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サントリーホール サマーフェス2020 ~オーケストラ スペース XXI-1~

2020年08月27日 | pocknのコンサート感想録2020
8月26日(水)杉山洋一 指揮 読売日本交響楽団
一柳 慧がひらく ~2020東京アヴァンギャルド宣言 オーケストラ スペース XXI-1~
サントリーホール


【曲目】
1.高橋悠治/「鳥も使いか」三絃弾き語りを含む合奏(1993)
三弦:本條秀慈郎
2.山根明季子/「アーケード」オーケストラのための(2020/サントリーホール委嘱初演)
Pf:朝川万里
3.山本和智/「ヴァーチャリティの平原」第2部iii) 浮かびの二重螺旋木柱列
2人のマリンビスト、ガムランアンサンブルとオーケストラのための(2018~19/サントリーホール委嘱初演)
マリンバ:西岡まり子、篠田浩美/ガムラングループ・ランバンサリ
4.高橋悠治/「オルフィカ」オーケストラのための(1969)


サントリーホールが新しい音楽を紹介する意欲的なシリーズ「サマーフェスティバル」、3日前の室内オケに続き、オーケストラの演奏会を聴いた。高橋悠治の曲を聴けるのでこの日を選んだが、3日前に聴いた2人の若手作曲家のオーケストラ作品が聴けることも興味深い。1階の前6列分の客席を取り払って出来た平土間にはガムランやマリンバなどが並び、普段と異なる音世界が体験できそう。今夜も聴衆の入りは上々。キャパの半分しか座れないが、現代音楽の演奏会でこれだけ入るというのは、期待と注目度の高さを物語っている。

最初は高橋悠治の「鳥も使いか」。プログラムノートの高橋の解説はよくわからないので、ひたすら音楽に耳を傾ける。歌と三味線は和の世界で、のどかな端唄を聴いているよう。そこにオーケストラが入ると響きはユニバーサルになる。単なる和と洋の融合というより和の世界が深化し、民族的なものを超越してコスモポリタンな、更には宇宙へと向かった。指揮者による磬子(大きなりん)や拍子木の1打で移り変わるシーンのそれぞれから伝わるのは自然の根源的な息遣い。静かに向き合って、聴覚ではなく「心の耳」で知覚するような、現世を超えた心洗われる彼岸の世界を感じた。弱音を中心に穏やかに進む音楽で読響はデリケートで息の長い演奏を聴かせ、悠久の世界へと誘ってくれた。大変感銘深い作品と演奏だった。

山根明季子の「アーケード」は、プログラムノートによればゲームセンターをモデルにした音楽。一定の幅を行き来する弦楽合奏に乗って、ゲーセンの色々な音が飛び交う。音のパレットが多彩でおもちゃ箱をひっくり返したよう。終始奏でられる弦楽合奏はそれらを取り巻く雑踏や車の音だろうか。不思議な世界へ入り込んだ気分。アーケードを歩き進むに従って耳に入ってくる様々な音は、それぞれが独立していて交わることも対話もない。突然大道芸が現れたり、喧嘩が始まったりというサプライズもない。これは先日聴いた室内楽作品と同様。音色の新鮮さにしばしば耳を引かれたし、コラージュ的な音の扱いは面白いと思ったが、これが際限なく続いて冗長さも感じた。

山本和智の「ヴァーチャリティの平原」は、平土間の2台のマリンバがコンチェルトのように大活躍。他のパーカスも加わり高い緊迫感を聴かせるなか、ガムランが柔らかく背景を彩る。音色もモチーフも多彩で充実し、テンションのバランスも良く、安定した構成のなかでマリンバの妙技が映えた。西岡と篠田のマリンバ演奏は目にも鮮やかでカッコいい。ただ、マリンバは元々存在感が強く、現代音楽ではこれだけで何となく様になってしまううえに、他のパーカスも加わり響きの饗宴が繰り広げられて更に強いインパクトが生まれる。これに斬新さや挑戦の精神、強烈なメッセージ性が入ってこそ作品固有の存在感が生まれるのだが、そこまで感じることはなかった。せっかく登用したガムランも存在感が足りなかった。最終盤のテンション、狂ったように打ち鳴らすマリンバとオケのコラボは白熱ものだった。

コンサートの取りは高橋の作品が再び登場。ステージと平土間に加えて2階客席後方にもプレイヤーが並ぶが、音響の大スペクタクルとは無縁の「静」の音楽。グループ毎に何やら思い思いに音を出し、最初のうちはつかみどころがなかったが、途中からこれはとてもデリケートな音楽だと感じてきた。最初に聴いた「鳥も使いか」に共通する自然の声がある。誰かがかすかな音を発すると、敏感にそれに呼応して次々に音が鳴り始め、それが一種のざわめきを作る。虫や蛙たちの呼び交わしの情景にも重なった。その連鎖の様子が自然界の生きた情景として伝わってきた。これには演奏者の細やかな感性や、それをコントロールする柔軟で機敏な技が求められるが、杉山洋一指揮の読響の面々は、そんなデリケートな情景を見事に表現していた。

サントリーホール サマーフェス2020 ~室内楽XXI-2~ (2020.8.23 サントリーブルーローズ)
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