音楽家ピアニスト瀬川玄「ひたすら音楽」

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◆ピアノ曲におけるチョモランマ(エベレスト)を登る!?~ベートーヴェン《ハンマークラヴィア・ソナタ》

2008年12月08日 | 《29番op.106》ハンマークラ

ベートーヴェンは
生涯に32曲の《ピアノソナタ》を書いています。


その中で、最も規模が大きく、
難易度が高いと言われる曲があります。

それが、
《ピアノソナタ第29番 B-Dur変ロ長調 op.106》
俗称“ハンマークラヴィア”と呼ばれる曲です。


演奏時間にして、
およそ40分から、緩叙楽章がより遅いテンポであれば、
45分かかることすらある、長い曲です。


この曲は、
全部で4つの楽章から成ります。

第I楽章は「Allegro」
ソナタ形式による、正に《ソナタ》の幕開けにふさわしい、
ピアノという楽器を超越した大オーケストラの響きを思わせる
快活な音楽です。

第II楽章は、「Scherzo」
一見、陽気な音楽のようでありながら、
中間部では、不穏な影が差します・・・

そして、
第III楽章の「Adagio sostenuto,
Appassionato e con molto sentimento」・・・
一人の人間と、天や神(!?)との対話を思わせる
神秘的な・奇跡のような・内容の濃い・・・音楽です。
この楽章だけで、20分はかかるのではないでしょうか。

そして、終楽章、
自由に移り変わる序奏に続いて現れるのは、
後期ベートーヴェンの音楽の最大の特徴のひとつでもある
「Fugaフーガ」です。
「Allegro risoluto」の速いテンポに乗って、
あらゆるフーガの技法が駆使され、音楽は・奏者は
その音列たちに挑みます・・・これが大変・・・
どのピアニストに聞いても、これが「大変ではない」なぞと言う人は
おそらくいないでしょう。もしもいるとするならば、
その人は音楽に対して「不遜である」とすら言えるかもしれません。
そういう「大変な音楽であること」にも、
この曲・楽章の価値がある、と言っても
過言ではないのかもしれません。

それはまさに人生を賭けた闘いであるかのよう!?

ベートーヴェンの全ピアノソナタの内における、
あるいは、ピアノ独奏曲のレパートリー全ての内における
チョモランマ(エベレスト)である、

と言っても過言ではないかもしれません。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

この曲は、
自分にとっての思い出深い、大切な曲です。

ドイツ留学前に師匠シルデ先生から、
「毎日《ハンマークラヴィア》を6分譜読みしてゆきなさい」
という課題を与えられ、それをこなしたような?こなさないような?
とにかく、譜読みを進め、
ドイツ留学を向かえ、わりとすぐに、この曲を
先生と一緒に深く詰めて勉強し、
そして初めて、公の場で演奏しました。

あんなにも「怖い」「長い」と感じた本番は初めてでした。
I楽章が始まってすぐ、「うわ・・・
あと数十分この難曲に立ち向かわねばならないのだろう・・・
果たして、最後まで辿り着けるのだろうか」と
不安になったものです・・・

なんとか演奏が終わって控え室に帰り、
ベートーヴェンの楽譜がちらりと目に入ったら、
なんだかベートーヴェンから「まだまだよのぉ、若造」
と言われているような気がしました・・・

そしてそれから数年がたち、
ベートーヴェン《ピアノソナタ》の全曲演奏プロジェクトを進めながら、
第4回目の演奏会で、再びこの《ハンマークラヴィア》を演奏し、
以前とは違った感触、それは、
ベートーヴェンの全ての《ピアノソナタ》を見渡す途上において、
この作曲家の、人間としての変遷・ダイナミクスを直に体感し、
この大曲《ハンマークラヴィア》の存在意義を
より大きく感じられるようになったことでした。

それにしても、
難しいこと・大変だったことに変わりはないのですけれど・・・


そして来年2009年の2月19日と23日、
日本において初めて、この曲を演奏することとなります。

日本に戻ってきて行う大事なリサイタルの3回目に、
この曲を弾こうと選んだのは自分自身なのですが、

再び・・・あの大きな山に登るのだな、と
なんだか今日は、ふと、覚悟が身に染みた気がしたのでした。


登山者が、何度と無く世界最高峰の山チョモランマに挑むように、
ピアニストという人間も、その生涯において、何度もこの
《ハンマークラヴィア》という
巨大な山に挑むことがあってもいいのかもしれません。
そして、きっと、
挑むたび毎に、違う景色や、何かが見えてくるのでしょうか?
そして、さらには、
会場に足を運んでくださる皆様には、何が見えてくるのでしょうか?


今回の登頂・・・成功させねば・・・です。




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2 コメント

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Unknown (ギレリスファン)
2017-08-06 13:12:51
初めまして。
私は20世紀の大ピアニスト「エミール・ギレリス」に心酔している者です。
あの「ピアニスト中のピアニスト」と形容して差し支えないであろうギレリス氏は若いころはこの曲を弾かなかったそうです。
「この曲は年輪を重ねてそういう心境に達してからでなければ弾くべきではない」と考えていたからだそうです。
ベートーヴェン自身も年輪を重ねてある意味「自分の人生の集大成」としてあのハンマークラヴィ―アという大曲を書いたのだとも言えるのでしょう。
ですからギレリスも若い時にこの曲を弾いても無意味だと思って弾かなかったのでしょう。
その話を知った時はさすがギレリスと思い、音楽に対するギレリスの真剣さにますますギレリスへの尊敬の念を深くしました。
老境に差し掛かってからのギレリスの「ハンマークラヴィア」の演奏は全てを超越したような無我の境地というような見事な演奏です。
私はギレリスの演奏がとても好きです。
返信する
Unknown (ギレリスファン)
2017-08-06 13:14:40
初めまして。
私は20世紀の大ピアニスト「エミール・ギレリス」に心酔している者です。
あの「ピアニスト中のピアニスト」と形容して差し支えないであろうギレリス氏は若いころはこの曲を弾かなかったそうです。
「この曲は年輪を重ねてそういう心境に達してからでなければ弾くべきではない」と考えていたからだそうです。
ベートーヴェン自身も年輪を重ねてある意味「自分の人生の集大成」としてあのハンマークラヴィ―アという大曲を書いたのだとも言えるのでしょう。
ですからギレリスも若い時にこの曲を弾いても無意味だと思って弾かなかったのでしょう。
その話を知った時はさすがギレリスと思い、音楽に対するギレリスの真剣さにますますギレリスへの尊敬の念を深くしました。
老境に差し掛かってからのギレリスの「ハンマークラヴィア」の演奏は全てを超越したような無我の境地というような見事な演奏です。
私はギレリスの演奏がとても好きです。
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