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夢想家を育む街、フランス:ナント

2012-02-25 00:27:27 | 街たち
「世界ふれあい街歩き」フランスのロワール地方にあるナント。
ロワール川の河口にあるこの街は、18世紀、新大陸やアフリカとの貿易で栄えたフランス最大の港町。
かつては、16世紀にフランスに併合されるまで、ブルターニュ公国という一つの国の中心であった。
それより遥か昔、ケルト人が定住し、ガリア人が町を造り、ローマ人に治められた。
その後、いろいろな民族がやってきて、ブルターニュ公国時代は、イギリスの属国にもなり、試練の多い土地だ。
しかし、フランスに併合後、地の利を生かした貿易港として、新世界からの物品や人の流入は、巨万の富をもたらす。
こうして、急速に街は発展したのだ。

ナントの古い建物には、顔の彫刻が飾られている。
それは、航海士たちが、海を鎮めるために護符として船につけていたものと同じものだという。
1895年創業の老舗ブラッセリーの店内にも、顔の彫像がある。
「食いしん坊」だ。
貿易がうまくいき、街の人がおなか一杯に食べられるようにとの願いを込めたものらしい。
同じく飾られている「キリギリス」は、長く厳しい航海をしてきたお客たちが、仕事を忘れてゆっくり出来るようにとのこと。
日本で言う「鬼瓦」とか、琉球の「シーサー」、ギリシャの「青い目」など、護符であったり、「招き猫」「宝船」などの幸運アイテムの意味があるのだろう。
人の思うところは、古今東西あまり変わらないようだ。

ナントの旧市街に、ガラスの屋根のついたパサージュ、商店街がある。
”小さなパリ”といわれているのも、このようなところからきているのだろう。
「古切手屋」が、パサージュに店を構えていた。
切手はもちろん、絵葉書などを扱っている。
老いも若きも、フランス人は収集癖があるようで、14歳の少女が、週3回熱心に店に通い、古切手の出物を物色していた。
高齢の男性は、古くからの馴染み、店主達と互いのコレクションの補完などたすけあっているところは、収集癖のあるものにとってうらやましい環境だ。

ロワールの川沿いにある建物は、傾いたり、沈み込んでいるようなものがある。
どうやら、川を埋め立てたところに建てたため、健在の重みで地盤沈下し、そうなったという。
そのほど近くに、SF作家のジュール・ベルヌの暮らしていたところがあるらしい。
当時、奇想天外な物語を発表したベルヌ。
ナント人気質が、彼を生み出したようだ。
”ナントでは、女が真面目に働いて、男は夢想にふける。家でも職場でも。”
ケルトの想像性に、航海士たちのもたらした異国情緒溢れる物や刺激の多い話が加味されて、ベルヌの想像の翼は、大きく羽ばたいたのだ。

その気風は、脈々と受け継がれ、夢見がちなアーティスト達が活躍している。
「レ・マシーン・ド・リル」は、動くアートを作るアーティスト集団。
いろいろな生物からヒントを得た、大きな機械仕掛けの作品を作り出す。
また、旧市街の外にある古い厩舎を利用した地区で、鉄の若手職人やミニシアターの舞台装置を作るアーティストたちが多く、創作活動をしている。
ブルターニュ大公城の市民の憩う公園では、子供たちに創作中のSFを物語って聞かせている作家志望の男性がいた。
ナントには、夢を追いかける人が多いのだろうか。

ナントの子供たちに愛されてきたビスケット工場の郊外移転を契機に、その古い建物を保存しようと、「世紀の倉庫」に利用した。
人々のそれぞれの思いを缶に封じて、100年後まで開封しないで保存する目的の倉庫。
タイムカプセル。
今から89年後まで開かない。
どうみても、これも夢物語。
本気で夢見ている、筋金入り。

街全体で、覚めない夢を見ているようだ。
でも、悪夢ではない。
人生を謳歌しているというよりも、さらにそのうえのロマンを求めている。
ナント、恐るべし。