世にある日々

現世(うつしよ)は 愛おしくもあり 疎ましくもあり・・・・

絶対的沈黙

2013-01-29 | かってに万葉









夕されば 小倉の山に 鳴く鹿は
             今夜は鳴かず い寝にけらしも       1511

                                                     巻第八


     ゆうされば おぐらのやまに なく しか は
                         こよいはなかず  いねにけらしも



私訳  今宵は鹿が鳴かないなぁ
                                寝てしまったのだろうか ・・・・




絶対的沈黙  私訳の言葉すらも余分な歌

闇の中で 明かり照らされた
舒明天皇のお顔が浮かぶ

国の責任者としての天皇の役目
豪族同士の権力争い
そして、蘇我氏の陰謀

これらの苦悩の中
独り 明かりの中に佇む舒明天皇 ・・・・

その苦悩を 沈黙のうちに呑みこみ
独り 夜のときを過ごす

「 そういえば 鹿が鳴かないなぁ・・・・ 」

その後の沈黙が かなしみを増していく


きっと この沈黙の中で舒明天皇の皇子
幼い 中大兄皇子 ( 天智天皇 ) と 大海人皇子 ( 天武天皇 ) が
吐息をたてて  安らかに眠っているのだろう

やがて  このふたりが大化の改新を断行し
後の飛鳥時代を作っていく








僕は 万葉の歌の中で
舒明天皇のこの歌が一番好きです

若い頃 舒明天皇を訪ねて
忍坂にある舒明天皇陵に
参拝したことがあります

山の中に入った 静かなところに
その御陵 ( みささぎ ) はありました

僕は 頭を深くさげて参拝したのち
舒明天皇に思いを馳せた

激動の飛鳥時代の中でも
目立たずひっそりと存在している天皇は
静かに 穏やかに
そして沈黙の中で 僕を迎え入れてくださった

そして はるか彼方の万葉の時代に
思いを馳せた

沈黙の中を生きていた方を観じていたかったのです


時は経ち
後ろ髪を引かれる思いで御陵を後にした

そのことが
つい  昨日のことのように思えます