Organic Life Circle

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コレステロールと健康

2006年03月03日 | 科 学


コレステロールは、動脈硬化の原因として第一に挙げられ、人々は血液検査のコレステロール値に一喜一憂します。しかし、値が正常であるにもかかわらず、脳梗塞や心筋梗塞で倒れる人がいます。逆にエスキモーのように、値が高いのにそのような疾患が少ない人たちもいます。コレステロールに関しては、まだ学説が定まっていないと見るのが正しいでしょう。今回はコレステロールとは何なのか、また「常識」となっている悪者説の誤りを探ってみます。


<コレステロールは悪者ではない>

コレステロールは、動物の生体膜の構成成分として細胞機能を維持し、特に脳、脊髄、神経、副腎、肝臓、腎臓、皮下脂肪に多く含まれています。また、女性ホルモン、男性ホルモン、副腎皮質ホルモン、アドレナリン、胆汁酸、ビタミンDなどの原料にもなり、各臓器の正常な働きに重要な役割を果たす物質です。

コレステロールは肝臓で作られ、血液とともに細胞に配られ、余分なコレステロールはまた肝臓に戻されます。ただし血液には直接溶けにくいため、リポ蛋白質と結合し水溶性となって循環します。リポとは、脂質類似物質 lipoid のことで、主にコレステロールを運ぶのが LDL(低比重リポ蛋白)、中性脂肪を運ぶのが VLDL(超低比重リポ蛋白)、レシチンなどのリン脂質を運ぶのが HDL(高比重リポ蛋白)と呼ばれます。

LDLはコレステロールを細胞に運ぶので悪玉、HDLは細胞からコレステロールを集めて肝臓に戻すので善玉というのが従来の学説でしたが、これでは肝臓を中心としたコレステロールの循環(脂質代謝)を全体としてとらえていないことになります。


<食物のコレステロールは影響しない>

血液中のコレステロール濃度は、肝臓できちんと管理されています。食物からのコレステロール摂取が少ない時は、肝臓で合成する量を増やし、逆に食物にコレステロールがたくさん含まれている時には、合成する量が減らされます。食物からコレステロールをたくさん摂取したり、肝臓でのコレステロールの合成が増えたりしても、肝機能が正常な限り、血液中のコレステロールの濃度はすぐに調整されます。血液検査で常時コレステロール値が高い場合は、すでに肝機能に注意信号が出ていると考えるべきでしょう。

鶏卵はコレステロールが多いと悪名高いのですが、卵1個(50g)に含まれるコレステロールの量は0.3gほどです。肝臓で合成されるコレステロールの平均量は一日約3gなので、一度に何個も食べない限り、ほとんど影響はありません。


<コレステロールを固める活性酸素>

コレステロール1分子の大きさは、約1.0?1.5ナノメートル(1ナノメートル=1メートルの10億分の1)と極小ですが、これらが血管壁に、数百、数千と固まってしまうと、アテローム性動脈硬化症になります。本来は固まらないはずのものが、どうして固まるのでしょうか。実は、活性酸素がコレステロールを酸化して変性させているのです。

白血球の一種で免疫細胞でもある貪食細胞マクロファージは、酸化して変性したコレステロールを毒物と認識して食べますが、それが過食して破裂し血管壁に付着するため、内壁が膨らんだ状態(アテローム)になり、結果として血管が狭くなります。
活性酸素が発生する原因としては、過酸化脂質(油脂を高温で調理したり日光にあてたりすると発生、ポテトチップスやインスタントラーメン、揚げ物には要注意)、食品添加物や残留農薬、大気中の汚染物質、抗生物質などの医薬品、病原菌やウイルス、激しい運動などがあげられます。

ただし、血液中に抗酸化物質がたくさん含まれていれば、活性酸素の発生を防ぐことができます。脂溶性のものでは、ビタミンE,コエンザエムQ10,水溶性ではビタミンCなどがよく知られた抗酸化物質です。ビタミンCは、抗酸化力を失ったビタミンEなどを回復させ、酸化されたコレステロールを食べようとする貪食細胞を抑えます。植物性の抗酸化物質としては、ベータカロチン、ポリフェノール、フラボノイド、アントシアン、リコピン、カテキンなどがあります。これらの抗酸化物質をたくさん含む野菜や果物を食べることで、コレステロールの酸化が防げます。


<コレステロールの合成量を増やす油脂>

二重結合を持つ脂肪酸を不飽和脂肪酸、二重結合を持たない脂肪酸を飽和脂肪酸といいます。一般に、植物性の脂肪は液体で不飽和脂肪酸を含み(油と呼ぶ)、動物性の脂肪は固体で飽和脂肪酸を含み(脂と呼ぶ)ます。例外はクッキーなどの加工食品にたくさん使用されているヤシ油 palm oil / coconut oil で、植物性にもかかわらず飽和脂肪酸です。マーガリンは不飽和脂肪酸に水素を添加したもので、飽和脂肪酸の扱いになります。不飽和脂肪酸は、加熱などで過酸化脂質になりやすいので注意が必要です。

油脂を含む食べ物が胃を過ぎて、十二指腸に来ると、油脂が入って来たと知らされた胆嚢は収縮し、濃厚な胆汁が分泌されます。胆汁に含まれる胆汁酸は、肝臓でコレステロールから作られる乳化剤の一種で、油脂を水に溶ける状態にします。乳化された油脂は小腸で酵素リパーゼにより脂肪酸に分解されてすぐに吸収されます。つまり、油脂で調理された食物や、油脂を含む食物をたくさん食べると、胆汁がたくさん必要となり、肝臓がコレステロールをたくさん合成し、血液中のコレステロール濃度も高まります。


<不飽和脂肪酸はコレステロールを溶かさない>

不飽和脂肪酸の種類には、オレイン酸(オリーブ油、カノーラ油など)、リノール酸(オメガ6系列、サフラワー油など)、リノレン酸(オメガ3系列、フラックスシード油、魚に含まれるEPAやDHAなど)がありますが、いずれも従来の通説のように、コレステロールを減らしたり溶かしたりする機能はありません。ただしリノレン酸は、脳血栓の原因となる血小板の固まりを溶かし、血液凝固を防止します。しかし、これも摂り過ぎると、今度は逆に出血しても止まりにくくなり、脳出血などになりかねません。


<コレステロールを溶かすリン脂質>

では、コレステロールを固まりにくくし、すでに血管内に固まり付いているコレステロールを溶かすものがあるのでしょうか。これがリン脂質なのです。リン脂質とは、中性脂肪の一端が、リン酸やコリンなどで置き換わったもので、これらの物質がコレステロールを溶かす乳化力をリン脂質にもたらします。コリンは、必須アミノ酸のメチオニンから肝臓で合成され、リン脂質の中でもコリンが付いたものを特にレシチンと呼びます。

コリンが欠乏すると、肝臓でレシチンが十分に合成されず、リポ蛋白が不足し、中性脂肪やコレステロールが肝臓で停滞して脂肪肝となります。また、アルコールや薬物、糖質に偏った食事、糖尿病なども、肝機能低下や脂肪肝の原因になります。
リン脂質は肝臓で合成されますが、大豆などの豆類や卵黄、牛乳にも含まれています。リン脂質を毎日食事で補給しておくと、コレステロールや中性脂肪の代謝が円滑になり、動脈硬化や脂肪肝を予防・改善するのに有効です。

鶏卵1個(50g)には約1.2gものレシチンが卵黄に含まれています。ただし、卵を一度にたくさん食べると、卵白に含まれる蛋白質の分子量が小さいため、すぐに腸壁から吸収されて血液中に入り、異種蛋白源としてアレルギー反応を起こすことがありますので注意しましょう。

大豆はレシチンを多く含みますが、レシチンは水溶性ですので、大豆を煮た時、煮汁とともに捨てられてしまいます。豆腐にはレシチンが含まれませんが、納豆には含まれています。大豆油の精製過程で取り除かれたレシチンは、チョコレートやクッキーなどの食品添加物(乳化剤)として利用されています。


<動脈硬化を防ぐ食生活>

* 有機栽培の野菜や果物を食べる
* 油脂を控える
* 肝機能を落とさない
* リン脂質を充分に摂る

レシチンの摂取量は、一日一個の卵を食べるくらいで普通は充分でしょう。高くなってしまった血液中のコレステロール値や中性脂肪の濃度を下げ、動脈硬化や胆石などの固まったコレステロールを溶かす治療には、1日4?6gのレシチンをサプリメントで補うことが有効と報告されています。なお、レシチンに含まれるコリンは、神経信号伝達物質アセチルコリンの材料となるので、脳梗塞の後遺症やアルツハイマー病などの脳機能障害にも有効といわれます。また、レシチンは、尿酸を溶かし痛風を改善するとも報告されています。

(海波農園 菅波 任)

<参 考>
「コレステロールを下げただけでは、脳梗塞・心筋梗塞は防げない」
(大野秀隆著/啓明書房)


オーガニック・ライフ・サークル会報
2004年6・7・8月号(No.58)掲載

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