河西智美ときゃりーぱみゅぱみゅ。あるいは表現の自由は批判の自由と背中合わせ

　ヒョーロンカ、なんてこの世にいない方がいい存在じゃなかろうか。被服や自動車、家電など自腹を切って買うとか、己の感性を賭けて世に問うみたいな評論家は別として。
　政治とか、世相評論家なんて意見が外れてもあさっての方向でも、とりあえず言ったもん勝ち、間違った事を言ったって責任取らなくても済むし、「あいつの感性はロートルだ」と揶揄されバカにされる事もあまりなさそうだし。

　えっとぉ、で。
　きゃりーぱみゅぱみゅさんのPVについて意見がでましたよ、と。

　きゃりーぱみゅぱみゅPV削除要請に不満　「イッキ飲みは演出です」

　いや、別にいいんじゃね？
　そりゃあ、きゃりーぱみゅぱみゅさんの考えだ。
　そう思うんだったら自由だ。

　だったら、批判に耐えなさいよ。
　表現の自由と同じく、表現物には批判の自由がある。
　柳美里が「石に泳ぐ魚」を書く自由があるように、モデルにされた人物にも抗議をする自由がある。

　表現物というのはどこかで誰かを踏み傷つける可能性がある。むしろ誰かを傷つける覚悟さえしないとできないものだとわたしは思う。

　しかしまさかとは思うけど、ＡＫＢセミヌードが児童ポルノ扱いになったのは当然だけどきゃりーぱみゅぱみゅへの削除依頼はやりすぎだろ、と思う人がいるんだったら、そりゃあなた。見事なまでに「市民団体」というフレーズに拘っているのでは？

　違う？

ここで団体を批判してる人は樽商や大阪の高校にも文句は言わないのかな

きゃりーぱみゅぱみゅさんの一気飲みＰＶに抗議(読売新聞) - goo ニュース

　まあ。なんだね。
　わたしがツイッターやめた最大の理由は、こういうニュースにコメントしてる人にいちいちコメントしちゃうからであって、これは双方にとって全く益が無い。
　益が無いのにやってしまう。
　だから、やめました。

　しかしね。
　批判するならするで、少なくともどんな団体かくらいは調べなさいよ。
　イッキ飲み防止連絡協議会　概要

　というか、きゃりーぱみゅぱみゅのPVに「如何か」と問うのは「暇で」「ちっちゃくて」「いい大人は酒の飲み方くらいわきまえている」で済む話で、高校やオリンピックの柔道の強化合宿での暴力を伴う指導は許されない、ってどんな価値観なのだ？

　まあ、問うまでもない。
　正しいも正しくないもないのだ。
　どっちが「普通の人」から支持される意見なのか、というだけの話に過ぎないのだ。
　だから、多数派を気取る。
　繰り返すが正しいも正しくないもないのである。
　その時代、その状況、その時の空気が認めるか認めないか。
　絶対ではなく相対的な価値観、ではないと言い切れるものだろうか。

　まあ、外野が何と騒ごうと所詮外野の意見に過ぎない。
　実際に自分の家族を失った人たちに「暇だ」「ちっちゃい」と言ってる自覚があるのかないのかは問いたいところではあるけどね。

小樽商科大学ときゃりーぱみゅぱみゅ。

　小樽商科大学アメフト部が飲酒強要の末に事故を起こし……。遺族からしてみれば事故ではなく殺人だと言いたいところだろうけど。
　話を続けますが、事故によりひとりの命を落とさせたのが去年の７月。

　小樽商大アメフト部が廃部に　主将ら８人は無期停学

　あの頃、「どこのFラン大学だ」とツイッターで揶揄していた人もいましたが。
　構造的には飲酒強要は昨今明らかになりつつある部活やスポーツシーンでの体罰問題と根は一緒なのだと思う。
　いわく、先輩からの伝統だとか、これくらいの事が出来ずに社会に出られないとか。
　一面でそれはまったく間違ってない。
　世間は不条理であり理不尽だ。……という根拠でわたしのいた学生寮でも後輩をぶん殴っていた先輩がいたけど、先輩、お元気でしょうか。

　で。
　昨日このようなニュースがありました、と。

　きゃりーぱみゅぱみゅさんの一気飲みＰＶに抗議

　思うんだけど「市民団体」と書くのはどうなんだろう。
　飲酒強要で子供を失った親たちとその支援者、と書けば（実際、そういう団体ですから）印象も違うでしょうにね。

　まあ。わたしが学生だった時代はとんねるずが「一気！」とか言う歌を歌っていたしおおらかだったのかもしれませんねー。というか、おおらかすぎますよね。　「飲めない下戸にはヤキいれて」ですもん。
　余程後輩が従順でなければ歌えねえ歌ですよね、作詞担当の秋元康どの。
　世間体なんか気にしないんだったら、ヤキいれられたら倍返しで首が吹っ飛ぶほどぶん殴り返してやる、なーんて後輩がいるかもしれませんよ。あの頃バカだったわたしたちみたいに。


　まあ、それはともかく。
　喫煙で即死はありませんが、飲酒で即死は有りえます。
　隔離しなければいけないほどの喫煙療法はありませんが、アルコール中毒ではそれがあります。

　表現は自由です。
　しかし創作はどこで地雷を踏むかわからない行動でも有りえます。
　
　進んで地雷を踏むならそれなりの覚悟もまた必要でしょう。

被害者の落ち度を探すのは、なぜなんだろう。

　桶川ストーカー殺人事件で殺害された女性は、殺害後週刊誌に「ブランド狂いの女子大生」とか「水商売をしていた」などと事実無根の報道がされていたそうです。
　理由はいろいろとあるのでしょうが、一番の理由は被害届をわざと受けなかった埼玉県警としては被害者に落ち度が無ければ「なぜ守れなかったのか、被害届も出されていたのに」と批判を受けるのを避けたため……と言うしかないですよね。
　当時の担当としては「そんなことはない。マスコミに聞かれたから被害者が着ていた服は黒、ブランドのバッグを所有していたことを伝えただけだ」と言うのでしょうけど。
　しかし、それを言った理由はどうであれ、それを聞いた週刊誌はまるで被害者が水商売につき、男からブランド品を貢いでもらった末の怨恨であるように書き立てた訳で。
　記者クラブにも入れない写真週刊誌フォーカス誌という雑誌の記者、それもたった一人。たった一人が被害者女性の友人たちから「警察は動いてくれなかった」という話を聞かなければ。それも愚直にまで取材を継続しようとしなければ。
　今でもこの事件は「被害者も気の毒だけど、ある意味自業自得だよね」程度で瞬間的に口の端に上り、警察が組織立てて隠ぺいを図った、という事件としては扱われてなかったかもしれません。ストーカー規制法も存在しなかったかもしれません。
　桶川女子大生ストーカー殺人事件

　これと同時期に栃木で凄惨なリンチの末に殺害され埋められ、しかしマスコミ報道では（こちらは全国紙でさえ）「暴走族グループ内の」とまるで被害者が暴走族グループのように書かれてしまった事件が起きてます。

　栃木リンチ殺人事件

　個別の案件を括るようなこと自体傲慢なかんがえ、なのかもしれません、が。

　なぜわたし達は凄惨な事件が起こると被害者にも落ち度があるのでは、と考えてしまうんでしょう。
　強姦事件などは特にこの傾向が顕著です。
　いわく、スカート丈が短いとか男を誘惑する装いをしていたのだろ、とか。
　ところが。痴漢の被害に遭うのは無口で反論などできない、おとなしいタイプの女性が多いと聞きます。
　あるいは勝気の女性であっても反抗が無にできるほどの数の暴力なりで封じます。
　「警察に行けば親が困ることになる、社会的に抹殺される」などと脅され自分に被害がでないような狡猾さで無辜の人を落しいれます。

　そういう想像は多分、普通に考えれば皆納得するはずなのに、それでもなお、考えるのです。
　「被害者にも、落ち度があったのでは」と。

　これ、わたしなりに考えてみたのですが、被害者に落ち度がなければ、そうじゃなきゃ安心できないから、じゃないでしょうか。

　真っ当に、まじめに働いている、誰にも迷惑をかけた事さえない。そんな自分に何か悪い目に遭う訳がない、遭ってはならない。そういう目に遭う人は、何か因果があるはずなのだ……。

　ひどくなれば「先祖のだれそれがやった因果が」とか、インチキ宗教の話にまでなりそうですが、しかしたぶん、こういう心理があるからこそ、被害者に落ち度が無ければ困るんじゃないでしょうか。
　普通の生活が怖くなりますからね。
　この心理が特出すると、それこそ「福島にいる人は原発利権を得たせいの因果」とか言っちゃうんでしょうね。自分のところで使う電力を自分のところでは作りたくないから福島に押し付けたっていう事も忘れて。
　ＪＣＯ臨界事故なんか起こしてもなお霞が関にいるボンクラ役員どもたちに管理を委ねておきながら。
　自分には因果はないから悪い目に遭う訳はない、という新興宗教も真っ青なお題目を唱えて心の平安を図っている、のではありませんか？　となぜか疑問文で書いてみましょう。

　でもですね。
　事件に巻き込まれる、なんて因果もくそもないのですよ。
　どんな理由があろうとも、加害者が悪いに決まっているんです。

　漫画「クロサギ」「新・クロサギ」が秀逸なのは、詐欺師のせいで自分の家族を破壊された主人公が結果としてその詐欺師を自死するまで追い込んだとしても、それを決して褒めもしない、賞賛もしない、そして当人も喜ばないという結果で描いていることでしょう。

　いかに殺したいほどの相手だろうと、それに正当の理由があろうと。
　人の命を奪い、人の将来を捻じ曲げる人間が悪い。
　それだけです。
　それだけだと、わたしは思います。

　わたしにも、人生を狂わされた相手、ってのがいるのですが、しかも数人いるのですが。
　それでもそう思いますよ。
　誰だってそういう人のひとりやふたりはいるでしょうが。
　ただ、わたしが巻き込まれた件はちょっと極端ですけどね。

セガは時代の一歩先を行く

　それにしてもちょっと前までは自殺問題、そして先日まではアルジェの件をあーだこーだと言いながら昨日からは一転、資産家夫妻の変死事件ばかりがテレビで取上げられてますよ。
　おいおい、解決や再発防止策なんかまだ全然聞いてもいないのに「国民の知る権利」はどこに行った？

　それはともかく。

　ここ数日の話題の中にパナソニックなど景気が悪化した電器産業が社員の自己理由退職を促すために「仕事がない仕事」へ配置転換した、というニュースが取りざたされてますね。
　これとか。
　「追い出し部屋」パナなど５社を実態調査　厚労省

　これを見た瞬間「セガ……」という単語が頭を過ぎった方は意外といるのではないかと。
　ないかと思ったらまとめサイトでは結構話題になってるのね。
　これとか。
　朝日新聞の「追い出し部屋」報道が「悲しすぎる」　ツイッターで話題に

　まー、寄りによって「パナ社ほか」という報道ですものねえ。パソナルームなるものをこさえたセガが頭に浮かぶのはやむなし。
　ちなみにこの部屋。セガがリリースした「セガガガ」というゲームでも本気で辞めさせ部屋としてネタとして出て来ます。というか、社員がネタにしちゃダメだろ。というか、ネタにするしかなかったのかな。

　クソゲーまとめwiki　「セガガガ」

　え。セガガガのシナリオって冲方丁さん、だったの……？

　ちなみにゲーム「セガガガ」に登場するパソナルーム（という名前ではありませんでしたが、「萌え」禁止条例が出ているC研で「萌えている」社員が落とされる部屋）は地下室で窓もなく（ここまではほんとにパソナルーム）、電話は内線しか繋がらない固定電話が一個あるだけ、という本気の再現度で、ただひとつ違うのが薄暗いダンジョンとして演出されているって事。