凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

アームバー

2007年05月10日 | プロレス技あれこれ
 昨今はプロレスは影が薄く、世の中では総合格闘技が隆盛である。PRIDEはちょっと怪しいものの、K-1はまだまだファンも多く、酒の席でもそんな格闘技の話はよく出る。
 僕だって格闘技を見るのは好きだから、総合格闘技だって相撲や柔道を見るのと同じくらいのレベルでは見ている。だから話にはむろんついていけるのだが、技の話になるとちょっと「あれ?」という部分が出てきて、話が食い違ったりしてしまい迷惑をかけたりする。生来プロレスファンなので、ついついそういう知識の上からものを言ってしまう弊害が出てしまっているのだ。
 具体的には、総合では例えば三角締めの脱出方法として、技をかけられたまま持ち上げて相手を叩きつけるのを「バスター」と呼ぶ。ところが僕なんかはつい「パワーボム」と言ってしまうわけで、「プロレスじゃねぇんだから」と冷たく言われてしゅんとなってしまうのだ。
 まあこういう食い違いはプロレス内でもあることで、「ブレーンバスター(背中落ち式)」をアメリカでは「バーティカル・スープレックス」と呼ぶ。「ラリアット」だって「クローズライン」だ。そんなこんなでこういうことには慣れているつもりである。

 ところで、総合格闘技隆盛のあおりを受けて、プロレス側に総合の技の名称の侵食が見られる。また、WWEなどのアメリカンプロレスからの侵食もある。いずれにせよ日本のプロレスが今弱っているのだなぁと思える象徴でもある。
 なんの話かといえば、表題に書いたとおり「アームバー」のことである。
 今、IWGP王者に返り咲いた(2007/5現在)永田裕志がよく見せる技に、うつぶせになった相手の背中(肩の上か)に乗って、そこから片腕を絞り上げるように真上に伸ばしたまま持ち上げて極めるという技がある。このときの永田の憤怒の表情と言うのは実に凄いのであるが(白目剥いてますからね)、この技を「アームバー」と言うのである。

 あれ、アームバーってそんな技だったっけ?
 僕が知るアームバーという技はこういう技である。グラウンドで相手の手首を取り、両足を相手の首と脇腹に当てて踏ん張って引っ張るのである。「腕ひっぱり技」だ。単純である。これで引っ張ってどうするのかと言えば、肩関節の脱臼を狙っているわけで、そう考えればそれは恐ろしい技である。馬場さんが得意としていて、馬場さんの長い足で踏ん張ってこれをやればさぞかし効いただろう。
 これが旧来のアームバーである。

 しかしながら、僕だって今の総合やアメプロを知らないわけではなく、あちらでは腕を伸ばして肘関節を極める技を総称して「アームバー」と言うことくらいは知っている。アメプロでは肘関節を極めるだけではなく、腕が伸びている形状の技はみなアームバーらしい。なので腕拉ぎ逆十字固めはもちろんのこと、肘関節破壊だけを目的としていない「脇固め」だってアームバーである。これはなんと「フジワラ・アームバー」と呼ばれている由。藤原組長の代名詞的技だったからなぁ。
 しかし日本のプロレスでは「アームバー」は「腕引っ張り」だったはずだ。だが、この技はもう廃れて久しい。馬場さんのあと使用していた選手が思いつかない。もう実体のない技だったのだ。そして永田のこの白目を剥く技をアームバーと呼ぶことによって、腕引っ張り技は完全にご臨終となってしまったのである。

 それも寂しいことではあるのだがもうひとつ。永田がやる、このうつ伏せの相手に乗って腕を持ち上げて極めるという技は、別に永田のオリジナルというわけではない。旧来よりあった技だ。
 この技が脚光を浴びた試合をよく憶えている。もう20年くらい前になってしまうだろうか、IWGPのリーグ戦だったと思うが、猪木がアンドレ・ザ・ジャイアントからギブアップを奪った試合である。
 アンドレはご承知のとおり大巨人。当時はケタ外れの強さだった。230cm、240kgの巨大な身体はまさに「人間山脈」で、誰も勝てない。勝つどころか、「アンドレをボディスラムで投げる」ことが勲章となるくらいで、試合にならなかったと言ってもいいだろう。当時の猪木も相当に強かったと思うが、アンドレだけは巨大な壁に向かって試合をするようで、勝つことなどとても無理だった。事実、アンドレは負けなかった(モンスター・ロシモフ時代はさておいて)。
 そのアンドレにも衰えが来る。孤高の巨人であったアンドレも、若松をマネジャーにしたりしていろいろプランを練っていた頃だった。
 少しアンドレ伝説に綻びが見え隠れした頃、あの試合が行われる。無論それでもアンドレが負けるなどとは当方これっぽっちも思っていなかったのだが、猪木はこの試合でアンドレの左腕に攻撃を集中する。猪木は何度もアンドレの上腕にキックを見舞う。アンドレの腕も相当高い位置にあるので、猪木のハイキック、というか延髄斬りのような蹴りがちょうどアンドレの上腕に当たるのだ。そしてアンドレがマットに崩れ落ちた時、猪木はアンドレの巨大な身体の上に乗っかり、右ヒザを横面に当ててその丸太のような腕を上部に持ち上げ、全身で抱えるようにして渾身の力で極めた。あの尋常でない太さの腕を極められるとはとても思えなかったが、アンドレはついにギブアップをする。
 絶対に負けないはずのアンドレが敗れた歴史的瞬間だった。後年この試合はミスター高橋によって揶揄の対象となるが、そんなことはどうでもいい。ちょっとした不祥事でそのときアタマを丸めていた猪木が無邪気に喜びマットを飛び跳ねる笑顔が印象に残る。あんなさわやかな猪木の顔もまた見たことはなかった。

 いろいろな意味で伝説的なこの試合、そして技だが、当時は(記憶で申し訳ないのだが)「腕固め」と呼んだと思う。この腕固めが、今永田がやるアームバーと相似形である。永田が奇声を発して鬼の形相でこの技を極めるとき、僕はどうしても猪木vsアンドレを思い出してしまう。願わくばこの技をフィニッシュとして欲しいが、永田は試合中盤での自分の見せ場としての位置付けにしかしていない。そこが惜しいなとも思う。バックドロップホールドより個人的にはこっちの方が好きなのだが。

 さて、総合格闘技ではアームバーも多様化している。基本は腕を伸ばさせて肘を逆関節に極める技である。この記事はプロレスの記事なので詳細は書けないが、仰向けの相手に乗っかって、腕だけで極めるのをストレートアームバーと呼ぶ。腕の極め方の形状、自分の身体の位置は、例えばV1アームロックやチキンウィングアームロックなどと似ている(UWFも懐かしいな)。腕が伸びているか曲がっているか。 プロレスでストレートアームバーが使用されたら、かつてであればおそらく「アームロック」として処理されるのだろうと思うけれども、今では総合式に言うのだろうか。
 ロールアームバーやツイストアームバーというのは、相手を袈裟固めに極めておいて、足で伸びた相手の腕の肘を逆関節に極める。ロールアームバーは自分の足も伸ばして、相手の腕に絡ませて捻るように極め、ツイストアームバーは両足で相手の肘を挟むようにして…ああもう描写力がなくて書けない。総合のファンなら先刻ご承知のことであろうから細かく書かなくてもいいだろう。
 例えば、昔藤原組長がやっていた「腹固め」の足で極める部分や、それこそ永田裕志の「ナガタロック2」における足で極める部分は「ロールアームバー」に近いと思うのだが、以前、総合格闘技ファンにそのことを言ったとき「うつ伏せになっている相手にアームバーなどとは…」と「わかってないなぁ」風に言われてしまった。相手の形状ではなく支点をどう置くかだと思うのだが、細かい説明など聞くのは面倒だったので謝って終わった。

 さて、伸ばした腕にかける逆肘関節の技がアメプロにおけるアームバーだとすれば、日本で言う「アームブリーカー」もアームバーの範疇なのだろうか。わからないのだけれどもちょっとだけ触れる。
 先日のIWGP永田vs越中戦で、越中が二種類のアームブリーカーを放っていた。今越中ブームが凄くて、後楽園ホールが満員御礼だったそうだが(喜ばしいことだが)、ヒップアタックの影に隠れて越中は腕殺しもやっていた。永田に対抗してアームバーも仕掛けていたが(これは不発だったが)、いわゆる「アームブリーカー」も幾度も放ち、それが興味深かった。
 新日本で言うアームブリーカーは「腕折り」であり、ショルダー式。相手の腕を伸ばして肘を肩に打ちつける。あの、猪木がタイガージェットシンの腕を折ったという伝説の技である。
 対して、かつての全日本プロレスで言うアームブリーカーとは、立ったまま相手の腕をとり、その伸ばした腕を取ったまま自らジャンプしてマットに叩きつける(表現できていないな)。馬場さんがハンセンの腕殺しのために執拗にこの技を掛け続けた。
 越中は、このかつての馬場・猪木色の濃い両方のアームブリーカーを永田に放っていた。これは面白い光景だった。全日本プロレスで修行しデビューして、後に確執から新日本に戦場を移した苦労人越中ならではのことで、僕は思わず鳥肌が立ったのだが、実況も観客も越中の硬いお尻にばかり注目していたのはちょっと残念だった。

コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 僕の旅 愛媛県 | トップ | 赤い鳥「紙風船」 »

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (明石家_1955)
2007-05-11 00:18:39
そうそう丸坊主でしたね。猪木さんw
永田ねぇ 短命に終わらなければいいですがね。
返信する
>明石家はん (凛太郎)
2007-05-12 10:29:01
クリクリ坊主の猪木というのは、あまり迫力を感じませんでしたね(笑)。
永田はでも返り咲いただけ偉い。中西はいったい何をやっておるのか…(汗)。
返信する
キラー永田 (rollingman)
2007-05-20 11:22:31
久しぶりに書き込ませていただきます。
アームバーと聞いて、フジワラアームバーが真っ先に思い浮かんでしまったrollingmanです。(といいつつ、現役の藤原組長はあんまり見てませんけど(笑))

最近の永田はあのアームバーを多用してますが、あの技が最近の永田人気(?)に一役買ってますよね。
というか、なにかひとつのギミックとして定着してきているような・・・(笑)。

ところで、この前のIWGP選手権試合の越中はよかったですね~。
ちょっと前なので詳しいことは忘れてしまいましたが(苦笑)昨今ではなかなか見られないクラシカルな技の連発に、熱いものを感じました。最近の選手は、どこか似たり寄ったりになっているのかなと思わされました次第でした。
返信する
>rollingmanさん (凛太郎)
2007-05-20 22:04:00
ご来店ありがとうございます。
こっちもうっかりしていましたが、辿ってみますとrollingmanさんは永田のアームバーについて記事を書いていらっしゃいますね。失礼しました(汗)。引用すべきでしたね。

rollingmanさんの記事はこちら♪ 相変わらず切れ味抜群の記事です。
http://rollinfuji.exblog.jp/5163389/

永田は本来、優しい顔なのですね。それなのにキラー感を出そうとして無理をしているようにも見えます。それがあの白目剥き顔になっちゃうのですが、ギミックと呼んであげてはあまりに…(笑)。

先日の越中、良かったですよね。あの人気はそれこそギミックですが、おっさんパワー全開で。
本文にも書きましたが、この試合はヒップアタックばかり注目されましたが実はなかなかいい技が出ていました。rollingmanさんのおっしゃるとおり。あの二種類のアームブリーカーには痺れました。越中は当時は珍しい、全日を離脱して新日に戦場を求めたレスラー(新日を離脱したレスラーはたくさん居たのですが。全日も天竜らが出て行きましたが越中より後の話)。その苦労人の歴史があのアームブリーカーに集約されていた気がしましたね。
返信する

コメントを投稿

プロレス技あれこれ」カテゴリの最新記事