人はなぜ戦争をするのか

循環器と抗加齢医学の専門医が健康長寿を目指す「人」と「社会」に送るメッセージ

オプジーボと沖縄の民意

2018年10月02日 09時46分13秒 | 健康
昨日、京都大学の本庶 佑 特別教授がガンに対する免疫チェック機構にブレーキをかけるPD-1というタンパク質を発見し、この発見がガン治療に大きく貢献したことを評価され、ノーベル医学生物学賞を受賞されました。私も長年ガン患者さんの治療に携わってきた医師として、日本人の一人として、これほど嬉しいことはありません。本庶博士の研究はオプジーボという抗ガン剤の開発に繋がり、この新薬によって、ガンで苦しむ多くの人たちが恩恵を受けています。

一方、一昨日に沖縄では県知事選挙が行われ、辺野古基地移転に反対する玉城デニー氏が与党自民党や公明党などが推す佐喜真淳氏に大差をつけて当選を果たしました。この選挙では辺野古基地反対を主張する地元メディアに対して政権から有形、無形の圧力がかけられていたと聞きます。国家権力がメディアという権力のチェック機構に圧力をかけることは、ガンが免疫細胞のチェック機構にブレーキをかけることと似ています。国家権力はガンと同様に、できれば無制限に増殖したいと画策しています。自分の思いどおりに国民を動かそうとしています。それは、国家と国民の関係が細胞とミトコンドリアとの関係にあるからです。

今から20年前にミトコンドリアの祖先である真性細菌が細胞の祖先である古細菌と共生しました。地球における生命進化の上で最大の出来事です。酸素を使って改良のエネルギーを産み出す真性細菌は小さくて弱いために、他の細菌からの攻撃に苦しんでいました。一方、巨大な古細菌は自由に活動ができるエネルギーが欲しかったのです。古細菌に守って欲しかった真性細菌はミトコンドリアと名前を変え、古細菌の中に住み込みました。ミトコンドリアは国民が国家に税金を納めるように、せっせと働き、そのエネルギーを古細菌に納めました。莫大なエネルギーを得た古細菌は、強大な力を持って自由に動き回ることができるようになり、他の細菌を駆逐して繁栄しました。その子孫が私たち人類なのです。人間が時として利己的で傍若無人な行動に出るのはガンの遺伝子を持つためです。

進化した生命は常にガンの脅威に晒されてきました。細胞同士が仲良く共存していても、何かの拍子に自分勝手に増殖を始める細胞が出てきます。それがガン細胞です。ガンはメディアである免疫細胞に圧力をかけ、自らを攻撃しないように画策します。そうやって免疫細胞からの攻撃を逃れたガンは無限に増殖することができるようになります。医学は長らくガン細胞の無言の圧力に沈黙してきました。しかし、ようやく免疫細胞に対する圧力を取り除き、免疫機能を正常化する画期的な抗ガン剤が出現しました。それがオプジーボなのです。

今回の沖縄県知事選で示した沖縄県民の民意は、オプジーボにも似た国家権力の撃退効果を示しました。ガンに対する免疫療法の新たな展開は、ガンの撲滅と人類の幸福に大きく貢献していくと確信しています。