 6)。
表 6. PTS の診断と病期決定に用いる Villalta スケール
症状
・疼痛
・けいれん
・脚が重たい感じ (heaviness)
・異常感覚 (paresthesia)
・そう痒
臨床徴候
・前脛骨浮腫
・皮膚硬結
・色素沈着
・発赤
・静脈拡張
・ふくらはぎ圧迫痛
・静脈潰瘍
スコア
0-4 点 PTS なし
5-9 点 軽度 PTS
10-14 点 中等度 PTS
15 点重または静脈潰瘍がある 重度の PTS
治療法としては、下肢の運動、長時間にわた る依存的な姿勢の回避、弾性圧迫ストッキングの使用などがある。症状コントロールのための弾性圧迫ストッキングは、通常 20~40 mmHg で処方され、膝下丈のストッキングの方が、脚を高く覆うものよりも忍容性が高い。圧迫ストッキングの禁忌には、重度の末梢動脈疾患と素材に対するアレルギーが含まれる。
どのような場合に DVT の専門医への相談を考慮すべきか?
DVT の再発や抗凝固療法中の DVT を疑う場合、臨床医は血栓症の専門医に相談することを考慮すべきである。また、画像診断では診断がつかないが再発の疑いが高い場合、抗凝固療法に代わる治療の必要がある合併症が出現した場合、妊娠中の VTE に遭遇した場合にも、専門医への紹介を考慮する必要がある。生命を脅かす出血や抗凝固療法を緊急に中止する必要がある場合も、相談することが有益である。静脈潰瘍に伴う重篤な PTS の管理には、内科医、皮膚科医、血管外科医、創傷ケア看護師を含む集学的チームが関与すべきである。
臨床で最低限知っておくべきこと
治療: ほとんどのDVT患者は外来で DOAC による安全な治療が可能である。腎障害やAPSのある患者や薬代が気になる患者には、ビタミン K 拮抗薬がより適切である。一過性の可逆的 VTE 危険因子を有する患者は、3ヶ月間治療すべきである。出血リスクが低く、誘因のない VTE を起こしたことがある、活動性のがんがある、または VTE を再発したことがある場合には、治療の延長を考慮すべきである。IVCフィルターは、抗凝固療法が禁忌の場合にのみ使用すべきである。腸骨大腿部 DVT があり、四肢の虚血が差し迫っている患者で、出血のリスクが低い場合は、血栓溶解療法を考慮してもよい。症状コントロールのための弾性圧迫ストッキングは、20~40mmHg のものが選ばれ、膝下丈のストッキングの方が脚を高く覆うものよりも忍容性が高い。圧迫ストッキングの禁忌としては、重度の末梢動脈疾患や素材に対するアレルギーが含まれる。
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VTE 患者のケアの質を評価するためにどのような指標を用いているか?
メディケア&メディケイド・サービスセンター(Centers for Medicare & Medicaid Services)は、エビデンスに基づくガイドラインを適用することで予防可能な 11 の院内発生の問題に関するカテゴリーを設定している。そのうちの 1 つが、人工膝関節置換術および人工股関節置換術後の VTE 予防である。Hospital Compare (http://medicare.gov/hospitalcompare)は、4000 以上のメディケア認定病院における VTE ケアの質に関する情報をまとめている。評価項目としては以下のものがある。
1) 入院または手術の当日または翌日に血栓予防の治療を受けた患者
2) 集中治療室に入院した当日または翌日に血栓予防の治療を受けた患者
3) 入院中に血栓を発症し、血栓を予防できる治療を受けなかった患者
4) 血栓を発症した患者が抗凝固薬を服用して退院し、その薬に関する指示書を受け取ったかどうか。
DVT 患者のケアに関して、専門機関はどのようなことを推奨しているか?
ACCP は一連の包括的なガイドラインを提供しており、最終的には 2012 年に完全な形で出版された。ASH はまた、抗凝固療法、診断、がん、妊娠、外科的および内科的患者における VTE 予防に関するガイダンスも提供している。予防、がん、妊娠、再発 VTE、PTS に関する特定のガイドラインも用意されている。最も一般的な臨床的質問に対する主要な専門機関の推奨の要約は、付録表 3(Annals.org で入手可能)に記載されている。