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内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床についての論文のまとめ

オリーブオイルの摂取量が多い人は認知症関連死が少ない。

2024-12-18 19:56:58 | 神経
オリーブオイルの摂取量と認知症関連死との関係
JAMA Netw Open 2024; 7: e2410021

背景
高齢者の 3 分の 1 がアルツハイマー病 (Alzheimer disease) やその他の認知症で死亡している。脳卒中や心臓病などの疾患による死亡は過去 20 年間で減少しているが、年齢標準化した認知症死亡率は増加傾向にある。地中海食 (mediterranean diet) は、特に心血管アウトカムに対する多面的な健康効果が認められているため、人気が高まっている。地中海食の一部として、オリーブ油は一価不飽和脂肪酸 (monounsaturated fatty acid) やビタミン E (vitamin E)、ポリフェノール (polyphenol) などの抗酸化作用を持つ化合物を多く含むため、抗炎症作用や神経保護作用を発揮する可能性がある。Prevencion con Dieta Mediterranea(PREDIMED)ランダム化試験の一環として実施されたサブスタディでは、低脂肪の対照食と比較して、地中海食と 6.5 年間にわたる高用量のオリーブ油摂取が認知機能低下を予防するというエビデンスが示された。

オリーブオイルの摂取と認知機能に関する先行研究のほとんどが地中海沿岸諸国で実施されたものであることから、オリーブオイルの摂取量が一般的に少ない米国で研究することは、ユニークな知見を提供する可能性がある。最近、我々は、米国の大規模前向きコホート研究において、オリーブオイルの摂取が総死亡リスクおよび原因別死亡リスクの低下と関連していることを示したが、オリーブオイルを 7 g/日以上摂取している参加者では、ほとんど摂取していない参加者に比べて神経変性疾患死亡リスクが 29%(95%信頼区間 [confidence interval: CI], 22%-36%)低かった。

本研究では、米国の女性および男性を対象とした 2 つの大規模前向き研究において、オリーブオイルの総摂取量とその後の認知症関連死亡リスクとの関連を検討した。さらに、食事の質(地中海食の遵守とAlternative Healthy Eating Index [AHEI] スコア)とオリーブオイル摂取の認知症関連死亡リスクとの関連を評価した。また、他の食事脂肪を同量のオリーブ油で代用した場合の認知症関連死亡リスクの差も推定した。

デザイン、設定、参加者:
この前向きコホート研究では、Nurses' Health Study(NHS;1990-2018 年)と Health Professionals Follow-Up Study(HPFS;1990-2018 年)のデータを検討した。対象は NHS の女性および HPFS の男性で、ベースライン時に心血管疾患およびがんを発症していない者であった。データは 2022 年 5 月から 2023 年 7 月まで解析された。

曝露:
オリーブ油摂取量は、食物摂取頻度調査票を用いて 4 年ごとに評価し、(1)摂取なしまたは月 1 回以下、(2)0 g/日超~4.5 g/日以下、(3)4.5 g/日超~7 g/日以下、(4)7 g/日超に分類した。食事の質は Alternative Healthy Eating Index と Mediterranean Diet のスコアに基づいて評価した。

主要アウトカムと測定:
認知症死亡は死亡記録から確認した。多変量 Cox 比例ハザード回帰を用いて、遺伝的因子、社会人口学的因子、ライフスタイル因子などの交絡因子で調整したハザード比(hazard ratio: HR)と95%CI を推定した。

結果
92,383 人の参加者のうち 60582 人(65.6%)が女性で、平均(標準偏差)年齢は 56.4(8.0)歳であった。28 年間の追跡期間中(2,183,095 人·年)、4751 人の認知症関連死が発生した。

表 1. 参加者の背景
https://jamanetwork.com/downloadimage.aspx?image=https://cdn.jamanetwork.com/ama/content_public/journal/jamanetworkopen/939364/zoi240363t1_1718974346.47492.png?Expires=1737087407&Signature=1mpvjaUpXvFbDphDAy2V-ZITA8hPXJgmB1E7qDHltyMolngCpacnk~Rx9c2VuVLpIUH-Pd58bKmD1xj7DFNzuZXkF3ojiND4O1WTk3GXg26kP5zVIT-L4rf33KdRMtLdoxr1g-60I2XZ5pvDilf8exTz1KWrQtxEGK2~OoEpIiqOmst9-2cflwVmvT2e2k0WlKTUpzUwdPu4n0V6inVxKVtOKGQ3xYZqi4X4jnS4TM4p1Er8tBXl-Ny9swOjYbZ6qh1NL3BaURTqWBl5JTuA8ld42Crgnbh66uMtRseI74umi27sFd7q6JfStG8za3GOfoLapizDPwqkgBHYsZStpw__&Key-Pair-Id=APKAIE5G5CRDK6RD3PGA&sec=249764916&ar=2818362&imagename=&siteId=214

アポリポ蛋白 ε4(apolipoprotein ε4: APOE ε4)対立遺伝子がホモ接合体である人は、認知症で死亡する可能性が 5-9 倍高かった。

補遺 1. アポリポ蛋白 ε4 対立遺伝子の保有の認知症関連死亡についてのオッズ比
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2818362#note-ZOI240363-1

オリーブ油を 1 日 7 g 以上摂取することは、全く摂取しない、あるいはほとんど摂取しない場合と比較して、認知症関連死のリスクを 28%低下させることと関連していた(調整プール HR, 0.72[95%CI, 0.64-0.81])(傾向の P <0.001)。

表 2. オリーブオイルの摂取量のカテゴリー別の認知症関連死亡のリスク
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2818362#zoi240363t2

この結果は、APOE ε4 でさらに調整しても一貫していた (補遺 1)。

食事の質スコアによる交互作用は認められなかった。

図 1. 食事の質スコア別のオリーブオイル摂取量と認知症関連死亡リスクとの関連
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2818362#zoi240363f1

モデル化された代替分析では、マーガリンおよびマヨネーズ 5 g/日を同量のオリーブ油に置き換えると、認知症死亡リスクが 8%(95%CI, 4-12%)から 14%(95%CI, 7-20%)低下した。他の植物油やバターへの置き換えは有意ではなかった。

図 2. 他の脂質をオリーブオイルに置き換えた場合の認知症関連死亡リスクの変化
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2818362#zoi240363f2

議論
本研究では、米国の女性および男性を対象とした 2 つの大規模前向き研究において、オリーブオイルの総摂取量とその後の認知症関連死亡リスクとの関連を検討した。さらに、食事の質(地中海食の遵守と Alternative Healthy Eating Index [AHEI] スコア)とオリーブオイル摂取の認知症関連死亡リスクとの関連を評価した。また、他の食事脂肪を同量のオリーブ油で代用した場合の認知症関連死亡リスクの差も推定した。

NHS と HPFS では、オリーブオイルの摂取量が多いほど、認知症死亡を含む神経変性疾患死亡のリスクが低いことが観察された(HR, 0.81 [95% CI, 0.78-0.84])。認知機能低下や認知症発症に関するエビデンスは、認知症死亡に関するものよりも蓄積されている。フランスの 3 都市研究(n = 6947)では、オリーブオイル摂取量が最も多い参加者は、視覚的記憶に関する 4 年間の認知機能低下を経験する可能性が 17%(95%CI, 1%-29%)低かったが、言語的流暢性については関連は認められなかった(オッズ比 [odds ratio: OR], 0.85 [95%CI, 0.70-1.03])。

さらに、オリーブ油の摂取量が多い人(中程度または多い人 v.s. 全く摂取しない人)は、言語流暢性と視覚記憶認知障害のリスクが低かった。性差については調査されていない。地中海風の食事にエクストラバージンオリーブオイル(1 L/週/世帯)またはナッツ(30 g/日)を補充した PREDIMED 試験では、著者らは、285 人と 522 人の (?) 認知的に健康な参加者を対象に、全体的および詳細な神経心理学的バッテリテストを用いて認知への影響と状態を調査した。この研究は、もともと認知機能のアウトカムのためにデザインされたものではなく、オリーブオイルの効果を分離することはできないが、6 年半後、オリーブオイル群は、低脂肪食(対照)と比較して、言葉の流暢さと記憶テストにおいて認知機能の改善を示し、軽度認知障害を発症しにくかった(OR, 0. 34[95%CI, 0.12-0.97];n = 285)。認知機能の全体的な能力は、試験後の対照群(n = 522)と比較して、オリーブオイル群とナッツ群の両方で高かった。これらの研究は、米国の集団と比較して一般的にオリーブオイルの摂取量が多いヨーロッパで実施された。

観察研究やいくつかの臨床試験では、地中海式、DASH、MIND、AHEI などの食事が、より健康的な脳構造、認知障害やアルツハイマー病リスクの減少、認知機能の改善につながることが一貫して認められている。我々の研究では、食事の質に関係なく、オリーブオイルの摂取量が最も多い人(7 g/日以上)は、摂取量が少ない人(全く摂取しないか、月に 1 回以下)に比べて、認知症に関連した死亡リスクが最も低かった。このことは、オリーブオイルが特異的な役割を果たす可能性があることを示している。しかし、AHEI スコアが高く、オリーブオイルの摂取量が多いグループは、認知症死亡リスクが最も低かった(HR, 0.68 [95% CI, 0.58-0.79];AHEI スコアが低く、オリーブオイルの摂取量が少ないグループとの比較)ことから、食事の質の向上とオリーブオイルの摂取量の増加を組み合わせることで、より高い効果が得られる可能性が示唆された。

オリーブオイルの摂取は、血管の健康状態を改善することで、認知症死亡率を低下させる可能性がある。いくつかの臨床試験では、内皮機能、凝固、脂質代謝、酸化ストレス、血小板凝集、炎症の減少の改善を通じて、CVD を減少させるオリーブオイルの効果が支持されている。動物実験およびヒトでの研究から、オリーブ油、特にエクストラバージンオリーブ油に含まれるフェノール化合物が、炎症、酸化ストレスを抑制し、血液脳関門機能を回復させることで、脳のアミロイド β やタウに関連した病態を減少させ、認知機能を改善する可能性があることが示されている。しかし、我々の研究では、CVD、高コレステロール血症、高血圧、糖尿病は、オリーブオイル摂取と認知症関連死との関連性の有意な媒介因子ではなかった。

この関連は男女ともに有意であったが、モデルを完全に調整した後では男性には残らなかった。いくつかの先行研究では、認知に関連した性差が報告されている。また、認知機能低下を予防するための生活習慣介入に対する性差かつ/または性差に特異的な反応が、おそらく脳の構造、ホルモン(性)および社会的要因(性)の違いによって示された。それにもかかわらず、オリーブオイルの摂取が致死的な認知症リスクに及ぼすコホート間の有意な異質性や相互作用は観察されなかった。今後、オリーブオイルの認知関連転帰に対する関連や効果を検討する研究では、性差や性差を注意深く考慮し、理解を深める必要がある。

我々は、バターや他の植物油ではなく、マーガリンやマヨネーズの代わりにオリーブ油を使用することが、認知症に関連した死亡リスクの低下と関連していることを発見した。研究当時、マーガリンとマヨネーズにはかなりのレベルの水素添加トランス脂肪酸が含まれていた。トランス脂肪酸は、全死因死亡率、CVD、2型糖尿病、認知症と強い関連がある。米国食品医薬品局は、2020 年に部分水素添加油を食品に添加することを禁止した。トランス脂肪酸を含まないマーガリンの摂取量を調べる今後の研究は有益であろう。バターをオリーブ油に置き換えることは、2 型糖尿病、CVD、総死亡のリスク低下と関連することがわかっていた。本研究では、バターと認知症死亡リスクとの関連は認められなかった。先行研究では、バター自体の関連性は検討されていないが、チーズ、ヨーグルト、牛乳などの普通脂肪乳製品の摂取は、認知機能の低下、認知機能の低下、認知症とは関連しないか、逆相関することが報告されている。

われわれのコホート解析にはいくつかの長所がある。すなわち、追跡期間が長いこと、認知症死亡症例の数が多くサンプルサイズが大きいことである。また、APOEε4 対立遺伝子のジェノタイピングを参加者の大規模なサブサンプルで行い、このよく知られたアルツハイマー病の危険因子に起因する交絡の可能性を減少させた。さらに、食事、体重、生活習慣を繰り返し測定することで、長期的なオリーブオイル摂取と交絡因子を考慮することができた。さらに、cumulative average diet (ベースラインとその後の複数の時点における食事摂取量の平均のこと。複数回食事摂取量を調査する研究で用いられることが多い) を更新することにより、摂取量の個人内変動を考慮し、ランダムな測定誤差を減少させた。

限界
この研究には限界がある。本研究は観察研究であるため、逆因果の可能性は排除できない。しかし、交差的時間差相関分析の結果は、主要解析と一致しており、オリーブオイル摂取はもともと発症していた認知症の結果ではなく、認知症死亡の予測因子であることを示唆している。オリーブオイルの摂取量が多いほど、より健康的な食事をしていることやが社会経済的背景が高いことを示すというのはもっともなことであるが、後者を考慮しても結果は一貫していた。主要な共変量で調整したにもかかわらず、未測定の因子による交絡が残っている可能性がある。また、本研究は医療従事者を対象に行われた。このことは、社会経済的要因による交絡の可能性を最小化し、高い教育水準による報告を増加させると考えられるが、一般化可能性を制限する可能性もある。われわれの集団は非ヒスパニック系白人の参加者が多く、より多様な集団への一般化可能性を制限している。さらに、ポリフェノールやその他の非脂質生物活性化合物の含有量が異なる様々な種類のオリーブオイルを区別することができなかった。

結論
本研究により、米国の成人、特に女性において、食事の質にかかわらず、オリーブ油を多く摂取することが認知症関連死亡リスクの低下と関連することが明らかになった。マーガリンやマヨネーズの代わりにオリーブ油を摂取することは、認知症死亡リスクの低下と関連しており、認知症にならずに寿命を延ばせる可能性がある。これらの知見は、オリーブ油やその他の植物油を選択することを推奨する現在の食生活を、認知症に関連する死亡率の文脈にまで拡大するものである。

元論文
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2818362

小脳梗塞

2024-10-30 10:49:49 | 神経

小脳梗塞の診断と初期治療についての総説

Lancet Neurol 2008; 7: 951-964

 

小脳梗塞は脳卒中の重要な原因のひとつだが、しばしばよくある非特異的な症状 (浮動性めまい、嘔気、嘔吐、歩行の不安定さ、頭痛) を呈する。小脳梗塞を正確に診断するためには、患者の協調運動、歩行、眼球運動を注意深く観察する必要があるが、特に小脳梗塞を疑っていない場合はこれらの神経所見の確認は省略されることがある。

小脳梗塞の鑑別疾患は幅広く、多くのよくある良性疾患を含む。さらに、後頭蓋窩の梗塞は初期には CT でとらえられることは稀である。

不十分な診察と画像検査は誤診につながるが、早い段階で正確に診断することは治療可能だが致死的な合併症、すなわち脳幹圧迫や閉塞性水頭症を防ぐのに極めて重要である。また、小脳梗塞の原因となっている血管病変を早期に発見し、治療することは脳卒中の再発を防ぎ、患者の予後を改善させることにつながる。

 

1. 疫学

9件の観察研究によると小脳梗塞は全脳梗塞の 3% (660/23426) を占める。小脳梗塞患者の平均年齢は 65歳で 3分の2 は男性である。脳梗塞の危険因子である高血圧、糖尿病、喫煙、脂質異常症、心房細動は、小脳梗塞にも当てはまる。

 

2. 解剖

小脳は半球 (hemisphere) と虫部 (vermis) からなり、意図した運動と実際の運動との差を修正し、運動を調節する機能を担っている。

小脳が障害されると、運動の正確さや協調性が失われ、動きを学んだり、修正したりすることが難しくなる。

これらの機能については小脳の区域で担当が分かれている。小脳の上部は四肢 (半球) 、体幹 (虫部) 、構音 (傍虫部) を担当しており、下部は眼球運動と前庭系を担当している。

小脳から四肢に至る神経路は交叉していないか二回交叉しているので、片側の小脳の障害では、同側に運動失調が出やすい。一方、頭部、頚部、体幹については小脳の両側から投射されているので、両側に運動失調を認めたり、左右差がはっきりしなかったりすることが多い。

小脳は小脳脚 (cerebllar peduncles) を介して他の中枢神経領域と密接に連絡している。下小脳脚は延髄 (medulla) の高さで脊髄と前庭からの入力を受けている。中小脳脚は橋 (pons) の高さで小脳半球からの出力を受けている。上小脳脚は橋中脳結合 (pontomesencephalic junction) の高さで小脳深部の核からの出力を受けている。

3つの小脳脚と小脳は第4脳室 (the fourth ventricle) の天井となり、中脳水道 (aqueduct of Silvius) の一部と重なっている。

小脳と脳幹は後頭蓋窩 (posterior fossa) に密に詰め込まれており、上は硬膜である小脳テント (tentorium cerebelli) に、下は頭蓋骨に接している。この解剖についての知識は小脳卒中の最も重篤な合併症である脳幹圧迫および閉塞性水頭症、脳ヘルニアを理解するのに重要である。

小脳は 3対の動脈から血流を受けている。3対の動脈とは、後下小脳動脈 (posterior inferior cerebellar artery: PICA)、前下小脳動脈 (anterior inferior cerebellar artery: AICA)、上小脳動脈 (superior cerebellar artery: SCA) である。

椎骨動脈 (vertebral artery) は鎖骨下動脈 (subclavian artery) から分枝し、頚椎の横突起 (transverse foramina) を上行し、第2頚椎から硬膜 (dura) を貫通して頭蓋内に入る。

左右の椎骨動脈が合わさって脳底動脈になる前に、椎骨動脈はふつう前脊髄動脈 (anterior spinal artery) と PICA を分枝する。

脳底動脈からは脳幹の大部分を灌流する穿通枝 (penetrating vessels) が何本か分枝し、 AICA と SCA が分枝する。SCA が分枝した後で脳底動脈ほ左右に分かれて、後大脳動脈 (posterior cerebral artery) になる。後大脳動脈は視床 (thalamus)、内側側頭葉 (medial temporal lobe)、後頭葉 (occipital lobe) を灌流する。後大脳動脈は近位部で後交通動脈 (posterior communication artery) を介して前方循環 (anterior cerebral circulation) と連絡する。したがって、小脳梗塞はしばしば脳幹梗塞や半球梗塞を合併する。

小脳の 3対の動脈の近位部からは脳幹の外側を灌流する枝が出ており、小脳梗塞の際には一般に脳幹外側も障害される (PICA 梗塞→延髄外側虚血→ワレンベルク症候群など)。

AICA から内耳動脈 (internal auditory artery) が分枝するので、小脳梗塞には聴力低下や浮動性めまい などの内耳障害を合併しうる。

小脳の動脈支配には相当なバリエーションがあるのは知っておくべきである。このために同じ動脈が梗塞しても患者によって呈する神経症状はかなり異なる。

後方循環系の脳梗塞 88症例の病理を検討した観察研究では、49例で血管発生のバリエーションを認めた。特に多かったのは、椎骨動脈、後小脳動脈近位部、後交通動脈の片側または両側の低形成だった。

 

3. 病理

前方循環の脳梗塞と同様に、後方循環の脳梗塞の原因として多いのは心原性塞栓、太い血管の動脈硬化のふたつである。小血管の病変や動脈原性塞栓症 (artery-to-artery embolism) も重要な原因である。

椎骨動脈の動脈硬化は頭蓋内、頭蓋外のいずれでも起こり得る。上記のどの原因の頻度が高いか、どの太い血管に動脈硬化が生じやすいかは人種や性別によって異なる。

特に若い小脳梗塞患者では卵円孔開存 (patent foramen ovale: PFO) の可能性を考えることは重要である。40歳未満の小脳梗塞患者を対象にした観察研究では、心原性塞栓症による小脳梗塞の半数で卵円孔開存を認めた。

椎骨動脈解離 (vertebral artery dissection) も若年者の小脳梗塞の原因として重要である。椎骨動脈解離患者 169例を対象にした症例集積研究では、年齢の中央値は 43歳で男女差はなかった。80%近くで脳虚血を合併しており、そのほとんどは後方循環の梗塞だった。40歳未満の小脳梗塞 37例を対象にした症例集積研究では、27%は椎骨動脈解離による PICA 支配領域の梗塞だった。椎骨動脈解離は子どもでも起こる。椎骨動脈解離患者でカイロプラクティックを含む頭頚部の外傷歴が確認できるのは半数に満たない。椎骨動脈解離には、俗に美容院梗塞 (beauty parlour stroke) と呼ばれる長時間の頚の過伸展が原因で起こるものがあるかもしれない。

頻度の低い椎骨動脈解離の原因としては、血栓傾向、血管炎 (巨細胞動脈炎、髄膜血管梅毒 (meningovascular syphilis) 、静脈血栓症、マリファナ (marijuana) 、コカイン中毒、片頭痛がある。

PICA 梗塞は SCA 梗塞より多く、AICA 梗塞は最も頻度が少ない。最も症例数が多い小脳梗塞の症例集積研究 (n=293) では 258例 (88%) は片側性で、一部は複数の動脈が梗塞していた (AICA と PICA の梗塞など) 。症例数の少ない症例集積研究 (n=34) では、13例 (38%) で複数の動脈が梗塞していた。

両側の小脳梗塞では心原性梗塞が原因の可能性があるが、片側で複数の動脈が梗塞する場合はアテローム血栓性疾患の可能性が高い。心原性梗塞による小脳梗塞では、出血性梗塞となることが多い。出血性梗塞では、血腫による晩期合併症のリスクが高くなる。

PICA, AICA, SCA の支配領域の梗塞の他に、大血管の支配領域の境界部に生じる梗塞がある。これらの 2 cm に満たない小梗塞は、表層にある場合も、深部にある場合も境界域梗塞 (borderzone infarcts) と呼ばれ、小脳梗塞の 23-31%を占める。境界域梗塞の危険因子は脳梗塞一般の危険因子と同じである。

小脳深部に起こる梗塞は塞栓や動脈硬化が明らかでない慢性的に高血圧の患者で起こるが、穿通枝の脂肪硝子変性 (lipohyalinosis) が原因である証拠はない。それゆえ、小脳深部に起こる梗塞に対して「ラクナ梗塞 (lacunar stroke)」という術語を用いている文献を見かけることがあるが、おそらく好ましくない。

 

4. 臨床所見

梗塞が小脳に限定している場合は、患者はふつう非特異的な症状 (浮動性めまい、嘔気、嘔吐、歩行時のふらつき、頭痛) および神経症状 (構音障害、運動失調、眼振) を経験する。これらの症状·神経所見は認めないこともあるし、はっきりしないこともあり、前庭 (vestibular system) に由来する良性疾患との鑑別は難しい。小脳梗塞の症状は 3つの動脈のどれが梗塞しても同様である。

脳底動脈起始部の梗塞は重篤 (昏睡、四肢麻痺など) になり得るが、稀である。脳底動脈起始部の梗塞の初発症状で混乱を呈するのは 26%、昏睡を呈するのは 3%に過ぎない。

古典的な交代性片麻痺 (同側の脳神経麻痺と対側の四肢麻痺を呈するもの) は脳幹に病変が及んでいることを示唆する。ただし、脳幹梗塞で交代性片麻痺を認めないことは多い。

延髄外側梗塞 (PICA 梗塞による) では、前庭症状の他に、注意深く所見を取らないと容易に見落とすが、ホルネル徴候や片側痛覚脱失を呈することがある。

橋外側梗塞 (AICA 梗塞による) では、前庭症状の他、第 VI, VII 脳神経 (外転神経、顔面神経) 麻痺を呈することがある。そのため末梢性多巣性脳神経障害と紛らわしい。

耳鳴 (tinnitus) や聴覚障害 (hearing loss) をともなう場合は内耳梗塞を示唆し、典型的には AICA 梗塞で認める。この場合も病変が中枢にあるのか、末梢にあるのかの判断は難しい。

他の脳梗塞と同様に、小脳梗塞の症状は突然出現する。そして、体の複数の部位に起こる症状は通常は同時に生じる。

後方循環の脳梗塞の 22%で一過性脳虚血発作 (transient ischaemic attacks: TIA) を認める。しかし、前方循環の TIA と異なり、浮動性めまい、嘔気、嘔吐、歩行の不安定さ、頭痛などの症状が脳梗塞の前兆だととらえられることは少ない。

浮動性めまい (±回転性めまい) は小脳梗塞の 3/4 で認める。めまいは一般診療で非常に多い症状のひとつであり、前庭由来の回転性めまいの 1年あたりの有病率は 5%である。また、外来患者の 5%はめまいを主訴に受診する。さらにめまいを主訴に救急外来を受診する患者の半数以上が 7日以上前から症状を自覚している。

内科医は症状の性状に基づいてめまいを 4つのカテゴリー (回転性めまい、前失神、平衡失調、非特異的な浮動性めまい) のいずれかに落とし込むように教えられる。しかし、最近の研究によるとこのアプローチは最適ではないかもしれない。

めまいを主訴に救急外来を受診した 44歳以上の患者 1666名を対象にした観察研究によると、めまいという非特異的な術語を用いた患者でも、回転性めまいという特異的な術語を用いた患者でも脳卒中は同じ割合で見つかった。

めまいを主訴に救急外来を受診した 316名を対象にした前向き観察研究では、91%(287名) がめまいの 4つのカテゴリーのいずれかに分類されたが、数分後に再度症状と一番よく合うカテゴリーを問うと、52%でカテゴリーの変更があった。カテゴリーの変更があった患者では、めまいの持続時間や誘因についての質問に対する回答の方が一貫性があり、信頼できた。このことから、症状のタイプに基づいて分類するよりも、持続時間や誘因にフォーカスして問診した方が有用な情報が得られるかもしれない。

小脳梗塞にともなうめまいは時に短時間で治まることもあるが、ふつうは数日間続く。また嘔気 (しばしば嘔吐をともなう) 、歩行の不安定さ、頭位変換による症状増悪、眼振をともなう。これらの随伴症状は末梢性めまいでも認める。

脳卒中はめまいの原因の中で最も重篤なものだが、めまいの原因としては聴覚障害をともなわない前庭神経炎 (vestibular neuritis)や聴覚障害をともなう内耳炎 (labyrinthitis) の方がずっと多い。

明らかな神経症状 (片麻痺、構音障害、四肢の運動失調) を認める場合は中枢性めまいと末梢性めまいの鑑別は容易だが、このような神経症状を認めるのはめまいを訴える脳梗塞患者の半数強でしか認めない。

240名の小脳梗塞患者を対象にした観察研究では、25名で聴覚障害をともなわない急性発症の前庭症状のみを認めた。このうち、24名は PICA 梗塞で、1名は AICA 梗塞だった。AICA 梗塞はしばしば聴覚障害をともなうので内耳炎と紛らわしい。

小脳梗塞の半数以上で嘔気、嘔吐を認める。めまいの程度と不釣り合いに嘔吐している場合もあるし、嘔気、嘔吐のみを呈する場合もある。

小脳梗塞のおよそ半数で歩行の不安定さを認める。片側の小脳梗塞の場合、ほとんどの患者は病側に転倒する。前庭症状を呈する小脳梗塞患者 25名の検討では、支えなしで転倒せずに歩けたのは 7名だけだった。末梢性めまいでも歩行の不安定さと一側への転倒を認めるが、歩いているときだけでなく、立っても座っても動揺している場合は中枢性が疑わしい。歩行障害が主訴である場合は脳卒中の可能性が高くなる。

頭痛は前方循環の梗塞よりも後方循環の梗塞で多く、特に小脳梗塞で多い。小脳梗塞の 40%近くが頭痛を自覚している。頭痛は脳梗塞自体が原因になることもあるし、脳梗塞の原因となっている血管病変 (椎骨動脈解離など) が原因になっていることもある。小脳梗塞にともなう頭痛は後頭部や (後) 頚部であることが多い。頭痛が片側の場合は、病側に出現する。小脳梗塞は時にくも膜下出血のように雷鳴頭痛として発症することがある。若年者でめまいが先行する頭痛や片頭痛よりも長く続く (片頭痛は 1-3日) 頭痛では、椎骨動脈解離の可能性を考えると良い。

構音障害、失調、眼振は小脳卒中でよく見る症状である。小脳梗塞のおよそ半数で構音障害を認める。構音障害はふつう傍虫部上部 (upper paravermal area) が責任病変であり、多くの場合 SCA 梗塞で認める。

ただし、構音障害は後方循環の梗塞に特異的ではない。構音障害を認める脳卒中 62例の検討では、38例は小脳テントより上に病変があり、小脳梗塞はわずか 9例だった。

めまいをともなう構音障害はほとんどの場合、中枢神経系に病変がある。例外としては耳性帯状疱疹 (herpes zoster oticus) で前庭機能障害をともなう顔面神経麻痺を認める場合などがあるが、稀である。

四肢の運動失調は小脳卒中で必ず認めると思い込んでいる人は多いが、実際には小脳に病変がある患者の 40%で認めない。失調はテント上の病変でも認めることがある。

眼振は小脳梗塞のおよそ半数で認めるが、末梢性の前庭機能障害でも起こる。特に誘因なく起こった垂直方向やねじれた (torsional) 眼振は中枢性を疑わせる。また、側方視で誘発される水平方向の眼振 (左右注視眼振) も中枢性を示唆する。

 

5. 鑑別診断

小脳梗塞の急性期では CT では所見を認めないことを知らないと小脳梗塞を見逃しやすくなるだろう。多施設の 400名の救急医を対象にした観察研究では、上記の誤解が多く、特に経験年数の少ない救急医では多かった。

めまいを訴える小脳卒中患者では、末梢性めまい症や薬物-代謝障害と誤診されることが多い。めまいを訴える患者が一過性脳虚血発作や脳卒中である可能性は低い。44歳以上のめまいで救急外来を受診あるいは入院した患者 1666名のうち、小脳卒中または一過性脳虚血発作だったのはわずか 3%だった。小脳卒中 46例のうち、救急医が正しく診断できたのは 16例のみだった。一過性脳虚血発作または脳卒中の患者はそうでない場合と比べて高齢で男性が多く、2つ以上の危険因子を持っていた。

小脳卒中の患者が嘔気または嘔吐を呈している場合、胃腸炎と誤診されることが多い。嘔吐している患者でその他の症状 (下痢、熱、胸痛、腹痛) を認めない場合は、中枢神経系の疾患である可能性を考えると良い。その場合は注視眼振 (gaze evoked nystagmus)、四肢の失調 (limb ataxia) 、測定障害 (dysmetria) 、体幹失調 (truncal instability)、歩行の不安定さ (gate instability) の有無を確認するべきである。

小脳卒中患者が頭痛を呈する場合、片頭痛と誤診されることが多い。誤診を防ぐためには、臨床医は新しい、突然発症の、持続性の、いつもと違う、後頭部または頚部の痛みのいずれかを認めた場合は全例小脳卒中ではないかと疑って診察するべきである。

片頭痛は一過性のめまいと頭痛のよくある原因であるが、一過性のめまいと持続性の頭痛を認めた場合は必ず小脳卒中または一過性脳虚血発作を疑うべきである。片頭痛はふつうは 3日以上続かない。したがって、3日以上続く頭痛では椎骨動脈解離を疑うべきである。

危険因子に注目していると、若い (50歳未満) 小脳梗塞を見落とす。そして、診断が遅れると死亡したり、永続的な障害を残したりすることになる。症状が片側であったり、明らかな神経所見を認める場合は容易に診断できるが、そのような場合は少ない。

眼球運動の評価 (追跡眼球運動: visual smooth pursuit、垂直方向の目の位置、眼振の向き、前庭動眼反射: vestibulo-ocular reflex (VOR)) は正しく評価できれば中枢性めまいを末梢性めまいから感度、特異度 92%で鑑別できる。

単独で小脳卒中と前庭神経炎とを区別できる身体所見はないが、head inpulse (or head thrust) manoeuvre は恐らく最も的中率が高い。これは非専門医が行える VOR の機能を評価するための試験である。小脳卒中では head inpulse test は陰性であり、前庭神経炎や内耳炎ではふつう陽性になる。MRI の拡散強調像で小脳梗塞を示唆する所見が得られなくても (偽陰性でも)、head inpulse test が陰性であることから小脳梗塞が診断できる場合がある。

head inpulse test が陽性の場合はふつうは前庭に病変があるが、例外もあるので注意が必要である。前庭神経炎が疑わしい場合は、眼球運動異常の三徴、すなわち head inpulse test 陽性、定方向性眼振 (direction-fixed nystagmus)、斜偏倚 (skew deviation, 眼球が垂直方向に偏倚すること、リンク参照) を認める場合は 91%の陰性的中率で脳卒中を除外でき、78%の陽性的中率で前庭機能障害を診断できる。この 3つの身体所見は発症 24時間以内の脳卒中の診断については MRI と同等の感度がある。

片麻痺や意識状態の変化など明らかな神経所見をともなう場合は中枢神経系に病変がある可能性が高く、緊急で画像検査を行う必要がある。

明らかな神経症状を認めない場合は、複視 (diplopia) 、構音障害 (dysarthria)、嚥下障害 (dysphagia) 、発声障害 (dysphonia)、顔面感覚異常 (facial dysaesthesia) の存在を確認ことを意識して review of system を行うと良い。一般的には神経所見を一通り取ることが勧められるが、特に四肢の協調運動 (limb coordination)、体幹と歩行の安定性 (trunk and gait stability)、眼球運動を中心とする脳神経の機能評価に注意するべきである。

小脳梗塞を診断するのは難しいことがある。小脳梗塞を診断する最初の一歩は、「小脳梗塞の可能性はないか?」と疑うことである。臨床医は頭痛、めまい、歩行障害、嘔吐の患者の全てに対して小脳梗塞ではないことを確認することはできない。そのため、どの患者で小脳梗塞を疑うかを決めなければならない。著者らは危険因子によるリスク層別化と、病歴、身体所見の組み合わせがどの患者を精査するべきかを決めるのに役立つと信じているが、この戦略の妥当性については前向き研究で検討されていない。

 

6. 血管病変の診断

脳卒中に対して緊急で行われる画像検査で最もよく用いられるのは CT である。CT は脳出血を正確に除外することができるが、発症から数時間の脳梗塞では所見を認めないのがふつうである。また、頭蓋底の骨によるアーティファクトのために後頭蓋窩の梗塞は特に感度が低い。

MRI は CT と比べて急性脳梗塞に対する感度がずっと高く、拡散強調像を用いれば発症 24時間以内の脳梗塞に対する感度は 80-95%だと報告されている。MRI でも後頭蓋窩の梗塞に対しては、前方循環の梗塞と比較して偽陰性となる頻度が高いかもしれない。画像検査の結果は個々の患者の臨床経過と照らし合わせて解釈しなければならない。

脳梗塞を診断したら、その原因となっている血管病変を同定することが次のステップである。脳梗塞の血管病変を描出するために利用される主な画像検査はドップラーエコー (doppler ultrasound, リンク参照)、CT アンギオグラフィー (CT amgiography: CTA)、MR アンギオグラフィー (MR angiography: MRA)、血管造影 (catheter angiograms) の 4つである。

ドップラーエコーの利点は迅速に行え、どこでも行うことができ、費用が安いことである。欠点は術者の技量に依ることである。また、後方循環は前方循環よりも描出が難しい。power motion mode Doppler という新しい撮像法では後方循環の病変も正確に同定できるようになった。それでも感度は 73%に留まる。しかし、power motion Doppler では CTA や MRA の所見を相補する所見が得られることもあり、さらなる研究が望まれる。

血管造影、CTA、MRA は血管病変の同定のために広く行われている。ある研究では、CTA は椎骨動脈の病変描出についてはドップラーエコーよりも優れることが示されている。CTA は多くの施設で実施することができ、迅速に行うこともできるが、造影剤を使用する必要があり、放射線被爆の問題もある。MRA は造影剤は不要で、放射線被爆もないが、行える施設は限られていて、CT に比べて撮影に時間がかかる。さらに後方循環については、MRA よりも CTA の方が感度が高いかもしれない。

カテーテルによる血管造影はゴールドスタンダードだが、行える施設は非常に限られている。CTA と同様に造影剤が必要で放射線被爆の問題があり、よく訓練された術者が必要である。また、血管造影はCTA や MRA と異なり、血管と同時に脳の構造を描出することはできない。ハードウェアとソフトウェアの進歩にともない、古典的なカテーテルによる血管造影から、非侵襲的な CTA、MRA に移行しつつある。

 

7. その他の検査

脳梗塞一般と同様に心電図および心臓超音波 (経胸壁または経食道) は心原性脳塞栓症の診断に有用である。血液検査は血栓形成傾向 (thrombophilia) や血管炎 (vasculitis) の検索のために行っても良い。また、血清の脂質を確認することは脳梗塞再発予防のためのリスク層別化に役立つかもしれない。

 

8. 経過および治療

小脳梗塞患者に限ったランダム化比較試験のデータはない。したがって、小脳梗塞の治療については急性脳梗塞の治療ガイドラインに準ずる。

まず重要なのは、気道 (airway)、呼吸 (breathing)、循環 (circulation) の確保である。低酸素血症の患者には酸素投与を行うべきである。意識障害が出現し、気道防御反射 (protective airway reflexes) が消失している場合には、誤嚥を防ぎ、低酸素血症や高二酸化炭素血症により二次的に脳を損傷しないようにするために挿管するべきである。バイタルサインの異常を認めれば原因を調べ、治療するべきである。たとえば、発熱の原因 (感染性心内膜炎、誤嚥性肺炎) を明らかにし、抗菌薬治療を開始することなどである。経過中は循環動態と酸素飽和度をモニターするべきである。

現在の米国心臓協会 (American Heart Association: AHA) のガイドラインでは、心房細動に対して抗凝固療法を開始するかどうかは血圧に依るとしている。すなわち、持続的に収縮期血圧 185 mmHg または拡張期血圧 110 mmHg を越える場合は抗凝固療法を始めるべきではない。また、収縮期血圧 220 mmHg または拡張期血圧 120 mmHg を越える場合は降圧薬を使用するべきである。

どのような血圧であったとしても患者の循環動態を把握するように努めることは重要である。血圧が不安定あるいは低下した時に神経症状が変動する場合は昇圧剤で脳血流を増加させることも考えるべきである。

小脳梗塞の自然経過では、完全な回復から死亡まである。小脳梗塞の死亡率は 7% (546例中 38例) である。回転性めまいのみ、あるいは回転性めまいと頭痛、嘔吐、運動失調を認め、他の神経症状を認めない場合の長期予後は比較的良い。脳卒中の専門施設で治療を受けた脳卒中患者の方が予後は良い。

小脳梗塞患者の一部ではアルテプラーゼ静脈注射の適応となることがある。しかし、後方循環の脳梗塞に対してアルテプラーゼ静脈注射または動脈注射を行った症例についての検討では、治療前の時点ですでに脳幹にも明らかな病変があった。

血管内治療の経験が豊富な術者であれば、椎骨動脈狭窄に対して血行再建することは可能だが、誰にでもできる手技ではない。血管形成術 (angioplasty)、ステント留置術 (stenting) 、ステント支援下コイル塞栓術 (stent-assisted coiling) などが椎骨動脈解離や椎骨動脈の血栓塞栓症に対して行われている。血管内治療が行われた症例のほとんどは脳底動脈の虚血をともなっており、小脳だけでなく脳幹にも病変が及んでいる。また、ランダム化試験は行われていない。しかし、この領域では活発に研究が進められており、将来有効な治療選択肢が生まれる可能性がある。

 

9. 合併症

どの治療を選択したとしても、続発性の脳浮腫は起こり得、後頭蓋窩の腫瘍性病変のように脳幹圧迫と閉塞性水頭症を来し得る。これは小脳梗塞患者の 10-20%で起こり、脳梗塞発症から 3日後で最も多いが最初の 1週間であればいつでも起こり得る。最も多い症状は注視麻痺 (gaze palsy) と進行性の意識レベルの低下であるが、画像的にマス効果を認める場合でも症状を呈するのは半数である。

CT は第4脳室の変位、閉塞性水頭症、基底槽 (basal cisterns) の消失を検出できるが、マス効果による症状が出現しつつある患者の 25%では初回の CT で所見を認めない。

脳浮腫による症状はふつう小脳梗塞発症から 24時間以上経過した時点で起こり、梗塞した血管の支配領域では説明できない。昏睡に至った場合は手術を行わなければ 85%が死亡する。

どの症例で、いつ手術を行うべきかについてはランダム化比較試験がなく、結論が得られていない。手術は第一選択の脳室ドレナージ (external ventricular drainage) 、後頭下開頭術 (suboccipital craniectomy) および梗塞組織のデブリドマン、あるいは両者の併用が行われる。どの術式が選択するかは意識状態や臨床所見および画像所見を考慮して臨床的に決定される。

理論的には後頭蓋窩の浮腫が存在する状況で脳室ドレナージを行うと上方テント切痕ヘルニア (upward transtentorial herniation) が起こり得るが、実際には多くないようである。昏睡に至り、開頭手術を行った患者のおよそ半数は予後良好 (修正ランキンスケール 2以下) だった。

頭部を 30°まで挙上すると静脈のドレナージが改善する。糖質コルチコイド投与には効果はなく、過換気と浸透圧利尿の効果は一時的である。これらの保存的治療のために手術が遅れてはならないが、脳外科に速やかに転送できない医療機関ではこれらの治療を行うしかないということもあるかもしれない。

 

10. モニタリング

小脳卒中患者の症状が増悪していないかどうかを密に確認することは極めて重要である。神経症状が悪化しているときは、1. 梗塞範囲が広がったか (脳幹梗塞を合併したか)、脳浮腫により二次的に脳幹圧迫·水頭症を来したかを鑑別しなければならない。両者の治療方針は異なるからである。MRI は両者の鑑別に役立つ。

したがって、急性期小脳梗塞患者は神経集中治療室 (neurological intensive care unit) を備えた脳卒中センターで管理するのが望ましい。神経集中治療室は密な経過観察を行っており、緊急で脳画像検査を行うことができ、脳外科医が常にオンコールとして待機している。

 

11. 予防

後方循環の一過性脳虚血発作患者は経過観察目的に入院させた方が良い。後方循環の一過性脳虚血発作の患者がどのくらいいるものなのかは分からないが、2件の観察研究では一過性脳虚血発作を速やかに診断することで脳卒中を防ぎ得たと報告している。

後方循環の梗塞も前方循環の梗塞も危険因子は同じなので、一次予防については両者で違いはない。米国心臓協会のガイドラインでは、脂質異常症、糖尿病、高血圧症、心房細動などの修正可能な危険因子の管理が重要だとしている。

抗血小板薬やスタチンによる二次予防については米国心臓協会による予防ガイドラインにまとめられている。後方循環の一過性脳虚血発作を認識し、原因となっている血管病変を治療することも二次予防として重要である。

 

経頭蓋超音波検査

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jamt/66/J-STAGE-2/66_17J2-10/_html/-char/ja

 

head inpulse test

https://youtu.be/-fs20vQnNzA

 

斜偏倚

https://tsunepi.hatenablog.com/entry/2017/01/31/000000

 

元論文

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18848314/

 


抗 LGI-1 抗体陽性辺縁系脳炎の症例報告

2024-10-30 10:46:17 | 神経

急速に進行する認知機能低下と低ナトリウム血症を特徴とする抗 LGI-1 抗体陽性辺縁系脳炎の 1例

BMJ Neurol 2019; 19: 19

 

背景

抗 leucine-rich glioma inactivate 1 (LGI-1) 抗体陽性脳炎は稀な自己免疫性脳炎であり、急性または亜急性に進行する認知機能低下と、精神障害、fasciobrachial dystonic seizure (リンク参照)、低ナトリウム血症が特徴である。抗 LGI-1 抗体陽性辺縁系脳炎は早期に診断して治療を開始できれば、治療に良く反応し、予後良好な疾患である。

 

症例

急速に進行する認知機能低下と低ナトリウム血症を呈した 56歳男性。血清および髄液から抗 LGI-1 抗体を認め、抗 LGI-1 抗体陽性脳炎と診断した。Mini Mental State Examination と Montreal Cognitive Assessment はそれぞれ 19/30 と 15/30 だった。頭部 MRI では FLAIR および DWI で両側海馬に高信号を認めた。arterial spin labeling による MR 脳血流イメージングおよび 18F-FDG-PET では異常所見を認めなかった。免疫グロブリン療法と糖質コルチコイドで治療を開始すると、患者の症状は著明に改善した。

 

結論

この症例で示されるように、抗 LGI-1 抗体陽性辺縁系脳炎は急速に進行する記憶障害主体の認知症を呈する。抗 LGI-1 抗体陽性辺縁系脳炎を認識することは、早期診断、早期治療を可能にし、予後を改善させる可能性がある。

 

1. 背景

自己免疫性脳炎 (autoimmune encephalitis: AE) は最近になって知られるようになった稀な神経炎症性疾患であり、特定の抗体と関連する。自己抗体の種類によって、AE は臨床所見および予後が異なるサブグループに分類される。この中で、抗 leucine-rich glioma inactivate 1 (LGI-1) 抗体陽性自己免疫性脳炎は治療可能な脳炎である。

抗 LGI-1 抗体陽性自己免疫性脳炎は急速に進行する認知機能低下、精神障害、fasciobrachial dystonic seizure (FBDS) 、治療抵抗性の低ナトリウム血症を特徴とする。抗 LGI-1 抗体陽性自己免疫性脳炎はまた、辺縁系脳炎に含まれると考えられており、通常は傍悪性腫瘍症候群ではない。抗 LGI-1 抗体陽性脳炎は免疫グロブリン療法 (intravenous immunogloblin: IVIG) や糖質コルチコイド、その他の免疫抑制剤による免疫療法によく反応する。残念なことに、抗 LGI-1 抗体陽性脳炎はしばしばウイルス性脳炎や精神疾患と誤診され、免疫療法開始が遅れる。その結果、病態が悪化し、てんかんや昏睡に至る場合もある。

fluorine-18-fluorodeoxyglucose positron emission tomography (18F-FDG-PET) および arterial spin labeling (ASL) は脳局所の血流の変化を感度良く検出できる画像検査である。抗 N-methyl-d-aspartate 受容体抗体陽性脳炎では ASL で局所的な脳の血流増加が特徴であると報告されている。一方、抗 LGI-1 抗体陽性脳炎において ASL で脳の局所的な血流を評価した例は 1例しかない。そこで、著者らは ASL および 18F-FDG-PET で脳局所の血流を評価した。

 

2. 症例提示

56歳男性が 3週間前からの発熱と、2週間前からの記憶障害を主訴に受診した。記憶障害は特に前行性健忘 (anterograde amnesia) が目立った。

神経学的評価では、急速に進行する認知機能低下を認めた。Mini Mental State Examination (MMSE) と Montreal Cognitive Assessment (MoCA) はそれぞれ、19/30、15/30 だった。経過中にけいれんは認めなかった。

髄液検査では、軽度の白血球上昇 (19 /μL, 基準値: 0-8 /μL) 、糖上昇 (5.39 mmol/L, 基準値: 2.5-4.5 m mol/L)、クロール低下 (113.5 mmol/L, 基準値: 120-130 mmol/L) 、蛋白正常 (44 mg/dL, 基準値: 20-40 mg/dL) を認めた。

血液検査では、血清ナトリウム 126 mmol/L, 血清クロール 94.2 mmol/L, 血糖 7.26 mmol/L だった。その他の検査項目には異常を認めなかった。

抗 LGI-1 抗体は髄液および血清で強陽性だった。一方、その他の自己免疫性脳炎のバイオマーカー (NMDAR-Ab, AMPAR2-Ab, GABABR-Ab, Caspr2-Ab) 、腫瘍マーカー (CEA, AFP, CA125, CA19-9, CA15-3, CA724, SCCAg, NSE, T-PSA, CYFRA21-1)、傍腫瘍性抗神経抗体 (paraneoplastic

neuronal antibody) (抗 Hu 抗体、抗 Ri 抗体、抗 Yo 抗体、抗 Ma/Ta 抗体、抗 Amphiphysin 抗体、抗 CV2 抗体、抗 SOX-1 抗体、抗 Tr 抗体) はすべて陰性だった。

脳波は正常だった。

頭部 MRI では FLAIR と拡散強調像で、両側の海馬に高信号を認めた。12日後に撮影した MRI でも同様の高信号を認めた (リンク参照)。

胸部 CT と 18F-FDG-PET では腫瘍性病変を認めなかった。認知機能低下出現から 1か月後に行った ASL および 18F-FDG-PET では、海馬の血流低下や代謝異常は認めなかった。

患者は抗 LGI-1 抗体陽性辺縁系脳炎と診断され、メチルプレドニゾロンと IVIG で治療を開始された。その後、6ヶ月間プレドニゾロン内服を継続した。入院 15 日目には明らかに症状が改善し、軽度の認知機能低下を残した状態で退院した。免疫治療開始から 30日以内に完全寛解し、MMSE では 30/30 に改善した。

 

3.議論

今回、著者らは急速に進行する認知機能低下と低ナトリウム血症を呈した辺縁系脳炎の症例を報告した。臨床所見、血清および髄液から抗 LGI-1 抗体を認めたこと、画像所見、免疫療法によく反応したことから、抗 LGI-1 抗体陽性辺縁系脳炎だと診断した。

抗 LGI-1 抗体陽性辺縁系脳炎は稀な疾患で、認知機能低下、FBDS、てんかん発作、精神障害、低ナトリウム血症を認める。低ナトリウム血症は抗 LGI-1 抗体陽性辺縁系脳炎に特徴的な所見で、60-88%で治療抵抗性の低ナトリウム血症を認めると報告されている。低ナトリウム血症の病態生理としては不適合抗利尿ホルモン分泌症候群が想定されており、視床下部と腎臓に LGI-1 が発現し、抗利尿ホルモンの分泌を刺激するのではないかと考えられている。今回の症例でも、血清ナトリウム 126 mEq/L の低ナトリウム血症を認め、治療抵抗性だった。

認知機能低下、特に短期記憶の障害も抗 LGI-1 抗体陽性辺縁系脳炎によく見られる症状である。抗 LGI-1 抗体陽性辺縁系脳炎の最大 15%で急速に進行する認知機能低下を認める。しかし、抗 LGI-1 抗体陽性辺縁系脳炎にともなう認知機能障害に特徴的な画像所見や長期予後については不明な点も多い。

認知機能障害は抗 LGI-1 抗体が海馬の構造を障害することによるのかもしれない。日本の研究者らは LGI1-ADAM22-AMPAR 系の障害が抗 LGI-1 抗体陽性辺縁系脳炎にととなう記憶障害において重要なはたらきをしているかもしれないと報告している。

幸い、抗 LGI-1 抗体陽性辺縁系脳炎にともなう記憶障害は早期に免疫療法を行うことで予防できる可能性がある。

18F-FDG-PET は脳炎の治療への反応性を評価するのに有用なツールである。最近は自己免疫性脳炎の補助診断としても利用される。自己免疫性脳炎では頭頂葉と後頭葉の代謝が低下し、基底核の代謝が亢進するのが特徴である。自己免疫性脳炎の PET 所見を検討した別の観察研究では、急性期は両側の辺縁系で FDG の取り込みが著明に亢進し、治療後は緩やかに低下して正常化することが報告されている。

ASL は非侵襲的に脳局所の血流の変化を高感度でとらえることができる。ASL で血流亢進は急性期または亜急性期の局所の炎症を反映していると考えられている。抗 LGI-1 抗体陽性辺縁系脳炎で ASL 所見を検討した研究は 1件あり、急性期に海馬および扁桃で血流亢進を認め、治療後は正常化したと報告している。

今回の症例では、18F-FDP-PET および ASL では有意と取れる所見は認めなかった。これは発症から 4週間経過した時点で撮影したからかもしれない。

抗 LGI-1 抗体陽性辺縁系脳炎の ASL 所見について前向きの観察研究が必要だろう。

 

抗 LGI-1 抗体陽性辺縁系脳炎の MRI 所見

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6366039/figure/Fig1/?report=objectonly

 

fasciobrachial dystonic seizure

https://www.med.gifu-u.ac.jp/neurology/column/observation/020.html

 

元論文

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6366039/#__ffn_sectitle

 


下垂体卒中

2024-10-30 10:37:53 | 神経

下垂体卒中についての総説

Endocr Rev 2015; 36: 622-645

 

下垂体卒中は下垂体腺腫の 2-12% に合併する。主な症状は突然起こる激しい頭痛であり、時に視野障害や眼球運動障害をともなう。髄膜刺激症状や意識障害をともなう場合は診断が難しくなる。

頭蓋内圧亢進、高血圧、大手術、抗凝固療法、負荷試験が下垂体卒中の誘因となることがある。

下垂体性副腎皮質機能低下症を合併した場合、治療が遅れると生命に関わる。

CT または MRI で出血かつまたは壊死組織をともなう下垂体腫瘍を確認することで診断は確定される。

かつては下垂体卒中は脳神経外科の緊急疾患と考えられ、全例で手術が行われていた。最近では、症例によっては保存的に加療されることが増えてきている。後ろ向きの観察研究によると、保存的に加療した場合も眼球運動障害、下垂体機能、腫瘍の増大については手術と大差ない。

 

1. 疫学

下垂体卒中の有病率は 6.2/10万人、罹患率は 0.17 /10万人・年だと報告されている。

下垂体腺腫の 2-12%で下垂体卒中を経験し、下垂体卒中発症後に下垂体腺腫が発見されるケースは 3/4 以上である。2件のメタ分析によると、非機能性下垂体腫瘍を保存的に診ていく場合、年率 0.2-0.6%で下垂体卒中を起こす。

下垂体卒中は全ての年齢層で発症し得るが、特に 50-60歳台で多い。

無症候性の下垂体卒中は症候性の下垂体卒中よりもはるかに多い。実際、下垂体腫瘍の最大 25%で出血や壊死組織を認める。

 

2. 誘因

下垂体卒中の 10-40%で誘因を認める。血管内操作、特に脳血管造影は下垂体卒中と関連すると報告されている。血管内操作の数分後に発症する場合もあるし、7時間後に発症した場合もある。血圧の変動や血管攣縮が原因になると言われている。

手術の中では、整形外科と心臓血管外科の手術は消化器や呼吸器、甲状腺の手術と比較して下垂体卒中を合併しやすいようである。整形外科の手術では膝よりも肩や股関節の手術で発症しやすく、手術中あるいは術後 24-48時間に発症することが多い。術中・術後の低血圧、抗凝固、微小血栓が下垂体梗塞の原因になるのではないかと言われている。

心臓血管外科の手術は血圧変動が大きく、抗凝固療法を行うので、下垂体卒中のリスクになることが昔から知られている。特に人工心肺装置 (cardiopulmonary bypass) を使用すると血圧変動が大きくなるので、下垂体腺腫があることが分かっている場合は off-pump で手術を行った方が良いのではないかと言う専門家もいる。

頭部外傷も下垂体卒中の原因になり得る。

また、負荷試験も下垂体卒中のリスクである。多くの場合は負荷後数分以内に発症する。インスリン、TRH、GnRH や GHRH と比べると CRH 負荷は下垂体卒中のリスクは小さい。また複数のホルモンで同時に刺激すると下垂体卒中のリスクが高くなる。近年は負荷試験後に下垂体卒中を発症するケースは少なくなっている。おそらく多くの内分泌代謝内科医が下垂体卒中のリスクが高い症例で、TRH や GnRH の負荷を避けるようになったからだと考えられる。著者らはトルコ鞍の上方に伸展する大きな腺腫 (macroadenoma) では術前は ACTH 分泌能評価目的の CRH (またはインスリン) 負荷以外の負荷試験は行わない方が良いと考えている。前立腺癌の治療に用いられる GnRH アゴニスト (リュープリン、ゾラデックスなど) も下垂体卒中発症と関連すると報告されている。投与後数分で発症する場合もあるし、徐放製剤の場合は投与から 10日経った後に発症した場合もある。

下垂体卒中は抗凝固療法と関連するようである。抗凝固療法開始直後に発症する場合もあるし、もっと時間が経ってから発症することもある。抗凝固療法以外の原因で出血傾向がある患者についても下垂体卒中との関連が報告されている。しかし、これらは症例報告であり、前向きの観察研究はない。したがって、既知の下垂体腺腫の患者で抗凝固療法を行うことの是非については現在のところ不明である。

ドーパミンアゴニストと下垂体卒中との関連が言われているが、はっきりしない。

ほとんどの場合、下垂体卒中は大きな下垂体腺腫で起こる。そのためか下垂体卒中を起こした下垂体腫瘍の多くは非機能性である。非機能性の腺腫は発見が遅くなるため、機能性の腺腫よりも大きいことが多い。非機能性腺腫に次いで多いのはプロラクチノーマと成長ホルモン分泌腫瘍である。

 

3. 病態生理

下垂体卒中の病態生理は不明だが、下垂体卒中のほとんどは大きな腺腫で起こることは重要である。

下垂体は 1. 下垂体門脈系および 2. 上・下下垂体動脈から直接血流を受けている。上下垂体動脈は下垂体茎に沿って走行し、下垂体前葉に血流を送る。下下垂体動脈は下垂体後葉に血流を送る。さらに、上下垂体動脈と下下垂体動脈は吻合している。静脈血は下垂体静脈から隣接する静脈洞を経て、頚静脈に流れる。

下垂体腺腫では、正常下垂体と比較して、門脈系よりも動脈系にほとんどの血流を依存している。また腺腫は正常下垂体に比べて血流が乏しい。

正常下垂体の毛細血管は有窓の内皮からなるが、プロラクチノーマにおいては平滑筋層をともなう通常の動脈や有窓の内皮に平滑筋層をともなう異常な血管を認める。

下垂体腺腫は脆弱な血液供給に見合わない増殖のために虚血や出血を来しやすい可能性がある。あるいは腺腫によって、漏斗や上下垂体動脈が鞍隔膜に押しつけられることによって虚血になる可能性もある。

 

4. 臨床症状

頭痛は下垂体卒中の最も頻度の高い症状であり、80%の症例で認める。下垂体卒中の頭痛は最初の症状であることが一般的であり、晴天の霹靂のような (like a thunderclap in a clear sky) と形容される突然の激しい頭痛である。しかし、亜急性の経過で出現することもある。疼痛の部位は眼の奥であることが多いが、両側頭部や頭部全体であることもある。嘔気や嘔吐をともなうことも多く、偏頭痛や髄膜炎と間違われることもある。

視覚障害は下垂体卒中の半数以上で認める。血腫による腫瘍の増大で視交叉や視神経が圧迫されることが原因である。視野障害の程度は症例により様々だが、両耳側半盲が最も頻度が多い。視力障害や失明も起こり得るが、稀である。眼球運動障害も頻度の高い症状で 52%の患者で認める。海綿静脈洞内の圧力が上昇すると、海綿静脈洞内を走行する第 III, IV, VI 脳神経が障害される。特に障害されやすいのは第 III 脳神経 (動眼神経) であり、半数を占める。第 III 脳神経の障害は、眼瞼下垂、内転障害、散瞳が特徴である。

下垂体卒中の患者では、嘔気・嘔吐 (57%)、羞明 (40%)、髄膜刺激症状 (25%)、発熱 (16%) を認め、髄膜炎と間違えることがある。髄液検査では、リンパ球高値を認めることがある。無気力、混迷、昏睡などの意識障害を認めることもある。

内頚動脈が前床突起に押しつけられたり、能動脈の攣縮したりすると脳虚血のために片麻痺や嚥下障害などの巣床状を認めることがある。

頻度は低いが嗅覚障害 (嗅神経の圧迫による) 、鼻血・髄液漏 (トルコ鞍の侵食による)、顔面痛 (三叉神経の圧迫による) もあり得る。

下垂体卒中に続発する下垂体性副腎皮質機能低下によりショックになると心筋梗塞と間違われる可能性がある。

 

5. 内分泌学的異常

下垂体卒中の発症時点では 1つ以上の前葉ホルモンの分泌が低下している。後ろ向きの検討では、下垂体卒中を発症する前から性的な問題、月経不順、乳汁分泌、倦怠感などの内分泌学的異常と関連する症状を認めた。これらの症状は下垂体腫瘍による正常下垂体の圧排によって起こると考えられる。

ACTH (corticotropin) の分泌低下は下垂体卒中の患者で最も頻度の高いホルモン分泌低下であり、50-80%の患者で認める。ACTH が欠損するとショックや低ナトリウム血症を起こし、命に関わる。下垂体卒中では、二次性副腎皮質機能低下症を高率に合併するので、下垂体卒中と診断したら、ACTH と血清コルチゾールを提出し、副腎皮質機能低下の診断確定を待たずに直ちに糖質コルチコイドを経静脈的に投与する。

副腎皮質機能低下によるショックはカテコラミンに反応しない。下垂体卒中急性期では、重度の低ナトリウム血症を認めることがある。これは糖質コルチコイドの分泌低下が原因である。糖質コルチコイドの分泌が低下すると、1. 抗利尿ホルモンの分泌抑制がかからなくなり、2. 糖質コルチコイド欠損自体が腎からの水排泄を抑制する。

下垂体卒中では、視床下部の機能障害のために ADH 不適合分泌症候群 (syndrome of inappropriate antidiuretics: SIADH) を合併することもある。下垂体卒中後に低ナトリウム血症を認めた場合は、血清の重炭酸イオンを確認すると良い。副腎皮質機能低下症では、重炭酸イオン濃度が低下しており、SIADH との鑑別に役立つ。

TSH (thyrotropin) 欠損による甲状腺機能低下症も低ナトリウム血症の原因になり得る。嘔気・嘔吐、低血糖 (いずれも ACTH/コルチゾール、成長ホルモン/IGF-1 欠損と関連する) も非浸透圧性の抗利尿ホルモンの分泌刺激となる。

重篤な患者では、下垂体-副腎皮質軸の反応が正常であれば血漿コルチゾールの濃度は上昇している。ICU に入室した患者では、入院 2日目の血清コルチゾールの平均値は 20 μg/dL でその後 1週間以上高値 (平均 16.8±7.8 μg/dL) が続くと報告されている。ちなみに、コルチゾールの濃度が高値になるのはコルチゾール分解の低下に依るところが大きく、コルチゾール産生増加の寄与は小さい。

重篤な患者でコルチゾール濃度が 15 μg/dL 未満である場合、副腎皮質機能低下症を疑う。多くの文献と著者らの経験によれば、下垂体卒中に続発する二次性副腎皮質機能低下症では、コルチゾール濃度は非常に低く、診断に迷うことはまずない。それでも、下垂体卒中では全例で糖質コルチコイドを経静脈的に投与するべきである。

下垂体卒中では、TSH は 30-70%、ゴナドトロピンは 40-75% で分泌低下すると報告されている。成長ホルモンはほとんど全例で分泌低下しているが、診断時には検査されていないことが多い。プロラクチン分泌低下は 10-40%で認める。

尿崩症が下垂体卒中に合併することは稀で、頻度は 5%未満である。尿崩症は副腎不全 (あるいは甲状腺機能低下症) によってマスクされることがあり、糖質コルチコイド(あるいは甲状腺ホルモン) 補充後に尿崩症が顕在化することがある。

下垂体卒中に下垂体ホルモン分泌亢進がともなうこともある。特に、プロラクチノーマは出血しやすい性質があるので、下垂体卒中を合併しやすい。

 

6. 鑑別

下垂体卒中の主な鑑別疾患はくも膜下出血と細菌性髄膜炎である。他には海綿静脈洞血栓症、中脳梗塞も鑑別に挙がる。髄液検査は下垂体卒中とくも膜下出血、細菌性髄膜炎の鑑別にはあまり役に立たない。下垂体卒中では、特に髄膜刺激徴候を認める場合は、髄液中の赤血球高値、キサントクロミー、髄液細胞増加、蛋白質高値を認めるからである。しかし、髄液培養で細菌性髄膜炎は除外できる。

下垂体卒中の診断に最も有用なのは、CT と MRI である。下垂体腫瘍を認めれば、出血や壊死所見を認めなくても下垂体卒中だと考える。たとえば、突然の頭痛と視覚障害を訴える患者に下垂体腫瘍を認めれば、下垂体卒中だと診断して良い。

CT はくも膜下出血の除外に有用である。下垂体卒中の 80%の症例では下垂体腫瘍を認める。このうち 20-30%では腫瘍内部に出血を認める。数日すると出血は検出できなくなる。造影すると、不均一な造影効果を認める。

MRI は出血と壊死の検出に優れ、下垂体と周辺の構造 (視交叉、海綿静脈洞、視床下部) を詳細に観察することができる。下垂体卒中急性期に蝶形骨洞の粘膜、特にトルコ鞍直下の粘膜の肥厚は神経学的および内分泌学的予後不良と関連する。蝶形骨洞の粘膜肥厚はトルコ鞍内圧の上昇と海綿静脈洞のうっ血を反映していると考えられている。

 

7. 臨床経過

下垂体卒中の臨床経過は症例によりさまざまである。梗塞よりも出血性梗塞あるいは出血の方が予後不良である。

軽症の場合は頭痛、視覚障害、下垂体機能障害は緩徐に出現し、数日から数週間持続する。最重症の場合は、数時間の経過で目が見えなくなったり、昏睡したり、神経学的な異常が現れたり、循環動態が不安定になったりする。この場合、直ちに診断し、除圧と糖質コルチコイド投与を開始しないと、副腎不全または神経学的な合併症のために死亡することもあり得る。ほとんどのケースは前二者の中間で、数日の経過で頭痛と視覚障害が出現することが多い。

神経学的異常、視覚異常、内分泌異常の回復についても、症例によりさまざまである。手術によって除圧すると意識障害は改善する。視野障害や視力障害も下垂体卒中後に出現したものであれば手術後に改善する可能性がある。しかし、視神経が萎縮してしまっている場合には手術しても改善しない可能性が高い。眼筋麻痺も多くの場合改善するが、改善には数週間がかかる。内分泌障害は多少変化はあるが、しばしば永続する。

 

8. 治療

下垂体卒中では多くの場合、ACTH 分泌低下をともなうので、手術を行う場合でも保存的に治療する場合でも、下垂体卒中診断後直ちに糖質コルチコイドを経静脈的に投与するべきである。具体的には、ヒドロコルチゾン 50 mg を 6時間毎か、初回に 100-200 mg、以後 50-100 mg を 6時間毎に静脈注射 (または筋肉注射) する。あるいは 2-4 mg/時で持続静脈注射しても良い。ショックになっている患者では低血糖を予防するために生理食塩水に 5%ブドウ糖を混合注射して投与する。

手術を選択する場合は、ほとんど全ての症例で経蝶骨アプローチが推奨される。理由としては除圧に優れ、術後の合併症と死亡率が少ないからである。経蝶骨下垂体手術はかつては上口唇下粘膜を切開する sublabial transseptal approach が行われたが、現在は鼻中隔粘膜を切開する nasal septal displacement が主流である。手術顕微鏡 (operating microscope) を使用するか、内視鏡を使用するかは脳外科医の好みによる。特に熟練した脳外科医では手術にともなう合併症は稀だが、髄液漏と尿崩症は起こり得る。

下垂体卒中後に下垂体腫瘍が自然に収縮し、症状が改善することがあると報告されている。そのため、症例によっては保存的に治療するのが妥当ではないかと言われている。

下垂体ホルモン分泌低下と下垂体腫瘍の再増大の頻度については手術しても保存的に治療しても変わらない。また保存的に治療した場合でも眼筋麻痺は 75-100%で完全に回復する。ただし、回復には数週間~数ヵ月がかかる。

手術と保存的治療を比較した前向き研究はないが、後ろ向きの検討では早期に手術を行った方が保存的治療よりも下垂体卒中の重症度スコア (Pituitary Apoplexy Score: PAS) が低かったと報告されている。

手術を行った場合、視力障害の 50%で正常化、 6-36%で部分的な改善を認める。視野障害は 30-60%で正常化、50%で部分的な改善を認める。失明している場合は、50%で改善を認める。

視力障害および視野障害については、保存的に治療しても手術と同様に改善する。保存的に治療した場合、視力障害は 60-100%で正常化し、25%で部分的に改善する。視野障害は 50-100%で正常化し、25%で部分的に改善する。失明している場合は、50%で改善を認める。

保存的に治療した方が視覚障害の予後が良さそうに見えるのは、重症な患者では手術を選択されることが多いからだろうと考えられている。

内分泌障害については、手術を行うと 50%以上で完全または部分的な改善を認める。しかし、保存的に治療した場合でも手術と同程度の割合で改善を認めたとも報告されている。

手術を行った場合、下垂体腫瘍を除去することができる。しかし、保存的に治療した場合でも、腫瘍はしばしば縮小し、腫瘍を認めなくなることも多い。

手術後平均 6.6年の時点での評価では、11.1%で腫瘍の再増大を認めた。腫瘍の再増大については、手術をしても保存的に治療しても同程度の頻度で認める。いずれの治療方法を選択したとしても、腫瘍の再増大は起こり得るので、長期間のフォローアップはした方が良い。

最近上梓された英国の下垂体卒中の治療についてのガイドラインでは、神経障害および視覚障害が顕著または意識レベルが低下している場合には手術を推奨している。手術を選択する場合はいつ手術するかは重要な問題である。視覚障害については、3日以内に手術しても、1週間以内に手術しても予後は変わらなかった。しかし、1週間以上経過してから手術した場合は改善に乏しかった (8日以内 86%で改善、9-34日 46%で改善)。

元論文

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26414232/

 


パーキンソン病

2024-10-28 08:14:53 | 神経
パーキンソン病
N Engl J Med 2024; 391: 442-452

パーキンソン病 (Parkinson's disease) の世界的な負担は、高齢者の数と割合の増加に伴い、今後数十年で増加すると予測されている。この総説では、本疾患が最後に本誌に掲載された 1998 年以降の研究の進展を取り上げ、臨床実践に関連する最近導入された概念も紹介する。2 世紀にわたり、パーキンソン病は、安静時振戦 (resting tremor) 、固縮 (rigidity)、姿勢反射障害 (postural reflex impairment) を伴う寡動 (bradykinesia) という特徴的な運動症候群に基づいて臨床的に診断されてきたが、これらはすべて主に黒質系 (nigrostriatal system) におけるドーパミン作動性機能障害 (dopaminergic dysfunction) の結果である。本総説では、パーキンソン病の臨床的定義を用いる。


キーポイント

·パーキンソン病は老年期にみられる進行性の神経疾患であり、臨床的には運動障害(非対称性の寡動、固縮、振戦、平衡障害 [imbalance])により定義され、病理学的にはドーパミン作動性脳幹ニューロンを含む中枢および末梢神経系の特定領域における神経細胞の変性および神経細胞内のミスフォールディング α-シヌクレイン(α-synuclein, レビー小体 [Lewy bodies])により定義される。

·しばしば気分、睡眠、感覚、認知、自律神経機能の障害を認め、多くの場合、運動徴候に数年先行し(前駆期パーキンソン病 [prodromal Parkinson's disease])、罹病期間とともに増加する。

·約 20%の症例で遺伝子変異が原因である。リスクを増加させる非遺伝的危険因子(毒物や頭部外傷)に加え、寄与の小さい一般的な遺伝的バリエーションが、おそらくほとんどの症例の原因である。運動はリスクを減少させる可能性がある。

·進行を遅らせる治療法は証明されていない。ドパミン作動性療法は運動機能を改善するが、効果の減弱と副作用が多い。脳深部刺激手術 (deep-brain stimulation surgery) は運動機能の変動に有効である。

·非運動症状はかなり頻度が高いが、治療に関するエビデンスは乏しい。一般的に適応外の薬物が使用されている。包括的な集学的治療が有用である。

·バイオマーカー研究から、パーキンソン病の生物学的定義が可能であることが示唆されている。

疫学
パーキンソン病の罹患率および有病率は年齢とともに増加し、男女比は約 2:1 である。さまざまな研究において、罹患率は 45 歳以上の人口 10 万人あたり 47-77 例、65 歳以上の人口 10 万人あたり 108-212 例である。パーキンソン病の罹患率は、一般的に白人では黒人やアジア人よりも高いが、後述するパーキンソン病の特徴である剖検時に検出されるレビー小体の頻度は、黒人でも白人でも同程度である。年齢と性別で調整した死亡率は約 60%と推定されており、一般集団の死亡率よりも高い。米国におけるパーキンソン病の経済的負担は、2017 年の 520 億ドルから 2037 年には 790 億ドルに増加すると予測されている。

パーキンソン病の診断
依然として、ドパミン作動性ニューロンの喪失に起因するパーキンソン病の運動障害が診断の基礎ではあるが、パーキンソン病は多系統の神経疾患である。非運動症状としては、睡眠障害、認知障害、気分や感情の変化、自律神経機能障害(便秘、泌尿生殖器障害、起立性低血圧)、感覚症状(嗅覚障害 [hyposmia]、疼痛)などがある。非運動症状、特に嗅覚障害と急速眼球運動(rapid-eye-movement: REM)睡眠行動障害 (REM 睡眠中の正常なアトニー (atony, 筋弛緩) の消失と、走ったり暴れたりするような四肢運動を特徴とする) は、運動症状の発現より何年も前に発症することが多く、このことはこのような症状が前駆症状である可能性を示唆している。

国際パーキンソン病・運動障害学会 (the International Perkinson and Movement Disorder Society) は、パーキンソン病の臨床診断基準および前駆期パーキンソン病の研究診断基準を発表している。どの画像技術もパーキンソン病の診断を確定することはできないが、線条体ドパミン系の可視化(主に 123I-ioflupane 単光子放出コンピュータ断層撮影法[single-photon-emission computed tomography: SPECT]または 18F 標識フルオロドパ陽電子放出断層撮影法 [18F-labeled fluorodopa positron-emission tomography] を使用)によって、パーキンソン病と本態性振戦などの疾患を鑑別することができる。123I-ioflupaneSPECT 画像の感度と特異度は 90%以上であり、システマティックレビューでは、これらの技術の使用により、研究参加者の 31%で診断が変更され、54%で管理が変更されたことが示されている。

脳の磁気共鳴画像法(magnetic resonance imaging: MRI)は、パーキンソン症状を伴う他の神経変性疾患(進行性核上性麻痺 [progressive supranuclear palsy] や多系統萎縮症 [multiple-system atrophy] など)に特徴的であるが、パーキンソン病とは異なる大脳基底核 (basal ganglia) や脳底構造 (infratentorial structures) の変化を同定することができる。

剖検では、臨床的に診断されたパーキンソン病症例の最大 90%に、ミスフォールディングした α-シヌクレインタンパク質の神経細胞内蓄積(レビー小体およびレビー神経突起 [Lewy neurites]、総称して「レビー病理 (Lewy pathology)」)が認められる、 脳幹核 (brain-stem nuclei)(迷走神経背側運動核 [dorsal motor nucleus of the vagus]、青斑核 [locus coeruleus]、黒質)、末梢自律神経領域 (periferal autonomic region(腸管神経叢 [myenteric plexus]、交感神経節 [sympathetic ganglia]、皮膚自律神経系 [skin autonomic nervous system])、大脳辺縁系 (limbic system) および新皮質領域 (neocortical region) に選択的に影響を及ぼす。 色素性ニューロン (pigmented neuron)、特にドーパミンを産生する黒質ニューロンの消失も、この疾患の非常に特徴的な特徴であると考えられている。

臨床診断基準は依然として有用であるが、限界もある。あるコホートでは、臨床診断と剖検所見との一致率は、初診時にはわずか 28%であったが、罹病期間が長くなるにつれて 89%まで上昇した。診断と死後所見の一致は、運動障害の専門家による診断であった場合に最も可能性が高い。

原因
パーキンソン病は、遺伝的因子と非遺伝的因子の両方から生じる複数の原因があると考えられている。パーキンソン病患者の約 20%(monogenic Parkinson's disease, 単一遺伝子変異によるパーキンソン病 )において、大きなエフェクトサイズを有する遺伝子変異が同定されている。不完全浸透性の常染色体優性パーキンソン病には、LRRK2 の変異(全症例の約 1-2%、家族性症例の最大 40%に存在する)、グルコセレブロシダーゼ (glucocerebrosidase) をコードする GBA1 の変異(症例の 5-15%に存在し、アシュケナージ系ユダヤ人または北アフリカの祖先を持つ集団に最も多い)、さらに少ない VPS35 および SNCA の変異(症例の 1%未満に存在する)が含まれる。

グルコセレブロシダーゼ変異はゴーシェ病の原因
https://www.shouman.jp/disease/details/08_06_090/

アシュケナージ系ユダヤ人
https://www.natureasia.com/ja-jp/research/highlight/9440

劣性遺伝性のパーキンソン病のバリアントには、PRKN、PINK1、DJ1 があり、若年で発症する症例のほとんどを占めている。いずれのバリアントも頻度は低いが、集団によっては最も一般的な遺伝的原因となっている。異常 α シヌクレインは、SNCA または GBA1 に関連するパーキンソン病、および LRRK2 に関連する症例の約半数に認められるが、劣性変異に関連するパーキンソン病ではまれである。

ゲノムワイド関連研究 (genomewide association study) では、独立効果 (independent effect) の小さい 90 以上の遺伝的リスク座位 (genetic risk loci) が同定されており、その多くは上記の原因遺伝子の近くに位置している。世界的な取り組みが拡大するにつれ、新たな遺伝的関連が同定されるかもしれない。例えば、アフリカ系祖先のパーキンソン病症例の 39%を占める GBA1 の新規変異が報告されている。

パーキンソン病の強力な遺伝的危険因子がない場合、遺伝率は 20-30%と推定される。リスク因子の同定は、特定の集団における観察に限られており、いくつかの種類のバイアスの影響を受ける。遺伝的リスクに関する研究とは対照的に、ほとんどの疫学研究ではいくつかの危険因子しか調査されていない。一般的に人は生涯を通じて多くの潜在的な暴露を受けており、現在知られていることから判断すると、単一の因子ではなく、複数の非遺伝的因子への曝露と遺伝的感受性の組み合わせがリスクを決定していると考えられる。さらに、環境や生活習慣に関連するリスクの多くは、容易に測定することができない。この分野の研究はほとんどすべて、ヨーロッパと北米の集団を対象としている。

農薬(パラコート [paraquat]、ロテノン [rotenone]、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸 [2, 4-dichlorophenoxyacetic acid] 、いくつかの有機塩素および有機リン酸塩など)や塩素系溶剤(トリクロロエチレン [trichloroethylene]、パークロロエチレン [perchloroethylene] など)への家庭内または職業上の曝露は、ほとんどの研究で、用量依存的な 40%以上のパーキンソン病リスクと関連している。基礎研究では、これらの毒性物質は、例えばミトコンドリア機能を阻害することにより、選択的なドーパミン作動性ニューロンの損失、運動機能障害、その他の変化を引き起こすなど、パーキンソン病の実験的類似症状を引き起こす可能性がある。あるプロスペクティブ・コホート研究では、乳製品の多量摂取は、パーキンソン病の臨床的または病理学的診断リスクの上昇、および有機塩素系農薬であるヘプタクロル (heptachlor) の脳内濃度の上昇と関連しており、これはおそらく牛乳中のこの化合物の生体濃縮に起因している。

すべての研究ではないが、軽度から中等度の頭部外傷と、数十年後のパーキンソン病またはレム睡眠行動障害の発症との関連を示した研究もあり、疾患リスクは 31%から 400%以上増加した。喫煙、カフェイン摂取、身体活動の増加はパーキンソン病のリスク低下と関連している。遺伝子変異に関連するメカニズムの研究や有害物質曝露の実験により、炎症、免疫調節障害、酸化ストレス、ミトコンドリア機能障害、タンパク質凝集、オートファジー障害、エンドライソゾームシステムの機能障害など、遺伝性疾患や散発性疾患に共通する異常が同定されている。

自然経過および臨床経過
運動緩慢および振戦の症状は非対称的である傾向がある。最終的には、両側性の寡動、硬直、振戦、歩行障害、平衡障害により、機能障害や自立の喪失に至るが、多くの場合、運動機能と認知機能の低下、転倒、骨折が複合的に影響する。進行の時間的経過は非常に多様である。起立性低血圧、消化管運動障害、排尿障害、勃起障害、体温調節障害などの自律神経異常は早期に発症し、進行することが多い。

視空間障害や遂行機能障害などの認知機能の変化は、時に運動症状に先行する自覚症状であることがあり、パーキンソン病の進行に伴って神経心理学的検査によって同定することができる。レビー小体型認知症は、主に認知機能と幻覚などを精神医学的特徴とし、パーキンソニズムも認める。臨床的にパーキンソン病と診断された症例の約 38%、レビー小体型認知症の症例の 89%がアルツハイマー病に関連した病理学的特徴を有している。

疾患進行の特徴的なパターンを有する臨床的サブタイプを同定することについては、集団間で再現性が得られていない。臨床的パーキンソン病のサブグループを生物学的特徴付けられれば、個々の予後予測や患者カウンセリングを改善できると期待される。例えば、認知機能の低下は、GBA1 の変異を有する患者では一般的であるが、PRKN の変異を有する患者ではまれである。

治療
定期的な運動、健康的な食事、質の高い睡眠、および有害な曝露の回避は、死亡率の低下と関連しており、どのような段階のパーキンソン病患者にも勧められるアドバイスである。例えば、モノアミン酸化酵素 B(monoamine oxydase B: MAO-B)阻害薬の初期試験は有望であると考えられたが、その後の研究では、症状に対する効果とは独立した保護効果は示されなかった。パーキンソン病と診断された後に登録された、疾患の進行を遅らせる治療法の試験は、疾患の初期段階でも黒質ドーパミン作動性ニューロンの 75%までが機能を失っているため、失敗した可能性がある。α-シヌクレイン凝集体を除去するメカニズムに焦点を当てた臨床試験は結果は一致していない。GBA1 または LRRK2 の病原性変異体を有する遺伝的に定義された亜集団を対象とした臨床試験でも同様に結果は一致していない。

パーキンソン病は人によって症状や経過が異なるため、最良の結果を得るためには症状管理を個別に行う必要がある。患者の意見を聞き、神経科医、精神保健専門家、神経外科医、理学療法士、作業療法士、言語療法士などを含むチームによる集学的アプローチを早期に導入することが理想的である。患者、家族、介護者のニーズは、アドバンス・ケア・プランニングや、重症例ではホスピスへの紹介も含めて、定期的に再評価されるべきである。

薬物療法
運動症状
レボドパの経口製剤は運動症状に対する主な治療法である(表 1)。

表 1. パーキンソン病の運動障害に対する薬物治療
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMra2401857?logout=true#t1

レボドパ投与後の効果持続時間(「オン」時間)は、通常数時間であるが、平均して 4 年後に短縮し始める。"オン "時間には症状軽減効果が減弱する時間("オフ "時間)が散在する。この薬効変動は、おそらくレボドパの半減期の短さ、消化管吸収の不安定さ、ドパミン作動性ニューロンの進行性変性によるものであろう。このような変動に対処するために、総投与量の増加、投与頻度の増加、徐放性製剤の追加や切り替えなどの戦略がしばしば用いられる。一般的な用量依存性の副作用には、ジスキネジー (dyskinesia)(hyperkinetic involuntary movements, 運動亢進性不随意運動)、幻覚や行動異常の発現または悪化、起立性低血圧、嘔気などがある。

運動症状やその変動を改善する他の戦略としては、レボドパよりも半減期が長いという利点があるドパミンアゴニストを単剤またはレボドパと併用する方法がある。ドパミンアゴニストは副作用の特性が好ましくないため、現在では以前ほど使用されていない。副作用には用量依存性の嘔気、傾眠、睡眠発作、衝動制御障害、末梢浮腫などがある。レボドパの効果は、シナプスのドパミン代謝を阻害するカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(catechol-O-methyltransferase: COMT)阻害薬や MAO-B 阻害薬を追加することで増強することができる。アマンタジンやイストラデフィリンなどの非ドパミン作用薬も、併用療法として用いると、運動変動を改善し、ジスキネジアを軽減することがある。振戦を標的とする抗コリン薬は、高齢者では認知機能の悪化を引き起こす可能性があるため、以前よりも使用されることが少なくなっている。

重度または頻度の高い「オフ」エピソードに対するドパミン作動性療法のオンデマンド戦略としては、アポモルヒネ (apomorphine) の皮下注射や舌下投与、レボドパの吸入などがある。

アポモルヒネ
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/series/drug/update/201206/525192.html

レボドパの持続経腸投与(空腸内ポンプ)、アポモルヒネの皮下投与、レボドパの皮下投与(皮下ポンプ)もパーキンソン病の進行例で用いられている。

非運動症状
前述したように非運動症状はパーキンソン病の負担に大きく寄与しているが、治療の指針となるエビデンスに基づいた研究は不足しており、適応外の薬剤の使用が一般的である(表 2)。

表 2. 非運動症状の治療
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMra2401857?logout=true#t2

非運動症状の多くは、疾患の進行やドパミン作動薬治療により悪化する。パーキンソン病に関連した認知症は、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬やメマンチンによる治療で緩やかに減少する可能性があるが、国際パーキンソン病・運動障害学会が行ったエビデンスに基づくレビューによると、臨床的に有用と分類されているのはリバスチグミン (rivastigmine) だけである。うつ病と不安症は、薬物相互作用とセロトニン症候群の発症の可能性に注意しながら、選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (selective serotonin reuptake inhibitor)、選択的セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬 (selective serotonin-norepinephrine reuptake inhibitor)、またはあまり一般的ではないがドパミン作動薬 (dopamine agonist) で治療できる。幻覚や妄想などの精神症状は、ピマバンセリン (pimavanserin) や非定型抗精神病薬(クロザピン [clozapine] またはクエチアピン [quetiapine])で治療できる。

精神症状を有するパーキンソン病患者にピマゼンセリンは有用
https://www.carenet.com/news/journal/carenet/36684

その他のドパミン D2 受容体遮断作用のある抗精神病薬は、パーキンソニズムを悪化させる可能性があるため使用しない。認知行動療法とカウンセリングは、精神症状の管理に有用な非薬物療法である。

起立性低血圧を含む自律神経症状には、水分摂取量の増加、食塩摂取、弾性ストッキング、およびフルドロコルチゾン (fludrocortisone)、ミドドリン(midodrine)、ドロキシドパ (droxidopa) などの血圧上昇薬で対処できる。便秘は、食物繊維の増量、便軟化剤、または下剤で管理する。睡眠障害またはレム睡眠行動障害は、認知行動療法、メラトニン (melatonin)、または低用量クロナゼパム (clonazepam) で改善できる。

手術療法
脳深部刺激療法(deep-brain stimulation: DBS)では、通常は視床下核 (subthalamic nucleus) または淡蒼球 (globus pallidus) に細いリード線(片側または両側)を頭蓋内に留置し、延長リード線を介して鎖骨下の皮下に留置した神経刺激装置に接続する。効果の機序は不明であるが、疾患の主な運動機能の原因となる大脳基底核回路の機能異常の遮断が一因と考えられている。DBS の適応の決定、システムの植え込み、継続的な患者ケアと装置管理は、通常、専門施設で行われる。DBS 療法を受ける患者のほとんどは、薬物療法ではコントロールが不十分な運動変動があるため、この手技を行うことが正当化される。

DBS は QOL を改善し、運動機能の変動(「オン」時間の平均増加、1 日 3-4 時間)や薬物療法を行わない場合に生じる症状(薬物療法を行わない場合の UPDRS III [Unified Parkinson's Disease Rating Scale, part III] スコアの平均改善、30-50%)を緩和する。また、特に視床下核を標的とする場合は、刺激パラメータのプログラミングが患者の症状に最もよく対応するように最適化された後、薬物療法を減らすことができる(平均投与量 50%減)。最新の手技による手技リスク(脳卒中や感染など)の低さ、およびその有効性を考慮すると、DBS は運動変動が始まった時点で使用することが承認されている。運動器の有益性は最長 15 年間持続する可能性がある。

現在の DBS 神経刺激装置には、非充電式バッテリ(バッテリ寿命 3-5 年)または充電式バッテリ(バッテリ寿命 15 年以上)を備えたシングルチャネルおよびデュアルチャネルシステムがある。一部の DBS システムには、画像ベースのソフトウェアが搭載されており、標的とする脳構造に対するリードの位置関係を視覚化したり、組織活性化量をシミュレーションしたりして、プログラミングを容易にすることができる。DBS リードからの局所電位を測定できるセンシングシステムもプログラミングに役立ち、近い将来、神経細胞のフィードバック信号に基づいて刺激強度を調整する適応刺激が可能になるかもしれない。パーキンソン病の非運動症状(認知障害、気分変化、無気力、自律神経症状)と運動症状(平衡障害、すくみ足 [freezing gait])のほとんどは DBS を使用しても改善しないのが一般的であるが、将来的には神経活動のフィードバックによる刺激調節によってこれらの症状に対処できるようになるかもしれない。DBS の潜在的合併症には、ジスキネジア、言語、歩行、平衡障害の悪化などがある。まれに、標的外の刺激が気分、認知、行動の変化を引き起こすことがあるが、通常は DBS のプログラム変更で修正可能である。

加熱プローブによって直接病変に侵襲を加える古い手技(片側視床切開術または淡蒼球切開術)は、現在ではまれな症例にのみ用いられている。片側の視床腹側中間核をターゲットとした MRI ガイド下高周波集束超音波検査などの無切開病変アプローチは、パーキンソン病患者の振戦の治療に使用されるようになってきているが、このアプローチは時間の経過とともに効果が限られてくる可能性があり、パーキンソン病の他の症状を治療するものではない。また、視床下核や淡蒼球をターゲットにした治療も超音波検査で検討されている。

これまでに行われ、現在も進行中の遺伝子治療としては、神経栄養因子(グリア由来神経栄養因子 [glial-derived neurotrophic factor] とノイトリン [neurturin])の産生を高めるために、遺伝子を介したウイルスベクターを視床下部や黒質に定位注入する方法、運動回路を修正するために γ-アミノ酪酸を視床下核に投与する方法、ドーパミンの合成を増加させるために芳香族 l-アミノ酸脱炭酸酵素を視床下部に投与する方法などがある。これまでのところ、これらの治療法はいずれも規制当局の承認を得ていない。ドーパミンを産生する細胞を被核 (putamen) に移植する以前の試みは期待外れの結果に終わったが、ヒト人工多能性幹細胞 (human induced pluripotent stem cells) 、同種細胞 (allogeneic cells)、ヒト胚性幹細胞 (human embrionic stem cells) 由来の移植株を用いた新しいアプローチは現在も開発中である。これらのアプローチは、1 回きりの外科手術によって運動症状を改善し、薬物治療の負担を軽減することに重点を置いているが、安全性、実現可能性、有効性が証明されていないという課題に直面している。

今後の方向性
パーキンソン病の予防は、依然として研究の重要な焦点である。性別、人種、民族、経済状態、地理的な場所などによる既存の格差に対処する試みと、環境毒物への曝露を減らし、生活習慣を改善するための世界的な取り組みが必要である。特に研究が十分でない集団における遺伝子変異の同定は、新たな洞察をもたらすであろう。遠隔医療を含む技術の進歩は、医療へのアクセスを改善することができ、人工知能、デジタル評価、ウェアラブルデバイス、バーチャルリアリティによって、スクリーニング、モニタリング、治療が改善される日が来るかもしれない。異常 α シヌクレインのバイオマーカーは、臨床的に診断されたパーキンソン病、レビー小体型認知症、レム睡眠行動障害の患者を、健常対照者や他の神経疾患の患者と高い感度と特異度で区別できる。α-シヌクレインの検査により、神経細胞性 α-シヌクレイン疾患の早期発見が可能になる可能性があり、早期介入への道筋を示し、精密医療の基礎となるであろう。

結論
パーキンソン病は、進行性の運動症状および非運動症状を引き起こす。過去 20 年間における、本疾患のリスクと異なる表現型および病理学的提示をもたらす遺伝子変異の同定、バイオマーカーの特性化、内科的および外科的治療の洗練、ならびにライフスタイルの見直しの進歩により、本疾患患者の治療を個別化し、症状を軽減し、QOL を改善する枠組みが可能となった。

元論文
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMra2401857