烏鷺鳩(うろく)

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ブルガリアの「方解石の仮晶をなす水晶」:仮晶(1)

2018-08-06 | 鉱物



細かな氷の粒がオオカミの牙を覆っているようだ。



これは、「方解石」(Calcite)の結晶の形である犬牙状の形態を形作っている、細かな「水晶」の結晶の集まりである。

つまり、まず方解石の結晶ができる。次にその結晶を覆うように水晶が形成される。そして形成された水晶を残して、中の方解石が溶けるか崩壊して無くなる。すると、外側を覆っていた水晶だけが、方解石の形をとどめて残る。こうした結晶形態を「仮晶」と呼ぶ。



だから、結晶の内側はこんな風に空洞となっているのだ。


「仮晶」にも4つのパターンがあるので、それぞれ見てみよう。

仮晶(pseudomorph) 結晶の内部構造はその外形を変化させずに変えることはできない。内部構造がその外形に適合しないときに、その物体を仮晶と呼んでいる。
たとえばオウテッ鉱の結晶が、外形を元のままにして内容がカッテッ鉱に変じているようなものである。これをオウテッ鉱の仮晶をなすカッテッ鉱(limonite after pyrite)という。
仮晶形成作用は次の如く区分される。

ⅰ)転移(inversion)
アラレ石の結晶は結晶構造を変じてホウカイ石となるが、この場合、化学組成には何等の変化はない。これを同質異像仮晶(paramorph)という。
ある場合には外形が新しい構造の複雑な双晶作用によって保持されることがある。このような転移は物理性に何等の変化もないので、新しい相も古い相も同じ名称で呼ばれている。
・・・
同じようにセキエイ(SiO2)も575℃で高温型から低温型へと転移するが、両形ともセキエイといっている(α型、β型とは区別するが)。(『鉱物概論』p.213)


アラレ石(霰石)はホウカイ石(方解石)と同じ成分でできているが、結晶の構造が異なるのだ。同じ成分でできているが、結晶構造が異なるので異なる形状を成しているというわけだ。

ⅱ)変質(alteration)
結晶の化学組成に新しい物質の添加されたとき、または元の物質のあるものが他に移されたとき(あるいは両者)元の形態をそのままに保つことがある。その例はコウセッコウ(CaSo4)がセッコウ(CaSo4・2H2O)に、ホウエン鉱(PbS)がリュウサンエン鉱(PbSo4)に、オウテッ鉱(FeS2)がカッテッ鉱(FeSo4・nH2O)にと変化したときに観察される。

ⅲ)交代(置換)(substitution)
ある場合に結晶を構成している物質が全く同時に沈殿する他の物質の溶液中に徐々に移り去られてしまうことがある。
蛍石がセキエイまたはギョクズイで交代されてできる仮晶はその恒例である。

ⅳ)被覆、渗透、充填(incrustation, infiltration, deposition)
一つの鉱物の結晶の表面に他の鉱物が沈殿して被殻を作る例がある。蛍石の結晶をセキエイが被覆するのはその例である。
またある鉱物の結晶が溶け去ってできた空隙に別の鉱物が溶液から沈積して、元の結晶空隙を充填して、元の結晶をなすことがある。(『鉱物概論』p.214)




おそらく今回の「方解石の仮晶をなす水晶」は、この4つめのパターンの「被覆」なのではないかと思われる。


また、「トルコのクリソプレーズ」の回でご紹介したこちら



も、クリソプレーズを水晶が被覆しているパターンであり、これも仮晶の一種だということがわかった。確かに、細かな水晶の煌めく結晶を見比べると、よく似た形状である。


さて、もう一つの仮晶も次回にご紹介したいと思う。


【参考文献】
・『鉱物概論 第2版』 原田準平 著 (岩波書店、1978年11月30日)
・『鉱物の博物学』 松原聰/宮脇律郞/門馬鋼一 著 (秀和システム、2016年3月1日)

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