5月15日(金)レイフ・オヴェ・アンスネス(Pf&指揮)/マーラー・チェンバー・オーケストラ
ベートーヴェンへの旅 <ベートーヴェン:ピアノ協奏曲全曲演奏会>
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル
【曲目】
1.ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 Op.19
2.ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第3番 ハ短調 Op.37
3.ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第4番 ト長調 Op.58
【アンコール】
ベートーヴェン/2つのバガテル Op.119-8
アンスネスが「ベートーヴェンへの旅」と題して2011 年から取り組んでいるプロジェクトの一環として、マーラー・チェンバー・オーケストラとのコラボによりベートーヴェンのコンチェルト全曲で世界ツアーを行っている。そのツアーの東京公演、前半のプログラムを聴いた。
ベートーヴェンの 3 曲のコンチェルトを一度に聴くのはボリュームもあるし、時間もかかるが、「重さ」にも時間の経過にも全く気づかず、終演時刻を見てビックリ!とにかく時間を忘れるとはこういうことかと実感した、エキサイティングでかつ、ひたすら心に沁みる演奏会だった。
アンスネスとマーラー・チェンバー・オケが奏でるベートーヴェンは、とにかく純粋にひたすらベートーヴェンの音楽の「力」「美」「魂」を届けてくる。「これぞベートーヴェンの神髄!」と膝を叩きたくなる演奏だ。何がそう感じさせるかと言うと、ディナミークであれ、アゴーギクであれ、それがどれも自然に心にスッと入ってきて、ストレートに心の奥に届くのだ。音に酸素が送られ、栄養が満ちて血が通う。そして音たちが磨かれ、息づき、あるべき方向へ向かう。それまでの聴きなれた常套的なやり方を全て見直し、新たに構築する挑戦と探求の姿勢を怠らないことから生まれた「音」がある。
若書きの第2コンチェルトは元々活きがよく、爽やかな印象を与えるが、この曲の第2楽章から、これほどの気高く美しい、透徹とした音楽が聴こえてきたことがあっただろうか。両端楽章からも、弾けるエネルギーと共に、この気高さに通じる気品が漂っていた。
モーツァルトの第24番の2番煎じのように語られることもある第3コンチェルトだが、今夜の演奏を聴いて誰がそんなことを言うだろう。強い意思に貫かれ、エネルギッシュに挑みかかる演奏には、今まさに音楽が生まれ出たかのような新鮮な息吹に満ち溢れていた。
第4番からは、前半の2曲のコンチェルトの魅力を掛け合わせたような、音楽的な豊かな多様性と奥深さを伝えてきた。一つ一つのフレーズが「言葉」として訴えかけ、強い共感へと結びつく。異様な空気を漂わせる第2楽章なども、ピアノとオケが天と地から声を発しているような壮大な摂理にまでイメージが及んだ。
オーケストラがまた素晴らしい!どのパートも何と生き生きと語り、歌い、呼吸していることだろう!そしてお互いのパート同士が室内楽のように親密に交感し合い、一つの音像を作り出す。アバドが手塩にかけて成長してきたこのオーケストラが、アバドの精神をしっかりと受け止めて活動している姿を見
て、聴いていたら、何だかアバドがその場で嬉々とした表情で指揮をしている姿が目に浮かんだ。
そして、このオーケストラとアンスネスの協働は、息が合うという言い方では表しきれないほどの一体感で共に音楽を紡いで行った。共に切磋琢磨していくことで両者の感性が研ぎ澄まされ、ベートーヴェンの魂を表現するというところで一体化した理想のコラボだ。コンチェルトで、これほどソリストとオーケストラが切り離せない関係が生まれるのは珍しい。このコラボで昨年CDがリリースされたが、既に名盤があまたあるベートーヴェンのピアノ協奏曲をあえて取り上げる意味について「何か違うことを言えると感じることだけ」とアンスネスは述べているが(公演チラシ)、今夜の演奏を聴いてそれを心から納得した。
ベートーヴェンへの旅 <ベートーヴェン:ピアノ協奏曲全曲演奏会>
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル
【曲目】
1.ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 Op.19
2.ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第3番 ハ短調 Op.37
3.ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第4番 ト長調 Op.58
【アンコール】
ベートーヴェン/2つのバガテル Op.119-8
アンスネスが「ベートーヴェンへの旅」と題して2011 年から取り組んでいるプロジェクトの一環として、マーラー・チェンバー・オーケストラとのコラボによりベートーヴェンのコンチェルト全曲で世界ツアーを行っている。そのツアーの東京公演、前半のプログラムを聴いた。
ベートーヴェンの 3 曲のコンチェルトを一度に聴くのはボリュームもあるし、時間もかかるが、「重さ」にも時間の経過にも全く気づかず、終演時刻を見てビックリ!とにかく時間を忘れるとはこういうことかと実感した、エキサイティングでかつ、ひたすら心に沁みる演奏会だった。
アンスネスとマーラー・チェンバー・オケが奏でるベートーヴェンは、とにかく純粋にひたすらベートーヴェンの音楽の「力」「美」「魂」を届けてくる。「これぞベートーヴェンの神髄!」と膝を叩きたくなる演奏だ。何がそう感じさせるかと言うと、ディナミークであれ、アゴーギクであれ、それがどれも自然に心にスッと入ってきて、ストレートに心の奥に届くのだ。音に酸素が送られ、栄養が満ちて血が通う。そして音たちが磨かれ、息づき、あるべき方向へ向かう。それまでの聴きなれた常套的なやり方を全て見直し、新たに構築する挑戦と探求の姿勢を怠らないことから生まれた「音」がある。
若書きの第2コンチェルトは元々活きがよく、爽やかな印象を与えるが、この曲の第2楽章から、これほどの気高く美しい、透徹とした音楽が聴こえてきたことがあっただろうか。両端楽章からも、弾けるエネルギーと共に、この気高さに通じる気品が漂っていた。
モーツァルトの第24番の2番煎じのように語られることもある第3コンチェルトだが、今夜の演奏を聴いて誰がそんなことを言うだろう。強い意思に貫かれ、エネルギッシュに挑みかかる演奏には、今まさに音楽が生まれ出たかのような新鮮な息吹に満ち溢れていた。
第4番からは、前半の2曲のコンチェルトの魅力を掛け合わせたような、音楽的な豊かな多様性と奥深さを伝えてきた。一つ一つのフレーズが「言葉」として訴えかけ、強い共感へと結びつく。異様な空気を漂わせる第2楽章なども、ピアノとオケが天と地から声を発しているような壮大な摂理にまでイメージが及んだ。
オーケストラがまた素晴らしい!どのパートも何と生き生きと語り、歌い、呼吸していることだろう!そしてお互いのパート同士が室内楽のように親密に交感し合い、一つの音像を作り出す。アバドが手塩にかけて成長してきたこのオーケストラが、アバドの精神をしっかりと受け止めて活動している姿を見
て、聴いていたら、何だかアバドがその場で嬉々とした表情で指揮をしている姿が目に浮かんだ。
そして、このオーケストラとアンスネスの協働は、息が合うという言い方では表しきれないほどの一体感で共に音楽を紡いで行った。共に切磋琢磨していくことで両者の感性が研ぎ澄まされ、ベートーヴェンの魂を表現するというところで一体化した理想のコラボだ。コンチェルトで、これほどソリストとオーケストラが切り離せない関係が生まれるのは珍しい。このコラボで昨年CDがリリースされたが、既に名盤があまたあるベートーヴェンのピアノ協奏曲をあえて取り上げる意味について「何か違うことを言えると感じることだけ」とアンスネスは述べているが(公演チラシ)、今夜の演奏を聴いてそれを心から納得した。