七夕では,人それぞれの願い事を短冊に書き,笹竹に結びつけて七夕飾りをします。七夕にちなんで,互いの想いを星に込めた,悲哀物語を書きとめます。
正岡子規,伊藤左千夫,斎藤茂吉らの流れを汲むアララギ派の歌人・島木赤彦は,32歳の時,なさぬ中であった愛弟子・中原(川井)静子との別離に際し,北斗七星を相聞の星(しるし)としました。北斗七星が別離後の二人にとって交信の印であったのです。
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先生と毎夜,北斗七星を眺めむ約束せし。
おぼろ着き春の夜空に火(ほ)の星(し)消えて遠地の人を思ひたのめり
火の星を仰ぎては思ふこの夜頃戸外はいまだ春寒くして -静子
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赤彦が桔梗ヶ原を去る日の夜空に,思いを定め,毎夜眺めんことを
約束せし星にして,北斗七星の星々に思いを馳せ,・・・・>
星の下に別れかなしみこぼるなみだ永久にきえなん火の星の如-赤彦
静かなる曇りのおきに火の星のほのかに赤し涙ぐまるる-赤彦
また,静子と逢えなくなった赤彦は,そのおだやかならざる心情を鎮めるかのように静子宛に手紙をしたためています。
・・・・あなたは松本平に独りになった・・・・併し私はあなたに幸あることを信ずる真に信ずる私は心から天の神に祈る天の星に祈る私のかく常に祈っているということを思っていてください。・・・・
愛弟子の危うい身を何としても見守ってやらなくてはならぬという赤彦の真情が込められた一文です。
出典:
『桔梗ヶ原の赤彦』 川井静子著 謙光社刊 昭和52年1月発行
『赤彦への相聞歌集 去りがてし森』 川井静子遺歌 文化書局発行 昭和58年11月発行
赤彦歌集 (岩波文庫) | |
赤彦21歳の明治29年より赤彦51歳の大正15年までの、1,503首の短歌を網羅している。赤彦の歌を通じて、100年以上も前の遠い世界をごく身近に感じることが出来る。 | |
岩波書店発行 713円 |