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タペストリー「貴婦人と一角獣」、中世の至宝

2011-06-14 00:29:31 | アート
 聴覚 (L'ouïe)

 「我が唯一つの望み」(A mon seul désir)

パリのクリュニー中世美術館にある「貴婦人と一角獣」のタペストリー。
プロスペル・メリメが見出し、ジョルジュ・サンドに賛美されて、命拾いをした。
ヨーロッパの城には、たいてい大きなタペストリーが壁にかかっている。
持ち運べる絵画として、冬に石の壁から来る冷気を遮り部屋の暖気を逃さない一種の防寒品として、王侯貴族に重用されていた。
一枚仕上げるのに、3年の歳月を費やし、その下絵は、有名な画家も手がけることがあった。

それにしても、なんと気品溢れるタペストリーではないか!
赤を基調とし、濃い青みがかった緑の補色関係を上手く使って、華やかだが落ち着きのある色調にしている。
この「貴婦人と一角獣」は、6枚ある。
それぞれ五感(味覚・視覚・聴覚・嗅覚・触覚)を表した5枚と、6枚目は優れた五感を備えた理想の人格、もしくは花嫁が婚礼のために五感が象徴する技能の習得準備を終えたということを意味する、「我が唯一の望み」である。
下絵をデザインした画工の名は伝わっていないが、「ベリー候の豪華時禱書」の作者ランブール兄弟のように、たおやかな女性の姿と装飾的な背景の千花模様など、肌理細やかな絵作りは、観るという快楽を与えてくれる。

クリュニー中世美術館へ行くときの最大の目的は、このタペストリーを観ることだ。
ガリア・ローマ時代の遺跡あとも、古代文明のロマンを刺激してくれるが、やはり「貴婦人と一角獣」には敵わない。
少し薄暗い展示室一面に飾られたタペストリーを、心行くまで眺めるのは、なんと楽しいことか!
このタペストリーの前を通った人たちと、見出されるまでの暗く寂しい時間に思いを馳せたり、絵が醸し出す気高く優しい美の香気を胸いっぱいに吸い込んだりと。
時の経つのを忘れて、閉館時間まで見入ったことが、ついこの間のことのように思われる。
タペストリーと自分のすごしてきた時間は、単位が違うのだ、そう錯覚するのも、あながち間違いではないだろう。
きっと、リュートや絵にもあるように小型パイプオルガン:ポジティブオルガンの奏でる調べをその身に織り込んで、観る者に幻術をかけられるくらいに、時の試練を乗り越えたのかもしれない。


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