Organic Life Circle

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糖尿病(1)

2006年03月10日 | 科 学


糖尿病は、豊かになった社会(精製された食品と運動不足、ストレスの多い社会)の落とし穴のようなものです。正確な知識がなによりも大切です。

糖尿病は、炭水化物(ブドウ糖)をエネルギーに変える際に、すい臓(ランゲルハンス島ベータ細胞)から分泌されるインスリンというホルモンに関する病気です。糖尿病になると、血液中のブドウ糖の濃度が高くなり、浸透圧が高まるため喉が乾き、水をたくさん飲むことから、紀元1世紀ごろにギリシャ人医師が水を吸い込むという意味で糖尿病 diabetes と名付けました。

日本人は、他のアジア人やアフリカ人、北米・ハワイ・ミクロネシア・ニュジーランドなどの先住民と同じく、遺伝的に糖尿病になりやすい体質を持った民族です。ミクロネシアのナウルでは、3人に1人が糖尿病といいます。現在日本では16人に1人が糖尿病で苦しんでおり、40~50才台では4人に1人が糖尿病かその予備軍とされています。今回は、少し詳しく糖尿病とはどんな病気で、どんな注意が必要かを探ってみます。


<糖尿病とは>

糖尿病には大きく分けて2つのタイプがあります。

タイプ1は、すい臓のランゲルハンス島ベータ細胞が、ある時突然なんらかの原因で破壊され、インスリンが出なくなる型です。ブドウ糖をエネルギー源として利用できないので、体脂肪を分解してエネルギーにするため、急速に痩せてきます。このタイプの患者は、インスリンの注射が必要です。以前は子供や若い人に多いとされてきましたが、成人でもしばしば起きることが分かってきました。これは糖尿病患者の5~10%程度です。

タイプ2は、細胞が長い年月を経て徐々にインスリンを受け入れなくなる(インスリン抵抗性)型です。すい臓がインスリン分泌を増やすため、体に脂肪がついて肥満し、さらにこの状態が続くとすい臓が疲れ果てて、インスリンが少ししか出なくなります。これは、糖尿病の90~95%を占めます。

蛋白質などの栄養状態が良くないと、すい臓がすぐに疲れはてて、肥満する間もなく、インスリンが出なくなり痩せることが多いようですが、栄養状態が良いとすい臓が丈夫で、いつまでもインスリンが出続け、極端な肥満にまで進むことが多いようです。前者は、日本人に多く、後者は、北米のヨーロッパ系の人に多いようです。

いずれのタイプの糖尿病でも、血液中のブドウ糖濃度が高くなり、血液の粘性が高くなります。ちょうど砂糖液が濃いと粘っこくなるように、血液も粘っこくなり、流れにくくなります。赤血球のヘモグロビンがブドウ糖と結合して、変形しにくくなり、狭い血管の中を流れにくくなります。特に毛細血管や細小血管のかたまりである腎臓や目の網膜で血液が流れにくくなり、腎臓機能が低下したり、目が見えにくく(眼底出血など)なったりします。また、手足の先に血液が流れにくくなり、末梢神経が壊死して、しびれたり、冷えたり、感覚がなくなったり、さらに悪化すると肉や神経が腐ったりします(壊疽)。ひどくなると、指や手や足を切断しなければならなくなります。

夜寝るときに、足や手が冷えて眠れないのは、糖尿病の危険信号です。血液が粘っこくなると、動脈硬化が急速に進み、特にたくさんの血液が必要な心臓のまわりの血管の流れが悪くなり、心筋が麻痺し、胸痛がしたり、梗塞を起こしたりします。脳の中で血管の流れが悪くなると、一時的な記憶喪失(物忘れ)や脳梗塞(脳血栓)が起こります。


<糖尿病の事実と数字>

糖尿病が怖いのは、以上に述べたような深刻な合併症があるからです。カナダの糖尿病協会の資料から抜き書きしてみましょう。オンタリオ州では、糖尿病患者は人口の6%に過ぎませんが、心臓発作の32%、心臓機能障害(心筋梗塞)の43%、脳卒中の43%、腎臓透析の51%、手足切断の70%が糖尿病患者によるものです。タイプ2の糖尿病の患者が、初めて糖尿病と診断されたとき、すでに20%の人に目の網膜の障害(網膜の表面の細血管が詰まって膨れ上がり出血する眼底出血)が見つかります。

糖尿病患者の約30%は心臓発作や脳卒中を起こし、80%は心臓病で命を落とし、60%は高血圧(動脈硬化)を患い、60%はコレステロール値が高く、40%は腎臓障害や神経障害(冷え、ほてり、しびれ、無感覚)や視力障害(眼底出血、視力低下、失明)を起こしています。糖尿病とその合併症の患者にかかる費用は、カナダのヘルスケアで年間132億ドルにも達するので、糖尿病を良く理解し、適切な生活習慣(食事、運動、ライフスタイル)を保つことで、カナダの保健行政、さらにはカナダの国家財政にも大きく貢献することができるのです。


<糖尿病と遺伝>

糖尿病は遺伝性の強い病気であると以前から言われていますが、そのメカニズムの一端が、日本人研究者グループによって明らかになりました(米国人類遺伝学会誌2005年10月号)。タイプ2の糖尿病には、インスリンが効きにくい(インスリン抵抗性)体質が見られ、その原因にはある遺伝子の変異が関係するというものです。

ヒトには、約2万3000個の遺伝子があり、糖尿病の発症に関係する遺伝子は数百個、そのうちの一つがレジスチンというホルモン状の蛋白質を作り出す遺伝子です。

脂肪細胞からは脂肪をエネルギーとして利用するためのホルモン状物質(アディポサイトカイン)が分泌されるのですが、これがネクチンであればインスリンに悪影響はなく、レジスチンが出るとインスリンの作用を妨害してしまうというのです。タイプ2の糖尿病を起こしやすい人は、レジスチン遺伝子が、一か所だけ健康な人と違っているため、レジスチンが多く発生してしまい、インスリンが効きにくく、太りやすいということです。


<糖尿病とストレス>

多忙、心配、不安、怒り、戦いなどのストレスが多いとステロイド系のホルモンが分泌されます。このストレスホルモンは、緊急事態に対応するため血圧を上げ、脈搏を早くし、血糖値を上げます。しかし、同時に血管(腎臓や脳)が傷みます。心臓も高血圧と高血糖状態で血液が流れにくくなり、胸が痛みます。

ストレスに遭遇すると、血糖値があっという間に、50も100も上昇するといいます。さらに、ストレスから解放されると、ホッとして、甘い物や御飯やうどんなどの炭水化物をたくさん食べたり、アルコ-ルを飲んだりして、ますます血糖値を上げてしまいます。

現代社会は、ストレスが多く、こういう意味でも、糖尿病患者を増やしているのかもしれません。それを防ぐために、心を静める音楽や瞑想、散策、園芸などの趣味や療法が、ますます重要性を帯びてきています。


<糖尿病と運動>

運動しながら人と話ができるぐらいの軽い、酸素を十分に取り込みながら行う運動(有酸素運動 aerobics)を疲れない程度(1日15分以上1時間以内)すると、血糖値が下がります。散歩や、ジョギング、サイクリングは、手軽な有酸素運動です。激しい運動(無酸素運動 anaerobics)や疲れるほどの運動では、貯蔵してあるグリコーゲンを分解してブドウ糖を作り出すので、逆効果になります。

軽い運動の効果としては、余分なエネルギーを消費して血糖値を下げ、脂肪細胞を縮小し、細胞がインスリンを受け入れやすくなり、血行がよくなり、ついでにストレスが解消され、気分転換できるなどが挙げられます。


<血糖値の自己測定>

炭水化物を食べた後は血糖値が急に上がりますが、このときインスリンが出て(追加分泌)すぐに血糖値が下がるのが正常です。下がり方が遅いと、血管を傷つけ、糖尿病の合併症が少しずつ進みます。ですから、より重要なのは食後の血糖値です。しかし、普通の健康診断では、空腹時の血糖値しか計りません。これで、値が高いのは、安静時のインスリン分泌(基礎分泌)が高いことを意味し、もうすでに、糖尿病がかなり進行していることを示します。インスリンの基礎分泌とは、脳や目、生殖細胞など、ブドウ糖のみをエネルギー源として使う細胞にエネルギーを供給するため、食事と関係なく最低限分泌されるインスリンのことです。

食後の血糖値は、病院で空腹時にブドウ糖を飲んで、時間の経過ごとに血糖値を計る耐糖能試験を受けるか、自分で計るしかありません。現在では、小型の測定機が薬局で販売されている(数10ドル程度)ので、比較的簡単に自分で測定できます。細い針で指先や腕に傷をつけ、ごく微量の血液を絞りだし、測定器に吸い込ませて測定します。糖尿病は、自覚症状が出にくく、気付いたときには合併症が進行していることが多いので、予防のためにも自分で食後の血糖値を計って調べることが必要です。特に、40才以上で、近親者(祖父母、父母、兄弟姉妹)に糖尿病の病歴がある場合は、必ず自分で調べておきましょう。他人の血糖の測定は、医者しかできないことになっています。薬剤師さんや看護婦さんが手軽に測定してくれればよいのですが、現在では法律で禁止されています。

血糖値の単位は、日本では mg/dl(ミリグラム・デシリットル)が使われますが、カナダでは mmol/l(ミリモル・リットル)が通常使われます。ブドウ糖の1モルの重さ(分子量)は180gで、デシリットルは0.1リットルですので、mmol/l の値を18倍すれば、mg/dl に変換できます。逆に、mg/dl の値を18で割れば、mmol/l に変換できます。


<糖尿病の判定基準>

          空腹時         食後2時間

正常値      70~110 mg       ~140 mg
         3.9~6.1 mmol      ~7.7 mmol

耐糖能異常     ~126 mg        140~200 mg
          ~7.0 mmol       7.7~11.1 mmol

空腹時血糖異常  110~126 mg       ~140 mg
         6.1~7.0 mmol      ~7.7 mmol

糖尿病      126 mg~        200 mg~
         7.0 mmol~       11.0 mmol~


耐糖能異常、空腹時血糖異常を併せて、境界型糖尿病や糖尿病予備軍と呼びます。糖尿病の初期症状として、インスリンが効きにくいため空腹時にすい臓からインスリンが出過ぎて血糖値が下がり、低血糖の症状がでることがあるので、空腹時に70(3.9)未満の場合も、糖尿病の可能性があります。

次回は、どんな食べ物が血糖値を上げやすいのか、どのくらい食べればよいのか、どんな食べ方がよいのかなど、食事の注意点を説明したいと思います。

(海波農園 菅波 任)


オーガニック・ライフ・サークル会報
2006年1・2・3月号(No.66)掲載

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