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サントリーホール サマーフェスティバル2021 ~アンサンブル・アンテルコンタンポラン~

2021年08月26日 |  pocknのコンサート感想録2021
8月24日(火)マティアス・ピンチャー指揮 アンサンブル・アンテルコンタンポラン
アンサンブル・アンテルコンタンポランがひらく
~パリ発ー「新しい」音楽の先駆者たちの世界 ~
サントリーホール


【曲目】
1.H.ラッヘンマン/『動き(硬直の前の)』 アンサンブルのための (1983/84)
2.P.ブーレーズ/『メモリアル(…爆発的・固定的…オリジネル)』 ソロ・フルートと8つの楽器のための (1985)
Fl:ソフィー・シェリエ
3.M.アンドレ/『裂け目[リス]1』 アンサンブルのための (2015~17/19)[日本初演]
4.G.リゲティ/ピアノ協奏曲 (1985~88)
Pf:永野英樹
5.Mピンチャー/『初めに[ベレシート]』 大アンサンブルのための (2013)[日本初演]

ブーレーズが設立した世界最高峰の現代音楽の演奏団体と云えるアンサンブル・アンテルコンタンポラン(EIC)が、この厳しい条件下にフルメンバーで来日を果たし、世界最高峰の演奏をたっぷりと披露した。開場してしばらくは閑散としていた客席だったが、開演時には大勢の聴衆が集まり、日本の現代音楽界を牽引する面々も多く見られた。

EICは最初から最後までどの作品においても驚異的な実力を見せつけた。奏者一人一人が極めて能動的に、即興性に富んだ音を発信し、それがアンサンブルとして恐るべきテンションと完成度で聴衆にリアルに迫ってくる。現代音楽の演奏でありがちな、奏者が必死に譜面にかじりつき、指揮者は図形をキッチリと描いたり、指で反復の回数を示したりといった、正確に合わせることを目指す次元から完全に解放され、アグレッシブに、楽しそうに自由自在に演奏を繰り広げる。そうした基本姿勢の下、ピンチャーとEICはそれぞれの作品の特徴を的確に読み取り、「現代音楽」と一括りにはできない、それぞれの作品の豊かな個性を花開かせた。

ラッヘンマンの「動き」では、各奏者が発する音の断片が多様に、アクティブでリアルに迫ってくることに鮮烈な印象を受けた。今この瞬間に生まれたような即興性やプレイヤーの自発性が稀有な音世界を築き上げた。

ブーレーズの「メモリアル」は、デリケートで色彩豊かな音楽が、やわらかな香りと光を放った。フルートのシェリエとオケとの間に生まれる穏やかなやり取りが、天上での遊戯のようにも感じられる美しい作品、そして演奏。

アンドレの「裂け目」は、ラッヘンマンの作品とも共通する断片と特殊奏法を駆使した作品だが、より静寂な世界を持っていた。無の世界に穏やかな呼吸で浮遊する音たちの様子が、更なる静寂感を醸し出していた。

リゲティのピアノ協奏曲は、研ぎ澄まされた音が凝縮して結晶となった。硬質な輝きを放つ永野のピアノとオケが対話を繰り返し、時に一体となって命の輝きとも云える強烈な光彩を放った。ヴァイオリンやチェロの「歌」も聴きどころで、充実した傑作であることを実感した。

ピアノが通常の配置と異なりステージに向かって左側に置かれたのは音楽的な意図によるものと思ったが、演奏後のカーテンコールでもソロの永野さんがピアノの位置より中央に進み出ることがなく、オケメンバーとの感染対策?まさかとは思ったが、スタッフの方に伺ったところ、永野さんはEICのメンバーとして皆と行動を共にしているので、ピアノの配置は純粋に音楽的な意図と聞いて何だか安心した。ここまでが前半のプログラム。既に1回の演奏会分のボリューム。

後半には、今年のサマーフェスティバルのテーマ作曲家であるピンチャー自身の大作「初めに」が演奏された。ユダヤ教の聖典を扱ったという作品は、深い闇と静寂、祈りを伝える音楽。ヴァイオリン・ソロ(カン・ヘスン)が、闇の中にキラキラ光る蜘蛛の巣のようにデリケートにたなびいていたのが印象的。大きく深い呼吸が時おり途切れ、静寂のなかに消えていった。

2時間40分におよぶ演奏会だったが長さを全く感じることなく、それぞれの作品の世界に浸った。プレイヤーの卓越した演奏からは能動的な意思伝わり、どの作品にも命が宿されていたことが、音楽にここまで没入できた理由だろう。EICが世界最高峰の演奏集団であることを改めて思い知った。

通常の演奏会が再開された欧米から、わざわざ厳しい日本の規制を覚悟で来日するアーティストが減ってしまっているなか、これだけのメンバーがよく集まったものだ。コロナが収束することはない。この前提で、世界との行き来を通常に近い形に戻すことが急務だと思う。

アンサンブル・アンテルコンタンポラン ~ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2013
ブーレーズ指揮 アンサンブル・アンテルコンタンポラン1(ブーレーズ・フェス 1995)
ブーレーズ指揮 アンサンブル・アンテルコンタンポラン2(ブーレーズ・フェス 1995)
サントリーホール サマーフェス2020 ~オーケストラ スペース~ (2020.8.26)
サントリーホール サマーフェス2020 ~室内楽~ (2020.8.23)

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