レオタードは教えに反する? マレーシアのスター選手を宗教界が批判 「技術でなく身体を見ているのか」と反発も
シンガポールで開かれていた第28回東南アジア競技大会(SEA GAME)で、マレーシア代表の体操女子、ファラー・アン・アブドル・ハジ選手(21)が、本国マレーシアの一部宗教関係者から批判された。「露出の高いレオタード姿」が同国国教のイスラム教の教えに反する、というのだ。ただ、同国の他選手も含め体操のユニホームはほぼ万国共通。優秀な成績と美貌(びぼう)で目立ち過ぎたことが、個人攻撃につながったとの見方もあり、ネット上では、ファラー選手を擁護する意見も殺到している。(シンガポール 吉村英輝)
ファラー選手は同大会で、床と団体で金2個を獲得したほか、銀1個、銅3個、計6個のメダルをマレーシアにもたらした。カリスマ的な美貌も手伝い、表彰式ではさわやかな笑顔を振りまいて話題の的になった。
こうした活躍の反動か、ネットを中心に写真や動画で紹介された競技中のレオタード姿が、マレーシアで大多数を占めるイスラム教徒の一部信者による批判対象になった。
騒動を受け、マレーシアのイスラム教法学者、ハルサニ・ザカリア氏は、「体操競技はムスリム女性向けではない。身体の形を露出することはイスラムで禁じられている」と述べ、体操競技を継続するにはユニホームの改良が必要と訴えるなど、宗教的な論争にも発展している。
これらの批判に、マレーシア国内では、ツイッターなどで、擁護する声が上がっている。
マハティール元首相の長女で社会活動を展開するマリナ・マハティール氏は「批判する人たちは、(競技ではなく)選手たちの身体の部位を見つめて時間を過ごしていたのか。私たちの国に選手たちが栄光をもたらしたのは何だったのか」と怒りをぶちまけた。
また、カイリー青年・スポーツ相も「彼女の行いを判断できるのは神だけで、あなた方ではない。私たちの選手にかまうな」とネット上の批判に苦言を呈した。
ファラー選手自身も「空っぽな缶が一番音をたてる」と批判者たちに反発。彼女を応援しようと開設されたフェイスブックには、15日までに1万を超える「いいね」が寄せられ、支援者に「心から感謝する」とメッセージを送った。
東南アジア競技大会は、地域の相互理解と結束のため、1959年のタイ大会を始めに、五輪とアジア競技大会の合間にほぼ隔年で開かれている。2015年の今年は、シンガポールが建国50年に合わせ開催地となり、36競技、402種目で、11カ国の選手が出場した。
女性選手が出場する競技では、バスケットボールを女性用に改良し英国を中心に広まったネットボールがある。今年は、シンガポールの選手がミニスカートと袖無しの伝統的なユニホームで挑んだのに比べ、マレーシアの選手は長袖と長ズボン姿で、ムスリムの選手はスカーフ状の布で髪も隠していた。
次回は2017年にマレーシアの首都クアラルンプールで開催される予定。ファラー選手の騒動をきっかけに、競技の内容ではなく、ユニホームばかりが注目されるようになっては、女性選手の士気の低下は避けられない。地域のさらなる発展に不可欠な女性の活躍を妨げる事態にもつながりかねないだけに、議論の行方が注目される。