聖トーマス教会楽長就任300年を記念して
【講師】鈴木雅明
東京恩寵教会

◆開会 石原知弘牧師
◆聖書朗読(旧約聖書詩編22編25節~27節)
◆開会祈祷
◆講演「バッハとライプツィヒ」~聖トマス教会楽長就任300年を記念して~
カンタータ第75番「貧しきものは食べて満ち足り」
講師:鈴木雅明
◆東京恩寵教会からの挨拶
バッハがライプツィヒ聖トーマス教会のカントルに就任して300年を迎える年を記念した鈴木雅明氏による講演会「バッハとライプツィヒ」を聴いて来ました。講演では、当時のライプツィヒという都市の位置づけや、バッハのライプツィヒでの音楽活動について、そしてバッハがカントル就任後に初めて書いたカンタータ第75番が取り上げられました。
とりわけカンタータの話は内容が濃く、大切なメッセージが満載でした。このカンタータがいかに衝撃的に始まり、それが何を伝えているかを、冒頭のフレーズを実際にオルガンで弾いて示してくれた第1曲から始まり、アリアにバッハ自らの名前にも含まれる十字架音型が使われていることや、馴染みのコラール旋律を歌詞のないシンフォニアで登場させることの意味、或いはアリアで突然の休止符を入れることの効果など、バッハが作品にどんな手法でどんなメッセージを込めたかという話に引き込まれて行きました。
信仰と密接に関わる作品の作曲に心血を注いだバッハの仕事を、ドイツ語で「職業」を意味する"Beruf(ベルーフ)"という言葉に「呼ぶ」という意味が含まれることに触れて、バッハの仕事は正に天から呼ばれて就いた天職であったという話に行き着き、トリハダが立つほど深い感銘を覚えました。
雅明先生(弟子でも何でもありませんが、敢えてこう呼ばせてください)のお話しは一つ一つが核心を突いていて、それが大きな確信へと導かれて行きます。聴き手をどんどん引き込んで行く汲めども尽きぬ話の豊富さと、脇目を振らない勢いと熱さは、バッハの魂が乗り移ったかのようにリアルで、僕の大学時代の恩師で、バッハの専門家でもあった杉山好先生が熱くバッハについて語っていた姿が重なりました。バッハの音楽を極めた人、極めようとしている人からは、このお2人に限らず同じような純粋さと熱さが伝わって来ます。
まだまだ話し足りない様子の雅明先生のお話しは、予定されていた質疑応答の時間も全て使うことになりましたが、是非伺いたいことがあり、講演終了後に先生に個別に質問させて頂き、とても丁寧に答えてくださったので、それについて紹介します。
Q:第75番のように2部構成で前半と後半にコラールが置かれているカンタータでは、前半のコラールは聖歌隊のみによって歌われたとしても、その後に牧師の説教があり、教義を会衆も理解し、共感したうえで演奏される後半のコラールは、会衆も一緒に歌ったのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
A:カンタータのなかに組み込まれているコラールを会衆も歌ったかどうかの確証はなく、歌った可能性は低いと思われます。このコラールはオーケストラの間奏が一節ごとに入り、音楽的にも会衆が一緒に歌うことは難しかったのではないでしょうか。
Q:では、単純な四声体のコラールが最後に置かれたカンタータではどうだったのでしょう。
A:これも、会衆が歌った可能性は低いでしょう。当時の礼拝では、コラールはカンタータの演奏とは別に単独で歌われていたと思われます。それも、現在の礼拝で行われているように、オルガンの伴奏付きではなく、当時はオルガンは前奏を弾くだけで、歌と一緒には演奏しなかったようです。
2年前に有名な147番のコラールを演奏する機会があり、その際に団員用の資料としてこのコラールについて解説を作成し、ブログにも載せています。その中で、75番と同様に2部構成で2回演奏されるコラールについて、2度目は会衆も一緒に歌ったのではないかと記したことの真偽を確かめたかったのですが、僕の想像は外れていたことになります。
カンタータ第75番の中のコラールは、讃美歌集第80番「父なる神 慈愛(わが主の御業は)」として収められていて、講演会では雅明先生のオルガン伴奏(前奏だけでなく)で参加者一同で歌うことが出来たことも素敵な体験でした。
バッハが、カンタータで歌われる言葉を音楽といかに密接に結び付けているかは講演でも何度も触れ、ドイツ語がわからなくても、音楽を聴けばバッハが込めたメッセージが伝わってくる、というお話しがあり、大いに共感はしたのですが、講演では歌詞についての話も多く、やはり歌詞の意味がわかってカンタータを聴くことで、更に大きな感銘を得られると思いました。その意味でもBCJの定期演奏会では、歌詞対訳だけは来場者全員に配ってもらいたいという思いを強めました。

東京恩寵教会のオルガン
バッハのカンタータ第147番「心と口と行いと生活」のコラール
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バッハ・コレギウム・ジャパン第108回定期演奏会(指揮:鈴木雅明/カンタータ第75番他)
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