《石川五右衛門のバレンタイン》
「はぁ」
結局俺には無いのか…。
五右衛門は溜め息を吐いて姫が待つ城を目指す。
あんなにたくさんあったのに、自分のが一つもないなんて…。
「ちぇっ」
五右衛門は片足で地面を蹴った。
***
「おかえりなさい」
城に入ると姫が笑顔で出迎えた。
「ありがとう、遠くまで大変だったでしょう?」
お疲れ様と姫はパタパタと小走りで五右衛門の前に立つ。
…いつもはこの笑顔で疲れなんて吹っ飛ぶんだけどな。
今日はそうは行かないみたいだ。
「まー…ちょっと疲れたかな」
五右衛門は俯くとボリボリと頭を掻いた。
我ながらしょーもない。
ちょこれいとが貰えないくらいなんだ。
従者なんだから…。
立場をわきまえなきゃ。
「…悪い、ちょっと疲れたから休んでくるわ」
結局自分の心の葛藤に勝てなかった。
「…じゃ」
五右衛門はまた飯ん時、と言って姫の横を通りすぎた。
「あ、待って」
姫がくいっと五右衛門の袖を掴む。
「…これ」
振り返ると少し俯いた姫が五右衛門に何かを差し出していた。
「お、お、お、俺に!?」
五右衛門が驚いてすっとんきょうな声をあげると姫はコクリと頷いた。
「なかなか渡す暇なくて、遅くなっちゃったけど…」
「………………しい」
「え?」
「すっげぇ嬉しい!!」
五右衛門は大きな声を上げて差し出された贈り物ごと姫の手を握る。
「ありがとう!」
「う、うん」
余りの喜びように姫は驚いて目をぱちくりさせるが、すぐに、にこりと笑う。
「食べていいか?」
「え、でも、休まなくて大丈夫?」
「これ食ったら疲れなんか吹っ飛ぶよ!」
五右衛門は嬉しそうに箱を開けた。
「へぇ、これがちょこれいとか~」
五右衛門はまじまじとちょこれいとを見つめる。
「それ一応、ハート型なの…」
「はーと?」
「うん…すごく歪な形になっちゃったけど」
姫が恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「そっか?俺はそのはーとってよくわかんねぇけど、姫が作ったんなら絶対うまい!…ありがとう」
五右衛門はにっこり笑うと、パンッと両手を合わせた。
「いただきます!」
***
「なぁ、ほんまに好きな奴にはハート型にしとき」
「はーと型ですか?」
「そうや」
茶々は指でハート型を書いてみせる。
「ハート型って言うのは好意を持った奴にあげるらしいんやわ」
「可愛いらしい形ですね」
「そやろ、だからこれはほんまに好きな奴にとっとき」
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