路傍の露草 ~徒然なる儘、読書日記。時々、映画。~

“夏の朝の野に咲く、清廉な縹色の小花”
そう言うに値する小説や映画等の作品評。
及び生活の単なる備忘録。

おかざき真里『サプリ6』

2007年07月29日 | Comic[漫画]
おかざき真里『サプリ6』
2007年8月5日発行
祥伝社

【帯より】
「誰かあたしをたすけろ!」
若くて激情型の恋敵、
真意が見えない男、
避けていた女同士の争い、
食えない上司…。
30歳目前、女の仕事と恋は混戦模様。


***************************************

『サプリ』も、いつの間にか6巻である。
その間に、ドラマ化もあった。
観ていないが、原作とまったく違うストーリーで、酷かったらしい。視聴率も。

観ていないのでわからないが、数年前、林真理子の『Anego』を篠原涼子と赤西仁でドラマ化して当たったので、その伊東美咲&亀梨ヴァージョンを作ろうとしたのだろうか。職場のベテランの女子社員と年下の新人男子との恋、という設定は、正直安易である。そんなことを夢見ている女性が世の中には多いのだろうか。

ドラマの話はさておき、『サプリ』がドラマ化されるほど人気を得ているというのは、それほど面白く魅力ある作品であり、世の女性の共感と支持を得ているということである。
(ちなみに、本家『サプリ』は年下男子との恋愛の話ではない。)

社名は出てこないが、おかざき真里氏が以前在籍していた広告代理店・博報堂を舞台にしていることは恐らく間違いない。

激務の毎日。徹夜は頻繁にあり、深夜の1時からの打ち合わせも平気で行われる。常に2、3つのプロジェクトを並行して抱え、家で食事を取る余裕などあるはずもなくいつも外食。休日返上もしょっちゅう。クライアントとの折衝で神経を擦り減らす。給料は仕事そのものではなく、このストレスに対して支払われている慰謝料なのではないかとまで思う日々。

『サプリ』では、大手広告代理店でテレビCM制作をする藤井ミナミが、このように尋常でないほど多忙な仕事をこなしていく。その一方、女は捨てず、きちんと恋愛模様も繰り広げていく。

仕事と恋、両方に全力で打ち込み、そして悩み悶える。
ものすごいパワー出力である。
この主人公を始め、非常にパワー溢れる女性たちが登場して脇を固めている。
圧倒されるほどだ。

この作品で秀逸なのは、これらのオンナ同士の会話シーンである。リアルすぎる(この辺りが、読者の支持を得るポイントか)。
頭のいいオンナたちが集まると、こういう会話になるのだろう。


さて、ふと疑問に思うのは、『サプリ』に共感し支持している多くの世の女性の一体どれほどが、果たして実際に自身も総合職として“切った張った”の日々を送っているのだろうか?ということである。

一時の就職氷河期は乗り越えたものの、依然として厳しい新卒雇用状況の昨今である。理科系の大学院まで出た人が、就職先がなく営業職に就いて毎日外回りをしているような時代である。そんな世相を反映してか、新卒女性では今、総合職より一般職のほうが人気なのだそうだ。

「男性に混じって第一線で心身ともに過酷な業務に携わるよりは、少々給料が少なくとも夕方5時には退社できるお気軽な事務OLで良い。」「結婚後も家事と子育てをしながら仕事を続けて疲弊しながら無理にキャリアを積んでいくよりは、適当な所で寿退社をして専業主婦として家庭に収まりたい。」
という思考だそうだ。
最近の<愛され系エビちゃんOL>の流行も、そういった状況をズバリ突いている。

林真理子の一昔前の小説によく登場したような、80年代~90年代前半までのバブルの恩恵を受けて出現したキャリアウーマンという存在は化石となり、その言葉自体もいずれ死語となるのだろう。

そんなことを思うが、しかし、女性がハードな職場で働く様子とその葛藤をリアルに描く漫画がヒットしているのはなぜだろうか。『サプリ』しかり、安野モヨコの『働きマン』しかり。
キャリアウーマン幻想も、マスコミ業界には無縁だということだろうか。
(『サプリ』は広告代理店、『働きマン』は出版社が舞台である)


Amazon.co.jp: おかざき真里『サプリ6』


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