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内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床についての論文のまとめ

認知症の予防、介入、ケア: ランセット常設委員会の 2024 年報告書 その4

2025-01-29 08:12:32 | 神経
認知症の予防、介入、ケア:ランセット常設委員会の 2024 年報告書
Lancet 2024; 404: 572-628

不安障害 (anxiety)
7 件の縦断的研究のレビューでは、不安障害のある人の認知症リスクの増加は確認されなかったが(RR 1.18, 95%CI 0.96-1.45)、個々の研究結果はまちまちであり、結果はうつ病で調整されていなかった。その後、12 年間追跡された 60-64 歳の成人 2,551 人を対象とした研究では、不安障害そのものと認知(うつ病で調整後)または認知機能低下との関連はないと報告された。心理学的治療が有効であった不安障害のある人は、心理学的治療が有効でなかった人に比べて、3~12 年後(中央値)のあらゆる原因による認知症の発生率が低かった(IQR 1.72-4.70, HR 0.83, 95%CI 0.78-0.88)。この結果は、前臨床性認知症の一部として不安障害がある人は、心理学的治療が有効である可能性が低いことを示唆しているかもしれない。メタアナリシスでは、認知的に健康な成人において、不安症状とアミロイド β(n = 5,141;13 件の研究)またはタウ(n = 1,126;4 件の研究)の病理との間に関連はないことが同定された。

心的外傷後ストレス障害 (post-traumatic stress disorder)
心的外傷後ストレス障害と認知症との関連についてのシステマティックレビューでは、米国、デンマーク、台湾で行われた 3 件の研究が同定され、サンプルサイズは 8,750~489,994 であった。すべての研究で、11~17 年の追跡調査において、心的外傷後ストレス障害のない人と比較して、心的外傷後ストレス障害のある人では認知症のリスクが増加することが観察され、その HR は 1.70~4.37 であった。これらの研究および別の 5 件の研究を含む以前のシステマティックレビューとメタアナリシスでは、外傷後ストレス障害は認知症の危険因子であることが示唆されたが、含まれた研究間でかなりの異質性があった(HR 1.61, 95%CI 1.43-1.81, I2 = 85.8%)。認知症リスクは増加するものの、5 年間の追跡研究では、外傷後ストレス障害のある人においてアルツハイマー病の病態の増加は確認されず、認知症リスクの増加は他の原因によるものであることが示唆された。メタアナリシスは 1 件しかなく、現段階で心的外傷後ストレス障害が認知症の修正可能な危険因子であると一般化して結論づけるには、エビデンスが異質すぎる。

閉経とホルモン補充療法
閉経 (menopause) とホルモン補充療法(hormone replacement therapy: HRT)の役割については、2020 年のランセット委員会では議論されなかったが、HRT と認知症リスクの増加との関連から、閉経と HRT が男性よりも女性の認知症有病率の高さを一部説明している可能性がある。メタ分析データによると、45 歳以上で閉経した女性は、閉経した 45 歳未満の女性よりも認知症リスクが低いことがわかった(RR 0.87, 95%CI 0.78-0.97, I2=56.0%)。

認知症のある女性 16,291 人と年齢をマッチさせた認知症のない対照者 68,726 人の日常的に収集されたプライマリケアデータを用いた 2 件のネステッドケースコントロール研究では、HRT を使用していない女性と比較して、エストロゲン・プロゲストーゲン療法を 5~9 年間(RR 1.11, 95%CI 1.04-1.20)および 10 年以上(1.19, 1.06-1.33)使用している女性ではアルツハイマー病の発症リスクが高いことが報告されている。同様に、認知症を発症した 5,589 人のデンマーク人女性と年齢をマッチさせた 55,890 人の 50-60 歳の対照女性を対象とした研究では、エストロゲン・プロゲストーゲン療法を使用した女性では、この療法を使用したことのない女性と比較して、あらゆる原因による認知症およびアルツハイマー病のリスクが高いことが明らかになった(HR 1.24, 95%CI 1.17-1.33)。リスクは使用年数が長くなるにつれて増加し、使用期間が 1 年以下の場合の HR は 1.21(1.09-1.35)から 12 年以上の場合の HR は 1.74(1.45-2.10)であった。

HRT を受けている人は、治療を開始した年齢が若くても(すなわち、55 歳以下)、高齢であっても(すなわち、55 歳以上)、リスクが増加した。プロゲステロンのみ、あるいはエストロゲンのみの治療では、同じリスクは確認されなかった。別の研究では、エストロゲンのみの治療を少なくとも 10 年間受けていた 80 歳未満の患者では、HRT を受けていない女性よりもあらゆる原因による認知症のリスクが低いことが示された(OR 0.85, 95%CI 0.76-0.94)が、HRT の服用期間が短い人ではそうではなかった。

23 件の異種 RCT のメタアナリシス (うち 9 件はエストロゲンとプロゲステロンの併用) では、いずれの HRT の使用も、グローバルな認知機能に対して、わずかではあるが有意な負の効果を有することが報告されている (標準化平均差 -0.04, 95% CI -0.08~-0.01; I2 = 0.0%)。サブグループ解析では、異なる年齢群における HRT の短期または長期の使用には正の効果は認められなかったが、60 歳以降に開始した場合には、負の効果が認められた。RCT のさらなるメタアナリシスでは、女性は認知症予防のために閉経後にエストロゲンのみの療法を受けるべきではないという質の高いエビデンスと、この療法が認知症リスクを増加させるといういくつかのエビデンスが同定された。

全体として、閉経と HRT が認知症リスクと因果関係があるかどうかは不明である。エストロゲンのみの治療、治療期間の長さ、HRT 開始時の年齢の高さは、認知症リスクを増加させる可能性があるといういくつかのエビデンスがある。

多疾患合併とフレイル
慢性疾患や重篤な疾患の多疾患併存者 (people with multimorbidity) は、特にこれらの疾患が中年期に始まった場合、認知症のリスクが高まる。50 歳以上のアメリカ人 14,490 人(平均年齢 72.2 歳[SD 8.9])を対象とした縦断的研究では、フレイル (frailty) の程度が高いほど神経心理学的検査スコアが低く、MCI や認知症の発症リスクが高かった(frailty index が 0.1 上昇するごとに、MCI の HR は 1.66, 1.55-1.78、MCI から認知症への HR は 1.14, 1.02-1.28)。 ニュージーランドの 1,700 万人の成人を対象とした 30 年間の追跡調査では、身体疾患(冠動脈疾患、痛風、慢性閉塞性肺疾患、糖尿病、がん、外傷性脳損傷、脳卒中、心筋梗塞と定義)が認知症リスクと関連していることが報告されている(RR 1.19, 95%CI 1.16-1.21)。

408,206,960 人を対象とした UK Biobank 研究では、15 年間の追跡調査(平均 11.2 年 [SD 2.2])において、年齢、性別、民族、教育、社会経済的状態、APOE ε4 の有無で調整した上で多疾患合併は認知症発症リスクの増加と関連していた(HR 1.63, 95%CI 1.55-1.71)ことを示した。そのリスクは、心血管疾患や心臓代謝性疾患のクラスターを持つ人や APOE ε4 遺伝子を持たない人で高かった。デンマークの疾患経過 (Danish disease trajectory)、フィンランドの地域住民研究、フランスと英国の一般診療記録における健康改善ネットワークなどのアウトカム・ワイドな研究では、認知症リスクは、脳血管疾患の後遺症、骨粗鬆症、重症感染症、精神障害など、他の危険因子と関連している可能性のある幅広い疾患と関連している。フレイルの程度によって定量化される全体的な健康状態は、神経病理学、アルツハイマー病バイオマーカー、多遺伝子リスクスコアと関連しつつ、認知症リスクに対して独立して寄与している。

認知症への介入とケア

診断
認知症を診断し、その根本的な原因や要因を特定することは、管理や計画を立てる上で有益であるため、多くの国で認知症の迅速な診断が優先されている。認知症の診断はスクリーニングとは異なる。2020 年のランセット委員会で示されたように、認知症スクリーニングの唯一の試験は米国で行われた 65 歳以上のプライマリケア患者を対象としたものである。この試験では、1 ヵ月後の QOL や抑うつ・不安症状、1 年後の医療利用、アドバンスケアプランニング、医師による認知症認識において、有益性も有害性も示されなかった。そのため、認知症のスクリーニングは推奨されていない。

13 カ国の 32 件の研究による、診断を求める人々に関するレビューでは、認知症が疑われる人々や家族介護者が、診断に対する複数の障壁や促進要因を報告していることが明らかにされている。障壁としては、認知症であることを受け入れられないこと、スティグマ、恐怖、知識不足、症状の常態化、自律性を保ちたいという願望、必要性の認識不足、変化への無自覚、家族や友人ネットワークのサポート不足、介護者の困難、援助へのアクセス問題、診断を下すためのサービスの準備不足などが挙げられた。イネイブラー (enabler) としては、症状が問題であることの認識、これまでの知識や人脈、インフォーマルなネットワークからの支援などが挙げられた。

診断の公平性
診断に至るまでの経緯に関する研究の多くは、高所得国からもたらされたものである。低中所得国では、認知症を病状として認識することは困難であった。低中所得国における研究は少ないものの、医療資源が不足し、感染症に重点を置きがちであり、 精神疾患はスティグマとされ、隠蔽されることが多く、認知症に気づかない人もいる。低中所得国の人々は、高所得国の人々よりも認知症の後期にサービスを受ける可能性が高い。おそらく、低中所得国では家庭でのサポートが充実していること、公衆衛生教育、認知度、リソース、アクセシビリティ、スティグマ、理念 (belief) が不足していることなど、いくつかの要因があるためであろう。さらに、多くの調査方法は、たとえ異文化間での比較を謳っていても、高所得国で開発されたものであり、識字レベルの低い人々には適さないか、文化的に偏りがある。

認知症の罹患率と有病率は、米国や英国などの国々では、白人よりも少数民族の方が高い。主に英語を話す白人の集団で開発された認知スクリーニングツールは、教育や文化的背景の影響を受けるため、より多様な集団には適さない可能性がある。認知症ケアの質指標として、診断を受けた認知症患者の割合が考えられるが、医療記録に認知症診断が記録される割合は、民族によっては他の民族よりも低いため、少数民族の集団における認知症有病率が同じであるという仮定は不正確である可能性が高い。従って、これらの指標は、診断へのアクセスを決定するには不適切である可能性が高い。

時宜を得た診断
さまざまなサービス提供モデルの相対的な臨床効果や費用対効果についての評価はほとんどされておらず 、その結果、何が優れた診断サービスやケアと判断できるのかが明確でなく、認知症の診断が有益であるという間接的なエビデンスしかない 。

早期診断や時宜を得た診断が望ましいとされる根拠は、認知症患者やその家族がケアや治療を受けられるようにすることで、ウェルビーイングや健康を維持することにある。別の研究では、診断を受けた 1,091 人のうち 998 人(91%)が診断を受けることの利点を報告し、655 人(60%) がもっと早く診断を知りたかったと述べている 。ただし、診断を受けていない人の意見は、これらの研究には反映されていない。

診断により、心理的な利点や適応のための時間が得られる。診断がつくと、実用的な情報、助言、指導、心理学的治療、薬物治療などを提供するサービ スを利用しやすくなる。病院やケアホームへの不必要な入院を防ぐことにより、医療費や社会的ケア費用を削減することによる潜在的な経済効果もモデル化されている。

例えば、早期診断は、特に診断後の介入やケアが受けられない場合、抑うつ、不安、社会的引きこもりのリスクを増加させる可能性がある。米国の全国コホート研究のエビデンスによると、認知症(n = 63,255)または MCI(n = 21,085)と診断された人の自殺のリスクは、傾向一致患者と比較して減少していた(HR 0.71, 95%CI 0.53-0.94)が、MCI(1.34, 1.09-1.65)または認知症(1.23, 1.05-1.44)と告知された後の短期的な自殺企図(すなわち、研究前の 5 年間に診断された人)は増加していた。 長期的な自殺企図の増加はみられなかった。

モバイル機器やウェアラブル機器が神経変性疾患の検出や診断に有望とされるのは、これらが一般集団で日常的に使用されるようになってきており、身体的変化や認知能力を調査するための複数のセンサーを搭載できるためである。しかし、20 種類のアプリについてのレビューではスクリーニングツールとして役に立つものはひとつもなかったと報告している。275 種類のアプリについての別のレビューでは、人工知能を使用したアプリについては認知症の検出とモニタリングに利用できる可能性があり、さらに評価されるべきであると示唆された。このような人工知能に情報を提供する既存のデータには、特に多様性についての表現不足からくる課題があるだろう。

エビデンスと倫理原則のバランスを考慮すると、人々が助けを求めているときに、適切な介入を伴うタイムリーで正確な診断を受けられるべきであるが、エビデンスは全人口を対象に認知症のスクリーニングを行うことを正当化するものではない。

エビデンスと倫理的原則のバランスから、人々が助けを求めているときには、速やかで正確な診断と適切な介入が受けられるべきであるが、エビデンスからは全ての人に対して認知症スクリーニングを行うことは正当化されない。

アルツハイマー病におけるバイオマーカー
アルツハイマー病病態のバイオマーカーに関する研究は、2020 年のランセット委員会以来進展している。アミロイド β、タウおよび神経変性を測定するバイオマーカーは、現在、アルツハイマー病病態のいくつかの定義に組み込まれている(すなわち、アミロイド・タウ・神経変性 [amyloid-tau-neurodegeneration, A-T-N アプローチ)。

神経画像
CT は、血管の変化、萎縮、および神経変性の他の理由を示すことができ、その精度は低いが、MRI よりも安価で利用しやすい。MRI にはいくつかの種類があるが、最も単純なのは structual MRI である(主に海馬 [hippocampus]、内嗅皮質 [entorhinal cortex]、内側側頭葉 [medial temporal lobe] の大脳萎縮)。

嗅内皮質
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%97%85%E5%86%85%E9%87%8E

アミロイド抗体治療で起こりうる脳微小出血や脳浮腫の検出を改善するためには、拡散テンソル画像 (diffusion tensor imaging)、動脈スピンラベル (arterial spin rabelling)、磁化率強調画像 (susceptibility-weighted imaging) などの高度な MRI シーケンスが必要である。

拡散テンソル画像
https://www.google.com/url?sa=t&source=web&rct=j&opi=89978449&url=https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/048110945.pdf&ved=2ahUKEwiy_d2Mt_uKAxWHhq8BHdgqMSEQFnoECC0QAQ&usg=AOvVaw3RGS8iFbf_ekp7S3Sv0AhC

動脈スピンラベル
https://www.google.com/url?sa=t&source=web&rct=j&opi=89978449&url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/mii/32/4/32_xxxvii/_pdf/-char/ja&ved=2ahUKEwiRxZ7Qt_uKAxV8dvUHHYg1C8AQFnoECBoQAQ&usg=AOvVaw1l8bSFjSOLmHDltQ_RlyB2

磁化率強調画像
https://www.google.com/url?sa=t&source=web&rct=j&opi=89978449&url=https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.18888/sh.0000000506&ved=2ahUKEwj8rJn_7fuKAxUvr1YBHU2eLM4QFnoECGIQAQ&usg=AOvVaw1HOiDtnSRcktUZUpExTYfH

MR スペクトロスコピー (magnetic resonance spectroscopy)、functional MRI、PET(すなわち、リガンドを用いた生体内での病態測定)は、新たに出現した有用な代謝的・機能的バイオマーカーである。これらの高度な画像診断技術の限界としては、費用、患者の同意と適合性、手技の実施と結果の解釈に必要な専門知識などがあるが、自動化された評価でもほぼ同様の結果が得られる。

髄液バイオマーカー
脳脊髄液の Aβ42 対 Aβ40 比の低値は、単独またはリン酸化タウ(p-tau)の高値と組み合わせて、アミロイド斑およびアルツハイマー病の病態と相関する。これらの髄液バイオマーカーは、認知症や認知機能障害の原因として考えられるアルツハイマー病の病態を評価したり、無症状の集団において、臨床的なアルツハイマー病を発症するリスクの高い人を同定し、臨床試験集団に組み入れるために使用することができるが、バイオマーカーの変化の解釈には重要な考慮点がある。解釈は、臨床的な詳細と個人の年齢に依存する。なぜなら、アミロイド病態のは高齢者では一般に認められるからである。この解釈の問題は、アミロイド PET だけでなく、髄液や血漿バイオマーカーにも当てはまる。総合的なバイオマーカーの解釈は臨床的背景によって異なる。

脳内の生化学的変化は、脳内の細胞外腔と接触している髄液に反映される。これらのバイオマーカーは基本的にタンパク質(すなわち、総タウ、リン酸化タウ、Aβ42 と Aβ40、NF-L、ニューログラニン)であり、イメージング法について検証されている。NF-L、Thr181 でリン酸化された血漿タウ(p-tau181)、GFAP(アミロイド蓄積の前後に変化すると思われるアストロサイトマーカー)などの髄液バイオマーカーの利点は、疾患の初期段階を検出できることである。これらのバイオマーカーの欠点は、多くのシステムでインフラが整っていないこと、専門的な医療サービスが必要であること、侵襲性についての懸念である。

クロイツフェルト・ヤコブ病 (Creutzfeldt–Jakob disease) の臨床診断では、real-time quaking-induced conversion: RT-QuIC などの髄液ベースの蛋白凝集・増幅アッセイが確立されている。

RT-QuIC
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3226039/

同様のアプローチがレビー小体型認知症 (Lewy body dementia) に対しても開発されており、髄液中の神経細胞性 α-シヌクレイン (neuronal α-synuclein) を検出するアッセイは有望である。メタアナリシスでは、健常対照者や他のタイプの認知症患者からシヌクレインパチー (synucleinpathy) 患者を区別するための感度は 0.88、特異度は 0.95 であった。アルツハイマー病と同様に、レビー小体病理のバイオマーカー結果は、臨床的な認知症やパーキンソニズムの症状が出現する前に陽性となるため、特に高齢者においては、認知症状の原因とはならない可能性がある。臨床における神経細胞性 α シヌクレイン測定法の位置づけを明確にするためにはさらなる研究が必要であるが、将来的には大きな役割を持つことになるだろう。他の測定法と同様に、民族的に多様なコホートからのデータは乏しい。

血液ベースのバイオマーカー
2020 年のランセット委員会以来、認知症患者におけるアルツハイマー病の特異的診断のための血液ベースのバイオマーカーの有効性に関する研究が進んでいる。将来的には、臨床試験やコホート研究の適格性を決定する際や、アルツハイマー病の病態の程度を病期分類する際に、髄液や PET マーカーが血液ベースのバイオマーカーに取って代わられるかもしれないが、認知症患者の特定の集団における有効性のさらなるエビデンスが必要である。血液バイオマーカーにより、アルツハイマー病になる可能性が非常に低いか、非常に高いと判断される場合には、認知症患者の同定のために侵襲的で高価な検査を行うことを回避することに役立つかもしれない。血漿 p-tau181、Thr217 でリン酸化されたタウ(p-tau217)、Thr231 でリン酸化されたタウ(p-tau231)は、アミロイド PET 陽性、ひいてはアルツハイマー病態を予測する上で、髄液アミロイド β、p-tau、総タウと同等かそれ以上の精度を有する可能性がある。 血中バイオマーカーは、低コストで定量性があり、忍容性があり、PET バイオマーカーや髄液バイオマーカーのいくつかの限界を克服し、局所的なサンプル採取や中央での品質管理処理により患者や臨床医の負担を軽減し、アルツハイマー病の病理学的診断へのアクセスを増加させる。

予測マーカーの意味
高齢者集団では複数の神経病理学的病態を認めることが多く、アルツハイマー病の病態のみを認めることはより少ない(図 1)。アミロイド β プラークの有病率は年齢に関連しており(すなわち、70 歳以上では 20%以上、80 歳では 30%以上)、高齢者ではアミロイド β バイオマーカーの陽性結果は慎重に解釈されるべきである。ただし、アミロイド β バイオマーカーが陰性(すなわち、PET でプラークが陰性、あるいは髄液の Aβ42 対 Aβ40 比が高い)であれば、年齢にかかわらずアルツハイマー病と診断される可能性は低い。アミロイド β プラークの蓄積は、神経変性や認知症状の発症の何年も前に起こるため、アミロイド β バイオマーカーが陽性であることのみは、6 年間の追跡調査において、アミロイド PET スキャンが陰性であることと比較して、将来の認知機能障害の予測性能は低いことが示された(アミロイド β が陽性であるが、タウバイオマーカーが陰性である参加者のアミロイド β とタウバイオマーカーの両方が陰性である参加者に対する認知症発症の HR は、1.6, 95%CI 0.5-5.4)。

2020 年のランセット委員会で議論されたように、脳画像または髄液でアミロイド β 陽性の認知的に健康な人のほとんどは、その後 10 年間、または生涯にわたってアルツハイマー病を発症しない。米国の 1524 人(女性 698 人)のボランティアサンプルでは、70 歳時点でのアミロイド β 陽性の有病率は女性で 10%(95%信頼区間 6-14)であったのに対し、臨床的に定義されたアルツハイマー病の有病率は 1%(1-1)であった。85 歳までに、アミロイド β 陽性の有病率は 33%(24-41)であったのに対し、臨床的に定義されたアルツハイマー病の可能性が高い有病率は 9%(9-12)であり、男性でも同様の数値であった。アミロイドβ、タウオパチー、神経変性マーカーに関するある地域ベースの剖検コホート研究では、アミロイド β、タウオパチー、神経変性マーカーが陽性の 398 人のうち、亡くなる 5 年以内に認知症を発症した人は、アミロイド β とタウオパチー(神経変性は持たない)マーカーが陽性の人では 8%であったのに対し、アミロイド β、タウオパチー、神経変性マーカーを持つ人は 68%であった。

タウ PET の取り込みは、アミロイドPETの取り込みよりも遅い段階と年齢で起こり、アミロイド PET よりも認知機能障害と密接に関連している。海馬の萎縮、内側前頭皮質 (medial cortex) の菲薄化、フルオロデオキシグルコース(fluorodeoxyglucose: FDG)-PET での取り込み低下、髄液 NF-L(すなわち神経変性の非特異的マーカー)の増加などの神経変性のバイオマーカーは、アミロイド β やタウの髄液バイオマーカーよりも認知機能低下と時間的に密接に関連している。

側頭葉内側部 (medial temporal lobe) や側頭新皮質 (temporal neocortex) にアミロイド β やタウを認める認知障害のない人は、どちらも認めない人に比べて認知機能が低下する可能性が高く、側頭新皮質にタウを認める人のリスクは 6 年間で 50%に近い可能性があるが、サンプルが少ないため推定は不正確である。その他のバイオマーカーやプロテオミクス、メタボロミクスの進歩により、新たな薬理学的標的が発見されるかもしれない。

臨床的には、血液ベースのバイオマーカーは、アルツハイマー型認知症(すなわち、アルツハイマー病+高度の認知機能障害)を発症するかどうかの予測には役立たないかもしれない。MCI の集団で行われたように、複数の血液ベースのバイオマーカーと年齢や性別などの人口統計学的情報を組み合わせることで、アルツハイマー病の発症リスクを個々に計算することができるかもしれない。

さらに、ほとんどの研究は、ほぼ白人集団のみを対象としており、システマティックレビューでは、アフリカ系黒人を対象とした研究はないが、アフリカ系アメリカ人を対象とした研究は 5 件確認されている。アフリカ系アメリカ人を対象とした小規模な研究では、認知機能が健常な人と認知症患者の両方において、p-tau の濃度が白人よりも低いことが報告されており、白人集団のバイオマーカーの一般性は不明である。その後に行われたレビューでは、7 件の研究が報告され、やはり黒人の認知症患者では白人の認知症患者よりもタウ濃度が低いことが示されたが、いずれの研究も血管負担 (vascular burden) の大きさを説明するものではなかった (?)。このレビューの著者は、白人と黒人のサンプル間の健康の社会的決定要因の違いが説明できるかもしれないと示唆した。この差が社会的決定要因によるものであることは、アフリカ系アメリカ人と非ヒスパニック系白人の地域ベースの成人サンプルを対象とした研究で、自己申告の人種に基づくアルツハイマー病の血漿バイオマーカーとの独立した関連は確認されず、年齢、性別、慢性腎臓病、血管危険因子が観察されたばらつきに寄与していたことと一致している。

アルツハイマー病臨床試験における患者選択:バイオマーカーと遺伝子検査
2020 年のランセット委員会以降のもう 1 つの進展は、早期アルツハイマー病患者を対象とした抗アミロイド β 抗体療法の臨床試験において、アミロイド PET が適格基準として、また代用臨床転帰として使用されるようになったことである。アミロイド β プラーク、フィブリル、可溶性プロトフィブリル、オリゴマーアミロイド β 種を標的とするモノクローナル抗体(aducanumab、レカネマブ [lecanemab]、ドナネマブ [donanemab]、gantenerumab)の第 2 相および第 3 相試験では、試験登録のために、主にアミロイド PET によるアミロイドプラークの病態のエビデンスが必要とされた。レカネマブとドナネマブの第 3 相試験では、初期アルツハイマー病(MCI と認知症の両方)において認知機能低下を遅らせるという中程度の有効性が示された。ドナネマブの第 3 相試験では、早期アルツハイマー病患者に対して、アミロイド PET とタウ PET の両方が陽性であることが要求され、参加者をタウ負荷が低陽性のグループと中間または高陽性のグループに分けることができた。レカネマブ試験とドナネマブ試験では、アミロイド β の低下を評価するためにアミロイド PET が使用され、18 ヶ月以内にアミロイドの顕著な除去が認められた。将来的には、PET 検査を行うかどうかの評価に血液バイオマーカーを用いることで、このような試験のコストを下げることができるだろう。

認知症における遺伝子検査に関する知識は急速に進歩しているが、ほとんどの認知症は常染色体優性遺伝子が原因ではないため、遺伝子検査は広く行われていない。まれな常染色体優性遺伝の早期発症アルツハイマー病につながる対立遺伝子の 1 つに対する遺伝子検査が陽性であれば、診断の精度が高まり、家族の個人的なリスクの確認に役立ち、生殖の選択に役立つ可能性があり、臨床試験に役立つ可能性がある。前頭側頭型認知症全体のうち、常染色体優性遺伝子の変異によるものが比較的多く(3 分の 1 までという推計もある)、適切な臨床場面での検査が重要であろう。

アミロイド β プラークの蓄積は、神経変性や認知症状の発症の何年も前に起こるため、アミロイド β バイオマーカーが陽性であることのみでは、6 年間の追跡調査において、アミロイド PET スキャンが陰性であることと比較して、将来の認知機能障害の予測性能は低いことが示された(アミロイド β が陽性であるが、タウバイオマーカーが陰性である参加者の、アミロイド β とタウバイオマーカーの両方が陰性である参加者に対する認知症発症の HR は、1.6, 95%CI 0.5-5.4)。

2020 年のランセット委員会で議論されたように、脳画像または髄液でアミロイド β 陽性の認知的に健康な人のほとんどは、その後 10 年間、または生涯にわたってアルツハイマー病を発症しない。米国の 1,524 人(女性 698 人)のボランティアサンプルでは、70 歳時点でのアミロイド β 陽性の有病率は女性で 10%(95%信頼区間 6-14)であったのに対し、臨床的に定義されたアルツハイマー病の有病率は 1%(1-1)であった。アミロイド β、タウオパチー、神経変性マーカーに関するある地域ベースの剖検コホート研究では、アミロイド β、タウオパチー、神経変性マーカーを持つ 398 人のうち、亡くなる 5 年以内に認知症と診断される人はアミロイド β とタウオパチー(神経変性は持たない)マーカーを持つ人はわずか 8%であったのに対し、アミロイド β、タウオパチー、神経変性マーカーを持つ人は 68%であった。

タウ PET による取り込みは、アミロイド PET による取り込みよりも遅い段階と年齢で起こり、アミロイド-PET よりも認知機能障害と密接に関連している。海馬の萎縮、内側前頭皮質 (medial cortex) の菲薄化、フルオロデオキシグルコース(fluorodeoxyglucose: FDG)-PET での低グルコース取り込み、髄液 NF-L(すなわち神経変性の非特異的マーカー)の増加などの神経変性のバイオマーカーは、アミロイド β やタウの髄液バイオマーカーよりも認知機能低下と時間的に密接に関連している。側頭葉内側部または側頭新皮質にアミロイド β とタウを認める認知障害のない人は、どちらも認めない人に比べて認知機能が低下する可能性が高く、側頭新皮質にタウを認める人の 6 年間のリスクは 50%近い可能性があるが、サンプルが少ないため推定は不正確である。

臨床的には、血液ベースのバイオマーカーは、アルツハイマー型認知症(すなわち、アルツハイマー型認知症と高度の認知機能障害)を発症するかどうかの予測には役立たないかもしれない。MCI の集団で行われたように、複数の血液ベースのバイオマーカーと年齢や性別などの人口統計学的情報を組み合わせることで、アルツハイマー病の発症リスクを個々に計算することができるかもしれない。

臨床的には、血液に基づくバイオマーカーは、アルツハイマー型認知症(すなわち、アルツハイマー型認知症+高度の認知機能障害)を発症するかどうかの予測には有用ではないかもしれない。MCI の集団で行われたように、複数の血液ベースのバイオマーカーと年齢や性別などの人口統計学的情報を組み合わせることで、アルツハイマー病の発症リスクを個々に計算することができるかもしれない。さらに、ほとんどの研究は、ほぼ白人集団のみを対象としている。システマティックレビューでは、5 件の研究が同定されたが、そのうちアフリカ系黒人を対象とした研究はなかったが、アフリカ系アメリカ人を対象とした研究はあった。アフリカ系アメリカ人を対象とした小規模な研究では、認知機能が健常な人と認知症患者の両方において、p-tau の濃度が白人よりも低いことが報告されており、白人集団のバイオマーカーの一般性は不明である。その後に行われたレビューでは、7 件の研究が報告され、やはり黒人の認知症患者では白人の認知症患者よりもタウ濃度が低いことが示されたが、いずれの研究でも黒人で動脈硬化のリスク因子を多く持つことがタウ濃度に差を認める原因であるとは言えなかった。このレビューの著者は、白人と黒人のサンプル間の健康の社会的決定要因の違いによって説明できるかもしれないと示唆した。この差が社会的決定要因によるものであることは、アフリカ系アメリカ人と非ヒスパニック系白人の地域ベースの成人サンプルを対象とした研究で、人種とアルツハイマー病の血漿バイオマーカーとの間に独立した関連は確認されず、年齢、性別、慢性腎臓病、血管危険因子が観察されたばらつきに寄与していたことと一致している。

アルツハイマー病臨床試験における患者選択:バイオマーカーと遺伝子検査
2020 年のランセット委員会以降のもう 1 つの進展は、早期アルツハイマー病患者を対象とした抗アミロイド β 抗体療法の臨床試験において、アミロイド PET が適格基準として、また代用臨床アウトカムとして使用されるようになったことである。アミロイド β プラーク、フィブリル、可溶性プロトフィブリル、オリゴマーアミロイド β 種を標的とするモノクローナル抗体(アデュカヌマブ [aducanumab]、レカネマブ [lecanemab]、ドナネマブ [donanemab]、ガンテネルマブ [gantenerumab])の第 2 相および第 3 相試験では、試験登録のために、主にアミロイド PET によるアミロイドプラークの病態のエビデンスが必要とされた。 レカネマブとドナネマブの第 3 相試験では、早期アルツハイマー病(MCI と認知症の両方)において認知機能低下を遅らせるという中程度の有効性が示された。ドナネマブの第 3 相試験では、早期アルツハイマー病患者に対して、アミロイド PET とタウ PET の両方が陽性であることが要求され、参加者をタウ負荷の低いグループと中間または高いグループに分けることができた。レカネマブとドナネマブの両試験では、アミロイド β の低下を評価するためにアミロイド PET が使用され、18 ヵ月以内にアミロイドの顕著な除去が示された。将来的には、PET 検査を行うかどうかの評価に血液バイオマーカーを用いることで、このような試験のコストを下げることができるだろう。

認知症における遺伝子検査に関する知識は急速に進歩しているが、ほとんどの認知症は常染色体優性遺伝子が原因ではないため、遺伝子検査は広く行われていない。まれな常染色体優性遺伝の早期発症アルツハイマー病につながる対立遺伝子の 1 つに対する遺伝子検査が陽性であれば、診断の精度が高まり、家族が個人的なリスクを確立するのに役立ち、生殖の選択に役立つ可能性があり、臨床試験を支援することができる。前頭側頭型認知症全体のうち、常染色体優性遺伝子の変異によるものが比較的多く(最大 3 分の 1 という推計もある)、適切な臨床場面での検査が重要であろう。

APOE 遺伝子型がアルツハイマー病のリスクに大きく影響することはよく知られているが、APOEε4 対立遺伝子の遺伝子検査は診断的には用いられておらず、多くのアルツハイマー病患者は ε4 対立遺伝子を持っていない。APOE 対立遺伝子はアルツハイマー病の経過の不均一性に寄与している。ある死後研究(n = 1109)では、APOEε3/ε3 キャリアと比較して、APOEε4 キャリアでは認知機能の低下速度が年間 10%速く(-3.45 vs -3.03 MMSE ポイント/年)、ε2 キャリアでは低下速度が 20%低い(-2.43 vs -3.03 MMSE ポイント/年)ことが報告されている。

現在と将来のバイオマーカーのまとめ
バイオマーカーは臨床症候群ではなく、特定の病態を特定するものであり、バイオマーカーは認知症の診断検査ではない。アミロイド PET や髄液アミロイド・タウアッセイは、アミロイド斑の存在やアルツハイマー病の病態を確定するためのアルツハイマー病診断補助として、米国食品医薬品局(the US Food and Drug Administration: FDA)により販売と償還が承認されている。

バイオマーカー検査は、アルツハイマー病の不要な検査を増加させる可能性があり、認知症を発症しない人を誤ってアルツハイマー病のリスクがあると判定する可能性がある。そのため、認知機能障害のない人に対して(無症候性)アルツハイマー病のスクリーニングとしてバイオマーカー検査を行う場合、明らかな倫理的問題がある。現在のところ、アミロイド β バイオマーカーが陽性であっても、認知症にならない人がほとんどであるため、バイオマーカーを診断や治療の判断に用いるべきではない。効果的で安全な症状前治療が開発され、それが利用できるようになれば、アルツハイマー病や他の認知症に対する費用対効果の高いバイオマーカーは、どのような人がいつ認知症に進行する可能性が高いかを予測するために、あるいは有効性の代替エンドポイントとして、また公平性を高めるために重要になるかもしれない(図 10)。

図 10. 認知症の臨床試験におけるバイオマーカーの使用についての将来的なビジョン
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(24)01296-0/fulltext?dgcid=twitter_organic_infocusbrainhealth_lancetdementia24_lancet#fig10

診断が下された後の介入
認知症患者への介入の原則
認知症は進行性であり、認知症患者は時間とともに変化するケアニーズに対応するために、再評価を受け、それぞれに合ったアプローチでケアされる必要がある。これらのニーズは複雑であり、身体的な多疾患併存、心理的、行動的、認知的症状、そしてこれらの症状から生じる可能性のあるリスクなどが含まれる。

2020 年のランセット委員会で議論したように、認知症患者は、認知症状、精神神経症状、機能的症状、身体的症状の変化だけでなく、その人自身のライフコース、家族、友人関係、文化、環境によって、支援や介入のニーズが影響を受ける個人である。エビデンスに基づいたプラクティスがあるにもかかわらず、認知症は依然として十分に発見されておらず、多くの本人や家族介護者のニーズは評価されず、満たされていない。

全体的な認知症ケアのベストプラクティスとしては、1. 高血圧、糖尿病、慢性閉塞性肺疾患などの病状管理、2. 感染症やせん妄の予防と治療、3. 安全、転倒予防、機能維持のための環境整備などである。例えば、血圧が低下している場合には降圧治療を減量または中止するなど、日常的な服薬の簡素化や減量を含む服薬管理、行動介入 (behavioural intervention) による症状の治療、日常生活動作の支援、身体活動、有意義な活動 (meaningful activities)、社会参加、健康的な栄養と水分補給、家族介護者のニーズへの対応など、支援的・社会的サービスの利用がある。

認知症に対する介入のほとんどは高所得国で開発されている。低中所得国では、認知症が認識されず、診断されないことが多く、診断されても、認知症患者は、他の病気の治療や家族への支援など、治療やケアのための資源が不十分であることが多い。低中エビデンスに基づく介入策を低中所得国で実施する場合、医療インフラやそれを提供するための資源が乏しいことや、文化的な違いによって不適切であったり、効果が低かったりする可能性がある。

ある設定の下で開発された介入の有効性は、異なる集団における受容性と実現可能性によって変化する。中核となる原則は異なる国でも変わらないはずであるが、介入は言語と文化に合わせて調整されるべきである。

認知症患者とその家族介護者に対する文化的に調整された介入を検討したシステマティックレビューでは、文化的に適応された介入は、低中所得国で使用される場合、適応の過程で中核的な構成要素が損なわれない限り、元の文脈と同様に受け入れられ、実行可能であり、効果的であることが確認された。適応に際しては、現地の文化、ニーズ、資源を考慮し、介入実施に対する障壁と促進因子を特定することが必要である。生物学的、民族的、文化的、社会経済的な異質性が治療反応と安全性に影響を及ぼす可能性があるためである。介入の受容性と実現可能性を確立し、改良するのに役立てるために、現地の状況で試験し、介入の構成要素を評価する必要がある。その他の重要な検討事項として、アウトカム測定法の文化的適合性(その多くは高所得国で開発されたもの)、および介入の拡張性が挙げられる。

個人を中心としたケアコーディネーション (person-centred care cordination) を行う多要素認知症ケアモデルは、エビデンスに基づいたアプローチを用いて、認知症患者とその家族介護者のリスクとニーズの評価を行うことを目的としている。メタアナリシスによると、介入を調整することによって、神経精神症状(平均差 -9.5, 95%CI -18.1~-1.0, 4 研究)と介護者の負担(標準化平均差 -0.54, 95%CI -1.01~-0.07, p = 0.02, 5 研究)が改善されたが、アウトカムには異質性がみられた。ケアコーディネーションに関する個々の研究では、社会的・個人的観点から、ケアホーム入所の減少と費用対効果が示されている。しかし、ケア連携の RCT のメタアナリシスでは、介護施設への入所や入院の有意な減少は示されなかった。プライマリーケアと専門的ケアの連携を含むモデルは、医療費の削減につながるかもしれない。

家族介護には良い面も多いが、認知症など病状が悪化している家族の介護は、通常は困難になっていく。その困難さは認知症の経過によって異なり、発症間際の方が発症後よりも不安や抑うつが大きい人もいる。メタアナリシス(43 件の研究;19,911 人の参加者)では、家族介護者のうつ病の有病率は 31.2%(95%CI 27.7-35.2)であったと報告されている。いくつかの多要素からなる介護者への介入が、短期的にも長期的にも効果的であるという証拠が存在する。これらの介入には通常、医療や地域社会のリソースに関する情報、技能訓練、ストレス軽減や対処法、精神的支援、将来計画などが含まれる。これらの介入は、家族介護者の抑うつ、負担、ストレスの有病率を低下させ、費用対効果が高く、コストを節約できる。エビデンスは、高所得国では介入が有効であることを示唆しているが、低中所得国ではほとんどエビデンスがない。

介入は文化的背景に合わせてアレンジすることができ、臨床資格を持たない訓練されたファシリテーターが実施することができる。英国で開発され、臨床的にも費用的にも効果的であった Strategies for Relatives 介入は、黒人や南アジアの介護者に文化的に適したものにすることで、利用範囲を広げるために開発されたものであり、それぞれの状況に合わせて実施され成功を収めた。米国の別の研究では、デイケアスタッフが実施した介入により、1 年後の介護者のうつ病が減少した。家族介護者に対する情報提供や支援を含む遠隔介入に関する RCT のコクラン・レビューでは、26 件の研究が同定され、これらの介入は通常のケアよりも有効ではなかったと報告されている。介護者に対するインターネットベースの心理教育に関するメタアナリシスでは、抑うつ症状に対する小さな効果(標準化平均値 -0.19, 95%CI -0.03~0.35)が示されたが、不安、負担、QOL には効果がみられなかった。

認知症状に対する介入
対症療法:コリンエステラーゼ阻害薬 (cholinesterase inhibitor) とメマンチン (memantine)
前回のランセット委員会では、アルツハイマー病やレビー小体型認知症の認知症状の治療薬として使用可能なコリンエステラーゼ阻害薬とメマンチンについて述べた。これらの薬剤は当初、軽度から中等度のアルツハイマー病患者を対象として評価されたが、RCT のメタアナリシスでは、これらの薬剤は症状の重症度の軽減(標準化平均差 0.37, 95%CI 0.26-0.48; 4 件の研究)、認知機能の改善(平均差 0.78, 95%CI 0.33-1.23, 3 件の研究)、日常生活動作の改善(標準化平均差 0.15, 95%CI 0.04-0.26, 5 件の研究)、死亡率の低下(RR 0.60, 95%CI 0.40-0.89, 6 件の研究)を示している。

前回の委員会以降、より長期の実臨床試験が発表されている。スウェーデンにおけるすべてのアルツハイマー型認知症発症者の登録に関する研究の1つでは、コリンエステラーゼ阻害薬を服用した 11,652 人は、コリンエステラーゼ阻害薬を服用しなかった5,826 人よりも、平均 5 年間の追跡調査において MMSE の成績がわずかに持続的に良好であり(1年あたり 0.13 点[95%CI 0.06-0.20]高い)、用量反応効果が認められた。同様の傾向マッチングを行ったより長期間の研究では、コリンエステラーゼ阻害薬を服用した人と服用しなかった人の間に、より大きな差があることが報告されている。1,572 人の認知症患者において、13.6 年の追跡調査終了時の MMSE スコアの平均低下は、コリンエステラーゼ阻害薬を服用した人では 5.4 点であったのに対し、服用しなかった人では 10.8 点であった(p<0.001)。 コリンエステラーゼ阻害薬と全死因死亡率の低下との間には強い関連がみられた(HR 0.59, 95%CI 0.53-0.66)。さらに、592 人のレビー小体型認知症患者を対象とした研究では、コリンエステラーゼ阻害薬を服用した 100 人(HR 0.67, 95%CI 0.48-0.93)とコリンエステラーゼ阻害薬とメマンチンを服用した 273 人(HR 0.64, 95%CI 0.50-0.83)は、社会人口統計学的因子、身体的および認知的健康状態、薬の使用についてコントロールした後、コリンエステラーゼ阻害薬もメマンチンも服用しなかった 219 人に比べて死亡リスクが有意に低かった。また、コリンエステラーゼ阻害薬またはコリンエステラーゼ阻害薬とメマンチンの両方を服用している人は、どちらの薬も服用していない人に比べて、身体障害による予定外の入院期間が有意に短かった。

これらの研究は観察研究であり、RCT ではないため、治療開始の意思に基づく交絡が残存している可能性がある。そのため、コリンエステラーゼ阻害薬を服用している人は、治療を開始できない、あるいは開始したくない人よりも転帰が良くなるような測定不能な因子を持っている可能性がある。臨床試験では、コリンエステラーゼ阻害薬は認知機能低下を治したり止めたりするものではないが、短期的には緩やかなプラスの効果があり、この治療を中止すると長期的には転帰が悪化することが示されている。臨床医は、アルツハイマー病やレビー小体型認知症の患者に対して、比較的安価で、副作用の少ない、容易に入手可能な薬剤を提供することを考えると良い。

アルツハイマー病に対するアミロイド β 標的抗体
2020 年のランセット委員会以降、アミロイド β バイオマーカー陽性のアルツハイマー病による MCI および軽度アルツハイマー型認知症の治療に対する 3 件の抗アミロイド β モノクローナル抗体の陽性試験と 3 件の劣性試験が行われている。2 件の同じデザインの第 3 相試験(ENGAGE 試験と EMERGE 試験)において、アデュカヌマブはプラセボと比較して、18 ヵ月後の Clinical Dementia Rating Scale-Sum of Boxes(CDR-SB;18 点満点)において 0.39 点(95%信頼区間 0.09-0.69 点)の低下と関連しており、もう 1 件の試験ではプラセボに有利な有意差のない結果であった。APOEε4 の存在は、MRI 信号異常として見られるアミロイド関連画像異常(amyloid-related imaging abnormality: ARIA)の重要な予測因子である。滲出液または浮腫 (effusion or oedema)(血管原性水腫 [vasogenic odema] としても知られる)ARIA(ARIA-E)および脳微小出血 (ceberal microhaemorrhage) ARIA(ARIA-H)は、抗アミロイド β 抗体による治療でしばしば認められる。レカネマブによる治療を受けた APOE ε4 ホモ接合体の参加者の ARIA-E 発生率は 33%(141 人中 46 人)であったのに対し、APOE ε4 ヘテロ接合体の参加者の発生率は 12%(479 人中 58 人)、APOE ε4 キャリアでない参加者の発生率は 5%(274 人中 15 人)であった。したがって、レカネマブの添付文書の警告では、治療前の APOE 遺伝子型判定と患者カウンセリングを推奨している。この所見はドナネマブでも同様であった。APOEε4 ホモ接合体における ARIA-E 発現率は 41%(143 人中 58 人)、ヘテロ接合体における発現率は 23%(452 人中 103 人)、非キャリアにおける発現率は 16%(255 人中 40 人)であった。

TRAILBLAZER-ALZ 2 試験において、ドナネマブ服用者はプラセボ群に比べ、統合アルツハイマー病評価尺度(integrated Alzheimer Disease Rating Scale, 認知と機能)の低下が小さかった。投与 18 ヵ月後の低下率は、薬剤群で -10.19(95%信頼区間 -11.22~-9.16)、プラセボ群で-13.11(-14.10~-12.13)であり、介入群では副次項目の認知機能、日常生活動作、複合アウトカムの低下が少なかった。皮下投与型抗体ガンテネルマブの 2 年間の追跡調査による 2 件の新しい研究でも、同様のバイオマーククリアランス (biomarker clearance) が示され、アミロイド斑は減少したが、CDR-SB ポイントには有意な効果は認められなかった(-0.31 と -0.19)。薬剤群とプラセボ群との差は、いくつかのドメインにおいてはより肯定的な試験の結果と同程度の大きさであったが、統計学的有意差には達しなかった。同様に、ソラネズマブ (solanezumab) の試験では、前臨床アルツハイマー病患者の認知機能低下を遅らせたり、アミロイドプラーク濃度に影響を与えることはなかったが、CDR-SB には影響を与え、他の試験と同様であった(-0.34)。

その後、アデュカヌマブの製造元であるバイオジェン社 (Biogen) は、同剤の市場からの撤退と第 4 相試験の中止を発表した。FDA はレカネマブを 2023 年 7 月に承認した。 この承認は、アミロイド PET の負荷量、すなわちプラークの減少が臨床的有用性を予測するという合理的な期待にもとづいているが、プラークの減少と臨床評価スケールの変化との相関は肯定的ではあるが弱い。これらの抗体は中等度または重度の認知症患者では試験されておらず、参加者の MMSE スコアの最低値はレカネマブで 22 点、ドナネマブで 20 点であった。長年期待されてきた肯定的な結果には興奮を覚えるが、これらの治療が大きな進歩であるかどうか、あるいは観察された利益が既知の負担、リスク、コストに見合うものなのかついては、コンセンサスは得られていない。

認知症状に対するアミロイド β 標的薬の臨床的意味と一般性
アミロイド β 標的薬が効果は大きくないものの有効であることは、重要な進歩である。有効であった薬剤において、18 ヵ月を超える治療による臨床的利益が増加するのか、安定したままなのか、あるいは減少するのかは不明である。将来、非盲検延長試験から得られる結果がこれらの疑問に対する答えになるかもしれないが、脱落者も多く、他の疾患による罹患率や死亡率もあるであろう。抗体治療の効果が小さいため、ARIA-E や ARIA-H、MRI での脳容積減少などの副作用によるアンマスキングの可能性を否定することは難しい。

アルツハイマー病治療薬の臨床試験では適格基準が厳しく、試験参加者の健康状態は、一般的なアルツハイマー病患者の健康状態よりも良好であることが多い。他の発表された免疫療法試験と比べれば、レカネマブ試験において少数民族出身者の数が多かったが、十分に反映されているとは言えない。Mayo Clinic Study of Aging のデータを用いた地域住民を対象とした研究では、アミロイド PET 検査が陽性の 869 人の参加者のうち、MCI または軽症の認知症の基準を満たしたのはわずか 237 人(27%)しかいなかった。

アルツハイマー病に関する 101 件の臨床試験のメタアナリシスでは、データのある 46 件の臨床試験の参加者の中央値 94.7%(IQR 81.0-96.7)が白人であり、ほとんどの臨床試験で精神疾患(101 試験中 79[78%])、脳血管疾患(68[67%])、心血管系疾患(72[71%])が除外され、投薬に付き添う家族介護者(81[80%]の臨床試験)が必要であったと報告されている。 多疾患合併や複数の神経病理を有するアルツハイマー病患者や、医療制度が不十分な国に住む患者の多くに、所見を一般化することは困難である。

これまでのところ、米国以外では、日本と中国のみがレカネマブを承認しているが、他の当局も承認の決定を下している。レカネマブの公称価格は、患者一人当たり年間 26,500 米ドル (1 ドル 156 円とすると 413 万 4000 円) である。メディケア、米国退役軍人局、民間保険会社が支払う価格は不明である。さらに、多くの医師の診察、隔週の点滴、臨床検査、MRI、PET 検査、副作用の管理に費用がかかる。メディケア患者は通常、これらの費用の最大 20%を自己負担する必要がある。米国の臨床経済審査研究所(Institute for Clinical and Economic Review)は、費用対効果を考慮した価格はレカネマブの価格より低く、8,900 ドル/年から 21,500 ドル/年の間であると報告している。ドナネマブの点滴は、アミロイドが除去されると中止されるため、約 60%の人が 1 年間しか治療を必要としないため、レカネマブの点滴より時間がかからず、投与頻度も少なく(すなわち、毎月)、全体的なコストも低い。

米国の価格設定に基づくと、仮に EU27 カ国でレカネマブの投与が可能であれば、治療費は (治療関連費用を考慮しない場合で) 年間 1,330 億ユーロと推定され、EU の総医薬品支出の半分以上に相当する。しかし、歴史的に見ると、EU と英国は、新薬や高価な医薬品に対して、米国の定価よりも低い金額を支払ってきた。

認知に影響を与えるアミロイド β 標的治療薬を発見したことは重要なマイルストーンであり、認知に影響を与える薬剤の開発の始まりとなるかもしれない(パネル)。現在のところ、すべての薬剤の効果は小さい。早期のバイオマーカーに基づく診断と投与と安全性の監督が必要なことと高額な薬価を考慮すると、多くの医療システムではアミロイド β 標的治療薬の使用は広がらないかだろう。もしアミロイド β 標的治療薬が、初期患者や多疾患合併患者など、当初の治験で用いられたグループよりも限定されないグループに対して承認された場合には、典型的な患者に対する副作用と、長期的な効果が疾患修飾を支持するか否かを調査するために、研究センターで使用されることを推奨する。皮下投与については、前述したように、引き続き試験が行われており、負担を大幅に軽減し、アクセスを増加させるであろう。

元論文
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(24)01296-0/abstract?dgcid=twitter_organic_infocusbrainhealth_lancetdementia24_lancet

認知症の予防、介入、ケア: ランセット常設委員会の 2024 年報告書 その 3

2025-01-29 08:03:24 | 神経
認知症の予防、介入、ケア:ランセット常設委員会の 2024 年報告書
Lancet 2024; 404: 572-628

未治療の視力低下
眼鏡が必要となるような一般的な視力障害を含め、50 歳以上の成人における回避可能な視力低下と失明の世界的有病率は 12.6%と推定され、有病率は高所得国よりも低中所得国の方がはるかに高い。この有病率は、通常アルツハイマー病が原因であるが、しばしば眼疾患と誤診される後皮質萎縮症による皮質盲とは異なる。当委員会はこれまで、視力低下を認知症の危険因子とは考えてこなかったが、新たな証拠がかなり出てきた。

たとえば、3.7~14.5 年の追跡調査を行った 14 件の前向きコホート研究についてのメタ解析 (ベースライン時に認知機能に異常のなかった高齢者 6,204, 827 人を対象とし、そのうち 171,888 人が認知症を発症した) では、視力低下は、認知症のプールリスク比 1.47(95%CI 1.36-1.60)と関連していた (図 8)。

図 8. 視力障害のある人の視力障害がない人に対するあらゆる原因による認知症のリスク比についてのメタ分析
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(24)01296-0/fulltext?dgcid=twitter_organic_infocusbrainhealth_lancetdementia24_lancet#fig8

また、45,313 人が参加した 12 件の前向きコホート研究のメタ解析では、13,350 人が認知障害を発症し、視力喪失と将来の認知障害のリスク比は1.35(1.28-1.41)であった。

2 件目のメタアナリシスでは、視覚喪失に伴うあらゆる原因による認知症リスクの増加(RR 1.38, 95%CI 1.19-1.59, n=37,705)が同定された。眼の状態別にみると、認知症リスクの増加は、白内障(3 研究、6,659 人、1,312 例、HR 1.17, 95%CI 1.00-1.38, I2=0-0%)と糖尿病性網膜症(4 研究、43,658 人、7,060 例、1.34, 1.11-1.61; I2 = 63.9%)で認められたが、緑内障(6 試験;175 ,357人;44,144 症例;0.97, 0.90-1.04; I2 = 51.5%)や加齢黄斑変性症(3 試験;7,800 ,692 人;2,559 症例以上、正確な数は不明;1.15, 0.88-1.50; I2 = 91.0%)には認められなかった。

16,690 人の参加者を対象とした米国のある研究では、2020 年のランセット委員会に基づくライフコースモデルに、修正可能な潜在的危険因子として視力低下を追加することを検討し、その集団における視力障害の人口寄与割合(population attributable fraction: PAF)は 1.8%であったと報告している。視力喪失の有病率は非ヒスパニック白人集団よりもマイノリティ集団の方が高いため(非ヒスパニック黒人 3,660 人の9.9%、ヒスパニック 1,880 人の 11.0%に対して、非ヒスパニック白人 11,011 人の 7.7%)、これらの集団ではリスクも潜在的利益も大きくなる可能性がある。

この解析では、年齢、人種、APOE 遺伝子型、学歴、喫煙、および広範な併存疾患のリストが管理され、白内障摘出術を受けた人は、受けていない人に比べて認知症リスクが有意に減少したことが報告されている(HR 0.71, 95%CI 0.62-0.83、23,554 人年追跡)。300,823 人を対象とした UK Biobank 研究では、白内障の人は認知症リスクが高い(1.21, 1.01-1.46)と報告されているが、白内障手術を受けた人と健常対照者との間に認知症リスクに差はなかった。

これらの関連性の背後にあるメカニズムは、認知症の危険因子である糖尿病などの基礎疾患、視力低下そのもの、あるいは網膜と脳の両方における神経病理学的プロセスに関連している可能性がある。6,029,657人を対象とした韓国の縦断的健康保険データベース研究では、認知症リスクは視力喪失の重症度とともに増加することが報告されており、視力喪失それ自体が原因であるか、あるいは視力低下の原因となっている因子に対する用量反応効果があるのではないかという仮説が支持されている。糖尿病網膜症と認知症の関連を検討した研究では、糖尿病網膜症が 5 年以上経過した後、長期的な血糖値と腎機能で測定される糖尿病の重症度を調整しても、網膜症と認知症の関連は残ることが確認された。

未治療の視力低下と認知症リスクとの関連、および治療による改善の可能性を支持する証拠が増えている。したがって、本分析では視力低下を危険因子として含めた。しかし、世界中で、特に低中所得国では、視力低下はしばしば治療されていない。視力低下の治療は認知症予防につながり得る。

多要素認知症予防研究
多領域介入は、健康関連および行動の変化を通じて複数の認知症リスク因子に対処するものであり、原則として多因子性の状態に適している。これらの介入は、個人的な目標設定やデジタルプラットフォームやモバイルアプリと連動したものから、グループ活動に基づいたものまで、そのアプローチは様々である。2021 年のコクラン・レビューでは、認知症や認知機能低下の予防のための多領域介入に関する 9 件の RCT が同定され、18,452 人が参加している。特に APOE ε4 遺伝子型を有する人において、マルチドメイン介入による全体的な認知機能に対するわずかな有益性(複合 Z スコアの平均差 0.03, 95%CI 0.01~0.06, 3 件の RCT, n = 4,617, 追跡期間 18~36 ヵ月)が高い確度で認められた(保因者の平均差 0.14, 0.04~0.25; 非キャリアの平均差は 0.04, -0.02~0.10;2 件の RCT;n = 2,043;追跡期間 24~36 ヵ月)が、認知症発症に対する効果は信頼区間に幅があった(RR 0.94, 95%CI 0.76~1.18;2 つのRCT;n = 7,256;追跡期間 6~13 年)。 心血管危険因子を扱った DIVA 以前の試験(追跡期間中央値 10.3 年[IQR 7.0-11.0]、ベースライン時年齢 70-78 歳の参加者)でも、認知症発症に関して同様の結果が示された。さらに最近、Age Well 試験では、年齢、性別、生年月日、身長・体重、血清コレステロール、収縮期・拡張期血圧、身体活動状況、教育年数を組み込んだ認知症リスクカリキュレーターのスコアが平均より高い成人 1,030 人をドイツで募集した。介入には、栄養と服薬の最適化、身体的・社会的・認知的活動などが含まれ、参加者とともに個別の目標が設定されたが、一般的な健康アドバイスを受けた対照群と比較して、24 ヵ月間の認知機能に対する効果はみられなかった。研究者らは、介入は十分に的を絞ったものではなく、強度も十分ではなかったと結論づけた。SMARRT 試験では、ヘルスコーチングとナースビジターによる 2 年間の個人的なリスク低減目標(70〜89 歳の成人 172 人)が評価された。この介入により、複合認知スコアが改善し(平均治療効果は標準偏差 0.14, 95%CI 0.03-0.25)、認知症リスク低減に関する情報を含む健康教育対照と比較して 74%の改善がみられた。

MCI に対する多領域介入に関するシステマティックレビューとメタアナリシスでは、MCI の高齢者(n = 2,711)において最大 1 年間継続した非薬理学的多領域介入に関する 28 件の RCT が発見され、単一介入のアクティブコントロールと比較して、実行機能と記憶の改善を伴う、グローバル認知に対する中等度の効果(標準化平均差 0.41, 95%CI 0.23-0.59, I2 = 62%)が認められた。MCI 患者を対象としたライフスタイルに関する RCT の小規模なシステマティックレビューでは、3 件の小規模な RCT(n = 156)のみであり、異質性が低く認知機能に対する有意な有益性が報告されている。

システマティックレビューによると、マルチドメイン(すなわち、2 つ以上のドメイン)介入に関する 4 つの大規模試験の適格者の 10 年認知症リスクは、不適格と判断された者の 10 年認知症リスクと同程度であった。

行動変容を支援する介入コーチ、デジタル配信による個別化され計測可能な自己管理介入、社会経済的地位の低い人々や低中所得国の人々を対象とした介入など、介入の有効性やアドヒアランスを高めるための戦略を用いた研究もある。これらの研究により、既存の試験で報告された認知的ベネフィットを再現または増加させることができるかどうか、また、マルチドメイン介入が認知症予防において計測可能で臨床的に有意である可能性が高いかどうかが明らかにされるべきである。確認された認知的有益性が介入中止後も持続可能かどうか、認知症発症の減少につながるかどうか、低所得の設定や高リスクの集団において同様のアドヒアランスと有効性をもって実施できるかどうかは、現在のところ不明である。

認知症予防のための多領域介入試験のレビューによると、42 試験中 26 試験(62%)しか民族データが報告されておらず、その中で非白人少数民族の参加者の割合はわずかであった。白人は 23 試験で報告され、黒人またはアフリカ系アメリカ人は 15 試験で報告され、アジア人は 6 試験で報告され、アメリカンインディアンまたはアラスカ先住民は 3 試験で報告され、ハワイ先住民または太平洋諸島民の人種は 1 試験で報告された。FINGERS 試験では、民族や認知症発症率は報告されていないが、認知機能に対する介入の効果は、(かなり裕福なコホート内ではあるが)社会経済的カテゴリーにかかわらず同じであったと報告されている。HATICE 研究(すなわち、インターネットベースで、コーチが支援する目標設定アプローチ)の参加者 2,700 人のうち 61 人(2%)を除く全員が白人であった。結果は民族別に集計されていないが、介入の効果は、ベースラインの教育到達度が最も低い人で最大であった。

総じて、効果が緩やかな介入であっても、理論的には、裕福でない人や低所得の環境にいる人を含む集団レベルでは実質的な予防効果をもたらす可能性がある。個人への介入や複数のリスクに対する介入は費用対効果が高い可能性があるが、一般化は困難であり、持続的な効果を得るためには介入を間隔を空けて繰り返す必要があるかもしれない。

PAF 計算
高 LDL コレステロール血症と未治療の視力低下という 2 つの新しい危険因子と、以前のモデルにあった 12 因子を認知症のライフコースモデルに組み込んだ。危険因子の有病率とリスク比については、世界的に最大かつ最新のメタアナリシスを用いたか、入手できない場合は最良のデータを用いた。出典と根拠は付録に詳述されている。本論文で既に述べたうつ病と難聴のリスク比については、新たにメタアナリシスを行った。

ノルウェーの Nord-Trøndelag 県の 20 歳以上の住民を対象とした縦断的な集団ベースの健康研究である HUNT 研究の 45 歳以上の全参加者 37,000 人のデータを用いて、14 の危険因子の communality(すなわち、危険因子のクラスタリング)を推定した。付録には、PAF の計算式、危険因子の定義、communality と PAF を計算する Stata コードを含む手順が示されている。我々の分析では、5 つの主成分が同定され、14 の危険因子間の全分散の 54%を説明し、危険因子の有病率にかなりの重複があることを示した。14 の危険因子すべての PAF は45.3%と推定された。

図 9 は、潜在的に修正可能な 14 の認知症リスク因子のライフコースモデルを示している。

図 9. 潜在的に介入可能な認知症危険因子の人口寄与割合
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(24)01296-0/fulltext?dgcid=twitter_organic_infocusbrainhealth_lancetdementia24_lancet#fig9

表 1 は、潜在的に修正可能な 14 の認知症危険因子すべてについて、有病率、communality、リスク比、communality で調整した重み付けなしおよび重み付けした PAF を示したものである。

表 1. 潜在的に修正可能な 14 の認知症リスク因子毎のリスク比、有病率、人口寄与割合
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(24)01296-0/fulltext?dgcid=twitter_organic_infocusbrainhealth_lancetdementia24_lancet#tbl1

長所と限界
本論文は、認知症の潜在的に修飾可能な危険因子に関する PAF のこれまでで最も包括的な分析であり、説得力のあるエビデンスを持つ危険因子を新たに組み込み、危険因子のリスク比と有病率の世界的な推定値を更新して、これまでの計算を更新したものである。選択基準には常にある程度の主観性があり、結論に影響を与える可能性があるため、透明性を確保するために、選択基準の根拠となるエビデンスを提示した。リスクの大きさについては、現時点で最良のエビデンスを用いたが、このエビデンスがリスクを過大評価または過小評価している可能性もある。選択したリスク因子についてはシステマティックレビューを使用し、14 のリスク因子については communality を計算するためのデータを特定し、統合に必要な場合には新たなメタアナリシスを提供した。最近のレビューがなかったためうつ病と難聴についてのみ新しいメタアナリシスを行ったが、そのためいくつかの新しいエビデンスを見落とした可能性がある。これらの分析の実施方法については詳述したが、事前登録はしていない。認知症の半数近くが 14 の潜在的に修正可能な危険因子と関連していると推定され、希望に満ちた結果であった。

しかし、危険因子の有病率は国によって異なるというエビデンスが含まれている。ほとんどの世界的な研究は高所得国からのものであるため、低中所得国はデータが乏しく、十分な報告がなされていない。我々は、危険因子が認知症を引き起こすと仮定し、これらの危険因子を変化させることで、 認知症の有病率を変化させる可能性があるという追加的なエビデンスを含めた。エビデンスが一貫していないリスクは含めず、他のリスク因子が存在することを認めた。リスク因子と保護因子が、どのように国家内および国家間で集まったり変化したりするかについてのエビデンスは乏しい。HUNT 研究の参加者は、アルコール乱用の有病率が世界的な数値よりも低く、民族的多様性の少ない高所得国に住んでいた。さらに、LDL コレステロールの有病率に関する世界的な推定値を見つけることができず、単一のコホート研究からの推定値を使用することが理想的でないことを認めた。多くの危険因子は社会経済的貧困と関連している。例えば、人々がどこに住んでいるかは大気汚染への曝露と関連しており、また、歩いて行ける範囲に手頃な価格の健康的な食品があり、それを調理する資源と技能があるかどうかは肥満と糖尿病と関連している。社会経済的貧困 (Socioeconomic deprivation) は教育と強く関連しており、それを communality の計算に組み入れることで、個々の修正可能な要素を考慮することによる個々の影響を減らすことができる。大気汚染に関するデータは一貫して認知症のリスクであることを示唆しているが、メタ解析はできなかった。

さらに、あるリスクに長くさらされればさらされるほど、その影響は大きくなること(糖尿病など)や、リスクが一般集団よりも脆弱な人々に強く作用すること(大気汚染など)を示す証拠もある。従って、リスクのあるすべての人々にとって最善の方法で既存の病態を治療する努力を増やすことが重要である。しかし、このようなリスク修正は集団に影響を与えるが、どの個人も認知症を避けられるという保証はない。さらに、コミュニティや複数のリスクを抱える人々について考えることは極めて重要であり、そのような人々に対しては、個別の治療や行動変容の促し以上のアプローチが、長期的にはより大きな効果をもたらす可能性がある。変化をもたらすために介入に必要な期間や強度は不明であるが、喫煙に関連するリスクは長期的に減少させることが可能であり、実際に喫煙率の減少は、ある集団で見られる認知症有病率の減少に関連する要因の一つであるかもしれない。関連は因果関係ではないが、多成分介入、補聴器の提供、高血圧治療を評価した RCT で見られた認知への効果、および大気汚染、喫煙、社会的接触の減少、聴力・視力治療、仕事による認知刺激の増加にともなう認知症発症率の低下は、認知症の臨床的発現との因果関係を示唆し続けている。低中所得国でも高所得国でも、社会経済的地位の低い人々は、他の人々よりもリスクが高く、優先的に介入されるべきである。認知症の遺伝的リスクが高いかどうかにかかわらず、危険因子を減らすためのライフスタイルや政策の変更が重要であることを示すかなりの証拠が存在する。我々は、これまで紹介した文献に基づき、我々の提言を強調するために重要な点を要約した。リスクに対する理解には大きなギャップがあるが、認知症発症の可能性を減らす方法はあり、それは個人、家族、社会に利益をもたらすものであるため、行動は待ったなしである。

公衆衛生的アプローチ
認知症は公衆衛生の主要な課題であるが、公衆衛生の視点は認知症予防に対する極めて斬新なアプローチである。リスクは個人が変えられるものとして概念化することができるが、公衆衛生的アプローチは、社会経済的困窮に関連する不健康のライフコース的発生を認識するものである。教育への不平等なアクセス、健康的で安全な環境への不平等なアクセス、劣悪な職業環境などのリスク不平等の原因を理解することで、介入策の人口到達率、費用対効果、健康の公平性を最大化するための社会的条件の変化を促すことができる。心血管系の健康と喫煙は、社会経済的困窮と認知症との関連を部分的に媒介するので、ライフコース、身体活動、禁煙、肥満の原因とならず健康的な食事(これは糖尿病にも影響する)を支援する集団レベルのアプローチは、認知症有病率の不平等に大きな影響を及ぼすと予想される。

これらの危険因子の変化とその後の認知症リスクの減少との関連を証明することは、認知症リスクが生涯にわたって蓄積されるため困難である。また、認知症を発症する前に現れる病理学的変化も長い時間をかけて蓄積されるため、違いを示すには何年も何十年も研究が必要である。もう一つのアプローチは、認知症有病率の減少につながる因果関係を仮定して、リスク(および保護)因子を代理アウトカムとして使用することである。準実験的研究のような他の研究デザインも、認知症リスクに対する危険因 子の低減の効果を明らかにする可能性がある 。集団レベルの介入は、文化的・経済的背景に合わせて適切に行うことができ、理論的には認知症有病率、不平等、システム全体のコストを大幅に低減する ことができる。これらの介入策には、健康的な食品を購入しやすくするための補助金や、アルコール、タバコ、不健康な食品を購入しにくくするための課税などの財政政策、製品のリサイクルを奨励するための課税、継続教育やよりクリーンな燃料に対する経済的障壁の除去などがある。例えば、不健康な製品の広告にさらされる機会を減らしたり、社会文化的規範を転換させるようなマスメディア・キャンペーンをうまく利用したりすることである。法律や利用可能な政策としては、公共の場での禁煙、アルコールの販売時間の短縮、健康的な食品を現在よりも入手しやすくする、ファーストフード店の密度を下げる、安全で質の高い緑地やアクティブな移動のインフラを提供する、職場における騒音暴露の低減と聴覚保護具の提供、大気汚染を減らすための低排出ゾーン、アクティブな移動やスポーツにおけるヘルメットの使用の義務化などがある。WHO の『Global Age Friendly Cities Guide(高齢者に優しい世界都市ガイド)』 で推奨されているように、都市計画、アクセシビリティ、インフラを最適化することで、運動や社交を利用しやすく安全なものにす ることができる。喫煙、過度のアルコール摂取、肥満、高血圧、大気汚染、頭部外傷に効果があるとされる介入策を、認知症への影響についてモデル化したところ、すべてコスト削減と生活の質の改善が見られた。

モデルに含めるにはエビデンスが不十分な潜在的危険因子
他にも修正可能な危険因子が存在することは分かっており、これらの因子をいくつか検討したが、バランスから見て、修正可能な危険因子として含めるための高い基準を満たすだけの一貫したエビデンスが存在しないと判断した。これらの危険因子には、睡眠不足、不健康な食事、感染症、精神状態が含まれる。

睡眠
2020 年のランセット委員会で議論したように、睡眠時間が短い(すなわち、通常 5 時間以下と定義される)、または長い(すなわち、通常 10 時間以上と定義される)ことが、認知機能低下や認知症のリスク増加と関連しているのか、あるいは認知症を発症している人が前駆期に睡眠障害を起こしているのかは不明である。 2 つのメタアナリシスでは、睡眠時間の長さについて様々な定義を用いた研究が含まれており、短時間は 7 時間以下、長時間は 8 時間以上であることが多く、認知症発症までの追跡期間が 10 年未満であることから、睡眠時間と認知症リスクとの逆 U 字型の関連という知見は、逆因果バイアスの可能性がある。

いくつかの研究は、長期間の追跡調査を行っている点で注目に値するが、睡眠時間の把握後すぐに認知症を発症した人のデータと、睡眠測定が記録された時点から 5~10 年後に認知症を発症した人のデータを別々に報告した研究はない。逆因果仮説は、健康な成人 3893 人を対象とした縦断的脳 MRI 研究によって支持されている。この研究では、BMI、社会経済的状態、気分をコントロールした場合、脳萎縮率は睡眠時間の長さ(すなわち、 7 時間以上)、短さ(すなわち、7時間以下)、睡眠の質のいずれとも関連しなかったと報告している。しかし、横断的には、睡眠時間は皮質の厚さと関連しており、著者らは健康な脳が健康な睡眠時間を支えていることを示唆している。

830,716 人 の女性(ベースライン時の平均年齢60.0歳[SD 4.9])を 17 年間追跡調査した Million Women 研究では、睡眠時間が 7-8 時間と報告した人よりも、睡眠時間がやや短い(すなわち、7 時間未満)と報告した人の方が認知症のリスクがわずかに高かった(RR 1.08, 95%CI 1.04-1.12)。 Whitehall II 研究では、50歳、60 歳、70 歳において 6 時間以下の短時間睡眠が持続することは、通常の睡眠時間が持続すること(すなわち、7 時間)と比較して、社会人口統計学的、行動学的、心臓代謝学的、精神衛生的要因とは無関係に、認知症リスクが 30%増加することと関連していた。

シフト勤務は、通常の勤務日以外に働くことがあるため、概日リズムを乱し、心血管疾患やその他の疾病のリスクを高める可能性がある。その後の UK Biobank 研究では、シフト勤務が認知症に関係するかどうかを検討し、170,722 人を中央値 12.4 年間追跡調査し、そのうち 27,450 人(16.1%)がシフト勤務をしていた(ベースライン時の平均年齢はシフト勤務者で 52.8 歳[SD 7.1]、非シフト勤務者で 51.8 歳[SD 7.0])。交代勤務は認知症リスクの増加と関連していた(HR 1.30, 95%CI 1.08-1.58)。ただし、検出力は低いものの夜勤者は日勤者よりリスクは高くなかった。

65 歳以上の 28,775 人を対象としたスウェーデンのコホートでは、13 年間の追跡調査における長時間睡眠(すなわち、9 時間/夜を超える睡眠)と認知症との間の関連は、追跡調査の最初の 5 年間に発生した症例を解析から除外した後に完全に減弱し、逆因果バイアスの影響が大きいと結論された。同様に、米国の Million Women 研究では、最初の 5 年間の追跡調査後、長時間睡眠(すなわち、8 時間以上)または日中の昼寝と認知症との間に関連は見られなかった。UK Biobank のメンデルランダム化研究では、習慣的な昼寝と脳容積の増加(非標準化 β 15-80 cm3, 95%CI 0.25-31.34)との間にわずかな関連は見られたが、海馬容積や認知機能検査では差は見られなかった。

睡眠時間とともに、睡眠の質、特に睡眠時無呼吸が認知症と関連する可能性を示唆する新たなエビデンスがある。最長 14~9 年間追跡調査された 1,333,424 人を含む 11 件の研究のシステマティックレビューとメタアナリシスでは、睡眠時無呼吸の人は認知症発症リスクが高いことが確認されている(HR 1.43, 95%CI 1.26-1.62) 。睡眠時無呼吸症候群の人に認知症に関するスクリーニング質問を実施することを検討する価値があるかもしれない。

睡眠時間とともに、睡眠の質、特に睡眠時無呼吸が認知症と関連している可能性を示唆する新たなエビデンスがある。最長 14~9 年間追跡調査された 1,333,424 人を含む 11 件の研究のシステマティックレビューとメタアナリシスにより、睡眠時無呼吸の人は認知症発症リスクが高いことが明らかになった(HR 1.43, 95%CI 1.26-1.62)。睡眠時無呼吸症候群の人に認知症に関するスクリーニング質問を実施することを検討する価値があるかもしれない。

睡眠障害は、いくつかの過程を経て認知症リスクを増加させると仮定されている。睡眠障害は、認知症リスクに影響する他の疾患(例えば、糖尿病、うつ病、アルコール摂取)と併発することが多い。さらに、睡眠障害のある人はベンゾジアゼピン系薬剤による治療を受けている可能性があり、それが認知機能の低下に関係している可能性もある。あるシスシテマティックレビューとメタアナリシスでは、ベンゾジアゼピン系薬剤を服用している人において認知症リスクが増加するという非常に質の低いエビデンスが、追跡期間が 72~264 ヵ月に及ぶ 11 件の研究において確認されている(OR 1.38, 95%CI 1.07-1.77, I2 = 98%, n = 980,860)。ある前向きコホート研究では、ベンゾジアゼピン系薬剤の服用量が少ない人では、服用量が多い人と比べてリスクが高いことが報告されており、この関連は因果関係ではないことが示唆されている。実験的研究では、一時的な睡眠不足が直後の認知能力に有害な影響を及ぼすことが支持されている。

睡眠不足と認知機能低下を関連づける生物学的メカニズムとしては、神経炎症、アテローム性動脈硬化症、α-シヌクレイン病変(レビー小体型認知症やパーキンソン病性認知症など)、睡眠時間が短くなることによるアミロイド β のクリアランス障害などがある。 また、アミロイド β の蓄積と、認知的に健康な成人における概日リズムや睡眠パターンの乱れとの関連性を示す証拠もいくつか存在する。

2020 年のランセット委員会以来、認知症やその前駆症状は睡眠時間の延長を引き起こすかもしれないが、睡眠時間の延長は認知症の危険因子ではないことが、さらなる証拠によって示されている。認知症リスクを低減するために睡眠を抑制すべきではない。ベンゾジアゼピン系薬剤は認知症の原因とはならないようである。

総じて、睡眠時間が短いと認知症のリスクがわずかに上昇することを示す証拠があるようである。 しかし、短時間睡眠が認知症発症リスクに与える影響についてのエビデンスは乏しく、睡眠の長さよりもむしろ認知症発症リスク上昇に関連する因子である可能性のある睡眠の質や概日リズム障害に関する情報は存在しない。そのため、短時間睡眠に関するエビデンスは、因果関係を確信できるほど明確になっていない。我々は、危険因子としての睡眠について推奨することはできない。

食事
先に述べたように、栄養と個々の食品の認知機能への影響についての研究は難しく、認知や認知症との関連については矛盾した結果が得られている。食事は健康的なものから不健康なものまで様々なタイプの食品や飲料を含み、多くの場合、生活習慣の一部であるため、観察された影響は生活習慣に関連するものかもしれないし、生活習慣とは無関係のものかもしれない。

地中海食に類似した食事には、DASH(Dietary Approaches to Stop Hypertension)食や、地中海食に特定の健康食品を加えた MIND(Mediterranean-DASH Intervention for Neurodegenerative Delay)食がある。2019 年、世界保健機関 (World Health Organization: WHO) は認知症リスク軽減のために地中海食の条件付き推奨を行ったが、これは望ましい効果と望ましくない効果のエビデンスのバランスについて確信が持てないという意味であった。あるシステマティックレビューとメタアナリシスでは、追跡期間が 2.2 年から 41 年の 16 件のコホート研究が特定された。食事の質が高いことは低いことと比べて認知症リスクの低下と関連していた(RR 0.82, 95%CI 0.70-0.95, n = 66,930, 12 研究)。このリスクは、10 年以上追跡した研究(0.78, 0.62-0.99, 6 研究)またはアルツハイマー病という結果に限定した場合(0.61, 0.47-0.79, 6 研究)でも同様であった。対照的に、連続的な地中海食スコアを用いた研究では、地中海食のアドヒアランスと認知症リスクとの間に有意な関連は認められなかった。その後、224,049 人の参加者を対象とした3 つのコホート研究の大規模なメタアナリシスにより、MIND 食スコアの遵守率の増加が認知症リスクの低下と関連することが確認された(3 ポイント増加ごとに HR 0.83 [95% CI 0.72-0.95], I2 = 0%)。第 3 のシステマティックレビューでは、21 研究中 10 研究において、グローバルな認知機能低下に対する地中海食の予防効果が報告され、8 研究中 3 研究において認知症の発症に対する予防効果が報告され、4 研究中 2 研究においてアルツハイマー病に対する予防効果が報告された。

これらのレビュー以降、中年期の 28,025 人(すなわち、最初の評価時の平均年齢 58.1 歳 [SD 7.6]、追跡調査期間中央値 19.8 年 [IQR 4.8])を対象としたスウェーデンの前向きコホート研究では、食事に関する推奨事項の遵守も、修正地中海食(すなわち、伝統的な地中海食に基づくが、文化的差異に対応するためなどに調整された食事)の遵守も、認知症、アルツハイマー病、血管性認知症、またはアルツハイマー病の病像のリスクを減少させなかったことが報告された。これらの結果は、ベースライン後の 5 年間に認知症を発症した人を除いても変わらなかった。対照的に、UK Biobank 研究(n = 60,298, ベースライン時の平均年齢 63.8 歳 [2.7]、平均追跡期間 9.1 年 [1.7])では、APOE の状態とは無関係に、地中海食のアドヒアランスが高いことは、アドヒアランスが低いことと比較して認知症リスクの低下と関連することが報告されている。高齢者を対象とした米国のコホート研究(n = 581, 初回評価時の平均年齢 84.2 歳 [5.8])では、MIND と地中海食のパターン、特に緑葉野菜の摂取が、死後のアミロイド β 負荷、リン酸化タウのもつれ、アルツハイマー病の病態と逆相関していたことが報告されている。

超加工食品 (ultraprocessed food) とは、加工食品物質 (food processed substance)(すなわち、油脂、糖類、デンプン、タンパク質分離物)を配合したもので、食品 (whole food) をほとんど、あるいはまったく含まないものである。定義が曖昧なため、食品の分類は様々である。60 歳以上の参加者 3,632 人を対象とした米国の横断研究では、交絡因子で補正した後、全体的な認知能力および記憶力は、1 日の食事エネルギー摂取量のうち超加工食品からの割合とは関連しなかったと報告している。ブラジルで行われた縦断的研究(n=10 775;ベースライン時の平均年齢 51.6歳[SD 8.9];追跡調査期間中央値 8 年[範囲 6-10])では、関連する社会人口統計学的変数および臨床的変数で調整した後、超加工食品の摂取量が最高四分位値から四分位値までの 3 段階にある人では、最低四分位値の人に比べて、全体的な認知機能の低下速度(β -0.004, 95%CI -0.006~-0.001)が 28%速く、実行機能の低下速度(β -0.003, -0.005~0.000)が 25%速いことが報告された。これらの研究は、逆因果バイアスを除外するのに十分な期間ではない。

フランスの研究(n = 1,279, ベースライン時の平均年齢 74.3 歳[SD 4.9]、追跡期間 17 年)では、血漿中のオメガ 3 インデックス濃度の上昇が認知症リスクの低下(1 SD に対して HR 0.87[95%CI 0.76-0.98])と関連し、内側側頭葉容積の減少が少なかったことが報告されている。

腸内マイクロバイオームには、腸内のすべての微生物が含まれる。腸内細菌叢の変化は、加齢や肥満、食事、感染症、心血管疾患、睡眠の問題、運動不足の結果として起こる。マイクロバイオームの変化は、食事が脳に及ぼす影響を媒介し、神経炎症や細胞死を促進し、認知症の危険因子となる可能性がある。

食事介入
食事介入の設計は、適切な量、形態、生活上のタイミング、期間が不明確であるため困難である。本稿で以前に概説した、実用性、倫理性、バイアスの観点からの長期 RCT における注意点は、食事介入については特に顕著である。欧州委員会は以前、WHO と同様に、ビタミンが一般集団における認知機能の低下を予防しないという説得力のあるエビデンスを明らかにした。それ以来、さらなる研究でも説得力のある有益性は得られていない。
認知障害はないが、認知症の家族歴があり、BMIが25より高く、食事が最適でない高齢者604人を対象とした食事教育介入(食事カウンセリングとMIND食または軽度カロリーコントロール食のいずれか)の3年間のRCTでは、全般的な認知および脳MRIの二次アウトカムに群間差はなかったと報告されている369。
COSMOS-MINDは、2262人のボランティア参加者(平均年齢72-97歳[SD 5-63])を対象とした、心血管COSMOS RCTにネストされた3年間のRCTである。この試験では、ココアフラバノールを含むココア抽出物(すなわち、一次分析)とマルチビタミンミネラルを別々に毎日摂取した。370 ココア抽出物(マルチビタミンミネラルのプラスまたはマイナス)は、全体的な認知に影響を及ぼさなかったが、マルチビタミンミネラルの補充のみでは、記憶と実行機能において、臨床的ではないが統計的に有意なわずかな全体的認知の利益(平均Zスコア0-07、95%CI 0-02-0-12)をもたらした。著者らは、観察されたマルチビタミンミネラルサプリメントの認知機能への有益性は、心血管疾患を有する高齢者では、そうでない高齢者よりも顕著である可能性があり、より多様なコホートでさらなる研究を実施すべきであると示唆した。それ以来、さらなる研究でも説得力のある有益性は得られていない。

認知障害はないが、認知症の家族歴があり、BMI が 25 より高く、食事が最適でない高齢者 604 人を対象とした食事教育介入(食事カウンセリングと MIND 食または軽度カロリーコントロール食のいずれか)の 3 年間の RCT では、全般的な認知および脳 MRI の二次アウトカムに群間差はなかったと報告されている。

COSMOS-MIND は、2,262 人のボランティア参加者(平均年齢 72-97 歳[SD 5.63])を対象とした、心血管 COSMOS RCT にネストされた 3 年間の RCT である。この試験では、ココアフラバノールを含むココア抽出物(すなわち、一次分析)とマルチビタミンミネラルを別々に毎日摂取した。ココア抽出物(マルチビタミンミネラルのプラスまたはマイナス)は、全体的な認知に影響を及ぼさなかったが、マルチビタミンミネラルの補充のみでは、記憶と実行機能において、臨床的ではないが統計的に有意なわずかな全体的認知の利益(平均 Z スコア0.07, 95%CI 0.02-0.12)をもたらした。著者らは、観察されたマルチビタミンミネラルサプリメントの認知機能への有益性は、心血管疾患を有する高齢者では、そうでない高齢者よりも顕著である可能性があり、より多様なコホートでさらなる研究を実施すべきであると示唆した。

認知障害はないが、認知症の家族歴があり、BMI が 25 より高く、食事が最適でない高齢者 604 人を対象とした食事教育介入(食事カウンセリングと MIND 食または軽度カロリーコントロール食のいずれか)の 3 年間の RCT では、全般的な認知および脳 MRI の二次アウトカムに群間差はなかったと報告されている。

COSMOS-MIND は、2,262 人のボランティア参加者(平均年齢 72-97 歳[SD 5.63])を対象とした、心血管 COSMOS RCT にネストされた 3 年間の RCT である。この試験では、ココアフラバノールを含むココア抽出物とマルチビタミンミネラルを別々に毎日摂取した。ココア抽出物(±マルチビタミンミネラル)は、全体的な認知に影響を及ぼさなかったが、マルチビタミンミネラルの補充単独では、記憶と実行機能において、臨床的ではないが統計的に有意なわずかな全体的認知の利益(平均 Z スコア0.07, 95%CI 0.02-0.12)をもたらした。著者らは、観察されたマルチビタミンミネラルサプリメントの認知機能への有益性は、心血管疾患を有する高齢者では、そうでない高齢者よりも顕著である可能性があり、より多様なコホートでさらなる研究を実施すべきであると示唆した。

COSMOS-WEB は、COSMOS-MIND と実質的に重複する COSMOS のサブセットであったが、ココアフラバノールを含むココア抽出物を投与する群とプラセボを投与する群に無作為に割り付けた人のみを調査し、ココア抽出物の介入では 1~3 年間にわたり記憶力が向上しなかったと報告している。認知症のない 60~80 歳の 206 人を対象としたアントシアニン(すなわち、ベリー類や果物に含まれるフラボノイドで、抗炎症作用、抗酸化作用、脂質プロファイルの改善作用があると考えられている)の 24 週間の RCT では、認知アウトカムに差は認められなかった。著者らは、認知機能低下の傾きに群間で差があったことから、この効果の欠如は検出力と期間が不十分であったためではないかと示唆している。

結論として、栄養疫学研究では、食事とバイオマーカー、認知機能低下、認知症、またはアルツハイマー病との関連を報告することが多いが、一貫していない。食事に関する研究はほとんどなく、野菜、ナッツ類、ベリー類、豆類、魚介類、全粒穀物を豊富に含む地中海食または類似の食事からなる高所得国の食事に焦点が当てられている。臨床試験では一般に、栄養および食事介入は認知障害を減少させないことが報告されている。介入結果は小規模で不均一であり、通常は有意ではなく、主要な仮説を支持するものではない。いくつかのサブグループで肯定的な結果が得られたことから、今後の調査結果が期待されるが、効果を示すには長期的な介入が必要であろう。

果物や野菜を多く摂り、超加工食品を控えた食事は、多くの健康状態によく、肥満、糖尿病、高血圧の認知症危険因子に影響を与えるが、この食事が認知症予防に直接役立つと言うには十分な証拠がない。幼少期の栄養不良の影響に関するデータについて不足している。

感染症および全身性炎症
個々の参加者データのメタアナリシスでは、入院を必要とする重度の (中枢神経系に限らない) 全身性感染症は認知症リスクの増加と関連しており、年齢、性別、社会経済的状態、健康行動、BMI、高血圧、糖尿病、APOE 遺伝子型で調整した後もその関連は持続した(HR 1.22, 95%CI 1.09-1.36)。 この結果は、年齢をマッチさせた入院していない対照群と比較して、感染症で入院した人では脳の脆弱性を示す脳の容積が小さく、白質の完全性が低いことで一部説明できるかもしれない。その後行われた英国の成人約 100 万人を対象とした電子登録研究によると、プライマリケアで治療を受けた人ではなく、入院に至った感染症のある人は、感染症のない人に比べて認知症やアルツハイマー病のリスクが高いことが示された。いくつかのウイルスや細菌が認知症リスクと関連しており、リスクは、感染症のない人や他のタイプの感染症のある人に比べて、中枢神経系感染症だけでなく中枢神経系外感染症でも高かった。Baltimore Longitudinal Study of Aging (n = 1009) では、症候性ヘルペス感染歴のある人では、白質萎縮の促進が観察された。しかし、別の研究では、単純ヘルペス感染と認知機能低下や脳萎縮との関連はないと報告されている。

敗血症、肺炎、下気道感染症、皮膚・軟部組織感染症、尿路感染症はすべて、ヒトおよび動物実験において認知症発症率の上昇と関連している。同様に、末梢の炎症マーカー濃度の上昇も認知症リスクの上昇と関連している: 10 件の研究のメタアナリシス(追跡期間は 2 年から 25 年)では、CRP 濃度が最も高い四分位の人は最も低い四分位の人よりも認知症リスクが高い(HR 1.34, 95%CI 1.05-1.71)ことが報告されており、IL-6 では 4 件の研究(1.40, 1.13-1.74)、ACT では 3 件の研究(1.54, 1.14-2.08)で同様の結果が得られているが、PAF アセチルヒドロラーゼ(1.06, 0.94-1.18)では同様の結果は得られていない。 炎症マーカー濃度の上昇も認知機能低下と関連している。

COVID-19 の長期的な影響に関する縦断的なエビデンスはほとんど存在せず、この分野のエビデンスは認知機能やバイオマーカーに対する COVID-19 の影響に関するものであり、認知症リスクに関するものではない。COVID-19 は認知機能障害のリスクを増加させる可能性があり、あるメタアナリシスでは、COVID-19 感染 7 ヵ月後のグローバル認知機能障害が、認知機能障害の既往歴のない健常成人対照群よりもわずかに多いことが確認されている(Montreal Cognitive Assessment score 平均差 -0.94, 95% CI -1.59 to -0.29)。さらに、SARS-CoV-2 に感染していない人と比較して、SARS-CoV-2 感染後 6 ヵ月後の UK Biobank 参加者785人において、灰白質の厚さと脳全体の大きさの減少が報告されている。COVID-19 はまた、人々の習慣を変化させることによって認知症のリスクを増加させた可能性がある。例えば、COVID-19 感染とパンデミックの後期は、感染していない人やパンデミックの初期に比べて、運動量の減少と肥満の高リスクに関連することが研究で示されている。

感染と炎症の影響のメカニズム
感染症が認知症リスクを高めるメカニズムは十分に理解されておらず、認知障害や認知症のある人は、認知症のない人よりも感染症により重篤な影響を受け、入院する可能性が高いという双方向性が考えられる。血液脳関門は脳を保護するが、血液脳関門を介した末梢免疫細胞浸潤の直接的な経路や、全身性炎症が中枢神経系ミクログリア機能を調節する間接的な経路など、末梢と中枢の免疫伝達には複数のメカニズムが存在する。動物実験や in-vitro の研究から、炎症刺激がミクログリアや末梢の CD4+ や CD8+ T 細胞を長期的にプライミングし、炎症亢進状態に導く可能性があることが示されている。

長期にわたる免疫活性化や全身性の炎症は、脳毛細血管にも悪影響を及ぼし、血液脳関門の透過性を高め、神経毒性のある血漿成分、血液細胞、病原体の脳への侵入に関連する可能性がある。

病院での感染症治療がアルツハイマー病よりも血管性認知症と強く関連していることから、そのメカニズムには血管炎症経路が関与している可能性がある。血液脳関門の機能不全は微小出血や血管周囲の浮腫と関連しており、微小循環を悪化させ虚血性障害を引き起こす。

ワクチン、抗炎症薬、抗生物質による介入
観察研究のメタアナリシスによると、狂犬病、破傷風、ジフテリア、百日咳、帯状疱疹、インフルエンザ、A 型肝炎、腸チフス、B 型肝炎の予防接種は、認知症リスクの低下と関連することが示唆されているが、この関連は、予防接種を受けている人は、受けていない人に比べて、健康行動が異なっていたり、医療へのアクセスが良好であったりする可能性があるため、交絡因子による部分もあるかもしれない。

あるシステマティックレビューとメタアナリシスは、感染と炎症を修正するために非ステロイド性抗炎症薬を用いた介入が、認知機能障害や認知症進行リスクの減少をもたらすという強力なエビデンスは、大規模 RCT からは得られなかったと結論づけた。アルツハイマー病に対する非ステロイド性抗炎症薬、例えばナプロキセンやセレコキシブを 1~3 年間、またはアスピリン 100 mg を 9~6 年間、アルツハイマー病の第一度近親者のいる高齢者(70 歳以上)に投与しても、認知症リスクは減少せず、またこれらの薬剤は有害事象を増加させた。ミノサイクリンは、試験管内およびアルツハイマー病の動物モデルにおいてアミロイド β の毒性作用から保護するテトラサイクリン系抗生物質であるが、多施設共同臨床試験において、軽度アルツハイマー病患者の 2 年間の認知機能障害の進行を遅らせることはできなかった。

予防接種、手洗い、換気などの感染回避に役立つ介入は、一般的な健康には良いが、認知症リスクへの影響は不明である。

歯科疾患
歯肉の炎症(歯周病 [periodontal disease])を含む歯科疾患は、慢性的な炎症性疾患と関連しており、認知症の危険因子である可能性がある。小児期の認知機能が良好な人は、歯の健康状態も良好であり、生涯を通じて、予防歯科治療をより多く利用し、歯を失う本数も少ない。これは、栄養状態の悪化、慢性歯周炎、歯科疾患に関連する炎症といった潜在的なメカニズムに何十年も先行している。

40~80 歳の人口統計学的因子、社会経済的因子、その他の健康状態をコントロールしたスウェーデンの全国的な研究では、う蝕と歯周病を有する 7,992 人の認知症発症率は、7~6 年間にわたりマッチさせた 2,918 人の対照群と比較して高くはなかった。人口統計学的因子、血管の健康状態、社会経済的状態をコントロールした米国の研究では、65 歳以上の 3,521 人において、さまざまな歯周病原菌が、26 年間の追跡調査において、あらゆる原因による認知症、アルツハイマー病、または死亡診断書に記載された死因がアルツハイマー病であることのいずれかと関連していたことが報告されている。歯科疾患群は、歯科疾患のない群に比べ、教育水準が低く、可処分所得が低く、併存疾患が多かった。歯と歯周病が認知症の危険因子であるという一貫した質の高い証拠は乏しい。

感染症や炎症がどの程度認知症の修飾可能な危険因子であるかは、ほとんどの研究が高齢者を対象に行われ、追跡調査期間が短かったため不明である。梅毒、HIV、ヘルペスなど、特定の病原体が血液脳関門を通過し、直接認知症を引き起こすが、これは感染症そのものが危険因子であるということとは異なる。炎症は認知症の多くの危険因子に共通する経路かもしれない。

双極性障害 (bipolar disorder)
追跡期間が 4~11 年の 5 件の縦断的研究のレビューで、双極性障害と認知症との関連が検討された。いくつかの研究は同じデータベースを使用し、すべて 2 つの集団ベースのコホート(オーストラリアまたは台湾)のいずれかに基づいていたため、メタ解析は行われなかったが、双極性障害と認知症リスクとの間に一貫した関連が同定された(HR は 2.31~4.55)。1 件の研究では、双極性障害の重症度(精神科への入院回数で測定)が高いほど、精神科への入院を必要としない双極性障害よりも認知症リスクが高いことが報告されている。認知症の発症率は、1 年に 1〜2 回の精神科への入院(RR 2.4, 95%CI 1.9-3.1)および 2 回以上の入院(5.7, 4.8-6.8)をした人で高かった。心血管リスク、併存疾患、アルコール摂取などの因子をどの程度調整するかについては異質であった。

統合失調症 (schizophrenia) を含む精神病性障害
1,300 万人を含む 11 件の集団ベースのコホート研究を対象とした 2022 年のシステマティックレビューでは、異質性は高かったが(I2 = 99.7%)、中央値 11 年間におけるあらゆる原因による認知症の全体的なリスク増加が同定された(RR 2.52, 95%CI 1.67-3.80)。 ほとんどの研究は統合失調症患者を対象としたものであった。早期発症の統合失調症(すなわち、40 歳未満)についての知見を報告した研究は 1 件だけであり、統合失調症でない患者よりも認知症リスクが高かったが、高齢発症の統合失調症(すなわち、40 歳以上)よりはリスクが低かった。 今回のレビューに含まれた別の長期研究も、若年(すなわち 18〜49 歳)の統合失調症患者と高齢(すなわち 50〜64 歳および 60 歳以上)の統合失調症患者では認知症リスクが低いことを報告している。しかし、3 件目の長期研究では、精神病性障害の発症年齢が若い人(18〜60歳 )の方が高齢者(41〜80 歳、51〜90 歳)よりも認知症リスクが高いことが報告されている。年齢、性別、併存疾患、アルコール、喫煙、薬物、収入、教育レベルに対する調整の程度は研究によって異なり、特定の併存疾患や抗精神病薬が認知症リスクや特定のタイプの認知症リスクに及ぼす潜在的な影響に関する決定的なエビデンスはなかった。

統合失調症患者では、発症時の脳容積が年齢をマッチさせた集団よりも小さいことから、神経発達に原因があることが示唆されている。また、統合失調症の中心的な特徴である認知機能障害は、発症時にすでに存在している。この認知障害とアルツハイマー病に関連する特異的な神経病理学との間に明確な関連はなく、中年期の認知機能については加齢に伴う典型的な経過をたどるが、統合失調症の患者は健常対照者やうつ病や双極性障害の患者と比較して(神経画像上)脳の老化が加速している。あるシステマティックレビューでは、メタボリックシンドローム(13 件の研究;n = 2,800;効果量 0.31, 95%CI 0.13-0.50)、糖尿病(8 件の研究;n = 2,976;0.32, 0.23-0.42)、高血圧(5 件の研究;n = 18,99;0.21, 0.11-0.31)などの心血管危険因子を持つ統合失調症患者は、心血管疾患危険因子を持たない統合失調症患者に比べ、認知機能が有意に悪いという結果が出ている。

元論文
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(24)01296-0/abstract?dgcid=twitter_organic_infocusbrainhealth_lancetdementia24_lancet

認知症の予防、介入、ケア: ランセット常設委員会の 2024 年報告書 その 2

2025-01-29 07:57:44 | 神経
認知症の予防、介入、ケア:ランセット常設委員会の 2024 年報告書
Lancet 2024; 404: 572-628

うつ病
2020 年のランセット委員会では、うつ病と認知症との関連はおそらく双方向的であり、認知症が現れる前の数年間は認知障害の原因となり得ると、発表された研究に基づいて結論づけた。一方、認知症のリスクがうつ病の治療によって影響を受けるかどうかを検討した研究はほとんどなかった。

新しいメタアナリシスでは、うつ病があらゆる原因の認知症と関連していることが明らかにされたが、研究間で異質性が高かった(RR 1.96, 95%CI 1.59-2.43, I2 = 96.5%, 27 件の研究)。その結果、うつ病を有する人の認知症リスクは、うつ病を有しない人に比べて高いことが確認された(RR 2.25, 95%CI 1.69-2.98, I2 = 82.8%, 図 6)。

図 6. うつ病診断後 10-14 年後のうつ病でない人と比較した認知症発症リスクについてのメタ分析
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(24)01296-0/fulltext?dgcid=twitter_organic_infocusbrainhealth_lancetdementia24_lancet#

参加者の年齢を特定した 6 つの研究のベースライン平均年齢は 63 歳であった。これらの研究は効果の大きさにおいて不均一であったが、参加者の年齢、性別、社会経済的状態、併存疾患をマッチさせた研究を含め、うつ病患者の認知症リスクの増加を一貫して報告していた。同様に、うつ病と診断された成人 246,499 人(年齢中央値 50.8 歳、IQR 34.7-70.7)とうつ病でない 1,190,302 人を対象としたデンマークの症例対照研究では、うつ病のない人と比較して、うつ病のある人では全体的に認知症リスクが高いことが報告されている(HR 2.41, 95%CI 2.35-2.47) 。この関連は、うつ病でない人と比較して、うつ病評価の指標日と認知症との間の間隔が 20~39 年より長い人(1.79, 1.58-2.04)、および初期(すなわち、18~44 歳;3.08, 2.64-3.58)、中期(すなわち、45~59 歳;2.95, 2.75-3.17)、または後期(すなわち、60歳以上;2.31, 2.25-2.38)にうつ病と診断された人においてもみられた。41,727人の双生児を対象としたスウェーデンの全国研究(18 年間の追跡調査)では、中年期(オッズ比 [odds ratio: OR] 1.46, 95%CI 1.09-1.95)、晩年期(2.16,
1.82-2.56)、終年期(2.65, 1.17-5.98)のうつ病で認知症リスクが高かったことが報告されている。

全体として、これらの研究は、うつ病がすべての成人年齢において認知症のリスクを増加させることを示唆しているが、晩年においては、その関連性の一部は前臨床認知症によるものである。したがって、中年期のリスクは明らかであるため、うつ病を中年期のリスク因子として分類している。

スウェーデンの研究では、一卵性双生児と非一卵性双生児との間に差はなく、認知症リスクは遺伝的リスクや早期生活環境によって説明されないという結論に至った。うつ病と認知症リスクとの関連メカニズムは不明であるが、うつ病はセルフケアや社会的接触の減少につながる可能性がある。また、うつ病が認知症を増加させるメカニズムとして、コルチゾールの過剰分泌が海馬の萎縮や炎症反応を引き起こすという仮説もある。

うつ病に対する介入に関する UK Biobank の研究では、ベースライン時に認知症のない 50〜70 歳の 354,313 人が、中央値 11.9 年(IQR 11.2-12.6)追跡され、うつ病と診断された人(n = 46,280)は認知症の発症リスクが高かったことが報告されている(HR 1.51, 95%CI 1.38-1.63)。薬物療法(n=14 695;0-77、0-65-0-91)、心理療法(n = 2151;0.74, 0.58-0.94)、または併用療法(n = 5281;0.62, 0.53-0.73)によりうつ病の治療を受けた人は、未治療群よりも認知症になる可能性が低かった(治療全体のHR 0.69, 0.62-0.77)。寛解した未治療群では、うつ病のない群に比べて認知症のリスクは高くなかった(0.84, 0.56-1.24)。この研究は、以前のエビデンスよりも大規模で長期間のデータを提供したが、観察研究のバイアスの影響を受ける可能性がある。しかし、このような長期の RCT が行われる可能性は低い。うつ病の薬物療法と治療が認知症リスクを減少させるという知見は、QOL のためにも、将来の認知症リスクを減少させるためにも、うつ病を治療することの重要性を示唆している。

外傷性頭部損傷
我々は、2020 年のランセット委員会において、TBI 後のあらゆる原因による認知症リスクのメタ解析を行った(RR 1.84, 1.54-2.20)。最初の解析は、21 件の研究、合計 8,684,485 人を含み、TBI と認知症リスクの OR は 1.81(95%CI 1.53-2.14)であった。32 件の研究(n = 7,634,844)のメタアナリシスでは、TBI 後の認知症リスクは 1.66(95%CI 1.42-1.93)と報告されている。

したがって、TBI リスクは認知症の危険因子である他の健康行動と関連している。フィンランドの大規模全国前向き縦断研究(n = 32,385)では、学歴、喫煙の有無、飲酒、身体活動、高血圧など、認知症の他の危険因子を調整した後、重大な TBI(すなわち、3 日以上の入院)と認知症との関連は弱まった(HR 1.51 [95%CI 1.03-2.22] から 1.30 [0.86-1.97])と報告されている。

脳震盪 (concussion) と軽度 TBI(mild TBI: mTBI)は、しばしば同じ意味で使われる用語である。mTBI と認知症リスクに関する研究は少なく、定義に一貫性がないなど、方法論上の問題もある。全国患者登録を用いた以前のコホート研究では、1 回の mTBI でも認知症リスクが増加すると報告されている(OR 1.63, 95%CI 1.57-1.70)。 2020 年のランセット委員会以降、あるコホート研究では 15 年間にわたる mTBI による認知症リスクの増加は報告されていないが、WHO 基準を満たす mTBI の既往歴を報告した 3,149,740 人を含む 5 件の研究の系統的レビューとメタアナリシスでは、アルツハイマー病リスクの増加が同定されている(RR 1.18, 95%信頼区間 1.11-1.25)、mTBI がアルツハイマー病に 10 年以上先行した数少ない研究(n = 2,307)を含む感度分析でも、信頼区間は広がったが、TBI 後の認知症リスクの増加が同定された(2.02, 0.66-6.21)。

スポーツの中には(例えば、ラグビー、アメリカンフットボール、アイスホッケー)、頭部への接触やむち打ちが頻繁に起こり、事故やスポーツの一部として低頻度で TBI が起こる可能性のあるスポーツ(例えば、サイクリング、乗馬、ボクシング)よりも、反復性 TBI のリスクが高いものがある。プロやアマチュアのサッカー選手やラグビー選手は、一般の人々よりも神経変性疾患を患ったり、神経変性疾患により死亡したりすることが多いという懸念が高まっているが、これは、時折起こる重度の TBI や、他者との身体的接触やフットボールのヘディングによる頻繁な mTBI に関連している可能性がある。コンタクトスポーツにおける脳震盪リスクをランク付けしたメタ分析では、主にアメリカ(n = 66)から報告された脳震盪率に関する 83 件の研究が特定され、カナダとイギリスからはそれぞれ 5 つの研究が報告されている。ラグビーの脳震盪率が最も高く(1 万試合あたり 28~3 回)、次いでアメリカンフットボール(1 万試合あたり 8~7 回)、アイスホッケー(1 万試合あたり 7~9 回)、レスリング(1 万試合あたり 5~0 回)であった。大学スポーツの脳震盪率は高校スポーツよりわずかに高かった(1 万試合あたり 3~8 回の脳震盪に対して 3~7 回の脳震盪)。

プロサッカー選手として長くプレーし、ヘディングの頻度が高いポジションにいる人ほど、頭部外傷を負いやすく、認知症のリスクが高いというエビデンスがある。60 人の選手を対象としたある小規模な研究では、元プロサッカー選手の認知能力は推定ヘディング頻度と逆相関していたと報告している。英国のスコットランドで行われた大規模な研究では、7,676 人の元サッカー選手のうち 386 人(5.0%)が神経変性疾患を発症したのに対し、年齢、性別、地域の社会経済的地位でマッチさせた 23,028 人のうち 366 人(1.6%)が発症したことが報告されている(HR 3.66, 95%CI 2.88-4.65)。このリスクの増加は、ヘディングの頻度が高いディフェンダーや 15 年以上プロとしてプレーしている選手で最も高く、ゴールキーパーで最も低かった。フランスのプロサッカー選手を対象とした研究では、全死因死亡率は国民より低かったが(標準化死亡率 0.69, 95%信頼区間 0.64-0.75)、死亡したサッカー選手の認知症死亡率は非選手より高かった(3.38, 2.49-4.50)。 スウェーデンのトップリーグに所属する 6,007 人の男性サッカー選手(ゴールキーパーを除く)と、性別、地域、面積をマッチさせた対照参加者を対象としたコホート研究では、サッカー選手はあらゆる原因の認知症のリスクが高かったが(HR 1.62, 95%CI 1.47-1.78)、運動ニューロン疾患やパーキンソン病のリスクは高くなかったと報告している。全死因死亡のリスクは、サッカー選手では対照群よりも低かった(0.95, 0.91-0.99)。同様に、70 歳までは元ラグビー日本代表選手の方が全死亡率は低かったが、中央値 32 年の間に、元ラグビー選手 412 人中 47 人(11%)、対照群 1,236 人中 67 人(5%)が神経変性疾患と診断された(2.67, 1.67-4.27)。

TBI は直接的に認知症を引き起こしたり、悪化させたりする。TBI 後の長期的な神経変性の病理学的機序として考えられるのは、タンパク異常(例えば、リン酸化タウやアミロイド β)の早期生成を促進する軸索損傷、ミクログリアの活性化、皮質の萎縮などである。TBI と意識消失の既往がある人の脳病理を評価したコホート研究を 3 件同定したが、神経病理との関連については研究間で一貫性がなかった。剖検を受けた 1,589 人を対象とした研究では、意識消失を伴う TBI 歴のある人では、レビー小体病変と海馬硬化が増加したが、プラークや neurofibrillary tangle は増加しなかったと報告している。241 人を対象とした Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiative 研究では、TBI 歴のある 41 人は、TBI 歴のない人に比べ、アミロイド β 沈着の増加、皮質の菲薄化、認知機能障害の発症が 3~4 年早まることと関連していることが確認された。対照的に、60 歳以前に意識喪失を伴う TBI を受けた 80 人を対象とした英国の集団ベースの研究では、70 歳頃までに、頭部外傷のない 395 人と比較して、アミロイド β 沈着、海馬容積、皮質厚に差はなかったが、認知力が低く、脳容積が小さかった。神経画像と神経変性の体液バイオマーカーを用いた現在進行中の研究は、外傷後認知症や慢性外傷性脳症を含む他の神経変性障害の異なるサブタイプを持つ人々における神経病理学の重複するパターンと異なるパターンの両方を同定するのに役立つかもしれない。

全体として、TBI は認知症リスクを増加させ、おそらく TBI を受けていない人よりも 2~3 年早く認知症が発症することを示唆している。このような神経変性疾患のリスクによって、スポーツが一般的に健康に良いというメッセージを曖昧にしてはならない。例えば、適切な頭部保護具、ヘディング練習や衝撃の大きい衝突の制限、TBI 直後のプレーの防止、場合によっては傷害を減らすためのルールの見直しなどによって、頭部傷害から保護することは、現在、個人および公衆衛生の優先事項であるべきである。一部のスポーツ団体や政府機関は、こうした政策を実施し始めている。

喫煙
我々は以前、晩年の喫煙が認知症リスクの上昇と関連することを報告した(HR 1.6, 1.2-2.2)。新たなエビデンスによると、中年期の喫煙は晩年の喫煙よりも認知症の危険因子が強いようであるが、これはおそらく心血管疾患や喫煙に関連した癌の治療が改善され、喫煙者が認知症を発症するほど長生きする機会が増えたためであろう。Zhong らによる大規模なメタアナリシスでは、中年期の喫煙は認知症リスクを増加させたが(RR 1.30, 95%CI 1.18-1.45, 37 件の研究)、元喫煙者ではリスクの増加はみられなかったと報告している。フラミンガム心臓研究(n = 4015;21 年間の追跡)では、成人初期(すなわち、33-44 歳;HR 1.42, 95%CI 0.05-3.60)に喫煙を開始した人の認知症リスクが最も高いことが確認された。 ARIC 研究(25 年追跡;n=15,744;1.41, 1.23-1.61)や Whitehall II 研究(32 年追跡;n = 9,951;1.36, 1.10-1.68)のような他の長期コホート研究も、中年期(すなわち、平均年齢 44.9 歳[SD 6.0])の喫煙者における認知症の過剰リスクを報告している。デンマークの一般集団では、合計 61,664 人を含む 2 件の前向きコホートのプール解析で、中年期の喫煙者の認知症リスクは、非喫煙者に比べて男性(3.2, 1.4-7.4)および女性(1.7, 1.1-2.8)で増加したことが報告されている。

Whitehall II コホートの 32 年間の追跡調査では、社会経済的状態で調整した結果、喫煙者(HR 1.36, 95%CI 1.10-1.68)は喫煙経験のない人に比べて認知症リスクが高いが、元喫煙者(0.95, 0.79-1.14)はそうではなく、認知症リスクにおける社会経済的不平等は喫煙によって部分的に媒介されることが確認された。同様に、2 年間にわたって喫煙状況を評価した 789,532 人を対象とした韓国の全国調査では、元喫煙者は喫煙継続者よりもあらゆる原因による認知症リスクが低く(0.92, 0.87-0.97)、65 歳以前に喫煙していた成人(0.8, 0.7-0.9)では、65 歳以上で喫煙していた成人(1.0, 0.9-1.0)よりも顕著であったと報告している。 心房細動患者の認知症リスクを検討した韓国の別の集団研究でも、現在喫煙している人と比較して、禁煙した人では認知症リスクが減少したことが報告されている(0.83, 0.72-0.95)。これらの研究は、禁煙が喫煙継続者に比べて認知症リスクを減少させることを示唆している。現在、喫煙は中年期の危険因子(2020 年のランセット委員会のように晩年期の因子ではなく)と考えるべきであり、禁煙の有益な効果は勇気づけられるものである。

心血管危険因子
心血管疾患の合併ではなく、心血管疾患の危険因子を個別に検討することにした。脳卒中と認知症は、教育を受けていない、運動頻度が少ない、高血圧、心臓病、社会的孤立などの危険因子を共有しているが、これらの危険因子を持つ人の中には、神経病理学的に認知症を発症しない人もいる。これは認知症を発症する前に亡くなっているという場合もある。

いくつかの研究では、心血管危険因子の組み合わせが認知症リスクに及ぼす影響について検討されている。Life's Simple 7 グループでは、理想的な心血管健康因子(すなわち、BMI、食事、喫煙、身体活動、血圧、コレステロール、グルコース濃度)を定義しており、この指数のスコアが高いほど認知症リスクが低いことと関連している。同様に、中国では、追跡調査時の平均年齢 72 歳(SD 6.6)の 29,072 人を対象とした 10 年間の縦断的研究が行われ、記憶力の低下が緩やかであることは、6つの因子のうち少なくとも 4 つを持っていることを意味する健康なグループに属していることと関連していることが報告された: すなわち、健康的な食事(すなわち、対象となる 12 品目の食品のうち少なくとも 7 品目を食べている)、身体運動(すなわち、週 150 分以上の中強度の運動または週 75 分以上の強度の運動)、積極的な社会的接触(すなわち、オンラインを含む週 2 回以上の社会的接触)、積極的な認知活動(すなわち、週 2 回以上の認知活動に従事している)、喫煙をしたことがない、または 3 年以上前に禁煙している、飲酒をしたことがない(すなわち、毎日の飲酒量がワイングラス 1 杯未満である)。 この関連は、APOEε4 キャリアと非キャリアの両方に当てはまった。

LDL コレステロール
メタアナリシスでは、中年期における高 LDL コレステロールは認知機能低下、あらゆる原因による認知症、アルツハイマー病の危険因子であるが、後期高齢者では危険因子ではないというエビデンスが一貫性はないものの高所得国から得られている。

65 歳未満の成人の LDL コレステロールを 12 ヵ月以上追跡調査した、合計 1,138,488 人が参加した英国の 3 件のコホート研究のメタアナリシスでは、LDL コレステロールが 1 mmol/L 増加するごとに、あらゆる原因による認知症の発生率が 8%増加することが報告されている(効果量 1.08, 95%CI 1.03-1.14, I2 = 0.3%)。 1,890 人の参加者を対象とした研究では、LDL コレステロールが高い(すなわち、3 mmol/L 以上)ことは、認知症リスクの増加と関連していることが報告されている(HR 1.33, 95%CI 1.26-1.41)。 中央値 7.4 年(IQR 4.6-10.4)追跡された UK Clinical Practice Research Datalink の大規模コホート(n = 1,853 ,954)においても、ベースライン時の LDL コレステロール高値は、同様にあらゆる原因による認知症のリスク増加と関連していた(LDL コレステロールの SD 増加[すなわち、1.01 mmol/L または 39 mg/dL の増加]あたり調整率比 1.05, 95%CI 1.03-1.06)。このリスクは、ベースライン時に 65 歳以上であった人よりも、ベースライン時に 65 歳未満であった人の方が、10 年以内に診断された認知症(1.10, 1.04-1.15)およびベースライン時から 10 年以上経過した認知症(1.17, 1.08-1.27)について強かった。平均年齢 58 歳(SD 13.0)から追跡した 94 ,184 人を対象としたデンマークのコホート研究では、食事ガイドラインを守っていない人(すなわち、果物、野菜、魚のすべてを週 3 皿以上食べる、砂糖入り飲料をほとんど飲まない、ソーセージなどの調理済み肉をほとんど食べない、テイクアウトをしない)は、LDL コレステロールが高い可能性が高かった。中央値 9 年(範囲 <1-15)の追跡調査後、これらのガイドラインの遵守度が低い人は、遵守度が高い人よりもアルツハイマー病以外の認知症を発症する可能性が高かったが(HR 1.54, 95%CI 1.18-2.00)、アルツハイマー病を発症する可能性は高くなかった。また、脂質低下薬を服用している人は認知症リスクを増加させなかった。 4,392 人を対象とした米国の研究では、HDL コレステロールの増加が認知症の発症を予防することが報告されている。

一方、21,000 人以上(平均ベースライン年齢 76 歳)の個人参加者を対象としたメタ解析では、総コレステロール、LDL コレステロール、HDL コレステロールと認知機能低下との間に関連は認められなかった。この結果は、スタチンの使用や APOE ε4 の有無で層別化しても変わらなかった。

過剰な脳内コレステロールは、脳卒中リスクの増加、脳アミロイド β およびタウの沈着と関連しており、LDL コレステロールと認知症の関連性の潜在的なメカニズムを示唆している。

食事と運動に関する個別カウンセリングは、LDL コレステロールを減少させる効果は小さい。スタチンは、アルツハイマー病の分野での研究の焦点となっており、コレステロールを減少させるだけでなく、抗炎症作用や抗酸化作用があるため、潜在的な効果が期待されている。36 件のコホート研究のメタアナリシスでは、スタチンの使用は、未治療の高コレステロールと比較して、あらゆる原因の認知症(OR 0.80, 95%CI 0.75-0.86, I2=97.5%)およびアルツハイマー病(0.68, 0.56-0.81, I2 = 94.5%)のリスク低下と関連しており、男女間に差はなかった。晩年に投与されたスタチンに関する RCT のコクラン・レビューでは、認知症リスク(1 試験)、認知アウトカム(2 試験)のいずれにも効果がみられなかった。55~80 歳の 6,373 人の参加者のデータを用いてエミュレートされた試験では、スタチンの持続的使用は認知症または死亡の 10 年リスクの低下と関連するが、スタチンの開始のみでは関連しないことが確認された。

全体として、中年期の高 LDL コレステロールは認知症の危険因子であるという、質の高い、一貫した、生物学的にもっともらしいエビデンスが存在する。2019 年の WHO ガイドラインでは、認知機能の低下や認知症のリスクを軽減するために、中年期の脂質異常症の管理が提案される可能性が示唆されているが、エビデンスの質は低い。観察研究のメタアナリシスは不均一であるが、認知症リスクに対するスタチンの有益性を示している。

運動不足、運動、フィットネス
我々は以前、運動と認知症の関連は双方向性である可能性が高いというバランスのとれたエビデンスがあると結論づけた。身体活動は人の生涯にわたって変化し、病気になると減少する。2020 年のランセット委員会以降、身体活動と認知症の関連を調査した 58 件の研究(n = 257,983)の系統的レビューとメタアナリシスにより、ベースライン年齢に関係なく、少なくとも 20 年の短期および長期追跡調査において、身体活動はあらゆる原因による認知症(RR 0.80, 95%CI 0.77-0.84)およびアルツハイマー病(0.86, 0.80-0.93)のリスク低下と関連していることが確認された。平均 10.9 年(SD 8.5)の短い追跡調査(0.79, 0.66-0.95)では、運動により血管性認知症のリスクが減少した。メタアナリシスでは、さまざまな強度の運動が対象とされ、極端な運動不足からある程度の運動量に移行した場合にリスクの減少が最も大きかった。36 歳から 69 歳までの間に 5 回の身体活動を記録したコホート研究(n = 1,417)では、すべての年齢で身体活動をしていることが、身体活動をしていない場合よりも 69 歳時の認知機能の向上と関連しており、持続的な身体活動で最も強い関連がみられたと報告している。中央値 24.5 年(IQR 24.1-25.0)追跡調査され、10 年の間隔をおいて週 2 回身体活動量を評価された 29,826 人の前向き研究では、個々に最適と推定される身体活動量を維持している人は、持続的に不活発な人に比べて認知症リスクが減少し(HR 0.75, 95%CI 0.58-0.97)、身体活動量を最適レベルまで増加させた人(0.83, 0.72-0.96)も同様であったと報告している。 1,718人の女性を対象に中央値 11.9 年(範囲 0.6-13.5)にわたって行われた縦断的研究では、身体活動レベルが高いほど認知機能の低下が少ないことが報告されているが、糖尿病と高血圧で調整した場合はそうではなかった。

RCT では、平均年齢 78歳(SD 2)、女性 450 人(48%)、男性 495 人(52%)の計 945 人の参加者を、5 年間の対照群、週 2 回の中強度継続トレーニング、週 2 回の高強度インターバルトレーニングに無作為に割り付けた(2:1:1)。5 年後、対照群 494 人中 474 人(96%)が国の身体活動ガイダンスを遵守し、176 人(75%)が中強度インターバルトレーニング介入を遵守し、164 人(76%)が高強度インターバルトレーニング介入を遵守していた。認知機能(β 0.26, 95%CI -0.17~0.69)、MCI のオッズ(OR 0.86, 95%CI 0.66~1.13)に群間で有意差はなかった。中強度または高強度の運動を組み合わせた群の男性は、対照群の男性参加者よりも MCI のリスクが減少し(0.68, 0.47~0.99)、認知スコアがわずかに高かった。酸素摂取量を維持または増加させるのではなく、ピーク酸素摂取量を減少させた参加者は、酸素摂取量が安定している参加者と比較して MCI のオッズが増加した(1.35, 0.98~1.87)。しかし、この結果は正確ではないと推定されている。この結果は、身体運動が認知に及ぼす影響に関する RCT の包括的レビューで示されたわずかな認知への有益性と一致している。政策レベルでは、都市設計への介入と質の高い緑地の提供が WHO によって推奨されている。

年齢を問わず運動は認知に有用であるようで、おそらく高血圧の低下と一酸化窒素の増加による血流と機能の変化を通じて、脳の可塑性の向上と神経炎症の抑制につながる。

糖尿病
以前、我々は 2 型糖尿病が晩年における認知症発症の危険因子であることを述べた。新しいエビデンスによると、発症年齢には違いがあり、中年期の糖尿病発症は認知症リスクを増加させるが、必ずしも晩年期の糖尿病発症が認知症リスクを増加させるとは限らない。10,095 人の参加者を対象とした前向きコホート研究では、2 型糖尿病の発症年齢が5歳下がるごとに、発症時年齢が 70 歳を超えるまで認知症リスクが増加した(HR 1.24, 95%CI 1.06-1.46)。糖尿病が高齢期における認知症の危険因子ではないのか、あるいは有意な危険性を示すエビデンスがないのは、追跡期間が短く研究が少ないからなのかは不明である。WHO は、晩年の糖尿病は脳の健康と認知症リスクに有害な影響を及ぼす可能性があると結論づけている。長い罹病期間とコントロール不良の糖尿病は認知症のリスクを高める。

糖尿病が認知症リスクを増加させるメカニズムについての理解は不完全である。糖尿病において長期的に微小血管および大血管の合併症が起こることは確実であり、糖尿病が認知症リスクを増加させるメカニズムには、脳卒中リスクを含む血管の要素が含まれている可能性が高い。インスリン抵抗性は糖尿病とアルツハイマー病をつなぐ共通の分子メカニズムであり、アミロイド β の毒性、タウのリン酸化亢進、酸化ストレス、神経炎症の増加をもたらす。 全身性炎症マーカー(CRP など)の増加は、糖尿病に関連した認知症リスクの増加と関連していた。

糖尿病の効果的な治療がそれ自体認知症リスクを改善するかどうかは不明であり、特に大量の経口薬やインスリンの服用は糖尿病の重症度の上昇に関係している。しかし、標準的な糖尿病コントロールと比較して、厳格で集中的な治療を行っても認知症のリスクは減少しない。ある種の抗糖尿病薬を服用している人は、認知症のリスクが低い可能性を示唆するエビデンスもある。異質性が報告されていない 27 件の研究(1,590,757 人)の系統的レビュー、メタアナリシス、ネットワーク解析によると、コホート研究では、SGLT2 阻害薬(OR 0.41, 95%CI 0.22-0.76)、 GLP-1 受容体作動薬(OR 0.34, 95%CI 0.14-0.85)、DPP-4 阻害薬(OR 0.78, 95%CI 0.61-0.99)は認知症リスク低下と関連していたが、スルホニル尿素薬はリスク上昇と関連していた(OR 1.43, 95%CI 1.11-1.82)。 メトホルミンはリスクの減少にも増加にも関連しなかった(0.71, 0.46-1.08)。英国のプライマリケアにおける研究では、メトホルミンを開始した糖尿病患者 114,628 人の認知症リスクは、糖尿病治療薬を服用していない 95,609 人よりも有意に低かったことが報告されている(HR 0.88, 95%CI 0.84-0.92)。 2 型糖尿病患者を対象とした GLP-1 受容体作動薬に関する 3 件の RCT とコホート件の研究のメタアナリシスでは、プラセボ投与群との比較で(15, 820 人;HR 0.47, 95%CI 0.25-0.86)、デンマーク全国コホートとの比較で(120 054人;0.89, 0.86-0.93)無作為に割り付けられた GLP-1 受容体作動薬投与群で認知症率が低いことが確認された。 2 型糖尿病患者 819,511 人、平均追跡期間 4-5 年(範囲 1.3-7.2)の観察研究の別のメタアナリシスでも同様の結果が報告されており、SLGT2 阻害薬使用者ではその後の認知症が少なかった(3 研究; RR 0.62, 95%CI 0.39-0.97, I2 = 82.5%)。また、GLP-1 受容体作動薬(4 試験、0.72, 0.54-0.97, I2 = 91.3%)、DPP-4 阻害薬(7 試験、0.84, 0.74-0.94、I2 = 88.6%)では、これらの薬剤を使用していない人に比べて、その後の認知症が少なかった。ただし、これらの解析では高い異質性が報告された。 糖尿病患者が薬物療法を受けていないのは、薬物療法を行わなくても糖尿病が十分にコントロールされているからかもしれないし、治療が十分でないからかもしれない。GLP-1 受容体作動薬の予防効果については、RCT によるエビデンスも存在する。台湾の集団において、傾向一致させた 31,384 組(糖尿病と慢性腎臓病のマッチングを含む)を 5 年間追跡調査したところ、メトホルミンを服用している人は、服用していない人に比べて認知症の発症リスクが 72%低かった。メンデルランダム化やターゲットトライアルエミュレーションのような新しい研究デザインは交絡の可能性に対処するのに役立つかもしれない。

減量は糖尿病のコントロールにも役立ち、認知にも影響を与える可能性がある。Look AHEAD 試験では、45~76 歳の 2 型糖尿病で過体重または肥満の 3,751 人をリクルートし、運動量を増やし摂取カロリーを減らす 10 年間の介入を行う群と、糖尿病のサポートと教育を行う群に無作為に割り付けた。この RCT は、中間解析の結果、介入は血管死、心筋梗塞、脳卒中、重症狭心症に影響を及ぼさなかったため中止された。認知的転帰は、ベースラインの教育についてはコントロールしたが認知についてはコントロールせず、追跡時に測定した。HbA1c 濃度と認知機能の間には両群で強い逆相関がみられた。認知機能は群間で差はなく、体重減少とは関連していなかった。体重減少自体は認知症リスクとは関連しなさそうだが、低血糖を起こさずに糖尿病のコントロールは改善することは認知症リスクを減少させる方法であるかもしれない。

高血圧
以前、我々は中年期の高血圧があらゆる原因による認知症、アルツハイマー病、血管性認知症のリスクを増加させるが、認知症になる時期が近くなると血圧が低下する傾向があるというエビデンスについて述べた。縦断的研究のシステマティックレビューでは、血圧は認知症と診断される 5 年前から上昇し、その後低下し始め、体重は診断の 10 年前頃から減少すると推定されている。個人参加者データのメタアナリシスでは、高血圧は高齢になってもリスクであり続ける可能性があることが確認されているが、認知症を発症する人の中には認知症でない人より血圧が低い人もおり、そのためエビデンスはまちまちである。これらのメタアナリシスでは、血圧の変動はカバーされていないが、コホート研究(n = 2234;65 歳以上)では、3、6、9、12 年目に血圧の変動を測定し、収縮期の変動が 1 単位 (?) 増加するごとに認知症リスクが増加し、HR は 1.02(95%CI 1.01-1.04)から 1.10(1.05-1.16)の範囲であったと報告している。

アメリカ黒人の記録血圧は他のアメリカ人グループよりも高く、これがアメリカ白人に比べて認知症リスクが高い一因となっている可能性がある。このリスクは、平均年齢 59.8 歳(SD 10.4)の合計 19,378 人を対象とした 5 件のコホート研究の個人参加者データのメタアナリシスで検討され、その結果、黒人アメリカ人は白人アメリカ人よりも有意にグローバルな認知機能低下が早かったが、累積平均収縮期血圧で調整した後では有意差は認められなかった。

降圧薬に関する RCT のメタアナリシスは 3 件ある。2 件のメタアナリシスでは、降圧薬が認知障害および認知症に対する予防効果を有することが確認され、追跡期間が短い(すなわち、1〜5 年の範囲)1 件では、予防効果は確認されなかった。平均追跡期間 4.1 年(範囲 2.2-5.7 年)の 12 件の RCT(n = 96,158)のメタアナリシスでは、降圧薬を服用している人は、プラセボを服用している人、代替降圧薬を服用している人、または目標血圧が介入群より高い人(OR 0.93, 95%CI 0.88-0.98)、および認知機能障害のみ (高血圧はないが認知機能障害はある人ということか?) (0.93, 0.88-0.99)の対照群より認知症または認知機能障害のリスクが低いことが同定された。2 番目のメタアナリシスでは、プラセボ対照を含む 5 件の RCT(n = 28,008)の個人参加者データ(うち 3 件は最初のメタアナリシスに含まれる)が使用され、治療群ではプラセボ対照群よりも認知症リスクが低いことが同定された(0.87, 0.75-0.99)。前回のメタアナリシスと重複する 3 件の研究を含むコクランレビューでは、介入期間が少なくとも 12 ヵ月である 12 件の RCT(8 件のプラセボ対照試験;n = 30,412)を対象とした。このレビューでは、Mini Mental State Examination(MMSE;5 試験;平均差 0.20, 95%CI 0.10-0.29)で測定された認知機能の変化に対して降圧薬による緩やかなベネフィットがあったが、認知症発生率に差を示すには期間が短すぎたと結論している(4 試験;OR 0.89, 95%CI 0.72-1.09)。 低中所得国および高所得国の人々を含む 17 件の研究(平均年齢 72.5 歳[SD 7.5]、追跡期間 4.3年)の個人参加者データのメタアナリシスでは、未治療の高血圧患者は健常対照者よりも認知症リスクが高いことが同定された(HR 1.42, 95%CI 1.15-1.76)が、このリスクは治療により減弱または消失した(1.13, 0.99-1.28)。ベースライン時に認知症のない 31,090 人の成人からなり、少なくとも 5 年間追跡調査された個人参加者データコホートの 1 件のメタアナリシスでは、いずれかの降圧薬を服用している高血圧患者は、降圧薬を服用していない患者よりも認知症のリスクが低いことが明らかにされた(HR 0.88, 95%CI 0.79-0.98)が、薬剤クラス間の差は確認されなかった。さまざまな降圧薬の効果を直接比較したものは少ないが、ネットワーク解析と系統的レビューにより、アンジオテンシン 2 受容体拮抗薬とカルシウム拮抗薬(calcium channel blocker: CCB)による治療は、他の降圧薬よりも認知症リスクが低いことが確認されている。高血圧が予防的であることを示唆するメンデルランダム化研究は、RCT の所見と矛盾しており、メンデルランダム化研究の所見は生存バイアスの影響を受けている可能性が高い。

肥満と体重
中年期の肥満が認知症の危険因子であることは以前に述べた。肥満と認知症との関連を検討した系統的レビューとメタアナリシスでは、77,890 人の参加者を対象とした 14 件の研究が行われ、中年期の肥満がその後のあらゆる原因による認知症と関連することが明らかにされた(RR 1.31, 95%CI 1.02-1.68)。ウエスト周囲径またはウエスト-ヒップ比によって測定される中心性肥満に関する別の研究では、16 件の研究から 5,060,687 人が参加し、ウエスト周囲径が大きい場合と小さい場合では、認知障害および認知症のリスクが高いこと(HR 1.10, 95%CI 1.05-1.15)が示され、このリスクは他の年齢よりも 65 歳以上の高齢者で大きかった。肥満は運動頻度の低い人に多く、心血管疾患の原因でもある糖尿病や高血圧と関連している。とはいえ、これらのメタアナリシスのほとんどの研究は、高血圧、脳卒中、血中脂質濃度、糖尿病などの健康状態や人口統計学的特徴で調整されており、これらの仲介因子の影響は最小限に抑えられているはずである。

体重減少に関する介入研究のメタアナリシスでは、過体重(すなわち、BMI 25.0~29.9 kg/m2)または肥満(すなわち、BMI 30.0 kg/m2 以上)の参加者を対象とした 13 件の縦断研究(n = 551)および 7 件の RCT(n = 468)が同定された。試験参加者のうち、たとえ 2 kg と軽度であっても意図的に減量できた人は、追跡調査期間中央値 6 ヵ月(範囲 8~48 ヶ月)において認知機能の改善と関連していた (追跡期間が短すぎないか?)。このことは、たとえ減量が肥満状態を変えるのに十分でなくても、健康行動が有益な効果をもたらす可能性があることを示している。これらの改善は、減量手術を受けた人よりも、減量のために食事を変えたり運動したりした人の方が顕著であった。

さらに、BMI が高い人では、コルチゾール濃度の上昇、炎症、健康への悪影響と関連しており、ひいては認知症との関連に寄与している可能性がある。脂肪率が認知症リスクに寄与するメカニズムを理解するためには、さらなる研究が必要である。

データをプールした 19 件の前向き研究の系統的レビューでも、低体重者(すなわち、BMI<18.5;HR 1.26, 95%CI 1.20-1.31)における認知症リスクの増加が同定されている。 39 件の前向きコホート研究における 100~300 万人の個人参加者データのメタアナリシスでは、ベースライン測定が認知症発症の 15 年以上前に行われたコホートでは、肥満は認知症の危険因子であったが、ベースライン測定が認知症発症の 10 年未満に行われた場合には、予防的であった。著者らは、認知症を発症する前に体重が減少することが多いため、この結果は逆の因果関係によるものであると示唆した。低体重は栄養不良と関連している可能性もあるが、低体重は様々な理由で起こりうる。

過度のアルコール摂取
2020 年委員会では、中年期における週 21 英国単位(すなわち、12 米国単位、168 g、アルコール度数 5%の酒なら 480 mL/日×毎日)を超えるエタノールの飲酒は、軽い飲酒(すなわち、14 英国単位未満、アルコール度数 5%の酒なら 320 mL/日×毎日)と比較して、認知症リスクの増加と関連することを報告した(RR 1.18, 95%CI 1.06-1.31)。

英国では、アルコール 1 単位 = 8 g
米国では、アルコール 1 単位 = 14 g

同様に、フランス、英国、スウェーデン、フィンランドからの 131,415 人の参加者を対象とした個人参加者のメタアナリシスでは、交絡因子を調整した後、中年期の飲酒量が多い(すなわち、週 21 単位以上)ことは、軽い飲酒(すなわち、週 1-21 単位)と比較して認知症リスクの増加と関連していた (HR 1.22, 95%CI 1.01-1.48)。 同様に、28 件のシステマティックレビューのレビューでは、(個々の研究で定義された)多量のアルコール使用は、あらゆる原因による認知症のリスク増加および画像研究における灰白質容積の減少と関連すると結論づけている。アルコールによる意識消失は、中等度または大量飲酒者の認知症リスクを増加させた。

高齢者を対象としたいくつかの横断研究では、多量飲酒者と非飲酒者の認知症リスクは同程度であると報告されているが、非飲酒者としてカウントされている人の中には、以前は多量飲酒者であった人もいる。日本の前向き研究では、42,870 人の参加者を 14.9 年間追跡調査し、飲酒しない場合(HR 1.29, 95%CI 1.12-1.47)、および中年期から週 450 g 以上の飲酒をする場合(1.34, 1.12-1.60)は、軽度の飲酒(すなわち、週 75 g 未満)と比較して認知症リスクの増加と関連することを報告している。 15 件の前向きコホート研究にわたる 24,478 人の高齢者(平均年齢 71.8 歳[SD 7.5])の個人参加者データのメタ解析では、151,636 人年の追跡期間中、認知症リスクは、機会飲酒(0.78, 0.68-0.89)、軽度-中等度(1.3-24.9 g/日; 0.78, 0.70-0.87)、中等度から多量飲酒者(25.0-44.9 g/日、0.62, 0.51-0.77)では非飲酒者より低かったが、多量飲酒者(>45 g/日, 9%酎ハイで 500 mL/日)では非飲酒者(0.81, 0.61-1.08)より低くなかった。

また、メンデルランダム法では、飲酒とアルツハイマー病の発症年齢の早期化との間に因果関係があることが示され、飲酒しないこととアルツハイマー病との間の関連は生存者バイアスによるものであることが示唆された。この結果はおそらく、非飲酒者の多くが過去に多量のアルコール摂取や飲酒を妨げる他の病気にかかっていたためであり、過去に多量のアルコール摂取があったことを補正した研究では、非飲酒群に死亡率の過剰がないことが報告されている。

韓国の全国コホート 3,933,382 人を対象とし、3 年間のアルコール摂取量を連続的に評価した研究では、持続的な多量飲酒者(すなわち、30 g/日以上または 3 単位/日、アルコール度数 5%の酒で
600 mL/日以上)は、あらゆる原因による認知症のリスクが増加し(HR 1.08, 95%CI 1.03-1.12)、多量飲酒から中等度レベル(すなわち、15.0-29.9 g/日)に飲酒量を減らすと、持続的な多量飲酒と比較して、あらゆる原因による認知症のリスクが減少した(0.92, 0.86-0.99)ことが報告されている。持続的な軽度(すなわち、15 g/日未満;0.79, 0.77-0.81、アルコール度数 5%の酒では 300 mL 未満)または中等度のアルコール摂取(0.83, 0.79-0.88)または軽度のアルコール摂取の開始(0.93, 0.90-0.96)も、持続的な非飲酒よりもあらゆる原因による認知症リスクの低下と関連していた。全体として、過度の飲酒を減らすこと、または軽い飲酒を継続することは、過度の飲酒と比べて認知症リスクを下げることに関連する。飲酒しないことが認知症リスクを高めるという明確な証拠はない。非飲酒者の過剰リスクに関する観察的証拠は、以前に大量に飲酒し、データ収集時に禁酒し(非飲酒者に分類され)、その後飲酒に戻った人によるものかもしれない。

社会的孤立
以前、我々は認知症の危険因子として、社会的孤立(social isolation) や頻繁でない社会的接触を取り上げた。その後、2 件のシステマティックレビューが、社会的接触の頻度が低いほど認知症リスクが高いことを報告している。最初のレビューでは、8 件の研究、合計 15,762 人が参加し、社会的接触が頻繁でない人の方が頻繁な人よりも認知症リスクが高い(RR 1.57, 95%CI 1.32-1.85)と報告している。2 件目のレビュー(前回のレビューに含まれた1つの研究を含む)では、リスクの増加はより小さかった(1.18, 1.08-1.30)と報告されている。しかし、UK バイオバンクの参加者を対象とした、平均追跡期間 8.8 年と 12 年(SD 1.7)のその後の 2 件の研究では、ベースライン時に社会的に孤立している人(すなわち、一人暮らし、家族または友人と会う頻度が月に 1 回以下、週 1 回のグループ活動に参加していない)は社会的に孤立していない人 (すなわち、上記の基準を満たさない人) と比較して認知症リスクが高いことが明らかになった。

孤独 (loneliness) は、社会的接触が不十分であるという人々の感情に関するものであるため、社会的孤立と関連はあるが、それとは異なる。3~8 件の研究からなる 3 件のレビューにおいても、孤独は認知症リスクの増加と関連していた(RR 1.26 [1.14-1.40], 1.38 [0.98-1.94], 1.58 [1.19-2.09])。 これらの研究のすべてではないがいくつかでは、社会的接触の頻度が低いなどの潜在的な交絡因子を調整した後でも関連が持続することがわかった(図 7)。

図 7. 社会的接触の頻度と認知症発症頻度との関連
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(24)01296-0/fulltext?dgcid=twitter_organic_infocusbrainhealth_lancetdementia24_lancet#fig7

社会活動への参加 (participation of social activities) も関連しているが、社会的孤立とは区別され、認知症リスクの低下と関連している。連続的な社会活動測定を行った 2 つの研究では、社会活動への参加が減少することは、短期的には認知症リスクが高くなることと関連するが、長期的な追跡調査では関連しないことが報告されている。この所見から、社会活動への参加との関連は、認知症の前臨床期に参加率が低下するという、少なくとも部分的には逆の因果関係によるものである可能性が示唆される。

どのような形であれ、社会的接触は、認知予備能を構築し、健康的な行動を促進し、ストレスや炎症を軽減することによって、認知症リスクに有益な効果をもたらす可能性がある。リスクは、アルツハイマー病の異なる多遺伝子リスクスコアを持つ個人間で一貫していることが報告されており、社会的孤立は、社会的に孤立していない人に比べて、側頭部、前頭部、およびその他の脳領域の灰白質体積の減少と関連していた。

ファシリテーター主導のグループ活動を通して社会的接触や活動への参加を増やす介入は、一般的な認知機能に関して一貫した結果を得ていない。認知を主要アウトカムとする 3 ヵ月の介入に関するフィンランドの 1 件の RCT は、孤独な 75 歳以上の 235 人を採用し、アルツハイマー病評価尺度-認知サブスケールの成績のわずかな有意な改善を示した(100 点あたりの変化の平均差は -2~6 点)が、米国と中国の研究では、ファシリテーター主導のグループ活動が有益であることは示されなかった。グループ活動を含む多領域介入に関する研究では、中集中的な介入による認知機能への影響は小さいことが示唆された(Cohen's d 0-13;平均 MMSE 変化量 0.99 点)。その後行われた多領域介入に関する試験的 RCT では、グループミーティングを通した社会活動や、月 1 回の追加的な社会活動の予定が含まれており、少数ではあったが、24 週時点で全般的な認知機能の改善がみられた(Repeatable Battery for the Assessment of Neuropsychological Status スコアにおける群間差は 6.2 点;p = 0.004)。既存の研究は小規模であり、追跡期間が短すぎるため、多領域介入における社会的要素が認知症発症に何らかの影響を及ぼすかどうかを明らかにすることはできない。

大気汚染
家庭内外の環境における微粒子への暴露は、現在、強い関心を集めている。曝露は生涯にわたるものであり、ライフコース全体にわたる多くの長期的疾患の潜在的な要因である。2020 年のランセット委員会において、我々は、曝露期間、解析における共変量、転帰、バイアスのリスクにおいて研究間でかなりの異質性があるにもかかわらず、粒子状物質による大気汚染、PM2.5(直径 2~5 μm 以下の微粒子)、PM10(直径 10 μm 以下の粒子)が認知症や認知機能障害の危険因子であるという同意が得られたことを報告した。2019 年以降、少なくとも 9 件のシステマティックレビューとメタアナリシスが発表され、いずれも大気汚染が認知症リスクの上昇と関連していると報告している。研究の異質性を管理するために、いくつかのメタアナリシスでは組み入れ基準を狭めている(例えば、あるレビューでは、91,391,296 人を含む 20 件の研究からなるハザード比を提供する研究のみを分析し、PM2.5 の 1 μg/m3 増加あたり 1.03(95%CI 1.02-1.05)の ハザード比を報告している。 積極的な症例確認を行った質の高い研究を用いた 5 件の研究のメタアナリシスから得られた保守的なプール推定では、PM2.5 の 2 μg/m3 増加あたり 1.17(0.96-1.43)のハザード比が報告されているが信頼区間は広く、ヌル値も含まれている。二酸化窒素(10 μg/m3 当たり 1.02 [0.98-1.06])と窒素酸化物(10 μg/m3 当たり 1.05 [0.98-1.13])についてはそれぞれ 5 件の研究から、オゾン(5 μg/m3 当たり 1.00 [0.98-1.05])については 4 件の研究から、プールハザード比が報告されたが、いずれも有意ではなかった。その他の汚染物質については、評価した研究が少なすぎて、メタ解析には至っていない。

高所得国と低中所得国の両方において、大気汚染はしばしば高度で悪化しており、PM2.5 と PM10 の濃度は認知症、MCI、アルツハイマー病と関連している。環境(つまり屋外)と家庭(つまり屋内)の大気汚染には、別個のあるいは相乗的なリスクがあるかもしれない。低中所得国での研究によると、清潔な燃料と比較すると、家庭大気汚染の原因となる代用固形燃料の使用は、中高年(つまり 45~50 歳以上)の認知症リスクの上昇や認知機能低下の加速と関連することが示されている。家庭用の薪ストーブや石炭ストーブは室内空気汚染の原因であり、英国の PM2.5 排出量の 38%を占め、関連する健康リスクもあると報告されている。

1,800 万人以上の参加者を対象とした米国の 7 年間のコホート研究では、認知症リスクと最も強い関連を示した PM2.5 成分はブラックカーボンであったと報告している(1 μg/m3 増加につき HR 1.12 [95% CI 1.11-1.14] )。

スウェーデンの住民 2927 人(ベースライン時に認知症でなかった女性 1845 人[63%]と男性 1082 人[37%];ベースライン時の平均年齢 74 歳[SD 10.7])を対象とした平均追跡期間 6 年の縦断的研究では、1990 年から毎年 PM2.5 と窒素酸化物への曝露量を調べ、心血管疾患(すなわち、心房細動、虚血性心疾患、心不全、脳卒中)が公害と認知症の関連を修飾するか媒介するかを検討し、そうであったと報告している。大気汚染の影響は、これらの既往症のある人では最悪である。

大気環境の改善が認知機能の低下や認知症の発生率に及ぼす潜在的な影響については、新たなエビデンスが得られている。12 年間の追跡調査を行ったフランスのコホート研究では、1990 年から 2000 年の間に PM2.5 の中央値が 12.2 μg/m3 減少したことが、認知症リスクの低下と関連したことが報告されている(HR 0.85, 95%CI 0.76-0.95)。より大きな大気環境の改善(10 年間にわたる PM2.5 と NO2 の減少)は、米国の高齢女性における認知症リスクの低下と関連した。準実験的研究では、中国の大気汚染防止管理行動計画が高齢者の認知機能低下を緩和したことから、厳格な大気清浄化政策が大気汚染に関連する認知機能老化(MMSE で測定)のリスクを低減する可能性が示された。中国の北部と南部におけるセントラルヒーティングに対する政策の違いが大気汚染濃度の違いにつながり、北部のサンプルにおけるより高い大気汚染(すなわち、PM10, NO2, SO2, CO, O3)は、南部のサンプルよりも 42.4%高い認知症リスクと関連していた。

エビデンスが増えるにつれて、研究デザイン、報告、分析を標準化し、比較を可能にし、大気汚染と認知症との関連をより詳細に理解することは価値があるだろう。社会経済的状況、家庭環境、大気汚染への曝露が密接に関連していることを考えると、これらの研究で残存交絡を最小化することは困難である。

全体として、最終的に年間平均 PM2.5 濃度を 5 μg/m3 未満とする WHO 世界大気質ガイドラインの実施を支持する声が高まっている。PM2.5 濃度が 1 μg/m3 上昇するごとに認知症リスクが上昇することから、安全な大気汚染濃度が存在するかどうかは不明である。認知症のサブタイプに関連したリスクや、個々の粒子状物質成分(例えば、黒色炭素、硫酸塩、硝酸塩、アンモニウム)が重要かどうかについてはほとんど分かっていない。

元論文
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(24)01296-0/abstract?dgcid=twitter_organic_infocusbrainhealth_lancetdementia24_lancet

少量の飲酒は認知症発症リスクの低下と関連する。

2025-01-05 21:28:58 | 神経
韓国で行われた飲酒量の変化と認知症発症リスクとの関連を検討したコホート研究
JAMA Netw Open 2023; 6: e2254771

重要性
アルコール摂取量の連続的な変化が認知症リスクに及ぼす影響については、これまでほとんど検討されていない。

目的
アルコール摂取量の包括的な変化パターンとあらゆる原因による認知症、アルツハイマー病(Alzheimer disease: AD)、血管性認知症(vascular dementia: VaD)の発症率との関連を調査すること。

背景
現在、世界中で 5,700 万人以上の人々が認知症を患っており、この数は 2050 年までに 1 億 5,200 万人以上に増加すると予想されている。

アルコール摂取は一般的に認知症の潜在的な修正可能な危険因子と考えられているが、文献上の結果は完全に一致しているわけではない。研究期間中のアルコール摂取量の変化と認知症発症との関連を検討した研究は少ない。

Sabia らは、英国における 17 年間のアルコール消費量の推移と認知症リスクとの関連を検討した。著者らは、長期禁酒者、飲酒量が減少した者、長期飲酒量が週 14 単位を超えた者では、長期飲酒量が週 1~14 単位の者と比較して、認知症リスクが増加したと結論している。しかし、この研究では、最初のアルコール摂取量レベル(例えば、軽度、中等度、多量)を考慮した層別解析は行っていない。Mukamal ら は、2 回に分けてアルコール摂取量を調べた。しかし、この研究では、2 回の測定間のアルコール摂取のパターンの変化(例えば、減少または増加)を反映することなく、2 回の測定間のアルコール摂取の平均レベル(例えば、1 週間に 1 杯未満)に従って参加者を単純に分類した。

本研究では、韓国を代表する集団の大規模サンプルを用いて、アルコール摂取の初期量によって層別化したアルコール摂取量の包括的変化パターンと認知症リスクとの関連を評価した。注目すべきは、我々の知る限りでは、各基本アルコール消費レベルにおいて、禁酒者に加えて同レベルの飲酒継続者を参照群として用いたのは本研究が初めてであり、これによりアルコール消費パターンの変化と認知症リスクとの関連についてより包括的な理解が可能となったことである。

研究デザイン
本研究は後方視的コホート研究である。データは韓国の国民健康保険サービスのデータベースから得た。40 歳以上の成人は、2009 年と 2011 年に 2 回の健康診断を受けた。コホートは 2018 年 12 月 31 日まで評価し、統計解析は 2021 年 12 月に行った。

曝露
アルコール摂取レベルは、なし(1 日 0 g)、軽度(1 日 15 g 未満)、中等度(1 日 15~29.9 g)、多量(1 日 30 g 以上)に分類した。2009 年から2011 年までの飲酒量の変化に基づいて、参加者は以下のグループに分類された:非飲酒者、禁酒者、減酒者、持続飲酒者、増酒者。

主要アウトカム
主要アウトカムは、新たに診断された AD、VaD、その他の認知症とした。

結果
参加者 3,933,382 人(平均[標準偏差]年齢55.0[9.6]歳;男性 2,037,948 人[51.8%])の平均(標準偏差)追跡期間 6.3(0.7)年の間に、あらゆる原因による認知症 100,282例、AD 79,982 例、VaD 11,085 例を認めた。継続的な非飲酒と比較して、継続的な軽度の飲酒(調整ハザード比 [aHR], 0.79;95%CI, 0.77-0.81)および中等度の飲酒(aHR, 0.83;95%CI, 0.79-0.88)は、あらゆる原因による認知症リスクの低下と関連していた。一方、継続的な大量の飲酒は、あらゆる原因による認知症リスクの上昇と関連していた(aHR, 1.08;95%CI, 1.03-1.12)。

表 2. 非飲酒者を参照群とした場合の飲酒量の変化と認知症発症リスクとの関連
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2800994#zoi221551t2

持続的な飲酒レベルと比較して、飲酒量を多量レベルから中等度レベルに減らすこと(aHR, 0.92;95%CI, 0.86-0.99)および軽度の飲酒を開始すること(aHR, 0.93;95%CI, 0.90-0.96)は、あらゆる原因による認知症リスクの低下と関連していた。増加者および禁酒者は、持続者と比較してあらゆる原因による認知症のリスクが増加した。AD と VaD の傾向も一貫していた。

表 3. 同程度の飲酒量を継続している場合を参照群とした場合の飲酒量の変化と認知症発症リスクとの関連
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2800994#zoi221551t3

考察
この全国規模のコホート研究において、軽度の飲酒を持続している人は非飲酒を持続している人と比較して、あらゆる原因による認知症のリスクが 21%減少し、中等度の飲酒を持続している人は 17%減少したが、多量の飲酒を持続している人は 8%増加した。同レベルの飲酒を継続した人と比較して、摂取量を中等度に減らした多量飲酒者および軽度レベルに飲酒を開始した非飲酒者は、あらゆる原因による認知症および AD のリスク減少を示したが、飲酒量を軽度または中等度レベルから多量レベルに増やした人は、あらゆる原因による認知症および AD のリスク増加を示した。3 回目の検査からの情報を用いたサブグループ解析では、その後の飲酒レベルの変化に関して一貫した所見が示され、この結果の頑健性が支持された。

アルコール摂取とあらゆる原因による認知症リスクとの間には、J 字型または U 字型の関連が観察されたが、これは先行研究の大部分と一致している。最近のメタアナリシスのシステマティックレビューでは、軽度から中等度のアルコール摂取は、あらゆる原因による認知症、AD、VaD の予防効果があることが示されている。軽度から中等度のアルコール摂取の予防効果は、様々なメカニズムに起因すると考えられる。例えば、AD では、先行研究により、軽度から中等度のアルコール摂取の保護効果には、生存促進経路の促進と神経炎症の減少が関与していることが提唱されている。VaD に関しては、先行研究により、軽度から中等度のアルコール摂取は血管系に有益であり、血小板機能や高密度リポ蛋白の血清濃度上昇に有益な影響を及ぼすことが提唱されている。しかし、過度のアルコール摂取は、アルコールの神経毒性作用や栄養欠乏が証明されているように、直接的なメカニズムを通じてさまざまな有害な影響ももたらす。さらに、過度のアルコール摂取は、タウ蓄積の促進やアセチルコリン放出の減少を伴うコリン作動性ニューロンの破壊を通じて、AD の病態を悪化させると考えられている。

われわれの研究では、軽度のアルコール摂取の開始があらゆる原因による認知症および AD のリスク低下と関連することが示されたが、これはわれわれの知る限り、過去の研究では報告されたことがない。軽度から中等度のアルコール摂取は、心血管疾患に対して有益な効果をもたらすことが報告されているが、他の多くのアウトカムに関しては議論が続いている。2015 年から 2020 年までの「アメリカ人のための食生活指針」では、飲酒の開始や飲酒量の増加を推奨していない。さらに、個人の代謝特性(性別、体重、アセトアルデヒド脱水素酵素のタイプ)とアルコールに対する感受性は個々に異なるため、各個人に最適なアルコールレベルを見つけることは困難である。さらに、飲酒はいくつかのライフスタイル要因の指標であり、軽度から中等度の飲酒は社会活動の重要な要素であると考えられている。飲酒パターンの変化の根底にある社会経済的な理由を十分に理解しない限り、今回の結果から結論を導き出すことは困難である。因果関係を十分に立証できるランダム化臨床試験の倫理的限界を考えると、これらの知見を臨床応用する前に、我々の結論をさらに裏付ける追加研究が必要である。

われわれの結果は、いかなるレベルの飲酒であっても、禁酒はあらゆる原因による認知症、AD、VaD の高いリスクと関連していることを示しており、これは以前の報告と一致している。禁酒者に観察された結果は、主にシック・クイッター効果(健康上の問題のために特定の危険な活動をやめる(または減らす)こと)に起因すると疑われている。Sabiaらは、禁酒に伴う認知症の過剰リスクの一部は、心臓代謝性疾患(脳卒中、冠動脈性心疾患、心房細動、心不全、糖尿病)によって説明されることを明らかにした。我々の研究では、禁煙につながる医学的併存疾患や健康上の結果が未捕捉である可能性がある。逆因果の可能性を最小化するために、3 つの評価によるサブグループ解析を行い、1 年のタイムラグを適用したが、病気による禁煙効果は依然として潜在的なバイアスの原因である。

限界
本研究にはいくつかの限界がある。第 1 に、本研究ではアルコール消費量は自己申告制であり、実際のアルコール消費量を過小評価する傾向がある。第 2 に、本研究ではアルコール飲料の種類を考慮していない。第 3 に、本研究の参加者は健診参加者に限定されており、一般集団よりも健康的で健康的なライフスタイルを実践している可能性がある。第 4 に、本研究のモデルは様々な潜在的交絡因子で調整されているが、遺伝的なもの(例えば、APOE)を含む未測定の交絡因子が依然として結果を歪めている可能性がある。第 5 に、アルコール代謝の遺伝的背景や飲酒文化は民族によって異なるため、我々の結果を韓国人以外の民族に適用する場合には注意が必要である。

結論
結論として、我々の解析は、軽度から中等度の飲酒を維持することは認知症リスクの低下と関連し、一方、多量の飲酒を維持することは認知症リスクの上昇と関連することを示している。特に、最初の飲酒量で層別化した解析では、飲酒量を多量から中等量へ減量することと、軽度の飲酒を開始することが、あらゆる原因による認知症および AD のリスク低下と関連していることが示された。

元論文
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2800994

認知症の予防、介入、ケアについてのランセット委員会の 2024 年報告書 その 1

2025-01-03 05:33:51 | 神経
認知症の予防、介入、ケア:ランセット常設委員会の 2024 年報告書
Lancet 2024; 404: 572-628

認知症に関するランセット委員会の 2024 年最新版では、認知症の予防、介入、ケアに関する新たな希望に満ちたエビデンスが示されている。人々が長生きするにつれて、高所得国では年齢別発症率が低下しているにもかかわらず、認知症患者の数は増加し続けており、予防アプローチを特定し、実施する必要性が強調されている。我々は、システマティックレビューとメタアナリシスを優先し、認知機能と身体的予備能がライフコースを通じてどのように変化していくのか、また血管障害の軽減(例えば、喫煙の減少や高血圧の治療など)が加齢に伴う認知症発症率の減少に寄与していると考えられることを示す様々な研究からの知見を多角的にまとめ、認知症に関するランセット委員会の 2020 年報告以降の新たな研究を要約した。我々が以前にモデル化した認知症の多くの危険因子(すなわち、低学歴、難聴、高血圧、喫煙、肥満、うつ病、運動不足、糖尿病、過度のアルコール摂取[すなわち、英国で 21 単位以上、米国で 12 単位以上に相当]、外傷性脳損傷[traumatic brain injury: TBI]、大気汚染、社会的孤立)に取り組むことが認知症発症リスクを減少させるというエビデンスが増加し、確かなエビデンスが蓄積している。本報告書では、未治療の視力低下と高 LDL コレステロールが認知症の危険因子であるという新たな説得力のある証拠を追加する。

私たちは、難聴とうつ病の将来の認知症リスクに関する新たなメタ解析を完了し、すべてのリスク要因の世界的なリスクと有病率に関する最新の文献をレビューし、すべてのリスクに関する集団毎の寄与率を算出した。我々は、この集団毎の寄与率を用いて、これら 14 の危険因子を組み込んだ認知症予防の新たな包括的ライフコースに沿った認知症予防の見取り図を作成した。全体として、これら 14 の危険因子を除去することによって、理論的には認知症の半分近くを予防できる可能性がある。これらの知見は希望を与えるものである。ライフスタイルを変えることは容易ではなく、いくつかの関連は部分的な因果関係に過ぎないかもしれない。しかし、我々の新しいエビデンスは、個人が認知症リスクをどのように低減できるかを示し、政策的介入が認知症予防をどのように改善するかを論じている。低所得国や中所得国、少数民族や社会経済的低所得者層では、リスク低減の可能性がより高く、新しいエビデンスによれば、高所得国やその中の多数派集団に比べて、修正可能なリスクの負担が高いことが多く、認知症が早期に発症する可能性が高い。

特定の危険因子に関するエビデンスは、すべての子供に教育を受けさせるべきであり、教育期間が長いことが有益であることを示唆している。中年期(すなわち 18-65 歳)と晩年期(すなわち 65 歳以上)においては、認知的、身体的、社会的に活動的であることが重要であり、中年期の活動性は、教育をほとんど受けていない人でも違いを有無ことを示す新しいエビデンスがある。難聴の治療が認知症のリスクを減少させるという証拠は、前回の委員会報告書が発表された時よりも強くなっている。補聴器の使用は、難聴と認知症の追加的な危険因子を持つ人々に特に効果的であるようである。また、うつ病の治療と禁煙が認知症リスクを低下させるという新たなエビデンスも示されている。

大気汚染の低減が認知機能の改善と認知症リスクの低減につながるという新たな知見を報告する。政策立案者は、特に大気汚染の激しい地域で、大気の質を改善する戦略を実施すべきである。外傷性脳損傷は、年齢や原因を問わず、認知症の危険因子であり続け、コンタクトスポーツが危険因子であることを示唆する新たなエビデンスがある。このエビデンスは、適切な頭部保護具の使用、スポーツトレーニングにおける衝撃の大きい衝突やヘディング練習の減少、頭部打撲直後のスポーツの回避など、頭部損傷からの保護が個人および公衆衛生の優先事項であることを示唆している。

新しいエビデンスによると、認知症のリスクを減らすことで、認知症を発症した人の健康寿命を延ばし、不健康な期間を短くすることができる。予防のアプローチは、早期に危険因子のレベルを下げ、生涯を通じて危険因子のレベルを低く保つことを目指すべきである。人生の早い段階で危険因子に対処することは望ましいが、生涯を通じて危険に対処することも有益である。多くのエビデンスは、中年期の介入が重要であることを示唆しているが、いくつかの危険因子は、社会的レベルやライフコース全体に関係がある。本報告書で取り上げた危険因子はすべて、ライフコース全体のリスクに影響を与える可能性のある政策変更によって、大規模にリスクを低減できる可能性がある。新しいエビデンスによると、これらの変更は多くの場合コスト削減につながり、遺伝的に認知症リスクが高い人でもリスクを改善できることが初めて明らかになった。

キーメッセージ

認知症の新たな 2 つの修正可能な危険因子
新たなエビデンスは、2020 年のランセット委員会で特定された 12 の危険因子(すなわち、低学歴、頭部外傷、運動不足、喫煙、過度のアルコール摂取、高血圧、肥満、糖尿病、難聴、うつ病、社会的孤立、大気汚染)に加え、認知症の修正可能な危険因子として視力低下と高コレステロールを追加することを支持している。

14 の危険因子を修正すれば、認知症の半数近くを予防または遅らせることができるかもしれない。予防に意欲的に取り組むこと。予防には、国や国際的な政府レベルでの政策変更と、個々人に合わせた介入の両方が必要である。人口ベースの政策では、公平性を優先し、リスクの高いグループを確実に取り込むべきである。認知症リスクを減少させるための行動は、早期に開始し、生涯にわたって継続すべきである。リスクは特定の個人に集中しているため、介入は多くの場合、多角的であるべきである。

APOE 遺伝子の有無にかかわらず、リスクは修正可能である。複数の危険因子に対処する多面的な介入は、遺伝的認知症リスクが高い人、低い人のいずれにも利益をもたらす可能性がある。

ライフコースにおける認知症リスク低減のための具体的行動
私たちは、14 の危険因子にまたがるいくつかの具体的な行動を推奨する。

·すべての人が質の良い教育を受けられるようにし、認知機能を維持するために中年期に認知機能を刺激する活動を奨励する。

·難聴者のために補聴器を利用しやすくし、難聴を減らすために有害な騒音への暴露を減らす。

·うつ病を効果的に治療する

·コンタクトスポーツや自転車でのヘルメットや頭部保護具の使用を奨励する。

·スポーツや運動をする人は認知症になりにくいので、運動を奨励する。

·教育、価格管理、公共の場での喫煙防止を通じて、タバコの喫煙を減らし、禁煙のアドバイスを受けやすくする。

·高血圧を予防または軽減し、40 歳以降、収縮期血圧を 130 mmHg 以下に維持する。

·中年期から高 LDL コレステロールを検出し、治療する。

·健康的な体重を維持し、肥満を早期に治療する。

·価格統制と適切な飲酒量と過剰摂取のリスクに対する認識を高めることにより、アルコールの大量消費を減らす。

·高齢者に優しく、支え合える地域環境や住宅を優先し、活動への参加や他者との生活を促進することで、社会的孤立を減らす。

·すべての人が視力低下の検査と治療を受けられるようにする。

·大気汚染への曝露を減らす。

認知症の人への配慮
診断後の介入は、認知症患者が将来の計画を含め、認知症とともによりよく生きることを支援する。家族や介護者への多角的なサポートと神経精神症への対処は重要であり、患者中心であるべきである。

神経精神症状は治療されるべきであり、ケアと協調した多角的介入が有用であるという明確なエビデンスが存在する。アクティビティへの参加も神経精神症状を軽減し、認知症患者の楽しみや目的を維持するために重要である。精神神経症状に対する介入としての運動に関するエビデンスはない。

アルツハイマー病やレビー小体型認知症の患者にはコリンエステラーゼ阻害薬やメマンチンを投与すべきである。これらの薬剤は安価で、副作用が比較的少なく、認知機能の低下を適度に抑制し、長期的な効果があるという十分なエビデンスがあり、ほとんどの高所得国で入手可能であるが、低所得国や中所得国では入手しにくい。

アミロイド β を標的とする抗体のいくつかの臨床試験では、18 ヵ月間の治療で悪化を抑えるというわずかな効果が認められている。しかし、その効果はわずかであり、軽症の患者や他の疾患をほとんど持たない患者を対象としている。これらの治療法はいくつかの国で認可されているが、顕著な副作用があり、長期的な効果に関するデータはほとんどない。これらの治療には費用がかかり、また、スタッフ、画像検査、専門家による血液検査などの医療資源を必要となるため、使用機会は限られる可能性がある。我々は、未知の長期的影響、多疾患合併患者における影響に関するデータの欠如、特に APOEε4 遺伝子型保有者における有効性と副作用の規模について、十分な情報が広く共有されることを推奨する。我々は、アミロイド β 標的抗体投与中の患者を注意深くモニターすることを推奨する。

脳脊髄液または血液バイオマーカーは、アルツハイマー病の診断を確定または除外するために、認知症または認知機能障害のある人にのみ臨床的に使用されるべきである。バイオマーカーは、主に白人集団においてのみ検証されており、一般化の可能性は限られており、健康公平性への懸念がある。

急性の身体的不調に陥り、入院が必要となった認知症患者は、他の認知症患者よりも認知機能が早く悪化する。身体的な健康を守り、必要であれば十分な飲食と服薬ができるように手助けをすることが重要である。

COVID-19 は認知症患者の脆弱性を露呈した。私たちはこのパンデミックから学ぶとともに、認知症患者の生活とウェルビーイング、そして家族のウェルビーイングが、認知症でない人々よりも低く評価されていることから、認知症患者を保護する必要がある。

認知症の予防とリスク軽減の研究の課題
予防とリスクへの曝露のライフコース的性質
多くの要因が、妊娠から晩年までのライフコースにわたって作用している。これらの因子を追跡することは困難であり、我々のエビデンスベースは特定の年齢で研究されたものに限られている。ここでは、認知症に直接関連するエビデンスを取り上げるが、早期(すなわち、胎内および乳児期)における最適な脳の成長や、逆境への曝露と認知、血管の健康、身体的および認知的活動へのその影響については、我々が把握していない広範なエビデンスが存在する。教育への曝露には、強い保護効果がある。この委員会では、リスクという言葉を使い、次にリスクとリスクから生じる病気の両方を軽減できる保護について議論する。

バイオマーカーの分野は、2020 年の報告書以来進歩し、体液バイオマーカーはより広く検証されるようになった。しかし、その多くは 3 次医療機関で受診した人たちを対象としており、対象者は若年であったり、より稀な認知症であったりする傾向があるため、多くの認知症患者とは異なることが多い。バイオマーカーの変化の意味についても、明らかになってきている。認知機能障害者のアミロイド β とタウのバイオマーカーは、アルツハイマー病の病態の存在を確認するのに役立つが、この病態が症状の原因であることを確認するものではない。アミロイド斑は認知症の臨床症状が現れる何年も前に生じる。アミロイド β バイオマーカーは、認知障害のない高齢者(すなわち、米国のサンプルでは 70 歳で 10%、85 歳で 33%の陽性)によくみられ、そのほとんどは認知症を発症しない。アミロイド β バイオマーカーとタウバイオマーカーの両方が存在すると認知症の可能性が高くなり、神経変性の神経画像所見はこのリスクをさらに高める。リン酸化タウのような血中バイオマーカーは、認知症になる人を予測する計測可能な検査法であるという見通しはあるが、まだ実現には至っていない。

認知症患者にとって、診断後の介入は、身体的健康を最大化し、生活の質を改善し、入院を減らし、将来の計画を立てるのに役立つ。介入は個別化され、本人の生活状況を考慮し、家族や他の介護者に配慮するべきである。家族や介護者や神経精神症状の管理に対する多面的な心理社会的介入については、前回の報告時よりもかなり多くのエビデンスが存在する。これらの介入は重要であり、患者中心のものであるべきである。

アルツハイマー病やレビー小体型認知症の患者に対するコリンエステラーゼ阻害薬の長期的、短期的な有益性については、新たなエビデンスが追加された。コリンエステラーゼ阻害薬は、その有効性を示すエビデンスに基づいて、認知症の治療に広く利用できるはずであるが、この治療法は多くの国ではまだ利用できない。抗アミロイド β 抗体の治療法についてはあまり知られていない。心強いことに、抗アミロイド抗体治療を受けた人の認知機能低下がわずかに減少し、脳内のアミロイド β が大幅に減少したことがいくつかの試験で初めて報告された。しかし、これらの治療法は高価で、使用するのに負担がかかり、集中的なモニタリングとフォローアップが必要で、臨床的に重大で、時には重篤な副作用を伴うことがある。長期的な効果や安全性に関するエビデンスは存在しない。

COVID-19 は、認知症患者の脆弱性を明らかにした。私たちは、脆弱な人々が保護され、認知症の人々とその家族の生活とウェルビーイングが大切にされるように、これらの新しい観察から学ぶ必要がある。

保護とリスクの理解、認知症患者への薬理学的・非薬理学的介入における大幅な進歩は、これまで以上に認知症の予防、診断、治療が可能になり、個人、家族、社会の生活を向上させることを意味する。

はじめに
われわれは、政策、知識、臨床実践、研究課題に影響を与えることを目的として、認知症の予防、介入、ケアに関するランセット委員会を再結成した。認知症の予防、診断、薬物および非薬物療法において、目覚ましい進歩があった。私たちの学際的、国際的、多文化的な専門家グループは、多視点の枠組みを採用し、システマティックレビューとメタアナリシスに優先順位をつけ、必要な場合には新たなメタアナリシスを行った。多様な視点を取り入れるため、幅広い地理的・文化的範囲から選ばれた各委員は、少なくとも 1 つのセクションを執筆し、各セクションは対面式で、また複数の文書バージョンで発表され、議論された。私たちは全会一致で、入手可能な最善のエビデンスとその一貫性に合意した。私たちは、最大の効果をもたらすと思われる進歩を特定し、潜在的に修正可能な認知症の危険因子の効果を計算できるように、新たな作業を行った。ここでは、予防、介入、ケアに関するエビデンスのバランスを要約し、新たな分析を報告し、現在の知識を統合する。

2019 年における世界の認知症患者数は 5,700 万人と推定され、2050 年には 1 億 5,300 万人に増加すると予測されている。

認知症に関するランセット委員会のこの第 3 回報告書では、これまでの委員会で報告したことを述べ、すでに知られていることを要約した。これらの情報は、世界中の人々による何十年にもわたる研究から得られたものである。そして、この研究を基に、新たなエビデンスを統合して最新の推奨を行う。私たちは、高所得国と低・中所得国、およびエビデンスが入手可能なすべての国において、十分なサービスを受けていない、少数民族のコミュニティにおける集団を特に考慮している。エビデンスは、依然として高所得国からのものが偏っている。46 カ国中 31 カ国の認知症国家計画は、多様性、衡平性、あるいは少数派の文化や民族の人々への配慮について具体的な推奨を行っていない。しかし、本報告書で述べているように、あらゆる認知症のタイプについて、あらゆる文化や民族に配慮することは、援助を最も必要とする人々に援助の対象を絞るために不可欠である。

予防
既存の研究文献から特定され、2017 年と 2020 年のランセット委員会報告書でも取り上げた 12 の危険因子に関連する認知症予防とリスク低減に関する研究が急速に拡大している。私たちの以前の報告書で特定された危険因子は、低学歴、難聴、高血圧、運動不足、糖尿病、社会的孤立、過度のアルコール摂取、大気汚染、喫煙、肥満、外傷性脳損傷、うつ病であり、これらを低減することで認知症の 40%を予防できる可能性があると報告した。これら 12 の危険因子のメカニズムについて考察し、どの年齢でもリスクを低減できることを示した。

ここでは、エビデンスを更新し、その他の潜在的な危険因子を検討する。我々は、認知症のリスク低減や予防を理解するために、ライフコースに基づいたアプローチを用いている。例えば、肥満や高血圧は中年期の危険因子であり、多くの場合、それ以前の生活に由来するが、晩年期には軽度認知障害(mild cognitive impairment: MCI)や認知症との関連は減少する。説得力のあるエビデンスのある危険因子のみを対象とするが、他の危険因子や保護因子が存在する可能性が高いことは認める。委員が集まり、エビデンスを議論し、何を含めるかを決定し、その議論とエビデンスを論文にまとめた。ここでは、危険因子を認知症に関連付けるメカニズムについて、生物学的にもっともらしいと思われる新しいエビデンスについて議論し、新しいエビデンスがある場合には、それを提示するとともに、メカニズムに関する過去のエビデンスを要約し、バランスのとれた見解を示す。しかし、すべての機序について完全で詳細なレビューを行うことを目的としているわけではない。また、多様な集団からのエビデンスであるため一般化可能であるかどうか、危険因子を減らすための介入が認知症リスクに違いをもたらすというエビデンスがあるかどうかについても議論する。

罹患率の減少
いくつかの高所得国のデータでは、年齢別の認知症罹患率は過去 20 年間で減少していることが示唆されており、予防が可能であることが強調されている。中·低所得国からのデータは少ない。これらの知見から、多くの認知症は予防可能である(予防が可能である)ことが示唆される。一方、 リスクの有病率(例えば、糖尿病や肥満の有病率)が上昇した場合、年齢別罹患率は上昇する可能性があり、年齢別罹患率の上昇は特に教育水準の低い人々に影響を及ぼす可能性がある。英国の研究は、年齢別認知症発症率の増加はすでに起こっている可能性を示唆しているが、不確実性があり、さらなるエビデンスが必要である。

定期的な運動、禁煙、過度のアルコール摂取を避け、晩年の認知機能を刺激する活動を含む健康的なライフスタイルを持つ人は、そうでない人に比べて認知症のリスクが低いだけでなく、認知症の発症が平均余命よりも遅れるため、健康な年数が長くなり、病気にかかる年数が短くなることが示された。全体として、健康的な生活をしている人は、不健康な生活をしている人よりも長生きし、認知症になったとしても、より少ない年数で済むことが期待できる。

認知脆弱性 (cognitive vulnerability)、脳の維持 (brain maintainance)、認知予備能 (cognitive reserve)
2020 年のランセット委員会で議論されたように、神経病理学的変化が必然的に認知症につながるわけではない。ほとんどの認知症高齢者は、いくつかのタイプの神経病理学的変化を持っている。米国または英国で死亡した 80 歳以上の 4354 人からなる 6 つのコミュニティコホートを対象としたある研究では、6 種類の神経病理を分析した 2695 人のうち 2443人(91%)が 2 種類以上の神経病理を持って死亡していることが確認された。神経病理の種類が多い人ほど認知症になる可能性が高いが(図 1)、神経病理の種類が多くても認知症にならない人もいた。

図 1. 5 つのコホートにおける 6 種類の神経病理の存在と臨床的な認知症発症の有無との関係
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(24)01296-0/fulltext?dgcid=twitter_organic_infocusbrainhealth_lancetdementia24_lancet#fig1

認知症の症状が現れる前に神経病理に耐える能力を認知予備能 (cognitive reserve) という。レジリエンス(resilience)やブレイン・リザーブ(brain reserve)という用語は、病理学への対処や神経病理学への抵抗という意味でも使われることがある。例えば、過去 25 年間で、加齢に伴う認知症の発症率が減少した国もあるが、ある死後研究では、その間の神経変性には差がなかったが、血管病理には減少がみられた。ある系統的レビューでは、身体的、認知的、社会的活動が認知的予備能を増加させ、神経病理の影響を減弱させることが報告されている。全体として、過去 20 年間で、ライフコースを通じて認知的・身体的予備能の増加し、神経病理が存在するにもかかわらず認知機能を刺激する活動の維持、血管障害の減少が、加齢に伴う認知症発症の減少に寄与したと考えられる。それにもかかわらず、人口の高齢化によって認知症患者の数は増え続けている。

認知症の予防とリスク軽減の研究の課題
ライフコースの各段階における防御因子とリスク因子
多くの要因が、胎児期から晩年までのライフコースにわたって作用している。これらの因子を追跡することは困難であり、我々が得ているエビデンスは特定の年齢で研究されたものに限られている。ここでは、認知症に直接関連するエビデンスを取り上げるが、早期(すなわち、胎児期および乳児期)における最適な脳の成長や、有害な環境への曝露、血管の健康、身体的および認知的活動の影響については、我々が把握していない広範なエビデンスが存在する。教育には、強い保護効果がある。この委員会では、リスクという言葉を使い、次にリスクとリスクから生じる疾患の両方を軽減できる防御因子について議論する。

例えば、ある研究では、中年期の糖尿病は認知症の危険因子であるが、晩年期の人では糖尿病発症が危険因子ではない可能性があると報告している。このようなリスクの違いが、晩年期に糖尿病を発症した人の方が中年期に発症した人よりも危険因子にさらされる期間が短いためなのか、糖尿病の重症度がリスクに影響しているのか、あるいは糖尿病が危険因子としてはたらく年齢に上限 (臨界期) があるのかは不明である。後期に糖尿病を発症した人が十分に長生きすれば、認知症のリスクも高くなる可能性がある。他の危険因子、例えば喫煙は中年期における危険因子であることを示唆しているが、明らかに晩年期においても危険因子である。

認知症の同定と介入前の長い前駆期の影響
10 年以上にわたるいくつかの認知症の長い前臨床期は、アルツハイマー型認知症発症前のアミロイド β やタウの蓄積のような進行性の神経病理学的変化によって特徴づけられる。神経病理学的な変化は、当初は認知機能にほとんど影響を与えないが、何年にもわたってその影響が増大することがある。行動や健康状態の変化は、認知症発症のずっと前に起こる可能性があるため、認知症発症前の数年間に同定された潜在的なリスクは、真の因果関係、あるいは逆の因果関係である可能性があり、その関連は双方向性である可能性がある。この双方向性は、研究がコホートの平均追跡期間を報告している場合でも当てはまる可能性があり、認知症を発症した人とそうでない人では (認知症発症によって観察を打ち切ることによって) 異なる可能性がある。今後の研究では、認知症を発症した人と発症しなかった人の平均追跡期間を別々に報告するか、追跡期間 5-10 年以内に発症した偶発症例を除外した場合の効果を検証すべきである。

認知症予防のための介入試験を計画・実施する際には、十分な追跡調査期間の確保、少数民族の人々(国によって異なる)のような高リスク集団や排除されがちな集団からの参加者のリクルート、介入の遵守、認知機能の改善と関連するライフスタイルや行動の変化を起こすことなど、多くの方法論的困難がある。無作為化比較試験(randomized controlled trial: RCT)において、対照群も介入を受ける意欲が高い場合、介入の有益性を示すことは難しくなる。また、試験終了後に介入が継続されないと、ベネフィットが停止したり減少したりする可能性がある。

多様性、公平性、包括性
以前に我々は得られる限りのメタアナリシスによる危険因子の有病率や相対リスク(relative risks: RR)の国際的なデータを用いて、予防とリスク低減の可能性を世界レベルで検討した。公平性への配慮は、倫理的な面だけでなく、予 防効果を最大化するための何を介入ターゲットにするか、や介入を利用しやすいものにできるかに反映させるためにも重要である。さらに、UK Biobank のような大規模コホート研究の中には、若年者(つまり 50 歳未満)を対象としているものもあり、逆因果の除外には有用であるが、ほとんどの人は認知症が一般的となる年齢に達しておらず、そのため得られた知見は高齢者集団に一般化できない可能性がある。認知症の危険因子に関するコホート研究、ひいてはメタアナリシスは、圧倒的に高所得国から得られており、これらの研究は、高学歴で社会経済的地位の高いヨーロッ パ出身者を対象とする傾向があり、通常、高齢者層(すなわち、65 歳以上)から得られており、少数民族から得られているものは少ない。このような制限は臨床試験にも当てはまり、両試験タイプにおいて、意図せずに試験から除外することになっているかもしれない。すなわち、介護者など、試験参加者の訪問に同行し、サポートするものがいない場合、研究参加の負担に耐えられない場合、現地の言語に堪能でない場合などである。

ラテンアメリカ 15 カ国の 31 の研究のメタアナリシスによると、1 年以上の教育を受けている人に比べ、全く教育を受けていない人では認知症の頻度が 2 倍であり(21.4% v.s. 9.9%)、都市部より農村部、男性より女性の方がわずかに有病率が高いことが報告されている。ニュージーランドのマオリ族、オーストラリアの先住民族、米国と英国の黒人、米国のヒスパニック系など、十分なサービスを受けていない民族の人々は、その国の大多数を占める人々よりも、潜在的に修正可能な危険因子の有病率が高い。心血管疾患の研究では、例えば、高血圧が脳卒中のリスクに及ぼす影響は、英国の南アジア系住民の方が白英国系住民よりも大きく、また、認知症の危険因子の影響も民族によって異なる可能性があることが明らかになっている。

教育水準が低い、社会的に孤立している、社会経済的地位が低いなどの重要な社会的不利因子は、認知機能低下や認知症を予測する健康因子とクラスター化する傾向がある。我々は、様々なリスクプロファイルを考慮するのではなく、個別にリスクを考慮し、共同性を補正することにした。

いくつかの危険因子の有病率に対する社会経済的地位 (socioeconomic status) の影響は、国によって異なることがある。高血圧、糖尿病、肥満、運動不足、喫煙、過度のアルコール摂取、教育水準の低さ、外傷性脳損傷、大気汚染への曝露の有病率は、高所得国では社会経済的地位の低い人々や所得の低い人々の方が高い。低所得国では、富や教育水準が低い人ほど肥満や糖尿病の有病率が低いという報告があるが、結果は一貫していない。さらに、いくつかの低所得国では、高所得国よりも社会的孤立が少ない。

生物学的性別 (セックス sex)、つまり性染色体や生殖器官による人々の身体的な違いは、通常出生時に指摘され、人々は性別を割り当てられる。生活上の性別 (ジェンダー gender) とは、人が性別のスペクトルの中でどのように識別するかということである。いくつかの社会では、セックスとジェンダーは分離可能な概念として認識されつつある。生物学的性別、ホルモン曝露および社会的役割はすべて、認知症のリスクに影響を及ぼす。37 ヶ国の 205 件の研究による約 100 万人を対象としたメタアナリシスでは、男性に比べて女性の認知症罹患率と有病率の増加は、平均余命と教育の違いによって説明されることが明らかになっている。アフリカ、アジア、ヨーロッパ、北米、オーストラリア、南米の 21 のコホート、合計 29,850 人の参加者において、 認知症発症リスクは男性より女性の方が高かった(ハザード比 [HR] 1.12, 95%CI 1.02-1.23)。インドで初めて行われた全国的な認知症有病率の推定では、女性、教育水準の低い人、農村部での有病率が高いことが示された。

高所得国と低·中所得国の両方において、リスクは生物学的性別以外の因子と関連していることを示唆する証拠がある。男性よりも女性の方が寿命が長く、学歴が低いこと、閉経後の女性ではエストロゲンが減少していることなどが、認知症発症の性差を引き起こしている可能性がある。成人 2,200 人を対象に 60 歳から 12 年間、または死亡するまで追跡調査した日本の代表的な全国調査では、教育水準が低いこと、家事や肉体労働の職業に就いていることが、女性のベースラインの認知スコアが低く、追跡調査期間中に認知機能がより低下する要因であることが報告されている。15,924 人の参加者を対象とした英国の研究では、女性の教育へのアクセスが増加するにつれて、コホートの中でより最近生まれた女性が、男性の高い記憶力と流暢さのスコアに追いついていることが確認された。米国、メキシコ、ブラジル、中国、インドの 60 歳以上の 70,846 人を対象とした分析では、男性よりも女性の認知機能の低下が、米国よりも中所得国でより顕著であることがわかった。このような国による違いは、女性におけるリスクの増加が、仕事や教育における機会不足に一因があり、貧困の増加、医療へのアクセスの低下、差別などにつながっていることを示唆している。同性のパートナーがいる人の認知症のリスクについてはほとんど知られていないが、50 歳以上の成人 23,669 人を対象とした米国のある研究では、異性のパートナーがいる人よりも同性のパートナーがいる人の方が認知障害のリスクが高いことが確認されている。さらに、一般的に、シスジェンダーの男女はトランスジェンダーの男女に比べて、晩年に認知症を発症する危険因子が少ない。

因果関係を検討する方法
脳卒中(心房細動によるものを含む)、パーキンソン病、HIV、梅毒は認知症の危険因子というよりむしろ原因であり、ここでは危険因子として含めない。血管性痴呆は通常、脳卒中と関連しており、脳卒中は症状があるか、あるいは運動症状がなくても画像診断で発見されることがあり、脳卒中は血管性痴呆の診断基準に明記されている。脳卒中は、喫煙、高血圧、糖尿病のような多くの潜在的に修正可能な危険因子を持つ人に、危険因子を持たない人よりも頻繁に起こる。

RCT は、介入の有効性、ひいては危険因子の因果関係を立証するための最も標準的な方法であるが、認知症の研究には現実的でないことが多い。臨床的に認知症が発症するまでに何十年もの介入とフォローアップを必要とし、法外な費用と選択的脱落によるバイアスをもたらす可能性がある。さらに、治療群に無作為に割り当てることは倫理的に問題があるか、不可能である。因果推論法、準実験的研究、生態学的研究は、エビデンスを増やすことができる。RCT と介入に関する観察研究の定量的効果を評価した、ヘルスケアのアウトカムに関する研究(特に認知症ではないが)を比較したコクランレビューでは、34 件の研究のうち 23 件で RCT と観察研究から同様の効果推定値が報告されていることが確認された。因果関係を評価するための 1 つのアプローチは、大気汚染の減少や全人口に対する教育の増加など、特定の時期に実施された介入の効果を研究することである。もう一つのアプローチはメンデルランダム化分析 (Mendelian randomization) であり、因果関係の立証を助けるために、今回初めて可能な限り取り入れた。

メンデルのランダム化解析
https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8254.html

メンデルランダム化は、対立遺伝子が受胎時にランダムに割り振られることに基づく因果推論手法であるため、リスクとの関連が後の疾患によって引き起こされることはない。この方法は、行動や気分は部分的に遺伝的に左右されると仮定しており、研究対象集団において特定の危険因子に影響を及ぼす遺伝的多様性が十分にある場合にのみ、因果推論に用いることができる。メンデルランダム化はまた、生存バイアスなどの要因によっても制限され、これは RCT の所見に反してメンデルランダム化の所見が物議をかもす原因になっている可能性が高い。

潜在的に修正可能な認知症の危険因子
認知症予防の努力は、様々な集団に対して、ニュアンスの異なるテーラーメイドのアプローチをとり、リスクの高い集団の参加を妨げる構造的・社会文化的障壁の軽減を目指すべきである。臨床試験や研究データベースは、現実の集団を反映した社会人口統計学的多様性を目指すべきである。次のセクションでは、認知症発症の防御因子と危険因子に関する 2020 年委員会のエビデンスベースを補足する、新しく発表された研究および例示的な研究について簡単に述べる。高血圧のようにライフコースの中で変化していく危険因子もあれば、アルコールや喫煙のように一貫しているものもある。認知症予防の潜在的メカニズムを図 2 にまとめた。

図 2. 認知予備能を高め、修正可能な認知症のリスク因子を低減させることによる認知症予防の方略
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(24)01296-0/fulltext?dgcid=twitter_organic_infocusbrainhealth_lancetdementia24_lancet#fig2

教育、学歴、認知活動
我々は以前、幼少期の教育水準が高く、教育達成度が高い人ほど認知症リスクが低いことを報告し、その後の認知機能の刺激効果が、教育水準の低い人よりも教育水準の高い人の方が認知的に刺激的な職業に就いていることによるものではないか、と議論した。14-15 歳時の読書レベルによって測定される教育の質の差は、人種間の認知症有病率における米国の格差の約半分を占めると推定されている。全体として、教育年数ではなく、教育達成度が将来の認知および認知症の予防効果を促進するようである。

中国では、同じ方法と地理的範囲を用いた 20 年間の研究により、認知症罹患率と有病率が、特に教育年数 6 年未満の人々で増加していることが報告されている。中国系、フィリピン系、日系アメリカ人の場合、大卒の学位取得は認知症リスクの低下と関連していた。

高所得国の 107,896 人を 13.7-30.1 年間追跡調査した研究では、職場での認知的刺激が高い人の認知症リスクは、職場での認知的刺激が低い人よりも低いことが報告されている(10 年追跡調査 HR 0.79, 95%CI 0.66-0.95)。 教育水準が低く、職場での認知的刺激が低い人と比較すると、職場での認知的刺激が高く、教育水準が低い人の認知症の HR は 0.80(0.66-0.97)であり、認知的刺激が高く、教育水準が高い人の認知症の HR は 0.63(0.49-0.82)であった。同様の結果は、アジア、オーストラリア、ヨーロッパ、北米で実施された 10,195 人を 3.9-6.4 年間追跡した研究でも報告されており、その結果、高学歴と職業の複雑さの両方が、認知症のない生存期間の延長と独立して関連しており、学歴の効果の 28%が職業の複雑さに媒介されていた。しかし、米国の研究では、白人では学校教育年数が MRI による白質病変の影響を防ぐことを予測したが、黒人ではそうではなかったと報告している。世界的に見ると、教育水準は時間の経過とともに向上しているが、一部の国では依然として低いため、認知症予防や健康全般を考える上で大きな意味を持つ。

認知機能の刺激が多いことは認知予備能と関連している。認知予備能を維持する能力は、軸索形成やシナプス形成による脳の修復を可能にする血中タンパク質の濃度が高いこと、脳機能ネットワークの効率が高く、低下が少ないこと、住む場所の選択の幅を広げる経済状況の改善につながる職業達成度の向上、医療へのアクセスや健康意識の向上による身体的健康の向上、その他の健康増進行動など、多くのメカニズムによって媒介される可能性がある。メンデルランダム化研究では、教育年数(予測遺伝子で測定)の効果は、知能(知能指数テストの成績に関連する遺伝子で測定)に媒介されることが確認された。

2020 年のランセット委員会では、健康な高齢者や軽度認知障害者を対象としたコンピュータ認知トレーニングの試験は、一般的に認知機能に対するわずかなプラスの効果を示唆しているが、研究の質が低く異質であるため、コンピュータ認知トレーニングが臨床的価値があるかどうかは不明であると報告した。認知的に健康な高齢者における認知機能維持のためのコンピュータ認知トレーニング介入について、12-26 週間にわたって実施された最新のコクランレビューでは、コンピュータ認知トレーニングが、長期的な効果のエビデンスはないものの、活動的な対照群に対してグローバル認知機能で、また非活動的な対照群に対してエピソード記憶で、即時的な小さな効果を支持する質の低いエビデンスが同定された。注目すべきは、低強度での短期的なコンピュータによる認知トレーニング介入であり、これは経済的に高くつく可能性があるが、短期的な有効性に関する質の低いエビデンスしかなく、認知機能の維持における長期的な有効性に関するエビデンスはない。これらの試験における認知トレーニングは、認知機能の幅をカバーしていない、集中的でない、または認知機能を維持するのに十分でない、または認知機能を維持するには人生の後半に行われすぎている可能性がある。職場で認知的刺激に触れることは、認知的介入や認知的に刺激的な趣味よりも認知症リスクを低下させ、持続期間も長い。

難聴と補聴器
世界では、推定 20%の人が難聴であり、職業や環境による騒音への曝露や未治療の感染症が原因となっている。質の高い研究とは、純音評価による客観的な聴力測定、5 年以上の追跡調査、ベースライン時の年齢、心血管因子、認知または学歴の調整、認知症発症という転帰に対する総合的なリスクを有する研究と定義した。難聴とその後の認知症との関連については、5 件のメタアナリシスがあり、そのうちのひとつはシナ·チベット諸語声調言語 (Sinitic tone language, 同じ語の抑揚で意味が異なる言語) に焦点を当てている。 最新の研究では、難聴は認知症リスクと関連しており(HR 1.35, 95%CI 1.26-1.45) 、聴力が 10 dB 悪化するごとに認知症リスクが 16%増加する(95%CI 1.07-1.27)というように、聴力と関連していた。これらの分析には、前述の質の高いデータが得られると判断した基準がすべて含まれているものはなかった。また、難聴の程度が異なる集団を比較した研究は除外したが、難聴者と難聴でない人を比較した研究は除外しなかった。データベースの開設から 2023 年 3 月 20 日まで、PubMed, Ovid Embase, PsycINFO、Web of Science, Cochrane Library, PROSPERO, Centre for Reviews and Dissemination で再度検索を行い、必要に応じて著者に連絡して説明を求めたところ、基準に合致する研究が 6 件見つかった。 「認知症 dementia」、「認知機能低下 cognitive decline」、「アルツハイマー病 Alzheimer's disease」、「軽度認知障害 mild cognitve impairment」、「聴覚 auditory」、「聴覚的な aural」、「老人性難聴 presbycusis」という検索語を用いて「全分野 all fields」を検索した。補聴器は難聴と認知症の因果関係の一部であるため、補聴器で調整されていない結果を使用した。研究参加者の平均ベースライン年齢は 59 歳から 77 歳であり、最も大きな研究では、18-20 歳で義務的徴兵委員会に登録した男性を採用したが、聴力の状態は中央値 59.9 歳(IQR 54.6-65.4)で測定した。すべての研究において、ベースラインから認知症の状態までの追跡期間は 6 年から 12 年であった。これらの研究のランダム効果メタアナリシスを行ったところ、難聴者は難聴でない人に比べて認知症リスクが高かった(HR 1.37, 95%CI 1.00-1.87, I2 = 80%, n = 666,370, 図 4)。

図 4. ベースに難聴がある人の難聴がない人との認知症発症リスクの比較
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(24)01296-0/fulltext?dgcid=twitter_organic_infocusbrainhealth_lancetdementia24_lancet#fig4

小規模な研究のうち 4 件が補聴器の使用を報告しており、難聴者の 18-64.5%が補聴器を装用していた。メタ回帰では、補聴器を装用している人の割合が高い研究は、補聴器を装用している人の割合が低い研究よりも認知症の可能性が低いと報告しているが、信頼区間は広かった(-1.32, -3.34 to 0.71)。

聴力と認知症リスクとの間の用量反応を調査した 4 つの研究はすべて、聴力が 10 dB 低下するごとに認知症リスクが増加すると報告している。

他の背景雑音が存在するときに音声を理解することが困難な、特異的な音声性難聴はまれである。音声性難聴を客観的に測定した唯一の大規模研究は、UK Biobank のデータを用いたものである(n = 82,039, 音声性難聴者 100 人、中央値 10 年間追跡調査)。典型的な騒音下言語聴力(すなわち、騒音下言語受容閾値 [speech reception threshold in noise: SRTn] < -5.5dB)の人と比較して、不十分な騒音下言語聴力(SRTn ≧ -5.5dB〜<-3.5dB;HR 1.61、95%CI 1.41-1.84)および騒音下言語聴力低下(SRTn≧-3.5dB;1.91, 1.55-2.36)の人では認知症リスクが高かった。

難聴が認知症リスクを高めるメカニズムとして、いくつかの仮説が立てられている。孤独、うつ、社会的孤立などの心理社会的要因が関与している可能性がある。他のメカニズムとしては、環境刺激の減少による認知予備能の低下、聴くために認知資源がより多く割かれること、これらのリスクと脳病理との相互作用などがある。難聴と認知症との因果関係は、難聴に長くさらされることが認知症リスクの上昇と関連し、難聴と診断されて 25 年以上経過した人のリスクが最大であることから支持されている。このメカニズムは、心血管系の健康状態による交絡が難聴と認知症リスクとの関連を実質的に説明することを示唆するが、メタアナリシスでは示されていない。

ここで紹介するエビデンスは、難聴者に補聴器を使用することで、認知症リスクの上昇をなくすことができるのか、あるいは軽減することができるのかという疑問を提起するものである。補聴器と認知に関する最初の RCT である ACHIEVE 研究は、70〜84 歳の人々を対象に行われた。参加者は、広告で募集された健康な難聴ボランティア(n = 739)と、既存のコホートである ARIC 研究の参加者(n = 238)であった。3 年間の追跡調査において、補聴器の使用が主要アウトカムである認知に及ぼす全体的な影響は認められなかった(差-0.002, 95%CI -0.08〜0.08)。重要なことは、事前に規定した感度分析により、ARIC 群では 3 年後の認知に対する補聴器使用の実質的な効果が同定されたことである(差 0.19, 0.02~0.36)。ARIC 集団は、難聴のある健常ボランティア集団よりも認知症の危険因子を多く有していた(すなわち、集団の平均年齢が 2〜8 歳高く、ベースラインの認知機能が低く、喫煙が多く、学歴が低く、一人暮らしが多く、糖尿病や高血圧を有する傾向が強かった)。3 年後の追跡調査において、ARIC 群(238 人中 57 人[24%])では、広告で募集された人々(739 人中 61 人[8%])よりも認知機能障害の発生率が高かった。著者らは広告で募集されたボランティア参加者は、一般的に対象集団の中でもより健康的なサブセットであることを強調している。全体として、ARIC コホートにおける高リスク集団において、補聴器は認知機能に対して大きな保護効果を示した(対照集団と比較して、3 年間のグローバル認知機能低下が 48%減少)。ARIC コホートと比較して、健常ボランティア群では認知機能の低下速度が遅かったため、3 年間の追跡期間内におけるこの群の認知機能に対する効果は限定的であった可能性がある。ARIC コホートにおける大きな効果の説明は、認知症リスクの高いグループにおける補聴器使用が、社会的接触、抑うつ気分、認知的刺激を変化させ、意欲や治療に関するコミュニケーションを改善するということかもしれないが、このようなエビデンスはまだ存在しない。

以前、我々は補聴器の使用が認知症予防になり、補聴器使用開始後の認知機能低下率を低下させるというエビデンスについて述べた。その後、126,903 人の参加者を 2~25 年間追跡調査した 8 件のコホート研究のシステマティックレビューとメタアナリシスにより、補聴器を使用している難聴者は、補聴器を使用していない人に比べ、認知機能低下(HR 0.81, 0.76-0.87; I2=0%)、認知症(0.83, 0.77-0.90; I2=0%、4 つの研究)リスクが有意に低いことが報告されている(図 5)。

図 5. 補聴器の使用と認知機能低下との関係についての研究のメタ分析
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(24)01296-0/fulltext?dgcid=twitter_organic_infocusbrainhealth_lancetdementia24_lancet#

自己申告による難聴のある 50 歳以上の高齢者 2114 人を対象とした別のコホートでは、1154 人が MCI を発症し、補聴器を使用している人は、補聴器を使用していない人に比べて、追跡調査期間中にあらゆる原因による認知症を発症するリスクが有意に低かった(HR 0.73, 0.61-0.89)。認知症発症までの期間の中央値は、補聴器を使用していない人では 2 年、補聴器を使用している人では 4 年であった。

認知症リスクに対する補聴器の有益性を示す観察的証拠は増えつつある。逆因果の可能性を減らすために、追跡期間が長い研究のみを考慮したとしても、補聴器が認知症リスクを減少させるというエビデンスは一貫しており、支持的である。補聴器が認知症予防に有効であれば、補聴器の使用はコスト削減につながる可能性が高い。

元論文
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(24)01296-0/abstract?dgcid=twitter_organic_infocusbrainhealth_lancetdementia24_lancet