夜明けの曳航

銀行総合職一期生、外交官配偶者等を経て大学の法学教員(ニューヨーク州弁護士でもある)に。古都の暮らしをエンジョイ中。

「写楽考」と「コンフィダント」

2007年06月10日 | 演劇
偶然、どちらも画家の話だったわけだが、全くテイストが違う。

「写楽考」は、三島も追求していた芸術と人生の相克がテーマだ。
写楽は冤罪(それにしても当時だって自殺幇助なら獄門にまではならないだろうになぜそう主張しないのか)によって投獄され、処刑までの限られた時間に才能を爆発させる。

そういう状況でなければこれほどすばらしい作品を描けたかどうか、人としては不幸でも、そのような作品を残せたのだから、芸術家としては幸福なのではないか、ということを考えさせられる。

写楽役は堤真一、ポスターが息をのむほど美しいです。

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「コンフィダント」は三谷幸喜久々の新作。

ゴッホ(生瀬勝久)、ゴーギャン(寺脇康文)、スーラ(中井貴一)、シュフネッケル(相島一之)がもっていた共同のアトリエを舞台に、彼らとモデル(堀内敬子)の織り成す話だ。

「男同士の嫉妬」というが、フェミニストの私は「プロ同士の嫉妬」といい直したい。やっぱり恋愛や外見の張り合いよりも、人生をかけた職業に関わる嫉妬の方が深刻なのは当たり前だ。

私だって仕事上のことで男から嫉妬に基づく嫌がらせをされたことがある。
しかも、「いいよな、女はやめちゃっても専業主婦になればいいから」とか「男は女と違って妻子が肩にのしかかってるんだよ。その辛さは絶対女にはわからない」とかいって正当化するから始末に悪い。

ゴッホが自己嫌悪に陥りながら誰かのフォローを待っているという面倒くさい性格で、それを腐れ縁のようにフォローするゴーギャン、でも内心は才能で絶対かなわないとわかっている、そういう関係性が、後のアルルでの共同生活につながっているのだということが説得力をもって伝わってくる。

「耳を切る」など、未来を予想させるせりふもあるし。

前にエントリーしたように、2002年アムステルダムのゴッホ美術館で構想10年のゴッホ・ゴーギャン特別展を香港からわざわざ見に行った私だから、感動もひとしおだ。

ゴーギャンの人物像は、ドラマ「今夜宇宙の片隅で」の石橋貴明がやっていた役や、「オケピ!」で伊原剛志がやっていた役と重なるが、三谷さんは現実でもこういう友達に好きな人をとられたことがあるのかな、と想像させられるほど、三谷作品では確立したキャラクターだ。

作品としては、「コンフィダント」の方が完成度が高いと思う。


「エキストラ」では、残念なせりふがあった。
角野卓造演じる細かいことを気にしすぎる元教師のエキストラが、「卒業式で君が代を歌うかどうかにこだわった」というのが、「そんな細かいこと」という扱いだったのだ。

細かくないでしょうが。
あえてそれを拒否して処分されて、処分取消訴訟を起こしている教師がたくさんいるし、その強制は違憲だという判決が出て話題になったじゃないですか。

それでも検閲問題に「笑の大学」で鋭く切り込んだ方ですか?

いくら三谷氏がノンポリだとしても、反権力の砦でもあった演劇界にいる人が、この問題を「細かいこと」と考えること自体、あまりにも常識と演劇人としての自覚を欠くのではないか。がっかりしたのである。


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