吉村知事の大阪府が抱える不都合な事実

立岩陽一郎 | 「インファクト」編集長
6/13(日) 9:13

その実務能力と弁舌が高く評価される大阪府の吉村洋文知事。情報番組でも人気は高いが、実は不都合な事実を抱えている。それは新型コロナでの飲食店への協力金の支払いが他の自治体と比べて群を抜いて遅いのだ。詳細を明かす。

「いろんな企業、飲食店がある。それを完全補償するとなると、無責任には言えません。コメンテーターではないので」。

5月26日、私がコメンテーターを務める毎日放送の情報番組「4ちゃんTV」で大阪府の吉村洋文知事は言った。それは、飲食店で時短やアルコールの提供を控えるとの要請が守られなくなっているという状況を踏まえて、私の、「「実務派の知事だが(メッセージが)現状、届いていない。求められるのは、もっと強いメッセージ。延長で休業要請に応じたところを『潰さない』と明確に言ってほしい」という言葉への返答だった。

吉村知事は、「大阪府の財源で、お札を刷る力もない中で『倒産、閉鎖させません』と言うこと自体、無責任では」とも語った

私の発言は一部の報道では「無茶ぶり」と批判されたが、「強いメッセージを発するタイミングではないか?」との問いだった。

それに対する吉村知事の回答について批判する気は無い。実務派の知事らしい回答だとも言える。

問題は、議論の前提となる飲食店への協力金の支給だ。この協力金については吉村知事も緊急事態宣言を実施する上での条件として重視していた筈だ。ところが、その協力金の支給が大幅に遅れいてる。しかも、大阪府が最も悪い数値となっている。

具体的な事例で説明したい。私の手元に、全国で飲食店を展開する企業の内部資料が有る。その詳細をここに書く。

数値は5月28日の時点のものだ。

大阪府は入金率が30.1%。では他はどうか?軒並み70%を超えている。愛知県は100%。既に入金されているということだ。大阪府より規模の大きい東京都も90%だ。大阪府が極端に低いことがわかる。

企業の内部資料(筆者撮影)
「入金までに掛かった期間」を見たい。ここも大阪府は外の自治体に比べて入金が遅いことがわかる。

大阪府は申請日からだと10.8週。70日余りかかっている。では、愛知県はと言うと、4.9週。東京都は2.4週だ。これを規制が開始された時点からで見ると、大阪府は18.1週だ。規制が始まってからで見ると126日余になる。4か月余りだ。これが深刻なのは、協力金の申請は規制が終了してからの申請になるからだ。しかし飲食店が資金繰りに困るのは当然だが、規制が始まった段階だ。時短やアルコールの提供を止めるのは規制が始まってからだからだ。因みに愛知県では11.4週、東京都は11週。これも短いとは言えないが、少なくとも大阪府に比べれば迅速な対応をしていることがうかがえる。

主な都道府県の数値(筆者撮影)
まさに大阪府にとっての不都合な事実だ。この協力金の支給については吉村知事も自身で責任を持って対応するとしている。つまり、大阪府の遅れはどう言い訳をしても、知事の責任だ。協力金の原資は「地方創生臨時交付金」、つまり国が負担する。大阪府が「お札を刷る」必要も無い。制度設計だけの問題だ。

もう1つ大阪府にとって不都合な事実が有る。

この企業は、大阪府とは別に大阪市についても数値を集計している。実は大阪市の数値は大阪府ほど悪くない。加えて大阪市は家賃負担額に応じた加算金を上乗せすることにしている。ところが、その支払いは大阪府の協力金とセットで申請することになっており、結果、入金が遅れるという事態になっているという。

資料では、「これまでの実績から考えると、入金はかなり遅くなるであろうことが容易に想像できます」としている。

この企業は、各自治体において申請から入金までの期間が短くなる傾向になっていると分析している。一方で大阪府については、「今後については読めない」と厳しい見方をしている。

この資料の数値には、5月12日から大阪府を対象に始まっている緊急事態宣言についての協力金は含まれていない。宣言は順調に行っても6月20日まで続く。この一か月余りもの規制に対する協力金の入金はいつになるのか?資料を提供してくれた企業関係者は、「考えることすらできない」と話した。

冒頭の番組で、支給の遅れを問われた吉村知事は制度を改善して対応すると話した。要請に真面目に対応している飲食店を見殺しにしてはいけない。

立岩陽一郎
「インファクト」編集長
「インファクト」編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。インファクトhttps://infact.press/にて「NHK研究」を連載中。

 

大阪府市共同の「都市計画局」、府議会で可決…「万博推進局」も設置へ

 
 大阪府と大阪市の大規模開発を一元的に担う「大阪都市計画局」を新設する規約案が9日、府議会で地域政党・大阪維新の会などの賛成多数で可決された。すでに市議会でも可決されており、府と市の共同部署としての設置が決まった。

 市の広域行政権限を府に一元化する条例が4月に施行されたことに伴うもので、大阪都市計画局は11月に府に設ける。JR大阪駅北側の再開発区域「うめきた」や、新大阪駅前再整備などの大規模開発事業を推進する。

 また、2025年大阪・関西万博を担当する府・市共同の「万博推進局」の設置も決まった。11月以降に市に新設し、地元パビリオンの準備や機運醸成に取り組む。

 市を廃止して府と再編する「大阪都構想」が昨年11月の住民投票で否決されて以降、府・市共同部署が設置されるのは初めて。

まちづくり権限、異例の委託

 総務省によると、地方自治法に基づき都道府県と市町村が共同設置する機関は、今回の大阪都市計画局と万博推進局を含め全国で21にのぼる。このうち6割の13機関を大阪府・大阪市の組織が占めるが、政令指定都市が持つまちづくりの主要な権限を道府県に委託する今回の取り組みは異例だ。

 自民党は、都構想が住民投票で否決されたことを踏まえ、大阪都市計画局について「市の独自性を府が奪うことになる」と批判。知事と市長が対立すれば、事業が進まない可能性もある。

 吉村洋文知事は「府と市がバラバラにやってきたのが大阪の歴史。一体で成長戦略を実行したほうが力を発揮できる。バラバラになりにくいかたちを作ったということだ」と語った。

 

 

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