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内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床についての論文のまとめ

バセドウ病

2024-05-26 14:47:11 | 内分泌

バセドウ病

JCEM 2020;105:3704-3720

 

1.ラジオアイソトープ治療 (RAI)

RAI は 1. 抗甲状腺薬(ATD)で12-18ヶ月治療しても寛解に至らない、2. 再発、3. 服薬アドヒアランス不良、4. ATD の副作用出現、5. 患者の希望で検討。禁忌は 1. 妊娠・授乳中、2. 活動性の眼症、3. 甲状腺癌が疑われる結節がある、4. 眼症のハイリスク(TRAb 高値、喫煙者など)。

RAI を行うと、TRAb が上昇する結果、15-20%の頻度で眼症の増悪または新規発症が起こる。また、甲状腺機能亢進症が増悪し、甲状腺クリーゼを来すことがある。

ATD はRAI の効果を妨げるので、RAI の1週間前に中止、RAI 後数日経ってから再開。妊娠は男女ともに RAI 後6ヶ月以上経過してから許可する。

甲状腺癌の患者にRAI を行うと2次性の癌の発生が有意に増える。バセドウ病に対する RAI では結論は出ていないが、25年以上の縦断的観察研究では乳癌、腎癌、胃癌の増加を認めた。

 

2. 甲状腺摘出術 (TX)

TX は 1. ATD で寛解に至らない、2. 甲状腺癌疑い、3. 甲状腺腫(容積 50-60 ml 以上または圧排症状あり)、4. 甲状腺結節および眼症あり、5. 妊娠中期で検討する。

周術期合併症を減らすために 術前は ATD が必要。さらに経静脈的にヨウ化カリウムを投与しておくと、甲状腺への血流が減るので術中の出血が減らせる。

起こり得る合併症としては喉頭浮腫、反回神経損傷、低Ca血症、副甲状腺機能低下症、出血がある。あらかじめ Ca 補充をしておくと、周術期の低Ca血症を減らせる。

熟練した耳鼻科医が手術すると、低Ca血症は10%以下、反回神経損傷は1%以下。

術後は体重に基づいて LT4 を補充する。

 

3. 抗甲状腺薬(ATD)

チオナミド抗甲状腺薬(MMI, PTU) はアジア、欧州、南米ではポピュラー。米国は RAI がポピュラーと言われていたが、最近はそうでもない。ATD が60%、RAI が 35% である。理由は RAI は眼症が増悪したり、新規発症したりするから。

甲状腺に取り込まれた無機ヨウ素は濾胞上皮に発現しているサイロペルオキシダーゼによって酸化されて有機化される。ATDはこのステップを阻害して甲状腺ホルモンの合成を抑制する。

PTU は 活性が MMI の 1/10 だが、末梢でのT4 から T3 への変換を抑制する作用がある。そのため、甲状腺クリーゼの治療では PTU が好まれる。

MMI は甲状腺への移行性が高く、甲状腺内の濃度は投与から22時間は安定している。だから、1日1回投与で良い。

米国および欧州のガイドラインでは ATD の治療期間は 12-18ヶ月とされる。甲状腺機能が正常化し、TRAb が陰性化すれば、ATD 中止を検討する。欧州のガイドラインではATD開始から 18ヶ月後に TRAb 陽性ならもう1年低用量で ATD を継続するか、RIA または TX を検討する。

ATD で完全寛解に至るのは 5割に過ぎない。18ヶ月 ATD を継続して寛解導入できない場合は通常は RIA または TX が検討される。

しかし、最近は低用量で ATD を継続するのも悪くないのではないかと言われている。長期ATD(95ヶ月)と標準ATD(19ヶ月)を比較したランダム化比較試験では標準ATDの方が長期ATDの4-5倍累積再発率が高かった。また、低維持量(MMI 5-2.5 mg/day)では、重度の副作用の頻度は 1.5%と低かった。さらに、長期ATD と、標準ATDまたはRIA とを比較したランダム化試験では、長期 ATD の方が甲状腺機能が安定していて、コストは低く、甲状腺機能低下が少なく、ATD の副作用が少なかった。さらに、寛解率(63%)も優れ、体重増加、眼症悪化が少なかった。

 

4.ATD の副作用

ATD の副作用で最も多いのは軽度の皮膚反応(皮疹、掻痒、蕁麻疹)で、服用開始早期に多く、頻度は数%。重度の副作用としては無顆粒球症、肝障害、血管炎がある。

無顆粒球症は0.2-0.5%の頻度で出現し、服用開始から3ヶ月間で多い。突然の発熱と激しい咽頭炎で発症する。MMI については高用量で発症頻度が増えるが、PTU については用量と発症率の間に関連はない。

肝障害は MMI では 0.3%、PTU では 0.15% と MMI の方が多いが、肝不全に陥るのは PTU の方が多い。PTU の副作用としての ANCA 関連血管炎は PTU 服用開始後数年経過してから出現することが多い。

 

5.妊娠中の管理

MMI も PTU 胎盤を通過する。ATD に関連する奇形は MMI で 3-4%、PTU 2-3%。MMI に関連する奇形としては、皮膚欠損症、食道閉鎖、後鼻腔閉鎖がある。PTU に関連する奇形としては鰓瘻と腎嚢胞がある。

感受性がある時期は妊娠5-6週から10週まで(妊娠に気づいた時には感受性のある時期は過ぎている。計画妊娠が必要)。

ガイドラインでは妊娠初期の ATD としては PTU を勧めている。妊娠前に MMI 10 mg/day 以下で甲状腺機能正常な妊婦なら、妊娠5週で休薬して毎週 free T3、free T4 を確認しながら経過を見ても良いかもしれない。リスクが高い(MMI 10 mg/day 超、眼症あり、TRAb 高値)なら、最低量のPTU (50-100 mg/day) に切り替えて経過を見る。妊娠中期以降は PTU に関連する肝障害のリスクを回避するために MMI に切り替える。

自己免疫性甲状腺疾患と診断されている全ての女性は妊娠前と妊娠中に TRAb を測定するべき。再発の恐れがない患者(RAI, TX 後)でも測定するべき。なぜなら、お母さんは再発しなくても、赤ちゃんが甲状腺機能異常に陥るかもしれないから。

 

6.バセドウ眼症

TRAb だけでなく TSH も TSH受容体を発現している眼窩組織を刺激するので、甲状腺機能低下も眼症を悪化させる。

TSH 受容体が刺激されると、親水性のムコ多糖と炎症性サイトカインが放出される。糖質コルチコイドは炎症をともなう場合は疾患の活動性を抑えるのに有効。しかし、既にある眼球突出や複視の症状を改善させる効果は乏しい。そのため、眼球運動障害をともなう場合は球後照射や眼科手術が必要になる。

眼窩組織の線維芽細胞には TSH 受容体だけでなく、IGF-1 受容体が発現しており、両者が協調してはたらくことで眼症が起こると考えられている。

最近、米国で抗 IGF-1受容体モノクローナル抗体であるテプロツムマブがバセドウ眼症の治療薬として承認された。活動性のバセドウ眼症患者に3週間毎に8回投与すると、24週後の評価で眼球突出、臨床的活動性スコア、複視、QOLのすべてがプラセボ投与群と比較して有意に改善していた。

テプロツムマブは日本では未承認。大変高価で、ステロイドパルスとの比較も行われていない。また、活動性のない眼症への効果は期待できないので、手術の代わりにはならないだろう。

軽症の眼症ではセレンが有効。

 

テプロツムマブの臨床試験

https://www.nejm.jp/abstract/vol382.p341

 

セレンの臨床試験

https://www.nejm.jp/abstract/vol364.p1920

 

元論文

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7543578/

 


先天性甲状腺機能低下症

2024-05-17 22:05:59 | 内分泌
先天性甲状腺機能低下症
J Pediatr Endocrinol Metab 2018; 31: 595-596

何らかの原因による甲状腺機能低下症の有病率は、アメリカでは 0.3-0.7%、ヨーロッパでは 0.2-5.3%と考えられている。報告されている有病率と罹患率の違いは、推定値の根底にある定義の違いによるものである。

甲状腺機能低下症は、1 型糖尿病、萎縮性胃炎 (gastric atrophy)、セリアック病、自己免疫性多内分泌腺症候群 (multiple autoimmune endocrinopathy) などの他の自己免疫疾患と合併した自己免疫疾患として頻繁に起こる。さらに、ダウン症候群 (Down syndrome)やターナー症候群 (Turner syndrome) の患者も自己免疫性甲状腺疾患の有病率が高い。後期高齢者では、ヨード欠乏症も甲状腺機能低下症の主な原因となる。

先天性甲状腺機能低下症 (congenital hypothyroidism: CH) の原因には、ヨードトランスポーター、ペンドリン遺伝子 (Pendrin gene)、甲状腺刺激ホルモン (thyroid stimulating hormone: TSH) 、TSH 受容体や甲状腺の発達に重要な多くの転写因子における遺伝子変異など様々あることは重要である。

ペンドリン遺伝子とペンドレッド症候
https://www.noguchi-med.or.jp/test/gene/pendred#:~:text=%E3%83%9A%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%89%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4%E3%81%AF%E3%80%811,%E5%90%8D%E3%81%AF%E7%94%B1%E6%9D%A5%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

甲状腺機能低下症の原因には、ヨード欠乏もある。甲状腺機能低下症の臨床的徴候としては、乾燥肌、脱毛、腎機能障害、便秘、神経学的問題(発達遅延)、知的障害、さらには精神医学的および心臓血管系の症状が含まれる。小児期や青年期には、成長障害や成長停止、さらには過体重も甲状腺機能障害の頻度が多く、問題となる後遺症である。

CH 患者のフォローアップは必ずしも容易ではない。例えば、先天性甲状腺機能低下症の乳児では、医原性の甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症の両方が報告されており、レボチロキシンの初期投与は頻繁な用量調節を必要とすることがある。新生児に 推奨開始用量である 10-15 μg/kg レボチロキシンを投与した場合、この投与量範囲の高い方で治療を受けた新生児のかなりの割合がフォローアップ中に血液検査で甲状腺機能亢進となる可能性がある。

実際、2002 年から 2012 年の間に 104 人の患者が組み入れられた Craven と Frank による研究では、レボチロキシンの平均開始用量は 12 ± 2.5 μg/kg であり、フォローアップ期間中に 36.5%が医原性高サイロキシン血症のために減量を必要とした。減量を必要とした乳児のレボチロキシン開始用量は 13.2±2.4 μg/kg/日であった。12.5 μg/日を超える初回用量で治療を受けた乳児の 34%のうち、57.1%がフォローアップ中に減量を必要とした。これらのデータによると、CH の治療開始に関するガイドラインに従うと、36.5%の乳児が医原性高サイロキシン血症のために減量を必要としたことに注意することが重要である。CH の適切な初期投与量は、推奨量よりも狭い範囲なのかもしれない。

Deng らが 2013 年から 2015 年の全国新生児スクリーニングプログラムによる中国での CH の発生率を報告している。これまでのところ、中国における CH の疫学的特徴については限られたデータしか得られていない。本報告では、中国における新生児甲状腺機能低下症の罹患率を推定し、この大国における地理的差違について説明している。ポアソン回帰を用いて、甲状腺機能障害の罹患率と選択した人口統計学的特徴および地理的位置との間のオッズ比(odds ratio: OR)および 95%信頼区間(confidence intervals: CI)を算出した。

4,520 万人の新生児から合計 18,666 例の甲状腺機能障害症例が同定され、全発生率は出生 1 万人当たり 4.13 例であった。新生児の性別にかかわらず、遠隔地の新生児と比較して、沿岸部および内陸部の新生児では CH の発症リスクが高かった(沿岸部および内陸部女性 : OR=2.00, 95%CI:1.86-2.16 v.s. 遠隔地女性 : OR=1.74, 95%CI:1.61-1.87, 沿岸部および内陸部男性 : OR = 1.70, 95%CI:1.59-1.83 v.s. 遠隔地男性 : OR=1.52, 95%CI:1.42-1.63)。さらに、TSH スクリーニング値が 40 mU/L 未満の新生児甲状腺機能低下症のリスクが最も高かったのは沿岸部の新生児であり、内陸部の新生児の TSH スクリーニング値は 70-100 mU/L であった。著者らは、中国における CH の全体的な発生率は高いと結論づけている。さらに、甲状腺機能低下症の発生率には有意な地域差がある。

Jaruratanasirikul らにより、タイ南部における新生児 TSH スクリーニングプログラム実施前後の CH の発生率と基礎原因が報告されている。本研究では、1995 年から 2013 年の間にあるセンターで原発性甲状腺機能低下症と診断された小児患者の診療記録を後ろ向きに分析した。研究期間 1(SP1)中に最も多かった CH のタイプは顕性かつ永続性の CH(66%)であり、その多くは無甲状腺症 (athyrosis) または異所性甲状腺症 (ectopic thyroid) が原因であった。タイ南部、すなわちソンクラー県における出生 1 万人当たりの先天性甲状腺機能低下症の全体的な年間発生率は、1.69(1:5021)と4.77(1:2238)であり、タイ南部の 14 県すべてにおける推定発生率は、1.24(1:8094)と 2.33(1:4274)であった。

トルコのアダナ県における CH 新生児スクリーニングプログラムの現状が、Kör と Kör によって分析されている。新生児甲状腺機能低下症が疑われ、地域の内分泌総合病院に紹介された 1300 人の乳児の分析結果が後ろ向きに評価された。甲状腺機能低下症と同定された 223 人の平均毛細血管 TSH 値と静脈 TSH 値は、それぞれ 40.78 (5.5-100) μIU/mLと 67.26 (10.7-100) μIU/mLであった。スクリーニング時間は生後 8.65(0-30, 中央値:7)日であった。踵採血によるスクリーニングから静脈採血による確認までの期間は 11.10(2-28, 中央値:11)日であり、計画(3-5 日)より長かった。著者らは、トルコにおけるスクリーニングプログラムの実施により、CH の診断および治療開始までの期間は、スクリーニングプログラム実施前と比較して著しく短縮されたものの、最終的な診断および治療開始までの期間は、目標とする理想的な期間(≦ 14日)には到達しなかったと結論づけている。

世界中のすべてのスクリーニングプログラムにおいて、品質管理と治療開始までのタイムラインの分析が拡大される必要がある。品質管理と有効性と臨床的価値の分析がなければ、新生児スクリーニングプログラムは、先天性甲状腺疾患に罹患した子供の認知障害や重度の精神遅滞を予防するという目的を達成することはできない。

https://www.degruyter.com/document/doi/10.1515/jpem-2018-0197/html

原発性副腎皮質機能低下症

2024-04-19 13:28:03 | 内分泌
原発性副腎皮質機能低下症
Exp Clin Endocrinol Diabetes 2019; 127: 165-175

要旨
アジソン病-原発性副腎機能不全(primary adrenal insufficiency: PAI)の伝統的な用語-は、副腎皮質の機能不全による慢性的なグルココルチコイドおよび/またはミネラルコルチコイド欠乏の臨床症状として定義される。内因性グルココルチコイドおよびミネラルコルチコイドを代替する効率的で安全な製剤が治療法として確立されているにもかかわらず、PAI 患者の死亡率は依然として高く、健康関連 QOL(health-related quality of life: HRQoL)はしばしば低下する。

PAI はまれな疾患であるが、最近のデータでは有病率が増加していると報告されている。PAI の一般的な「古典的」原因である自己免疫疾患、感染性疾患、腫瘍性疾患、遺伝性疾患に加えて、その他の異所性疾患-主に薬理学的副作用(抗凝固薬に伴う副腎出血、グルココルチコイドの合成、作用、代謝に影響を及ぼす薬剤、新規の抗癌チェックポイント阻害薬の一部など)-がこの現象の一因となっている。

この疾患はまれであり、少なくとも初期には非特異的な症状を示すことが多いため、PAI はしばしば考慮されず、診断が遅れる。治療を成功させるためには、副腎クリーゼの予防と管理の基礎となる十分な患者教育が不可欠である。現在の研究の焦点は、薬物動態学的に最適化されたグルココルチコイド製剤のと、再生医療の開発である。

はじめに
原発性副腎不全(primary adrenal insufficiency: PAI)の臨床像は、副腎皮質がこれらのホルモンを十分に産生できないために、グルココルチコイドかつ/またはミネラルコルチコイドが慢性的に欠乏していることに依る。これらのホルモンは、エネルギーバランスだけでなく、水分や電解質のホメオスタシスにも不可欠な調節因子であるため、PAI は非常に重篤な疾患であり、急性で生命を脅かす可能性のある副腎クリーゼを引き起こすことがある。衰弱、体重減少、食欲不振、脱水による起立性低血圧、食塩渇望、色素沈着、筋骨格系および腹部痛、嘔気·嘔吐、そして最終的には致死的な転帰をもたらす副腎不全の劇的な臨床像は、イギリスの外科医トーマス・アジソンによって初めて認識された。

この疾患の予後は、ステロイドホルモンによる治療が可能になり、診断可能な検査法が開発されたことで劇的に改善した。コルチゾールとコルチゾンの単離と同定に成功し、グルココルチコイドホルモンの合成技術が確立された後 、副腎不全の治療と診断が、1930 年代のワイルダー、1940 年代と 1950 年代のソーンとフォーシャムの臨床研究を中心に大幅に進歩した。

ここでは、アジソン病の診断と治療の現状について概説する。以後、アジソン病の同義語として、厳密性と便宜のため、PAI という用語を用いる。

原発性副腎不全の疫学と病因
PAI はまれな疾患であり、西洋社会における現在の有病率は 100 万人あたり約 100-140 例である。しかし、報告されている数は、1960 年代にはヨーロッパで 100 万人当たり 40-70 例であったものが、時間の経過とともに大幅に増加している。

興味深いことに、最近のデータは、特に女性における PAI の有病率がさらに増加しており、この傾向が続いていることを示唆している 。有病率の実質的な増加に加えて、この現象は、過去における PAI の有病率の一般的な過小評価と、診断および医療条件の経時的な改善に関連している可能性を考慮すべきである 。

また、病因の変化がこの観察された効果に寄与している可能性もある。Addison が 11 人の患者に基づいて述べたように、当時、PAI における副腎破壊の病因は、50%以上が結核性、30%が腫瘍性/転移性、約 10%が出血性であった。今日、西洋社会では、PAI の 80%は自己免疫性副腎炎が原因であり、結核やその他の感染症(HIV/AIDS、CMV、カンジダ症、ヒストプラスマ症、梅毒など)、悪性疾患(肺癌、乳癌、大腸癌など)が約 10%を占める。残りの原因としては、(両側)副腎摘出術(クッシング症候群や副腎腫瘍など)、遺伝性疾患(先天性副腎過形成(congenital adrenal hyperplasia: CAH)、先天性副腎低形成症、副腎白質ジストロフィーなど)などがある。

原発性副腎不全の診断
全身倦怠感や強い脱力感、原因不明の脱水、低血圧、体重減少、発熱、腹痛、色素沈着を伴う急性または慢性疾患患者はすべて、PAI を疑うべきである。低ナトリウム血症、高カリウム血症、特に小児の低血糖は、グルココルチコイドとミネラルコルチコイドの欠乏を反映するこの疾患の主要な検査特性である。

患者が白斑、1 型糖尿病、自己免疫性胃炎/ビタミン B12 欠乏症のような他の自己免疫疾患の特徴を有する場合には、診断の閾値はさらに低くなるはずである。さらに、慢性感染症(特に HIV、CMV、結核)を有する急性疾患患者や、コルチゾールの合成、作用、代謝を阻害する薬物(特に抗痙攣薬(カルバマゼピン、フェニトイン)、抗真菌薬(ケトコナゾール)、抗がん薬(アビラテロン、ミトタン、免疫チェックポイント阻害薬)、特定の市販薬(セイヨウオトギリソウなど)を投与されている患者では、積極的に疑うべきである。

PAI を示す症状や徴候がある患者では、さらなる診断検査が必要である。まず、グルココルチコイド治療前の無作為採血で、ACTH とコルチゾールを同時に測定することは、グルココルチコイド欠乏症の発見に不可欠である。PAI の典型的な病型は、血清コルチゾール濃度の低下と ACTH の上昇である。一般的に受け入れられている臨床ルールとして、コルチゾールが5 μg/dL(138 nmol/L)未満で、同時に ACTH が正常範囲の上限より 2 倍以上上昇した場合、PAI の可能性が非常に高いとみなされる。

ミネラルコルチコイド欠乏症は通常、血清中のナトリウム濃度の低下とカリウム濃度の上昇によって反映される。ミネラルコルチコイド欠乏症を確認するには、高カリウム血症がなければ、血漿レニンとアルドステロンの測定が有用である。血漿レニンの上昇と血清アルドステロン濃度の正常または低値の組み合わせは、鉱質コルチコイド欠乏症を示唆する 。

コルチコトロピン刺激試験-コシントロピン試験、ACTH 試験、Synacthen 試験とも呼ばれる-による副腎皮質機能の動的検査は、PAI の診断または除外のために、現在最も確立された有効な方法である。診断がまだ明らかでない場合、この検査が可能で、患者が十分に安定していれば、確認検査として実施されることがある。この検査では通常、成人に 250 μg のテトラコサクタイド (tetracosactide) を静脈内(または筋肉内;2 歳未満の小児では 125 μg)に注射する。テトラコサクタイドは、ACTH の最初の 24 個(全 39 個のうち)のアミノ酸配列を持つペプチドで、注射の直前と、注射後 30 分、60 分後にコルチゾールを測定する。

原発性副腎不全の診断のための一般的なカットオフ値として、刺激後のコルチゾールのピーク濃度が 500 nmol/L(18 μg/dL)未満であることが、歴史的に広く受け入れられている。しかし、コルチゾールとコシントロピン刺激後の他の副腎ステロイドのカットオフ値は、検出方法(液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)対免疫測定法)によって大きく異なる可能性がある。臨床医は、刺激に対する正常コルチゾール反応の測定法固有の定義を確認するために、現地の臨床化学者に相談することが強く求められる。

高用量」(250 μg)のコルチコトロピン検査とは対照的に、いわゆる「低用量」のコルチコトロピン刺激検査では、バリエーションとして 1 μg のテトラコサクチドを用いる。副腎不全の診断における両検査の長所と短所については、広く議論されている。刺激後少なくとも 30 分の血清コルチゾール濃度については、両検査とも同等の結果が得られるため、また「高用量」(250 μg)コルチコトロピン検査が「低用量」(1 μg)コルチコトロピン検査に比べてより包括的に検証されているという事実に基づいて、PAI の診断では、試薬が不足している場合にのみ「低用量」(1 μg)コルチコトロピン検査を実施することが示唆されている。

一次性副腎不全を診断または除外するために、刺激血清コルチゾール濃度の明確なカットオフ値(一般的な免疫測定法で測定される 500 nmol/L(18 μg/dL)が定義されているが、コシントロピン検査の解釈はいくつかの要因によって複雑になることがある。

例えば、コルチゾール結合グロブリン (cortisol binding globulin: CBG) の濃度は、エストロゲン(例えば、妊娠または経口避妊薬)により上昇し、その結果、コルチゾールの測定値が上昇する一方、いくつかの疾患(例えば、肝疾患またはネフローゼ症候群)を有する患者は、CBG の濃度が低下するため、コルチゾールの測定値が低下する可能性がある。合成グルココルチコイド(経口または局所投与、吸入)の併用または秘密裏の使用も、使用するコルチゾール測定法の特異性によっては、結果を混乱させる可能性がある。したがって、特に医学的に複雑な患者や妊婦では、診断と検査結果の解釈には臨床内分泌学の豊富な経験が必要となる。

PAI が生化学レベルで確認されたら、病因(自己免疫性副腎炎、CAH、感染症、浸潤性疾患 [アミロイドーシス、サルコイドーシス、ヘモクロマトーシス]、副腎白質ジストロフィー [adrenoleukodystrophy] など)を特定するために、さらなる診断検査(21-OH 抗体、17-OH-プロゲステロン、副腎 CT、思春期前の男児における超長鎖脂肪酸(very long chain fatty acid: VLCFA)など)を行うことが、予後や治療に影響を及ぼす可能性があるため、推奨される。

副腎白質ジストロフィー

原発性副腎不全の治療と予防
グルココルチコイドの補充には、ヒドロコルチゾンが選択される。成人では、通常 1 日 15-25 mg を 2-3 回に分けて経口投与し、概日リズムを模倣するために午前中に最高量を投与する。最初の用量は早朝覚醒とともに服用し、最後の用量は、不眠症や代謝に悪影響を及ぼす可能性のある夜間インスリン抵抗性を避けるために、遅くとも睡眠の 4-6 時間前に服用すべきである。

ヒドロコルチゾンの代替薬として、3-5 mg/日のプレドニゾロンを単回または 2 回に分けて経口投与することが提案されている。この方法は、快適性やコンプライアンスを向上させるためなど、個別の事情により簡略化された治療レジメンを必要とする患者には好都合である 。

デキサメタゾンは、その非生理的な薬物動態学的特性(長い半減期)と、その結果生じる脂質異常症、高血糖、糖尿病などの有害な代謝作用のリスクのために、使用すべきではない。

小児では、ヒドロコルチゾンの半減期が短いため、最良のコントロールが可能であることから、ヒドロコルチゾンのみを補充療法に使用すべきである。典型的な開始用量は、約 8 mg/m2 を 3 回に分けて投与する。また、妊娠中のグルココルチコイド補充にはヒドロコルチゾンが望ましい。妊娠後期にはコルチゾール濃度と遊離コルチゾールが著しく上昇するため、妊娠中の PAI 患者には妊娠後期にヒドロコルチゾンの投与量を約30%増やすことが推奨される。さらに、高濃度のプロゲステロンはミネラルコルチコイドの作用を打ち消すので、血圧と電解質の状態に基づいてフルドロコルチゾンの投与量を増やすことが、特に妊娠後期にはしばしば必要となる。

グルココルチコイド補充療法のモニタリングと管理は、主に体重、浮腫、血圧、クッシング様変化、精神的・身体的パフォーマンスなどの臨床パラメータに基づいて行われる。グルココルチコイドの長期投与による不適切な投与や代謝合併症を予防・発見することが最も重要である。

小児では、3-4 ヵ月ごとに全身発育と成長速度のモニタリングを行う。血漿中 ACTH やランダム血清コルチゾールの検査値にはほとんど意味がない。例えば、ヒドロコルチゾンを十分に補充している患者では、ACTH 値が上昇することが多い。なぜなら、経口投与されたヒドロコルチゾンの半減期が短く、すべての ACTH 測定値が正常化するほど生理的分泌を完全に模倣することはまれだからである。

さらに、グルココルチコイドの投与量は、特定のストレス状況に応じて動的に調節する必要がある。例えば、体温が 38℃ を超える急性熱性疾患では、ヒドロコルチゾンの経口投与量を 2-3 倍に増やす必要がある。大手術や副腎クリーゼの場合は、ヒドロコルチゾンを初回量成人 100 mg(小児 50 mg/m2)を静脈内投与した後、脱水対策として静脈内補液とともにヒドロコルチゾン 200 mg(小児 50-100 mg/m2)を 24 時間かけて持続点滴する。体液減少(塩喪失)、低血圧、循環不全により、急性副腎クリーゼは生命を脅かす状態である。副腎クリーゼが疑われる場合は、無作為にコルチゾールと ACTH を測定してもよいが、結果を待たずに治療を開始すべきである。

ミネラルコルチコイド欠乏症では、水と電解質のバランスを安定させるためにフルドロコルチゾンが選択される。一般的な開始用量は、PAI の小児および成人では 1 日 50-100 μg で、通常午前中に 1 回経口投与する。患者には食塩を食事に取り入れるように勧めるべきである。ミネラルコルチコイド補充療法のモニタリングと管理は、主に、食塩渇望、浮腫、血圧などの臨床パラメータと、血清中の正常なナトリウムおよびカリウム濃度などの検査パラメータに基づいて行われる。ミネラルコルチコイドの補充をストレスで調整する必要はない。

PAI の女性では、不可欠なグルココルチコイドとミネラルコルチコイドの補充に加えて、デヒドロエピアンドロステロン (dehydroepiandrosterone: DHEA) によるアンドロゲン補充がよく議論される。現在のデータによると、DHEA の補充は、最適なグルココルチコイドおよびミネラルコルチコイド療法を受けている女性で、性欲減退や抑うつ症状のような症状にまだ悩まされている場合、特に閉経後であるか、卵巣アンドロゲンの喪失を伴う原発性卵巣機能不全を併発している場合に考慮される。

重要であり、しばしば議論される問題は、PAI 患者における健康関連 QOL (health-related quality of life: HRQoL)、合併症、そして予後因子である。この患者群では、自己申告による QOL が一般集団に比べて低いことが報告されている。さらに、PAI 患者では、対照群と比較して、うつ病や不安障害などの感情障害の発生率が高く、糖尿病などの代謝障害のオッズ比も高いと報告されている。このことは、これらの患者では入院回数が多く、医療費がかなり高いことに反映されている。さらに、PAI 患者では死亡率の増加が報告されている;特に急性感染症は致命的な副腎クリーゼのリスクを伴う。しかし、過剰なグルココルチコイド補充療法に関連する潜在的に有害な心血管系リスクプロファイルの影響など、他の要因もこの文脈で議論されている。

PAI が判明している患者では、副腎クリーゼを予防することが重要である。現在、報告されている発症率は年間約 6-8/100 人で、死亡率は 0.5/100 人年である。したがって、グルココルチコイドの増量が必要な特定の状況(例:インフルエンザ様発熱性感染症)の管理に関する患者教育(緊急グルココルチコイドの非経口投与手技の使用を含む)、および副腎クリーゼの出現を示す症状や徴候の認識が不可欠である。さらに、すべての PAI 患者は、医師や他の医療関係者に知らせるために、医療アラート通知書、あるいはステロイド緊急カードを携帯することが推奨されている。欧州内分泌学会(European Society of Endocrinology: ESE)は、PAI 患者のための標準化された欧州緊急カードを承認しており、様々な機関が後援している。

原発性副腎不全の治療における新しい側面と現在の展開
PAI 患者におけるステロイド補充は有効であるが、グルココルチコイドの補充には薬理学的に明らかな限界があり、経口ヒドロコルチゾンを使用しても正常な生理を完全に模倣することはできない。

薬物動態学的特性を改善し、朝をピークとする概日性のコルチゾール濃度をより良好にするために、朝に 1 回経口投与するヒドロコルチゾンの二重放出製剤が開発された。初期の臨床データは、薬効と安全性に関して有望なものであった。単回投与による患者満足度の向上に加えて、標準療法と比較して、体重、血圧、血糖コントロールに関して好ましい効果が報告されている。その他の徐放性ヒドロコルチゾン製剤も現在臨床開発中である。

小児におけるグルココルチコイドの補充は困難な問題である。用法・用量を改善するために、ヒドロコルチゾンカプセルが開発され、試験に成功している。

経口投与と比較して PAI 患者のコルチゾールの概日濃度を正常に戻すには、インスリンポンプを用いたコルチゾールの持続皮下注入が有効である。この方法は複雑であるため、限られた患者にしか適用できないが、初期の報告では非常に有望であると考えられている。

自己免疫性副腎炎の初期患者における免疫抑制、PAI の単遺伝子型に対する遺伝子治療、移植や細胞置換、さらに異なる起源の細胞からステロイド産生表現型を誘導するリプログラミング技術など、ごく初期段階における他の実験的アプローチが報告されている。

要約すると、PAI は極めて重要で生命を脅かす可能性のある疾患であるが、最新の治療と教育により、罹患した患者は現在、高度に機能的な状態に戻ることができる。生活の質を向上させ、この重篤な疾患の予防や治療に利用できる可能性のある潜在的な疾患メカニズムを解明するためには、さらなる改善が必要である。

https://www.thieme-connect.com/products/ejournals/abstract/10.1055/a-0804-2715?device=mobile&innerWidth=412&offsetWidth=412

周期性クッシング症候群の病体生理、診断、治療についての総説

2023-11-22 07:52:50 | 内分泌
周期性クッシング症候群の病態生理、診断、治療についての総説
Biomed Pharmacother 2022; 153: 113301

クッシング症候群(Cushing syndrome: CS)は、高コルチゾール血症によって引き起こされ、特徴的な臨床症状を引き起こす。

CS 患者の中には、コルチゾール濃度が周期的かつ断続的に上昇し、その結果、臨床症状が再発する患者が少数存在する。このような患者は周期性 CS(cyclic Cushing syndrome: CCS)と呼ばれる。

CCS 患者のコルチゾール分泌周期は予測不可能であり、正常なコルチゾール分泌期間中に臨床検査で陰性となることが多いため、この疾患の診断と治療は現在のところ困難である。

CCS の発症機序は依然として不明であるが、最近の研究では、視床下部因子、フィードバック機構、腫瘍梗塞が密接に関係している可能性が示唆されている。

本総説では、CSの潜在的な機序、診断、治療に関する研究の現状を要約し、今後の研究の展望を示す。


1. はじめに
クッシング症候群(Cushing syndrome: CS)は、さまざまな病因によるグルココルチコイドへの慢性的な過剰曝露とコルチゾールの概日リズムの変化によって引き起こされる疾患の総称である。

CS は比較的まれな疾患であり、罹患率 0.2-5.0 人/100万人·年である 。CS 患者のほとんどは外因性高コルチゾール血症であり、内因性高コルチゾール血症ははるかにまれである 。

1956 年、Brike らは、CS 患者が周期的にコルチゾール濃度の上昇を示すことを発見し、Bailey が 1971 年にこの病態を周期性 CS と正式に定義した。周期性クッシング症候群 (cyclic Cushing syndrome: CCS) は過去には非常にまれな疾患と考えられており、文献に報告されている症例はわずか数十例であった。しかし、最近の研究では、診断基準によって異なるが、その有病率は過小評価されている可能性が示唆されている。

Krystallenia らは、診断にはコルチゾール値が 2 つのピークと 1 つの谷を示す必要があると述べた。彼らは、CS 患者 201 人の後ろ向き研究を行い、2 つのピークと 1 つのトラフという診断基準を用いると、患者の 15%が CCS を呈することを発見した。一方、Meinardi らは、CCS の診断基準を 3 つのピークと 2 つの谷とすべきであると提案している 。McCance らは、41 人の CS 患者を評価し、3 つのピークと 2 つの谷の基準を用いると、17%が CCS と診断されると報告した。Dariush らは、205 人の CS 患者を評価し、3 つのピークと 2 つのトラフの基準では CCD 有病率は 8%であったのに対し、2 つのピークと 1 つのトラフの基準では 19%であったと報告した。今後、CCSのさまざまな診断基準の感度と特異度を評価するために、多施設共同大規模サンプル研究が必要であろう。

病因に関しては、副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone: ACTH)依存性 CS と ACTH 非依存性 CS の両方が CCS として現れることがある 。これらのうち、クッシング病(Cushing disease: CD)は全病因の 54%を占め、最も一般的な原因であり、異所性 ACTH 症候群(ectopic ACTH syndrome: EAS)は 26%、副腎腫瘍は 11%である。特に、原発性色素性結節性副腎皮質疾患(primary pigmented nodular adrenocortical disease: PPNAD)および孤発性微小結節性副腎皮質疾患 (micronodular adrenocortical disease) の患者は、典型的に周期的なコルチゾール分泌を示す。ホルモン産生副腎偶発腫患者の約 18%が周期性自律性コルチゾール分泌を示す 。

CCS の発症は数日から数ヵ月(通常は 12 時間から 86 日)と様々であるが、発症期間が 1 年を超える症例を報告した研究もある 。CCS は女性に多く、男女比は 1:3 である。CS と比較して、CCS 患者は高齢であり(50-60 歳)、飲酒歴がある(週 1-7 杯) 。CCS が小児に発症することはまれである。しかし、線形成長 (linear growth) が正常以下で体重増加が過剰な小児では、1-2 回のコルチゾール検査が正常値を示すだけでは CS を否定できず、CCS の可能性を考慮すべきである。

ほとんどの CCS 患者の症状は、中心性肥満、耐糖能障害、皮下出血 (skin ecchymosis)、高血圧、ざ瘡、多毛症、無月経、性機能障害、感染症、骨粗鬆症など、典型的な CS 患者と同じである。CCS 患者と CS 患者の臨床症状には有意差は認められなかった。精神症状は、CS 患者に対して CCS 患者でより一般的であるという研究結果がある 。CCS の特徴の要約を図 1 に示す。

図 1: CCS の特徴
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0753332222006904?via%3Dihub#fig0005

CCS 患者はコルチゾール濃度の異常な変動を示すが、この現象のメカニズムについては医学界でも論争が続いている。本文では、CCS の潜在的なメカニズムについて論じ、この疾患の診断方法と手順を要約し、治療における研究の進展について述べる。これにより、本疾患をよりよく認識し、診断することを目指すとともに、本疾患の潜在的なメカニズムの探求により、治療のための新たなアイデアを提供する。


2. 推測されている病態生理

2.1. 視床下部要因
CCD は主に視床下部の機能障害によって引き起こされると考えられる。視床下部はセロトニン (5-HT) を産生することができ、5-HT は ACTH の分泌を促進する役割を担っている。

5-HT 拮抗薬であるシプロヘプタジンを服用した CCD 患者では、尿中遊離コルチゾールは有意に減少し、同時に CCD の周期性分泌が抑制された 。バルプロ酸ナトリウムは、γ-アミノ酪酸(gamma-aminobutyric acid: GABA)の産生を増加させることにより、コルチコトロピン放出ホルモン(corticotropin-releasing hormone: CRH)の分泌を抑制する。CCD 患者にバルプロ酸ナトリウムを投与すると、尿中遊離コルチゾール濃度は速やかに低下して正常値に戻り、症状は消失したが、休薬後はコルチゾール濃度が上昇して治療前のレベルに戻った。したがって、CCD は主に視床下部の問題によって引き起こされる可能性がある。

一部の CCD 患者では、ドパミン D2 受容体作動薬であるカベルゴリンとバルプロ酸ナトリウムを併用するとコルチゾール値が正常に戻ったが、単独投与ではその効果は再現できなかった。この所見は、ACTH の機能がドパミン作動性神経伝達物質と GABA 作動性神経伝達物質の両方によって制御されている可能性を示唆している。したがって、CCD の病因は、視床下部から放出される CRH、ドパミン、GABAな どの ACTH 分泌を促進する物質の周期的変化に関係している可能性がある。また、CCD の再発率は 63%、寛解率は 25%であった。

CCD の再発率は比較的高く、寛解率は古典的 CD と比較して低いことから、CCD は主に視床下部の障害によって引き起こされている可能性がある。しかし、視床下部因子は CCD の病因を部分的にしか説明できず、EAS や ACTH 非依存性 CS の周期性は説明できない。

2-2. ポジティブフィードバックとネガティブフィードバックのメカニズム

ポジティブフィードバック機構: 一部の CCS 患者では、グルココルチコイド(glucocorticoid: GC)によるポジティブフィードバックループが存在し、内因性または外因性グルココルチコイドによりACTH の分泌亢進が誘発されることによって特徴づけられる 。Yasufumi は、心理的ストレス(内因性コルチゾールを産生する)や外因性グルココルチコイド療法後に ACTH 依存性の高コルチゾール期が再発する周期性異所性 CS の症例を報告した。この GC による ACTH 分泌は、高コルチゾール期における CCS の再発にポジティブフィードバックループが関与していることを示唆している。

ステロイド合成阻害薬のメチラポン (metyrapone) は、内因性コルチゾールの産生を阻害することにより CS の治療に一般的に用いられ、通常、ACTH 濃度の上昇をもたらす。しかし、場合によっては、メチラポン治療中に血漿 ACTH 濃度が抑制されることがある。これは、メチラポンによって GC 産生を阻害するとポジティブフィードバックループが働かず血漿 ACTH 濃度が低下することを示唆している。

最近の多施設共同研究では、CD 患者の 8.7%が GC によって駆動されるポジティブフィードバックを有する可能性が示された 。この結論を支持する in vitro 研究の数も増えてきている。EAS 患者では、GC 投与後にプロオピオメラノコルチン(pro-opiomelanocortin: POMC)mRNA 発現と ACTH 前駆体分泌が増加する。さらに、GC を介した POMC プロモーター領域の脱メチル化により、GC によって駆動されるポジティブフィードバックが説明できる可能性がある。しかし、GC 駆動型ポジティブフィードバックの基礎となるメカニズムや、ポジティブフィードバックループが CCS の病因に及ぼす影響を解明するためには、さらなる研究が必要である。

ネガティブフィードバック機構: ポジティブフィードバックループとは対照的に、副腎の束状帯および下垂体腺腫細胞は GC に感受性があると考える研究者もいる。血漿コルチゾール濃度の上昇は ACTH の分泌を抑制し、CS 患者では周期的な変化をもたらす。Estopinan らは、両側副腎摘出術を受けた後に血漿 ACTH 濃度が有意に上昇した周期性異所性 CS 患者の症例を報告している。コルチゾールによる ACTH のネガティブフィードバック制御が CCS を引き起こす 。

2.3. 下垂体腺腫の梗塞、出血、壊死
下垂体腺腫患者の約 9.5-16.6%が梗塞を経験し、CCD 患者の一部は下垂体腺腫に壊死細胞を発生する 。Abdullah は、下垂体巨大腺腫の反復性梗塞により高コルチゾール血症と副腎不全が交互に繰り返された CD の症例を報告した 。Analia らは、梗塞により CS の自然寛解を引き起こした下垂体茎付近の微小腺腫の症例を報告した 。腺腫が急速に成長しすぎると、血液供給が追いつかなくなり、虚血、出血、壊死を来すことがある。血管の近くで成長する腫瘍は血管を圧迫し、腫瘍への血液供給障害、コルチゾール分泌低下、さらには副腎不全を引き起こすことがある。これがコルチゾールの間欠的分泌を引き起こし、CCS の原因となる可能性がある。しかし、下垂体腺腫梗塞によるコルチゾール値の変化は、「周期的」ではなく「間欠的」であることが多い。そのため、このパターンを探るには大規模な臨床研究が必要である。


3. CCS の診断
CCS の診断は依然として困難であり、患者の綿密な経過観察が必要である 。以下の条件を満たす患者は、CCS と診断される。(1) CCS と診断するために、患者がコルチゾール値に少なくとも 3 つのピークと 2 つの谷を示す (ピークは正常値の上限を超える)。(2) CS の臨床症状があり、自然に消失したり再発したりする。(3) 画像検査で副腎、下垂体、異所性病変が認められる。(4) 患者は外因性ホルモンを使用しておらず、単純性肥満、自律性コルチゾール分泌、偽性 CS、グルココルチコイド抵抗性症候群を有していない。

ミュンヒハウゼン症候群の患者は病気の症状を偽る精神障害であり、外因性コルチゾールを経口摂取することで断続的なコルチゾール上昇を呈することがあり、臨床的注意を払う必要がある 。

CCS 患者のほとんどは寛解期間が長く、長期間のモニタリングと経過観察が必要である。一般的なモニタリング方法には、深夜唾液中コルチゾール(late night salvary cortisol: LNSC)、24時間尿中遊離コルチゾール(urinary free cortisol: UFC)、デキサメタゾン抑制試験(dexamethasone suppression test: DST)、深夜尿中遊離コルチゾール/クレアチニン比(late-night urinary free cortisol to creatinine ratio: UFCCR)、毛髪コルチゾール濃度(hair cortisol concentration: HCC)、および負荷試験がある。


3.1. CCS 診断の確立
3.1.1. 夜間唾液中コルチゾール
LNSC は CS のスクリーニングに使用されており、その検出能は近年徐々に向上し、臨床での使用も急速に増加している 。唾液中コルチゾールは、CS の診断において非常に正確であり、最近のメタアナリシスでは、CS の診断に対する LNSC の感度は 95.8%、特異度は 93.4%であった。CCD の診断に対する LNSC の感度は 88%で、UFC の感度(12%)よりも高かった。LNSC は非侵襲的であり、異なる時間帯に複数回のサンプリングが可能であるため、CCS の診断に非常に有用である。CCS が疑われる患者では、毎日 LNSC をサンプリングすることが推奨されており 、LNSC は両側下錐体静脈洞サンプリング(bilateral inferior petrosal sinus venus sampling: BIPSS)のタイミングを決定するのに役立つ 。LNSC の測定は、夜間労働者、唾液中コルチゾール濃度が十分に分析されていない人、口腔疾患のある人には推奨されない 。


3.1.2. 24 時間尿中遊離コルチゾール
UFC は、血漿中の遊離コルチゾールおよび生物学的に活性なコルチゾールのレベルを直接反映する 。血漿コルチゾール値と比較して、(UFC の) コルチゾール値は他の疾患や薬物の影響を受けない 。最近の研究では、液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析計(liquid chromatography-tandem mass spectrometry: LC-MS/MS)を用いた UFC 測定により、CS のスクリーニング精度が向上することが報告されている (感度 97%、特異度 91%) 。CS の臨床症状があるが UFC が正常な患者では、CCS を除外するために UFC を繰り返し測定すべきである。UFC が 1 ヵ月以内に正常値を維持した場合は、最長 1 年間経過観察し、UFC を繰り返し測定すべきである。


3.1.3. 低用量デキサメタゾン抑制試験
低用量 DST(low dose DST: LDDST)には、一晩で行う 1 mg デキサメタゾン抑制試験と 2 日間で行う低用量デキサメタゾン抑制試験があり、古典的 CS の診断に役立つ。しかし、増悪期の CCS 患者の血漿中および尿中遊離コルチゾール濃度は、デキサメタゾン投与後も抑制されない可能性がある一方で、コルチゾール濃度が逆に上昇したり、寛解期には陰性となる可能性もある。したがって、CCS について DST の意義は比較的低く、CCS が疑われる場合には、DST は推奨されない。しかし、異なる時点で実施された 2 つの DST が矛盾する結果を示した場合、CCS が存在する可能性がある。


3.1.4. 深夜尿中遊離コルチゾール/クレアチニン比
遊離コルチゾールは腎臓で濾過され、腎機能に大きく影響されるため、GFR が 60 ml/分未満の場合は偽陰性が生じる可能性がある。UFCCR は UFC と正の相関があり、コルチゾール/クレアチニン比の正常上限は 50 であった 。UFCCR を連続 28 日間モニタリングすることは、CCS のスクリーニング法として推奨されている 。いくつかの先行研究では、3 人の CCS 患者において 28 日間連続でUFCCR 値を検出し、そのうち 2 人の患者に周期的なコルチゾール分泌がみられたことが報告されている 。UFCCR の良好な再現性は、CCS の診断における大きな利点である。


3.1.5. 毛髪コルチゾール濃度
近年、毛髪コルチゾールに関する研究が徐々に増え、内因性高コルチゾール血症患者では毛髪コルチゾール濃度が上昇していることが示されている。毛髪 1 cm のコルチゾール濃度は、1 ヵ月間のコルチゾール濃度を反映する。したがって、毛髪の長さによっては、過去数ヵ月または数年間のコルチゾール濃度を検出することが可能である。HCC の測定は現在、過去数ヵ月または数年間のコルチゾールレベルを反映できる唯一の方法であり、CCS の診断に役立つ 。

CS の診断における HCC の感度と特異度は、それぞれ 86%と 98%であり 、CS のスクリーニングにおける UFC と LNSC の感度と特異度と同様であった。UFC と LNSC は、コルチゾールの周期的分泌を測定するために複数の検体を採取する必要があるのに対し、HCC の測定では、コルチゾールが周期的に分泌されているかどうかを判定するために必要な検体は 1 つだけである。毛髪サンプルは後頭部から採取し、できるだけ皮膚に近い位置で切断する。毛髪をビニール袋に入れて冷蔵保存すれば、HCC は数ヵ月間は安定して測定できる。酵素結合免疫測定法(Enzyme-linked immunoassay)と LC-MS が、最も一般的に用いられる分析法である。さらに、年齢、性別、毛髪の変化(染色または脱色)は毛髪コルチゾール値に有意な影響を及ぼさなかったが、精神に作用する因子は毛髪コルチゾール値に影響を与えた。


3.2. CCS の原因解明
3.2.1. 高用量デキサメタゾン抑制試験
ACTH 依存性 CS の鑑別診断では、高用量DST(high dose DST: HDDST)、CRH 試験、デスモプレシン(DDAVP)検査などの負荷検査が主流である。HDDST は、ACTH 依存性 CSを同定するための重要な方法であり、臨床で広く用いられている。HDDST は、CD では ACTH 産生腫瘍細胞がグルココルチコイドのネガティブフィードバック効果に対してある程度の反応性を保持するが、EASでは保持しないという事実に基づいている。Barbert らは、血清コルチゾール値が 52.7%未満に抑制されることを CD 診断のカットオフ値とした場合、感度と特異度はそれぞれ 88%と 90%であったと報告した。しかし、CCS では、コルチゾール値が検査当日に大きく変動することがあり、CCS と誤って診断されることがある。


3.2.2. コルチコトロピン放出ホルモン検査
CRH 試験は、主に ACTH 依存性 CS の鑑別診断のために行われる。EAS 患者は通常、CRH 試験に反応しないが、CD 患者では ACTH およびコルチゾール値が上昇する。CRH 試験は 2000 年以来使用されており、診断目的の場合は非常に正確な検査である 。Ritzel らは、CRH 注射 15 分後の ACTH ≧43%の上昇が CD の最も強い予測因子であり、感度は 83%、特異度は 94%であることを報告した。CRH 試験の感度と特異度は、HDDST と同様である 。一部の研究者は、巨大腺腫の患者は微小腺腫の患者よりも CRH 試験後の ACTH 上昇が低いと報告している。


3.2.3. デスモプレシンテスト
DDAVP 試験は、CS の診断に有用な方法であり、ほとんどの CD 患者で ACTH とコルチゾールの産生を刺激する。一方、健常者、アルコール症、うつ病、慢性腎臓病、コントロール不良の糖尿病、ACTH 非依存性 CS、異所性 CS は、ACTH およびコルチゾール値の上昇を引き起こさない。また、DST とは異なり、DDAVP 検査はデキサメタゾンの代謝を阻害する薬物の影響を受けない 。したがって、DDAVP 検査は、CCS の診断において独自の利点を有する可能性がある。

興味深いことに、Alfonso らは UFC の反復、LNSC、血漿コルチゾール、DST が正常結果を示した CCS 患者において、DDAVP 検査は常に陽性結果を示したことを報告した。したがって、DDAVP 検査は、CCS の診断までの時間を短縮し、患者が適時に治療を受けられるようにする可能性がある。注目すべきことに、この方法は、CS の再発を評価するための早期マーカーとしても、手術の効果を評価するための長期予後指標としても使用できる。しかし、統一的な基準がまだ策定されていないため、ルーチンの診断には推奨されていない。


3.2.4. 両側下錐体静脈洞サンプリング
CCS の病因を臨床的に同定することは困難であり、特に画像検査で腫瘍が認められない場合、CCS の原因となる腫瘍の局在診断は依然として難しい 。CCS 患者の約 13%では、原因となる腫瘍が不明のままである。BIPSS は、CD と EAS を鑑別するためのゴールドスタンダードである。デスモプレシン刺激後で中枢 ACTH /末梢 ACTH 値は 2 以上、CRH 刺激後で中枢 ACTH /末梢 ACTH 値は 3 以上であった場合、病因が下垂体にある (CD と診断できる) ことを示唆している。

いくつかの先行研究では、CCS 患者においてコルチゾール分泌のトラフ期に BIPSS を実施すると偽陰性の結果が得られるが、コルチゾール分泌のピーク期に BIPSS を実施すると疾患を診断できることが判明している。したがって、CCS では、トラフ BIPSS の結果は誤解を招く可能性がある。したがって、BIPSS 検査は、偽陰性を避けるため、コルチゾール分泌のピーク時に実施すべきである。BIPSS は、血清コルチゾール値が 10 μg/dL を超える場合、または患者が高コルチゾール血症の段階にある場合に実施することが推奨され、これは前夜深夜の唾液中コルチゾール値を測定することで確認される 。

BIPSS の軽度の合併症には、耳鳴りや耳の痛み(1-2%)、鼠径部血腫(2-3%)などがあるが、重篤な合併症には、神経麻痺、くも膜下出血、血栓塞栓症などがある。


3.2.5. 画像検査
画像検査は、検査結果に基づいて行うべきである。ACTH 依存性 CS の全患者において、鞍部の磁気共鳴画像法(magnetic resonance imaging: MRI)を実施すべきである 。3-T の MRI は世界的に使用されるようになってきており、画像診断の結果が陰性または不確定な患者に有効である 。

EAS の局在診断は困難である。EAS 患者の約 15%には、原因となる腫瘍を認めない 。EAS が疑われる場合には頸部、胸部、腹部の CT または MRI 検査が推奨される。カルチノイドおよび他の神経内分泌腫瘍のほとんどがソマトスタチン受容体を発現しているため、EASの診断にはオクトレオチド受容体シンチグラフィーを用いることができる。腫瘍が見つからない場合は、陽電子放射断層撮影/コンピュータ断層撮影(positron emission tomography/computed tomography: PET/CT)が推奨される。68Ga-DOTATATE PET/CT は、18F DOPA-PET/CT と比較して精度の高い第一選択の PET 画像診断法である 。

ACTH 非依存性 CS に対しては、CS の原因となる腫瘍を特定するために副腎 CT または MRI が推奨される(図2)。

図 2: CCS 診断のフローチャート


4. 治療
CS と同様に、病因が確立している CCS は、その原因に応じて治療されるべきである。手術は CS に対する治療の第一選択である。原発腫瘍の外科的切除が不成功または不可能な場合、薬物療法、放射線療法、両側副腎摘出術などの第 2 選択治療法が用いられる 。


4.1. 外科療法
初回の経蝶形骨下垂体手術(transsphenidal pituitary surgery: TSS)の治療効果は、CCD 群と CD 群で有意差はなかった。しかし、CCD 患者の多くが後期に両側副腎摘出術を受けていることから、TSS 後にコルチゾール過剰産生が持続または再発しているのかもしれない 。CCS 患者の術後経過観察では、古典的 CS と比較して再発率(63%)は高いが、寛解率(25%)は低いことが示された。したがって、外科的治療後は、定期的に再発の有無を観察する必要がある。(表1)。

表 1: CCS の診断方法とそれぞれの利点と欠点
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0753332222006904?via%3Dihub#tbl0005


4.2. 薬物療法
薬物療法としては、ステロイド合成阻害薬(ケトコナゾール、メチラポン、ミトタン、エトミデート)、ソマトスタチンアナログ(パシレオチド)、ドパミン作動薬(カベルゴリン)、グルココルチコイド受容体拮抗薬(ミフェプリストン)などがある。

CS の治療薬として現在研究中の新薬には、選択的 GR 拮抗薬であるレラコリラント、レチノイン酸、ソマトスタチン-ドパミンキメラリガンド、上皮成長因子受容体阻害薬、サイクリン依存性キナーゼ阻害薬、ヒートショックプロテイン 90 阻害薬などがある 。

CS とは異なり、CCS はコルチゾール過剰産生の直前に副腎不全が誘発される可能性があるため、薬物療法で慎重にコントロールしなければならない。

CCS 患者には、ステロイド合成阻害薬を用いて「ブロック・アンド・リプレイス」療法を行うことができる(図3)。すなわち、高用量のステロイド合成阻害薬で内因性コルチゾール合成を完全にブロックした上で、外因性糖質コルチコイドで補充する。この方法は、特に CCS や重症の高コルチゾール血症の患者において、副腎不全のリスクを減少させる。

ミトタンは作用発現が非常に遅いので、「ブロック・アンド・リプレイス」レジメンに適している。長時間作用型のステロイド(デキサメタゾンやプレドニゾロンなど)は CS を誘発する可能性があるため、コルチゾールの代わりにヒドロコルチゾンを使用するのが最善である。

この治療法では、内因性コルチゾール合成と外因性グルココルチコイドの使用による極端なグルココルチコイド上昇を識別するために、患者のコルチゾール値を注意深く監視する必要がある 。

デキサメタゾンとメチラポンを併用すると、グルココルチコイドのポジティブフィードバックループを介して ACTH 産生を刺激することが示されている。しかし、十分な用量のメチラポンはグルココルチコイドのポジティブフィードバックループを遮断する。したがって、内因性コルチゾール濃度は上昇しない。ACTH 依存性 CCS では、メチラポンとグルココルチコイドの併用が高コルチゾール血症の予防に役立つ可能性がある 。

Mirela らは、カベルゴリン単独治療を受けた原因不明の CCS 患者の症例を報告している。UFC と血漿 ACTH 値は正常化し、高コルチゾール血症による合併症は改善し、症状は消失した。したがって、異所性またはサブクリニカル CS の治療にカベルゴリンを使用することは、有用な治療法となりうる 。最近の研究で、カベルゴリンとバルプロ酸ナトリウムの併用が CCS に有効であり、低コルチゾール血症を誘発しないことが判明した(表 2)。

表 2: CCS の治療に用いられる薬剤
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0753332222006904?via%3Dihub#tbl0010

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0753332222006904?via%3Dihub

クッシング症候群の診断

2023-11-12 17:59:07 | 内分泌
クッシング症候群の診断へのアプローチ
J Clin Endocrinol Metab 2022; 107: 3162-3174

クッシング症候群は、グルココルチコイドへの過度の曝露によって生じ、重大な合併症および死亡率と関連している。

病因には、副腎皮質ステロイドの投与(外因性クッシング症候群)、または ACTH 依存性かどうかにかかわらず自律的なコルチゾールの過剰産生(内因性クッシング症候群)が含まれる。

クッシング症候群の早期診断が必要であるが、臨床においては、他のよくある疾患(すなわち、偽性クッシング症候群)と類似していることもあり、非常に困難である。

診断にあたっては、まず局所的および全身的なコルチコステロイドの使用を除外することから始めるべきである。内因性クッシング症候群をスクリーニングするために、1 mg デキサメタゾン抑制試験、24 時間尿中遊離コルチゾール、深夜唾液中コルチゾール測定を含む第一選択のスクリーニング試験を実施すべきである。

頭皮毛髪コルチゾール/コルチゾン分析は、長期的なグルココルチコイド曝露の評価に役立つだけでなく、周期性クッシング症候群で観察されるような一過性の高コルチゾール血症の検出にも役立つ。

結果の解釈は、個々の患者の特性により困難な場合があり、したがって検査の限界を認識する必要がある。内因性クッシング症候群が確立されれば、血漿ACTH 濃度を測定することにより、ACTH 依存性(80-85%)または ACTH 非依存性(15-20%)の原因を区別することができる。

両側下錐体静脈洞サンプリング (bilateral inferior petrosal sinus sampling) を含む、さまざまな画像モダリティおよび負荷検査による精査はクッシング症候群の原因を特定するのに役立つ。

今回の「患者へのアプローチ」では、クッシング症候群の診断ワークアップについて、いつスクリーニングを行うか、どのようにスクリーニングを行うか、どのように異なる原因を鑑別するかという疑問に答えながら論じている。この点に関して、生化学的および画像診断技術における最新の進展についても論じている。


症例1
45 歳の女性が、クッシング症候群の可能性があるとして、他の病院から大学医療センターに紹介された。1 年半で 6 kg の体重増加、中心性肥満、中等度の筋力低下、不眠がみられた。高血圧は 3 年前に診断され、ニフェジピン 30 mg で治療されていた。14 ヵ月前から抑うつ症状を訴え、双極性障害が疑われたため、精神科を受診した。このため、カルバマゼピン 200 mg を 1 日 2 回服用している。アルコールや薬物の乱用はない。

身体所見では、体格指数 (body mass index: BMI) は 28 kg/m2、血圧は150/95 mmHg であった。顔貌は中等度の多毛で、鎖骨上に脂肪沈着があり、線条を伴わない中心性肥満がみられた。上肢の筋萎縮はわずかで、斑状出血、多毛、浮腫は認められなかった。

入院時の検査では、尿中遊離コルチゾール(urinary free cortisol: UFC)が正常値上限(upper limit of normal: ULN)の 2 倍に増加し、1 mg デキサメタゾン抑制試験(dexamethasone suppression test: DST)でコルチゾール値が 5.62 μg/dL(155nmol/L)、ACTH 値が 40.9 pg/mL(ULN 50 pg/mL)と高値を示した。磁気共鳴画像法(magnetic resonance imaging: MRI)による下垂体画像診断で、下垂体左側に小さな嚢胞性病変が認められた。

精神科医と相談し、カルバマゼピンをリチウムに変更し、精神療法を開始した。6 週間後、大学医療センターで内分泌評価を行ったところ、UFC は ULN の 1.5-2.0 倍、デキサメタゾン投与後のコルチゾール量は 3.05 μg/dL(84 nmol/L)、深夜の唾液中コルチゾール値は 0.047 μg/dL と 0.065 μg/dL(ULN: 0.11 μg/dL)であった。

さらに、デキサメタゾン-コルチコトロピン放出ホルモン(corticotropin-releasing hormone: CRH)試験を行い、4 mg デキサメタゾンを 2 日間投与するとコルチゾール値は検出されず、1 μg/kg の CRH を静脈内投与してもコルチゾール分泌は刺激されなかった。

精神疾患および非機能性下垂体病変に続発する偽クッシング症候群が最も可能性の高い診断と考えられた。患者は精神科治療によく反応し、10 ヵ月後には抑うつ症状が抑制され、体調が改善し、体重が 3 kg 減少した。UFC 値を測定したところ ULN 以下であったが、DST ではコルチゾール値が 1.16μg/dL(32nmol/L)であった。


学習のポイント
内因性コルチゾール亢進症の患者では、常に偽性クッシング症候群を考慮すべきである。

偽性クッシング症候群の患者は、真のクッシング症候群に類似した内因性コルチゾール亢進症に関連した症状を示すことがある。

クッシング症候群の第一選択スクリーニング検査の結果は、併用薬の使用によって影響を受けることがある(例: 抗てんかん薬は DST の偽陽性を引き起こすことがある)。

偽性クッシング症候群と ACTH 依存性クッシング症候群との鑑別には、夜間の唾液中コルチゾール値と第二選択のデキサメタゾン-CRH 試験が有用である。


症例 2
52 歳の女性が、副腎性クッシング症候群の外科的治療のため、他の病院から大学医療センターに紹介された。

患者は腎結石症を呈し、腹部の CT スキャンで、腺腫に合致する放射線学的特徴(脂質に富み、ハウンスフィールド単位 [Hounsfield units: H.U. ] が低い)を有する左副腎腫大が認められた。

6 ヵ月前、患者は右脚の深部静脈血栓症のため救急外来を受診した。その後、高血圧(210/110 mmHg)を認め、バルサルタンによる治療が開始された。患者は、体重増加(過去 2 年間で 8 kg)、腹囲増加、多毛、易打撲性、近位筋力低下を訴えた。

身体所見では、多毛と中等度の多毛を伴う満月様顔貌、中心性肥満、四肢の近位筋萎縮、いくつかの血腫を伴う皮膚萎縮と、クッシング徴候を認めた。BMI は 31 kg/m2、血圧は 170/10 mmHg であった。

内分泌評価の結果、以下のことが判明した。 UFC 値は ULN の 4.5-5.0 倍、DST でコルチゾール値は 17.33 μg/dL、ACTH 濃度は19.07 pg/mL であった。

紹介後、ACTH 測定を繰り返し、12.71 pg/mL と 18.16 pg/mL であった。ACTH 値が抑制されなかったため、下垂体 MRI が実施され、7 mm の下垂体腺腫が確認された。

追加の検査として、デヒドロエピアンドロステロン-硫酸(dehydroepiandrosterone-sulfate: DHEA-S)の測定と CRH 試験が行われた。DHEA-S 濃度は 2.36 µg/mL(基準範囲:<2.28 µg/mL)であり、CRH 試験ではベースラインに対して ACTH が 170%増加し、コルチゾールが 140%増加した。これらの結果から、下垂体依存性クッシング症候群の可能性が最も高いと考えられた。

患者は経蝶形骨洞腺腫切除術を受け、生化学的寛解を得た。病理検査により、ACTH 染色陽性の好塩基性腺腫が確認された。


学習のポイント

クッシング症候群は、静脈血栓塞栓症の高リスクと関連しており、これが初発症状となることがある。

下垂体依存性クッシング症候群は、片側の副腎肥大を伴うことがある。

ACTH 値が正常低値であり、片側または両側の副腎腫大を伴うクッシング症候群患者では、DHEAS 値の測定と CRH 試験が下垂体性と副腎起性の鑑別に有用である。


1. はじめに
クッシング症候群(Cushing's syndrome: CS)は、外因性のグルココルチコイドまたは内因性の過剰なコルチゾールのいずれかによる過剰なグルココルチコイドへの長期暴露によって生じる。

CS の最も一般的な原因は、薬理量の外因性コルチコステロイド投与による医原性である。内因性 CS は、ACTH 依存性または ACTH 非依存性のコルチゾール産生過剰によって起こる。

内因性 CS の推定罹患率は、0.2-5.0/100万人·年であり、推定有病率は、様々な集団において 39-79 人/100万人である。ACTH 依存性 CS は症例の 80-85%を占め、ACTH 非依存性は 15-20%である。

CS は重篤な疾患であり、その影響はしばしば長期に及び、生活の質(quality of life: QOL)を低下させる。高コルチゾール血症は、心血管系イベント(心筋梗塞)、脳血管系イベント(脳卒中)、敗血症、血栓塞栓症の増加と関連しており、一般集団と比較して死亡リスクが 3.5-5 倍上昇する。心筋梗塞のリスクは、一般集団と比較して CS 患者では約 4.5 倍高い。

外科的寛解によっても、全身合併症による合併症のリスクを完全に排除することはできない。CS における合併症の有病率と病態生理を表 1 に示す。

表 1: CS の合併症
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9681610/table/T1/

治療が成功して改善がみられたとしても、回復が完全でないことが多く、身体的・神経心理学的合併症が残存することがある。したがって、CS の早期診断は重要であるが、他の(一般的な)疾患と徴候や症状がかなり重複しているため、臨床現場ではしばしば困難が伴う。

本稿では、(外因性、内因性、周期性)CS が疑われる患者に対する診断的アプローチに焦点を当て、新しい診断測定法と技術の分野における最新の発展について考察する。


2. 外因性ステロイド
合成グルココルチコイド(すなわち、コルチコステロイド)は、内因性 CS と同様の症状を引き起こす可能性がある。実際、グルココルチコイドの使用は CS の最も一般的な原因である。国によっては、大量に処方され、市販されていることから、CS の初期治療に薬物歴を含めることが正当化される。

グルココルチコイドの全身作用は、バイオアベイラビリティ、薬物動態学的および薬力学的特性によって決まる。また、クッシング徴候の発現には、使用期間と投与経路が重要である。重篤な有害事象は、一般に全身性コルチコステロイド使用者、特に使用期間が長く投与量が多いほど起こりやすい。

外因性グルココルチコイド投与が疑われるが報告されない場合は、外因性グルココルチコイドを検出するように設計された尿中または血液中の質量分析を利用することができる。さらに、抗真菌薬、プロテアーゼ阻害薬、エストロゲンなどの他の薬剤の併用が、薬物-薬物相互作用によりグルココルチコイド効果を増大させる可能性がある。そのため、これらの薬をスクリーニングすることも重要である。

患者の立場からは、体重増加が最も一般的な有害事象として報告されており、次いで皮膚障害(あざ/菲薄化)、睡眠障害となっている。

興味深いことに、グルココルチコイドに関連した有害事象の発生には、慢性使用者において 2 つの異なるパターンが報告されている。クッシング徴候型、皮膚菲薄化、紅斑、睡眠障害などの臨床的特徴については、用量に関連したパターンが認められた。その他の有害事象は、グルココルチコイドの 1 日投与量がある閾値を超えると現れるが(例えば、プレドニゾンの 1 日当量が 5.0-7.5 mg を超えると鼻出血や体重増加)、うつ病や高血圧は 7.5 mg/日を超えると特に多くみられた。

外因性コルチコステロイドの評価に関しては、経口タイプ以外の投与形態も考慮すべきである。コルチコステロイド使用者における副腎不全の発生に関するメタアナリシスでは、関節内注射の使用者(絶対リスク 52.2%)でも、経口コルチコステロイドの使用者(48.7%)と同様の割合が認められている。さらに、経鼻、経皮、吸入などの局所投与タイプの副腎皮質ステロイド薬も副腎機能不全と有意に関連しており(それぞれ 4.2%、4.7%、7.8%)、これらのタイプの副腎皮質ステロイド薬が全身性に作用する可能性があることを示唆している。喘息、湿疹、花粉症などではしばしば異なる投与経路の薬剤を組み合わせられるが、この場合は副腎不全の絶対リスクはさらに増加し、42.7%に達した。

この観点から、最近、局所コルチコステロイド、特に吸入タイプのコルチコステロイドの使用と、メタボリックシンドロームのリスク、肥満のリスク、実行認知機能の低下、気分障害や不安障害のリスクとの関連が示されたことは興味深い。これらの特徴はすべて、(非特異的ではあるが)グルココルチコイド曝露の増加とも関連付けられる。

コルチコステロイドの使用と心代謝系の合併症との関係は、グルココルチコイド感受性と関連するグルココルチコイド受容体遺伝子の変異に関係しているようである。興味深いことに、グルココルチコイド受容体抵抗性に関連する遺伝子多型を持つ副腎皮質ステロイド使用者では、副作用はそれほど顕著ではなかった。

局所投与では全身性の有害事象が起こる確率が低いとはいえ、コルチコステロイドの使用の大部分が局所型であるという事実を考えると、このことは非常に重要である。さらに、局所コルチコステロイドの場合、グルココルチコイドの代謝を決定したり、吸収を促進したり、その結果全身性の有害事象を引き起こす可能性のある他の個別要因も考慮しなければならない。例えば、吸入コルチコステロイドの吸入器の種類や、皮膚のひだなど閉塞部位での皮膚コルチコステロイドの塗布などである。


3. スクリーニングのタイミング
CS の臨床症状は、患者の年齢、性別、重症度、コルチゾール過剰の期間によって様々である(表 2)。

表 2: CS の臨床所見とその頻度
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9681610/table/T2/

図 1 に示すように、患者はしばしば中心性肥満や体重増加、満月様顔貌、月経不順、抑うつなどの非特異的な特徴を呈する。

図 1: クッシング徴候と CS の合併症
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9681610/figure/F1/

徴候や症状が時間とともに徐々に進行し、順次出現する場合は、診断はさらに複雑になる。したがって、内因性 CS を早期に診断することは困難な課題である。さらに、比較的軽度のコルチゾール濃度上昇を伴う他の疾患でも、多くの場合クッシング徴候に関連する特徴を認める。重度の肥満、アルコール中毒、多嚢胞性卵巣症候群、神経精神障害など、これらの偽性クッシング症候群は、内因性 CS と比較にならないほど蔓延している(「偽性クッシング症候群」の項も参照)。

とはいえ、以下の場合は CS のスクリーニング検査が推奨されている。

·副腎偶発腫(腺腫)の患者

·年齢的にまれなクッシング徴候関連の特徴(高血圧、骨粗しょう症、女性の禿頭など)を示す患者。

·特に特異的なクッシング徴候が存在する場合、経時的に進行する複数の症状を有する患者。紅斑、近位型ミオパチー、広い赤紫色の線条、顔面の多毛、再発性感染症、骨減少症などの臨床的特徴は、CS に特徴的であることが分かっており、スクリーニング検査を実施する判断の一助となる。

·体重が増加し、身長のパーセンタイルが減少している小児

さらに、治療が困難な糖尿病または高血圧の患者ではスクリーニングを考慮することができるが、糖尿病、高血圧、または肥満の集団において CS の大規模スクリーニングを実施することは一般に推奨されない。

下垂体偶発腫の場合、ACTH 分泌過多に対するルーチンのスクリーニングは推奨されない。無症状の人におけるコルチゾール過剰症のスクリーニングが、サブクリニカルクッシング症候群の発見に有用であるかどうかについては、依然として議論の余地がある。クッシング病が臨床的に疑われる患者は、次のセクションで述べるように検査を受けるべきである。

最後に、活動性 CS 患者は、一般集団と比較して静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)のリスクが高い。症例 2 の患者は、先に VTE を発症していたが、CS はまだ認識されていなかった。VTE のリスクが高いのは、グルココルチコイドによって凝固系カスケードが活性化され、線溶系が障害されるためである。したがって、原因不明の静脈血栓性イベントを有する患者では、高コルチゾール血症のスクリーニングが考慮される。


4. 高コルチゾール血症のスクリーニング方法
CS が疑われ、外因性グルココルチコイドの使用が除外された場合、第一選択のスクリーニング検査の 1 つを実施することから始めることが推奨される。推奨される初期検査には以下が含まれる:

·overnight 1 mg DST
·24時間 UFC
·深夜唾液中コルチゾール検査(late night salivary cortisol test: LNSC)

後者の 2 つの検査は、コルチゾールの産生に日差変動が大きいため、少なくとも 2 回行う必要がある。さまざまな検査の診断精度をプールしたものを図 2 に示す。

図 2: CS 診断のワークアップ
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9681610/figure/F2/

スクリーニングの順番に決まりはないが、個々の患者の特徴に基づいて特定の検査を選択することができる(図 2 の注意点も参照)。慢性コルチゾール過剰症を検出するための比較的新しい検査として、頭皮毛髪中のコルチゾールの測定が有望である(「新たな展開:診断ツールとしての毛髪コルチゾール測定の可能性」を参照)。

検査結果が正常であれば、CSの可能性は低いが、その可能性が高い患者には内分泌専門医への紹介が推奨される。その他の症例では、患者に進行性の特徴がある場合、6ヵ月後の再評価を考慮すべきである。検査結果が異常であれば、内分泌専門医による更なる評価が必要である。患者は、必要に応じて、1-2 種類の第一選択スクリーニング検査、または第二選択スクリーニング検査(例えば、デキサメタゾン-CRH 併用試験、または血清コルチゾールの深夜投与)で再検査を受けるべきである。CS の診断は、高コルチゾール血症を示す異常値の一致で確定される。

さらなる評価は、根本的な原因を特定することに重点を置くべきである。2 つの検査結果が正常であれば内因性 CS の可能性は低く、周期性 CS または(まれな)グルココルチコイド過敏症 (glucocorticoid hypersensitivity) が疑われない限り、さらなる評価は必要ない。

グルココルチコイド過敏症では、CSの臨床像を呈するが、臨床検査では血漿および尿中コルチゾール値が(境界域の)低値を示す一方、ACTH(コートロシン)またはメチラポン刺激試験かつ/またはインスリン低血糖試験に対する反応性は正常である。超低用量 DST で朝のコルチゾールが抑制されることも、このまれな病態を示唆しており、専門施設ではグルココルチコイド受容体の機能検査またはグルココルチコイド受容体遺伝子の塩基配列決定が考慮される。グルココルチコイド過敏症では、外因性コルチコステロイドは使用しないか、使用するとしても、ヒドロコルチゾン補充療法と同程度の低用量か、開始後にクッシング様症状が発現した過去の用量を下回る用量で使用すべきである。

原発性グルココルチコイド抵抗性は、主にグルココルチコイド受容体遺伝子の変異に起因するまれな遺伝的疾患であり、グルココルチコイド過敏症とは逆の異常な検査結果が得られる。これらの患者は、視床下部-下垂体-副腎(hypothalamus-pituitary-adrenal: HPA)軸の代償性過活動による生化学的な高コルチゾール血症とあいまって、鉱質コルチコイドおよび/またはアンドロゲン作用の亢進の症状を呈するが、特異的なクッシング様特徴はみられない。末梢のグルココルチコイド受容体感受性の低下によるこの HPA 軸活性の亢進は、CS による病的な高コルチゾール血症とは区別すべきである。

一般に、スクリーニング検査の結果が一致しない場合、または周期性 CS が臨床的に強く疑われる場合には、経過観察とさらなる評価が推奨される。

第一選択のスクリーニング検査にはそれぞれ限界があり、結果に影響を及ぼす可能性のある最も重要な因子を図 2 に示した。

1 mg DST に関しては、デキサメタゾンクリアランスおよび/またはコルチゾール結合グロブリン濃度を変化させる可能性のある薬剤を現在使用していないかスクリーニングすることが不可欠である。これは主に、症例 1 のような抗てんかん薬やエストロゲン含有薬の使用に関するものである。

DST が陽性の場合、血清デキサメタゾン濃度を測定することは、不十分な濃度 (例えば、デキサメタゾン代謝の変化や検査遵守の不備によるもの) を同定したり、2 回目の DST が有用な患者を決定したりするのに有用である。

LNSC に関しては、グリチルリチン酸を含む物質(すなわち、11β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ 2 型 [11β-HSD2] 阻害薬)の使用は避けるべきである。唾液腺中のコルチゾールは 11β-HSD2 によって自然に不活性化されるため、これを阻害するとコルチゾール値が誤って上昇する可能性があるからである。グリチルリチン酸は、甘草キャンディーやいくつかのお茶に含まれている。11β-HSD2 阻害物質としては、グリチルリチン酸誘導体のカルベノキソロン、ゴシポール、フタル酸エステルなどの内分泌撹乱物質がある。


5. 偽性 CS
内因性コルチゾール亢進症の評価における診断上の課題のひとつは、腫瘍性 CS と偽性 CS の鑑別である。偽性 CS、すなわち非腫瘍性の生理的コルチゾール亢進症は、慢性アルコール中毒、慢性腎臓病、2 型糖尿病、精神疾患などの多くの医学的疾患で起こりうる現象である。

これらの疾患における高コルチゾール血症は、腫瘍性の高コルチゾール血症を伴わず、主に神経経路を介した HPA 軸の活性化によって媒介される。また、これらの病態の大部分では、グルココルチコイドのネガティブフィードバックに対する感受性が低下しており、コルチゾールの軽度の上昇につながる可能性がある。長期にわたると、コルチゾールのわずかな上昇の影響が、有意かつ長期的なグルココルチコイド曝露につながり、症例 1 にも示されているように、高コルチゾール血症による病理学的特徴をもたらす可能性がある。

偽性 CS 患者のほとんどは、軽度のコルチゾール過剰であり、グルココルチコイド過剰による明らかな臨床症状はみられない。患者に生化学的検査を行う場合、第一選択の検査として LNSC 測定値が正常であり、DST でコルチゾールが適切に抑制されていれば、患者が腫瘍性コルチゾール過剰症である可能性は低い。しかし、診断に不確実性がある場合は、48 時間 2 mg/日 DST を行うか、DDAVP 刺激、デキサメタゾン-CRH 刺激などの二次検査を考慮する。後者のテストとその解釈は表 3 に記載されている。

表 3: 腫瘍性 CS と偽性 CS の鑑別に用いられる第二選択の検査


6. 新たな展開 診断ツールとしての毛髪コルチゾール測定の可能性
CS が疑われる患者におけるコルチゾール測定の比較的新しい方法は、頭皮毛髪分析であり、患者にやさしい非侵襲的な方法で、過去数ヵ月間の長期的なコルチゾール曝露に相当するコルチゾール値を得ることができる。この方法では、コルチゾールとその不活性型コルチゾンの両方が毛髪に取り込まれるため、グルココルチコイド濃度のレトロスペクティブな評価が可能である。

この方法は、数週間から数ヵ月にわたる平均血糖値を評価するために用いられる糖化ヘモグロビンの測定とよく比較される。ルーチンの第一選択スクリーニング検査では、コルチゾールの暴露を数日間までとらえるのに対し、毛髪分析では過去数ヵ月から数年間のグルココルチコイド濃度を評価することができる。

頭皮の毛髪の成長速度はおよそ 1 cm/月である。採取した毛髪サンプルの長さによって、過去のグルココルチコイド曝露の年表を作成することが可能である。これによって、高コルチゾール血症のエピソード(単発性または再発性)を捕らえることができるだけでなく、高コルチゾール血症の始まりと経過を経時的に推定することもできる。したがって、毛髪分析には、CS のスクリーニングにさらに役立つユニークな特徴がある。さらに、唾液や尿などの従来の検体では偽陽性となる可能性のある急性ストレス要因に依存しない安定した測定が可能である。その他の利点の一つは、毛髪サンプルの採取が外来で時間を選ばずに簡単に行えることである。

過去 10 年間で、頭皮毛髪グルココルチコイド分析法の開発は大きな進歩を遂げたが、この方法はまだ普及していない。毛髪コルチゾールは、CS 患者と健常対照者を高い感度と特異性で鑑別できることが示されている。CS 患者の中でも、毛髪コルチゾール値は UFC と有意に相関することが示されている。

われわれや他の研究者らも、毛髪ステロイド分析による CS のスクリーニングにおいて高い診断効果を示した。これらの研究では、患者 1 人につき 3 cm の毛髪サンプル(過去約 3 ヵ月の平均グルココルチコイド値に相当)を使用し、毛髪分析は免疫測定法または液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法のいずれかで行った。

興味深いことに、毛髪コルチゾンは毛髪コルチゾール(感度 81%、特異度 88%)よりも高い鑑別能力(感度 87%、特異度 90%)を有することがわかった。この差は、おそらく 11β-HSD 酵素または 5α-リダクターゼによる局所代謝が寄与している可能性がある。しかし、これらの所見を確認するにはさらなる研究が必要である。

さらに、毛髪コルチゾールとコルチゾンは、軽症またはサブクリニカル CS 患者の同定に寄与することが示されている。毛髪はコルチゾールのタイムラインとして使用できるため、頭皮毛髪コルチゾール分析は、CS の発症(例えば、異所性 CS)または周期性 CS の研究にも有用である。後者については、これらの患者は周期的に過剰なコルチゾールを分泌しているため、従来の検査では、実際にコルチゾール過剰症になった時点でスクリーニングを行わなければ、異常な結果が出る可能性は低くなる。

周期性 CS 患者を対象としたわれわれの以前の研究では、毛髪を用いて過去のタイムラインを作成し、実際に臨床的クッシング様特徴と対応する経時的なコルチゾール濃度の動態を示した。

ACTH 産生腺腫で下垂体卒中を発症した場合、CS が自然寛解する可能性がある。このようなケースは稀だが、下垂体卒中後にクッシング病を生化学的に診断することは不可能である。われわれは最近、入院時には生化学的に寛解していた下垂体卒中をともなうクッシング病の症例を報告した。クッシング病の診断は毛髪コルチゾール分析により後方視的に確認することができた。このことは毛髪コルチゾール分析がクッシング病の寛解の予測に利用できることを示しており、臨床的に重要である可能性がある。クッシング病の寛解予測には、長期の高コルチゾール血症による相対的副腎皮質機能低下、身体的·精神的合併症の長期的予後やクッシング病の再発の可能性についての予測も含まれる。


7. ACTH 依存性 CS
CS の診断が確定した時点において、血漿中 ACTH 濃度は、CS の原因が ACTH 依存性か ACTH 非依存性かを決定するのに役立つ。ACTH 依存性の CS では、グルココルチコイドのネガティブフィードバックが低下しているため、血漿中 ACTH 濃度は、不適切に正常または上昇(一般に 20 pg/mL 以上)し、ACTH 非依存性の CS では低値(一般に 10 pg/mL 未満)となる。

CS 患者の 30%は、ACTH 値が "グレーゾーン"(5-20 pg/mL)であり、副腎病変の可能性を検討するために、再検査と副腎画像診断を考慮すべきである。ACTH 依存性 CS は、全 CS 症例の80-85%を占める。


8. クッシング病と異所性 ACTH 産生腫瘍との鑑別
クッシング病は、症例の約 80%を占める ACTH 依存性 CS の最も一般的な原因であり、下垂体腺腫が ACTH を分泌し、それが副腎からのコルチゾールの生理的過剰分泌を刺激することで起こる。異所性 ACTH 産生腫瘍(ectopic ACTH secretion: EAS)は、ACTH 依存性 CS の約 20%を占める。これらの症例において、ACTH 分泌の最も一般的な原因は、小細胞肺がんまたは肺カルチノイド腫瘍である。その他の原因としては、図 3 にみられるように、膵神経内分泌腫瘍、胸腺神経内分泌腫瘍、ガストリノーマ、甲状腺髄様がん、褐色細胞腫などがある。

図 3: 異所性 ACTH 産生腫瘍の原因
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9681610/figure/F3/

画像検査は、クッシング病と異所性との鑑別に役立つ。下垂体 MRI は下垂体腺腫の発見に用いられる。クッシング病患者における下垂体微小腺腫の 36-63%しか検出できない従来の MRI と比較して、3 次元スポイルドグラジエントエコーシーケンス (3-dimentional spoiled gradient-echo sequence) を用いた高分解能 3T-MRI は、より薄い切片および優れた軟部組織コントラストを特徴とし、2 mm と小さい腺腫を検出できる。

MRI で 6 mm を超える下垂体腺腫が見つかった場合は、両側下錐体静脈洞サンプリング(bilateral inferior petrosal sinus sampling: BIPSS)は必要ない。一方、下垂体 MRI はクッシング病症例の最大 40-60%で陰性となることがある。また、EAS 患者では、下垂体 MRI 所見が偽陽性であることもある。

BIPSS は、クッシング病と EAS を鑑別するためのゴールドスタンダードである。しかし、この検査は ACTH 依存性 CS の診断を確定するために用いることはできず、高コルチゾール血症の存在は、手技の直前および手技時に確認されなければならない。この手技では、血漿中 ACTH 濃度を各錐体静脈洞(下垂体から静脈血を受ける)と末梢静脈から同時に採取する。CRH 刺激下で ACTH 値を測定することにより、感度を高めることができる。ACTH 分泌腺腫では、ACTH 値は末梢と比較して下錐体静脈洞(inferior petrosal sinus: IPS)から採取した血液サンプルで高くなるため、IPS-末梢 (peripheral)(IPS:P)ACTH 比が高くなる: > CRH 刺激前 2 倍以上またはCRH 刺激後 3 倍以上。IPS:P の ACTH 勾配がないことは、異所性 ACTH 産生を示唆している。

IPS の血液検体でプロラクチンを測定することにより、カテーテルが IPS に適切に留置されており、下垂体から IPS に正常の静脈血還流があることを確認することができる。これによって偽陰性を防ぐことができる。また、左右の下錐体静脈洞で、プロラクチンで調整した ACTH の比を取ることにより、ACTH 産生腫瘍が下垂体の左右のどちら側にあるかを判断することに利用できることが研究で示されている。

BIPSS で最もよくみられる合併症は、鼠径部血腫と一過性の頭痛である。脳卒中やくも膜下出血などの重篤な合併症も起こりうるが、これは一過性の低血圧や術中の血管損傷を引き起こす解剖学的なヴァリエーションに関連していると考えられている。

Walia らによって報告された新規の非侵襲的分子イメージング法は、ガリウム-68(68Ga)標識 CRH と陽電子放射断層撮影(positron emission tomography: PET)-CT を併用することにより、ACTH 産生腺腫の同定に役立つ。68Ga 標識 CRH は、ACTH 産生腺腫で発現が増加している CRH 受容体の検出に使用することができ、腺腫の機能性を明らかにすることができる。

研究集団の規模は小さかったが、68Ga CRH PET-CT スキャンは、6 mm 未満の原因病変を含むクッシング病症例を 100%正しく同定することができ、腫瘍が下垂体の左右どちらにあるかや術中ナビゲーション計画に役立つ正確な情報を提供できたため、ACTH 依存性 CS の評価と管理の両方に有用であった。この手技はまだ研究中であり、現在広く利用できるものではない。

クッシング病と EAS の鑑別には、高用量 DST、CRH 試験、デスモプレシン試験による負荷検査も有用である。クッシング病患者では、下垂体レベルのグルココルチコイド受容体は、高用量のデキサメタゾン(8 mg)の存在下では ACTH 分泌を抑制する能力を保持している。対照的に、ほとんどの異所性 ACTH 産生腫瘍は高用量のデキサメタゾンに反応しない。陽性反応のカットオフは、基礎コルチゾール値が 50%以上低下することである。EAS 患者では、高用量 DST は陰性であることが多い。

ACTH 産生下垂体腺腫は CRH 受容体および関連する下流の細胞シグナル伝達経路分子を発現している。したがって、ACTH 産生下垂体腺腫は異所性 ACTH 産生腫瘍と比較して、CRH に反応して過剰の ACTH を放出するため、CRH 検査は有用である。すべてのクッシング病患者ではないが、ほとんどの患者では、CRH 刺激後に血漿中 ACTH が 50%以上、コルチゾール濃度が 20%以上上昇する。EAS 患者は一般的に反応しないが、一部の腫瘍、特に気管支カルチノイドは CRH 受容体を発現することがある。

正常な ACTH 産生下垂体腺腫には一般に存在しない 2 型バソプレシン受容体が、ACTH 産生下垂体腺腫では発現していることが判明しているため、デスモプレシン検査も使用できる。クッシング病患者では、デスモプレシン注射後に血漿 ACTH とコルチゾールの増加が観察されうる。

一方、EAS 患者では、ACTH とコルチゾールの両方でデスモプレシンに反応しないことが予想されるが、EAS 腫瘍は 3 型バソプレシン受容体を発現している可能性があるため、偽陽性がみられることがある。また、異所性腫瘍のタイプ、患者の年齢、性別、高コルチゾール血症の重症度などの多くの要因のため、最大 65%の患者で結果が一致しないことがある。結果が不一致の場合、病変を特定するために BIPSS が必要となる。しかし、上記の負荷試験を下垂体 MRI と併用することで、臨床的精度を向上させ、BIPSS の必要性を減少させることができる。クッシング病の結果が確定的でない症例では、EAS の評価を考慮すべきである(図 3 の EAS の原因も参照)。

EAS 腫瘍の有無を評価するため、最初に全身のシンスライス CT スキャン(頸部、胸部、腹部、骨盤部)を実施すべきである。第二選択としては、68Ga-PET/CT または 18FDG PET/CT スキャンを用いた機能的画像検査があり、CT で発見が難しい腫瘍の検出、CT スキャンで認めた腫瘍の確認、または転移性腫瘍のワークアップに使用できる。


9. ACTH 非依存性 CS
ACTH 非依存性 CS は、通常、副腎腺腫が原因であり、両側の小または大結節性副腎過形成および副腎がんが原因となることは少ない。非常にまれな原因としては、原発性色素性結節状副腎皮質病変 (primary pigmented nodular adenocortical disease: PPNAD)、Carney 複合、McCune-Albright 症候群などがある。

内因性コルチゾール産生亢進が確認され、ACTH 濃度が抑制されている場合(<10 pg/mL)、次の診断ステップは CT または MRI による副腎の画像診断である。画像所見で悪性腫瘍を示唆する所見(例えば、腫瘍の大きさが 4 cm を超える、石灰化、不規則な腫瘍辺縁、Hounsfield 単位が 20 を超える)、かつ/または血漿ステロイドプロファイルに DHEA-S およびステロイド前駆体の上昇がみられる場合、FDG-PET スキャンを追加することで、悪性腫瘍として(開腹)副腎摘出術を行うかどうかを判断できる。

ACTH 値が 10-20 pg/mL の中間の場合、症例 2 に示されているように、CS の原因が副腎にあるか下垂体にあるかの鑑別は困難である。副腎に原因がある場合、軽度のコルチゾール過剰産生は不完全な ACTH 抑制を伴うことがある。逆に、臨床的・生化学的に高コルチゾール血症が重症の場合は、ACTH 依存性 CS の可能性が高い。さらに、ACTH 分泌が周期的に変動するために、ACTH 値が低い範囲にあることもある。

DHEA-S 濃度の測定および CRH 検査は、副腎と下垂体の原因を鑑別するのに有用である。DHEA-S 分泌は部分的に ACTH によって刺激されるため、DHEA-S 値が正常または抑制された低値は副腎に原因があることを示唆する。ACTH 産生下垂体腺腫は CRH 刺激に感受性であり、ACTH およびコルチゾールの大幅な増加(ベースラインの 50%超)は下垂体性 CS を示唆する。

両側の副腎過形成、そしてより頻度は少ないが副腎腺腫は、多くの場合、ステロイド過剰産生をともなう正所性 (eutopic) または異所性 (ectopic) のホルモン受容体発現と関連している。例えば、バソプレッシン受容体、LH 受容体、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド (glucose-dependent insulinotropic polypeptide: GIP) 受容体などである。

特異的刺激試験によるホルモン受容体発現異常のスクリーニングによって、受容体の遮断または内因性リガンドの分泌抑制による内科的治療が選択肢となり得るか検討することができる。両側性副腎過形成患者の家族に対しては、1 mg DST によるスクリーニングが推奨される。

ACTH 非依存性高コルチゾール血症を認める患者の一部に、片側または両側の副腎偶発腫と軽度のコルチゾール自律分泌(mild autonomous cortisol secretion: MACS)を認めるものが含まれる。MACS は、クッシング徴候を伴うことが多く、特に、高血圧、2 型糖尿病、肥満、脂質異常症、心房細動、精神症状または神経認知症状などの一般的な心臓代謝および精神合併症を伴う。MACS はまた、虚弱 (frailty)、骨粗鬆症、心血管疾患、死亡率のリスク増加とも関連している。

1 mg DST は MACS を検出する最も感度の高い検査である一方、UFC と LNSC の濃度はしばしば正常である。副腎偶発腫患者では、DST 後のコルチゾール値が心血管イベントおよび全死因死亡率と関連していることが示されている。コルチゾールのカットオフ値 50 nmol/L は、MACS と正常生理機能との鑑別に用いられる。この場合の、1mg DST の感度は最大 100%であるため、最適な第一選択スクリーニング検査として使用できる。しかし、50 nmol/L のカットオフ値での特異度は約 60%と低い。MACS の診断を確定するためには、UFC や LNSC などの他の方法を用いる必要がある。ACTH 値が低いか抑制されている場合は、さらにコルチゾールの自律的産生が疑われる。


10. 妊娠中の CS の診断
高コルチゾール血症は正常な卵胞発育および排卵を阻害するため、妊娠中に CS が診断されることはまれである。非妊娠患者とは対照的に、妊娠患者における CS の主な病因は副腎腺腫であり、症例の 40-60%にみられる。妊娠中の CS の早期診断と管理は、関連する胎児および母体の合併症を防ぐために重要である。胎児側の合併症としては、自然流産、周産期死亡、早産、および子宮内発育遅延が含まれる(図 4)。

図 4: 妊娠中の HPA 軸の生理 (および病理) 的変化
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9681610/figure/F4/

CS による母体側の合併症としては、高血圧、子癇前症、創傷治癒の障害 (wound breakdown)、糖尿病、骨折、日和見感染症などがある。

高コルチゾール血症による徴候と、古典的な妊娠の特徴 (疲労、体重増加、多毛、にきび、情緒不安定など) が重複しているため、妊娠中の CS の診断は難しい場合がある。妊娠中の患者が、高血圧、皮膚斑状出血 (ecchymosis)、筋萎縮の三徴候を有する場合、CS を考慮すべきであることが示唆されている。

妊娠中の CS の生化学的診断も、HPA 軸の活性化な ど、妊娠中に起こる正常な生理学的変化のために難しい場合がある。妊娠初期から、胎盤から産生されるエストロゲンと CRH が増加し、血漿中のコルチゾール輸送蛋白であるコルチコステロイド結合グロブリンが増加する。これが胎盤 CRH および ACTH の上昇と相まって、血漿中総コルチゾール濃度の上昇を引き起こす。デキサメタゾンによる血清コルチゾールと血漿コルチゾールの抑制は妊娠中には鈍化するため、妊娠中の患者では DST の解釈が困難となる。UFC は妊娠中のスクリーニング検査として推奨されることが多いが、これにも課題がある。妊娠中期には UFC も増加し、妊娠中期には約 1.4 倍、妊娠後期には約 1.6 倍に増加する。

従って、妊娠初期では 24 時間 UFC は影響を受けないが、妊娠中期および後期では、正常上限値の 2-3 倍 まで有意に上昇しない限り、信頼できる診断検査とはならないかもしれない。妊娠中の LNSC の基準値に関するデータはこれまで少なかったが、妊娠の各期における正常閾値の定義を検討する研究がいくつか行われており、妊娠患者の CS のスクリーニングで LNSC が使用されるようになるかもしれない。

Lopes らの研究では、各妊娠期における LNSC の基準範囲は、妊娠初期で 0.03-0.25μg/dL、妊娠中期で 0.04-0.26 μg/dL、妊娠後期で 0.07-0.33 μg/dL であった。この研究における CS 診断のカットオフ値は、妊娠初期で 0.255 μg/dL、妊娠中期で 0.260 μg/dL、妊娠後期で 0.285 μg/dL であった。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9681610/