
現代社会ではプラスチックなしに生活を考えることは困難です。しかし最近、いくつかのプラスチックから、人体に有害な物質が溶けだしたり、焼却の際に生成されることが分かりました。今回は、多量に使われていて最も問題の多い塩化ビニールと塩化ビニリデンについて説明し、実際の生活の中で、何に注意し、何を選択すべきか考えてみたいと思います。
<人体にも環境にも有害な塩化ビニール>
塩化ビニール polyvinyl chloride=PVC は、単にビニールとも呼ばれ、日本では、沿岸にある石油化学コンビナートで、石油から作るエチレンと、海水から苛性ソーダを作るときに多量に出る副産物の塩素を利用して、安く大量に生産されています。
塩化ビニールは原料となる塩化ビニールモノマー自体に発癌性(催奇性)があります。また、柔らかく曲がりやすく薄くするのに、発癌性がありホルモン攪乱作用もある可塑剤フタール酸エステル類が加えられます。可塑剤は、温度が高くなったり紫外線に当たると、次第に気化して抜けてしまい、塩化ビニールは堅くもろくなります。分解しにくいように加工してある塩化ビニールには、安定剤として、鉛、カドミウム、亜鉛、スズなどが加えられています。
廃棄物処理場で埋め立てられると、この可塑剤や重金属が水や土壌に溶けだして周辺の環境汚染を引き起こします。また、焼却する場合にも、ゴミのなかに塩化ビニールがあると、多量の塩化水素ガスが発生し、焼却炉を傷め、猛毒ダイオキシンや PCB 発生の原因になります。
<ラップフィルムは塩化ビニリデン>
塩化ビニールは、毒性の強い可塑剤や塩化ビニールモノマーが油に溶け出したり気化するので、直接食品に触れるラップ包装には使用禁止になりました。そこで開発されたのが塩化ビニリデン polyvinylidene chloride=PVDC です。化学構造的には塩化ビニールにさらに塩素を付加した形で、塩化ビニールの双子の兄弟のようなものです。
サランラップなど塩化ビニリデン製のラップフィルムは、食品にくっつきやすい、酸素を通さないなどの利点があり、食品の包装に多く使われています。ちなみに、GLADのラップフィルムは無害なポリエチレン製です。
塩化ビニリデンは、塩化ビニールより塩素が多いので、燃えた時にさらに多くの塩化水素ガスが発生し、PCB がさらに多く生成されます。人体に悪影響を及ぼす PCB は、日本では使用禁止になってかなり経つのですが、ごみ焼却炉で生成されるので、環境中の PCB は依然として増え続けています。
<塩化ビニールの使用例>
例1:ガーデンホース
安物のホースは塩化ビニール製です。太陽に当てておくと可塑剤が溶け出すので、塩化ビニールのホースを通った水は飲用できません。可塑剤が抜けると柔軟性がなくなり割れやすくなります。また気温が下がると堅くなり、無理に曲げると折れてしまいます。天然ゴムのホースは、少々値段が高くても温度による性質の変化が少なく、丈夫で長持ちします。
例2:柔らかいシート状のもの
塩化ビニールの成型は、熱で溶かして型に入れ、空気を吹き込んだり圧力をかけて簡単にできるので、曲面が多い物や張り合わせたものは、大概塩化ビニール製です。ビニール袋、浮き袋、おもちゃ、台所・庭用手袋、人造皮革(靴や鞄、椅子やソファのカバー)、テーブルクロス、風呂敷、浴室のカーテンなどに使われています。塩化ビニールは柔らかければ柔らかいほど、可塑剤をたくさん含み、長持ちしません。
例3:水道管や下水管
上水道用の塩化ビニール管は、可塑剤が少なく、溶け出しにくくしてありますが、下水用は可塑剤が多く柔らかい物が多いので、飲料水用には向きません。
例4:電線の被覆
電線の被覆はほとんどが塩化ビニール製で、電気絶縁性を高めるためTCPという農薬パラチオンに似た物質が添加されていて、燃えると有毒ガスを出します。日本のある電気屋さんが自宅に焼却炉を設け、余った電線を集めて大量に燃やして銅を回収していたところ、数年で家族全員が癌になったという例があります。
例5:難熱性壁紙
塩化ビニールは燃えにくいため、壁紙のコーティングに使われますが、焦げると塩化水素やホルマリンなどの有毒ガスが発生し、火事の際にはそれを吸って命を落とすことがあります。
例6:アルバム
安いアルバムのプラスチックフィルムは塩化ビニール製です。長い間には、塩化ビニールから出るガスが印画紙の色と反応し、写真が変色してしまいます。
例7:グリーンハウス
カナダの温室には無害なポリエチレンが使われていますが、日本や韓国の農業用温室の被覆フィルムは塩化ビニール製です。気温が高くなると伸びて破れやすくなり、零下になるとガラスのように堅くなって、強風にあおられて割れたりします。水滴がついた状態で太陽光線が当たると、水と塩化ビニールが反応して白濁しもろくなります。一シーズン使ったらほとんどの場合、廃棄されます。田や畑での野焼きは、ダイオキシンなどの有毒ガスを出し、灰にも有害物を含むので、厳重に禁止すべきです。
例8:ビニールタイル(ピータイル)
事務所やトイレなどの床に貼られるプラスチック・タイルも塩化ビニール製です。新しいものは可塑剤の独特な刺激臭がします。古くなると可塑剤が抜けてもろくなり、反ったり割れたりします。
例9:屋根用波板
安価なプラスチックの波板は塩化ビニール製です。太陽光線が強く当たる所では、数年後に可塑剤が抜けて白濁してもろくなり、冬に強風で振動しても割れるようになります。多少高価でもガラス繊維強化ポリエステル、ポリーカーボネート製のものがより丈夫です。
例10:プラスチック・ランバー
リサイクルで回収したプラスチックを溶かして固めた材木の代替品は、腐らず釘も使えるというので温室のベースボードや花壇の周囲に使われています。しかし実物は可塑剤独特の臭いが強く、温室や菜園には使うべきではないと思いました。ビクトリアにあるメーカーを訪れましたが、プラスチックを融合する物質は企業秘密として明らかにしません。結合剤にフタール酸エステル類を使用している可能性が高く、溶け出したり気化するので、使用にあたっては注意が必要です。
<無害なプラスチックを選ぼう>
プラスチックの中でもポリエチレン polyethylene=PE、ポリプロピレンpolypropylene=PP、ポリブチレン polybutylene=PB は塩素を含まず、性質がロウに似ていて、燃やすと水と炭酸ガスになるので、ほとんど無害です。ポリエチレンには、高圧で作る堅い高密度ポリエチレン high density polyethylene=HDPE と、低圧でつくる柔らかい低密度ポリエチレン low density polyethylene=LDPEがあり、有害な可塑剤は使われていません。
無害なポリエチレン製ラップフィルムには、目に見えない小さな穴があり、空気がわずかながら出入りします。リンゴをポリエチレン製の袋に入れて冷蔵庫に保存すると、入ってくる酸素でリンゴが生き続けるため取り出した時も新鮮です。ゴミ袋や買い物袋のほとんどはポリエチレン製です。
少し焦がしてみて塩化水素ガスの刺激臭がすれば、塩化ビニールか塩化ビニリデンのいずれかです。良く燃えて蝋のような匂いがすれば、ポリエチレンです。だんだん敏感になってくれば、燃やさなくても可塑剤の鼻を突くような臭いで見分けがつくようになります。
<塩化ビニールよ さようなら>
企業側から見ると、塩化ビニールは安く、可塑剤の加え方一つで堅いものから柔らかいものまで作れ、しかも適度に壊れて買い替え需要を生じてくれるまことに便利なプラスチックです。その反面、可塑剤による健康被害、廃棄した場合の環境汚染を考えると害の方が勝っています。塩化ビニールは長持ちせず、安物文化を象徴するものです。
私たちにできることは、塩化ビニール、塩化ビニリデンを見分け、できるだけその製品を買わない、使わないことです。結果として安物買いや使い捨てを避け、耐久性のあるものを選んで大切に使うという生活習慣を身につけることになり、しかも家族の健康や環境を守ることにもつながります。消費者の意識が高まってくれば、企業側も塩化ビニールの使用を避けるようになるでしょう。
(海波農園 菅波 任)
オーガニック・ライフ・サークル会報
2002年6・7月号(No.46)掲載