ウィーンで研究留学!

以前はウィーンでの留学生活を綴っておりました。今後はクラッシック音楽を中心に細く長く続けていけたらと思っています。

大学院の授業料

2007年10月31日 08時35分30秒 | 研究
一度書きだすと連続するというのも私の習性のようです。

Science誌で阪大下村教授の論文のRetractionが出ているのをみて日本のニュースを見ていたら東大の博士院生の大半、授業料ゼロにという記事が目に付きました。

へえ、結構思い切ったなあとはじめは思ったのですが、考えてみたら私が大学院生だったころからこういうことは問題になっていたもので、きっと独立法人化によってこういうことが大学の裁量で出来るようになったんだろうとは思うものの、なんと動きの遅いものかとも思います。私が学生の時にひどく不公平だと思ったのは、学振をとった学生は20万もの給料をもらえて、しかもそれにより親から独立して生活していると認めらて授業料免除され易い一方で、これが取れないと貸与に過ぎない育英会くらいしか収入を得る手段が無い上に、授業料免除は先ず通らない、というおかしな状況でした。しかも学振の特にDC1の選考基準というのは本当に理解不能と思ったものです。

今回の決定で、どうやら授業料は事実上ゼロになるようですが、これについて「平尾副学長は「現状のままでは、海外の大学院との頭脳獲得競争に負けてしまう」と話す。」とありますが、そういう観点をもっているんだったら学生に給料を出さないと負けるどころか勝負にならないでしょう。まあそこまでするにはまた相当大きな変化ですが、一方で「他の国立大からは「東大だからできることで、一極集中に拍車がかかる」という懸念も出ている。 」そうですが、私から見れば国立大学では大胆なことは絶対に出来ないんだから有力な私大で是非博士課程の学生は給料をもらえる制度を作ってもらいたいものです。それでやっと海外の大学と同じ土俵にたてるというものです。東大だからこれくらいのことしか出来ない、とでも言ってもらいたいものです。これを世界一流のラボがある研究科がやれば、日本中から優秀な学生が集まってくること間違いないと思うし、海外からだって注目されるでしょう。

私の周りに居る学生達はとても優秀で、よっぽどポスドクよりも質が高いんじゃないかと思ってしまったりもしますが、世界中から応募があって厳しいセレクションを抜けたエリート達がPhD studentとしてやってきているので当たり前なのかもしれません。彼らは当然のようにサラリーをもらっていますから、私が日本の大学院生は給料をもらえないどころか授業料だって払ってるんだと説明したら皆驚きます。そんなんじゃあだれも大学院なんか行かないでしょ、というのが普通の反応です。いかに質の高い学生を集めるか、ということは研究所にとって最も重要なことの一つと考えられているようで、他のヨーロッパの一流研究所との間でも駆け引きがあったりするようです。質の高い研究を、国際的な体性でやろうとおもったら当たり前のことだと思うのですが、東大のトップの方々がそういった視点を持っているとは到底思えません。

近況

2007年10月30日 07時58分34秒 | 留学
一度更新が滞ると何かいいアイデアがないと書かなくなってしまうのが私の癖ですが、それに加えてすっかり仕事の方が忙しくなり、家に帰るともうへとへとで創作意欲など全くわかないというような毎日、すっかり間が空いてしまいました。

日ごろたとえばトラムになっているようなときに書きたいことを思いついたりするのですが、そういうときに書きとめておいたりしないとそのうち頭のメモリーが実験のことで一杯になってそんなことは吹っ飛んでしまうようです。人間の頭のPCと違うところは、メモリーが足りなくなったときに必要性の低いものから勝手に削除、もしくは圧縮してメモリーを確保してくれるところだと思うのですが、この必要性の判断が無意識になされるようであとで考えると面白い。私の場合、昔はここらへんがひどくわがままに出来ていたもので妻の用事などすぐに忘れてよく喧嘩の種になったものですが、最近はすっかり家族のことは優先されて、自分が普段ぼおっと考えているようなことがどんどん削除されているようです。

9月以降、個人的な面で随分生活が変わってラボにいる時間が大分長く取れるようになりました。というか一時期短か過ぎたのですが、そうなると上手い具合に仕事も展開するようになりやらなければいけないこともどんどん増えてくるものです。特にマウスの実験に関しては自分の計画通りには行かずマウスの機嫌に振り回されるところもあって難しい。いま抱えているプロジェクトは、論文にするときにどうまとめるかという指標で考えると4つあって、もちろんどれもが上手く行くとは思っていないのですが、今のところそのすべてが拡大方向なのです。もっとも進んでいたマウスのプロジェクトの一つは夏の間non-scientificな理由で止まっていたのですがこれが動き出し、細胞を使ったプロジェクトは前も触れた話で夏前から急に盛り上がり、マウスのもう一つのプロジェクトもなんだか怪しげな面白いデータが出てきて実験のスケールを拡大し、最後のやや地道な仕事も細胞の種類をあと二つは増やすことになり、、、と言った調子です。この状況ならネタがなくなることはなさそうだし、有り難いことですが、もっとも気をつけなくてはいけない状況だと私の経験が訴えています。今こそ実験量を稼いで進展させる時期という反面、何が最も優先させるべきことか、オプションで最優先ではなくてもいつでも出来るように準備しておかなければいけないものは何か、というようなこと常に冷静に考えていなければいけない。ボスとも会えば話すことがあって随分頻繁にディスカッションしていますが、毎日違うプロジェクトについて話しているような状況で、そういった大局的なことは自分で考えなくてはいけない。これはまさに私が留学に望んだ状況で有り難いことですが、ボスの言うがままに働いていつの間にかいい雑誌に論文が出るような状況で満足できるならそのほうがよっぽど賢いのかもしれないと思ったりします。もちろんそんな上手い話はなかなかないでしょうけど。うちのラボでは自分でプロジェクトを見渡して考えられなければ、仕事は効率的には進まないし、いくらがんばっても論文に近づかないように思います。

グループリーダーがラボのマネージメントを考えるときに成果を出すことが一番の目標だと思いますが、働き手の主力が学生である場合話は難しい。日本にいるときは私は学生だったり助手だったりしながらラボのことばかりを考えてしまって自分の仕事を最優先できないところがあったと反省していますが、こちらではまあいろいろ思ってもラボのマネージメントに口を出そうとは思わないし、だからこそ自分の仕事に集中してサイエンスを楽しめますが、やはり考えさせられることはたくさんあります。多国籍なメンバーが集まっていえる状況ではいわゆる常識というのものがあるかどうかも分からないし、だから面白いともいえますが、日本に比べたら不確定要素は物凄く高い。うちのラボは一説には最もストレスのないラボらしいですが、先のことを考えればもうちょっとストレスがあった方が少なくともまだ舵取りの怪しい学生にとっては良いのではないかと思うことが多々あります。これはボスの性格もあるしそう簡単に変らないでしょうけど。少なくとも私にとっては望んだ環境なのでこれでだめなら自分に対して言い訳が出来ないと思っています。