「身の丈」経営,「身の程」人生

身の丈,身の程を知って生きる・・・・・

地方自治のあるべき姿 「長野県佐久市の住民投票-1」-民意の反映

2011-02-23 11:22:12 | これでいいのか鹿児島



この稿は,1月27日掲載分を推敲しての第2校です。 】

 議会を開かないまま専決処分を重ねるなどしてきた鹿児島県阿久根市の竹原信一市長のリコール。そして,市長選挙と,この2年近く市長派,反市長派に割れてきた人口約2万4千人のまちは,揺れに揺れている。1月の市長選で竹原氏は敗退したが,一件落着にはほど遠い。
 阿久根市議会リコール実行委員会の市議会解散の直接請求(リコール)を受け,2月20日,小雨降る中,市議会(定数16)の解散の是非を問う住民投票が行われ,賛成7321票,反対5914票で賛成票が上回り,1月の出直し市長選で落選した竹原信一前市長を支持する住民団体のリコール(解散請求)が成立,議会は即日解散た。


 大阪の橋本知事,名古屋市の河村市長,そして鹿児島県阿久根市の竹原前市長と,行政運営をめぐり,首長と市議会の軋轢が論議を呼んでいる。だが,住民(民意)はカヤの外におかれている。

 民意反映の手段・方法として住民投票があるが,行政に関して民意を直接問う住民投票が実施されることは,まれだ。もし,行われたとしも,名古屋市や鹿児島県阿久根市に見られるように首長・議会の解職(リコール)や市町村合併の賛否を問うもので,市政や事業の是非を問うケースは皆無に近い。

 その理由は,各自治体が条例で住民投票制度を設けなければ,住民投票が実施できない点にある。当然のことながら,議会は選挙で民意を代表しているとして住民投票に難色を示す。これは建前で,本音は自分たちの存在意義を揺るがす,との思いがある。
 首長は,こうした議会側の意向がわかっているから住民投票には二の足を踏む。議会と敵対することが明白であることから,あえて火中の栗を拾うことはない。

 こうした閉塞状況の打破に向けての学ぶべき事例が,市長のリーダーシップの元に実施された「総合文化会館の建設の是非をめぐる長野県佐久市の住民投票」である。

◆事例・長野県佐久市-「総合文化会館の建設の是非を問う住民投票」を実施 
 長野県佐久市(さくし 人口100,958人 世帯数 38,809-2011年1月)
で,市が計画していた総合文化会館の建設の是非を問う住民投票が,昨年11月14日に実施された。建設反対が71%に対し,賛成は29%との結果を受けて,事業計画は撤回された。

 佐久市の総合文化会館建設事業は,1986年に市内の文化団体などからの要望で,市が建設の検討を開始した。議会も建設推進に積極的であったが,百億円近くの大規模な公共事業であり,市の財政事情もあって一気に事業着手とは至らなかった。

 2005年4月の旧佐久市と近隣の臼田町,浅科村,望月町との市町村合併で膠着状態が解けた。この合併を機に,合併特例債を活用しJR佐久平駅近くに用地を取得(約31億8000万円)し,事業が大きく動き出した。計画された会館規模は,総事業費(土地代込み)は約99億円で1500席の大ホールを擁し,その維持管理費は年間約1億6000万円と試算された。

 だが,会館の建設検討から四半世紀が経過し,リーマンショックもあり,市民の間に必要性そのものへの疑問や財政負担への不安が広がり,是非をめぐり市を二分する問題に発展した。こうした状況のもとで,2009年4月の市長選で,会館建設に「慎重な検討」を公約した柳田清二氏(前県議・39歳)が建設推進の候補に9300票余の大差をつけて初当選した。新市長は,「会館建設に関しては,情報公開を行い,市民の声を聴いていく」とし,市民の意向を確認した上で判断する姿勢を示した。

▼市長提案--住民投票で民意を問う
 新市長は住民投票で民意を問うことを提案したが,建設推進派が7割を占めていた議会側は,「議会の形骸化や無用論につながる」と住民投票には否定的であった。だが柳田市長は住民投票条例案を臨時議会(10年8月)に提出し,「条例案が否決されたら(住民投票が実施されなかったら),事業は前にも後にも進めない」と,事実上の凍結方針を示したうえで議会側を説得した。条例案は,投票率が5割未満の場合,住民投票を不成立とするなどの議員提案による修正案を受けて成立した。

▼市の情報公開 
 住民投票に先立ち,市は合併特例債を使って既に土地を購入していることから,会館の建設を中止すると,国から約31億円の一括返済を迫られる可能性があることを公表した。そして,会館の規模を圧縮した案(建設費63億円 総事業費約91億円)を加え,現行案での建設と中止案,それに規模縮小案(建設費約55億円)の三つの選択肢を提示した。佐久市は説明会を各所で開催し,それは21回に及んだ。また,公開の場で賛否を論じあう市民同士の討論会も企画された。

▼住民投票の結果 -建設反対が約71%,賛成は約29%
 住民投票の結果は,建設反対 31,051票 建設賛成 12,638票(投票率54.87%,有効投票数43,689)であった。市では,住民投票結果を尊重し,佐久市総合文化会館の整備の中止を決定した。議会側もこれを受け入れ,長年,市を二分した懸案事項に終止符がうたれた。

 市長は,民意と行政や議会とのズレを修復し,さらには,一度動き出したら歯止めのきかない大型公共事業に,待ったをかけたのである。


▼代替案-「市民交流ひろば」建設の提案 
 佐久市は昨年末,建設中止を決めた総合文化会館の予定地を公園・緑地とする「市民交流ひろば」案を議会側に示した。合併の新市建設計画に沿う新しい事業にかえることで,合併特例債の一括返済(約31億円)を回避する狙いもある。1月末から市内7カ所で住民説明会を開き,住民の要望を集めたうえで最終案を議会側に提示する方針という。その上で,佐久市の総意をまとめ,国や県との協議に臨むという。

 限りある予算の地域有効活用を目指し,協議を重ねる佐久市民と市議会,そして,市長と市役所の姿勢は,地方自治のあるべき姿を示しているのではあるまいか。

「市民交流ひろば」-5つの基本コンセプト。
「① 市街地の中で緑に囲まれ,潤いと安らぎを持つ場」
「②子どもたちが自由に元気に遊べる場」
「③世代を超えて市内外の人が集い利用し,様々な活動や交流が行える場」
「④佐久平駅から一体をなし,エリアにある都市機能どうしを結びつけ,多様で多彩な活動が生まれる場」
「⑤エリアの中の施設と相互に活用でき,その人にあった自由な使い方ができる場」
であります。

▼民意-「佐久市総合計画に係る市民アンケート調査」 
 「平成17 年度佐久市総合計画に係る市民アンケートから」で、「最も力を注いでほし
い分野(全5 分野)はどれか」の質問で選択された上位3 位(第1 位:保健・医療・
福祉、第2 位:生活環境、第3 位:教育・文化)である。

 「平成19 年度佐久市の取り組みへの満足度・重要度に関する市民アンケート」で、
重要度が高いと回答された施策分野(全9 分野)の上位5 位(第1 位:健康、第2
位:環境、第3 位:福祉、第4 位:安心安全、第5 位:子育て)である。


▼総務省は24日召集の通常国会に地方自治法の改正案を提出
 総務省は24日召集の通常国会に地方自治法の改正案を提出する。首長の暴走に歯止めを掛けるほか,住民投票を法制化するなど地方自治への住民参加を促す内容が目玉となる。ただ,先送りになった課題もあり,当初,目指した抜本改正には至らなかった。


◆プロフィール-佐久市長野県東部に位置する佐久市(さくし)は,岩村田(いわむらだ),中込(なかごみ),野沢(のざわ),岸野(きしの)といった集落から形成され,中心街はそれぞれに分散する。古くは中山道と佐久甲州街道との交点であり,宿場町として発達し,岩村田藩ならびに田野口藩の陣屋町として栄えた。
 長野新幹線開通に伴う「佐久平駅」の設置で,開発も進んでいる。佐久地方の水田で行われているのコイの養殖は,刈り入れ時に水揚げされ食卓に並ぶ『秋の風物詩』となっている。

⇒関連情報:住民投票で大型公共投資にブレーキ!佐久市に見る地方自治のあるべき姿(ダイヤモンドオンライン 2011年1月20日配信掲載) 2011年1月21日(金)配


関連ブログ
・鹿児島県阿久根市議会のリコール成立-2
 http://blog.goo.ne.jp/rk_kobayashi/e/dafccfcec99ecd3f068c4bac6bb27a01
鹿児島県 阿久根市議会リコール成立・1 http://blog.goo.ne.jp/rk_kobayashi/e/9649aa099a4f1090f48135a84d8d66f0

・鹿児島県阿久根市の出直し市長選
 http://blog.goo.ne.jp/rk_kobayashi/e/b5acceb45399b0f025c2e306cb38b331

・鹿児島県阿久根市 竹原信一市長を巡る動き
 http://blog.goo.ne.jp/rk_kobayashi/e/a1847870dca2e8ed602b95fec3ab8401


▼------------------------
「身の丈」を強みとする経営―縮小の時代に勝つ「新リージョナルマーケティング」―【新刊】
 


「身の丈に合った経営」 閉塞感漂う時勢ではありますが,堅実経営を貫き,長期にわたり成長を維持している小売業も多数存在します。こうした企業を凝視すると,ある共通性が浮かんできます。それは,性急な業容拡大は弊害が多いとして,堅実な発展を目指して,自らの分を知り,ライバルの動きに惑わされることなく,マイペースを貫きながら存在感を発揮するという経営姿勢を貫いている点です。

 『 「身の丈」を強みとする経営』(日本経済新聞社刊)では,このような経営姿勢を「身の丈経営」と称して,縮小の時代の小売業経営のあり方を考察しています。なお,「身の丈経営」とは,石橋を叩いても渡らないといった消極経営や縮み志向の経営ではありません。現状に満足することなく常に革新にとり組む経営を指します。具体的には,顧客の囲い込みによる安定基盤の確立,そして持続的発展の原動力は需要創造にあります。

「身の丈」を強みとする経営―縮小の時代に勝つ「新リージョナルマーケティング」
小林 隆一
日本経済新聞出版社



ビジュアル 流通の基本 (日経文庫)
小林 隆一
日本経済新聞出版社





マニュアルのつくり方・生かし方
小林 隆一
PHP研究所





コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 鹿児島県阿久根市議会のリコ... | トップ | 「身の丈」を強みとする経営... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

これでいいのか鹿児島」カテゴリの最新記事