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ジャン=クロード・ペヌティエ フォーレ夜想曲全曲

2015年05月08日 | pocknのコンサート感想録2015
5月8日(金)ジャン=クロード・ペヌティエ (Pf)
トッパンホール

【曲目】
◎ フォーレ/夜想曲(全13曲)
 演奏順:第5,4,1,2,10,9,3,8,7,6,11,12,13番
【アンコール】
フォーレ/レクイエム~ピエ・イエズ

今夜のリサイタルはフォーレのノクターンを全曲聴けるというのが決め手になって出かけた。ジャン=クロード・ペヌティエがどんなピアニストであるか全く知らずにリサイタルに臨み(後で、去年の「ラ・フォル・ジュルネ」で声楽アンサンブルのヴォックス・クラマンティスとの共演で聴いていたことがわかったが)、フォーレの全13曲のノクターンを、休憩を入れずに約1時間半に渡って演奏し続けたペヌティエを聴いた印象を一言で表すとすれば、「ストイックな表現を貫く正統派」と言ったらいいだろうか。ドイツ音楽ではなく、フランス音楽での正統派というのはあまり馴染みのない言い方かもしれないが、この言葉が真っ先に浮かんできた。

それぞれの楽曲の持つ深い精神性が、僅かな隙もないコントロールによって曲中に貫かれているのを感じた。複雑に絡み合う各声部はそれぞれに真剣な眼差しで語りかけ、それらががっちりと手を携えて、一つの強いメッセージを届けてくる。ペヌティエは、思いが溢れてこぼれ落ちるような過度の感情移入はせず、むしろニュートラルな立ち位置で、音楽に対して一心に祈りを捧げているよう。その姿は、そらんじている膨大な教典のなかから、楽曲に相応しい経文を取り出し、何の迷いもない澄みきった心で鮮やかにお経を唱える高僧のようにも感じた。その声は聴き手に真っ直ぐに届き、心の底まで沁みてきた。

ただ、そこで使われる音色のパレットはモノトーンが中心で、色彩としての多彩さはない。それもストイックな印象を助長したわけだが、休憩なしの張りつめた空気のなか、しかもどんどん内面へと沈んで行く曲順に並べられた13曲のノクターンの演奏は、神聖で厳かな宗教的な儀式のようにも感じられた。

フォーレのピアノ作品にはもう少し官能性や色彩を感じたかったという思いもあったのだが、とりわけ最後に置かれた、今夜初めて聴いた11番から13番の3曲の、闇の中で何かを求め続けているような音楽を聴いていたら、フォーレがノクターンに込めたものは、官能性や色彩感とは全く異なる、ペヌティエのアプローチでしか表現し得ない厳粛な世界だったのではないか、と思うに至った。

「13曲のノクターンを演奏したあとにアンコールというのは本来はできないのですが、みなさんへの感謝の気持ちを込めて…」と前置きして弾いてくれた「ピエ・イエズ」は、それまでの「儀式」から聴く者を解放し、清らかで温かな癒しをもたらした。これは、厳粛な儀式が行われた聖堂に響く「後奏」の役目を果たした。

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