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内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床についての論文のまとめ

無症候性原発性副甲状腺機能亢進症状の管理

2023-09-22 06:00:45 | 内分泌
無症候性の原発性副甲状腺機能亢進症の管理: 第 4 次国際作業部会による提言のまとめ
JCEM 2014; 99: 3561-3569

1. 原発性副甲状腺機能亢進症の診断

原発性副甲状腺機能亢進症 (primary hyperparathyroidism: PHPT) 患者では、古典的には高カルシウム血症を認める。

主要なカルシウム結合蛋白であるアルブミン (albumin: Alb) の異常がある場合、血清中の総カルシウム濃度は以下の式で補正される。

補正 Ca 濃度 = 血清総 Ca 測定値(mg/dL)+ 0.8 ×(4.0 - 血清 Alb 濃度(g/dL))

である。イオン化血清カルシウムを測定することもできるが、ほとんどの施設ではイオン化遊離カルシウム濃度の測定精度は十分ではない。そのため、補正した総血清カルシウム濃度による評価が推奨される。

第 2 世代および第 3 世代の PTH 測定は、PHPT の診断に対して同じように有用である。PTH の基準範囲はビタミン D の充足の程度に影響されるが、医学研究所(institute of medicine: IOM)が推奨する25 (OH) D の閾値は 20 ng/mL(50 nmol/L)であるのに対し、内分泌学会(The Endocrine Society)のような権威ある団体が推奨する閾値は 30 ng/mL(75nmol/L)であるというように、ビタミン D の充足についても意見は一致していない。

ビタミン D が充足している集団における研究では、一般に、ビタミン D の充足度によって定義されていない基準範囲よりも低い正常範囲が示されている。

正常カルシウム血症 PHPT (normocalcemic PHPT) は、現在では PHPT のバリアントとしてよく認識されている。これらの患者では、血清総カルシウム値およびイオン化カルシウム値が正常であり、二次的に PTH を上昇させる原因は認めない。

正常カルシウム血症 PHPT の自然史に関する知識は不完全であるが、高カルシウム血症になる人もいれば、標的臓器病変の証拠(例えば、骨密度の減少)を示す人もいる。しかし、PTH 値が持続的に上昇しているにも関わらず、血清カルシウム濃度は正常で、長期間安定している患者もいる。

25 (OH) D は、すべての PHPT 患者において測定すべきである。IOM で定義されたビタミン D 不足(<20 ng/mL) または明らかなビタミン D 欠乏 (<10 ng/mL) の場合、疾患がより活性化するというエビデンスがある。また、ビタミン D 不足を改善すると PTH 値が低下するというエビデンスもあり、PHPT において 25(OH)D 不足を改善すると PTH 値が低下することが報告されている。

1,25-(OH)2 D 値は通常、正常上限~高値上昇であるが、測定する価値はないように思われる。したがって、1,25-(OH)2 D の測定は勧められない。

PHPT 患者の 10%以上が、PHPT に関連する 11 の遺伝子のいずれかに変異を有していると推定されている。遺伝学的検査のコストが下がり続けているため、このような検査がより日常的に行われるようになり、PHPT 患者やその近親者の臨床管理や治療に役立つと考えられる。

2. PHPT の典型的な症状

無症状の PHPT 患者は通常安定しているが、いつまでも安定しているとは限らない。無症候性 PHPT 患者を 15 年間追跡した前向き観察研究では、被験者の 3分の1 で PHPT の症候(腎結石、高カルシウム血症の悪化、骨密度の低下)が明らかになった。

PHPT は欧州や北米よりもアジアや中南米でより症状が出やすい。しかし、これは無症状で発症した場合の疾患に対する地域特異的なアプローチを示唆するものではない。

新しい骨評価法である二重エネルギーX線吸収測定法 (dual-energy x-ray absorptiometry: DXA) は非常に有用ではあるが、PHPT における骨梁の変化については十分な情報は得られない可能性が示唆されている。しかし、皮質病変のマーカーとしては、DXA は有益であり、すべての PHPT 患者において皮質部位である橈骨遠位 1/3 で DXA を測定することの重要性が強調されている。

DXA による椎体骨折評価 (vertebral fracture assessment: VFA) や海綿骨スコア (trabecular bone score: TBS)、 高分解能末梢定量コンピューター断層撮影 (high resolution peripheral quantitative computed tomography: HRpQCT) などの他の検査法も、無症候性 PHPT 患者の多くで海綿体病変を証明するのに役立つ。

PHPT では腎臓も障害される。腎結石症 (nephrolithiasis) および腎石灰化症 (nephrocalcinosis) は、PHPT の最も多い合併症である。結石症の原因は単一ではなく、尿中カルシウム排泄量だけでは明確に説明できない。

腎石灰化症や無症候性腎結石症が存在するかどうかを判定するために、腎画像検査(腹部 X 線、超音波、CT)を行う。また、尿検査から腎結石症のリスクの高い集団を特定することができる。

通常のカルシウム食で著明な低カルシウム尿症を示す患者は、家族性低カルシウム尿症高カルシウム血症(familial hypocalciuric hypercalcemia: FHH)の可能性がある。尿中カルシウム:クレアチニンクリアランス比 <0.01を示す患者も、FHH の可能性がある。

3. 非典型的だが PHPT と関連があるとされる症状

3-1. 心血管疾患

軽症 PHPT 患者の一部には、血管や心血管系の機能障害を示す微妙な証拠があるが、これらの所見が予測可能かどうかは不明である。現時点では、軽症 PHPT における心血管系の転帰に関する前向き研究はない。さらに、副甲状腺摘出術前後で心血管エンドポインランダム化比較試験では、副甲状腺摘出術による心血管エンドポイントに関する有益性は示せていない。

したがって、現時点で導き出される妥当な結論は、PHPT では心血管障害の検査は評価の一部とすべきではなく、また、副甲状腺摘出術は、もし異常があったとしても、心血管エンドポイントを改善するために行うべきではないということである。

3-2. 認知機能障害

患者の訴えや医療従事者による観察から、精神集中の欠如、認知の変化、抑うつ、 QOL の低下といった非特異的な症状が注目されている。しかし、これらの症状が PHPT と直接関係しているかどうかを調べるた研究のデータは一貫していない。副甲状腺摘出術後の結果も一貫していない。

より明確なエビデンスが得られるまでは、このような非特異的な症状を副甲状腺摘出術の推奨に用いるべきでない。それでも、神経認知症状のある患者の中には、外科的介入が有益であると思われる者は確かにいる。PHPT における正式な精神神経学的または神経認知学的検査は、この疾患の研究課題としては適切ではあるが、臨床では推奨されない。

4. 治療

4-1. 手術適応

i) 血清カルシウム濃度
手術が推奨される血清カルシウムの閾値は、依然として正常上限より 1 mg/dL(0.25mm/L)以上高値である。

ii) 骨病変
·骨密度:
骨密度の低下は、PHPT において、患者が来院した際または経過観察中のいずれにおいても、継続して注意するべき問題である。

閉経前後の女性および 50 歳以上の男性で、腰椎、大腿骨頸部、股関節全体、橈骨遠位 1/3 の T スコアが -2.5 以下の場合は手術が推奨される。

閉経前女性と 50 歳未満の男性では、Zスコア-2.5 以下が手術を勧めるカットポイントとして推奨されている。

T スコアの代わりに Z スコアを用いることは、国際臨床デンシトメトリー学会(International Society Clinical Densitometry: ISCD)の骨密度の評価における公式見解と一致している。しかし、この推奨では、PTH が骨サイズや骨構造に及ぼす他の影響が骨折傾向に影響する可能性があることも認めている。椎体 X 線、VFA、TBS、HRpQCT などの骨格評価に対する他のアプローチが、手術を推奨するかどうかの決定に役立つ情報を提供するかもしれない。

TBS や HRpQCT の評価に基づく海綿体病変は、手術を推奨する根拠となりうるが、これらの方法は日常的に利用できるものではないため、広く使用することはできない。

·骨折:
X 線または VFA で椎体骨折が認められた場合は手術が推奨される。

iii) 腎障害
- 
腎機能:
クレアチニンクリアランス 60 mL/分未満が引き続き手術適応の基準である。
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腎結石の評価は、現在では X 線、超音波、CT による腎画像診断が推奨されている。結石または腎石灰化症が存在する場合は、手術が推奨される。
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FHH の鑑別診断には、24 時間尿のカルシウム測定が有用である。著明な高カルシウム尿症(すなわち、400 mg/日超)がみられる場合は、カルシウム含有結石のリスク評価を行うためにさらに詳細な尿生化学的検査を行う。カルシウム含有結石リスクの上昇を示す異常所見と著明な高カルシウム尿症があれば、手術適応となる。

iv) 年齢
50歳未満は、引き続き手術適応である。

正常カルシウム血症の PHPT 患者においては、図1 に示すように、1. 1年毎に血清カルシウムと PTH、1-2 年毎に DEX で経過を観察する。

図1: 正常カルシウム血症性 PHPT のフォローアップ
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/core/lw/2.0/html/tileshop_pmc/tileshop_pmc_inline.html?title=Click%20on%20image%20to%20zoom&p=PMC3&id=5393490_zeg9991410330001.jpg

4-2. 手術についての最近の話題

PHPT に対して副甲状腺摘出術が行われることが増えている。副甲状腺手術が成功すると、骨密度が改善し、骨折の発生率が減少し(コホート研究)、腎結石の既往のある人では腎結石の頻度が減少し、ランダム化臨床試験で確認されたわけではないが、いくつかの神経認知的要素に改善が見られる可能性がある。

手術手技の有効性と安全性が進歩し、特に専門の副甲状腺外科医が執刀する場合は手術が成功する可能性が高いと期待されるので、手術を選択しやすくなる。さらに、さまざまな術前画像診断法の改善により、副甲状腺外科医は一般的に非常に信頼できるロードマップを手に入れることができるようになった。

画像診断は手術の補助として使われるが、診断目的ではない。最もよく使われる方法は、99mTc-セスタミビスキャンとシングルフォトンエミッション CT を併用した放射性核種による画像診断である。また、超音波検査も一般的な画像診断法である。CT スキャンは、3 次元技術と 4 次元(時間)を採用することで感度を向上させ、より広く使用されるようになった。

多種多様な外科的アプローチの中で、低侵襲副甲状腺摘出術が人気を博している。術中に PTH を測定することで、低侵襲副甲状腺摘出術は手術の範囲と時間を限定することができる。すべての機能亢進した副甲状腺組織 (例えば、単一の腺腫、過形成腺) を摘出した後、10-15分以内に PTH レベルは 50%低下し、正常範囲に入ると予想される。

遺伝性の PHPT の場合、手術方法は基礎にある遺伝性疾患に合わせる。副甲状腺の手術は、この手術に熟練した外科医のみが行うべきである。

4-3. 内科的治療についての最近の話題

改訂されたガイドラインでは、前回のガイドラインよりも副甲状腺手術を推奨する頻度が高くなると思われる。しかし、手術のガイドラインに合致しない無症状の患者は、少なくとも数年間は手術をせずに安全に経過を観察することができる。また、手術を拒否したり、考慮するべき医学的問題のために手術の候補にならない人もいる。

このような患者には、非手術的アプローチが必要である。経過観察する患者では、血清カルシウムを毎年または隔年で測定し、モニタリングする。骨密度も定期的に測定するが、その頻度は DXA に関する国別のガイドラインに基づくことが多い。

個々の PHPT 患者に適したモニタリング間隔も臨床的判断による。骨密度を年 1 回モニターするのが適切な場合もあれば、2 年毎でもよい場合もある。VFA は、潜在性椎体骨折の発生をモニタリングするために推奨される方法である。

ビタミンDは、最低血清25(OH)D値が20ng/dL(50nmol/L)以上となるように、適量を投与すべきである。一般に、800~1000 IUが開始用量として有用である。30 ng/mLを超えると PTH 値がさらに低下するというエビデンスもあるため、この高い基準値を目指すのは妥当な議論であろう。カルシウム摂取量は、すべての個人に対して設定されたガイドラインに従うべきである。PHPT においてカルシウム摂取を制限することは推奨されない。

薬物療法も選択肢ではあるが、そのほとんどは食品医薬品局やその他の規制機関によって承認されていない。さらに、ほとんどの薬剤について、有益性と安全性に関する長期データが不十分である。

ビスフォスフォネート系薬剤の中で最もエビデンスがあるのはアレンドロネートであり、血清カルシウムおよび PTH 濃度を変化させることなく腰椎の骨密度を改善する。カルシウム受容体作動薬であるシナカルセトは、多くの患者で血清カルシウム濃度を正常値まで低下させるが、PTH 値を低下させる効果はわずかである。骨密度は変化しない。シナカルセトは PHPT の内科的管理薬として承認されている。PHPT におけるビスフォスフォネートとシナカルセトの併用に関するデータは限られている。

これらの薬理学的薬剤のいずれを使用するかは、何を目標とするかによって決定されるべきである。骨密度を増加させるためには、ビスフォスフォネート療法が選択されるであろう。血清カルシウム濃度に懸念がある場合は、シナカルセトが選択されるだろう。

骨密度の改善や血清カルシウム濃度の低下を目的としない場合は、薬理学的薬剤は使用しない。

5. 今後明らかにされるべき問題

作業部会では、今後 5 年間でさらに研究を進めることが推奨される多くの分野が特定された。それらを、さらなる調査のための大まかなカテゴリーとしてここに列挙する。

1. 正常カルシウム血症性 PHPT:自然史と病態生理学

2. PTH の正常範囲を定義する際の 25 (OH) D の閾値;PTHレベルをコントロールするための至適レベルを定義する際の 25 (OH) D の閾値

3. ビタミン D 欠乏患者に安全にビタミン D を補充するための治療レジメン;血清 25 (OH) D の目標の設定

4. PHPT の非伝統的側面に関する前向き無作為化対照コホート研究:副甲状腺摘出術前後の神経認知機能と血管機能、予測指標の決定

5. 手術成功前後の PHPT における骨折発生率

6. PHPT における骨折リスクに対する骨密度、高分解能画像、およびそれらに関連する解析(TBS、有限要素解析など)の比較と予測値

7. PHPT における骨折リスクを評価するためのFRAXと同等のツールの確立

8. 腹部画像による無症候性PHPTにおける潜在性腎結石症の発生率の決定

9. 尿生化学的分析と腎結石の有無および/または発生によって決定される PHPT における結石リスクの予測値の決定

10. ビスフォスフォネートとシナカルセトの併用、デノスマブなどの PHPT に対する薬理学的アプローチ:費用便益分析

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5393490/

下垂体腫瘍にともなう内分泌障害

2023-09-12 09:39:45 | 内分泌
下垂体腫瘍にともなう内分泌障害についての総説
NEJM 2020; 382: 937-950

1. はじめに

下垂体腺腫は頭蓋内腫瘍の 15%を占める。下垂体腺腫の管理は鞍内疾患 (intrasellar disease) を鑑別をし、腫瘍による局所の圧排効果 (local mass effect) と全身性の内分泌障害に対する多職種による包括的な治療が必要になる。

下垂体腺腫はさまざまなホルモンを過剰分泌し得るので、症状と治療は症例毎に大きく異なる。

2. 病態生理

ホルモンを分泌する下垂体細胞系列の細胞から生じた腺腫はしばしば自律的なホルモン分泌をともなう。細胞の由来によって異なるホルモン過剰症を来す。すなわち、副腎皮質刺激ホルモン (corticotropin) 産生細胞 (corticotroph) 由来の腺腫はクッシング病を、成長ホルモン分泌細胞 (somatotroph) 由来の腺腫は先端巨大症 (acromegaly) を、プロラクチン産生細胞 (lactmtroph) 由来の腺腫は高プロラクチン血症を、甲状腺刺激ホルモン (thyrotropin) 産生細胞 (thyrotroph) 由来の腺腫は甲状腺機能亢進症を来す。

性腺刺激ホルモン産生細胞 (gonadotroph) はふつうホルモンは分泌せず、性腺機能低下症を来す。そして、しばしば偶発腫として発見される。

視床下部からのホルモン刺激や傍分泌による増殖シグナルにより、異数性 (aneuploidy, 染色体のコピー数の異常のこと) をともなう下垂体の細胞周期の制御異常や悪性転化 (malignant transformation) を抑制している細胞の老化 (cellular senescence) の異常を来し得る。

GNAS (アデニル酸シクラーゼを活性化する G タンパクの α サブユニット) や USP8 (ユビキチン特異的なプロテアーゼ) の変異はそれぞれ非家族性の成長ホルモン分泌腺腫、副腎皮質刺激ホルモン分泌腫瘍の一部で認めるが、孤発性の腺腫の遺伝子を調べても治療に役立つ情報が得られることは稀である。

下垂体腫瘍の有病率は過去数十年で 115/10万人まで増加している。これはおそらく、下垂体腫瘍が認知されるようになったことと、画像検査とホルモン検査の発展に依っている。プロラクチノーマと非機能性腺腫の有病率の比率 (それぞれ 54/10万人、48/10万人) は外科症例と非外科症例に関する報告バイアスを受けている可能性がある。というのは、プロラクチノーマはふつう内科的に治療されるため、病理学的に診断された報告例には入ってこないためである。

3. 分類

微小腺腫 (microadenoma) は 10 mm に満たない腺腫である。細胞の由来に依らず、10 mm を超える巨大腺腫 (macroadenoma) はトルコ鞍周囲の血管や神経などの構造物に影響し、両側耳側半盲 (bitemporal hemianopia) と視力低下 (decreased acuity) を含む視野障害 (visual-field defect) と頭痛を来し得る。

細胞特異的な転写因子およびホルモンの免疫染色、画像検査、生化学的検査、臨床所見によって下垂体腫瘍と内分泌学的異常の評価を行うことで、個別的な治療が可能になる。

下垂体腫瘍の評価では、正確な腫瘍の局在と、腫瘍による圧排効果の評価のために MRI と視野検査は行うべきである。ホルモンの過剰産生の有無と下垂体機能が保持されているかも調べるべきである。

外科的に切除された下垂体腺腫のおよそ 30%が 40年以上、残存もしくは増大し続け、Ki-67 陽性細胞の割合は上昇する。ある研究では、50例の下垂体腫瘍のうち 40%以上が海綿静脈洞 (covernous sinus) に伸展していた。

特に伸展しやすく、再発しやすい腫瘍としては、まばらに顆粒をともなう成長ホルモン分泌細胞 (sparsely granulated somatotrophs) やホルモンの過剰分泌をともなわない副腎皮質刺激ホルモン分泌細胞 (silent corticotroph)、クルック細胞 (corticotroph Crook's cell, 細胞質にヒアリンリングが目立ち、CK20 陽性の非腫瘍性細胞であり、正常な好塩基顆粒をともなう副腎皮質刺激ホルモン産生細胞から置換される) 、中高年のプロラクチン産生細胞由来の腫瘍がある。

下垂体の悪性腫瘍は極めて稀であり、下垂体腫瘍の 0.5%未満である。アルキル化薬のテモゾロミドに反応することがある。

4. 治療

下垂体腺腫の治療には経蝶形骨洞手術 (transsphenoidal surgical resection) 、放射線治療、薬物療法があり、いずれも腺腫のタイプによって長所と短所がある。複数の治療法を同時または連続的に組み合わせて行うことが必要になる場合がある。

手術は一般的に、腫瘍の大きさが 10 mm 以上で、鞍外に伸展あるいは中枢神経系を圧排、腫瘍が増大傾向にある場合、特に視力障害のリスクが高い場合に適応となる。

5. 遺伝性下垂体腫瘍

下垂体腫瘍はいくつかの極めて稀な遺伝子異常に関連して起こることがある。1型多発内分泌腫瘍症 (multiple endocrine neoplasia type 1) は下垂体腺腫、副甲状腺および膵島腫瘍と関連し、より少ない頻度ではカルチノイド、甲状腺、副腎腫瘍と関連する。

McCune-Albright 症候群は多発性線維性骨形成異常 (polyostotic fibrous dysplasia)、皮膚の色素沈着 (cutaneous pigmentation) 、性早熟 (sexual precosity) 、甲状腺機能亢進、副腎皮質機能亢進、高プロラクチン血症、そして先端巨大症によって特徴づけられる。

小児期または若年の成人期に成長ホルモン産生腺腫を発症しやすい稀な家族性下垂体腺腫の症例が報告されており、25% (3例) では生殖細胞系列の細胞に AIP (aryl hydrocarbon receptor interacting protein) の変異と関連づけられている。

カーニー複合 (Carney complex) では下垂体腺腫と良性の心臓粘液腫 (cardiac myxomas) 、神経鞘腫 (Schwannoma)、甲状腺腫、皮膚の色素斑 (pigmented skin spots) を認める。

6. 非機能性下垂体腺腫

非機能性下垂体腺腫となるものはいくつかあるが、ほとんどは性腺刺激ホルモン産生細胞に由来する。

これらの腺腫はホルモンと細胞特異的な転写因子を発現するが、それぞれの末梢血ホルモン値は上昇しないため、腺腫は全身性症候群の表現型とは関連しない。真のホルモン非産生下垂体腺腫 (null-cell adenoma) はホルモン遺伝子産物を全く産生しない。

非分泌性腺腫は何年も認識されないことがあり、ふつうは腫瘍による局所の圧排効果、性腺機能低下症から診断されるか、偶然に発見される。視交叉圧迫(chiasmal compression) はゆっくりと進行する視力障害を引き起こす。患者の約 3分の2 は性腺刺激ホルモン値の低下および性腺機能低下症を認める。

非機能性下垂体腺腫 385例についての検討では、289例が巨大腺腫 (macroadenoma) 、66例は超巨大腺腫(giant adenoma, 直径 4 cm 超)だった。これらの患者のほとんどが頭痛または視力障害を呈していた。

非機能性下垂体腺腫のおよそ 10% が下垂体卒中を呈する。下垂体卒中は、突然現れる眼の奥の痛み、意識障害、眼球運動障害 (opthalmoplegia) が特徴であり、最悪の場合は視力喪失を来す。

ごくまれに、血中の性腺刺激ホルモン濃度が上昇し、卵巣が過剰に刺激されたり、精巣が大きくなったりすることもある。しかし、多くの場合は性腺刺激ホルモンの血中濃度が上昇することで、性腺軸 (gonadal axis) が逆説的に抑制される。

非機能性下垂体腺腫のうち最大 20%は副腎皮質刺激ホルモンや成長ホルモンを細胞内に発現しているが、分泌していない腺腫である。これらはふつう、非機能性下垂体腺腫として切除され、免疫染色を伴う組織学的評価により診断される。形態学的には機能性腺腫と区別できないが、高コルチゾール血症または先端巨大症の明らかな特徴を示さないまま増大する。

ホルモン分泌をともなわない副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫に対して外科的治療を受けた患者 297人を対象とした 14の研究の系統的レビューによると、5 年以上の追跡期間中に 31%の腺腫が再発した。

非分泌性巨大腺腫の完全切除は 65%の患者で達成され、最大 80%の患者で視力が回復し、下垂体機能低下症が存在する場合は 50%で回復する。

術前の腫瘍の伸展の程度は補助放射線療法や再手術を要する腫瘍の残存や再発のリスクに大いに影響する。

中央値 36ヵ月の追跡を受けた患者 512人を含む多施設解析において、放射線手術は高い腫瘍制御率と関連しており、下垂体不全は患者の21%に発現した。

下垂体手術後 237例についての後ろ向き観察研究 (観察期間: 中央値 5.9年) では、手術のみを行った患者では 36%で再発したのに対し、手術と放射線療法を行った患者では 13%で再発した。

ガイドラインでは、定期的な下垂体 MRI、視力評価、および下垂体機能検査によるフォローアップが推奨され、術後の腫瘍の再発または進行を予防するための予防的放射線療法が示唆されている。

偶発的に発見された下垂体腺腫 648例のうち、229例の微小腺腫の 10%および 419例の巨大腺腫の20%が、最大 8年間の追跡期間中に増大した。そのため、非機能性で無症候の微小腺腫や比較的小さな巨大腺腫については経過観察が推奨されている。

術前または術後に新たに発現した下垂体不全は予後不良である可能性がある。2795例の患者を対象とする研究において、下垂体不全、特に副腎皮質刺激ホルモン欠乏は全死亡の上昇(標準化死亡率比 4.35;95%信頼区間: 1.99~8.26)と関連していた。

7. プロラクチン産生腺腫

プロラクチノーマは最も一般的な分泌腫瘍であり、下垂体腺腫全体の60%までを占め、女性では下垂体腺腫の75%以上を占める。女性:男性の比率が20:1であるプロラクチノーマの微小腺腫は、ふつう安定でゆっくりと増殖し、診断後も増殖が続く症例は 15%未満である。

下垂体腫瘤があり、血清プロラクチン濃度 >150 ng/mL(基準範囲: <20 ng/mL)である患者のほとんどはプロラクチノーマである。プロラクチン濃度>250 ng/mL では巨大腺腫を認めることが多く、腫瘍の大きさは血清プロラクチン濃度と相関する。

巨大腺腫(直径 >10 mm)はプロラクチノーマの 5%未満を占め、プロラクチン濃度は非常に高く(>1000 ng/mL)、男女比は 9:1 である。

プロラクチノーマを有する男性 45例、女性 51例を対象にした観察研究では、男性の腫瘍は女性の腫瘍よりも大きく(平均直径 ± 標準偏差: 26 ± 2 mm V.S. 10 ± 1 mm)、より旺盛に増殖し、平均血清プロラクチン濃度は男性 2789 ± 572 ng/mL に対して女性 292 ± 74 ng/mL と男性より高かった。

プロラクチン濃度が持続的に上昇すると、性腺刺激ホルモン分泌が抑制され、無月経、希発月経、黄体期の短縮を認め、不妊症の原因となる。男性では性欲減退、インポテンス、乏精子症、または無精子症になる。

女性のおよそ 50%、男性のおよそ 35%に乳汁漏出症 (galactorrhea) がみられる。女性も男性もしばしば性ホルモンの欠乏と関連する骨密度の低下を認め、椎体骨折のリスクが増加する。

高プロラクチン血症は、主に妊娠、プロラクチノーマ、薬物、胸壁損傷、および下垂体茎におけるドパミン輸送が機能的または機械的に障害されることよって引き起こされる。プロラクチン濃度は先端巨大症患者の約30%で上昇している。

下垂体腫瘍を認めるすべての患者においてプロラクチン濃度を測定すべきである。逆に、妊娠または神経遮断薬への曝露で説明できない高プロラクチン血症は、下垂体腫瘍を除外するために下垂体画像検査を検討する。

高プロラクチン血症と下垂体腫瘤がある患者で、ドパミンアゴニストによって腫瘍が縮小しない場合は、非機能性の下垂体腫瘍が下垂体茎を圧迫することによって視床下部から (下垂体への) ドパミン輸送を阻害し、プロラクチンの制御を障害している可能性がある。これは下垂体茎切断効果 (stalk effect) と呼ばれる。

プロラクチノーマの治療の目的は、下垂体機能を維持しながら、1. プロラクチン濃度を正常化すること、2. 性機能および妊孕性を回復させること、3. 乳汁漏出を止めること、4. 腫瘍塊を除去または縮小させることである。また、骨密度の低下にも対処すべきである。

プロラクチノーマは、プロラクチン濃度を低下させ腫瘍を縮小させるドパミンアゴニストで管理できるのが理想的である。ブロモクリプチンは毎日投与する必要があるため、ほとんど使用されない。ある研究では、カベルゴリン 0.5-1 mg を週1-2回投与すると、高プロラクチン血症の女性 459人の 83%でプロラクチン濃度が低下した。巨大腺腫を認める場合は、ドパミンアゴニスト服用によりおよそ 65%でプロラクチン濃度が正常化し、腫瘍が小さくなる。患者の最大 15%では、ドパミンアゴニストを最大用量で投与しても反応がみられない(プロラクチン濃度が正常化せず、腫瘍の縮小率は 50%未満)。プロラクチン濃度は正常化したものの腫瘍の縮小が不十分な患者では、手術または放射線療法を必要とすることがある。

高プロラクチン血症は、カベルゴリンの漸減および中止により最大 20%の患者で寛解するが、これは2年以上の治療後、腫瘍浸潤の可能性が厳密に否定された場合にのみ試みることができる。

カベルゴリンの副作用は、最大 50%の患者で報告されており、嘔気、鼻づまり (nasal stuffiness)、抑うつ、手指の血管攣縮 (digital vasospasm)、起立性低血圧、まれに脳脊髄液漏出などがある。さらにまれには、気分障害、精神病の増悪、および衝動性の制御困難が起こることもある。

プロラクチノーマの治療に使用される低用量のカベルゴリンは患者に臨床的に重大な心臓弁疾患のリスクをもたらさないようである。横断研究で 34ヵ月間追跡された 192人の患では弁膜症は観察されなかった。しかし、無症候性で軽度の三尖弁逆流 (tricupid regurgitation) が患者の 20%に報告されているため、心雑音が発現したカベルゴリンによる治療を受けた患者は心臓評価を受けるべきである。

計 1224人の微小腺腫のプロラクチノーマ患者を含む 計 31件の症例集積研究では、経蝶形骨手術により 71%の患者でプロラクチン濃度が正常となり、経験豊富な脳外科医が手術した場合、手術後早期の治癒率は 90% を超える可能性がある。

一方、巨大腺腫の場合はおよそ 50%は手術によって寛解する。腫瘍が取り切れなかった場合は手術後も高プロラクチン血症が続く。

ドパミンアゴニストによる治療が有効であることと、手術を行っても再発するリスクがあることから、巨大腺腫の一次治療として手術は選択されにくい。

浸潤性のドパミンアゴニスト抵抗性プロラクチノーマでは、高用量カベルゴリンの投与を継続しながら1回以上の手術が必要となることがある。放射線治療は治療抵抗性のプロラクチノーマで検討される。

妊娠中は、特にプロラクチノーマの巨大腺腫がある場合、腫大した下垂体によって視野障害を来すことがある。視力が脅かされる場合は、予防的な経蝶形骨切除を考慮すべきである。妊娠が確認されたら、ドパミンアゴニスト服用は中止するべきである。

8. 先端巨大症

先端巨大症は、成長ホルモン分泌細胞による腫瘍によって起こり、罹患率は 10/100万人·年と稀である。成長ホルモンおよびインスリン様成長因子1(IGF-1)高値は、著明な身体および代謝の異常と関連している。

密な顆粒を認める成長ホルモン分泌細胞腺腫は緩徐に発生するが、若年患者に発生する顆粒が疎な亜型は増殖が早く、臨床症状が派手である。

極めて稀だが、成長ホルモンまたは成長ホルモン放出ホルモンを産生する下垂体外の神経内分泌腫瘍によって先端巨大症が引き起こされることがある。

先端巨大症患者の約 70%は、診断時に周囲に伸展する巨大な腺腫を認める。症状としては、頭痛、末端 (acral) および軟部組織の緩徐な変化などがある。

先端巨大症の診断は、症状発現から平均約 10 年遅れることがある。患者はまず、歯科、整形外科、リウマチ科、または循環器科を受診するかもしれない。ある研究では、324 人の患者の約 20%が、顔貌の変化、四肢の肥大、またはその両方を理由に受診している。

その他の特徴としては、靴や指輪のサイズの増加、声が低くなる、手根管症候群、多汗症、前頭頭蓋の隆起と粗い脂っぽい皮膚が挙げられる。下顎前突は切歯離開と顎不正咬合を引き起こす。閉塞性睡眠時無呼吸と過度のいびきは、コントロールされていない先端巨大症の特徴である。関節症は、患者の約70%で報告されており、多関節炎、骨棘、後弯、椎体骨折を伴う。

循環器系の合併症としては、高血圧、不整脈、大動脈起始部径の増大を伴う左室機能障害がある。成長ホルモンはグルコース不耐性を伴うインスリン抵抗性を誘導し、先端巨大症患者は一般集団と比較して糖尿病発症リスクが高い(ハザード比: 4.0 (95%信頼区間: 2.7-5.8)、1000 人当たりの発症率、12.1 例 (95%信頼区間: 9.0-16.4) v.s. 3.4 例 (95%信頼区間: 2.9-4.1) )。先端巨大症では 30%でプロラクチン濃度が高く、しばしば乳汁漏出症を合併している。

先端巨大症患者では、大腸粘膜ひだの肥厚や憩室が生じることがある。ある症例対照研究では、165 人の患者の 32%に大腸ポリープが検出され、推定相対リスクは 6.21(95%信頼区間: 4.08-9.48)であった。2000 人以上の患者を対象とした研究では、がんの発生率の増加が認められ、全体の標準化発生率比は 1.5(95%信頼区間: 1.2〜1.8)であり、その大部分は大腸がん、腎臓がん、甲状腺がんであった。とはいえ、大腸内視鏡検査は、公表されているガイドラインに従って、先端巨大症の診断後に行われるべきである。

20 年間の観察研究により、先端巨大症患者 333人の死亡率が対照群 4995 人の死亡率よりも高いことが示された(113 人死亡[34%] vs 1334 人死亡[27%];オッズ比: 1.6, 95%信頼区間: 1.2-2.2)。先端巨大症に関連した死亡は、心血管障害、呼吸器障害、脳血管障害によるもので、近年ではがんも死因として報告されている。

成長ホルモンおよび IGF-1 レベルの持続的な上昇、糖尿病、高血圧、高齢、下垂体照射、および副腎不全の不十分な治療はすべて、死亡率に大きく寄与する。

巨人症は稀な疾患で、骨端閉鎖前の成長ホルモンの過剰分泌が原因である。この疾患は、生殖細胞系列の AIP 突然変異、McCune-Albright 症候群、または好酸性幹細胞腺腫と関連している可能性がある。

X 連鎖性巨人症は、Xq26.3 の染色体微小重複によって特徴付けられ、腫瘍において GPR101(Gタンパク質共役型受容体の遺伝子)が過剰発現する。寛解を維持し、過剰な成長ホルモンおよび IGF-1 に組織が長期間さらされるのを防ぐには、外科的切除と成長ホルモンを抑制する補助療法が必要である。

年齢に比して IGF-1 が高値であることは先端巨大症に対して特異的であり、疾患の活動性と関連する。腺腫の成長ホルモンは拍動的に分泌されるため、随時の成長ホルモン測定は診断に役立たない。その代わりに、超高感度測定法を用いて、75 g ブドウ糖負荷時に成長ホルモン濃度が 0.4 μg/L 以下に抑制されないことは診断的である。

先端巨大症の治療目標は、1. 下垂体前葉機能を維持しながら、下垂体腫瘤を切除または制御すること、2. 成長ホルモンおよび IGF-1 の過剰分泌を抑制すること、3. 関連疾患の発症を予防することである。

外科的切除を受けた 1018 名の患者を含む 13 件の研究において、成長ホルモン分泌および IGF-1 濃度は、微小腺腫患者の 73%および巨大腺腫患者の 61%で成長ホルモン分泌および IGF-1 分泌は正常化した。放射線手術による治療を受けた 371 名の患者を含む研究において、生化学的寛解は 59%の患者で報告され、寛解までの平均期間は 38 ヵ月、再発までの平均期間は 17 ヵ月であった。

ソマトスタチン受容体のリガンドであるオクトレオチドとランレオチドは、SST2(ソマトスタチン受容体サブタイプ 2)に結合し、成長ホルモン分泌を阻害する。ソマトスタチン受容体リガンドによる治療を受けた 4464 人の患者を含む 90 件の研究のメタ分析では、成長ホルモンおよび IGF-1 分泌が、それぞれ 56%と 55%の患者で制御された。軟部組織の腫脹および頭痛はほとんどの場合で消失し、睡眠時無呼吸は緩和し、左室機能は改善するが、高血圧が持続することがある。腫瘍の SST2 発現、顆粒が密な腺腫、および T2 強調 MRI における低強度は、治療反応性の重要なマーカーである。

軟便や嘔気などの消化器症状がおよそ 30%で出現する。胆嚢炎は非常にまれであるが、患者の最大 25%に胆泥が出現する。無症候性の洞性徐脈も起こる。

オクトレオチドとランレオチドは一般に耐糖能を障害しないが、長時間作用型 6 ペプチドソマトスタチンマルチレセプターリガンドであるパシレオチドは、患者の約 60%に高血糖と新規糖尿病を引き起こす。

ペグビソマントは、末梢の成長ホルモン作用とそれに続く IGF-1 産生を阻害する成長ホルモン受容体拮抗薬であり、ソマトスタチン受容体リガンドに抵抗性の疾患患者や高血糖患者に有用である。

成長ホルモン受容体を標的とするペグビソマントと下垂体を標的とするソマトスタチン受容体リガンドを併用した成長ホルモン軸遮断療法は、どちらか一方の薬剤単独よりも高い有効性を示す。

先端巨大症の治療には利点と欠点があり、患者毎に治療を個別化する必要がある(表1)。

表1: 先端巨大症の治療
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMra1810772?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed

特に高血圧、心機能障害、睡眠時無呼吸症候群、血糖値上昇などの合併症の管理は、死亡リスクを減らすために重要である。

9. クッシング病

副腎皮質刺激ホルモン分泌腺腫は、下垂体腫瘍の最大 15%を占め、100 万人当たりの発生率は 1.6 例である。典型的には微小腺腫(直径約 6 mm)であり、女性では男性の 5-10 倍多い。

副腎皮質刺激ホルモン分泌下垂体腺腫はクッシング症候群の約 70%を占め、残りは異所性高コルチゾール血症、異所性副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン産生腺腫およびコルチゾール産生副腎腫瘍である。

典型的なクッシング徴候としては、薄い皮膚、赤色線条、易出血、満月様顔貌がある。他に、中心性肥満、高血圧、耐糖能異常または糖尿病、特に若い女性では月経障害および骨粗鬆症がみられ、近位筋の萎縮および脱力、にきび、多毛、うつ病、精神病および感染症にかかりやすいこともある。

クッシング症候群は症状が目立たない場合と目立つ場合があり、コントロールが不十分な場合は死亡率が高い。502 名の患者を対象とした研究では、全体の標準化死亡比は 2.5(95%信頼区間: 2.1-2.9)であり、予想された死亡が 54 人であるのに対し、観察された死亡は 133人だった;過剰死亡の大部分は心血管系疾患であった。その他の死因としては感染症や自殺がある。

皮膚色素沈着および重篤なミオパチーを伴う急激な高コルチゾール血症は、異所性副腎皮質刺激ホルモン産生腫瘍であることを示唆し、しばしば高血圧および低カリウム血症性アルカローシスを伴う。

副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫の約 40%は画像診断で確認できない。また、一般集団の少なくとも 10%が臨床的に不活性な微小腺腫を有する。

高コルチゾール血症の臨床的特徴は、肥満、高血圧、耐糖能異常、および骨粗鬆症など、より一般的な他の疾患と重複しているため、クッシング症候群は過剰診断される可能性がある。

高コルチゾール血症は、1. 高コルチゾール血症の臨床的特徴と、2. 午後 11 時に 1 mg のデキサメタゾンを投与しても午前 8 時の血漿コルチゾールが 1.8 μg/dL 未満に抑制されないこと、または 3. 24 時間尿中遊離コルチゾール値および深夜唾液中コルチゾール値が高値であることを繰り返し確認することに基づいて診断する。副腎皮質刺激ホルモンの基礎値は通常不適切に高い。糖質コルチコイドによって副腎皮質刺激ホルモン分泌が抑制できるかどうかによって、下垂体腺腫と異所性副腎皮質刺激ホルモン産生腫瘍とを区別しうる。

尿中遊離コルチゾールおよび深夜唾液中コルチゾールの反復測定の結果が異なることがあり、診断を確定するために両側下錐体静脈洞サンプリングが必要となることがある。副腎皮質刺激ホルモン刺激ホルモン投与前後で、中枢と末梢の副腎皮質刺激ホルモンの比が 2 を超えると、95%以上の感度で副腎皮質刺激ホルモン産生下垂体腺腫が診断できる。

選択的経蝶形骨洞腺腫切除術は、クッシング病に対する初期治療として推奨され、患者の約 75%で寛解が得られ、約 10%で再発がみられる。

より根治的な手術として腺腫の全切除が考えられるが、全切除では合併症の発生率が高く、下垂体損傷の可能性が高い。放射線療法により病勢をコントロールできるが、この治療の効果が現れるまでには数年間がかかり、患者の約 30%が再発する。

副腎摘出術は、高コルチゾール血症を直ちに回復させることができる。しかし、生涯にわたって副腎ホルモンを補充することは困難である。

副腎摘出術を受けた患者は、副腎クリーゼおよびネルソン症候群(下垂体腫大および副腎皮質刺激ホルモン産生下垂体腺腫の発生を認める)のリスクもある。

副腎を標的とした薬物療法は、臨床的および生化学的な改善をもたらし得るが、このような治療に関するほとんどの研究は厳密に管理されておらず、結果に一貫性がないことが多い。

抗真菌薬のイミダゾールであるケトコナゾールは、患者の 50%で尿中遊離コルチゾール値を正常化する。副作用には、嘔気、頭痛、テストステロン値の低下、可逆的な肝酵素の上昇、まれに肝毒性がある。メチラポンは、患者の約 50%で尿中遊離コルチゾール濃度をコントロールし、蓄積したステロイド前駆体は、にきび、多毛症、高血圧、低カリウム血症を引き起こす可能性がある。ミトタンは副腎を破壊する薬剤であり、主に副腎がんに使用される。
糖質コルチコイド受容体拮抗薬であるミフェプリストンは、クッシング症候群に伴う高血糖の治療薬として、手術に失敗した患者または手術の候補でない患者に承認されている。ミフェプリストンはコルチゾールの作用を阻害するため、副腎皮質刺激ホルモンおよび尿中遊離コルチゾール濃度が上昇する。副腎不全、低カリウム血症、および過度の性器出血のためにミフェプロストンの使用を中止する場合もある。

下垂体を標的とする薬としては、高用量のカベルゴリン(1日 1 mg まで)があり、最大 30%の患者で高コルチゾール血症を抑制するが、治療効果は長期的には維持されないことが多い。パシレオチドは腺腫由来の副腎皮質刺激ホルモン分泌を阻害し、軽症患者の約 40%で尿中遊離コルチゾール濃度を正常化し、臨床症状を改善する。しかし、ほとんどの患者で高血糖が発現する。

10. 甲状腺刺激ホルモン分泌腫瘍

腺腫の約 1%を占める甲状腺刺激ホルモン分泌腫瘍では、甲状腺ホルモン値が正常または高値であるにも関わらず甲状腺刺激ホルモンが高値または抑制が不十分である。生化学的異常を正常化するためには腫瘍切除と補助療法が必要である。

https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMra1810772

異所性コルチゾール産生副腎皮質腺腫

2023-07-18 20:47:46 | 内分泌
アドステロールシンチグラフィで診断し得た異所性コルチゾール産生副腎皮質腺腫の一例
Intern Med 2020; 59: 1731-1734
 
異所性コルチゾール産生副腎皮質腺腫 (ectopic cortisol producing adrenocortical adenoma) は極めて稀であり、本症例を含めて 9件の報告がある。ほとんどは腎臓近くに腫瘍を認め、多くは 3 cm を超える。
 
腎臓以外には脳、硬膜外腔、肝臓、腹腔神経叢、精巣上体、ヘルニア嚢、子宮広間膜、Nuck 管、虫垂間膜に認めることがある。
 
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32238722/

偽性クッシング症候群

2023-05-24 08:02:59 | 内分泌
偽性クッシング症候群についての総説
Endocr Connect 2020; 9: R1-R13
 
クッシング症候群 (Cushing's syndrome: CS) と偽性クッシング症候群 (pseudo-Cushing's syndrome: PCS) との鑑別は内分泌内科医にも難しい。病歴が両者の鑑別に役立つことがある (アルコール症の場合など) が、臨床所見と検査所見は重なっており、確定診断は難しい。
 
PCS の原因となる病態のほとんどは比較的頻度が高い (代謝疾患や多嚢胞性卵巣症候 (polycystic ovary syndrome: PCOS) など) が、CS は一般集団では稀である。
 
PCS にともなうホルモン異常を治すためには原因となっている基礎疾患を適切に治療することが極めて重要である。丁寧な経過観察とホルモンの評価が、診断と治療の方針決定に役立つだろう。
 
1. 導入
 
視床下部-下垂体-副腎軸 (hypothalamic-pituitary-adrenal axis: HPA axis) は大手術、重篤な疾患、激しい身体活動、長期間の絶食などさまざまな状況で活性化し、個体の生存能力を強化する。
 
肥満や多嚢胞性卵巣症候群 (polycystic ovary syndrome: PCOS) 、コントロール不良の糖尿病 (diabetes mellitus: DM) 、アルコール多飲、精神疾患などよくある病態が HPA axis を活性化することがあり、一過性または持続性の高コルチゾール血症にともなう症状を認める場合は PCS と呼ばれる。
 
CS と PCS との鑑別は今なお、内分泌内科医にも難しい。知見が一貫しておらず、正確な診断についての共通理解は得られていない。コルチゾールの測定値は CS と PCS とで重なりあっており、いくつかの薬剤は負荷試験の結果に影響する。
 
2. 症例提示
 
26歳女性が CS を疑われて内分泌代謝内科に紹介された。患者は罹患歴の長い 1型糖尿病とうつおよび不安によって特徴づけられる精神疾患があり、フルオキセチン (SSRI) 内服で加療されていた。
 
患者は 14歳の初潮時から稀発月経だった。20歳時に稀発月経、高アンドロゲン血症、多嚢胞性卵巣から PCOS と診断され、エストロゲンプロゲステロン補充療法を受けていた。
 
腸閉塞が疑われて入院した際に、クッシング徴候 (中心性肥満、多毛、満月様顔貌) を認めた。四肢近位筋の萎縮と赤色線条は認めなかった。また過体重 (BMI 28 kg/m2, 腹囲 92 cm) で、高血圧 (血圧 140/90 mmHg) だった。
 
朝 8時のコルチゾールは 29 μg/dL (基準値: 5-25 μg/dL) と高値で、尿中遊離コルチゾールも 280 μg/日 (基準値: 36-137 μg/日) と高値だった。一方、朝 8時の ACTH は基準範囲内 (26 pg/mL, 基準値: 10-50 pg/mL) だった。糖尿病のコントロールは不良だった (HbA1c 8%)。
 
1 mg デキサメタゾン投与でコルチゾール産生が抑制されない (10 μg/dL, 基準値: <1.8 μg/dL) ことから CS であることが確かめられた。またコルチゾールの日内変動は消失していた (深夜のコルチゾール 12 μg/dL, 基準値 <7.5 μg/dL) 。
 
3. CS を最も強く疑わせる臨床所見は何か?
 
易出血性、顔面紅潮 (facial plethora)、近位筋萎縮、赤色線条は CS の鑑別に有用な臨床所見であると報告されている。これらの所見は提示した症例には認めなかった。しかし、いずれの所見も感度が低いことは知られている。
 
患者は満月様顔貌、過体重、中心性肥満、多毛を認めた。これらの所見は CS ではよく見る所見であるが、鑑別にはあまり役立たない。一方、これらの所見は PCOS でもよく認める所見である。PCOS は生殖可能な年齢の女性に多い一方で、CS は稀である。
 
4. CS が疑われる場合にまず行うべき検査は何か?
 
内分泌学会のガイドラインでは 1 mg デキサメタゾン抑制試験 (1 mg dexamethasone suppression test: 1 mg DST) 、深夜の唾液コルチゾール (late night salivary cortisol: LNSC, 2回測定)、尿中遊離コルチゾール (urinary free cortisol: UFC) でスクリーニングすることを勧めている。さらに、より長期間の低用量デキサメタゾン抑制試験 (2 mg, 48時間) と深夜の血清コルチゾール濃度を追加しても良いとしている。
 
CS ではコルチゾールの日内変動が消失しており、一日中コルチゾールが高値になる一方、PCS ではコルチゾールの日内変動は保たれ、コルチゾールご高値の場合も深夜には低下することから、LNSC は以前より行われるようになっている。これついてはさらなる検証が必要だが、LNSC は 1 mg DST や UFC よりも CS と PCS の鑑別に有用そうである。深夜の血清コルチゾールは入院が必要であるのに対し、唾液の採取は外来患者でも容易である。しかし、LNSC は臨床現場で広く行われてはおらず、CS の診断についての明確なカットオフ値は定められていない。
 
UFC では 24 時間のコルチゾール分泌量を評価できる。UFC はコルチコステロイド結合蛋白 (cortiacosteroid-binding globulin: CBG) に結合していないコルチゾールの濃度を測定している。クレアチニンクリアランスが 60 mL/min 未満の場合、UFC は実際よりも低い値になることがある。全量を適切に蓄尿すること (これには患者教育が必要かもしれない)、尿クレアチニンを同時に測定することが重要である。
 
5. CS のスクリーニング検査を行う前に考えるべきことは何か?
 
コルチゾールを測定する際には、分析バイアス(analytical bias) のことを考えることは重要である。
 
コルチゾールの測定方法はふたつある。ひとつは RIA や ELISA、自動化学発光分析 (automated chemiluminescence: ECLIA) などの免疫アッセイで、もうひとつは液体クロマトグラフィー質量分析法 (liquid chromatography-tandem mass spectrometry: LC-MS/MS) である。
 
抗体を用いた免疫アッセイでは交差反応 (特にコルチゾールと構造が似ているコルチゾン (cortisone)) や合成ステロイドによって影響を受ける。
 
LC-MS/MS ではこのような問題は起こらず、さまざまな糖質コルチコイドおよびその代謝産物を識別することができ、おそらくコルチゾールとコルチゾンの濃度を調べる方法としては最も正確である。
 
よく用いられる薬剤の中にはデキサメタゾンの代謝を変え、デキサメタゾン抑制試験に影響を与えるものがある。
 
いくつかの薬剤は CYP3A4 に影響を与えることで、デキサメタゾンの代謝を促進 (フェノバルビタール、フェニトイン、カルバマゼピン、ピオグリタゾン、プリミドン、リファンピシン、リファペンチン、エトスクシミド) あるいは減弱 (アプレピタント、イトラコナゾール、リトナビル、フルオキセチン、ジルチアゼム、シメチジン) させる。
 
デキサメタゾンの濃度を測定することで、クリアランスの異常を特定する助けになり得る。最近、閉経後の健常な女性を対象に LC-MS/MS でデキサメタゾンの濃度を測定した。これによると、デキサメタゾンのカットオフ値を >3.3 nmol/L とすると、血清コルチゾール <50 nmol/L と関連した。しかし、デキサメタゾンの濃度測定は一般臨床ではルーチンには行わなれない。
 
経口エストロゲン製剤は CBG の濃度を上昇させ、総コルチゾール濃度を上昇させる。その結果、検査結果に影響を与え得る。CS が疑われる患者では、検査をする 6週間以上前に経口エストロゲン製剤を中止するべきである。
 
提示した症例では、フルオロキセチンを服用してあた。同薬剤は CYP3A4 の活性を阻害することによりデキサメタゾンの代謝を減弱させる。また、エストロゲン製剤も服用していたが、これはあらゆる検査の結果に影響を与え得る。 
 
6. 併存疾患がどのように PCS の診断に影響を与えるか?
 
6-1. 精神神経疾患
HPA axis の亢進は大うつ病性障害 (major depression disorder: MDD) でしばしば認める。MDD 患者のおよそ 20-30%で高コルチゾール血症を認める。男性のうつ病患者の方がコルチゾールの過剰分泌の頻度が高いようであり、うつ病患者における HPA axis の亢進には性差があるのではないかと考えられている。
 
起床後のコルチゾールの急上昇は MDD の高リスク群に特徴的であることが知られており、MDD 患者の 2人に 1人は夜のコルチゾール濃度が高く、コルチゾールの日内変動が障害されていることが示唆される。
 
HPA axis の亢進を引き起こす障害部位は視床下部より上位にありそうで、うつ病患者では副腎皮質ホルモン刺激ホルモン (corticotropin-releasing hormone: CRH) が高値であり、非定型うつ病の場合は CRH 濃度は低値であると報告されている。
 
MDD 患者の一部では、糖質コルチコイドの HPA axis に対するフィードバック作用が減弱しており、抗うつ薬が奏功すると糖質コルチコイドに対する感受性は回復する。
 
うつ病患者の ACTH およびコルチゾールの拍動性の分泌については増加、不変、減少といずれの報告もあり、よく分かっていない。
 
うつ病患者では、細胞内のコルチゾールの不活化酵素 (5-α-レダクターゼや 11β-HSD2) の活性が低下していることが示されており、これにより組織内のコルチゾールの生理活性が上昇しているかもしれない。
 
ある種の抗うつ薬は 5-α-レダクターゼの活性を改善させる一方、11β-HSD2 の活性には影響は与えない。このことが抗うつ薬が糖質コルチコイドの代謝の異常を部分的にしか改善させない理由かもしれない。
 
MDD 患者におけるコルチゾール代謝異常が MDD 患者でメタボリック症候群および 2型糖尿病の発症と心血管死のリスクが高い原因のひとつだと言われている。
 
6-2. PCOS
無排卵 (anovullation) 、希発月経 (oligomenorrhea) 、多毛 (hirsutism)、ざ瘡 (acne)、インスリン抵抗性、糖尿病、過体重/肥満および高血圧は PCOS および CS ではさまざまな程度で認める。
 
しかし、両者の有病率には違いがある。PCOS はかなり頻度の高い疾患であり、生殖可能な女性の 6.6%で認めるのに対し、CS は罹患率 0.7-2.6人/100万人·年の稀な疾患である。この二つの疾患は若い女性では合併する可能性もある。
 
CS の診断が確定した生殖可能年齢の女性を対象にした後ろ向き観察研究では、2例に 1例で PCOS だと診断されていた。PCOS の治療では高コルチゾール血症は改善しないし、PCOS でよく使われる経口エストロゲン製剤は CS の血栓リスクを悪化させ得る。
 
一方、CS と診断された閉経前の女性を対象にした前向き研究では、全ての患者で高アンドロゲン血症を認め、70%で月経異常、46%で多嚢胞性卵巣を認めた。この報告では、PCOS の臨床所見は CS の女性では一般に認められることが確かめられた。特にほどほどに (moderately) コルチゾール濃度が高い CS では PCOS の所見を認める。血中コルチゾール濃度が非常に高い場合は、視床下部の性腺刺激ホルモン (gonadotropin) 分泌刺激が抑制され、卵巣の大きさが保たれるようである。
 
Pall らは軽症の CS では PCOS と比較して総テストステロン (total testosterone: TT) が低値になるのではないかと仮説を立てた。彼らは TT のカットオフ値を 1.39 nmol/L とすると、感度 95%、特異度 70%で両者を鑑別できると報告している。この研究では、よく校正された検査が行われているが、多くのコマーシャルの検査は女性のテストステロンを測定する場合は精度も確度も不十分である。さらに、この研究では、軽症の下垂体性 CS と診断された患者だけを対象としているので、得られた基準を他のタイプの CS に適応することはできない。これらのデータを確かめるためには、より大規模な研究が必要である。
 
PCOS 患者で高コルチゾール血症のスクリーニングを行うことは妥当だろう。1 mg DST は特異度が高く、CS 診断に有用である。1 mg DST では、低いカットオフ値を用いても感度は保たれる。このことはスクリーニングの目的で行う場合は重要である。深夜の血漿コルチゾール測定も感度が高い検査である。一方、PCOS 患者の UFC 軽度高値は解釈に注意が必要である。PCOS 患者は正常体重でも肥満でもおよそ半数で UFC は正常上限を越える。
 
6-3. 糖尿病、肥満、メタボリック症候群
糖尿病患者における CS の有病率についてはデータは限られるが、CS に特徴的な所見を複数認める場合は CS を疑うべきである。
 
Terzolo らは糖尿病クリニックに通院している患者で通常診療を受けているもののうち、0.7%で CS が疑われると報告している。この頻度は治療を行っていても血糖および血圧のコントロールが不良な患者では 5.1%と高くなる。これより前の研究では、Catargi らは血糖コントロール不良で紹介された肥満 2型糖尿病の 2%が CS だと確定診断された。いずれの研究も最初のスクリーニングとしては 1 mg DST を行っている。
 
これらの結果からは 2型糖尿病患者に対して広く CS のスクリーニングを行うことは支持されないが、血糖コントロール不良または抵抗性高血圧症の糖尿病患者について CS のスクリーニングを行うこと (a case-finding approach) は妥当である。
 
肥満は世界的に流行しており、肥満の有病率は世界中で上昇し続けている。
 
肥満とコルチゾールの関係はくわしく調べられており、肥満はいつもではないが、しばしば HPA axis の反応性亢進と関連することが明らかにされている。研究によればコルチゾール分泌はしばしば亢進するが、おそらく末梢でのコルチゾール代謝が変化するために血中のコルチゾール濃度は正常または低値となる。これらの変化は組織特異的であり、肝臓ではコルチゾール不活性化が亢進 (コルチゾールから四水酸化物への代謝を触媒する 5α-レダクターゼ 1型の活性亢進による) し、脂肪組織ではコルチゾールの再合成が亢進する。肝臓におけるコルチゾール不活性化の亢進は HPA axis の活性化に対する代償機構かもしれない。
 
腹部肥満の女性では CRH-AVP 刺激に対する ACTH, コルチゾールの反応が亢進する。また、UFC も基準値より高値となることが知られている。しかし、これらの所見は不安神経症 (anxiety) およびうつ病 (depression) を除外すると認めなくなることから、肥満と HPA axis の亢進との関係には交絡因子が存在する可能性がある。
 
肥満患者における身体的および精神社会的な急性ストレスに対するコルチゾール反応亢進は一貫して認められる所見であり、交絡因子のひとつかもしれない。
 
デキサメタゾン投与に対するコルチゾール分泌抑制における下垂体のフィードバック制御については (肥満と健常者の間に) ほとんど差はなさそうである。腹部肥満がある場合、0.5 mg DST に対する反応は悪そうに見える。しかし、Pasquali らは肥満患者におけるデキサメタゾン投与に対する下垂体の感受性は両性ともに低用量の場合でも保たれていることを示した。
 
Abraham らは CS の徴候を 2つ以上認める過体重および肥満患者における 3つのパラメータ (HPA axis 機能、肥満·メタボリック症候群、精神的ストレス) 間の相関を分析した。HPA axis 機能は深夜の唾液コルチゾール、UFC, 1 mg DST で評価した。
その結果、男性においては腹囲と深夜の唾液コルチゾール濃度との間に弱い相関を認めたのを除いて、腹囲とコルチゾールについてのパラメータの間に関連は認めなかった。これより、肥満およびメタボリック症候群と全身のコルチゾール代謝との間に強い関連はなさそうである。
 
研究によって多くの結果が一致しないのは、コルチゾールの測定方法や研究デザインの違いによるのかもしれない。
 
様々な組織に局在する 11β-水酸化ステロイド脱水素酵素 1型 (11β-HSD type1) の活性は注目されている。11β-HSD type1 はミクロゾームの酵素であり、不活性なコルチゾンを活性のあるコルチゾールに変換する。これにより、細胞内におけるコルチゾール受容体へのコルチゾールの結合量を調節している。データには一貫性はないものの、肥満患者において脂肪および肝組織における 11β-HSD type 1 の活性亢進によって局所的な糖質コルチコイド作用が増幅されている可能性が示唆されている。
 
大網脂肪 (omental fat) は 11β-HSD type 1 によって不活性なコルチゾンから活性のあるコルチゾールを合成し、糖質コルチコイド受容体の活性化を増幅する。これにより、脂肪前駆細胞 (pre-adipocyte) の分化が促進され、脂肪細胞が増殖し、肥満につながる。(高度肥満患者において) 大網の 11β-HSD type 1 の発現が亢進していることは高度肥満の病態生理に 11β-HSD type 1 が関与している可能性を裏付ける。しかし、動物モデルとヒトにおいて多くの重要な研究が行われてきたが、結果は一致していない。これは種や組織によって 11β-HSD type 1 の発現量および活性が異なることと関連しているのかもしれない。
 
動物モデルで 11β-HSD type 1 の阻害剤のいくつかの効果が検討されており、血糖コントロールと脂質プロフィールの改善を認めている。
 
結果の不一致はあるものの、メタボリック症候群の病態生理における 11β-HSD type 1 のはたらきについてはさらなる研究が必要である。
 
7. PCS の原因となり得る病態には他にどのようなものがあるか?
 
7-1. アルコール乱用
 
アルコール症 (alcoholism) によって起こる CS に似た症候群についての最初の報告は 1970年代終わりに現れた。
 
複数のマウスを用いた研究で、アルコールは視床下部傍室核を介して CRH 分泌を刺激し、HPA axis を活性化することが示されている。
 
アルコール性肝炎患者において、11β-HSD type 1 の発現が亢進し、コルチゾールの産生亢進あるいは肝障害によるコルチゾールのクリアランス低下が示されている。
 
重度の典型的な徴候を呈する場合、診断は難しくないが、アルコール症患者では CS とよく似た病態が起こり得る。
 
複数の症例報告で CS に矛盾しない徴候を認め、後にアルコール依存症 (alcohol addiction) の結果であることが分かった症例について身体所見を詳細に報告している。これによると、87%で満月様顔貌、 81%で筋力低下または易疲労、75%で体幹の肥満 (truncal obesity)、69%で高血圧、12%で皮膚線条 (cutaneous striae) を認めた。
 
Coiro らはアルコール性 PCS の女性患者 10名のコルチゾール濃度を測定し、朝 8:30 の空腹時コルチゾールは対照群と比較して高値であることを見出した。Frias らは急性アルコール中毒 (acute alcohol intoxication) の若年者 (adolescents) ではコルチゾール濃度が高値であり、特に女性で顕著だったと報告している。Stalder らは最近禁酒した (アルコール症) 患者の毛髪に含まれるコルチゾールは対照群やずっと前に禁酒している患者と比較して高値であることを報告している。飲酒量の多い人と飲酒量の少ない人とを比較すると、前者の方が起床時および起床後 30分の唾液中コルチゾールの濃度は高値だった。(アルコール症患者では) 1 mg デキサメタゾン抑制試験による抑制が不十分であることも複数の研究で示されている。
 
興味深いことに、症例報告ではばらつきはあるものの禁酒するとクッシング徴候や生化学的な異常は消退することが示唆されている。
 
CS 患者では病歴を詳細に聴取することが極めて重要であり、アルコール症患者では禁酒後少なくとも 1ヶ月後までは臨床所見および生化学的所見をくり返し確認するべきである。
 
7-2. 摂食障害
 
神経因性食思不振症 (anorexia nervosa: AN) はやせている (underweight) にも関わらず食事摂取量を極度に制限し、体重を正常下限以上に維持することを拒むことを特徴とする精神異常である。AN は患者の摂食行動を大きく変え、死亡率は最大で 22%にもなる。
 
患者はふつう女性であり、無月経や体温調節能の低下、高コルチゾール血症 (おそらく慢性的な飢餓に関連するストレスによる) などの内分泌異常をともなう。HPA axis の異常は体重が戻った後も持続することがあるが、おそらく HPA axis の異常は AN の病態生理に関与している。
 
AN の若い女性では高コルチゾール血症を広く認める。高コルチゾール血症を来す機序についてはコルチゾールのクリアランス低下、コルチゾールのコルチコステロイド結合グロブリンに対する親和性の変化、コルチゾール受容体の増加など多くの仮説が提唱されている。やせた女性で高コルチゾール血症を認めるにも関わらずコルチゾール過剰による臨床所見を認めないことは、糖質コルチコイド作用に対する抵抗性で説明できるかもしれない。
 
AN における高コルチゾール血症の背景にあるしくみは MDD の場合とは異なるだろう。すなわち、CRH による強力な食欲抑制作用は AN で認める重度の体重減少に寄与しているかもしれない。
 
AN では、CRH 濃度は上昇している一方、ACTH 濃度は正常である。また CRH 刺激に対する ACTH の反応は低いが、ACTH 刺激に対するコルチゾール産生は増加する。HPA axis の変化があるにも関わらず、コルチゾールの日内変動は概して保たれているようである。ただし、いくつかの研究では矛盾する結果が出ている。
 
拒食症と過食症 (bulimia) で見られるコルチゾール過剰はさまざまな悪影響を与えうる。いくつかの研究は、コルチゾール過剰が拒食症における精神·認知機能障害を促進すると指摘している。摂食障害と関連するうつの重症度と 1 mg DST に対するコルチゾールの反応との関連も言われている。何人かの研究者は特に拒食症で認める注意欠陥の発症にコルチゾールが関与している可能性を指摘している。
 
低栄養とコルチゾール過剰は骨密度低下を促進するかもしれないし、高コルチゾール血症は他の下垂体ホルモン分泌 (ゴナドトロピン、成長ホルモン、甲状腺刺激ホルモン) にも影響し、希発月経-無月経や T3, T4 が低値であるにも関わらず TSH が低値であることの原因になり得る。
 
AN においては低栄養のために高コルチゾール血症による脂肪蓄積を来さないことがあるが、AN が軽快した後に不釣り合いに体幹部に脂肪が蓄積することはあり得る。
 
8. 症例に戻ってみよう
 
症例に挙げた患者は PCS と関連する病態を複数(精神疾患、過体重、PCOS) 持っている。これらはまた、内因性高コルチゾール血症によっても二次的に起こり得る (つまり、原因でも結果でもあり得る)。
 
患者の服用している薬剤 (経口避妊薬、抗うつ薬) にも注目すべきである。これらはホルモンの評価、すなわち深夜のコルチゾール濃度や 1 mg DST に影響を与え得る。
 
これらの薬剤を中止した後に再検すると、UFC はやはり軽度高値 (170 μg/日、基準値: 36-137 μg/日)であり、2 mg DST の 2日後のコルチゾール産生は抑制されていた (1.2 μg/L (μg/dL ?), 基準値: <1.8)。ラジオイムノアッセイ法を用いて 2回深夜唾液コルチゾールを測定したところ異なる結果が得られた (2.0, 3.6 mmol/L, 基準値: 0.5-2.6)。
 
これらの結果からは軽症の CS である可能性は除外できない。
 
9. CS の診断あるいは除外のためにさらにできることはあるだろうか?
 
9-1. 深夜の血清コルチゾール (midnight serum cortisol: McerC)
 
MserC を 1回測定し、207 mmol/L (7.5 μg/dL) をカットオフとすると CS と PCS とを感度 96%、特異度 100%で区別できると報告されている。この結果については同様の研究で確かめられており、起きている (wakeful) 患者についてはカットオフを 242 mmol/L (8.8 μg/dL) 、全ての PCS 患者については <256 mmol/L (9.3 μg/dL) をカットオフとすると CS と PCS を区別できると報告されている。
 
ある研究では、深夜と早朝のコルチゾール比 0.67 も CS と PCS とを区別できそうである。ただし、この検査は入院患者でしか行えないし、軽度の CS では偽陰性になるかもしれない。
 
9-2. デキサメタゾン抑制-副腎皮質刺激ホルモン刺激ホルモン刺激試験 (dexamethasone-suppressed corticotropin releasing hormone stimulation test: Dex-CRH)
 
この検査はデキサメタゾンでコルチゾール産生を 2日間抑制した後に CRH で刺激するというものである。Dex-CRH は PCS 患者では外因性の CRH 刺激に対する ACTH の反応が低下している一方、デキサメタゾン投与によるコルチゾール産生抑制は保たれているという観察結果に基づいて 1993年に始められた。しかし、この検査は研究によって結果がまちまちである。
 
最初の報告では、CRH 刺激後 15分の 血清コルチゾールの値のカットオフを 38 nmol/L (1.4 μg/dL) とすると、CS と PCS がきれいに区別できると報告している。しかし、この結果は後の研究では確かめられず、CRH 投与後 15分のコルチゾールのカットオフ値を見直すことが提案されている。
 
同じ患者集団で ACTH 濃度を調べると、CRH 投与後 15分の ACTH 濃度のカットオフを>3.5 pmol/L (16 pg/mL) とすると最も診断性能が良くなった。他の研究では、コルチゾールおよび ACTH のカットオフとして異なる値が提案されており、感度·特異度も異なる値が報告されている。
 
上記の研究で Dex-CRH test の信頼性が異なるのは、検査のプロトコルの違い、使用している CRH の違い (ヒツジかヒトか) 、用量の違い (1 μg/kg か 100 μg か) 、ACTH 測定法の違い (とりわけ濃度が低い場合) 、患者の特性 (高コルチゾール血症の程度、副腎性か下垂体性か) によるかもしれない。
 
9-3. 低用量デキサメタゾン抑制試験 (low dose dexamethasone suppression test: LDDST)
 
2日間かけて行う低用量デキサメタゾン抑制試験は診断性能が良かった。2件の研究では、コルチゾールのカットオフ値を 50 mmol/L (1.8 μg/dL) または 55 mmol/L (2.0 μg/dL) とすると診断精度は Dex-CRH test と有意に異ならなかった。ただし、もう 1件の研究ではこの結果は確かめられなかった。
 
9-4. CRH 刺激試験
 
CRH 刺激試験は一般には ACTH 依存性 CS の鑑別のために行われる。クッシング病 (Cushing's disease: CD) と PCS との鑑別については診断精度が低いので、この目的のためには行わないように言われていた。
 
Arnaldi らは最近、新しい基準を用いて CD と PCS、対照群を鑑別できないかを調べた。彼らは二つのパラメータの組み合わせで CD を診断することを提案している。新しい基準とは、(i) 基礎血清コルチゾール >331 mmol/L (12 μg/dL)および頂値血漿 ACTH >12 pmol/L (54 pg/mL) 、または (ii) 頂値血清コルチゾール >580 mmol/L (21 μg/dL) および頂値血漿 ACTH >10 pmol/L (45 pg/mL) である。これらの基準は従来のものよりも診断精度が優れていた。
 
9-5. デスモプレシン刺激試験 (Desmopressin stimulation test: DDAVP)
 
DDAVP はほとんどの CD 患者で血漿 ACTH と血清コルチゾールの著明な上昇を引き起こすが、PCS 患者や健常者では起こらない。
 
以前は、DDAVP 注射後 30分以内の ACTH が 6 pg/mL 以上上昇が CD を PCS から区別する最も優れた診断基準であると言われていた。
 
Rollin らは ACTH 頂値 >15.8 pmol/L または ACTH 基礎値からの 8.1 pmol/L 以上の上昇はそれぞれ (陽性的中率が) 93%、92%だったと報告している。
 
DDAVP test の診断性能を向上させるために Tirabassi らは同時に測定したコルチゾールの基礎値と ACTH の基礎値からの上昇からなる新しいパラメータの組み合わせを提案している。彼らによると、これらのパラメータのうち陽性であるものが 1つ以下である場合は CD は除外できる。
 
9-6. 補助的検査の組み合わせ
 
同じ対象者に対して複数の検査を比較している研究は数えるほどしかない。Alwani らは Dex-CRH test と深夜唾液コルチゾールまたは深夜血清コルチゾールを組み合わせると、真の CD と PCS とを高い診断精度で区別できると報告している。その他の検査の結果はほとんどの患者で一致しており、これらを組み合わせても診断性能は向上しなかった。彼らは深夜唾液コルチゾール (診断閾値は各施設の基準を用いる) を第一選択とすることを提案している。
 
他の研究者らは、Dex-CRH test の診断性能が低いので LDDST と深夜血清コルチゾールで検査を始めることを勧めている。
 
Tirabassi らはヒト CRH および DDAVP による刺激試験は優れた診断性能を示したと報告している (どちらの試験も感度 96.6%、特異度 100%)。これらの検査は、CD または PCS の同じ患者集団において、その他の検査のあらゆる組み合わせ (UFC, 1 mg DST, 血清コルチゾール日内変動) よりも一致率が高かった。彼らはコルチゾールと ACTH を同時に分析する新しい解釈の基準を用いて ヒトCRH または DDAVP による刺激試験を行うことを提案している。どちらがより良いということはなく、特殊な状況でなければ両方を行う必要はない。
 
10. 再び症例に戻ってみよう
 
2 mg デキサメタゾン投与 48時間後に CRH 試験を行った。コルチゾールの基礎値は 0.9 μg/dL で 15分後の時点では 1 μg/dL だった。次に DDAVP 試験を行った。コルチゾール基礎値は 19 μg/dL で頂値は 21 μg/dL だった。一方、ACTH は 17→20 pg/mL に上昇した。これらの結果は PCS であることを示唆する。そのため、UFC の軽度高値が持続したのは検査の精度が十分でないことによると判断した。
 
その後、減量のために生活習慣の是正を勧めたところ、高コルチゾール血症による症候は少し改善した。このことからも PCS の診断は確からしいと考えられた。
 
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31846432/

アルコール性偽性クッシング症候群

2023-04-18 20:43:32 | 内分泌
アルコール性偽性 Cushing 症候群についての総説
Neth J Med 2011; 69: 318-323
 
クッシング症候群 (Cushing syndrome: CS) は糖質コルチコイドへの過剰な曝露によって起こる極めて稀な症候群であり、罹患率は 2-3/100万人·年である。CS の症状としては精神症状 (多くは抑うつ)、代謝障害 (インスリン抵抗性、高血圧症、中心性肥満) 、近位筋の萎縮、易出血性がある。
 
内因性コルチゾールの過剰産生は、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン (corticotropin releasing hormone: CRH) 産生腫瘍 (極めて稀)、副腎皮質刺激ホルモン (adrenocorticotropic hormone: ACTH) 産生腫瘍 (下垂体腺腫または異所性 ACTH 産生腫瘍) 、またはコルチゾール産生腫瘍 (副腎皮質腺腫)によって起こる。
 
CS は適切な治療がなされないと致死的である。古典的な症候をはっきり認める場合の診断は難しくないが、うつや肥満、身体的なストレス、慢性的なアルコール多飲によってコルチゾール過剰産生をともないクッシング徴候を認める場合があり、偽性クッシング症候群 (pseudo-Cushing state) と呼ばれる。偽性クッシング症候群では肥満、抑うつ、高血圧、月経異常など CS の症候の多くを認め、生化学的検査はしばしば曖昧な結果となるので、CS との鑑別は難しい。
 
1. 症候
 
クッシング徴候を認め、後にアルコール症が原因であると分かった症例についての症例報告から、アルコール性偽性クッシング症候群とクッシング症候群では症候が互いによく似ていることが分かる。
 
アルコール性偽性クッシング症候群では、満月様顔貌 87.5%、高血圧症 69%、筋力低下·易疲労 81%、赤色線条 12.5%、中心性肥満 75%を認めた。一方、Cushing 症候群では、満月様顔貌 82-90%、高血圧 68-75%、筋力低下 60-64%、肥満 95%を認めると報告されている。
 
2. 検査所見
 
アルコール性偽性クッシング症候群の症例報告 13件のうち 12件で血清コルチゾール濃度が上昇しており、全ての症例で禁酒 (alcohol abstinence) 後は正常化した。
 
尿中遊離コルチゾールについては 3例で上昇、2例でわずかに上昇、7例では対照群と差がなかった。
 
1 mg デキサメタゾン抑制試験については 75%の症例で抑制が不十分 (>50 nmol/L) だった。禁酒後 4週間の時点でも 59例中 7例でコルチゾール抑制は不十分だった。
 
3. 治療
 
アルコール性偽性クッシング症候群の治療についての報告は認めなかったが、症例報告では一貫して禁酒すると症状および生化学的な異常が軽快すると報告している。
 
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21934176/