ウィーンで研究留学!

以前はウィーンでの留学生活を綴っておりました。今後はクラッシック音楽を中心に細く長く続けていけたらと思っています。

遺伝子の切り貼り

2008年08月20日 06時04分31秒 | 研究
最近ついに遺伝子の切り貼りを始めました。といってももちろん初めてじゃなくて僕はこういう仕事は相当なエキスパートなはずなのですが、ウィーンに来て実は今まで一度もやっていませんでした。基本的な酵素の使い方のこつとか同僚に聞いている自分がおかしくなりますが、遺伝子の切り貼りにはまってしまう毎日が恐ろしいので避けてきたのです。

実験というのは難しいもので頑張れば実になるわけでは全然ありません。よくあるのは半年くらいいろいろ準備してやっとやりとげた実験が実は全くの見当違いでなにもやっていなかったのと同じ、というようなことです。こんなことは研究生活を続けていればだれでも遭遇することなのですが、僕が思うに遺伝子技術の発達でいろんな事が出来るようになってしまったおかげで、このリスクはかえって高くなっているのです。一番分かりやすいのがノックアウトマウスでこれはとにかく作るのに労力と時間がかかります。よく言われているのは作るのに二年、出来たマウスの解析に一年で上等、というようなことで、ようするにとってもうまくやっても3年もかかってしまうということです。もちろんうまくいけばノックアウトで得られる結果というのは文句のつけられない類のもので、素晴らしい仕事になりうるし、だからこそみんなやるのですが、実際には苦労してマウスを作ってみたものの何も起こらず全く論文にならない、というようなこともよくあるのです。ノックアウトマウスというのは、一つの説明の仕方としては遺伝子変異によって起こる病態のマウスモデルを作っているともいえるのですが、一つの遺伝子の変異で病気になってしまうというのはある意味その遺伝子が働いているシステムが危弱なわけで、体にとってもものすごく重要な機能については同じ機能を持つ遺伝子が複数存在して機能を補い合えるようになっているということが言えると思います。つまりものすごく重要な遺伝子の機能を知りたくてノックアウトマウスを作るのはとても理にかなっているようで、実はノックアウトマウスを作っても何も起こらない(何も病態のような形質を示さない)という結果もまた理にかなっているとも言えます。

ノックアウトマウス論が長くなってしまいました。最近はこれも会社に頼むと数百万で全部やってくれるのでこれの犠牲になる人もあまりいないかもしれません。まあ要するにものごく大変な仕掛けをいろんな技術を駆使して用意して面白い実験を組んだとしても、それがすごい成果につながるかどうかはやってみなければわからない。つまり準備期間が長いほどリスクが高いということになります。遺伝子の組み換えをバンバンやってものすごく頑張って、結局2年位やっていたことが何もならなかったというような経験から遺伝子の切り貼りはなるべくやらないで済ませたい、やるならどうしても必要な場合にしよう、と留学して仕事を始める時に考えたのです。遺伝子の切り貼りが怖いのは毎日これをやっているととても仕事をたくさんしている感じがして充実感があることで、それで満足してどんどん時間が過ぎて、結論として何も得られないまで自分の間違いに気付きにくいのです。ということでいまやっているのももちろんやってみないとどうなるかはわかりません。とにかくやると決めたのでできるだけファインに進めて早く結論に辿り着けるようにしたいものです。

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