(2010年7月19日付)
口蹄疫問題で、4月下旬に疑い例が確認された川南町の大規模農場で、獣医師が県の家畜保健衛生所に異常を通報した6日前から、牛数頭によだれの症状が出て いたことが18日、経営会社への取材で分かった。
当時は、国内10年ぶりとなる都農町の1例目の公表前。別の関係者によると、国が実施した抗体検査の結果から、大規模農場の感染時期は遅くとも4月上旬 とみられる。口蹄疫問題では数十軒の農場で症状が見過ごされた可能性が指摘されているが、農林水産省の疫学調査チームは牛700頭以上を飼育する大規模農 場の状況が、感染拡大ルート究明の鍵の一つとみて調査を進めている。
大規模農場では都農町の1例目公表後、牛の舌にただれなどの異常も発見したが経過観察とし、すぐ届けていなかった。
経営会社側は「よだれはやや多い程度で風邪を疑った。1例目の公表前に口蹄疫を予見するのは著しく困難で、舌のただれなどがある牛が増えた時点で届け た」とする。
同社の弁護士によると、大規模農場では4月18日、よだれの症状がある牛数頭を把握。獣医師が風邪を疑い、ほかの牛も含め抗生物質を投与した。県が都農 町での1例目を公表したのは同20日。翌21日には、大規模農場のすぐ近くにある農場2カ所でも疑い例が出た。
大規模農場では22日に舌のただれや潰瘍(かいよう)がある牛を発見したが、家畜保健衛生所への通報は2日後の24日。「別の2頭に同様の症状が見ら れ、よだれも異常に多くなったため届けた」(弁護士)といい、翌25日に遺伝子検査で陽性となった。
別の関係者によると、国の抗体検査で、同農場の複数の牛から非常に強い陽性反応が出た。感染から2週間以上経過していると推定され、遅くとも4月上旬に はウイルスが侵入したとみられる。
同26日から大規模農場で殺処分に従事した他県の獣医師は「風邪と間違えるかもしれない症状だったが、多くの牛が発症していた」と話す。
4月末には経営上の関連がある、えびの市の農場でも疑い例が出た。疫学調査チームは6月、「家畜運搬車両などを通じて飛び火した可能性がある」と指摘し ている。
口蹄疫をめぐっては、都農町で下痢の水牛がいると3月末に通報があった際、典型症状ではなかったため県が口蹄疫検査に回さず、見過ごしたことが判明して いる。
■異常は通報必要
【白井淳資・東京農工大教授(家畜伝染病学)の話】宮崎県で最初に発生が確認された4月20日以前に「口蹄疫かもしれない」と気付くのは難しいかもしれ ないが、20日以降は、少しでも異常を感じたらすぐに通報するべきだと思う。特に口蹄疫は感染力が強いので、飼育頭数が多い農場で感染が起きれば拡大のス ピードも速く、人や車を通じて周囲に広がるリスクも高いと考えられる。できるだけ被害が小さくて済むよう家畜への十分な気配りが必要で、事業者は危機管理 をきちんとするべきだ。
■大規模農場の対応経過
4月18日 宮崎県川南町の大規模農場で牛数頭によだれ症状。獣医師が風邪を疑い、ほかの牛も含め抗生物質を投与
20日 県が都農町での口蹄疫1例目を公表
22日 大規模農場で、牛の舌にただれなどの症状が見つかる
24日 さらに2頭に同様の症状確認。よだれも多くなったため、県の家畜保健衛生所に通報
25日 大規模農場の牛の遺伝子検査が陽性
28日 えびの市にある関連農場で疑い例
6月7日 農林水産省の疫学調査チームが、大規模農場とえびの市の関連農場での発生について、「家畜運搬車両などを通じて感染が飛び火した可能性があ る」との見解