ちぎれ雲

熊野取材中民俗写真家/田舎医者 栂嶺レイのフォトエッセイや医療への思いなど

オホホ登場!

2008-11-08 | 写真
オホホホホホ! オホホホホホホホホ!


 西表島の干立(星立)の節祭り(シチ)には、「オホホ」という仮面神(・・神なのか?)が登場して大人気です。八重山のほとんどの村では「ミリク」という豊穣と子孫繁栄をもたらす仮面神が大事に崇められているのですが、そのミリクの行列に乱入する形でオホホが現れます。

 ミリクは”弥勒”であって、「弥勒が布袋和尚としてこの世に生れ出でてきた!」という弥勒信仰がベトナムから伝来したものと言われています。確かに白塗りの巨大なホテイさんのお面に黄色い高貴な法衣といういでたちなのですが、八重山では島によっては女の神様で(その男顔で!)、旦那までいて(!)、たくさんの子供たちを連れて、海の彼方から豊作豊穣を連れてやってくる神様という、本来の仏教とは似ても似つかぬものになっているのです。初めてミリクを見た時は、外来の宗教を取り込んでさらに変形させてしまう八重山の底力に怖ささえ感じたものです。

 一方オホホは、まっしろなお顔に尖った高い鼻、腰には煙草入れを下げて、なぜかブーツ履き(!?) いきなりお腹の辺りから札束を取り出して、ミリクと子供たちや観客の女性にさかんにちょっかいを出します。背負った風呂敷包みの中身もぎっしり札束。オホホはお金で女性や子供たちを連れていこうとするが、誰もついていかない、ということになっています。お金の力では、豊穣も子孫繁栄も得られないという教訓だそうです。

 ・・・・・がっ、オホホ人気は予想を上回っていました。
 ミリクよりも大人気!?(あわわ!)
 札束を振りながら踊って、踊って、まるでオホホオンステージです! 飛び出してきて一緒に踊るおばあちゃん。最後にオホホがダトゥーリッターという道化役の女性二人に連れられて退場した時は、ついに拉致される女性が現れたか!?と焦ってしまいました。子供たちも争うように札束を拾っ・・・・・(こら!!) オホホ目当ての観光客の方も多かったのではないかと思われます。


すいません遊んでみました(汗) 実際にオホホが喋るわけではないです


 煙草入れやブーツなどの衣装や、裏声で「オホホホホホホ」しか言わないのは言葉が通じないからだということになっていて、オホホは異国から船でやってきたオランダ人、というのが定説になりつつあります。というのは、1600年頃に確かにオランダ人が漂着した記録があり、同じ漂着船かどうか私はわかりませんが、オランダ人が村の娘を拉致したという話が残っています。また、当時はいろいろな異国船が東シナ海を行き交っていて、「ウランダピトゥ(オランダ人)」というのは異国人の総称であったともいいます。新城島の文献を読んでいたら、そちらにもオランダ船漂着の記録(村人が助けて、役人が連れていったそう)があったので、同じ漂着のことがいろんな島に伝説になって伝わっているのか、異国人の漂着が何度もあったのかわかりませんが、外国人が来ていたことは事実のようです。

 お隣の祖納の節祭り(シチ)にはオホホは登場せず、かわりに頭からすっぽりと黒い布をかぶった女性が出てきて歌うアンガー行列があり、さらに船でないと行けない(陸路のない)船浮にはもっと面白い伝説が残っていました。船浮の節祭り(シチ)では、3人の女性が一緒に1枚の黒い布を頭からすっぽりと被って登場するのだそうです。
 むかしむかし、オランダ人が漂着した時、3姉妹の二女がオランダ人の一人と恋仲になった。しかし両親や村人がその恋を許すはずもなく、姉と末の妹は中の妹をオランダ船に送り届けようと、闇夜に3人で黒い布を被って浜へ走った。黒い布を被るのは、夜の闇に隠れるためだけでなく、中の妹を異国にやったらもう二度と会えない、死出の旅立ちを見送る弔装束の意味もある(船浮観光・船浮資料館/池田克史さんのお話)
 ・・・のだそうです。

 村ごとに違う形で伝わっている(でも必ず節祭りの時に登場する)のも面白いのですが、もうひとつ凄いなあと思ったのは、皆さん必ず自分の村の節祭りに出るので(前のブログで書いたように、コミュニティ内のつながりはとても大事にされていて、非常に厳しい)、同じ日に行われる他の村の節祭りのことを一度も見たことがないのだそうです。(秋田県男鹿のナマハゲでも同じことを言っていました) 今でこそ、文献や映像で他の村が何をやっているのか見ることができるけれども、それ以前は、自分の村の行事しか知らない、そんな中で何百年も伝えられて、村ごとの独特の形式が出来上がっているのでした。



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