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「でにをは」別口入力・三属性の変換による日本語入力 - ペンタクラスタキーボードのコンセプト解説

接尾語変換の拡張(3) 接辞わびさび 属性またぎ

2017-09-29 | 接頭語・接尾語の変換
接頭語・接尾語変換で処理できる語の中には、その定義通り属性ハ(接辞まわり)での変換に加えて、語句によっては属性イ(名詞)や属性ロ(様態)でも変換入力を兼任して受け付けるタイプのものも数多く見られます。
例えば [後継機/好景気] などはどちらも属性ハで変換できます(接尾語・--機と接頭語・好--で両方接辞がらみ)。しかし属性ハでの変換候補順位は後継機の方が上で好景気の方はそれより下位に提示されます。
これは、好景気の方は「景気が好調だ」という様態の叙述概念をもっているためで用言を担当する属性ロに比較的役割が通ずるものがあるためです。
他方、後継機のほうは「後継」という代替わり的・タイムシフト的な語意を持つ言葉ゆえに第三の属性・属性ハにより適合するのでこちらのほうが属性ハ内での順位は上位にくるというカラクリです。
ただ、後継機の接尾語部分の「機」が意味するように実機が物理的に存在して主語・名詞的に文章を構成する場面もあるのでこちらもまた名詞属性・属性イを兼任するということになります。

このように接頭語・接尾語の変換は言葉によっては他の属性とのカラミもあって多少複雑な構図になりますが、これのおかげで変換意図・ニュアンスの違う複数候補を使い分けることができます。
そのような例をまずはドカッとあげてみて、つづけて個別例の解説を添えてみたいと思います。

<属性またぎのある接辞パーツのついた語句の例>
多店舗/他店舗 水戸さん/水戸産 全盛期/前世期 質問厨/質問中 おためし住み/おためし済 柳腰/柳越し
親父衆/オヤジ臭 優先券/優先権 メンバー票/メンバー表 英国麺/英国面 気合酒/気合避け ビジネス大賞/ビジネス対象

・多店舗は店舗が多いという状態描写なので属性ロ、他店舗は自他概念の接頭語なので属性ハ
・水戸さんは対象となる人物が提示されているので名詞属性イ、水戸産は水戸で生産・収穫された産物という性質描写なので属性ロ、属性ハ内では人称の「さん」は敬遠されて「産」を上位にもってくる
・全盛期はこのかたまり全体で「最も盛んな時期」をあらわす様態概念なので属性ロ、前世期は前後経時概念の接頭語「前」なので属性ハ
・質問厨は「しつこく質問してくる迷惑な奴」の呼称であり人物をあらわすから名詞属性イ、質問中は「~をしている最中」の接尾語「中」を伴った基本接辞なので属性ハ/※属性ロにおいても上位の語(様態)
・おためし住みは複合動詞とみなせるので属性ロ、おためし済・「済」はより生産力の高い接尾辞なので属性ハ、なお住み・済は濁った「ずみ」で対応することに留意
・柳腰は「折れそうで折れにくいしなやかな物腰」をあらわす様態なので属性ロ、柳越しは「-越し」という生産力の高い接尾辞なので属性ハ
・親父衆は「衆」が一集団としての対象であるから名詞属性イ、オヤジ臭は臭っているという状態描写なので属性ロ、なお後続の接辞によって親父とオヤジで書き分けるところまでできることが望ましい
・優先券は物理的なチケットなので属性イ、優先権は抽象的で生産力のある「-権」なので属性ハ
・メンバー票は個別的な可算的事物なため属性イ、メンバー表は集約された情報事物なため属性ハ
・英国麺は何かの麺料理をあらわすので名詞属性イ、英国面は視座視点の概念なため属性ハ
・気合酒は一事物としての酒であるから名詞属性イ、気合避けは動作・テクニックの名称であるから属性ロ、なお酒・避けは濁った「ざけ」で対応
・ビジネス大賞は何かの一プライズであるから名詞属性イ、ビジネス対象は取り組み相手、はたらきかけであるから性質属性ロ、あわせてもちろん指示概念的でもあるから属性ハでも上位にくる

これらは個別例の所属属性いかんに加えて接頭語・接尾語の第一義的ルールがありますから総じて属性ハを持つものでありますが、同じ属性ハ内での変換候補順位は語の用例の検討具合であったり、より抽象的・構造的な「属性ハらしさ」をどれだけ伴っているかの判断によって変わってくるので一概にこうだとは言えません。
また、当初の順位設定にも拘らずその後の学習や単語登録の影響によって候補順位が変動することも考えられます。
ただ呼称の「さん」が属性ハでの上位順位を敬遠するというのがあったり、より生産力の高い辞、抽象的文法的なバリエーションの豊富な生産的接続をもつものが「より属性ハらしい」などの一定の傾向があるということだけは一端として言えるかと思います。


…ここまでざっと使い分けの例について解説していきましたが、このほかにも実際のインターフェイスの段になってからもまだ考慮すべき点があります。
それは…長文中に別の名詞チャンクや様態チャンクがある場合、選択フォーカスが思惑と違う場合があるということです(チャンクはかたまり・断片という意味で使っています)。
具体的にいうと
(例)じどうでゆうせんけんをあたえるけーす
という入力文があったとして、ユーザーは[優先券/優先権]の区別を選択したいと意図していながら、その前の文要素
[児童で/自動で]のようにそれ以前あるいは以後の部分がフォーカスされて変換に面喰ってしまうケースが考えられることです。
この例文が果たして適当であるかどうかは自信が持てませんが、それは置いておいて変換対象部分を適切に抽出できるかどうかを見極めるには変換のプロセス全体の流れをもっと煮詰めて考察していく必要性があるようです。
ステップ的なのを重視して出てくる順番順に変換対象部分をフォーカスしていくのか、それともユーザーにとっての選択重要度順に変換対象部分を提示していくのか、いろいろな組み立てが考えられそうなのですが、これは思ったより難しそうな問題なので今後の課題として残していきたいかと思います。

とりあえずの結論として、接尾語変換は単体で機能させることは事実上難しく、言葉というものは語彙範疇・意味属性というものが常にからんでくるので接辞がらみの語のテリトリーはココ!…というように単純に分離はできないということがわかりました。
接頭語接尾語の拡張というよりも接辞以前の問題との整合性をとるために、より柔軟な位置づけ機能づけを必要とする、そのために局所的ではない広い視点で変換三属性を再構築する…という意味でこの記事を締めたいと思います。

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