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内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床についての論文のまとめ

原発性アルドステロン症

2024-06-08 14:45:49 | 内分泌
原発性アルドステロン症の診断と治療
Endocrinol Metab Clin North Am 2019; 48: 681-670

かつて原発性アルドステロン症 (primary aldosteronism) は、高血圧のまれでニッチな二次的原因と考えられていた。しかし、原発性アルドステロン症は以前考えられていたよりもはるかに一般的であることがわかってきた。アルドステロンの自律的分泌は心血管疾患の一因であり、また標的を絞った治療が可能であることから、この有病率の増加は公衆衛生にとって重要である。この総説では、原発性アルドステロン症をより多く、より早期に診断するための臨床的アプローチと、心血管疾患の発症リスクを軽減するための実際的な治療目標に焦点を当てる。

1. はじめに
原発性アルドステロン症は、かつては高血圧のまれでニッチな二次的原因と考えられていた。しかし、急速に進展したトランスレーショナルリサーチにより、この疾患に対する見方が劇的に変化した。現在では、原発性アルドステロン症が一般的であり、過小診断され、心血管疾患の重大な原因のひとつとなっていることは明らかである。この総説では、原発性アルドステロン症の臨床診断と治療に対する実際的なアプローチに焦点を当てる。

2. 原発性アルドステロン症の病態生理
原発性アルドステロン症の特徴は、その主要な調節因子であるアンジオテンシン II、高カリウム血症、コルチコトロピン(corticotropin: ACTH)とは無関係に、片方または両方の副腎からアルドステロン (aldosterone) が自律的に分泌されることである。

アルドステロンは、遠位ネフロンの主要細胞のミネラルコルチコイド受容体(mineralcorticoid receptor: MR)に結合し、上皮ナトリウムチャネル(epithelial sodium channel: ENaC)を介したナトリウム再吸収と、それに伴うカリウムイオンまたは水素イオンの排泄を誘導する。

ENaC を介したナトリウム再吸収は、水分再吸収を促進する浸透圧変化を引き起こし、血管内容量増加、糸球体過濾過、レニンとアンジオテンシン II の抑制をもたらす。アンジオテンシン II は近位ネフロンでのナトリウム再吸収の重要なメディエーターであるため、アンジオテンシン II が抑制されると遠位ネフロンへのナトリウム供給が増加し、アルドステロン駆動性のナトリウム再吸収と血管内容量増加、さらにカリウムと酸の排泄が増幅される。原発性アルドステロン症患者が典型的に高血圧、低カリウム血症、代謝性アルカローシスを呈するのは、このような腎および血行動態の影響によるものである。

重要なことは、後者が腎 MR を介した病態生理を説明する一方で、自律的なアルドステロン分泌は腎外 MR、特に心臓や心血管組織の活性化を介した病態生理も誘導することである。具体的には、体液量増加かつ/またはナトリウム過剰とMR 活性化の組み合わせが、原発性アルドステロン症における血圧に依存しない心血管疾患のメカニズムであると推測されている。

3. 有病率
原発性アルドステンロン症は、歴史的には高血圧のニッチあるいは稀な原因と考えられてきたが、最近の研究では、しばしば見逃されるよくある疾患であることが示唆されている。有病率を推定する上での課題は多岐にわたる。まず、真の有病率を知るためには、適切な集団をサンプリングしなければならない。第二に、原発性アルドステロン症の定義について普遍的または国際的なコンセンサスはなく、病理組織学的またはその他のゴールドスタンダードも存在しない。したがって、「原発性アルドステロン症」とみなすのに十分な自律的アルドステロン分泌の基準が地域によって異なり、世界中のさまざまな標本集団からの異なる有病率推定値をもたらしている。

いずれにせよ、原発性アルドステロン症は現在、内分泌性高血圧の最も多い原因として認識されている。Monticone らは、原発性アルドステロン症の有病率の推定を試みた最大規模の研究の 1 つとして、プライマリケアの高血圧患者 1,672 人を対象に原発性アルドステロン症の検査を行った。著者らは、原発性アルドステロン症を定義するために厳格なスクリーニングと確認検査のカットオフを用い、一般高血圧患者の 6%が原発性アルドステロン症と診断されたと報告している。

原発性アルドステロン症は重症の高血圧症例に多くみられ、未治療の血圧が 160-179/100-109 mmHg の患者の約 12%が原発性アルドステロン症であることが確認されたが、より軽症の高血圧症(140-159/80-99 mmHg)の患者でも 4%の有病率が観察された。この研究で副腎静脈サンプリング(adrenal venous sampling: AVS)を受けた患者のうち、原発性アルドステロン症の約 3 分の 1 は片側性疾患(典型的にはアルドステロン産生腺腫[aldosterone-producing adenoma: APA]による)であったが、残りの 3 分の 2 は両側性疾患(典型的には両側性副腎過形成[bilateral adrenal hyperplasia: BAH]または特発性アルドステロン症 [idiopathic hyperaldosteronism] による)であった。この研究で報告された有病率は、他国で行われた独自の標本集団を用いた先行研究と類似していた。

もし、これらの研究者が、スクリーニングや確認検査のカットオフ値について、わずかに異なる基準を用いていたならば、以前にも報告されているように、より小さい、あるいは大きな有病率の推定値が観察されたかもしれないことに注意することが重要である。このように、比較的恣意的な基準を用いた場合の有病率の決定には困難が伴う。

抵抗性高血圧など、より重症の高血圧集団における原発性アルドステロン症の有病率の推定値は、約 12-20%とさらに大きい。新しい知見によると、抵抗性高血圧におけるこの高い有病率でさえも過小評価である可能性がある。

4. 原発性アルドステロン症が健康にもたらす影響
原発性アルドステロン症の有病率が比較的大きいことの重要性は、特に早期に診断されなかった原発性アルドステロン症がもたらす臨床的影響によって最もよく理解される。MR 拮抗薬による標的治療や副腎摘出術が行われなれば、原発性アルドステロン症患者は、本態性高血圧患者と比較して、血圧とは関係なく、多くの有害な健康アウトカムのリスクが高いことが、多くの研究で証明されている。これらの研究のほとんどは、心筋梗塞、心不全、脳卒中、心房細動、糖尿病、およびメタボリックシンドロームを含む心代謝系のアウトカムに焦点を当てている。

最近のメタアナリシスでは、本態性高血圧患者に比べて、標的治療が行われていない原発性アルドステロン症患者では、臨床的に関連するほぼすべての有害な心代謝系アウトカムのオッズ比(odds ratio: OR)が高いことが示された(表 1)。

表 1: 原発性アルドステロン症と本態性高血圧の健康アウトカムの比較
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6824480/table/T1/

他の研究では、標的治療前の原発性アルドステロン症患者では、糸球体過濾過やアルブミン尿を含む腎疾患や死亡のリスクも高いことが示されている。

5. 診断的アプローチ
原発性アルドステロン症における前述の心代謝性疾患のリスクを考慮すると、この疾患の患者を早期に発見し、標的治療を開始できるようにすることが不可欠である。

5-1. 原発性アルドステロン症のスクリーニング対象者
現在の内分泌学会のガイドラインでは、最も有病率が高いと報告されている集団において原発性アルドステロン症のスクリーニングを推奨している(表 2)。

表 2. 原発性アルドステロン症のスクリーニングの適応
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6824480/table/T2/

上記の原発性アルドステロン症のスクリーニングの適応のごく一部しか実際にはスクリーニングがされていないことには注意が必要である。このことは、原発性アルドステロン症の有病率の高さと早期発見の重要性について、より多くの教育が必要であることを意味している。あるいは、原発性アルドステロン症のスクリーニングを十分に行うには、プライマリケア医や高血圧非専門医が割ける時間と労力では不十分なのかもしれない。

さらに、これらの推奨はエキスパートオピニオンに基づいて作られたものであるが、現行のスクリーニングの適応では相当な程度の血管障害がすでに生じている可能性のある、重症の原発性アルドステロン症の患者を同定する可能性が高いことに注意すべきである。最近の研究では、原発性アルドステロン症は、それほど重症でない高血圧や、上記のスクリーニングの適応にならない正常血圧の人でさえもみられることが報告されている。

5-2. 原発性アルドステロン症のスクリーニング方法
原発性アルドステロン症のスクリーニング検査として最もよく推奨されるのは、アルドステロン-レニン比 (aldosterone-to-renin ratio: ARR) である。最も広く受け入れられているスクリーニング陽性の定義は、ARR>30 ng/dL/h、血清アルドステロン濃度 >15 ng/dL である。ARR の指標そのものに注目するのではなく、アルドステロンとレニンの絶対値を個別に評価し、レニンに依存しないと思われる不適切で自律的なアルドステロンの分泌があるかどうかを判断することが重要である。

自律的で不適切なアルドステロン分泌のある患者において、アルドステロン濃度の下限値がどの程度なのかを知ることは臨床的な課題となっている。というのは、原発性アルドステロン症の診断のための普遍的な病理組織学的方法などが存在しないため、ARR は既知のゴールドスタンダードに対して校正または検証されていないからである。

あまり保守的ではない基準では、PRA が抑制されている(例:1.0 ng/mL/h 未満)場合、より低いアルドステロン濃度(例:6 ng/dL 以上または 9 ng/dL 以上)を認めている。レニンの抑制、または少なくともレニンの低下は、一般に、アルドステロンの自律的分泌を支える生化学的必要条件である。このような観点から、アルドステロン値をどの程度にすれば「スクリーニング陽性」とみなすかは、個人のスタイル、費用対効果、特定の環境におけるその他のリソースによって決定されることが多い。より保守的な基準(レニンが低値でアルドステロン値が非常に高い)に頼ると、軽症例(すなわち偽陰性)を見逃す犠牲の上に典型的な症例が検出される可能性がある。一方、より緩やかな基準(レニンが低値でアルドステロン値が中程度または正常)に頼ると、偽陽性の数が増える犠牲の上に典型的な症例や軽症例が検出される可能性がある。

何十年もの間、レニンの主な臨床指標は血漿レニン活性 (plasma renin activity: PRA) であり、研究においてもこの指標が主に用いられてきた。しかし、世界的な傾向として、PRA をレニン濃度に置き換える動きがある。同様に、アルドステロンの測定は、ラジオイムノアッセイではなく、LC-MS/MS を用いて行われるようになってきている。LC-MS/MS によるアルドステロンの測定値は、他の測定値よりもかなり低いことが示されている。したがって、今後は臨床的に適切なアルドステロン濃度の新しい校正法と、カットオフを検討する必要があることを示唆している。

よくある疑問は、偽陰性を避けるために、検査前に降圧剤を中止する必要があるとすれば、それはどの薬なのかということである。ここでもまた、地域や個人的な習慣が異なる。レニンを上昇させ、ARR を低下させる降圧薬(MR 拮抗薬、ENaC 阻害薬など)を使用してもレニンが抑制されたままであれば、アルドステロンの自律的産生があると解釈できる。一方、これらの降圧薬のいずれかを服用しておりレニンが抑制されていない場合は、再検査の前にウォッシュアウト期間(通常はもっと短いが、最大 4-6 週間かかることがある)が必要な場合がある。このウォッシュアウト期間中は、レニン測定に影響を与えない降圧薬(例えば、α 遮断薬かつ/またはヒドララジン)とカリウム補充で患者の血圧と血清カリウムをコントロールする。

アンジオテンシン変換酵素(angiotensin-converting enzyme: ACE)阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬(angiotensin receptor blocker: ARB)は、正常な生理機能ではレニンを上昇させるため、しばしばレニン·アルドステロンの評価をする前にウォッシュアウト期間を設けることが推奨される。しかし、原発性アルドステロン症の病態生理においては、もともとレニンとアンジオテンシン II は抑制されているため、ACE 阻害薬や ARB が診断に影響を与えることはまれである。

β 遮断薬はレニンを低下させるため、ARR 偽陽性のリスクを増加させる。しかし、正常な生理機能においては、レニンを低下させると、アンジオテンシン II およびアルドステロンは低下するのが一般的である。したがって、β 遮断薬の効果のみで偽陽性となることは少ない。

同様に、カルシウム拮抗薬や利尿薬はすべて ARR に影響を与える可能性があるが、実用的にはほとんどの場合、その影響は診断を劇的に変えるほどではない。したがって、これらの薬を服用しながら ARR を測定することは可能である。これらの理由から、多くの専門家は、1. 患者がどの薬を使用しているかにかかわらず、原発性アルドステロン症が疑われる場合にはスクリーニングを行うこと、そして、2. レニンが抑制されていない場合にのみ MR 拮抗薬または ENaC 阻害薬のウォッシュアウト期間を設けることを考慮することを推奨している。ただし、原発性アルドステロン症の患者は、高血圧と低カリウム血症のコントロールが非常に困難なことがあるため、慎重な経過観察が必要である。

5-3. 機能確認検査 (confirmatory testing)
しばしばスクリーニング結果の裏付けとなる確認検査が必要となる。高血圧、低カリウム血症、レニン活性または濃度が測定感度未満で、血清アルドステロン値が十分に高 い(すなわち、15 または 20 ng/dL以上)患者については、 機能確認検査を追加する必要はなく、診断を確定できる。

初期スクリーニングの結果が圧倒的に納得のいくものでない場合は、機能確認検査を行ってもよい。機能確認検査はと事実上アルドステロン抑制試験であるが、プロトコル、結果の解釈、すなわち、どこから「陽性」とし、どこから「陰性」とするのかについては、かなりのばらつきがあり、コンセンサスが得られていない。推奨される主な機能確認検査は以下の 4 つである。

A. 経口ナトリウム負荷 (oral sodium load)
患者には、4000-6000 mg のナトリウム食を3-4 日間摂取するよう指示し、必要に応じて塩化ナトリウムの錠剤を追加する。ナトリウムを負荷すると尿中カリウム排泄が増加するため、通常はカリウムの追加補充も必要となる。食事療法の最終日には、24 時間蓄尿を行う。24 時間尿中ナトリウム排泄量が >200 mEq の場合に、24 時間尿中アルドステロン排泄量が >12 μg ならば原発性アルドステロン症と診断される。ただし、24 時間尿中アルドステロン排泄量が >10 μg を超える場合は、原発性アルドステロン症を強く示唆する。

B. 生理食塩水負荷試験 (saline infusion test)
患者に等張食塩水を 4 時間かけて 2L 輸液する。伝統的に、この検査は患者を仰臥位にして行うとされてきた。しかし、最近の研究では、患者を座位にして行うことにより、原発性アルドステロン症を同定する特異度を低下させることなく感度を高めることが示唆されている。輸液終了時に血清アルドステロン濃度が >10 ng/dL であれば原発性アルドステロン症と診断され、血清アルドステロン濃度が <5 ng/dL では原発性アルドステロン症は除外される。血清アルドステロン濃度が 5-10 ng/dL では不確定とみなされる。患者を座位にして検査を行った場合、ACTH の影響を除外するために、血清コルチゾール濃度が負荷前より負荷後の方が低い場合に限って、負荷後の血清アルドステロン濃度が >6 ng/dL で原発性アルドステロン症と診断される。

C. フルドロコルチゾン抑制試験 (fludrocortisone suppression test)
患者にフルドロコルチゾン 0.1 mg を 6 時間ごとに 4 日間投与し、ナトリウムとカリウムを補充する。4 日目の午前 7 時に血清コルチゾールを測定し、午前 10 時に座位で血清アルドステロン、PRA、コルチゾールを測定する。血清アルドステロン >6 ng/dL、PRA<1.0 ng/mL/h、午前 10 時の血清コルチゾールが午前7時の値以下であれば、原発性アルドステロン症と診断される。

D. カプトプリル負荷試験 (captopril challenge test)
少なくとも 1 時間座位または立位で過ごした後、25-50 mg のカプトプリルを投与する。血清アルドステロンと PRA は、カプトプリル投与前、投与 1 時間後、2 時間後に測定し、その間患者は座ったままとする。血清アルドステロンは正常人では抑制されるが、原発性アルドステロン症ではアルドステロンは上昇したままで、PRA は抑制されたままである。多くの異なる診断基準値が提案されている。PRA が抑制されたまま、アルドステロンの抑制がベースラインから 30%未満であれば、原発性アルドステロン症と確定される。あるいは、ARR >20 または >30 (ng/dL)/(ng/mL/h) であれば、診断を強く示唆する。

5-5. 局在診断
原発性アルドステロン症の診断が確定したら、局在診断を行う。アルドステロン産生副腎皮質がんのまれな例を除外するために、手術に関心がない患者に対しても、画像検査が推奨される(図 1)。

図 1. 副腎皮質がんと副腎腺腫の CT 所見
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6824480/figure/F1/

しかし、画像検査で左右どちらの副腎からアルドステロンが過剰分泌しているかを判定することは一般には推奨されておらず、誤解を招く可能性がある。非機能性副腎偶発腫が存在する可能性があるし、画像検査で目に見える異常がなくても片方または両方の副腎にアルドステロン産生腺腫が存在する可能性がある(図 1)。このため、ほとんどの専門家と専門学会は、副腎摘出の適応があり、副腎摘出を行う可能性のある原発性アルドステロン症患者のほとんどに対して、AVS による局在診断を推奨している。ただし、画像上明らかな片側腺腫があり、低カリウム血症を伴う重症の原発性アルドステロン症の若年(35 歳未満)患者では、目に見える片側腺腫がほとんど常に原因病変であるため、AVS は必要ないかもしれない。

一方で、ランダム化比較試験(SPARTACUS 試験)では、CT を用いた局在診断と AVS を用いた治療のどちらが効果的かを評価し、両アプローチとも 1 年後の血圧コントロールは同等であったと結論付けている。

AVS 手技は技術的に難しく、十分な経験を積んだ専門家が行うべきである。AVS の最適な方法論とプロトコルは、大きな議論となっている。

5-4. 診断アプローチ
図 2 は、原発性アルドステロン症の診断アプローチを示したものである。

図 2. 原発性アルドステロン症の診断アプローチ

6. 遺伝学
原発性アルドステロン症の評価における遺伝子検査は、日常臨床では一般的ではない。遺伝性の原発性アルドステロン症はまれである。最近の総説では、原発性アルドステロン症の遺伝学について詳細に論じられている。

6-1. 糖質コルチコイド反応性アルドステロン症(glucocorticoid remediable aldosteronism: GRA)
GRA は家族性アルドステロン症(familial hyperaldosteronism: FH)I 型としても知られ、常染色体優性遺伝する BAH による原発性アルドステロン症のまれな型であり、原発性アルドステロン症の全症例の 1%未満である。

これらの患者は、CYP11B1(11β-水酸化酵素)遺伝子のプロモーター配列と CYP11B2(アルドステロン合成酵素)遺伝子のコード配列が融合した変異を有し、ACTH 駆動性のアルドステロン分泌をもたらす。

GRA 患者は、他の原発性アルドステロン症患者よりも低カリウム血症になりにくい。これは、ACTH 分泌の概日性に関係していると考えられる。臨床的に疑われる場合には、遺伝子検査によって診断を確定すべきであるが、遺伝子検査を実施できない、または実施する余裕がない環境では、デキサメタゾン抑制試験を第二選択として用いることができる。デキサメタゾン抑制検査では、デキサメタゾンを 1 回 1 mg、1日 2 回、3 日間処方することができる。3 日目の血清アルドステロンが 4 ng/dL 未満であれば、GRA 陽性とみなされる。GRA が確認されれば、MR 拮抗薬に加えて、ACTH を抑制するための低用量グルココルチコイドを開始することができる。

6-2. 家族性アルドステロン症(familial hyperaldosteronism: FH)II-IV 型
従来、家族性の原発性アルドステロン症患者は、GRA が除外された場合、FH-II 型に分類されていた。FH-II 型は現在でも FH の最も一般的な型と考えられている。FH-II は通常は常染色体優性遺伝であると考えられており、臨床的には原発性アルドステロン症の散発型と類似している。最近まで、FH-II の原因となる変異は不明のままであったが、連鎖解析により染色体 7p22 に位置づけられた。最近の2つの研究により、遺伝性原発性アルドステロン症の原因となる CLCN2 クロライドチャネルの変異が発見され、少なくとも FH-II の一部の症例を占める可能性があることが示された。

FH-III は、KCNJ5 カリウムチャネルの変異に起因する極めてまれな疾患であり、重度の小児高血圧と原発性アルドステロン症を呈する。

FH-IV の表現型には、神経認知障害、てんかん、自閉症も含まれる。CACNA1D の L 型電位依存性カルシウム遺伝子の de novo 変異は、原発性アルドステロン症を引き起こす可能性があり、小児期の発作や神経学的異常(PASNA として知られている)とも関連している。

6-3. アルドステロン産生腺腫の遺伝と病態
遺伝性原発性アルドステロン症のまれであるが、現在では APA の大多数がアルドステロンの自律的分泌をもたらす既知の病原性突然変異を有していることが明らかになりつつある。最も多く同定された変異は、KCNJ5(43%)、CACNA1D(21%)、ATP1A1(17%)であった。KCNJ5 変異は女性に多く、若年で発現し、より重症の原発性アルドステロン症の表現型と関連し、副腎摘出術後の臨床的治癒率が高いことが示されている。

これらの体細胞性変異によって副腎皮質の球状帯 (zona glomerulosa) 細胞の電位依存性カルシウムチャネルは、直接的または間接的に影響を受ける。しかし、これらの変異によって引き起こされる原発性アルドステロン症がカルシウムチャネル遮断薬による治療に特に感受性があるかどうかはまだ不明である。結局のところ、これらの突然変異の検査は現在のところ標準的な臨床診療の一部ではなく、この知識が日常臨床診療に実際どのように影響するかは未定である。

6-3. アルドステロン産生細胞クラスター
近年、アルドステロン産生細胞クラスター(aldosterone-producing cell clusters: APCC)と呼ばれる自律性アルドステロン分泌細胞の非腫瘍性クラスターが、原発性アルドステロン症の有無にかかわらず、剖検 (post-portum studies) で同定されている。APCC は、CYP11B2 の発現領域として定義され、原発性アルドステロン症に関連する病原性体細胞変異を一般的に保有していることが知られている。APCC は、1. BAH(または特発性アルドステロン過剰症)、2. 加齢に伴う自律性アルドステロン症、および 3. 腫瘍性原発性アルドステロン症の前駆病変の 1 つである可能性が提唱されている。

7. 原発性アルドステロン症の管理

7-1. ナトリウム制限
本態性高血圧と同様に、原発性アルドステロン症の患者では減塩を奨励すべきである。生理学的には、食事からのナトリウム摂取量を減少させると、レニンとアンジオテンシン II の両方の上昇につながる血管内容量の低下をもたらす。このアンジオテンシン II の上昇は、遠位尿細管へのナトリウム供給の減少につながり、原発性アルドステロン症におけるアルドステロン-MR-ENaC を介した遠位尿細管における病的なナトリウム再吸収を抑制する。

しかし、ナトリウム制限だけでは、多くの原発性アルドステロン症患者の長期的な健康上の有害なアウトカムを改善するには不十分である可能性が高い。例えば、ある先行研究では、<50 mmol/日の厳格なナトリウム制限を行うと、原発性アルドステロン症が確認された患者の半数以上でレニンが有意に上昇し、ARR が正常化した。しかし、これほどのナトリウム制限を続けることは、ナトリウム摂取量が平均で 150-200 mmol/日である北米および欧州のほとんどの患者には極めて難しいだろう。

7-2. ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬
生涯にわたる MR 拮抗薬服用は、両側性原発性アルドステロン症の患者だけでなく、外科的副腎摘出術を受けることができない、または受けたくない片側性原発性アルドステロン症の患者に対しても推奨される。最も一般的な 2 つの MR 拮抗薬はスピロノラクトン (spironolactone) とエプレレノン (eprelemone) であり、スピロノラクトンはエプレレノンの約 2 倍の効力があるが、男性では女性化乳房のリスクがあり、服薬が難しくなることがある。MR 拮抗薬は、ENaC を介したナトリウムの再吸収とそれに伴う血管内容量の増加を減少させ、カリウムと水素イオンの排泄を減少させる。この点で、MR 拮抗薬は通常、血圧を大幅に低下させ(あるいは降圧薬の数を減らし)、カリウムバランスを改善することができる。

原発性アルドステロン症では MR 拮抗薬を生涯にわたって使用することが推奨されているにもかかわらず、1. 本態性高血圧患者と比較した場合、これらの薬剤が長期的な健康上の有害なアウトカムを減少させるのにどの程度有効なのか、また、2. 最適な臨床結果を得るためにはこれらの薬剤をどのように投与すればよいのかは不明なままであった。

この知識のギャップを埋めようと試みた最近の多くのコホート研究では、MR 拮抗薬による治療にもかかわらず、原発性アルドステロン症患者は本態性高血圧患者と比較して長期的な健康アウトカムが引き続き悪いことが示唆されている。最近の大規模コホート研究では、MR 拮抗薬による治療を受けた原発性アルドステロン症患者と、年齢をマッチさせた本態性高血圧で血圧コントロールが同程度の患者における心血管アウトカムが比較された。MR 拮抗薬で治療されているにもかかわらず、原発性アルドステロン症患者は、血圧コントロールが同程度である本態性高血圧患者と比較して、心筋梗塞、心不全による入院、脳卒中の発症リスクが 2 倍高かった。MR 拮抗薬による治療を受けた原発性アルドステロン症患者では、心房細動、糖尿病、慢性腎臓病、死亡のリスクもかなり高かった。

重要なことは、これらの有害な心血管アウトカム(心筋梗塞、心不全、脳卒中、心房細動)および死亡の超過リスクは、MR 拮抗薬で治療されているにもかかわらずレニンが抑制されたまま(<1.0 ng/mL/h)であった患者に効果的に限定されたことである。レニンの大幅な上昇(≧1.0 ng/mL/h)を達成した原発性アルドステロン症患者で、MR 拮抗薬の投与量もやや多かった患者では、心血管イベントと死亡の発生リスクが低く、本態性高血圧患者で観察されたリスクと同様であった。

これらの研究は、複数の先行研究とともに、原発性アルドステロン症における有害な健康上のアウトカムの超過リスクの多くが、血圧コントロールとは無関係に生じているという事実を強調している。したがって、原発性アルドステロン症では、血圧のみでは治療効果の十分な指標とはならない可能性がある。

対照的に、これらの研究は、血管内容量減少を反映するレニンの上昇が、MR 拮抗薬が適切に使用されているかを評価する臨床的に有用なバイオマーカーである可能性を示唆している。しかし、スピロノラクトンの抗アンドロゲン作用と高カリウム血症のリスク(特に腎臓病患者において)のために十分量のスピロノラクトンを使用することは必ずしも可能ではないかもしれない。MR 拮抗薬とナトリウム制限を併用して血圧とカリウムを正常化し、レニン活性を検出可能な範囲まで上昇させることが、持続的に達成できる場合には理想的な治療法かもしれない。

7-3. 副腎摘出術
原発性アルドステロン症の根治療法としての副腎摘出術は、手術を受けられるほど健康な片側原発性アルドステロン症患者に選択される治療法である。この手術は現在、主に腹腔鏡下、あるいは後腹鏡下で行われ、その結果、合併症の発生率は低く、入院期間は短くなっている。

低カリウム血症の消失、高血圧の消失または重症度の低下、生化学的治癒によって示されるように、原発性アルドステロン症の治癒における高い成功率が複数の研究で実証されている。 原発性アルドステロン症の治療におけ副腎摘出術と MR 拮抗薬の直接的比較についての知見は、片側性疾患と両側性疾患の人口統計および臨床像の偏りのために限られている。しかし、これらの偏りをコントロールしようとした数少ない研究では、副腎摘出術は MR 拮抗薬治療と比較して、長期的な心血管アウトカム、腎アウトカム、死亡率が改善することが示唆されている。したがって、片側原発性アルドステロン症で、安全に手術を受ける意思と能力がある患者には、手術療法を強く推奨する。

原発性アルドステロン症の治療における未解決の重要な問題は両側性原発性アルドステロン症の特定の症例において、疾患による負荷を軽減することを目的として片側の副腎摘出術を考慮すべきかどうかである。

上述したように、コホート研究では、MR 拮抗薬を用いた原発性アルドステロン症の治療成績が、1. 片側性原発性アルドステロン症に対する副腎摘出術と、2. 血圧コントロールが同程度の本態性高血圧の両方と比較して、劣っていることが示唆されている。両側性の原発性アルドステロン症で、MR の最大投与量でのコントロールが困難な場合や、女性化乳房や高カリウム血症などの副作用により MR 拮抗薬の投与が制限される場合(慢性腎臓病の割合が高い場合など)には、片側の副腎を摘出することで、内科的治療が必要な自律性アルドステロン分泌を減らすことができる。しかし、この問題を扱う既存のデータが少ないことから、この決定は個々の臨床医の判断に基づいてケースバイケースで行う必要がある。

8. 結論
原発性アルドステロン症は、比較的よくみられるが、しばしば見過ごされる高血圧の原因であり、血圧への影響とは無関係に、かなりの合併症と死亡率に関連している。この論文では、この疾患に関する最新の知見について述べ、入手可能な最新のデータに基づく診断および治療アプローチについて提案した。

自律性アルドステロン分泌のより早期で微妙な病型への認識を深め、原発性アルドステロン症患者のケアを改善するための個別化された治療法を特定するためには、今後の前向き研究や介入研究が必要である。

元論文
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6824480/

甲状腺機能亢進症

2024-06-02 15:22:22 | 内分泌
甲状腺機能亢進症
Lancet 2016; 388: 906-918

甲状腺機能亢進症は甲状腺ホルモン合成と分泌の亢進であり、甲状腺中毒症は過剰な甲状腺ホルモンによる臨床症候群を指す。

甲状腺機能亢進症の最も多い原因はバセドウ病 (Grave's disease) で、プランマー病 (toxic nodule goiter) がそれに続く。甲状腺中毒症の他の原因としては、甲状腺炎 (thyroiditis)、ヨード誘発性甲状腺機能障害 (iodine-induced thyroid dysfunction)、薬剤性甲状腺機能障害 (drug-induced thyroid dysfunction)、甲状腺ホルモン摂取による詐病 (factitious ingestion of excess thyroid hormones) などがある。

バセドウ病の治療法には、抗甲状腺薬 (antithyroid drugs)、ラジオアイソトープ治療 (radioactive iodine therapy)、手術がある。プランマー病では、抗甲状腺薬は中止後に甲状腺中毒症を再発することが多いため、一般に長期的には使用されない。β 遮断薬は症候性甲状腺中毒症に使用され、甲状腺ホルモンの過剰産生が原因でない甲状腺中毒症に必要な唯一の治療法である。妊娠中および出産後の甲状腺機能亢進症は、慎重な評価と治療が必要である。

1. はじめに
甲状腺機能亢進症は、甲状腺によって過剰な甲状腺ホルモンが合成・分泌される病的状態である。甲状腺機能亢進症をともなう甲状腺中毒症あるいは真の甲状腺機能亢進症では、甲状腺の放射性ヨウ素の取り込みが正常か高いことが特徴である。

一方、甲状腺機能亢進症を伴わない甲状腺中毒症とは、1. 甲状腺外からの甲状腺ホルモンの供給がある、あるいは 2. あらかじめ合成され、(濾胞内に貯蔵されている) 甲状腺ホルモンが血中に放出されることによって引き起こされる (表 1)。

表 1. 甲状腺機能亢進症の病態生理と原因
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5014602/#R1

明らかな甲状腺機能亢進症 (overt hyperthyroidism) は、血清甲状腺刺激ホルモン (thyroid-stimulating hormone: TSH) 濃度が低く、甲状腺ホルモン:サイロキシン (thyroxine: T4)、トリヨードサイロニン (tri-iodethyronine: T3)、またはその両方の血清濃度が高いことが特徴である。潜在性甲状腺機能亢進症 (subclinical hyperthyroidism) は、血清 TSH 濃度が低いが、血清 T4 と T3 濃度が正常であることを特徴とする。ここでは潜在性甲状腺機能亢進症については触れないが、最近別の Lancet セミナーでレビューされている。

2. 疫学
甲状腺機能亢進症の有病率は、ヨーロッパでは0.8%、アメリカでは1.3%である。明らかな甲状腺機能亢進症の有病率は、ヨーロッパでは0.5-0.8%、アメリカでは 0.5%である。民族差に関するデータは少ないが、甲状腺機能亢進症は白人の方が他の人種よりもわずかに頻度が高いようである。

3. 病因
3-1. 甲状腺機能亢進症を伴う甲状腺中毒症
ヨウ素充足地域で甲状腺機能亢進症の最も多い原因はバセドウ病 (Grave's disease) である。スウェーデンでは、バセドウ病の年間発症率は増加しており、2000 年代には人口 10 万人当たり 15-30 人の新規患者が発生している。

バセドウ病の原因は多因子性であり、1. 免疫寛容の喪失と、2. TSH 受容体に結合して甲状腺濾胞細胞を刺激する自己抗体の発現から生じると考えられている。しかし、一卵性双生児における一致率はわずか 17-35%であり、浸透率 (penetrance) が低いことを示唆している。

バセドウ病に関与する遺伝子は、免疫調節遺伝子(HLA 領域、CD40、CTLA4、PTPN22、FCRL3)とサイログロブリン遺伝子やTSH 受容体遺伝子などの甲状腺自己抗原である。バセドウ病発症の非遺伝的危険因子には、心理的ストレス、喫煙、女性であることがある。バセドウ病の有病率が女性で高いことから、性ホルモンや X 染色体の偏った不活性化などの染色体因子が引き金になることが疑われている。

その他、感染症(特に TSH 受容体との分子的な類似性によるエルシニア・エンテロコリチカ [Yersinia enterocolitica])、ビタミン D やセレンの欠乏、甲状腺の直接的な障害、免疫調節薬などの要因も疑われている。

他に甲状腺機能亢進症の原因として多いのは、中毒性多結節性甲状腺腫 (toxic multinodular goiter) と孤立性中毒性腺腫 (solitary toxic adenoma) である。

中毒性多結節性甲状腺腫と孤立性中毒性腺腫
https://www.kuma-h.or.jp/kumapedia/encyclopedia/detail/?id=223&sub_category=

ヨウ素充足地域 (※日本はヨウ素充足地域) では甲状腺機能亢進症患者の約 80%がバセドウ病であるが、ヨウ素欠乏地域では中毒性多結節性甲状腺腫と中毒性腺腫が甲状腺機能亢進症の全症例の 50%を占め、高齢者に多い。甲状腺結節は自律性 (autonomous) になり、TSH や TSH 受容体抗体からのシグナルとは無関係に甲状腺ホルモンを産生する (図 1)。

図 1. 甲状腺の自律性の病態生理
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5014602/figure/F1/

甲状腺機能亢進症の原因で多くないものとしては、中枢性甲状腺機能亢進症 (thyrotropin-induced thyrotoxicosis) や絨毛腫瘍 (trophoblastic tumor) があり、それぞれ過剰な TSH やヒト絨毛性ゴナドトロピン (human chorionic gonadotropin) によって TSH 受容体が刺激される。

3-2. 甲状腺機能亢進症を伴わない甲状腺中毒症
甲状腺機能亢進症を伴わない甲状腺中毒症はあまり多くなく、ふつう一過性である。無痛性甲状腺炎 (silent thyroiditis)、分娩後甲状腺炎 (post-partum thyroiditis)、亜急性甲状腺炎 (subacute painful thyroiditis) の患者では、甲状腺濾胞細胞の破壊によりあらかじめ合成され、貯蔵された甲状腺ホルモンが血中に放出される。

薬剤性甲状腺機能障害の原因薬物で多いのは、リチウム、インターフェロン-α、アミオダロンである。

外因性甲状腺中毒症は詐病または医原性で、過剰量の甲状腺ホルモンを摂取した後に発症し、血清サイログロブリン濃度は低下する。

異所性甲状腺機能亢進症はきわめてまれで、機能性甲状腺癌の転移や、機能性甲状腺組織を含む卵巣腫瘍である卵巣甲状腺腫 (struma ovarii) などがある。

4. 臨床症状と合併症
4-1. 甲状腺ホルモン過剰による症状
過剰な甲状腺ホルモンはさまざまな臓器系に影響を及ぼす(表 2)。

表 2. 甲状腺機能亢進症の徴候および症状
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5014602/table/T2/

よく報告される症状は、動悸、疲労、振戦、不安、睡眠障害、体重減少、暑熱不耐、発汗、多飲多尿である。頻度の高い身体所見は、頻脈、振戦、発汗、体重減少などである。

4-2. 甲状腺機能亢進症の原因別の徴候および症状
バセドウ病では眼症 (opthalmopathy)、甲状腺皮膚症 (thyroid dermopathy)、甲状腺先端症 (thyroid acropathy) を認めることがある。

結節性甲状腺腫では食道や気管の圧迫による喉の異物感 (globus sensation)、嚥下困難、起坐呼吸 (orthopnea)、有痛性亜急性甲状腺炎では前頚部痛などの徴候や症状がある。

眼症 (opthalmopathy) は、バセドウ病眼窩症 (Grave's orbitopathy) としても知られ、バセドウ病患者の 25%にみられる。活動性または中等度から重度のバセドウ病眼症を管理する専門知識を持たない臨床医は、評価と管理のために甲状腺眼科クリニックに患者を紹介すべきである。

甲状腺皮膚症 (thyroid dermopathy) はバセドウ病のまれな甲状腺外症状であり、甲状腺眼症の患者の 1-4%にみられる。ほとんど全ての患者が眼症を併発している。病変の特徴は、主に脛骨前面部を巻き込んだ、わずかに色素沈着した肥厚皮膚である。

甲状腺皮膚症の肉眼所見
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/graves-disease/multimedia/graves-dermopathy/img-20007558

先端症 (acropathy) はバセドウ病の甲状腺外症状で最もまれなもので、手指と足指の肥大を呈する。

甲状腺先端症の肉眼所見および X 線写真
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2376060520300286

4-2. 甲状腺機能亢進症でみられる合併症
甲状腺機能亢進症の臨床症状は、患者の年齢や性別、併存疾患、罹病期間、原因などいくつかの要因によって異なる。

高齢の患者では、若年患者よりも症状が少なく、目立たないが、心血管合併症を起こす可能性が高い。甲状腺機能が正常な 60 歳以上の人と比較すると、甲状腺機能亢進症の人は心房細動のリスクが 3 倍になる。

甲状腺機能亢進症に続発する心房細動に関連した心原性脳梗塞は、甲状腺以外の原因による心房細動に関連した心原性脳梗塞よりも有意に多い。しかし、甲状腺機能亢進症に続発する心房細動患者に対して抗凝固療法を行うべきかどうかについては、まだ議論されている。甲状腺機能亢進症患者において、心房細動はうっ血性心不全発症の独立した予測因子であるとも考えられている。

甲状腺機能亢進症にともなうもう一つの重篤な合併症は、甲状腺中毒性周期性麻痺 (thyrotoxic periodic paralysis) である。甲状腺中毒性周期性四肢麻痺はアジアで多く、北米での罹患率は 0.2%であるのに対し、日本では 2%である。甲状腺中毒性周期性四肢麻痺は筋麻痺、急性低カリウム血症、甲状腺中毒症の三徴候で特徴付けられ、筋肉細胞内へのカリウムの移行によって起こる。疑われる場合には、不整脈を予防し筋機能を回復させるために、低用量のカリウムと非選択的 β 遮断薬による治療をできるだけ早く開始すべきである。

長期にわたる甲状腺中毒症のその他の合併症には、骨粗鬆症や、男性では女性化乳房、女性では生殖機能の低下や月経不順などの生殖器系の異常がある。

5. 診断
血清 TSH は甲状腺疾患の診断において最も感度と特異度が高いため、最初に測定すべきである。

TSH 低値の場合は、潜在性甲状腺機能亢進症 (甲状腺ホルモン正常) と顕性甲状腺機能亢進症 (甲状腺ホルモン増加) を区別するために、血清 free T4 または free T4 index、free T3 または total T3 濃度を測定すべきである。また、TSH 産生下垂体腺腫や甲状腺ホルモン不応症のように、甲状腺ホルモン濃度が上昇し、TSH 濃度が正常かわずかに上昇しただけの疾患も鑑別できる。

甲状腺中毒症の原因を評価するために好まれる方法は、集団の特徴、文化的背景、社会経済的理由などから大きく異なる。米国甲状腺協会 (American Thyroid Association: ATA) と米国臨床内分泌医会 (American Association of Clinical Endocrinologist: AACE) の甲状腺機能亢進症と甲状腺中毒症に関するガイドラインでは、バセドウ病の診断が確定していない場合は、放射性ヨウ素シンチグラフィを推奨している。 一方、欧州、日本、韓国では、甲状腺超音波検査と TSH 受容体抗体 (TSH receptor antibodies: TRAb) による評価が推奨されている。米国のガイドラインでは、特に放射性ヨウ素シンチグラフィが利用できないか禁忌の場合に、バセドウ病診断の代替手段として TRAb を測定するとしている。この勧告はブラジルの甲状腺コンセンサスでも共有されており、TRAb 検査は特定の症例にのみ有用であるとし、甲状腺中毒症の初期評価には放射性ヨウ素シンチグラフィを推奨している。この推奨はブラジルの甲状腺コンセンサスでも共有されており、TRAb 検査は特定の症例にのみ有用であり、甲状腺中毒症の初期評価には放射性ヨード取り込みを推奨している。

バセドウ病患者の放射性ヨウ素シンチグラフィは、びまん性の取り込み増加を示す。一方、中毒性多結節性甲状腺腫では放射性ヨウ素の取り込みは正常~増加、非対称で不規則な取り込みパターンを示す。中毒性甲状腺腫では限局性の取り込みパターンを示し、残りの甲状腺組織では取り込みが抑制される。甲状腺ホルモンが甲状腺以外に由来する場合や、無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎のように貯蔵されていた甲状腺ホルモンが放出されることによって甲状腺中毒症を来している場合は、放射性ヨウ素の取り込みは非常に低い (図 2)。

図 2. 甲状腺機能亢進症の評価アルゴリズム
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5014602/figure/F2/

甲状腺超音波と甲状腺放射性ヨウ素シンチグラフィは、バセドウ病の診断において同程度の感度を持っている (それぞれ95.2%、97.4%) 。超音波の利点は、電離放射線への被爆がないこと、甲状腺結節の検出精度が高いこと、放射性ヨウ素シンチグラフィに比べて費用が安いことである。さらに、カラードップラー超音波検査は、バセドウ病 (血流増加、低エコーのびまん性甲状腺腫) と破壊性甲状腺炎 (血流減少) を区別する。欧州と米国の内分泌専門医間のアプローチの違いは、甲状腺機能亢進症の疫学が異なる結果かもしれない。

TRAb 測定は最近数年で信頼性が向上し、費用も安くなった。さらに、TRAb 測定は抗甲状腺薬投与中止後の再発リスクの予測や、バセドウ病の女性患者における胎児または新生児甲状腺中毒症の検出に有用である。これらの抗体は容易に胎盤を通過するからである。

6. 治療法
甲状腺機能亢進症の患者を治療する 3 つの選択肢は、抗甲状腺薬 (antithyroid drugs: ATDs)、放射性ヨウ素アブレーション、手術である。中毒性甲状腺腺腫や中毒性多結節性甲状腺腫の患者では、寛解に至ることはほとんどないため、放射性ヨウ素治療か手術のどちらかを受けるべきである。中毒性結節性甲状腺腫の患者において、ATDs は一般的に、手術または放射性ヨウ素による根治療法の前に甲状腺機能を正常化させるために使用され、他の 2 つの治療法が禁忌であるか、患者の余命が短い場合に長期治療として使用されることが稀にある。

バセドウ病の治療法は地域によって異なる。北米では、放射性ヨウ素治療が最初の治療としてよく使われる。米国以外では、ATD が一次治療として好まれ、確定治療は持続性または再発性の甲状腺機能亢進症の患者にのみ行われる。甲状腺中毒症の症状を緩和するために β 遮断薬が処方されることもある。

6-1. 抗甲状腺薬
抗甲状腺チオナミド薬 (antithyroid thionamide drugs) はプロピルチオウラシル (propylthiouracil)、チアマゾール (thiamazole)、カルビマゾール (carbimazole) である。いずれも甲状腺に積極的に輸送され、甲状腺ペルオキシダーゼ (thyroid peroxidase: TPO) をの活性を阻害することでヨウ素の酸化と有機化を阻害する。これにより、T4 および T3 の合成に必要なヨウ素化チロシンのカップリングを阻害する。

カルビマゾールはヨーロッパとアジアの一部の国で入手可能で、体内でチアマゾールに変換されるプロドラッグである。プロピルチオウラシルを大量に投与すると、T4 の外環脱ヨウ素化酵素 (outer ring deiodinase) を阻害することにより、末梢組織における T4 から T3 への変換が減少する。この作用はチアマゾールでは認めない。プロピオチオウラシルには抗炎症作用や免疫抑制作用もあるかもしれない

T4 から T3 への変換
https://images.app.goo.gl/d82dVXzaob8pidnU6

ATA/AACE のガイドラインでは、バセドウ病ではチアマゾールが望ましい薬剤として推奨されている。例外は、妊娠初期とチアマゾールに対する副作用のある患者の治療である。チアマゾールはプロピルチオウラシルと比較して、有効性が高いこと、半減期と作用時間が長いこと、プロピルチオウラシルの 1 日 2-3 回投与と比較して 1 日 1 回投与が可能であること、副作用が少ないことなど、いくつかの利点がある。

プロピルチオウラシルを投与された患者における肝障害の報告により、ATA と米国食品医薬品局はバセドウ病の管理におけるプロピルチオウラシルの役割を評価し直し、第一選択療法としてのプロピルチオウラシルの使用を推奨しなかった。

ATD とヨウ化カリウムの併用による初期治療が提案されているが、この方法は一般的には推奨されていない。

6-2. 抗甲状腺薬療法とフォローアップ
バセドウ病の治療には、漸減法 (titration) とブロック & リプレース (block & replace) の 2 つのアプローチがある。漸減法では、ATD の投与量を時間をかけて漸減し、甲状腺機能低下状態を維持するのに必要な最低量にする。2 つのレジメンは同等に有効であるが、ブロック & リプレースは漸減法よりも副作用の発生率が高いようである。したがって、漸減レジメンを第一選択とすべきであるが、どちらのアプローチも同等に安全であると考える著者もいる。

チアマゾールの開始用量は甲状腺機能亢進症の重症度と甲状腺の大きさによって異なる。軽度の甲状腺機能亢進症で甲状腺が小さい場合は、チアマゾールを 1 日 10-15 mg、重度の甲状腺機能亢進症で甲状腺が大きい場合は 1 日 20-40 mg 必要である。

カルビマゾールの等価用量はチアマゾールの 140%である。プロピルチオウラシルの開始用量は、通常 50-150 mg を 1 日 3 回投与する。甲状腺機能は治療開始後 4-6 週間後にチェックし、その後、甲状腺機能が正常になったら 2-3 ヶ月毎にチェックすべきである。TSH は数ヶ月間抑制されたままかもしれないので、治療の効果を評価するために血清 T4 と T3 をモニターすべきである。一度、甲状腺機能正常 (euthyroid) が達成されたら、チアマゾールの維持量として 1 日 5-10 mg、またはプロピルチオウラシル 50 mg を 1 日 2-3 回、またはそれ以下の量を 12-18 ヶ月間続けるべきである。

ATD 療法の欠点は、薬剤中止後の甲状腺機能亢進症の再発率が高いことである。再発のリスクは患者によって大きく異なるが、26 件の無作為化臨床試験のコクランレビューによると 50-55%と推定されている。再発のリスクが高い患者は、重度の甲状腺機能亢進症、大きな甲状腺腫、高い T3:T4 比、持続的な TSH 抑制、ベースラインの TRAb 濃度が高い患者である。治療終了時に TRAb 濃度を評価することは、治療中止後に甲状腺機能亢進症が再発する患者を同定するのに有用であろう。

ある前向き研究では、甲状腺機能亢進症が再発した場合、チオナミド系薬剤投与を再開することで長期寛解がもたらされることが示唆されている。それでもなお、ATD 療法の 2 コース目の有効性と副作用を放射性ヨウ素アブレーションや手術と比較するためには、さらなる研究が必要である。

6-3. 副作用
ATD の軽度の副作用は患者の約 5%にみられる。これらの副作用には、そう痒、関節痛、胃腸障害などがある。軽度の皮膚反応がみられる患者では、抗ヒスタミン薬を追加するか、一方の ATD を他方の ATD に置き換えても良い。

ATD の重度の副作用はまれである。顆粒球数が 500 /mm³ 未満となる無顆粒球症 (agranulocytosis) は、最も頻度の高い重度の副作用であり、生命を脅かす可能性がある。患者は通常、発熱または咽頭痛、あるいはその両方を呈し、頻度は高くないが悪寒、下痢、筋肉痛など症状を伴うこともある。無顆粒球症の年間発生率は 0.1-0.3%と推定されており、一般的に治療開始後 90 日以内に発症する。ATD を投与されている患者がこのような症状を呈した場合は、白血球分画を測定し、顆粒球数が 1000 /mm³未満であれば、ATD を直ちに中止すべきである。無顆粒球症およびそれに関連する感染症の治療も必要な場合があり、例えば、広域抗生物質の投与や顆粒球コロニー刺激因子 (granulocyte colony stimulating factor: GCS-F) の投与が挙げられ、これは回復時間を短縮することが示されている。無顆粒球症については、チアマゾールとプロピルチオウラシルの交差反応性が報告されているため、他の ATD に切り替えることは禁忌である。

ATA/AACE のガイドラインは、治療開始前に全患者にベースラインの全血球数を測定することを推奨しているが、治療中は定期的なモニタリングを行わないよう勧告している。無顆粒球症の症状を認識し、発熱やのどの痛みが生じたら、できるだけ早く薬剤を中止し、医師に連絡するよう患者に指導すべきである。ある調査では、ATD を服用している患者において無顆粒球症に関する知識が不足していることが示された。ATD の他の非常にまれな血液学的副作用としては、再生不良性貧血、血小板減少症、低プロトロンビン血症などがある。

もう一つの重度の副作用は肝毒性で、患者の 0.1-0.2%にみられる。肝毒性はまれに急性肝不全として現れることがあるが、これはチアマゾールよりもプロピルチオウラシルの方がより高い頻度で関連し、肝移植を必要とすることがある。ATA/AACE のガイドラインでは、ベースライン時に肝機能検査を行うことを推奨しているが、そう痒性発疹、黄疸、淡色便 (light-coloured stool)、暗色尿 (dark urine) などの肝機能障害の症状を患者が訴えない限り、定期的なモニタリングを行わないことを推奨している。チアマゾールを服用している患者では、胆汁うっ滞が起こることがある。この副作用はプロピルチオウラシルではまれで、肝障害は主に肝細胞壊死に関連する。

血管炎は、ATD による治療中に報告された非常にまれな合併症である。抗好中球細胞質抗体 (antineutrophil cytoplasmic antibody) と関連する血管炎は、チアマゾールを服用している患者よりもプロピルチオウラシルを服用している患者でより頻度が高い。患者は発熱、関節痛、皮膚病変を呈することもあれば、臓器不全(主に腎臓と肺)を起こすこともある。

6-2. 放射性ヨウ素治療
放射性ヨウ素治療は安全で費用対効果が高く、バセドウ病、中毒性腺腫、中毒性多結節性甲状腺腫の第一選択治療となる。絶対禁忌は、妊娠、授乳中、妊娠計画中、放射線の安全に関する勧告に従えない場合などである。

生検検体から甲状腺がんが疑われる、または甲状腺がんと診断される甲状腺結節患者では、放射性ヨウ素は禁忌であり、手術が推奨される。

メタ分析では、放射性ヨウ素治療を受けた患者では、バセドウ病眼症の悪化リスクが ATD で治療された患者より明らかに高く(RR 4.23, 95%CI 2.04-8.77)、手術と比較してリスクがわずかに高い(RR 1.59、0.89-2.81)ことが報告されている。したがって、活動性の中等度から重度のバセドウ病眼症または視力を脅かすバセドウ病眼症の患者では、放射性ヨウ素治療は禁忌である。

軽度の活動性バセドウ病眼症の患者では、放射性ヨウ素治療後に予防的ステロイド治療(プレドニンを 0.3-0.5 mg/kg/day、放射性ヨウ素投与 1-3 日後から開始し、3 ヵ月かけて漸減する)を行うべきである。

放射性ヨウ素治療後にバセドウ眼症を発症・悪化させる危険因子としては、喫煙、治療前の T3 濃度が高い (5 nmol/L 以上)、TRAb 力価が高い、放射性ヨウ素治療後の未治療の甲状腺機能低下症などがある。危険因子を有するがバセドウ眼症を発症していない、または発症していない患者におけるグルココルチコイド予防の必要性については議論がある。

6-2-1. 放射性ヨウ素治療を受ける患者の管理
高齢者や基礎疾患(特に心血管疾患)がある場合、重度の甲状腺中毒症がある場合には、放射性ヨウ素治療に先立って、ATD による前処置が必要となることがある。

しかし、前処置の必要性と放射性ヨウ素治療に対する ATD の効果については議論がある。チアマゾールによる前処置は放射性ヨウ素治療の効果には影響しないが、放射性ヨウ素治療前にベースラインの甲状腺ホルモン濃度を下げるので保護的であるという意見がある。メタ分析によると、ATD による前処置は治療失敗のリスクを増加させ (RR 1.28, 95% CI: 1.07-1.52)、放射性ヨウ素治療後の甲状腺機能低下症のリスクを減少させた (RR 0.68, 95%CI: 0.53-0.87)。

ATD は放射性ヨウ素治療の 3-5 日前に中止し、3-7 日後に再開し、甲状腺機能が正常化したらすぐに中止すべきである。

最適な放射性ヨウ素の用量については、あらかじめ決められた用量を用いる方法と甲状腺の放射性ヨウ素取り込み量に基づいて用量を計算する方法との間で議論されている。あらかじめ決められた用量を用いる場合、バセドウ病の治療では 10-15 mCi、中毒性結節性甲状腺腫では 10-20 mCi が推奨線量である。

6-2-2. 放射性ヨウ素治療を受けた患者のフォローアップ
甲状腺機能は、放射性ヨウ素治療後 1-2 ヶ月後にモニターすべきである。特にバセドウ病眼症を発症または悪化させるリスクのある患者では、甲状腺機能低下症を発見するために (※TSH 高値はバセドウ眼症を悪化させ得るため)、放射性ヨウ素治療後 6 週間以内に free T4 を測定することを勧める人もいる。

もし、患者が放射性ヨウ素治療後 1-2 ヶ月経っても甲状腺中毒症のままであれば、患者が甲状腺機能正常または甲状腺機能低下になるまで 4-6 週間ごとに甲状腺機能をモニターすべきである。

甲状腺機能低下症となったらすぐにレボサイロキシン (levothyroxine) の補充を始めるべきである。放射性ヨウ素を投与された患者の中には、一過的に甲状腺機能低下症となり、その後甲状腺機能亢進症が再発することがあるので、甲状腺機能低下後のモニタリングは重要である。

6 ヶ月後に再発または甲状腺機能亢進症が持続している患者には、再び放射性ヨードを投与しても良い。

6-2-3. 副作用
眼症を除けば、放射性ヨウ素の副作用はまれであり、よく知られているものはない。副作用の一つに急性甲状腺炎がある。これは患者の 1%にみられ、数週間持続し、非ステロイド性抗炎症薬 (non-steroidal anti-inflammatory drugs: NSAIDs) で簡単に治療できる。甲状腺機能亢進症をともなう場合は β 遮断薬が用いられる。

他に、心血管系疾患と脳血管イベントのリスクが増加する可能性が指摘されているが、これらのイベントが甲状腺機能亢進症そのものによるものか、放射性ヨウ素治療によるものかは不明である。

甲状腺機能亢進症の患者では、甲状腺機能低下症の患者と比べて、癌の発生率がわずかに高いが、甲状腺治療の種類とは関係がない。

通常甲状腺癌の治療に使われる高用量の放射性ヨウ素は性腺機能障害を来し得るが、甲状腺機能亢進症に用いられる低用量の放射性ヨウ素では来さない。妊娠前に甲状腺機能亢進症で放射性ヨウ素を投与された患者の子孫の健康への悪影響は報告されていない。

6-3. 甲状腺全摘術
甲状腺全摘術はバセドウ病甲状腺機能亢進症に対する最も成功率の高い治療法である。甲状腺全摘術は、甲状腺亜全摘術に比べて成功する頻度が有意に高く(OR: 40-37, 95% CI: 15.03-108.44)、合併症の発生率には差がないため、推奨される。

甲状腺摘出術は、特に次のような特徴を持つ患者に勧められる。甲状腺腫が大きいか、放射性ヨウ素の取り込みが低い (または両方)、甲状腺癌の疑いがある、あるいは甲状腺癌が証明されている、放射性ヨウ素治療が禁忌である中等度から重度の眼症がある、そして最後に手術を希望している場合。妊娠は相対的な禁忌であると考えられている。

6-3-1. 甲状腺摘出術を受ける患者の術前管理とフォローアップ
手術前に、甲状腺機能を正常化させるべきである。ATD による前処置は手術によって誘発される甲状腺クリーゼのリスクを減らし、β 遮断薬は甲状腺機能亢進症の症状をコントロールする。バセドウ病患者では、ヨウ化カリウムのような無機ヨウ素による前処置 (ヨウ化カリウム 50 mg を 1 日 3 回、手術 7-10 日前から) を検討しても良い。

術後はレボチロキシンの補充を開始し、術後 6-8 週間後に TSH 濃度をモニターすべきである。カルシウムおよびカルシトリオールの経口補充は、術前および術後の血清カルシウム濃度に応じて行う。

6-3-2. 合併症
外科的合併症はまれで、患者の 1-3%にみられる。最も頻度の高い合併症は、永続的な副甲状腺機能低下症による低カルシウム血症であり、次いで永続的な反回神経損傷である。このような合併症のリスクは、甲状腺切除術の経験が豊富な甲状腺外科医が行った場合に低くなる。

7. 甲状腺クリーゼ
甲状腺機能亢進症は、日本では 10 万人年あたり 0.2 人の発生率で、甲状腺中毒症で入院した患者の 1-5%にみられるまれな疾患である。死亡率が 8-25%と高い緊急疾患である。

甲状腺クリーゼの症状は甲状腺ホルモンの濃度には依存せず、甲状腺クリーゼにおける甲状腺ホルモンの濃度は代償性甲状腺中毒症と同等である。危険因子としては、急性疾患、甲状腺または甲状腺以外の手術 (現在では、適切な術前準備の結果、あまり見られなくなった)、外傷、ストレス、妊娠などがある。

甲状腺クリーゼの病態はまだよくわかっていない。診断は臨床的なもので、重篤で生命を脅かすような症状のある患者において甲状腺機能亢進症が存在する場合に診断される。診断を下すために、Burch と Wartofsky はスコアリングシステム (表 3) を提案し、赤水らによって修正された。

表 3. 甲状腺クリーゼの診断基準
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5014602/table/T3/

治療の目標は、1. 甲状腺ホルモン合成および分泌の抑制、2. 血中甲状腺ホルモンの減少、3. 甲状腺ホルモンの末梢作用のコントロール、4. 全身症状の消失、および 4. 誘因に対するの治療である。治療の選択肢を表 4 に示す。

表 4. 甲状腺クリーゼの治療
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5014602/table/T4/

治療を開始すると甲状腺機能は通常 24 時間以内に改善する。甲状腺機能が改善したらはヨウ素を漸減中止し、グルココルチコイドを漸減することができる。ATD と β 遮断薬は甲状腺機能に応じて漸減すべきである。甲状腺切除術または放射性ヨウ素による根治療法は、甲状腺機能が正常化してから行うことが望ましい。

8. 妊娠中および産後の甲状腺機能亢進症
妊娠中の甲状腺機能亢進症の原因で最も多いのはバセドウ病である。米国における甲状腺機能亢進症の発症率は、妊婦 1000 人あたり年間 5-9 人である。デンマークで行われた集団ベースのコホート研究の結果、妊娠中の甲状腺機能亢進症のリスクには大きなばらつきがあり、妊娠初期は高く (RR: 1.5, 95%CI: 1.09-20.6)、妊娠後期は非常に低い (RR: 0.26, 95%CI: 0.15-0.44)。

妊娠中および産後の甲状腺疾患の診断と管理のための ATA ガイドラインでは、血清 TSH 濃度が 0.1 mIU/L 未満のすべての女性で血清 free T4 濃度を測定することを推奨している。この推奨は、total T3 濃度と TRAb 濃度も測定することを推奨している内分泌学会 (the Endocrine Society) のガイドラインとも一致している。

甲状腺刺激抗体は胎盤を通過するため、TRAb 評価は胎児または新生児の甲状腺機能亢進症のリスクを検出するのに有用であり、TRAb 濃度は妊娠 20-24 週で評価すべきである。

血清甲状腺ホルモン濃度の評価は、顕性甲状腺機能亢進症と潜在性甲状腺機能亢進症を区別するために重要である。これは、潜在性甲状腺機能亢進症は通常妊娠中に治療する必要はないからである。

顕性甲状腺機能亢進症が確認された場合は、妊娠一過性甲状腺機能亢進症 (gestational thyrotoxicosis) を除外すべきである。妊娠一過性甲状腺機能亢進症は良性で一過性の障害であり、典型的には妊娠初期に起こり、おそらくヒト絨毛性ゴナドトロピン (human chorionic gonadotropin) 高値または変異型ヒト絨毛性ゴナドトロピンに起因する。TRAb は陰性でバセドウ病の臨床的特徴はみられない。妊娠一過性甲状腺機能亢進症は対症療法しか必要としない。

一方、バセドウ病や中毒性結節性甲状腺腫は、ATD で治療すべきである。一般に、妊娠初期はプロピルチオウラシルが使用され、妊娠中期にはチアマゾールに切り替えられる。これは妊娠初期においてチアマゾールは胚障害のリスクに関連するためである。この関連性は、ATD 投与によるものではなく、甲状腺機能亢進症によって説明できると主張する著者もいるが、皮膚無形成症 (aplasia cutis)、咽頭閉鎖 (choanal atresia)、食道閉鎖症 (oesophageal atresia)、小頭症 (omphalocere) などの先天異常は、甲状腺機能亢進症患者そのものではなく、チアマゾール投与によって報告されている。

頻度は低いが、プロピルチオウラシルもまた、顔面・頸部および泌尿器系の先天性欠損症に関連することが示されている。一方の ATD から他方の ATD に切り替える場合、プロピルチオウラシルとチアマゾールの等価用量は 10-15:1 と考えられる。ATD を服用している妊婦では、TSH、T4(妊娠中は通常 150%上昇)、free T4(または free T4 index)を 2-6 週間ごとにモニターすべきである。T4 および free T4(またはfree T4 index)は、正常基準範囲の上限またはわずかに上にあるべきである。しかし、free T4 測定法の中には、血清 T4 結合グロブリン (T4 binding globulin) 濃度が高いため、妊娠中は信頼できないものもある。

ATD が禁忌であるか、甲状腺機能亢進症が ATD で十分にコントロールできない場合は、甲状腺摘出術が選択肢となる。甲状腺摘出術は、麻酔薬による催奇形性の可能性を最小限にするため、妊娠中期に行うべきである。放射性ヨウ素治療は胎盤を通過し、胎児に重篤な甲状腺機能低下症を起こす可能性があるため、妊娠中は禁忌である。

分娩後、バセドウ病による甲状腺機能亢進症は、分娩後リンパ球性甲状腺炎 (post-partum lymphocytic thyroiditis) と区別すべきである。分娩後にバセドウ病と診断された場合、授乳中の母親は中用量の ATD すなわち、チアマゾール 1 日 20 mg まで、またはプロピルチオウラシル 1 日 300 mg までを安全に服用できる。

分娩後甲状腺炎

9. 亜急性甲状腺炎と無痛性甲状腺炎
分娩後リンパ球性甲状腺炎/無痛性甲状腺炎はその後の妊娠中に再発することが多く、永続的な甲状腺機能低下症になることがある。分娩後リンパ球性甲状腺炎/無痛性甲状腺炎では、甲状腺ペルオキシダーゼ抗体 (thyroid peroxidase antybody) が陽性であることがほとんどである。したがって、これらの患者では生涯にわたって甲状腺機能低下症の発症について定期的なモニタリングが必要である。甲状腺ホルモン合成が増加せず、甲状腺の放射性ヨウ素の取り込みが低いため、ATD や放射性ヨウ素治療は両疾患とも禁忌である。患者は通常、甲状腺中毒期に β 遮断薬を投与される。

痛みを伴う亜急性甲状腺炎の患者では、甲状腺の痛みと全身症状の緩和のために NSAIDs やサリチル酸塩が役に立つかもしれない。グルココルチコイド、例えばプレドニゾン 15-40 mg を 1 日 1 回、4-6 週間かけてゆっくり漸減する方法が、より重症の症例には望ましい。

10. アミオダロンとヨウ素誘発性甲状腺中毒症
アミオダロン誘発性甲状腺中毒症には 2 つの型があり、治療法が異なるため型を区別することは非常に重要である。I 型アミオダロン誘発性甲状腺中毒症は通常、基礎に甲状腺腫または潜在性バセドウ病を持つ患者がヨウ素を多く含むアミオダロンに曝露された際に起こる。ヨウ素への曝露により甲状腺ホルモンの過剰な合成と放出が起こる点は、アミオダロン以外で過剰なヨウ素を投与された患者におけるヨウ素誘発性甲状腺機能亢進症と似ている。II 型アミオダロン誘発性甲状腺中毒症は、アミオダロンの甲状腺細胞に対する直接的な毒性作用によって起こる破壊性甲状腺炎である。

I 型アミオダロン誘発性甲状腺中毒症は、ATD で治療し、場合によっては、ナトリウム/ヨウ化物シンポレーター (sodium/iodide symporter: NIS) の阻害剤である過塩素酸カリウムを追加して甲状腺のヨウ素取り込みを阻害する。II 型アミオダロン誘発性甲状腺中毒症では、炎症を抑え、末梢組織で T4 がより活性の高い T3 に変換されるのを阻害するためにグルココルチコイドが使われ、通常 6-8 週間かけて漸減される。

11. 今後の研究
甲状腺機能亢進症の治療は過去数十年間大きく変わっていない。1. ATD による再発のリスクを伴う長期療法か、2. 放射性ヨウ素または手術による甲状腺機能低下症を伴う甲状腺の破壊かの選択である。

ATD は保存的な治療法であるが、再発率は約 50%である。しかし、甲状腺切除術と放射性ヨウ素治療は根治療法であるが、その後の甲状腺機能低下症は生涯にわたる甲状腺ホルモン補充療法が必要である。

今後の研究は、バセドウ病による甲状腺機能亢進症の病態をよりよく理解し、甲状腺機能亢進症の根本的な原因を治療標的とし、安全で、保存的で、確実な治療法を得ることを目標とするべきである。

バセドウ病による甲状腺機能亢進症の評価と管理戦略は地域によって異なるので、米国以外の甲状腺学会によるガイドラインが有用であろう。

元論文
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5014602/

バセドウ病先端症 (Thyroid acropathy)

2024-05-29 22:06:55 | 内分泌
バセドウ病先端症 (thyroid acropathy): バセドウ病の稀な関節所見
AACE Clinical Case Reports 2019; 5: e369-371

目的
本報告の目的は、バセドウ病(Grave's disease: GD)のまれな症状であるバセドウ病先端症 (Graves acropathy) の患者について述べることである。バセドウ病先端症は、臨床的に、皮膚の強張り、ばち指 (digital clubbing)、小関節痛、軟部組織の浮腫によって定義され、数カ月から数年かけて進行し、指が徐々に肥大する。

方法
患者を甲状腺機能(血清遊離 T4 [serum free T4: FT4] と甲状腺刺激ホルモン [thyroid stimulating hormone: TSH]定量)および自己免疫バイオマーカー(甲状腺受容体抗体[thyroid receptor antibody: TRAb])ならびに四肢の X 線検査で評価した。

結果
52 歳の男性が甲状腺中毒症とバセドウ眼症の臨床症状を呈した。臨床検査では、TSH 抑制(0.01 UI/L;基準値 0.4-4.5 UI/L)、血清 FT4 上昇(7.77 ng/dL;基準値 0.93-1.7 ng/dL)、TRAb 高値(40 IU/L;基準値 <1.75 IU/L)を認めた。GD による甲状腺中毒症と診断され、患者はメチマゾールで治療された。患者が手足のむくみを訴えたため、X 線検査を行い、バセドウ病先端症と診断した。

結論
眼窩腫脹、皮膚腫脹を伴う甲状腺外症状が悪化し、手足に先端巨大症を発症した GD 患者の 1 例を紹介する。

1. はじめに
バセドウ病(Grave's disease: GD)は甲状腺を侵す自己免疫疾患であり、甲状腺中毒症の主な原因である。この疾患は、甲状腺受容体抗体(thyroid receptor antibodies: TRAbs)の発現によって起こる。TRAb は甲状腺濾胞細胞の甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone: TSH)受容体と結合した後、甲状腺の炎症と過形成、甲状腺ホルモン産生の増加を引き起こし、臨床的な甲状腺中毒症を引き起こす。

バセドウ病先端症 (thyroid acropathy) は自己免疫の甲状腺外症状であり、GD 患者の 1 %未満が罹患する。有病率のピークは 50 歳代であり、有病率は女性で高い。バセドウ病先端症の臨床的特徴は、ばち指 (digital clubbing)、骨端の増殖、グリコサミノグリカンの沈着による周囲の軟部組織の肥大であり、多くの場合、左右対称で両側性である。

2. 症例報告
体重減少(4ヵ月で 16 kg)、頻脈、皮膚のほてり・湿潤、末梢の振戦が 1 年前からみられる 52 歳男性が当院を受診した。患者は喫煙者であった。超音波検査による推定甲状腺容積は 45 cm3(基準値、12-18 cm3)であった。

眼科的検査では、Hertel 外眼圧計による両側の眼球突出が認められた(右眼 24 mm、左眼 23 mm、右眼瞼 12 mm、左眼瞼 11 mm)。臨床活動性スコア(clinical activity score: CAS)は両側 2 点(結膜のびまん性発赤とまぶたの腫脹)で、複視はなかった。検査データでは、血清 TSH(0.01 IU/L;基準値 0.4-4.5 IU/L)が抑制され、血清遊離 T4(FT4;7.77 ng/dL;基準値0.93-1.7 ng/dL)および TRAb(40 IU/L;基準値1.75 IU/L未満)が上昇していた。皮膚症 (dermopathy) や先端症 (acropachy) は認めなかった。

患者の甲状腺中毒症はメチマゾールで治療され、禁煙が指示された。4 ヵ月後、彼は手と下肢の進行性の腫脹を訴えた。バセドウ眼症(Grave's orbitopathy: GO)が悪化し、CAS は両側で 4 であった(結膜のびまん性発赤、眼瞼の腫脹、眼輪筋の腫脹、結膜浮腫 [chemosis])。足、脚、足趾には、いわゆる "オレンジピールスキン "または "peau d'orange "に似た硬い浮腫 (hard edema) と紅斑性浸潤斑 (erythematous-infiltrative plaques) を認めた。

甲状腺機能検査では、FT4 が 4.16 ng/dL、TSH が 0.005 IU/L であった。彼は喫煙をやめていなかった。メチマゾールが継続され、再び禁煙が指示された。皮膚病変の指導と経過観察のため皮膚科に紹介された。2 ヵ月後、患者は再来し、臨床症状に関しては改善していた。甲状腺機能検査では、FT4 が 0.77 ng/dL、TSH が 0.001 IU/L であった。しかし、左手のX線検査では、第 2 指から第 5 指までの指節間部の軟部組織の腫脹、第 3 指の指節間亜脱臼 (interphalangeal subluxation)、遠位指節骨の解剖学的欠損が認められた(図 1)。

図 1. A, ばち指を伴う両手の指節間部の腫脹。B, 左手 X 線:第 2 指から第 5 指までの指節間部に軟部組織の腫脹が認められる。第 3 指には指節間亜脱臼の徴候と遠位指節骨の解剖学的欠損がみられた。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2376060520300286#f0010

左足の X 線では、母趾 (hallux) の遠位趾骨の先細りと骨強直 (bone ankyrosis)、左第 3 趾と第 4 趾の趾骨の解剖学的欠損が認められた。右足の X 線検査では、第 5 趾の近位趾骨に先細りがみられ、母趾には変形性関節症の兆候がみられた。

X 線写真の所見からバセドウ先端症の特徴が確認された。皮膚生検を行ったところ、粘液水腫 (myxedema) に合致する皮膚病変が認められた。治療としては、副腎皮質ステロイドとコールドクリーム(尿素 10%、サリチル酸 10%、乳酸 5%)の包帯を使用した。

3. 考察
バセドウ病先端症は、1933 年に甲状腺摘出術で治療された GD の女性患者で初めて報告された。先端症は、GO、皮膚症、先端巨大症の三つ徴候の中で最もまれであり、GO 患者の 0.8-1%にしか起こらない。バセド先端症は、重度の GO および皮膚症と強く関連している。ほとんどの患者は、指節骨の骨膜反応を示す X 線検査を伴うばち指を呈する。下肢の痛みや皮膚や爪の変化の訴えがある場合、先端症が疑われる。

バセドウ先端症の病因は不明であるが、おそらく脛骨前部粘液水腫と出現部位以外の点では類似している。骨膜領域に存在する線維芽細胞の TSH 受容体に TRAb 分子が結合し、炎症反応を引き起こし、細胞増殖とグリコサミノグリカン沈着を生じると考えられている。筋骨格系の症状を呈するのは、眼症、皮膚症、先端症の三つの徴候の全てを認める場合がほとんどである。喫煙が GD 患者における先端症の素因であることを示唆する研究もある。

ほとんどの場合、先端症は無症状であるが、主な臨床症状として、ばち指、皮膚のつっぱり感、小関節痛(重症の場合)、軟部組織の浮腫、骨膜反応 (reactional periosteum) があり、指や爪の皮膚変化がみられることもある。

本疾患は、主に上肢および下肢の中手指節関節 (metacarpus phalangeal: MP region) および近位指節間関節領域 (proximal interphalangeal: PIP region)、足関節 (ankle) および中足指節関節 (metatarsal phalangeal joints) を侵す。

軟部組織の浮腫は硬く、熱感はなく、しばしば骨の変化を伴う。先端症は数ヵ月から数年かけて進行し、指は徐々に湾曲し肥大するが、疼痛はない。

先端症は、甲状腺中毒症が発現する前に発症することは極めてまれであり、患者の 95%が GD の治療中に発症している。ばち指を呈する患者の場合、診断は臨床所見のみでなされる。しかし、四肢の X 線検査により、より正確な診断が可能である。組織学的検査では、遠位骨膜に結節性線維化 (nodular fibrosis) が認められる。

多くの場合、橈側 (radial face) の第 1、2、3 中手骨または中足骨、尺側 (ulnar face) の第 4、5 中手骨または中足骨が侵される。1 本の指が侵されることはまれで、悪性を示唆することがある。X 線検査では、疾患の進行に伴って新しい骨層が形成されることがある。この沈着は皮質から骨膜に向かって起こり、主に骨の末節で起こる。新生骨形成は骨膜に限局しており、関節障害はともなわず、長骨に影響を及ぼすこともあるが、短骨の内側領域でより強く見られる。小骨の欠失はまれで、強い炎症過程の結果である可能性がある。

先端症に特異的な治療法はないが、副腎皮質ステロイドなどの免疫調整薬が使用されており、リツキシマブによる治療に成功した患者もいる。関節痛のある患者は、ケトプロフェンなどの抗炎症薬で治療できる。甲状腺中毒症の改善は、先端症の臨床症状の改善に関連するかもしれないが、甲状腺機能をコントロールすることによって先端症の進展を抑制できるかどうかは不明である。

4. 結論
バセドウ病先端症はバセドウ病のまれな症状であり、常に眼症と皮膚症を伴う。副腎皮質ステロイドによる治療は良い治療効果をもたらす可能性がある。甲状腺機能の正常化が先端症に与える影響については不明である。


https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2376060520300286

無痛性甲状腺炎

2024-05-29 11:21:24 | 内分泌

米国甲状腺学会による甲状腺機能亢進症についてのガイドライン(2016)

 

無痛性甲状腺炎

 

  • 無痛性甲状腺炎は橋本病の 5-20%で起こり、3-4ヶ月甲状腺機能亢進が続く。

 

  • その後、最大 6ヶ月間一過性の甲状腺機能低下に陥る。ほとんどの場合は 12ヶ月後の時点で甲状腺機能は正常化するが、10-20%では永続的に甲状腺機能低下に陥る。

 

  • 再発率は5-10%だが、日本では 65%再発するという報告もある。

 

  • 甲状腺に疼痛がない(実際には有痛性の無痛性甲状腺炎も経験するが)、CRP、血沈、白血球数が上昇しない。

 

  • 超音波では不均一に低エコーで、血流が低下している。TRAb が陰性であることはバセドウ病との鑑別に役立つ。

 

https://www.liebertpub.com/doi/10.1089/thy.2016.0229?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori%3Arid%3Acrossref.org&rfr_dat=cr_pub++0pubmed


亜急性甲状腺炎

2024-05-29 11:18:13 | 内分泌

米国甲状腺学会による甲状腺機能亢進症の診断と治療についてのガイドライン (2016)

Thyroid 2016; 26: 1343-1421

 

亜急性甲状腺炎

 

  • 亜急性甲状腺炎の疼痛は喉、顎、耳に放散することがある (たしかに嚥下時痛や耳の痛みを訴える亜急性甲状腺炎の症例は経験がある)。

 

  • 亜急性甲状腺炎では、3-6週間は甲状腺機能亢進が続き、その後 3割の患者では最大 6ヶ月間一過性の甲状腺機能低下になる。ほとんどの患者は 12ヶ月後の時点で甲状腺機能は正常化するが、5-15%の患者では永続的に甲状腺機能低下に陥る。

 

  • 亜急性甲状腺炎後の甲状腺機能低下症に対して甲状腺ホルモン補充を行っても良いが、6か月後の時点で一旦補充を中止するべきである。自然経過で甲状腺機能が正常化するかもしれないからである。

 

  • 疼痛が軽度の場合は NSAIDs が第一選択薬。最大量の NSAIDs を数日間使用しても疼痛コントロールできない場合は糖質コルチコイドに変更する。

 

  • NSAIDs で治療した場合は疼痛寛解まで中央値 35日かかるのに対し、糖質コルチコイドで治療した場合は中央値 8日で疼痛が寛解する。

 

  • 具体的にはプレドニゾロン 40 mg/day で開始し、1-2週間維持。その後、症状を確認しながら 2-4週間で漸減する。

 

  • プレドニゾロン 15 mg/day で開始し、2週間毎に 5 mg ずつ減量するレジメンも有効だと報告されている。しかし、20%の症例では中止までに 8週間以上かかっているので、治療期間が長くなるかもしれない。

 

https://www.liebertpub.com/doi/10.1089/thy.2016.0229?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori%3Arid%3Acrossref.org&rfr_dat=cr_pub++0pubmed