5月29日(金)蓮の会ホールオペラ第9回公演
川口総合文化センター リリア 音楽ホール
【演目】
ヴェルディ/歌劇「オテロ」全4幕
【配役】
オテロ:小林 浩/デズデーモナ:中前美和子/イアーゴ:旭 潔/カッシオ:鳴海優一/ロデリーゴ:中川誠宏/モンターノ、ロドヴィーコ:笹倉直也/エミーリア:横関文子
ピアノ:大賀美子
イタリアオペラを中心に精力的に充実した公演を重ねている「蓮の会」が、満を持していよいよヴェルディ最晩年の傑作、「オテロ」に挑んだ。
「蓮の会」が誇る経験豊かなレギュラーキャストに新人を加えた布陣と大賀さんのピアノで繰り広げられた公演は、愛と憎悪、狂気に渦巻くシェイクスピアの「四大悲劇」のひとつを原作にしたこのオペラに横たわる「人間の残酷さ、醜さ、弱さ」を情け容赦なくさらけ出した一方で、デズデーモナの存在によって、真っ直ぐに気高く貫かれた一点の曇りもない愛の強さを感じた。
これは、デズデーモナ役の中前さんの歌唱・表現力に依るところが大きい。中前さんは芯のある澄んだ美声で、オテロと真っ直ぐに向き合い、身の潔白と変わることのない愛を気丈に歌い上げる。その迫真の表現力は、疑いと嫉妬に燃え上がっているオテロを説き伏せてしまうかに思えるほどだった(実際にオテロは、自分の疑いが間違いだったと感じているように見える場面があった)。嫉妬に燃え狂うオテロによってもたらされる悲劇がこのオペラの中心ではあっても、その一方でデズデーモナの存在が、この作品を名作たらしめている所以だと納得することができた。
小林さんは、非情で残酷で異常な嫉妬に燃えるオテロを、安定した歌唱と、とりわけ堂々とした立ち居振る舞いで見事に演じ、デズデーモナの悲劇性と気高さを一段と高めることにもなったが、オテロの異常なほどの疑い深さ、デズデーモナのこれほど強い愛を受け止めることができない弱さはどこから来ているのだろうか。それを、オテロの黒人であることへの引け目で説明されることもあるが、今回の公演では黒いメイクは用いられていなかった。
旭さんのいつもながら凄みの効いた堂々たる歌唱は、ある意味オテロよりも冷徹で人の情けなど微塵も持ち合わせないイアーゴ像を赤裸々にあぶり出し、本当に憎らしかった。若手で印象に残ったのはカッシオ役の鳴海さん。艶やかで瑞々しい声と軽やかな表現が役柄によく合っていた。その他どの歌い手も大変健闘していて、3幕終盤の長いアンサンブルでの緊迫した表現が持続するところなどからも、個人の技とアンサンブルとしての実力が窺えた。
大賀さんのピアノはいつもながらドラマチックで情熱的。激しく揺れ動く登場人物の思いをリアルに浮かび上がらせ、緊迫したシーンが連続するドラマの世界へ聴き手を引きずり込んでいった。
大変充実した公演のおかげで、実はまともに鑑賞するのは初めてだったこのオペラの、音楽とドラマが持つ魅力を十分に堪能することができた。
川口総合文化センター リリア 音楽ホール
【演目】
ヴェルディ/歌劇「オテロ」全4幕

【配役】
オテロ:小林 浩/デズデーモナ:中前美和子/イアーゴ:旭 潔/カッシオ:鳴海優一/ロデリーゴ:中川誠宏/モンターノ、ロドヴィーコ:笹倉直也/エミーリア:横関文子
ピアノ:大賀美子
イタリアオペラを中心に精力的に充実した公演を重ねている「蓮の会」が、満を持していよいよヴェルディ最晩年の傑作、「オテロ」に挑んだ。
「蓮の会」が誇る経験豊かなレギュラーキャストに新人を加えた布陣と大賀さんのピアノで繰り広げられた公演は、愛と憎悪、狂気に渦巻くシェイクスピアの「四大悲劇」のひとつを原作にしたこのオペラに横たわる「人間の残酷さ、醜さ、弱さ」を情け容赦なくさらけ出した一方で、デズデーモナの存在によって、真っ直ぐに気高く貫かれた一点の曇りもない愛の強さを感じた。
これは、デズデーモナ役の中前さんの歌唱・表現力に依るところが大きい。中前さんは芯のある澄んだ美声で、オテロと真っ直ぐに向き合い、身の潔白と変わることのない愛を気丈に歌い上げる。その迫真の表現力は、疑いと嫉妬に燃え上がっているオテロを説き伏せてしまうかに思えるほどだった(実際にオテロは、自分の疑いが間違いだったと感じているように見える場面があった)。嫉妬に燃え狂うオテロによってもたらされる悲劇がこのオペラの中心ではあっても、その一方でデズデーモナの存在が、この作品を名作たらしめている所以だと納得することができた。
小林さんは、非情で残酷で異常な嫉妬に燃えるオテロを、安定した歌唱と、とりわけ堂々とした立ち居振る舞いで見事に演じ、デズデーモナの悲劇性と気高さを一段と高めることにもなったが、オテロの異常なほどの疑い深さ、デズデーモナのこれほど強い愛を受け止めることができない弱さはどこから来ているのだろうか。それを、オテロの黒人であることへの引け目で説明されることもあるが、今回の公演では黒いメイクは用いられていなかった。
旭さんのいつもながら凄みの効いた堂々たる歌唱は、ある意味オテロよりも冷徹で人の情けなど微塵も持ち合わせないイアーゴ像を赤裸々にあぶり出し、本当に憎らしかった。若手で印象に残ったのはカッシオ役の鳴海さん。艶やかで瑞々しい声と軽やかな表現が役柄によく合っていた。その他どの歌い手も大変健闘していて、3幕終盤の長いアンサンブルでの緊迫した表現が持続するところなどからも、個人の技とアンサンブルとしての実力が窺えた。
大賀さんのピアノはいつもながらドラマチックで情熱的。激しく揺れ動く登場人物の思いをリアルに浮かび上がらせ、緊迫したシーンが連続するドラマの世界へ聴き手を引きずり込んでいった。
大変充実した公演のおかげで、実はまともに鑑賞するのは初めてだったこのオペラの、音楽とドラマが持つ魅力を十分に堪能することができた。