凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

ネックブリーカー2

2012年10月31日 | プロレス技あれこれ
 中西学が復帰を果たした。これについては、いち中西ファンとして素直に喜びたいと思う。
 死んでいたかもしれない状況、そして下半身不随、よくて車椅子と言われた中から懸命にリハビリに取り組み、動けたどころか1年4ヶ月をかけてリングに再び上がるというその姿には、プロレスラーの強靭さと執念というものを感じざるを得ない。彼が自分と同世代ということを考えると、感嘆の思い止まない。しかしくれぐれも、無理をしないでほしいと願う。
 長年のダメージを措いて簡単に言ってしまってはよくないが、中西負傷(脊髄損傷)の直接の原因はジャーマンスープレックスを受けたことである。
 素人ながら、後頭部そして首(頚部)への攻撃が、レスラーにとって最も危険なのではないかと思う。後藤のバックドロップで馳浩は生死をさまよった。そして、ライガーボムで亡くなったプラム真理子、バックドロップで亡くなった三沢光晴。いずれも、後頭部を叩きつけられている。恐ろしいと言わざるを得ない。一歩間違えば死。そのギリギリのところで説得力ある試合を提供するレスラーの凄みを、忘れずに観戦したい。

 それは、措いて。
 例えば後頭部にダメージを与える場合、プロレス技としてはまず2種に分かれる。後頭部をマットに叩きつけるか、あるいは直接後頭部に打撃を加えるか。
 前者が、バックドロップやジャーマンスープレックスである。そして後者が、延髄斬りなどである。
 身体に衝突するのが肉体の一部なのか、それともマット等かによって、技は分類されてしかるべきだ。背中への攻撃の場合、相手を抱えあげて、そのままマットに背面を叩きつければボディスラムだが、自分の膝の上に背面を叩きつければそれはシュミット式バックブリーカーとなる。全く違う技である。
 だが、これが一緒くたになってしまっている技がある。最も危険な後頭部から頚椎への攻撃、ネックブリーカーである。

 僕は昔、ネックブリーカードロップという記事を書いたことがある。その中では、まず大昔に首を捻る技というものがもしかしたらあって(それがネックブリーカー)、そして捻った上でマットに後頭部を落とすからネックブリーカードロップではないか、と書いた。捻って(首をねじ折る所作すなわちネックブリーカー)、落とす(ドロップ)。
 これはスイングネックブリーカードロップを念頭に置いて書いているが、ショルダーネックブリーカーも一応首をロックして落としているため苦しいながらも同様だと考えた。馬場さんのランニング(ジャンピング)ネックブリーカードロップも、腕が首にラリアート気味に当る(引っ掛かって鞭打ち気味にカクンとなる)ところでネックブリーカーが成立し、そして後頭部をマットに落とすのでドロップである、とした。
 その後、少し考え方がかわった。
 上記記事には「ネックブリーカー」という言葉にとらわれるあまり首を捻る(もしくは引っ掛ける)部分が技の主体であるような書きぶりもあったが、やはりこの技の主体は「ドロップ」の部分である。落として後頭部にダメージを与えている。したがって、スイングネックブリーカードロップやジャンピングネックブリーカードロップはマットに後頭部を叩きつけるので同じ枠内だが、ショルダーネックブリーカードロップやキン肉バスターは自らの肩に後頭部(頚部)を叩きつけるので別枠と考えた方が良いだろうと思っている。ボディスラムとシュミット式バックブリーカーが異なるように。
 言い分けをするならば、肩に後頭部(頚部)を落とすものはネックブリーカーと呼び、マットに落とすのをネックブリーカードロップとするか。ビル・ロビンソンも肩に「落とし」ているので、相応しくないかもしれないが、そんなふうに考えていた。

 だが、前回記事を書いた頃はあまり充実していなかったwikipediaでネックブリーカーを見てみると、全く異なることが書いてある。
 「ネックブリーカーはネックブリーカードロップと混同されるが、別の技である」と。
 wikipediaが言うには、スイング式もショルダー式もネックブリーカーであり、馬場さんがやるカウンターで引っ掛けて落とすもの(派生技含)が唯一ネックブリーカードロップであると言う。へー。何か納得がいかず。スイング式だって落としてるやん。
 ただ、有難いことにネックブリーカーの原型について言及されていて、引用させてもらうと「立っている相手の後方から相手と背中合わせになり、相手の後頭部を掴み自らの肩の上に乗せ、そのまま相手を倒しながら自らの背中をマット上に倒し、その衝撃で相手の頭部へダメージを与えるというもの」らしい。元祖はあのゴージャス・ジョージらしいが、なるほどと頷かされる。
 僕が昔書いた記事では、首を捻るのがネックブリーカーか、などと書いているが、どうもそれは異なるようだ。訂正しておこう。またこれがネックブリーカーの原型であるならば、スイング式とショルダー式にどのように分派していったかもよくわかる。
 そうやって考えれば、wikipediaが書くところのネックブリーカーは、決まった時の形状は相手の首(後頭部)が肩の上に乗る。スイング式はフロントヘッドロックのような形から捻り上げて落とすが、結果的に後頭部はマットに落ちるものの方向から考えれば頭は肩(あるいは上腕)の上だ。つまりこれがネックブリーカーの基本形と考えていいのだろう。背中合わせで(脚の向きは双方逆となる)首は肩の上。
 ネックブリーカードロップは、相手の頭部が脇の下にくる。ここが異なる。さすれば後頭部の下には肩も腕もないため、マットに叩きつけられるより仕方が無い。「別の技」というのも、うなづける。
 そもそも、馬場さんのあの技に「ネックブリーカー」を冠したのがいけなかったような気もする。ゴージャスジョージの技をネックブリーカーの原型とするならば…いやしかし、馬場さんのあの技はカウンターで首をカクンと引っ掛け、落として後頭部を打ちつける前にまず首そのものの破壊を狙う。ラリアートの原型と言われるくらい首へのダメージが考えられている。じゃやはりネックブリーカーだろう。そもそもゴージャスジョージの技は首というより後頭部で、バックヘッドブリーカーじゃなかったのか。いや、あの技も十分首には負荷がかかっている。
 だんだん袋小路に入ってきた。
 ただ、wikipediaが全て正しいわけではないだろうがが首肯できる部分もあるので、表題はネックブリーカードロップ2ではなく一応、ネックブリーカー2としておく(笑)。

 前回記事でも「キン肉バスターはネックブリーカーではないか」と書いたが、広義に解釈すると首を破壊する技はみなネックブリーカーとなる。
 一応、便宜的にドロップ式、スイング式、ショルダー式と無理やりに分類する。
 ドロップ式で昨今最も目立つのは棚橋のスリングブレイドである。派手な技で見栄えがするが、空中で旋回することにより馬場さんのネックブリーカードロップよりも「腕を首に引っ掛けてラリアット的ダメージを与える」威力が軽減されている。よって、フィニッシュホールドになり得ない技となっている。
 また潮崎のゴーフラッシャーをネックブリーカードロップの一形態としている意見もある。これはファイナルカットも含めて考えねばならないのかもしれないが、決まった形はネックブリーカードロップに似ているものの、これはやはり違うだろう。
 ネックブリーカードロップのその「ドロップ」という部分においては、ゴーフラッシャーはドロップすぎるくらいドロップである。しかしながら、ネックブリーカードロップの力のベクトルは落下するだけではなく、カウンターですれ違って首を引っ掛けられ逆方向に引っ張られる力のベクトルがどうしても重要であると考えられる。
 ゴーフラッシャーには下向きの力しか働いていない。したがってあれは、やはり変形ブレーンバスターだろう。
 しかし背中落ち式ブレーンバスター(バーティカルスープレックス)の決まった形というのは、ネックブリーカーに酷似しているね。フロントヘッドロックから捻って(つまり横向きに回転させて)後頭部を落とせばスイングネックブリーカー、持ち上げて後方に倒れこんで(つまり縦向きに回転させて)後頭部を落とせばブレーンバスターか。スイングネックブリーカーとブレーンバスターは、系統の同じ技だったのだな(暴論)。
 
 さて、ドロップ式以外のネックブリーカーだが、先般実に興味深い技を見た。カール・アンダーソンのリバース・ガンスタンである。
 アンダーソンのガンスタンは、相手と同じ方向を向いて前に立ち、相手の頭部を肩に乗せて前方ジャンプし首や顎、顔面にダメージを与える技であるが(つまりダイヤモンド・カッターと同型ね)、そのリバース型は相手と逆方向を向いて背中合わせとなり、相手の頭部(後頭部)を肩に乗せて前方ジャンプする形になる。え?つまりこれって、スイング式どころかあのゴージャス・ジョージの開発した原型ネックブリーカーとほぼ同じではないか。
 なんだか回りまわって先祖がえり的な感じもするが、このリバースガンスタンがネックブリーカーであれば、原型とは前方ジャンプの部分だけ異なるのか。あるいはコーナートップから飛びついて仕掛ける場合もあり、ジャンプ式ネックブリーカーと呼んでもいい。そしてこのジャンプ式(仮)は、スイング式よりもショルダー式よりもさらに原型に近く、ほぼ正調である。正調なんだから、リバースガンスタンなどと言わず堂々とネックブリーカーと呼んでくれよ。裏の裏は表みたいな話で気持ち悪い。

 スイング式はどんどん廃れてゆく傾向にあると思われる(蝶野や小川以来見ていない気がする)。
 派生技の代表としてドノバン・モーガンのコークスクリュー・ネックブリーカーがある。相手をフロントヘッドロックにとるだけでなく脚まで抱え、スイングしてネックブリーカーを決める。簡単に言えばフィッシャーマンズスープレックスの体勢から横回転して叩きつけるわけで、受身がとりにくそうだ。しかしこのコークスクリューネックブリーカーとフイッシャーマンズスープレックスとの関係性も、前述のスイングネックブリーカーとブレーンバスターの関係性と同じだな。
 他に、最終的に肩もしくはマットに後頭部を叩きつける、という部分(この部分が技の肝ではあるのだが)を除けば、近い技はある。しかもえげつない。永田がやる首へのドラゴンスクリューである。武藤もやるか。あれはまさに「首捻じ切り技」であり、怪我をしないかとヒヤヒヤしてしまう。
 さて、MVPのやるプレイメーカー(首に脚を引っ掛けて回転して後頭部を叩きつける技)もスイング式だとみられる向きもあるが、こうなるともう線引きがわからなくなる。ドラゲー吉野のライトニングスパイラルもネックブリーカーみたいな気がしてきた。さすれば河津落しもネックブリーカーか? 頭がゲシュタルト崩壊してきた。

 さて、ショルダー式だが、以前にキン肉バスターがショルダーネックブリーカーの派生技だと書いた。固定して首(後頭部)を肩に叩きつける技は、この2種しかないと思っていた。
 オカダ・カズチカが今、リバース・ネックブリーカーという技を使用する。
 オカダは売り出し方はともかく、レスラーとして見ていて本当に楽しい。あの風貌で現在世界一かもしれないドロップキックや、ダイビングエルボー、ツームストンパイルドライバーなどの伝統的な技をしっかり使用して試合を組み立てる。あのレインメーカーとかいう意味の分からない技さえなければいいのにといつも思っているのだが(ボストンクラブやらねーかな)、それはさておきリバースネックブリーカーである。
 このネーミングもまた奇を衒わず古典的でいいが、この技は首を肩に打ち付ける技ではない。膝である。
 双手刈りの状態で相手の両足を抱えたまま上体を起こし、相手を後方に逆さ吊りにしたうえで相手の身体を少しずらし片方の手で頭を抱える。つまりシュバインの体勢から片膝に後頭部(頚部)を当て、落として打ち付ける。
 膝に相手の頭部を打ち付ける技と言えばまず馬場さんのココナッツクラッシュ(椰子の実割)を思い出すが、オカダの場合は相手を逆さまに背負い固定することによって後頭部を狙うことに成功している。これはかなりのダメージが想像されフィニッシュにしてもいい技であり、肩ではなく膝であってもネックブリーカーと称することが新しい。キン肉バスターを下方にずらした形態とも言えるので、ネックブリーカーと称しても全く問題は無いと思われる。ネックブリーカーの範囲が広がったとみていい。ショルダー式ではないが、ダメージは近い。ニー式ネックブリーカーか。
 
 このリバースネックブリーカーまではネックブリーカーの範疇と考えていいと思うが、そうなるとさらに考えなければならない技がある。後藤洋央紀の牛殺しである。相手をファイヤーマンズキャリーで持ち上げ、頭部を抱えたまま相手を足の方から横方向に投げ捨てる。その際に相手の後頭部(頚部)を自分の片膝に当てて落とす。なんともえげつない技である。
 これもダメージは完全にネックブリーカーのそれだが、ネックブリーカーとしては相手を完全固定していない。なので打ちつけられる瞬間がわかりにくく危険だ。さらに、こういう言い方をしていいかどうかわからないが後頭部(頚部)への衝撃を加減できない。なので、怪我の可能性が高まる。実際に天山がこれで怪我をしている。
 牛殺しもリバースネックブリーカーもネックブリーカーの範疇なのかもしれないが、オカダの技の方がプロレス技としては完成していると言えよう。後藤のは、固定が甘ければ見方によっては落ちてくる相手の後頭部を狙った突き上げニーパットだ。
 後藤の牛殺しは、いつも見ていてヒヤヒヤする。最近は雪崩式にも手を染めている。
 プロレスは、相手を殺す(怪我をさせる)ために競技するのではない。四天王プロレスの時代もそう思ったが、そんな綱渡りのような技を放たなくてもオカダのように説得力のあるプロレスは出来る。天山や中西のようなベテランでも怪我をするのだ。少なくとも雪崩式はいかがかと思うのだがどうか。
 
 雪崩式の牛殺しを見ていて、ディックマードックのカーフブランディングをふと思い出した。この技も、見方によればネックブリーカーである。ネーミングも偶然ではあるが「仔牛の焼印押し」であり酷似している。こじつけて無理やりに言えば、雪崩式牛殺しはリバースカーフブランディングである。コーナーに上るのも攻守リバースであり、落ちる向きも逆だ。
 マードックのカーフブランディングはコーナーを背にして立つ相手に対し自らは後方からコーナートップに上り、相手の後頭部(頚部)に膝を押し当てそのまま前方へ飛び相手の顔面からマットへと落ちる。相手の頚部と身体の一部(膝)を固定して衝撃を与えるためネックブリーカーの一種と解釈できるが、まともに決まれば相手の生命をも奪うほどの技である。こんな危険な技はなかなか無い。
 ただし、まずマードックは仕掛ける場合相手を選ぶ。藤波のような受身のベテランにしか仕掛けない。そして双方ともがマットに前向きに倒れ落ちるため、距離感もつかみやすく、またさすがにマードックも全体重を頚部に押し当てた膝にかけることはできない。必ず相手の抵抗があるため、最後は少し崩れた形になる。
 本当に完璧に決まれば危ないというギリギリのところで技を放ち、見る側に緊張感を保たせ説得力を褪せさせないところは、一流だった。それが雪崩式牛殺しには難しい。なんせ受ける側は背面からマットに落ちてゆくのだから。後藤に全てを託さざるを得ない。そこが、怖い。
 後藤は気性の荒さを前面に出しパワーもあり、中西路線を継承する力を十二分に感じる。いいレスラーになった。くれぐれも、相手に怪我をさせないような技で観戦する我々を納得させてもらいたいと願う。中西の復帰を見て、ことさらにそう思う。
  

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 反則技 4 (凶器攻撃) | トップ | エースクラッシャー »

コメントを投稿

プロレス技あれこれ」カテゴリの最新記事