6月16日(月)北村朋幹プロデュース『月に憑かれたピエロ』
~サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン 2025~
サントリーホール(小)ブルーローズ
【曲目】
1.ドビュッシー/チェロ・ソナタ
2.ドビュッシー/北村朋幹 編曲/7つの歌曲 より「夕べの諧調」「パントマイム」「月の光」「セレナード」(ソプラノ&五重奏版)

3.シェーンベルク/ウェーベルン 編曲/室内交響曲第1番 Op.9(五重奏版)
4.シェーンベルク/月に憑かれたピエロ Op.21

【演奏】Pf:北村朋幹/Vn&Vla:郷古廉/Vc:横坂源/Fl&pic:岩佐和弘/Cl&B-Cl:山根孝司/Voc:中江早希
シェーンベルクの「月に憑かれたピエロ」全曲を聴けるということで出かけたコンサート。プロデュース役のピアニストの北村朋幹が、選曲やドビュッシーの歌曲では五重奏用のアレンジも手がけた。
最初はドビュッシーのチェロソナタ。チェロを弾いた横坂源は、弓を飛ばしそうになるほどの勢いで作品に向かい、エネルギッシュな演奏を聴かせた。続くドビュッシーの歌曲では、ソプラノの中江早希の歌が素晴らしかった。つややかな美声を滑らかに操り、妖艶な魅力を醸し出した。北村による室内楽版の編曲と演奏がまたよかった。デリケートで透明感があり、微細なところまで歌と敏感に反応しあって、壊れやすく美しいガラス工芸を思わせるテクスチャを生み出していた。
シェーンベルクの室内交響曲はウェーベルンによる五重奏版での演奏だったためか、この作品から感じる彫りの深い立体像があまり伝わって来なかったが、演奏は緻密でエネルギッシュ。終盤の盛り上がりもなかなかのものだった。
後半はお目当ての「月に憑かれたピエロ」。赤色系に着替えた中江の衣装と歌唱が、暗い中にスポットライトを受けて鮮やかに浮き上がった。中江はドビュッシーのとき以上に表現や声色を豊かに変化させ、狂気と正気、夢と現実をさまよう詩の世界を描いて行く。中江の言葉に対する感覚、表現力は実に秀でている。”Blut(血)”、“Schmerzen(痛み)”、”Schwert(剣)”、”krystallne(クリスタルの)”といった、この作品に出現する象徴的な言葉の発音の響きや勢いを精緻にコントロールして、言葉の持つ温度や匂いや色合いをリアルに届け、凄みすら感じさせた。言葉を完全に自分のものにしてこそ出来る表現だ。
5人の共演者による演奏もデリケートに歌と一緒に呼吸し、一つ一つのフレーズに魂が込められているのが伝わった。朦朧とたゆたうように発せられた”alter Duft aus Märchenzeit(メルヘンの懐かしき香り)”という最後の言葉が、穏やかな室内楽の調べと共に月夜に消え入るようだった。帰り道、ビルの谷間に大きな赤い月が出ていないかと夜空を見まわしてしまった。中江さんは藝大のカンタータクラブの時から活躍していて、バッハコレギウムジャパンでも素晴らしいソロを聴いているが、こうした音楽でも実力を発揮することを認識した。今後も注目していきたい。
この公演では歌詞対訳が配られたうえに、ステージ後方に訳詩だけでなく、フランス語とドイツ語の原詩も投影され、歌詞をリアルタイムで確認することができたのはとても有難かった。事前にホールのチケットセンターに今夜の公演で歌詞対訳が配られるか問い合わせたら配付しないと言われ、「ピエロ」だけは自分で用意して出かけたが、この辺りはちゃんと情報共有してもらいたいものだ。
東京・春・音楽祭2024(Vn:郷古廉/Vc:横坂源) 2024.4.19 東京文化会館(小)
バッハ・コレギウム・ジャパンのハ長調ミサ(S:中江早希) 2020.11.29 さいたま芸術劇場
「月に憑かれたピエロ」/新作能「月乃卯」(第2回くまもと復興国際音楽祭) 2022.9.10 八千代座(山鹿温泉)
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4.シェーンベルク/月に憑かれたピエロ Op.21


【演奏】Pf:北村朋幹/Vn&Vla:郷古廉/Vc:横坂源/Fl&pic:岩佐和弘/Cl&B-Cl:山根孝司/Voc:中江早希
シェーンベルクの「月に憑かれたピエロ」全曲を聴けるということで出かけたコンサート。プロデュース役のピアニストの北村朋幹が、選曲やドビュッシーの歌曲では五重奏用のアレンジも手がけた。
最初はドビュッシーのチェロソナタ。チェロを弾いた横坂源は、弓を飛ばしそうになるほどの勢いで作品に向かい、エネルギッシュな演奏を聴かせた。続くドビュッシーの歌曲では、ソプラノの中江早希の歌が素晴らしかった。つややかな美声を滑らかに操り、妖艶な魅力を醸し出した。北村による室内楽版の編曲と演奏がまたよかった。デリケートで透明感があり、微細なところまで歌と敏感に反応しあって、壊れやすく美しいガラス工芸を思わせるテクスチャを生み出していた。
シェーンベルクの室内交響曲はウェーベルンによる五重奏版での演奏だったためか、この作品から感じる彫りの深い立体像があまり伝わって来なかったが、演奏は緻密でエネルギッシュ。終盤の盛り上がりもなかなかのものだった。
後半はお目当ての「月に憑かれたピエロ」。赤色系に着替えた中江の衣装と歌唱が、暗い中にスポットライトを受けて鮮やかに浮き上がった。中江はドビュッシーのとき以上に表現や声色を豊かに変化させ、狂気と正気、夢と現実をさまよう詩の世界を描いて行く。中江の言葉に対する感覚、表現力は実に秀でている。”Blut(血)”、“Schmerzen(痛み)”、”Schwert(剣)”、”krystallne(クリスタルの)”といった、この作品に出現する象徴的な言葉の発音の響きや勢いを精緻にコントロールして、言葉の持つ温度や匂いや色合いをリアルに届け、凄みすら感じさせた。言葉を完全に自分のものにしてこそ出来る表現だ。
5人の共演者による演奏もデリケートに歌と一緒に呼吸し、一つ一つのフレーズに魂が込められているのが伝わった。朦朧とたゆたうように発せられた”alter Duft aus Märchenzeit(メルヘンの懐かしき香り)”という最後の言葉が、穏やかな室内楽の調べと共に月夜に消え入るようだった。帰り道、ビルの谷間に大きな赤い月が出ていないかと夜空を見まわしてしまった。中江さんは藝大のカンタータクラブの時から活躍していて、バッハコレギウムジャパンでも素晴らしいソロを聴いているが、こうした音楽でも実力を発揮することを認識した。今後も注目していきたい。
この公演では歌詞対訳が配られたうえに、ステージ後方に訳詩だけでなく、フランス語とドイツ語の原詩も投影され、歌詞をリアルタイムで確認することができたのはとても有難かった。事前にホールのチケットセンターに今夜の公演で歌詞対訳が配られるか問い合わせたら配付しないと言われ、「ピエロ」だけは自分で用意して出かけたが、この辺りはちゃんと情報共有してもらいたいものだ。
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