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鍵穴ラビュリントス

狭く深く(?)オタク
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頑是ない歌~中原中也~

2013-02-27 12:41:10 | 詩~中原中也など~
頑是ない歌

      中原中也



思へば遠く来たもんだ
十二の冬のあの夕べ
港の空に鳴り響いた
汽笛の湯気は今いづこ

雲の間に月はゐて
それな汽笛を耳にすると
竦然(しょうぜん)として身をすくめ
月はその時空にゐた

それから何年経ったことか
汽笛の湯気を茫然と
眼で追ひかなしくなってゐた
あの頃の俺は今いづこ

今では女房子供持ち
思へば遠く来たもんだ
此の先まだまだ何時までか
生きてゆくのであらうけど

生きてゆくのであらうけど
遠く経て来た日や夜の
あんまりこんなにこひしゆては
なんだか自信が持てないよ

さりとて生きてゆく限り
結局我ン張る僕の性質(さが)
と思へばなんだか我ながら
いたはしいよなものですよ

考へてみればそれはまあ
結局我ン張るのだとして
昔恋しい時もあり そして
どうにかやってはゆくのでせう

考へてみれば簡単だ
畢竟(ひっきょう)意志の問題だ
なんとかやるより仕方もない
やりさへすればよいのだと

思ふけれどもそれもそれ
十二の冬のあの夕べ
港の空に鳴り響いた
汽笛の湯気や今いづこ



*「在りし日の歌」から


『ソネット集』73

2013-01-11 11:00:00 | 詩~中原中也など~
シェイクスピアの『ソネット集』(柴田稔彦編)から、好きな歌の抜粋です。

※1~126のソネットにおける愛の対象は青年(BLです)
 127~のソネットでは女性(The Dark Lady)


73

君がぼくの中に見るのは、あの季節、
寒風にうちふるえる木の枝にあるかなきかの
黄ばんだ枯葉がしがみつき、少し前まで
かわいい小鳥が歌っていた聖歌隊席も裸の廃墟と成り果てたあの
 季節。*
君がぼくの中に見るのは、西の空に沈む
日のなごりの黄昏どき、その光もやがて、
すべてを安息のうちに封じこめる
死の分身である黒い夜がうばってしまう。
君がぼくの中に見るのは、青春の灰の上に
わずかに残って燃える燠火の明かり、
焔を生み出したものの灰燼に押しつぶされ、
死の床でいのち尽きようとする運命だ。
  これらのことを君は感じ取り、ますます愛を強めていく、
  まもなく失うものだから、いっそう愛してくれるのだ。

* ヘンリー八世の時代に英国国教会が成立し、カトリック系の修道院が解体された歴史が背景にある