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アンドラーシュ・シフ ピアノリサイタル

2017年03月24日 | pocknのコンサート感想録2017
3月21日(火)アンドラーシュ・シフ(Pf)
《最後から2番目のソナタ》
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル

【曲目】
1. モーツァルト/ピアノ・ソナタ変ロ長調 K.570
2. ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第31番変イ長調 Op.110
3. ハイドン/ピアノ・ソナタ ニ長調 Hob.XVI:51
4. シューベルト/ピアノ・ソナタ第20番イ長調 D959

【アンコール】
1.シューベルト/3つのピアノ曲 D946(遺作)~第2曲
2.バッハ/イタリア協奏曲ヘ長調 BWV971(全曲)
3. ベートーヴェン/6つのバガテル op.126~第4曲
4.モーツァルト/ピアノ・ソナタ ハ長調 K.545~第1楽章
5.シューベルト/楽興の時第3番 D780


3年ぶりに聴いた前回のアンドラーシュ・シフのリサイタルからまた3年後となった今回のリサイタルは、僕がこれまでに通った何千というコンサートの中に、また一際輝く記憶を加えてくれた。素晴らしい演奏会はたくさんあるし、それらの一つ一つが大切な思い出で、心の財産になっているが、今夜のリサイタルはそうした次元を超越したものだった。驚くことに、過去2度のシフのリサイタルでも同じことを感じ、それが確かな記憶として残っている。

このような演奏会については、前の2回のリサイタル同様に、どの曲のどの楽章の、どのフレーズがどんな風に良かった、といったいつもの感想を書いてもあまり意味がない。ただ言えることは、シフはどの作品に対してもひたすら音を極限まで研ぎ澄ませ、恣意的なものを徹底的に排除し、アゴーギクやディナミーク、アーティキュレーションや声部のバランスや音の佇まいを完璧にコントロールし、自然な呼吸で、ただただ作品そのものが持つ美しさ、魂の本質を提示する。それは、これ以上高い純度はないというほど清廉で、完璧な姿・形だ。「神がかり的」という言葉はシフのためにあるように感じた。かと言って、シフの演奏は聴き手に極度の緊張や集中を強いるのではなく、聴き手に極上の幸福感をもたらしてくれる。

作曲家の最後から2番目のソナタを集めたこの日の公演は「出演者の希望で休憩なし」というアナウンスと掲示があり、シフのリサイタルに賭ける特別な思いを感じた。シフは1曲終わる毎に拍手に対して立ってお辞儀はするが、ステージから下がることなくすぐに次の曲の演奏を始めた。ハイドンが終わった時は拍手がなかったこともあって、すぐにシューベルトが続いた。

シフはリサイタル本割の4曲全体を、4つの楽章から成る大きな1つの「作品」として捉え、表現しようとしたのではないだろうか。そうなると、途中の曲が終わった後の拍手は、シフは望んでいなかっただろうし、ベートーヴェンのソナタの最後の和音がまだ鳴っているのに拍手が入ったのなんて論外だろう。あそこで拍手してしまう人は、シフの思いを感じ取れないのだろうか。

こうした完璧への志向は、アンコールでの演奏も例外ではない。これだけで1回分のステージが出来てしまうほどのボリュームと内容のアンコール・ステージに、余興や息抜きの要素は皆無、全ては真剣勝負から生まれる演奏だ。2008年のリサイタルでのアンコールと同様に、イタリアンコンチェルトを全曲やってくれたのは嬉しかった。

モーツァルトのハ長調のソナタも全曲聴きたかったが、第1楽章を演奏し、次にまたピアノに向かって弾き始めた「楽興の時」の清らかで達観した演奏を聴いたら、これで終わりだなとわかった。会場はいつものようにスタンディングオベーション。僕も3階席から立ちあがり、「音楽の神様」を心から称えた。

アンドラーシュ・シフ ピアノリサイタル 2014.3.19 東京オペラシティコンサートホール
アンドラーシュ・シフのバッハⅡ 2011.2.13 紀尾井ホール
CDリリースのお知らせ
さびしいみすゞ、かなしいみすゞ ~金子みすゞの詩による歌曲集~

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