2月8日(日)仲道郁代(Pf)
サントリーホール
【曲目】
1. シューマン/幻想小曲集 Op.12
2.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第21番ハ長調Op.53「ワルトシュタイン」
3.ドビュッシー/版画
4.ショパン/幻想ポロネーズ 変イ長調Op.61
5.アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ Op.22
【アンコール】
1. ドビュッシー/月の光
2. エルガー/愛の挨拶
先月はピアノトリオで素敵な演奏を聴かせてくれた仲道さんだが、今日は恒例のサントリーホールでの「定期」リサイタル。今回は作曲家を絞ったプログラムではなく「デリシャスな音楽」ということで、仲道さんが得意とする4人の作曲家の「おいしい」名曲が並んだ。
最初のシューマンの「幻想小曲集」を聴いて思い浮かんだのは、お母さんが子供に本の読み聞かせをしているシーン。「お話」の中の主人公になりきって主観的に話を進めるのではなく、子供の中で生まれる想像力を大切にしながら、あくまで「語り手」として聞かせる姿勢。テンポを大きく揺らしたり、過度な感情移入はせずに、作品の持つ「佇まい」を大切にしながら速めのテンポで全体をスマートにまとめて行ったのはちょっと意外だった。
ベートーヴェンも客観的なアプローチで、音楽そのものが持つ力を引き出す姿勢が窺えたが、過去のベートーヴェンの演奏で仲道さんが聴かせてくれたような崇高な厳しさよりも、柔和な一面も感じる「ワルトシュタイン」だった。
後半のドビュッシー、演奏の前に仲道さんがMCで印象派の絵画と音楽について話をしたなかで「モネが描いた雪の色には、白だけでなく様々な色彩が使われている」ということを紹介していたが、「版画」の演奏からは、まさにそんな様々な淡い色彩が、光の明るさや当たる角度によって微妙に変化していく様子が見えるようで、後半のステージで仲道さんが纏っていたキラキラの衣装とイメージが重なった。また、2曲目「グラナダの夕べ」のハバネラのリズムからは気高さが立ち上っているのを感じた。
次のショパンでも仲道さんの柔軟な色彩感覚溢れる表現が印象に残った。「アンダンテスピアナート」ではキラキラした光の粒がシルクのレースからこぼれて空中に浮遊しているよう。こうした柔らかなタッチや色彩は仲道さんならではの魅力で、それは2つのアンコールにも引き継がれた。
全体として和やかで親密な雰囲気に包まれたリサイタルとなったが、近年の仲道さんのリサイタルで聴かせてくれる研ぎ澄まされた緊迫感や、悲壮感を伴ったストイックな表現を、特に「ワルトシュタイン」や「幻想ポロネーズ」などに期待していたが、そうした心に強く刻まれる出会いという意味では少々物足りなさも感じた。
リサイタルではいつでもマイクを持って聴衆に語りかけてくれる仲道さんだが、今日のリサイタルでは曲ごとに全て丁寧なコメントを入れてから演奏を始めるというスタイルを取った。曲へのイマジネーションを膨らませる意味ではとてもいいのだが、サントリーホールのような大きな空間で度々マイクを手に話をすると、広いステージでたった一人、大勢の聴衆と向かい合うことで生まれるステージと客席の間の緊張感が緩んでしまうような気がする。この緊張感、演奏者にとっては想像を絶するようなプレッシャーかも知れないが、「静寂→ソリストの登場→喝采→静寂→演奏開始」というプロセスは演奏会の大切な一つの要素なのかも、なんてことも感じたリサイタルだった。
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サントリーホール
【曲目】
1. シューマン/幻想小曲集 Op.12
2.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第21番ハ長調Op.53「ワルトシュタイン」
3.ドビュッシー/版画

4.ショパン/幻想ポロネーズ 変イ長調Op.61
5.アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ Op.22

【アンコール】
1. ドビュッシー/月の光
2. エルガー/愛の挨拶

先月はピアノトリオで素敵な演奏を聴かせてくれた仲道さんだが、今日は恒例のサントリーホールでの「定期」リサイタル。今回は作曲家を絞ったプログラムではなく「デリシャスな音楽」ということで、仲道さんが得意とする4人の作曲家の「おいしい」名曲が並んだ。
最初のシューマンの「幻想小曲集」を聴いて思い浮かんだのは、お母さんが子供に本の読み聞かせをしているシーン。「お話」の中の主人公になりきって主観的に話を進めるのではなく、子供の中で生まれる想像力を大切にしながら、あくまで「語り手」として聞かせる姿勢。テンポを大きく揺らしたり、過度な感情移入はせずに、作品の持つ「佇まい」を大切にしながら速めのテンポで全体をスマートにまとめて行ったのはちょっと意外だった。
ベートーヴェンも客観的なアプローチで、音楽そのものが持つ力を引き出す姿勢が窺えたが、過去のベートーヴェンの演奏で仲道さんが聴かせてくれたような崇高な厳しさよりも、柔和な一面も感じる「ワルトシュタイン」だった。
後半のドビュッシー、演奏の前に仲道さんがMCで印象派の絵画と音楽について話をしたなかで「モネが描いた雪の色には、白だけでなく様々な色彩が使われている」ということを紹介していたが、「版画」の演奏からは、まさにそんな様々な淡い色彩が、光の明るさや当たる角度によって微妙に変化していく様子が見えるようで、後半のステージで仲道さんが纏っていたキラキラの衣装とイメージが重なった。また、2曲目「グラナダの夕べ」のハバネラのリズムからは気高さが立ち上っているのを感じた。
次のショパンでも仲道さんの柔軟な色彩感覚溢れる表現が印象に残った。「アンダンテスピアナート」ではキラキラした光の粒がシルクのレースからこぼれて空中に浮遊しているよう。こうした柔らかなタッチや色彩は仲道さんならではの魅力で、それは2つのアンコールにも引き継がれた。
全体として和やかで親密な雰囲気に包まれたリサイタルとなったが、近年の仲道さんのリサイタルで聴かせてくれる研ぎ澄まされた緊迫感や、悲壮感を伴ったストイックな表現を、特に「ワルトシュタイン」や「幻想ポロネーズ」などに期待していたが、そうした心に強く刻まれる出会いという意味では少々物足りなさも感じた。
リサイタルではいつでもマイクを持って聴衆に語りかけてくれる仲道さんだが、今日のリサイタルでは曲ごとに全て丁寧なコメントを入れてから演奏を始めるというスタイルを取った。曲へのイマジネーションを膨らませる意味ではとてもいいのだが、サントリーホールのような大きな空間で度々マイクを手に話をすると、広いステージでたった一人、大勢の聴衆と向かい合うことで生まれるステージと客席の間の緊張感が緩んでしまうような気がする。この緊張感、演奏者にとっては想像を絶するようなプレッシャーかも知れないが、「静寂→ソリストの登場→喝采→静寂→演奏開始」というプロセスは演奏会の大切な一つの要素なのかも、なんてことも感じたリサイタルだった。
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