エルンスト ”都市の全景”
これでもかと暗く輝く黄色い満月が、古代都市の上に、どっかとのしかかる。
人の気配は、全くしない。
手前の草花は、獣に踏みしだかれたのだろうか。
かつて地上を我が物顔に専有していた人間は、より高いところから万物を支配しようと、累々と都市を積み重ねていった。
その痕跡が、今なお居座っている。
夜とも昼ともつかないプルシャンブルーの空が、何もかも一緒くたに蓋いこむ。
この世界の支配者は、月に変わられたのだ。
月は、黙って監視する。
誰も、世界を勝手にすることはできない。
生き延びた獣達は、息を殺してひっそりとくらす。
いつでも月は、暗い光を投げかけて見張っているのだから。
エルンストは、世界大戦を二度も経験したドイツ人芸術家。
ダダイズムとシュルレアリスムの代表的画家でもある。
狂気が世界を蹂躙した時代、この芸術家は何を見たのであろうか。
もしかしたなら、狂気の果てが、こう彼の目には映ったのかもしれない。