「私にもいろいろあった。
私は、いつしか光を失っていた。
私は、言葉を、忘れてしまっていた。
目の前に、青年が立ったとする。
少女が立ったとする。子供と出くわしたとする。
私と同い年ぐらいの女の方を目の前にしたとする・・・・。
私は、言葉を持たなかった。
外国ならいい。
私は、要求だけをいえばいいのだ。
プリーズ、ギブ、ミー、ベッド、アンド、イート。
私は、この言葉一つで、ニュージーランドで、未知の人たちに温かく迎えられ
なんにちでも泊めてもらい、良き友を得た。
フランスでも、この言葉で、言葉の通じない人たちが、私を親切な家に導き、そこの人たちは
私をはるかなる国から来た客として迎えてくれた。
でも、日本では、同じ言語の国なのに、私は、言葉を持たなかった。
アリスの丘の実習生とがそうだった。
家出してきた少年とがそうだった。
自殺旅行で、最後にと立ち寄った若い女の人とがそうだった。
奥さんを失い、子供と仕事と健康のことで、ストレスいっぱいの紳士とがそうだった。
私は、何もいえず、お菓子を焼いた。
忘れんぼのバナナケーキを、
家出のケーキを、
幸せのお菓子を、
空とぶ魔法の絨毯を。
そのお菓子を食べた人の、光のなかった目が輝いた。
「おいしい」
「うまい・・・・」
それからは、言葉はもういらなかった。互いに、気持は通じ合った。
互いに一方的にしゃべりたてさえすれば、それは、自然に、会話となった。
今、何故、ケーキなのか?
今、何故、ジャムなのか?
それは、私と、未知の人とを、そして、ごく親しい人との間でさえ、つないでくれる言葉に
なってくれるから。
その言葉のおかげで、
私は、自分のカラに閉じこもって、
ただ、原稿用紙に書いていただけの日々は終わった。
生きた言葉を持った私は、人との間に、束の間、いのちを持った。
今日も、
きのうも、
おとといも、
そして、きっと明日も。
だから、私は、ケーキを焼く。
だから、私は、ジャムを煮る。
どうか、おいしいケーキが焼けますよう、
魔法よきいてよ、お願いね、
天火よ、頼むぞ、恥かかすなよ。
いつしか、語るはずのない天火とさえ言葉を交わし、
心を通わす錯覚まで持ちながら、
私は、毎日、ケーキを焼く。」
森村 桂 「忘れんぼのバナナケーキ」より。
9月27日。
今日で、森村 桂が逝きまして5年がたちました。
上に書きましたのは、昭和61年7月25日発行された本「忘れんぼのバナナケーキ」
の始めの部分です。 私の一番好きな、そして心に深くしみいったところです。
このような思いで桂さんはお菓子を焼いていたのだ。
これを書きながら、とてもとても せつなくなります。
いつまでも、アリスの丘を愛してくださる皆様に
深く深く心より
感謝申しあげます。 ありがとうございます。
これからも森村 桂のこよなく愛した「アリスの丘」を
どうぞよろしくお願いいたします。
(グレーうさぎ)
素敵なお知らせが ひとつ。
11月1日(日)。静かに秋が終わる頃です。
この日の昼下がり、アリスの丘では素敵なことがおこります。
ライブです!
ゲストは永島 浩之さん!中村康太さん!です。
「縁ある人 万里の 道を越えてひきあうもの
縁なき人 顔をあわせ すべもなくすれちがう」と
中島みゆきさんが歌っていますが、本当に そう。
「森村 桂」と「M・一郎」の出会い。
そして、二人が築いた「アリスの丘」
そのはじまりがなければ生まれなかったでしょう、
沢山の人と人との繋がり。
その
繋がりの中のある一点が、今度のライブです。
この日、アリスの丘は、いつもの通りの形で開けています。
ライブをご存知なくお出でくださってもご心配にはおよびません。
むしろ、きっときっと、素敵なひとときを過ごしていただけると、思います。
11月1日。
ベランダで 秋の風に抱かれながら 音と言葉に
ひと日 ひととき 心をかたむけて・・・・・・。
☆「アリスの丘」イベント参加申し込み&問い合わせ☆
パソコンの方 http://sou.holy.jp/alice/
携帯の方 http://sou.holy.jp/alice_m/
10月4日(日)AM10:00~メール受付開始!
お名前・住所・電話番号・参加人数(全員のお名前)
を明記の上 メールにてお申し込みください。
ag@bypla.net (infoサイト内)
たくさんの申し込みお待ちしております!
参加人数には限りがあります。
規定数に到達次第受付終了となる場合がありますので
ご了承ください。
(グレーうさぎ)