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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

パーセルの「妖精の女王」 ~北とぴあ国際音楽祭2015より~

2015年12月11日 | pocknのコンサート感想録2015
12月11日(金)パーセル/オペラ「妖精の女王」
~北とぴあ国際音楽祭2015~
北とぴあ・さくらホール
【俳優(SPAC)】
公爵:渡辺敬彦/イージアス:大高浩一/ライサンダー:泉陽二/ディミトリアス:大道無門優也/ハーミア:保阿南/ヘレナ:本多麻紀/オベロン/貴島豪/タイテイーニア:たきいみき/パック:牧山裕太 他
【歌手】
S:エマ・カークビー、広瀬奈緒、染谷熱子/MS:波多野 睦美/カウンターT:ヒュンター・ファンデヴェン、中嶋俊晴/T:ケヴィン・スケルトン/Bar:大山大輔 他 
【演出】宮城 聰

【演奏】寺神戸亮指揮レ・ボレアード

毎年の北とぴあ国際音楽祭で、寺神戸亮率いるレ・ボレアードがピットに入って行われている珍しいバロックオペラの公演は、いつも内容が濃くて、ハイレベルで楽しい。今年の演目はパーセルの大作「妖精の女王」。もちろん知らない(笑)。そして目玉がもう一つ。独唱に、古楽界きっての名ソプラノ、エマ・カークビーを迎えたこと。カークビーがオペラのステージに立つことは珍しいということで、それを日本で体験できるのは貴重だ。

オケのチューニングが済み、静かになった会場に突然の男の絶叫が響いた。それを合図に四方から(客席からも)人物が集まり、複数の男女のドタバタのお芝居が始まった。「ジングシュピール(歌芝居)みたいなオペラなのかな? この人たち、いつ歌い始めるんだろう?」

作品の予備知識を何も持たずに臨んだ僕は、こんな感じで舞台を眺めていた。この作品は、シェークスピアの「夏の夜の夢」を元に書かれた台本による芝居に、音楽が添えられたもの。芝居は俳優達が演じ、それにレ・ボレアードと独唱による音楽が附随する。歌詞は台本とは直接の関わりはなく、歌手には特定の役もなく、ストーリーとの関連性も密接ではない。こうなると、この作品は一般的な「オペラ」ではなく、やはり音楽付きのお芝居と言ったほうがいいだろう。そうでないと、芝居部分の余りのウェイトの重さに戸惑ってしまう。実際、上演時間の半分以上は芝居が占めている。そういう心の準備で臨めば、芝居も音楽も大いに楽しむことができる。

SPACのメンバーによるお芝居は、さすがにプロの俳優だけあって、演劇には広すぎる会場でも存在感は抜群だし、セリフは全てはっきり聞こえるし、役柄の表現もうまい。更に、役者達は、森をイメージして、ステージにたくさん垂れ下がるロープや林立するポールを使って、サーカス張りの体を張った空中パフォーマンスで見せ場を作った。

寺神戸亮指揮のレ・ボレアードは、いつもながらの自然で雄弁な音楽を聴かせてくれたが、今回はまた更に滑らかで磨きがかかった完成度の高い演奏だった。パーセルの音楽の心踊るリズミカルな調子や、内面から聴かせるしっとりとした歌の魅力を、無理のない自然な姿で伝えていた。作品全体に散りばめられた合唱は柔らかな語り口で美しいハーモニーを聴かせてくれた。

お目当てのカークビーの、コントロールが行き届いたスマートな歌唱は素晴らしかった。カークビーは際立った美声の持ち主というわけではないし、目立つような表現で引き付けるわけでもないのだが、ステージにスッと立っているだけで光が集まるような存在感がある。そして、ごく自然な歌い回しの妙、微妙な陰影、そこから漂うかすかな芳香… そうしたちょっとした歌の仕草がミックスされて作り出される極上の味わいが聴き手を魅了する。最後の日本式の婚礼の場面、和装で登場して、寺神戸のヴァイオリンに伴われて歌った「嘆きの歌」の繊細でしっとりとした「嘆き」は、実に和装とマッチしていた。

メゾはレ・ボレアードの公演でおなじみの波多野睦美。陰影の濃い、カークビーよりもドラマチックな歌唱は存在感もあったし、エモーションに訴えながら、匂やかさも漂わせ、格調高い歌が心に沁みた。その他のソリスト達も皆よかった。滑らかで自然な呼吸から発せられる無理のない歌が、芝居に寄り添っていて気分を優しく高めてくれる。そして、どの歌い手も声がキレイ!

最後の婚礼の場面では、俳優たちも合唱団と一緒に歌っていて(そう見えた)、それまではお芝居と演奏が別個で進行していたのが最後に両者が一体となってステージを盛り上げた。

パーセルの音楽を今夜みたいにまとめて聴いたのは初めてだったが、「妖精の女王」の音楽は、終始柔軟にして雄弁。変化にも富んでいて、人の心の動きや気分を自然に伝える充実した作品だ。もちろん、それは素晴らしい演奏あってのこと。

演出にちょっとだけ触れると、全幕を通して、妖精が出てきそうな森の情景がよく出た美しく神秘的な舞台だった。妖精達の凝った衣装が、「言葉の森」という意味を持たせて新聞紙で出来ているというのは、プログラムの演出ノートを読んで初めてわかった。衣装が新聞紙でできているというのは、1階前方の席でもオペラグラスで凝視しないとわからず、少々独りよがり的ではと思った。役者達のアクロバティックなパフォーマンスは、舞台の進行に命を吹き込む役目を果たしていて面白かった。また、この物語の要所で重要な役割を持っているパック役の牧山裕太のパフォーマンスは存在感があった。

全5幕、途中20分の休憩を1回入れただけだが、上演に3時間半以上かかり、何より演奏家と俳優を総動員しなければ行えないこの作品は、そう頻繁に上演できるものではない。これを実現した北とぴあ国際音楽祭の企画力と実行力にも敬意を表したい。

ラモーのオペラ「プラテ」~北とぴあ国際音楽祭2014より~

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