下水道施設のAM 財政難の地方に関心高まる
9月28日8時15分配信 フジサンケイ ビジネスアイ
■下水道事業団 まず5団体に支援
設備の新規投資から維持・更新の時代に入った下水道事業。それに伴って、施設の劣化状況を客観的に把握・評価し、中期的視点にたって計画的・効率的に管理・整備するアセットマネジメント(AM)が重要視されるようになった。ライフサイクルコスト(LCC)の縮減効果が見込めるため、厳しい財政状態に苦しむ地方公共団体も注目しており、日本下水道事業団は2008年度までに、静岡市など5団体にAM手法導入を支援。09年度以降も支援要請は一段と増えそうだ。
下水道に関する最新の技術・機器を展示・紹介する「下水道展’09東京」が東京・有明の東京ビッグサイトで始まった7月28日、隣接する東京ベイ有明ワシントンホテルに、AMについて先駆的な取り組みを進めている主要国の専門家が集まった。日本下水道協会、米国水環境連盟、欧州水協会が連携して企画した「下水道施設のアセットマネージメントに関するシンポジウム」に参加するためだ。
シンポジウムでは、AMの活用意義や最新技術、評価方法などについて議論が盛り上がったのはもちろんだが、聴講した各地方公共団体の関係者からLCCの最適化や予算の平準化などについての質問が相次いだという。厳しい財政のなかで下水道施設の維持・更新に苦労している様子が伺える。
AMがこの時期に注目される理由は何か。高度経済成長時代に集中投資した社会資本の高齢化が進み、今後は老朽化に伴う事故や災害の発生などが懸念されるためだ。下水道施設でも、老朽管などにより道路陥没が年間4000カ所以上で起きている。このため、国土交通省の社会資本整備審議会などでも計画的な維持管理・更新の実施を提言。すでに道路・橋梁(きょうりょう)分野を先行例として、公共施設全般へのAM手法導入が広がっている。
◆効率的な機能確保課題
下水道も、「新規施設は減ってきており、市民共通資産の価値向上に向けて、体系的・計画的に運営・改築更新していくことが必要になっている」(下水道事業団の堀江信之事業統括部長)。言い換えると、いかに効率的(お金をかけず)に、機能を管理していくかが最大課題となる。
下水道事業団が3月に策定した第3次中期計画(09-11年度)でも、「今後の事業展開」でAM時代への対応に多くのページを割いている。
下水道事業団はいち早く、05年度から「静岡市との共同研究」に取り組むとともに、学識者らによる「アセットマネジメント手法導入検討委員会」を設置。下水道施設に対するAM手法を確立し、08年度にAM手法導入マニュアルを完成させた。このマニュアルを活用しつつ、管渠・処理場を問わず下水道施設に対するAM手法導入を積極的に支援していく。
一方で、国交省も08年度、下水道に起因する事故などを未然に防止し、LCCを最小限に抑えるため、計画的に設備を管理・改築する「下水道長寿命化支援制度」を導入。一定の条件化で部品レベルの交換なども補助対象とした。同制度に関する手引きが作成され、これをもとに地方公共団体も取り組みを開始。下水道事業団では08年度に25団体から長寿命化計画作りを受託、09年度は90団体以上に達する見通しだ。
◇
■AMDBで戦略的管理
ところで、長寿命化支援制度とAM手法の違いだが、AM手法は地方公共団体あるいは各処理場・ポンプ場全体の施設を対象にしたマクロマネジメントで、中長期的(20-50年間)の改築・修繕計画を策定する。これに対し、長寿命化計画は例えば水処理1系列だけといった対象施設を絞り込んだミクロマネジメントで、短期的(おおむね5年)に改築・維持管理計画を策定する。
しかし、両者とも施設状態を客観的に評価し、LCC縮減効果が見込める対策を検討する点では同じだ。このため、長寿命化計画策定時に整理した資産リストや健全度、将来予測データなどを少しずつ蓄積していくことで下水道施設全体にAM手法を導入していくことも可能だ。
下水道施設の老朽化が進む一方で、施設の高度化・多様化などの機能向上が求められており、保有する資産のマネジメントがますます重要になっている。そのためには検討の前段となる資産の現状把握とデータベース化が不可欠となる。
下水道事業団は、こうした取り組みを効率的に行っていくため、AMDB(アセットマネジメントデータベース)を開発した。下水道施設の健全度の将来予測を行うとともに、地方公共団体共通のツールとして運用を推進していく。下水道事業を運営していくには、さまざまな台帳を整備し更新していく必要があるが、地方公共団体ごとにシステムをもち、ハード・ソフトを維持していくことは容易ではないからだ。
◆不可欠なAM手法導入
AMDBは、下水道事業団が保有するサーバーにインターネット網を介してアクセスし、AM手法の実施に際して必要な各種データを入出力できるシステム。中長期計画の策定や財務諸表の作成、LCC・財政シミュレーターといったAMとの連携機能をもつほか、設備台帳や保全履歴、工事台帳、資産台帳としても活用できる。AMと連動した本格的なデータベースの構築はわが国初という。
インターネットの活用で安定的かつ安価でサービスを提供できるほか、データの蓄積で健全度の予測精度を向上できるとあって、提供開始初年度の08年度には、台帳目的での使用が5団体、長寿命化・AMの健全度算出が29団体、経営企画支援が1団体だった。
地方公共団体にとって厳しい財政状況という予算上の制約があるなか、下水道施設の健全度を一定水準以上に保ち、安定したサービスを提供していくにはAM手法の導入が不可欠だ。これにより、維持・更新費用をコントロールできれば、下水道施設の未普及地解消や耐震化、高度処理など多くの政策課題への適切投資も可能になる。こうした戦略的な施設管理の時代を迎えたといえ、下水道事業団は今後も、下水道事業に関するAM技術で先駆的役割を担っていく。
9月28日8時15分配信 フジサンケイ ビジネスアイ
■下水道事業団 まず5団体に支援
設備の新規投資から維持・更新の時代に入った下水道事業。それに伴って、施設の劣化状況を客観的に把握・評価し、中期的視点にたって計画的・効率的に管理・整備するアセットマネジメント(AM)が重要視されるようになった。ライフサイクルコスト(LCC)の縮減効果が見込めるため、厳しい財政状態に苦しむ地方公共団体も注目しており、日本下水道事業団は2008年度までに、静岡市など5団体にAM手法導入を支援。09年度以降も支援要請は一段と増えそうだ。
下水道に関する最新の技術・機器を展示・紹介する「下水道展’09東京」が東京・有明の東京ビッグサイトで始まった7月28日、隣接する東京ベイ有明ワシントンホテルに、AMについて先駆的な取り組みを進めている主要国の専門家が集まった。日本下水道協会、米国水環境連盟、欧州水協会が連携して企画した「下水道施設のアセットマネージメントに関するシンポジウム」に参加するためだ。
シンポジウムでは、AMの活用意義や最新技術、評価方法などについて議論が盛り上がったのはもちろんだが、聴講した各地方公共団体の関係者からLCCの最適化や予算の平準化などについての質問が相次いだという。厳しい財政のなかで下水道施設の維持・更新に苦労している様子が伺える。
AMがこの時期に注目される理由は何か。高度経済成長時代に集中投資した社会資本の高齢化が進み、今後は老朽化に伴う事故や災害の発生などが懸念されるためだ。下水道施設でも、老朽管などにより道路陥没が年間4000カ所以上で起きている。このため、国土交通省の社会資本整備審議会などでも計画的な維持管理・更新の実施を提言。すでに道路・橋梁(きょうりょう)分野を先行例として、公共施設全般へのAM手法導入が広がっている。
◆効率的な機能確保課題
下水道も、「新規施設は減ってきており、市民共通資産の価値向上に向けて、体系的・計画的に運営・改築更新していくことが必要になっている」(下水道事業団の堀江信之事業統括部長)。言い換えると、いかに効率的(お金をかけず)に、機能を管理していくかが最大課題となる。
下水道事業団が3月に策定した第3次中期計画(09-11年度)でも、「今後の事業展開」でAM時代への対応に多くのページを割いている。
下水道事業団はいち早く、05年度から「静岡市との共同研究」に取り組むとともに、学識者らによる「アセットマネジメント手法導入検討委員会」を設置。下水道施設に対するAM手法を確立し、08年度にAM手法導入マニュアルを完成させた。このマニュアルを活用しつつ、管渠・処理場を問わず下水道施設に対するAM手法導入を積極的に支援していく。
一方で、国交省も08年度、下水道に起因する事故などを未然に防止し、LCCを最小限に抑えるため、計画的に設備を管理・改築する「下水道長寿命化支援制度」を導入。一定の条件化で部品レベルの交換なども補助対象とした。同制度に関する手引きが作成され、これをもとに地方公共団体も取り組みを開始。下水道事業団では08年度に25団体から長寿命化計画作りを受託、09年度は90団体以上に達する見通しだ。
◇
■AMDBで戦略的管理
ところで、長寿命化支援制度とAM手法の違いだが、AM手法は地方公共団体あるいは各処理場・ポンプ場全体の施設を対象にしたマクロマネジメントで、中長期的(20-50年間)の改築・修繕計画を策定する。これに対し、長寿命化計画は例えば水処理1系列だけといった対象施設を絞り込んだミクロマネジメントで、短期的(おおむね5年)に改築・維持管理計画を策定する。
しかし、両者とも施設状態を客観的に評価し、LCC縮減効果が見込める対策を検討する点では同じだ。このため、長寿命化計画策定時に整理した資産リストや健全度、将来予測データなどを少しずつ蓄積していくことで下水道施設全体にAM手法を導入していくことも可能だ。
下水道施設の老朽化が進む一方で、施設の高度化・多様化などの機能向上が求められており、保有する資産のマネジメントがますます重要になっている。そのためには検討の前段となる資産の現状把握とデータベース化が不可欠となる。
下水道事業団は、こうした取り組みを効率的に行っていくため、AMDB(アセットマネジメントデータベース)を開発した。下水道施設の健全度の将来予測を行うとともに、地方公共団体共通のツールとして運用を推進していく。下水道事業を運営していくには、さまざまな台帳を整備し更新していく必要があるが、地方公共団体ごとにシステムをもち、ハード・ソフトを維持していくことは容易ではないからだ。
◆不可欠なAM手法導入
AMDBは、下水道事業団が保有するサーバーにインターネット網を介してアクセスし、AM手法の実施に際して必要な各種データを入出力できるシステム。中長期計画の策定や財務諸表の作成、LCC・財政シミュレーターといったAMとの連携機能をもつほか、設備台帳や保全履歴、工事台帳、資産台帳としても活用できる。AMと連動した本格的なデータベースの構築はわが国初という。
インターネットの活用で安定的かつ安価でサービスを提供できるほか、データの蓄積で健全度の予測精度を向上できるとあって、提供開始初年度の08年度には、台帳目的での使用が5団体、長寿命化・AMの健全度算出が29団体、経営企画支援が1団体だった。
地方公共団体にとって厳しい財政状況という予算上の制約があるなか、下水道施設の健全度を一定水準以上に保ち、安定したサービスを提供していくにはAM手法の導入が不可欠だ。これにより、維持・更新費用をコントロールできれば、下水道施設の未普及地解消や耐震化、高度処理など多くの政策課題への適切投資も可能になる。こうした戦略的な施設管理の時代を迎えたといえ、下水道事業団は今後も、下水道事業に関するAM技術で先駆的役割を担っていく。