ともかく、タクシーに乗れば運転手を怒鳴り、鉄道のチケットを買うにもインド訛り英語
に困り時刻表すらなかなか買えず、買い物に行けば麻薬か女を斡旋され、何か食べれば
食あたりし、ちょっと話せばすぐには終わらせてくれずにいつの間にか何か買う話に
なり、道を尋ねれば大体間違っており、1日の平凡なやり取りで疲れ果てる。それが
インド旅行というものだ。pcfxも帰国してから心が病んだ事にきがついた。しかしそれは
自分に必要な病みだったのもわかっている。いわば病みに行ったのだ。
とはいえ、そんな異世界の旅行が面白くないはずもない。新鮮な体験の連続でもある。
特に鉄道を利用した移動はインド旅行の醍醐味ともいえる。なにしろJRだと自動券売機
で一発ポンで買える特急予約席券の購入作業が、インドでは1日仕事になることもある。
昔に比べだいぶ改善されたとはいえ、列車は時間通りに来ない、出ない。到着ホームは
コロコロ変わり油断できない。1等席に乗れば冷房が効き過ぎて極寒地獄、3等に乗れば
冷房なしの灼熱地獄。それどころか予約したのに席が空いてない。
しかし、車内販売は「うるせぇ!」と言いたくなる頻度で来るし、車内で出る弁当の
カレーはうまい。チャイもうまい。
車窓からは日本ではありえないような風景が広がっている。南国の木が生い茂り、半裸の
少年達が農作業の帰りに列車に手を振っている。インドは広いので、都市間の特急に
乗っても1日2日かかる。だから寝台車に乗ることになる。当然だが、3食カレーだ。
朝だけは軽食がでるが、味付けがカレーだから結局カレーだ。
1等はセレブの車両なので盗難の心配はあまりないが、セレブのインド人は外国人に
関わりたがらない人も多い。3等は庶民の車両なので、こっちが関わりたくなくても
向こうが関わってくる。ほっといてほしい時は1等を、寂しい時は3等に乗ればよい。
インド滞在中に必ず聞かれるのは「結婚しているか」「年はいくつだ」「仕事は何か」
で、これは遠まわしにこちらの身分を探っているのだ。身分差別がある国なので、相手の
階級が重要な情報になる。職業で階級を見定め、結婚で社会的な安定を探る。年齢は
人種の違いで年齢の見当がつかないから出る質問だ。無難な回答としては既婚で会社員。
これで向こうが安心するのだからウソでもよい。
あまり宗教は聞かれないが、インド人は日本人は全員仏教徒だと思っているので、そう
答えておけば無難だ。ヒンドゥー教徒は仏教のことをヒンドゥーの派生宗教程度にしか
思っていない(実際そうだが)ので、軽んじられて話は終わる。
インドは歴史が長い国だが、ヒンドゥー寺院はイスラム教徒にことごとく破壊された
ので、今ある寺院のほとんどが最近建造されたものだ。そしてヒンドゥー寺院のデザイン
はどこかファンシーで、あまり重みを感じない。どっちかというとラブホのような
印象だ。そして非常に人間臭い神様を、生々しく信仰している。日本人の希薄な宗教観
からは理解しにくいが、オタ的にいうと「アニメのキャラのファン」的な信仰だ。
神話と娯楽物語の区別が曖昧なままになっている。昔の日本もそうだったが、いつの間
にか両者は区別されている。これは「信じてもよいもの・信じてはいけないもの」の
差だ。インド人は信じ、日本人は信じない。アニメは楽しむが、信じている人はいない。
インドといえばマリファナ・ハシシュだ。そこらへんで適当に買える。もちろん違法だ。
しかしその違法性の重みは、酒を飲むほうがうしろめたい。警察署の裏にあるジュース
スタンドでマリファナ入りのドリンクが売っている。日中から平気でそれを飲んでいる
人がいる。黒い粘土みたいなハシシュ(マリファナの成分を抽出したもの)も売店で
普通に買える。質はピンキリなので、見る目がないと混ぜものや偽物をつかまされる。
一方、酒屋は裏通りの目立たないところにひっそりとあり、店主が申し訳なさそうに
ビクビクと販売している。酒は完全に違法というわけではない。しかし警察がワイロを
取り立てるのはジューススタンドではなく酒屋からだ。外国人は酒を出すレストランを
気兼ねなく利用しているが、インド人の酒好きは隅っこで大人しく目立たないように
飲んでいる。
インドへ行く者にとって、麻薬は必ず付きまとう誘惑だ。毎日売ろうとする者が声を
かけてくるし、一言「欲しい」といえばすぐに手に入る。さほど高いものではない。
覚醒剤やヘロインなどはともかく、マリファナやハシシュ程度で即死するわけではない
が、体質が合わない人は悪酔いすることがあるし、何を混ぜられているのかわからない。
手を出さないのが無難だが、長い滞在中、好奇心を抑えるのも難しいだろう。結局、
自分で判断して決めることになる。まあ、大抵は手を出しちゃうだろうけど。そして
相場を知らないからボッタくられ、質の悪いものをつかませられ、混ぜ物で悪酔いして
最悪な気分になるんだろうけど、自分で決めたことだから仕方ないよね。もちろん
見つかれば逮捕される。ワイロで出られれば運がいい。でもかなりふっかけられる。
ワイロが効かなければ犯罪者。劣悪な牢獄に放り込まれる運命が待ってる。自分で決めた
んだから仕方がないよね。そういう覚悟でやったわけだし。
で、キッパリ誘惑を退けたのに、日本に帰った時の空港で麻薬犬が寄ってくる時の恐怖!
「え!もしかして誰かに荷物に仕込まれたかも?」という焦り。麻薬犬が素通りして
くれてホッとする瞬間までがインド旅行。おつかれさまでした。ちなみにアウトの
時は、あなたの後ろで麻薬犬がお座りするよ。そうなったらいろいろあきらめることに
なります。
インド滞在中はとにかくカレーばかり食べ続けることになる。もちろん他にも食べ物は
ある。都市にはハンバーガーもピザもサンドイッチもある。しかし安い価格で手軽に
食べられるものは、大抵カレー味だ。長期滞在していると金銭感覚が鋭くなる。毎食
高価なものを食べ続けるわけにはいかない。ターリー(カレー定食的なもの)が一番
コスパに優れているとすぐ気がつく。だから大抵毎日カレーになる。
北インドはパン食。南インドは米食。日本で有名な「ナン」はインドでは高級品。専用
の釜がある店でしか食べられない。通常は「チャパティ」というパンをカレーにつけて
食べる。カレーの具は大抵1品。「ホウレンソウのカレー」「ジャガイモのカレー」
「チキンのカレー」というように、それぞれの具に合うように香辛料も変える。
南インドの米は細長い。そして炊く水が厳選されているわけでもない。ボソボソの食感。
だから日本の米とは違う食べ物を考えたほうがいい。
インドにも中華料理はある。だが品数はまだ少ない。代表的なのは餃子と麺。しかし
純粋な中華とは言いがたく、「中華的ななにか」程度。チベットやネパール料理の
餃子(モモ)であり、タイ風の焼麺(チョウメン)だ。さすがの中華文明も、インドで
打ち切られる。中華屋が充実しているのは最東端の都市コルカタまで。そっから先は
ごく最近になってできた店ばかり。
インドにも日本料理屋はある。本格的な店からなんちゃって日本料理屋まで。本格的な
店には刺身定食からカレーまである。インドで日本のカレーを食べると、誰もが
「これだよこれ!カレーはやっぱコレだよね!」といいたくなる。価格は日本で食べる
時と大差ない。しかしインドの物価で考えると「超高級レストラン」と同じだ。だから
毎日行くわけにはいかない。
ちなみにpcfxがインド滞在中に夢に出てきて困った日本食は「焼き魚」。もう魚が食べ
たくて食べたくて、何度枕をヨダレで染めたことか。インドでは魚はあまり食べる機会が
ない。海辺の町の西洋料理店のメニューでかろうじて食べられる感覚だ。このとき醤油を
持参していればなおよい。醤油は大型スーパーで稀に買える感覚。
に困り時刻表すらなかなか買えず、買い物に行けば麻薬か女を斡旋され、何か食べれば
食あたりし、ちょっと話せばすぐには終わらせてくれずにいつの間にか何か買う話に
なり、道を尋ねれば大体間違っており、1日の平凡なやり取りで疲れ果てる。それが
インド旅行というものだ。pcfxも帰国してから心が病んだ事にきがついた。しかしそれは
自分に必要な病みだったのもわかっている。いわば病みに行ったのだ。
とはいえ、そんな異世界の旅行が面白くないはずもない。新鮮な体験の連続でもある。
特に鉄道を利用した移動はインド旅行の醍醐味ともいえる。なにしろJRだと自動券売機
で一発ポンで買える特急予約席券の購入作業が、インドでは1日仕事になることもある。
昔に比べだいぶ改善されたとはいえ、列車は時間通りに来ない、出ない。到着ホームは
コロコロ変わり油断できない。1等席に乗れば冷房が効き過ぎて極寒地獄、3等に乗れば
冷房なしの灼熱地獄。それどころか予約したのに席が空いてない。
しかし、車内販売は「うるせぇ!」と言いたくなる頻度で来るし、車内で出る弁当の
カレーはうまい。チャイもうまい。
車窓からは日本ではありえないような風景が広がっている。南国の木が生い茂り、半裸の
少年達が農作業の帰りに列車に手を振っている。インドは広いので、都市間の特急に
乗っても1日2日かかる。だから寝台車に乗ることになる。当然だが、3食カレーだ。
朝だけは軽食がでるが、味付けがカレーだから結局カレーだ。
1等はセレブの車両なので盗難の心配はあまりないが、セレブのインド人は外国人に
関わりたがらない人も多い。3等は庶民の車両なので、こっちが関わりたくなくても
向こうが関わってくる。ほっといてほしい時は1等を、寂しい時は3等に乗ればよい。
インド滞在中に必ず聞かれるのは「結婚しているか」「年はいくつだ」「仕事は何か」
で、これは遠まわしにこちらの身分を探っているのだ。身分差別がある国なので、相手の
階級が重要な情報になる。職業で階級を見定め、結婚で社会的な安定を探る。年齢は
人種の違いで年齢の見当がつかないから出る質問だ。無難な回答としては既婚で会社員。
これで向こうが安心するのだからウソでもよい。
あまり宗教は聞かれないが、インド人は日本人は全員仏教徒だと思っているので、そう
答えておけば無難だ。ヒンドゥー教徒は仏教のことをヒンドゥーの派生宗教程度にしか
思っていない(実際そうだが)ので、軽んじられて話は終わる。
インドは歴史が長い国だが、ヒンドゥー寺院はイスラム教徒にことごとく破壊された
ので、今ある寺院のほとんどが最近建造されたものだ。そしてヒンドゥー寺院のデザイン
はどこかファンシーで、あまり重みを感じない。どっちかというとラブホのような
印象だ。そして非常に人間臭い神様を、生々しく信仰している。日本人の希薄な宗教観
からは理解しにくいが、オタ的にいうと「アニメのキャラのファン」的な信仰だ。
神話と娯楽物語の区別が曖昧なままになっている。昔の日本もそうだったが、いつの間
にか両者は区別されている。これは「信じてもよいもの・信じてはいけないもの」の
差だ。インド人は信じ、日本人は信じない。アニメは楽しむが、信じている人はいない。
インドといえばマリファナ・ハシシュだ。そこらへんで適当に買える。もちろん違法だ。
しかしその違法性の重みは、酒を飲むほうがうしろめたい。警察署の裏にあるジュース
スタンドでマリファナ入りのドリンクが売っている。日中から平気でそれを飲んでいる
人がいる。黒い粘土みたいなハシシュ(マリファナの成分を抽出したもの)も売店で
普通に買える。質はピンキリなので、見る目がないと混ぜものや偽物をつかまされる。
一方、酒屋は裏通りの目立たないところにひっそりとあり、店主が申し訳なさそうに
ビクビクと販売している。酒は完全に違法というわけではない。しかし警察がワイロを
取り立てるのはジューススタンドではなく酒屋からだ。外国人は酒を出すレストランを
気兼ねなく利用しているが、インド人の酒好きは隅っこで大人しく目立たないように
飲んでいる。
インドへ行く者にとって、麻薬は必ず付きまとう誘惑だ。毎日売ろうとする者が声を
かけてくるし、一言「欲しい」といえばすぐに手に入る。さほど高いものではない。
覚醒剤やヘロインなどはともかく、マリファナやハシシュ程度で即死するわけではない
が、体質が合わない人は悪酔いすることがあるし、何を混ぜられているのかわからない。
手を出さないのが無難だが、長い滞在中、好奇心を抑えるのも難しいだろう。結局、
自分で判断して決めることになる。まあ、大抵は手を出しちゃうだろうけど。そして
相場を知らないからボッタくられ、質の悪いものをつかませられ、混ぜ物で悪酔いして
最悪な気分になるんだろうけど、自分で決めたことだから仕方ないよね。もちろん
見つかれば逮捕される。ワイロで出られれば運がいい。でもかなりふっかけられる。
ワイロが効かなければ犯罪者。劣悪な牢獄に放り込まれる運命が待ってる。自分で決めた
んだから仕方がないよね。そういう覚悟でやったわけだし。
で、キッパリ誘惑を退けたのに、日本に帰った時の空港で麻薬犬が寄ってくる時の恐怖!
「え!もしかして誰かに荷物に仕込まれたかも?」という焦り。麻薬犬が素通りして
くれてホッとする瞬間までがインド旅行。おつかれさまでした。ちなみにアウトの
時は、あなたの後ろで麻薬犬がお座りするよ。そうなったらいろいろあきらめることに
なります。
インド滞在中はとにかくカレーばかり食べ続けることになる。もちろん他にも食べ物は
ある。都市にはハンバーガーもピザもサンドイッチもある。しかし安い価格で手軽に
食べられるものは、大抵カレー味だ。長期滞在していると金銭感覚が鋭くなる。毎食
高価なものを食べ続けるわけにはいかない。ターリー(カレー定食的なもの)が一番
コスパに優れているとすぐ気がつく。だから大抵毎日カレーになる。
北インドはパン食。南インドは米食。日本で有名な「ナン」はインドでは高級品。専用
の釜がある店でしか食べられない。通常は「チャパティ」というパンをカレーにつけて
食べる。カレーの具は大抵1品。「ホウレンソウのカレー」「ジャガイモのカレー」
「チキンのカレー」というように、それぞれの具に合うように香辛料も変える。
南インドの米は細長い。そして炊く水が厳選されているわけでもない。ボソボソの食感。
だから日本の米とは違う食べ物を考えたほうがいい。
インドにも中華料理はある。だが品数はまだ少ない。代表的なのは餃子と麺。しかし
純粋な中華とは言いがたく、「中華的ななにか」程度。チベットやネパール料理の
餃子(モモ)であり、タイ風の焼麺(チョウメン)だ。さすがの中華文明も、インドで
打ち切られる。中華屋が充実しているのは最東端の都市コルカタまで。そっから先は
ごく最近になってできた店ばかり。
インドにも日本料理屋はある。本格的な店からなんちゃって日本料理屋まで。本格的な
店には刺身定食からカレーまである。インドで日本のカレーを食べると、誰もが
「これだよこれ!カレーはやっぱコレだよね!」といいたくなる。価格は日本で食べる
時と大差ない。しかしインドの物価で考えると「超高級レストラン」と同じだ。だから
毎日行くわけにはいかない。
ちなみにpcfxがインド滞在中に夢に出てきて困った日本食は「焼き魚」。もう魚が食べ
たくて食べたくて、何度枕をヨダレで染めたことか。インドでは魚はあまり食べる機会が
ない。海辺の町の西洋料理店のメニューでかろうじて食べられる感覚だ。このとき醤油を
持参していればなおよい。醤油は大型スーパーで稀に買える感覚。