鍵穴ラビュリントス

狭く深く(?)オタク
内容は日々の戯言
イギリス、日本、リヒテンシュタイン、大好きです
プラトニックlove好き

スナイパー・ヴィス登場

2013-04-17 20:40:00 | オリジナル小説
 鳥がちちち、と啼いています。
 二人の宿題というのは、数学とラテン語のほかに、詩もありました。
 まず、セラがシェイクスピアの詩を読み上げました。
「『十二夜』のどんちゃん騒ぎのときにフェステが唄う詩よ。
O mistress mine, where are you roaming?
O, stay and hear, your true love’s coming,
That can sing booth high and low.
Trip no further, pretty sweeting;
Journeys end in lovers meeting,
Every wise man’s son doth know.
What is love? ‘Tis not hereafter;
Present mirth hath present laughter;
What’s to come is still unsure.
In delay there lies no plenty,
Then come kiss me sweet and twenty;
Youth’s a stuff will not endure.
――ああ、ぼくの恋人、どこへ行くの?
待って、聞いてよ、心底愛するぼくが行くから、
どんな歌でも上手に歌うよ。
遠くへ飛んでいかないで、かわいいおまえ、
旅の終わりには恋する同士が結ばれるのだ、
賢い人の子なら、阿呆であっても知っている。
恋ってなに? 将来のことじゃないよ、
いまの喜びは、いま笑わなきゃ。
先のことなど分かりはしない。
寝て待ってても、いいことはない、
だから甘いキスをたっぷりくれないか、
青春なんて長持ちしない。――」
アイが両手を合わせて
「姉さま、素敵だわ」
と言いました。それから、
「わたくしはNipponのpoemを1つうたってみるわ」
とアイは言って、
「うつしゑを見上げては書き夜の秋」
と、小さな、それでいてはっきりと聴こえる声で呟きました。
「まあhaikuというものね!」
セラが興奮して言います。
「そうよ。星野立子さんの作で、kigoは夜の秋。秋ってつくけれど夏の季語なのよ」
「素敵だわ、アイ」
二人はにっこりと微笑みあいました。そしてその様子をみて、ロビンはうんうんと微笑をうかべて肯いたのでありました。


「ふん、おまえらに用はねぇんだよ」
「なんだと?」
「俺に殺される前に逃げな」
「は?立場わきまえているのか、このガキ」
 一人の、髪が肩まで伸びている少年を、数人のがらが悪い男たちが囲んでいた。幾人かは肩にこん棒をかついでいる。
 少年の後ろには、高く聳え立った灰色の塀があった。
 逃げ場は、ない。
 ちぃっと舌打ちして、少年は懐から拳銃を取りだした。
 うつむいていた頭を憂鬱げにもたげて、拳銃をつぅと前に差しのべる。
 長い前髪の隙間から見え隠れする紫檀の眼は、何の感情ももっていなかった。
 その様子を見て、男たちはひるんだ。
「な、な、こんなガキがどうしてその拳銃を……?」
「ガキだと?悪戯けるな」
 ふんわり流れる風に、少年の髪がなびく。
 朝がきた。
 薄ピンクな雲がぽかぽか空に浮かんでいる。
「時間がない。オーロラのところにいかないと」
あどけない呟きのあとに、銃声が五発鳴り響いた。


「ヴィス!」
「なんだよ」
「睨むのはやめて頂戴。今朝の出来事知ってて?――北方地方の黒賊たちの幹部が五人、誰かに殺されてたんですって」
 一つのこぎれいな小さな家の玄関に立ちつくして、少年は眉をひそめていた。
「ああ。俺のこと?」
「え?」
「幹部だったんだ。俺の拳銃見たとたん尻込みしてて、下っ端かと思ったぜ」
ヴィスと呼ばれた少年は髪をかきあげる。
「え、ヴィス?何言っているの…?」
「知らね。俺のファンだったみたい」
「……説明して頂戴。わけ分からないわ」
「――オーロラ…話しても俺のこと嫌いになるだけだから、話さない」
目の前に立つ少女――オーロラと視線が交錯して、ヴィスは思わずぷいと横を向いた。
「勉強教えてくれよ」
「あなたのことを知りたい」
「そんな恥ずかしいこと、恋人に言え」
「……」
「……」
オーロラは下を向いた。おさげが小刻みに揺れる。
「ヴィス、わたしはあなたが好きよ」
ヴィスは黙したままだった。
「たとえあなたが人殺しでも。だって、根はそんな風にみえないわ」
「今日は数学を教えてくれるんだろ?」
俯いているオーロラをしり目に、ヴィスはオーロラの家へとあがりこんだ。

つづく